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東京家庭裁判所 昭和38年(少)21287号 決定 1963年9月18日

少年 S(昭二二・一二・一一生)

主文

少年を東京保護観察所の保護観察に付する。

理由

(罪となるべき事実)

本件事件記録中の検察官送致書指定司法警察員送致書記載犯罪事実(別紙一添付)のとおりであるから、これを引用する。

(適条)

重過失失火の点につき  刑法第一一七条の二

重過失致死傷の点につき 刑法第二一一条後段

(本件につき少年を保護観察に付する事由)

本件犯罪事実は、少年の認めるところであり、一件記録に照らしても、その証明十分である。

本件によつて生じた被害の結果は重大であり、社会的反響もまた極めて大きい事案であるが、少年は未だ一六歳に満たないからその刑事責任を問うことはできないし、調査及び鑑別の結果に徴しても収容保護を必要とする程度の非行性は認められないので(鑑別結果によると在宅保護専門と判定されている)、結局、本件については、検察官の処遇意見(別紙二添付)および担当調査官の意見(別紙三添付)のとおり、保護観察に付すべき事案であると判断する。

よつて、少年を東京保護観察所の保護観察に付することを相当と認め、少年法第二四条第一項第一号、少年審判規則第三七条第一項を適用の上主文のとおり決定する。

(裁判官 市村光一)

別紙一

司法警察員送致書記載犯罪事実

犯罪事実

第一、少年は昭和三八年八月二二日午後一時五分頃、豊島区池袋東二の一八番地所在、株式会社西武百貨店(社長、堤清二、管理)七階内、お好み食堂前通路において、店内の消毒作業に従事し、一時休憩中、真近にニッサン サニタ ガソリン等引火性の極めて強い薬品(一罐一八立入り)が一一罐置いてあり、傍で何等かによつて火を点ずれば右薬品に引火し出火する危険が十分にあり、少年もまたその危険を十分に承知していたのに拘わらず、注意を怠り、自己の喫煙のため、所携の、ろうマッチ棒を床板にすり付けて点火し、煙草に火をつけた後、完全に消火しない燃え残りの右マッチ棒を床板に捨て、偶々床板上に漏出していた前記薬品および罐入りの薬品に引火して右会社所有の建造物に延焼せしめ、よつて重大な過失により、前記建造物の七階および八階全体(合計、約一四、〇〇〇平方米、損害、建物、什器、商品その他約壱億円相当)を全焼燬し、

第二、右建造物の焼燬により偶同建造物内に現在していた北区上十条一の一一番地同デパート店員○木○男(三〇歳)外、一一名を重大な過失により焼死傷するに至らしめたものである。

別紙二

検察官送致書記載処遇意見

東京地方検察庁

検察官検事 江幡修三

本件過失の程度は、極めて重大なるところその過失の内容は、使用主会社の注意に拘らず、喫煙したことに基因するものであり、少年は父親と兄(一九年)のみのいわゆる欠損家庭に育ち、中学校在学中より引続き喫煙をしていたものであるから、少年の将来のため、保護司による厳重な生活指導を必要とする。

別紙三

本少年に対しては、次の理由により東京保護観察所の保護観察を相当と思料する。

(一) 本件の過失の程度は極めて重大であり、その要因が一五歳の少年であり乍ら、喫煙をしていたことにあるが、この種の引火性の作業に一五歳の少年を使用することは労働基準法違反で、むしろ雇傭主にその責任があることが明らかな事件である。

(二) 本少年を雇傭する場合に雇主は年齢を証明する戸籍証明書を事業場に備え付けず、さらに午後一〇時から午前五時までの間に作業させ、引火性の材料を取り扱う危険有害業務に就業させたりして居り、特に火気に注意するような特別の教育を行つたりしたことはない。本件当日も他の労務者が同一場所で喫煙して吸いがらを二、三本落してあり、少年は危険を予知できなかつた事情も考慮すべきである。

(三) しかし乍ら本少年の家庭は少年が幼少時実母に死別し、その前後より家庭内の不和貧困等より良い知能をもちながら、勉学できず孤独な淋しい生活をおくらねばならず陰うつな性格が固着してきた。喫煙も年齢不相応に早く成人らしく振舞わねばならぬ周囲の環境に置かれたことから、その態度だけが大人びてきたものとみられる。これは年齢不相応に言葉使いや態度が大人びていることからも推察される。

(四) このような生活態度をとらねばならぬことは、母親の愛情を欠くことからと、父親の厳しい冷たい態度からくるもののようで、他に依存することを許さぬ日常生活に対して自己防衛上から自然に備わつたものである。

このような比較的早期に大人化したことは知能が普通の上位にあり自覚を充分もつている点から起つたものであるが、勉学による一般知識に欠けるため思考は幼く、今後の社会生活に於いても派手な方向に独走する危険性が少年の将来の希望に対する応答などからも察知される。

(五) 少年が引起した重大な過失に対する衝撃が残つているから今後の就職先の選定などからも、また母親の愛情欠如から起つている素直さの欠如に対する助言の必要性などから適当な保護司の援助を求める態勢を考える必要があるので標記処分を相当とするものである。(家庭裁判所調査官 三野亮)

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