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東京地方裁判所 昭和63年(ワ)8443号 判決 1988年12月20日

原告

大田利男

右訴訟代理人弁護士

丸物彰

吉田暁充

被告

新宿西戸山開発株式会社

右代表者代表取締役

田村晴也

右訴訟代理人弁護士

河村貢

河村卓哉

豊泉貫太郎

岡野谷知広

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、別紙物件目録記載の土地及び建物(以下「本件土地建物」という。)について、昭和六一年一一月一三日付売買を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、被告が公募した通称西戸山タワーガーデン・サウスタワー(以下「本件マンション」という。)二四階二四〇六号室の本件土地建物の購入申込みに応募して、昭和六一年一一月五日に行われた公開抽選会での抽選に当選し、昭和六一年一一月一三日、被告との間で本件土地建物について代金額六二五〇万円で売買契約を締結し被告からこれを買い受けた。

2  よって、原告は、被告に対し、本件土地建物について、昭和六一年一一月一三日付売買を原因とする所有権移転登記手続を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1の事実は認める。

三  抗弁

1  被告は、東京都新宿区西戸山地区の国有地の払い下げを受け、一般市民に良質な住宅を低廉な価格で提供する目的をもって設立された会社であり、本件マンションの分譲も間接的に国有財産の分譲を行うという極めて公共性の高い性質をもつ事業であることから、多くの購入希望者の中から公平に購入者を定めるための厳格な条件を設け、その購入申込みに応募する者に対しては、申込みは一世帯一住戸のみとし、重複申込みが判明した場合にはその申込みを全て無効とする旨を告知していた。原告も右の条件を承諾したうえで本件土地建物の購入申込みに応募したものであり、被告との間で本件土地建物の売買契約を締結する際にも、重複申込みが判明した場合には右売買契約が解約となる旨を定めた念書を被告に対して提出している。

2  ところが、原告については、昭和六一年一一月一三日に本件土地建物について売買契約を締結した後になって、原告が昭和四八年ころから東京都渋谷区恵比寿三丁目四五番一―五〇二号所在のマンションに松屋達子(以下「達子」という。)と事実上の夫婦として同居しており、達子との間に生れた娘と共に家族生活を営んでおり、しかも、達子もまた本件マンションの購入を申し込んでいたことが明らかとなった。

3  右の事態は、前記の一世帯一住戸のみの申込みに限る旨の条件に違反する重複申込みに該当することが明らかであるから、原告のした本件土地建物の購入申込みは無効なものというべきであり、被告は、右1の念書の定めに基づき、昭和六三年七月二六日の本件口頭弁論期日において、原告に対して本件土地建物の売買契約を解約する旨の意思表示をした。

四  抗弁に対する認否及び再抗弁

1  抗弁1の事実のうち、原告が、申込みは一世帯一住戸のみとし重複申込みが判明した場合にはその申込みを全て無効とするとの条件を承諾したうえで本件土地建物の購入申込みに応募したものであること、被告との間で本件土地建物の売買契約を締結する際、重複申込みが判明した場合には右売買契約が解約となる旨を定めた念書を被告に提出していることは認める。

2  同2及び3の事実のうち、原告と達子の申込みが本件マンションの分譲申込みの無効事由となりあるいは原告と被告との間での本件土地建物の売買契約の解約事由となる重複申込みに該当するとの点は否認する。原告と達子とは、右の申込みの当時、それぞれ別個の収入源を有し、生計をも別にしていたのであり、同一世帯を構成していなかったのであるから、原告と達子との申込みは何ら重複申込みには該当しない。

3  被告は、単に原告と達子の住民票上の住所地が同一地にあることのみから、原告と達子とが同一地に同居して同一世帯を構成しているものと認定し、本件土地建物の売買契約を解除したものであり、右の契約解除は解除権の濫用に当るものというべきである。

五  再抗弁に対する認否

被告のした本件土地建物の売買契約の解約が解除権の濫用に当るとの主張は争う。

第三  証拠<省略>

理由

一原告が被告の公募した本件土地建物の購入申込みに応募して抽選に当選し、昭和六一年一一月一三日に被告との間での売買契約を締結したこと、ところが、本件マンションについてはその購入申込みを一世帯一住戸のみに制限する旨の条件が付されており、右の条件に反する重複申込みが判明した場合には売買契約を解約とする旨が原告と被告との間でも合意されていたこと、以上の事実については当事者間に争いがない。また、被告が、原告の本件土地建物の購入申込みが達子のした申込みとの関係で右の重複申込みに当るとして、昭和六三年七月二六日の本件口頭弁論期日において原告に対して本件土地建物の売買契約を解約する旨の意思表示をしたことは明らかである。

二そこで、原告のした本件土地建物の購入申込みが達子のした申込みとの関係で本件土地建物の売買契約の解約事由となる重複申込みに該当するか否かについて考える。

1  <証拠>によれば、本件マンションは、東京都新宿区の西戸山地区の国有地の払下げを受けて、一般市民に良質な住宅を低廉な価格で提供する目的で建築、分譲されることとなったものであり、その分譲は実質的にみると国有財産の分譲という性質をも有しており、また各戸とも購入を希望する者が極めて多数に上ったことから、被告の方では、購入希望者に公平、平等にこれを分譲し、投機目的による購入を排除する等の目的から、前記のとおりその購入申込みを一世帯一住戸のみに制限し、右制限に反する重複申込みが判明した場合には売買契約を解約とする旨を定めたものであることが認められ、右認定に反する証拠はない。

右のような経緯からすると、右の購入申込みを一世帯一住戸のみに制限する趣旨は、住居を共にしている家族等の同一の生活集団一集団(一世帯)について一住戸という単一の申込みしか認めないこととすること、すなわち、本件マンションの購入申込みの抽選に当選してその住戸を買い受けた場合において、その住戸において住居を共にして同居することとなるような家族等の一集団については、その複数の構成員が重複して本件マンションの購入申込者となることを禁ずることにあるものと解するのが相当であり、したがって、原告の本件土地建物の購入申込みが達子のした申込みとの関係で重複申込みに該当するか否かも、右のような観点からこれを判断すべきものと考えられる。

2  ところで、<証拠>によれば、原告と達子との関係あるいは両者が本件マンションの購入を申し込んだ経緯等に関しては次のような事実が認められる。

(一)  原告は、協栄物産株式会社の福岡本店次長の職にあった昭和四五年ころ、当時同社の社長秘書であった達子と知り合った。その後、達子は同社を退社して上京し、また、原告は、昭和四八年五月に同社の社長に就任し、同社の本社を福岡から東京に移転し、これに伴って、福岡の自宅に妻の大田カノを置いたまま、東京の達子の住所と同一地にその住民票上の住所を移すに至った。

(二)  住民票の記載によれば、達子は、昭和五八年七月一〇日に福岡県粕屋郡粕屋町の前住所から東京都港区高輪四丁目六番八―二〇二号に転入し、更に昭和六〇年九月二七日に右の住所から東京都渋谷区恵比寿三丁目四五番一―五〇二号の現住所に転出したこととなっており、他方原告も、達子と同様に、右昭和六〇年九月二七日に右の港区高輪の住所から渋谷区恵比寿の現住所に転入したこととなっている。

(三)  原告は、福岡に帰ったときこそ前記大田カノの居住する自宅に泊っていたものの、東京では達子と同一住所に居住していたことがうかがえ、昭和五一年一月九日には、両名の間に長女裕美子が出生している。

(四)  昭和六一年一〇月二〇日の本件マンションの購入申込みに際しては原告と達子は同道してその手続に出かけており、抽選登録申込書の現住所欄にはそれぞれ右渋谷区恵比寿の同一住所を記載し、入居予定家族を原告の方では妻のカノ(かの子)、達子の方では裕美子として、それぞれ申込みを行った。

(五)  その後、原告は、昭和六三年一月に大田カノと協議離婚し、同年二月八日に達子との婚姻の届出を行った。これに伴い、原告は昭和六三年二月二五日に被告会社を訪れ、被告に対し本件土地建物での同居者を妻のカノ(かの子)から達子及び裕美子の二名に変更したいとの申し出を行った。

3  右の事実によれば、昭和六一年一〇月二〇日の本件マンションの購入申込みの時点において、原告は少なくとも東京においては達子と同一住所に同居しており、抽選に当選して本件土地建物を買い受けることとなった場合にもその住戸において達子と同居することが当然に予想されるような関係にあったことが優に認められるものというべきであり、右の認定を覆すに足りる証拠は存しない。

そうすると、原告のした本件土地建物の購入申込みは達子のした申込みとの関係で売買契約の解約事由となる重複申込みに該当するものと解さざるを得ない。

三原告は、被告のした本件土地建物の売買契約の解除が解除権の濫用に当ると主張するが、右に認定したような事実関係からすれば、右の契約解除が解除権を濫用してなされたものとすることはできず、他に右の解除権の濫用の事実を認めるに足りるような証拠もない。

四以上の次第であって、被告主張の抗弁には理由があり、原告の請求は理由がないこととなるから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官涌井紀夫)

別紙物件目録

一 土地の表示

所在  東京都新宿区百人町参丁目

地番  四弐〇番五〇

地目  宅地

地積  18435.46平方メートルのうち持分、壱〇〇〇〇〇〇分の壱六七六

二 建物の表示

(一棟の建物の表示)

所在  東京都新宿区百人町三丁目四弐〇番地五〇

建物の番号  西戸山タワーホウムズサウスタワー

構造  鉄筋コンクリート造陸屋根地下壱階付弐五階建

床面積

壱階 914.07平方メートル

弐階 1006.98平方メートル

参階 1060.02平方メートル

四階 739.68平方メートル

五階 739.68平方メートル

六階 739.68平方メートル

七階 739.68平方メートル

八階 739.68平方メートル

九階 739.68平方メートル

壱〇階 739.68平方メートル

壱壱階 739.68平方メートル

壱弐階 739.68平方メートル

壱参階 739.68平方メートル

壱四階 739.68平方メートル

壱五階 739.68平方メートル

壱六階 739.68平方メートル

壱七階 739.68平方メートル

壱八階 739.68平方メートル

壱九階 739.68平方メートル

弐〇階 739.68平方メートル

弐壱階 739.68平方メートル

弐弐階 739.68平方メートル

弐参階 696.30平方メートル

弐四階 680.12平方メートル

弐五階 612.92平方メートル

地下壱階 956.31平方メートル

(専有部分の建物の表示)

家屋番号  百人町三丁目四弐〇番五〇の参の弐四〇六

建物の番号  S弐四〇六

種類  居宅

構造  鉄筋コンクリート造壱階建

床面積  弐四階部分 78.53平方メートル

(附属建物の表示)

種類  物置

構造 鉄筋コンクリート造壱階建

床面積  地下壱階部分 1.54平方メートル

(敷地権の表示)

敷地権の種類

所有権 壱〇〇〇〇〇〇分の壱六参九

所有権 壱〇〇〇〇〇〇分の参七

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