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東京地方裁判所 昭和63年(ワ)1134号 判決 1989年10月20日

原告

竹田光子

被告

有限会社大豊土木

ほか一名

主文

一  被告らは、原告に対し、各自金二二三〇万二八七四円及びこれに対する昭和六〇年一〇月二一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを三分し、その二を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告に対し、各自金七四一五万七七四九円及びこれに対する昭和六〇年一〇月二一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  第一項につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  本件事故の発生

(一) 日時 昭和六〇年一〇月二一日午後三時五五分ころ

(二) 場所 東京都千代田区神田神保町三丁目七番地先路上

(三) 態様 被告安藤隆(以下「被告安藤」という。)が大型貨物自動車(以下「被告車」という。)を運転して前記場所を走行中、道路横断中の原告を轢過した。

2  責任原因

(一) 被告安藤

被告安藤は、前記場所を赤信号で停止したのち、発進・左折するに当たり、自車直近前方の横断者の有無と安全を確認してから発進・左折すべき注意義務があるのに、これを怠つた過失により本件事故を惹起したものである。

(二) 被告有限会社大豊土木(以下「被告大豊土木」という。)

被告大豊土木は、土木・建築工事の請負を業とする有限会社であり、右事業のために被告安藤を使用するものである。本件事故は、被告安藤が被告大豊土木の事業の執行として被告車を運行している際に生じたものである。

被告大豊土木は、被告車を所有し、これを自己のため運行の用に供していたものである。

3  原告の損害

(一) 原告は、本件事故のために、左大腿部切断、右大腿部挫滅創の傷害を受け、この結果、左大腿部切断の後遺障害が残つた。なお、原告は自動車損害賠償責任保険(以下「自賠責保険」という。)上、自動車損害賠償保障法施行令二条別表後遺障害別等級表第四級該当の認定を受けている。

(二) 右受傷に伴う損害の額は次のとおりである。

<1> 治療費 金一六万四五二〇円

<2> 義肢代 金一八万円

<3> 医療器具購入費 金四万七〇〇〇円

<4> 文書費 金七万九八五〇円

<5> ベツド購入費 金七万一八〇〇円

<6> 入院付添費 金一万四〇〇〇円

<7> 入院雑費 金三七万九〇〇〇円

<8> 通院交通費 金二二万九四七〇円

<9> 医師等謝礼 金五四万〇八二〇円

<10> 後遺障害による逸失利益 金六五九四万〇七八九円

<11> 慰藉料 金二〇〇〇万円

(三) 物損 金六万八〇〇〇円

(四) 損害の填補 金一八五五万七五〇〇円

原告は、本件事故による損害につき、被告大豊土木と自動車保険契約を締結していた千代田火災海上保険株式会社から合計金二一八万七五〇〇円の弁済を受け、被告車につき自賠責保険契約を締結していた大成火災海上保険株式会社から金一六三七万円の支払を受けたので、これを前記損害から控除する。

(五) 弁護士費用 金五〇〇万円

よつて、原告は、被告安藤に対し民法七〇九条に基づき、被告大豊土木に対し民法七一五条及び自賠法三条に基づき、各自前記損害合計金七四一五万七七四九円及びこれに対する本件事故発生の日である昭和六〇年一〇月二一日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1、2の事実は認める。

2  同3の事実について、(一)は認める。(二)のうち、<1>は金一五万七五〇〇円(被告らにおいて支払ずみ)を認め、その余は知らない。<2>は認める。<3>ないし<9>は知らない。<10>は否認する。<11>は知らない。

3  同(三)の事実は知らない。

4  同(四)の事実は認める。

5  同(五)の事実は知らない。

三  抗弁

1  過失相殺

原告には、被告車後方の横断歩道上を横断すべきであるのに、横断歩道外の被告車の進行方向直近の被告安藤から直接見ることのできない場所を横断した過失があり、原告の損害を算定するに当たつては原告の右過失を斟酌すべきである。

2  損益相殺

原告は、本件事故による後遺障害を原因として、厚生年金保険法による障害厚生年金を、昭和六二年に金一九一万三四八二円、昭和六三年に金一二八万一〇五七円、合計金三一九万四五三九円給付を受け、労働者災害補償保険法による障害補償年金金三二〇万二七〇〇円の給付を受けた。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実は否認する。

2  同2の事実は認める。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一  請求原因1、2、3(一)の各事実は当事者間に争いがない。

二  請求原因3(二)について

<1>  治療費 金一六万四五二〇円

治療費のうち金一五万七五〇〇円(被告らにおいて支払ずみの分)は当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第三号証の一ないし九によれば、原告は、被告らにおいて支払ずみの金一五万七五〇〇円のほか、東京厚生年金病院に治療費として合計金七〇二〇円を支払つたことが認められるから、治療費の額は合計金一六万四五二〇円となる。

<2>  義肢代 金一八万円

義肢代金一八万円は当事者間に争いがない。

<3>  医療器具購入費 金四万七〇〇〇円

弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第七号証の一ないし三によれば、原告は医療器具購入費として合計金四万七〇〇〇円を支出したことが認められる。

<4>  文書費 金七万三五〇〇円

前記甲第三号証の六、原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第八号証の一ないし一四及び同尋問結果によれば、原告は文書費として合計金七万三五〇〇円を支出したことが認められる。

<5>  ベツド購入費 金七万一八〇〇円

弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第九号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、本件事故による受傷の後遺障害(後遺障害については当事者間に争いがない。)のため就寝にベツドを使用せざるをえず、その購入費として金七万一八〇〇円を支出したことが認められる。

<6>  入院付添費 金一万四〇〇〇円

弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第四号証の一、二によれば、原告は丸茂病院に入院中付き添い寝具料として合計金一万四〇〇〇円を支出したことが認められる。

<7>  入院雑費 金三七万九〇〇〇円

弁論の全趣旨によれば、原告は入院中(三七九日間)一日金一〇〇〇円を下らない雑費を支出したものと認められる。

<8>  通院交通費 金二二万九四七〇円

原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第二九号証、甲第三一号証の一ないし四及び同尋問結果によれば、原告は、原告が入院中母宮代貞子の付き添い等の交通費、原告が転院した際の交通費、原告の通院のため交通費として、合計金二二万九四七〇円を支出したことが認められる。

<9>  医師等謝礼 認められない。

医師等への謝礼は、儀礼として行われたもので支出の必要を認められないから、本件事故による損害ということはできない。

<10>  後遺障害による逸失利益 金三一〇九万八三二三円

原本の存在及び成立に争いのない甲第二六号証の一、成立に争いのない甲第二六号証の二、証人山崎幸一郎の証言及び原告本人尋問の結果並びに前記原告の後遺障害の内容及び程度によれば、原告は、本件事故当時日本生命保険相互会社に外務員として勤務し、本件事故前年の昭和五九年度において金三四五万六七八六円の所得を得ていたものである(外務員報酬金六一七万二八三三円、必要経費金二七一万六〇四七円。)ところ、前記後遺障害のため症状固定日である昭和六二年三月三一日(当時原告五〇歳)から稼働可能と考えられる六七歳までの一七年間を通じて、その労働能力の九二パーセントを喪失したものと認めるのが相当である。そこで、日本生命保険相互会社の外務員の定年である六〇歳までの一〇年間は前記所得を基礎とし、その後の七年間は賃金センサス昭和六二年第一巻第一表産業計、企業規模計、女子労働者、学歴計の全年齢平均賃金年収額金二四七万七三〇〇円を基礎として、前記労働能力喪失割合を乗じ、同額からライプニッツ方式により中間利息を控除して、右期間の逸失利益の本件事故当時の現価を求めると、その金額は、次のとおり金三一〇九万八三二三円となる。

3,456,789×0.92×(8.3064-0.9523)+2,477,300×0.92×(11.6895-8.3064)=31,098,323

原告は、確定申告における経費は過大に申告していたものである旨供述するが、原告の経費を正確に算出するに足りる証拠はなく、本件においては、確定申告の際の数字を基礎として逸失利益を算定するのが相当である。

<11>  慰藉料 金一三〇〇万円

原告の受傷の内容、治療経過、後遺障害の内容、程度等諸般の事情を総合すれば、原告に対する慰藉料としては金一三〇〇万円をもつて相当と認める。

三  請求原因3(三)(物損)について

物損についてはこれを認めるに足りる証拠がない。

四  抗弁2(過失相殺)について

成立に争いのない甲第一五ないし第二二号証、乙第二、第三号証、第七ないし第一六号証、第一八、第二一号証及び原告本人尋問の結果によれば、本件事故の際、原告は自転車を押して横断歩道外の被告車直前を横断していたことが認められるが、これは本件事故前、被告安藤が前車に追従して横断歩道にまたがつて被告車を停車させたため、横断歩道上を横断することが困難となり、やむをえず前認定の横断方法をとらざるをえなかつたものであり、被告安藤がこのような危険な横断をしなければならない事態を招いたものということができる。したがつて、原告が横断歩道外を横断していたことをもつて過失相殺することは、本件において相当でない。

五  損害の填補 金一八五五万七五〇〇円

原告が、本件事故による損害につき、被告大豊土木と自動車保険契約を締結していた千代田火災海上保険株式会社から合計金二一八万七五〇〇円の弁済を受け、被告車につき自動車損害賠償責任保険契約を締結していた大成火災海上保険株式会社から金一六三七万円の支払を受けたことは当事者間に争いがない。

六  抗弁2(損益相殺)

原告が、本件事故による後遺障害を原因として、厚生年金保険法による障害厚生年金を、昭和六二年に金一九一万三四八二円、昭和六三年に金一二八万一〇五七円、合計金三一九万四五三九円給付を受け、労働者災害補償保険法による障害補償年金金三二〇万二七〇〇円の給付を受けたことは当事者間に争いがない。

七  弁護士費用 金二〇〇万円

弁論の全趣旨によれば、原告は本件訴訟を原告訴訟代理人に委任し相当額の費用及び報酬の支払を約しているものと認められるところ、本件事案の性質、審理の経過、認容額等に鑑みると、原告が本件事故による損害として被告らに対し賠償を求めうる弁護士費用の額は金二〇〇万円をもつて相当と認める。

八  結論

以上の事実によれば、本訴請求は、被告らに対し、各自前記損害合計金二二三〇万二八七四円及びこれに対する本件交通事故発生の日である昭和六〇年一〇月二一日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余はいずれも失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を、各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 岡本岳)

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