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東京地方裁判所 昭和62年(特わ)2179号 判決 1988年2月17日

本籍及び住居

静岡県田方郡函南町畑毛六九八番地の二〇八

霊感コンサルタント業

大下美和子こと

田村美枝子

昭和四年二月二三日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官井上經敏、同大森礼子出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一年二月及び罰金三五〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金一〇万円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から三年間、右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、東京都渋谷区代官山町四番一-六一〇号(昭和五九年一一月三〇日以降は、同区桜丘町八番一七号シャレー渋谷B棟四一五号)に事務所を置き、静岡県田方郡函南町畑毛六九八番地の二〇八において「太陽に祈る会・大下霊感道場」の名称で霊感コンサルタント業を営んでいたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、奉納金等の収入の一部を除外するなどの方法により所得を秘匿した上

第一  昭和五七年分の実際総所得金額が五五七五万八七一五円あった(別紙1の(1)ないし(3)参照)のにかかわらず、同五八年三月一五日、東京都渋谷区宇田川町一番三号所在の所轄渋谷税務署において、同税務署長に対し、同五七年分の総損失金額が三〇二万三二七一円でこれに対する所得税額がすでに源泉徴収された二二万六七七一円の還付を受けることとなる旨の虚偽の所得税確定申告書(昭和六二年押第一三六七号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額二八〇六万九〇〇円と右申告税額との差額二八二八万七六〇〇円(別紙4脱税額計算書参照)を免れ

第二  昭和五八年分の実際総所得金額七〇六七万九一七九円あった(別紙2の(1)ないし(3)参照)のにかかわらず、同五九年三月一五日、前記渋谷税務署において、同税務署長に対し、同五八年分の総所得金額が三〇二万三〇〇〇円でこれに対する所得税額が二万三二〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(同押号の2)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額三八二三万七一〇〇円と右申告税額との差額三八二一万三九〇〇円(別紙5脱税額計算書参照)を免れ

第三  昭和五九年分の実際総所得金額が一億六一四万四〇四円で、分離課税による短期譲渡所得金額が一八万七〇〇〇円あった(別紙3の(1)ないし(3)参照)のにかかわらず、同六〇年三月四日、前記渋谷税務署において、同税務署長に対し、同五九年分の総所得金額が四〇九万五一〇二円で、分離課税による短期譲渡所得金額が一八万七〇〇〇円でこれに対する所得税額が二九万七二〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(同押号の3)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額六一五一万三九〇〇円と右申告税額との差額六一二一万六七〇〇円(別紙6脱税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全部の事実について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書一〇通

一  矢田和一(二通)、小木曽慶子、関口ひろ子、番場ちず子及び伊藤哲夫の検察官に対する各供述調書

一  収税官吏作成の次の各調査書

1  当座預金調査書

2  普通預金調査書

3  定期預金調査書

4  定期積金調査書

5  土地調査書

6  建物調査書

7  建物附属設備調査書

8  構築物調査書

9  器具及び備品調査書

10  車両及び運搬具調査書

11  権利金調査書

12  絵画調査書

13  前払金調査書

14  事業主勘定調査書

15  借入金調査書

16  支払手形調査書

17  未払金調査書

18  総合譲渡所得調査書

19  分離短期譲渡所得調査書

20  申告雑所得調査書

21  申告分離短期譲渡所得調査書

22  申告事業所得調査書

23  事業損失金調査書

一  検察事務官作成の捜査報告書二通

一  静岡県総務部学事文書課職員作成の照会に対する回答と題する書面

一  押収してある昭和五七年分(昭和六二年押第一三六七号の1)、同五八年分(同押号の2)及び同五九年分(同押号の3)の所得税の確定申告書各一袋並びに同五八年分の所得税の修正申告書一袋(同押号の4)

(法令の適用)

一  罰条

判示第一ないし第三の各所為につき、いずれも所得税法二三八条一、二項

二  刑種の選択

いずれも懲役刑と罰金刑の併科

三  併合罪の処理

刑法四五条前段、懲役刑につき同法四七条本文、一〇条(犯情の最も重い判示第三の罪の刑に加重)、罰金刑につき同法四八条二項

四  労役場留置

刑法一八条

五  刑の執行猶予(懲役刑につき)

刑法二五条一項

(量刑の事情)

本件は、霊感コンサルタント業を営んでいた被告人が、奉納金等の収入の一部を除外するなどして所得を秘匿したうえ、虚偽過少の申告をして、三年分の所得税合計一億二七七一万円余をほ脱した事案であって、その額が高額である点及びほ脱率が三年分の平均で約九九・九パーセントと極めて高率である点で犯情悪質である。被告人は、昭和四四年ころから霊感コンサルタント業に携わるようになったが、無計画に施設を拡張したり、衝動的に高価な買物をしてクレジットの支払に追われたことなどから、資金繰りが苦しくなり、本件犯行に及んだものであって、動機において特に酌むべき点は認められない。ほ脱の具体的方法をみると、原稿料、入会金、会費及び小口の相談料等は会計担当者において把握し、公表していたものの、奉納金(施設を建設するとして集めた募金)、お浄め料(病気治癒のための祈祷料)、お玉串、天格(お守り替りに作ったペンダントの代金)、及びお詫(会員に科した罰金)等の大口の収入は会計担当者に関与させず、被告人において直接管理し、申告所得を大巾に上回る所得があることを十分確認しながら、ことさらに虚偽過少の申告をしたものである。脱税した金の使途をみると、被告人の主宰する「太陽に祈る会・大下霊感道場」の道場や施設を増やしたり、被告人個人の宝石、毛皮及び衣類等を購入したり、家族の留学資金等に充てていたものである。加えて、税務調査に備えて奉納金の性質が不明となるように奉納願の文書を回収したり、会計担当者に指示して奉納金は借入金であるかのように書類を作らせたことなどをも併せ考えると、被告人の刑事責任は重いといわなければならない。

しかしながら他方、被告人は前記のような不正工作を行ったものの、預金口座は実名又は通称名で開設し、同種事犯と比較すると、複雑多岐にわたる所得隠匿工作は行っていないこと、本件を反省し、三年分について修正申告したうえ、本税の一部を納付し、残余の本税についても本年一月から四年間の分割払で納付するために税務当局に対し手形を入れ、その余の税金についてもできるかぎり早く完納したい旨述べていること、収入除外を防止するため、相談料等は被告人が受け取るのではなく、経理担当者がお客から直接受領して伝票を起こし、それを顧問税理士が検討を加えるという方法に経理体制を改善したこと、被告人はマスコミにおいても活躍していたことから、本件の告発時及び起訴時において大きく報道され、それなりの社会的制裁を受けたこと、これまで真面目に働き、前科前歴もないこと等、被告人に斟酌すべき事情も認められるので、今回は懲役刑についてはその執行を猶予するのが相当であると判断し、主文のとおり刑の量定をした。

(求刑 懲役一年二月及び罰金四〇〇〇万円)

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 鈴木浩美)

別紙1の(1) 修正貸借対照表

昭和57年12月31日現在

田村美枝子 No.1

<省略>

別紙1の(2) 修正損益計算書

自 昭和57年1月1日

至 昭和57年12月31日

田村美枝子 No.1

<省略>

別紙1の(3) 所得金額総括表

自 昭和57年1月1日

至 昭和57年12月31日

田村美枝子 No.1

<省略>

別紙2 修正損益計算書

自 昭和58年1月1日

至 昭和58年12月31日

田村美枝子 No.1

<省略>

所得金額総括表

自 昭和58年1月1日現在

至 昭和58年12月31日現在

田村美枝子 No.1

<省略>

別紙3の(1) 修正貸借対照表

昭和59年12月31日現在

田村美枝子 No.1

<省略>

別紙3の(2) 修正損益計算書

自 昭和59年1月1日

至 昭和59年12月31日

田村美枝子 No.1

<省略>

所得金額総括表

自 昭和59年1月1日現在

至 昭和59年12月31日現在

No.1

<省略>

別紙4 脱税額計算書

年分 57年

<省略>

別紙5 脱税額計算書

年分 58年

<省略>

別紙6 脱税額計算書

年分 59年

<省略>

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