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東京地方裁判所 昭和62年(ワ)4142号 判決 1988年8月26日

原告

奥村辰郎

ほか一名

被告

田中稔

主文

一  被告は、原告奥村辰郎に対して、金一九万九四二五円及びこれに対する昭和五九年一〇月七日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告奥村辰郎のその余の請求及び原告有限会社オクムラ美容室の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを二五分し、その二四を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告奥村辰郎に対して金二五五万四八三〇円及び原告有限会社オクムラ美容室に対して金二四九万一〇〇〇円並びにこれらに対する昭和五九年一〇月七日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

(一) 日時 昭和五九年一〇月七日午前一〇時ころ

(二) 場所 東京都世田谷区等々力五―六―九先路上

(三) 加害車 被告運転の普通貨物自動車(品川四〇さ八一―八一)

(四) 被害車 原告奥村辰郎(以下「原告奥村」という。)運転の原動機付自転車(目黒区え九五―八三)

(五) 態様 原告奥村が被害車を運転し、駐車場を出て自車線内に入り、深沢方面へ進行中、停車していたタクシーを追い越す形で反対車線に出て来た加害車の右前部と被害車の前タイヤ部分とが衝突した。

(六) 原告奥村の受傷 原告奥村は、本件事故により下腹部挫傷兼左睾丸及び副睾丸挫傷兼巨大血腫の傷害を受けた。

2  責任原因

被告は、加害車の所有車であり、自己のために同車を運行の用に供していたものであり、自賠法三条の責任がある。

3  損害

(一) 原告奥村の損害

(1) 治療費

原告奥村は、前記受傷により、昭和五九年一〇月七日から同年一二月六日まで六一日間の入院治療、同月七日から昭和六〇年二月二六日までの通院治療を行つた。

(2) 入院雑費 金六万一〇〇〇円

入院一日当たり金一〇〇〇円の割合

(3) 慰謝料 金一〇〇万円

(4) 休業損害 金一八〇万円(金一二〇万円)

原告奥村は、本件事故により昭和五九年一〇月から昭和六〇年三月まで月三〇万円の給料を得ることが出来なかつた。なお、内金六十万円の休業損害の支払いを既に被告から受けている。

(5) 通院等交通費 金二万八八三〇円

(6) 弁護士費用 金二六万五〇〇〇円

弁護士会報酬規定に基づく着手金分

(二) 原告有限会社オクムラ美容室(以下「原告オクムラ美容室」という。)の損害

(1) 減収益 金二二二万六〇〇〇円

原告オクムラ美容室は、原告奥村が代表取締役を務め、事実上原告奥村の個人会社であり、店舗として三軒茶屋店と尾山台店の二軒がある。原告奥村は、通常は尾山台店の店頭にたつて美容の仕事に従事していた。本件事故によつて原告奥村が美容の仕事をすることが出来なかつた昭和五九年一〇月から昭和六〇年三月までの期間中、三軒茶屋店の収入はほとんど減収しなかつたにもかかわらず尾山台店では約三一八万円ほど収益が減少した。美容室の経費割合は収益の三〇パーセントであるから、原告オクムラ美容室の減収益は、金二二二万六〇〇〇円である。

(2) 弁護士費用 金二六万五〇〇〇円

弁護士会報酬規定に基づく着手金分

4  よつて、原告奥村は被告に対し、金二五五万四八三〇円、原告オクムラ美容室は被告に対し、金二四九万一〇〇〇円、及び、これらに対する昭和五九年一〇月七日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因第1項のうち、(一)ないし(四)は認め、(五)は否認し、(六)は認める。

2  同第2項のうち、被告が加害車の所有者であることは認めるが、自賠法三条の責任があるとの点は否認する。

3  同第3項の(一)のうち、(1)については原告奥村が入院治療、通院治療を行つた点は認め、(2)、(3)については不知、(4)については被告が金六〇万円の休業損害を支払つたことは認めるが、その余は不知、(5)、(6)については不知。

同第3項の(二)は否認する。

4  同第4項は争う。

三  抗弁

1  過失相殺

被告は、加害車を運転して、深沢方面から尾山台方面に向かつて走行し、本件交通事故現場付近に差し掛かつたところ、進行方向左側にタクシーが停車したため加害車も停車し、その後右タクシーの右側を徐行して進行したところ、左側路外駐車場から深沢方面に向かうべく右折進行して来た被害車が加害車の右前部に衝突して来たものである。衝突地点は加害車の車線内であり、本件交通事故を捜査した玉川警察署も、原告奥村を第一当事者として処理している。

被害車は、自車進行方向の反対方向を見ながら加害車の前に飛び出して来たものであり、進行方向の安全確認を十分行つていない過失がある。

従つて、原告らの損害額算定に際しては、被害車の右過失も斟酌されるべきである。

2  弁済

被告は、原告奥村の治療費として金六六万三八八〇円を、入院雑費分として金三万六六〇〇円を既に支払い済みである。なお、その他に、休業損害として金六〇万円を支払い済みである。

四  抗弁に対する認否

被告の過失相殺の主張について争う。

第三証拠

本件記録証拠関係目録記載のとおり。

理由

一  請求原因第1項のうち、(一)ないし(四)については当事者間に争いはない。

成立に争いのない甲第一号証、第七号証ないし第九号証、乙第二号証、原告奥村本人尋問の結果によつて成立が認められる甲第六号証、被告本人尋問の結果によつて成立が認められる乙第一号証、証人山村佳廣の証言、原告奥村本人及び被告本人の各尋問の結果、弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。

本件事故現場付近道路は、尾山台方面から深沢方面へ南北に走る道路で、道路幅員は約一一メートル、車道は片側一車線で幅員約四メートル、センターラインが引かれ、道路両側に約一・六メートルの路側帯があり、街路樹並木が車道側端にある。直線道路であつて見通しは良く、商店街となつている(以下「本件道路」という。)。本件道路の尾山台方面側に、東西に上野毛方面に走る道路と交差している交差点(以下「本件交差点」という。)があり、同所には信号機が設置されている。

原告は、本件交差点北東角にあつた路外駐車場(以下「本件駐車場」という。)から、買い物に行くため被害車に乗り、深沢方面へ進行すべく、左後方を見て、左方の本件交差点に設置されている信号機の信号が赤であることを確かめ、右方へ発進して本件道路を走行した。その後、原告車と被告車と衝突した。

原告らは、右衝突状況については、右駐車場の隣で本件交差点から約一三メートル位北へ入つた所にあるそば屋の前あたりに停車していたタクシーを被害車が越えようとしたとき、同タクシーを追い越す形でセンターラインを越えて反対車線に出て来た加害車と衝突した旨主張し、原告奥村本人尋問においては、それに添う供述がなされているところ、被告は、本件交差点から約二四メートル位北へ入つた所にある明治生命の前で停止していたタクシーを越え終えた後、そば屋の前あたりで被害車と加害車とが衝突したが、加害車は自車線内を走行していた旨主張し、被告本人尋問においては、それに添う供述がなされている。

証人山村佳廣は、本件事故現場に臨場して本件事故の捜査を担当した警察官であるが、概ね次のように証言する。

1  本件事故現場で、衝突の前から見ていたというタクシーの運転手から話を聞いているが、同運転手は、本件駐車場から急にオートバイがよそ見をして出てきたなどと述べていたこと

2  タクシーは、本件交差点から北へ二〇メートル位入つた所に止まつていたこと

3  加害車は、本件交差点近く、大体一〇メートル位北へ入つた所に止まつていたが、自車線内に前部がいくらか右斜めを向いて、相手を避けるような形で止まつていたような状況があり、大体止めたままの状況で、加害車は動いていないと思われたこと

4  バイクの転倒していた場所は、反対車線の並木の木の近辺で、加害車の横ならび、車の先端を道路の端まで延ばして、その近辺であつたこと

5  付近にオートバイのウインカーとか、そういう物が割れた破片等も散つていたが、破片は加害車の右脇付近、センターラインより外にあつたこと

6  被告は、衝突地点として、そば屋と本件駐車場の境目位で進行車線上でセンターラインに近いところを特定したこと

7  スリツプ痕はなかつたこと

8  目撃者であるタクシーの運転手の説明、破片の状況等から衝突地点を加害車の走行車線内と判断したこと

以上のように証言する。

右証言は、被告本人尋問の結果と適合するところであり、採用しえるところ、これによればタクシーの停止位置は本件交差点から北へ二〇メートル程入つた所と認定しえること、タクシーの運転手は自己の前方に本件事故が起こつたのを目撃したものと認定しえることや、被告が、タクシーを越えたら前方の本件交差点の信号機が黄色になつた旨供述していて、原告奥村が赤信号を見て発進したとする供述と、信号機の信号時間のサイクル的に見ても、ほぼ一致している事などからすれば、加害車がタクシーを越え終わつてから衝突したものと認定できる。

右証言から窺えるタクシーの停止位置、被害車の停止位置及び加害車の停止位置と乙第一号証、原告奥村本人及び被告本人の各尋問の結果からすれば、そば屋の前位で被害車の前輪部付近と加害車の右フエンダーミラーあたりの前部付近と衝突したものと認定出来る。

ところで、右衝突の際、被告がセンターラインをオーバーしていたか否かであるが、証人山村佳廣の証言によれば、加害車の右脇付近でセンターラインを越えてウインカーの破片のようなものが落ちていた旨証言し、被告本人尋問では、加害車のウインカーは壊れていない旨供述し、乙第一号証の加害車の写真を見ても破損は見られないところ、原告奥村本人尋問では、被害車の右前部ウインカーが破損した旨供述し、乙第一号証の被害車の写真では右前部のウインカーの破損状況ははつきりしないが、証人山村佳廣は、ナートバイのものである旨証言し、原告奥村本人尋問も右のとおりであるから、被害車のウインカーの破損したかけらが落ちたものと認められる。

一般的には、破損物等の落下物があれば落下地点付近で衝突したものとするのが合理的であるから、センターラインを越えた地点で衝突したのではないかと考えられるが、証人山村佳廣によれば、破片の落下地点、加害車の停止位置、目撃者の証言等の諸事情を考慮のうえ衝突地点をセンターライン内と判断したというのであり、センターライン付近で衝突した場合に、センターラインを越えた地点に破片が落下することもあることは否定できないから、加害車がセンターラインを越えて被害車と衝突したとは認定することはできないが、落下地点は加害車の右脇付近であつたことからすれば、衝突地点はセンターライン極近であつたと認定できる。

以上認定の衝突場所等からすれば、被害車は本件駐車場から発進した直後に衝突したものであり、被告にとつては、原告奥村が本件駐車場から急に飛び出して来たものといえはするが、前掲証拠によれば、被告は加害車のハンドルを右にきつていること、加害車右前部を被害車に衝突させていること、センターライン極近での衝突であること、本件道路の状況にあつては、被告は、加害車をセンターライン左側の左寄りを走行させるべきであるから、右に寄り過ぎて走行していたこと等が認められ、左寄りを走行するか、ブレーキ操作を適確にしてハンドルを左にきつていれば本件事故は避けられたものと判断できるから、被告においても認知、判断、動作の点において注意のかけた点があり、被告が無過失であつたとは認められない。

なお、原告奥村本人尋問によると、タクシーは、そば屋の前付近でセンターライン寄りに停車していて、衝突地点は、そば屋と隣の空き地との境付近で自車線内である旨供述しているが、そうだとすると、被告はセンターライン寄りをタクシーに接して走行したことになり、その走行方法はやや不自然な感を受けることなどからして直ちに採用することはできず、原告奥村本人尋問の結果をもつて右認定を左右できないし、他に前記認定を覆すに足る証拠はない。

請求原因第1項の(六)については、当事者間に争いはない。

二  被告が加害車の所有車であることについては当事者間に争いはなく、被告が加害車を運転していたと認められるので、自己の為に自動車を運行の用に供していたものといえる。また、前記のとおり被告が無過失であるとはいえないから、被告は、原告奥村が受けた傷害による損害を賠償する責任がある。

三  損害は、次のとおりである。

1  原告奥村の損害

(一)  治療費

原告奥村が、前記受傷により、昭和五九年一〇月七日から同年一二月六日まで六一日間の入院治療、同月七日から昭和六〇年二月二六日までの通院治療を行つたことについては当事者間に争いはなく、弁論の全趣旨によれば、治療費は金六六万三八八〇円と認められる。

(二)  入院雑費

前記入院治療六一日間における入院雑費は、弁論の全趣旨によれば、一日当たり金一〇〇〇円が相当と認められるので、金六万一〇〇〇円と認められる。

(三)  慰謝料

前記入院治療・通院治療の期間、傷害の部位、程度等諸般の事情を考慮すれば、金八〇万円が相当と認められる。

(四)  休業損害

弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第三号証、原告奥村本人尋問の結果、弁論の全趣旨によれば、原告奥村は、昭和五九年一〇月七日から昭和六〇年二月二六日まで一四三日間欠勤し、その欠勤期間中の給与が支給されなかつたことが認められるので、休業損害として、同原告の収入月額金三〇万円の一四三日分に相当する金一四三万円と認められる。

(五)  通院等交通費

原告奥村本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第二号証の一ないし第一六、原告奥村本人尋問の結果、弁論の全趣旨によれば、原告奥村は、昭和五九年一〇月七日から同年一二月六日まで入院していたのであるから、原告奥村の請求する右期間内の交通費は原告奥村の妻が要した交通費と認められるところ、原告奥村が入院した当初にあつては、入院のための諸物運搬のためにタクシーを利用せざるをえないと考えられるが、原告奥村の妻は昭和五九年一〇月一八日、電車、バスを利用しているから、その後においてはタクシーを利用しなければならない必要性、合理性は認められないから、電車、バス利用相当分の範囲内で交通費を認めたうえ、甲第二号証の一の通院交通費明細書の計算に依るのが相当である。電車、バスを利用する場合の交通費は、金四四〇円と認められるので、昭和五九年一〇月二三日、同月二五日、同月二六日、同月三〇日については、いずれも金四四〇円として甲第二号証の一に依れば、合計金二万四九三〇円と認められる。

以上原告奥村の損害は合計金二九七万九八一〇円となる。

2  原告オクムラ美容室の損害

原告奥村本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第四号証、第五号証、原告奥村本人尋問の結果、弁論の全趣旨によれば、原告オクムラ美容室は、三軒茶屋店と尾山台店の二店を有し、従業員は原告奥村を含め一六名で、セツト台一五台、シヤンプー台六台等の設備をそなえ、年間六千万円程度の売上のある美容室であり、法人としての納税申告等も公認会計士、税理士が関与してなされている企業である。

原告奥村は、原告オクムラ美容室の代表取締役で本給月額三〇万円を受け、同美容室の経営全般を取り仕切つている者であるが、主として尾山台店で仕事に従事し、三軒茶屋店は他人に任せている。

原告オクムラ美容室が営業利益の減少について賠償を求めるには、原告オクムラ美容室が法人とは名ばかりの、いわゆる個人会社であり、その実権は原告奥村個人に集中して、経済的に原告らは一体をなす関係になければならないところ右の企業規模等から原告奥村と原告オクムラ美容室とは経済的一体性があるとはいえないから、原告オクムラ美容室の請求は認められない。

四  被告は、原告奥村に過失があつたから過失相殺すべきであり、また、治療費分金六六万三八八〇円、入院雑費分金三万六六〇〇円、休業損害分金六〇万円を支払い済みである旨主張し、原告らは、過失相殺につき争う。

前記事故態様等からして、原告奥村にも路外の本件駐車場から自車進行方向の右方の安全を十分に確認しないで急に本件道路に飛び出した過失があること等が認められるから、諸事情を考慮し、その五割を減ずるのが相当である。

従つて、原告奥村の損害額は金一四八万九九〇五円となるところ、弁論の全趣旨によれば、被告が合計金一三〇万〇四八〇円を支払つていることが認められるので、これを控除すれば金一八万九四二五円となる。

五  弁論の全趣旨によれば、原告奥村が本件訴訟の追行につき、原告奥村訴訟代理人らに訴訟代理を委任したことが認められるので、その弁護料として金一万円をもつて本件事故と相当因果関係にある損害金とするのを相当とする。

六  よつて、原告奥村の本訴請求は、被告に対して金一九万九九〇五円及びこれに対する本件事故日である昭和五九年一〇月七日から支払い済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し、原告奥村のその余の請求及び原告オクムラ美容室の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき民事訴訟法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 原田卓)

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