大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和62年(ワ)12993号 判決 1990年11月30日

原告 有限会社サンコー

右代表者代表取締役 倉島壯吉

右訴訟代理人弁護士 笹原信輔

被告 株式会社アイチ

右代表者代表取締役 市橋利明

右訴訟代理人弁護士 野島潤一

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一、当事者双方の求めた裁判

(原告)

1. 訴外株式会社カレッジが昭和六〇年一〇月二六日に被告に対してした次の債権の譲渡をいずれも取り消す。

①  債務者株式会社イトーヨーカ堂、債権額金八八〇万五〇六七円の売掛債権

②  債務者株式会社シンバル、債権額金一一二二万七二一〇円の売掛債権

③  債務者株式会社田原屋、債権額金一一〇一万八一四〇円の売掛債権

④  債務者株式会社寺田、債権額金四二万七一五〇円の売掛債権

⑤  債務者株式会社東急ストア、債権額金三六七万五八四四円の売掛債権

⑥  債務者株式会社東武ストア、債権額金四六万四六六七円の売掛債権

⑦  債務者有限会社カガミ、債権額金七二万五〇〇円の売掛債権

⑧  債務者株式会社山口商事、債権額金一五一万四六九二円の売掛債権

⑨  債務者阪神商事株式会社、債権額金一五五万七一八八円の売掛債権

⑩  債務者株式会社ユニー、債権額金一〇万八一〇円の売掛債権

2. 被告は、原告に対し、金三九五一万一二六八円を支払え。

3. 訴訟費用は、被告の負担とする。

4. 仮執行の宣言

(被告)

主文と同旨

第二、当事者双方の主張

一、原告の主張

(請求の原因)

1. 原告は、婦人衣服の輸入、販売業を営む会社である。

2. 原告は、昭和六〇年二月から訴外株式会社カレッジ(以下「訴外会社」という)に対し、商品を販売していたところ、原告の訴外会社に対する売掛金は、昭和六〇年一〇月二六日当時、金一億二四〇〇万円を下らなかった。

3. 訴外会社は、昭和六〇年一〇月二六日、第一回目の手形不渡事故を起こし、次いで、同月三一日、第二回目の手形不渡事故を起こし倒産した。右第一回目の不渡時である昭和六〇年一〇月二六日時点で、訴外会社は、約七億円の債務超過の状態であった。

4. 右債務超過の状態にあった昭和六〇年一〇月二六日、訴外会社の代表取締役兵庫栄二は、原告ら他の債権者を害することを知りながら、被告と通謀し、被告だけに優先的に債権の満足を得させる意図の下に、次に記載の訴外会社の有する売掛債権(以下「本件各売掛金」という。)(以下、右債権を冒頭の番号で示す。)をいずれも被告に譲渡した。

① 債務者株式会社アストリア、債権額金九四万三〇八〇円

② 債務者株式会社イトーヨーカ堂、債権額金八八〇万五〇六七円

③ 債務者株式会社オオコシ、債権額金九二〇万五一八〇円

④ 債務者株式会社キクヤ、債権額金二〇〇万円

⑤ 債務者株式会社キヤビン、債権額金三三九万七四四六円

⑥ 債務者株式会社シンバル、債権額金一一二二万七二一〇円

⑦ 債務者鈴屋、債権額金一八五万七一九七円

⑧ 債務者株式会社玉川屋、債権額金三万八二七一円

⑨ 債務者株式会社田原屋、債権額金一一〇一万八一四〇円

⑩ 債務者株式会社寺田、債権額金四二万七一五〇円

⑪ 債務者株式会社東急ストア、債権額金三六七万五八四四円

⑫ 債務者株式会社東武ストア、債権額金四六万四六六七円

⑬ 債務者有限会社カガミ、債権額金七二万五〇〇円

⑭ 債務者ナカヤ、債権額金一八〇万円

⑮ 債務者株式会社山口商事、債権額金一五一万四六九二円

⑯ 債務者阪神商事株式会社、債権額金一五五万七一八八円

⑰ 債務者株式会社紅屋、債権額金四八万円

⑱ 債務者株式会社ユニー、債権額金一〇万八一〇円

5. 被告は譲渡を受けた右債権の一部を左記の通り回収した。

(一) ②の株式会社イトーヨーカ堂に対する債権金八八〇万五〇六七円については、同社が、これを昭和六〇年一二月五日供託したが、被告は訴外会社から同意書を取り付けた上で、右金額の払い渡しを受けた。

(二) ⑥の株式会社シンバルに対する債権金一一二二万七二一〇円については、同社から、右全額の弁済を受けた。

(三) ⑨の株式会社田原屋に対する債権金一一〇一万八一四〇円については、同社から右全額の弁済を受けた。

(四) ⑩の株式会社寺田に対する債権金四二万七一五〇円については、同社から右全額の弁済を受けた。

(五) ⑪の株式会社東急ストアに対する債権金三六七万五八四四円については、同年一二月二〇日、同社がこれを供託したが、被告は訴外会社から同意書を取り付けた上で、右全額の払い渡しを受けた。

(六) ⑫の株式会社東武ストアに対する債権金四六万四六六七円については、同社から右全額の弁済を受けた。

(七) ⑬の有限会社カガミに対する債権金七二万五〇〇円については、同社から右全額の弁済を受けた。

(八) ⑮の株式会社山口商事に対する債権金一五一万四六九二円については、同社から右全額の弁済を受けた。

(九) ⑯の阪神商事株式会社に対する債権金一五五万七一八八円については、同社から右全額の弁済を受けた。

(一〇) ⑱の株式会社ユニーに対する債権金一〇万八一〇円については、同社から右全額の弁済を受けた。

6. 訴外会社の財産は、既に債務超過の状態にあったところ、右被告及び訴外会社の行為により、訴外会社の財産はさらに減少した。

7. よって、原告は、詐害行為取消権に基づき、右債権譲渡を取り消し、被告に対し、被告が弁済を受けた金員三九五一万一二六八円の支払いを求める。

(抗弁に対する答弁)

抗弁事実は否認する。

(再抗弁)

抗弁3の放棄の約束があったとしても、右約束は、乙第七号証に定める兵庫栄二の原告会社に対する債務の履行を条件とするところ、右債務は履行されていないので、放棄の効果は生じない。

二、被告の主張

(請求原因に対する答弁)

1. 請求原因1、2は知らない。

2. 同3のうち、訴外会社が同記載の手形の不渡事故を起こしたことは、認めるが、その余は、知らない。

3. 同4のうち、本件各売掛金中の番号②、⑥、⑨、⑩、⑫、⑬、⑮、⑯(但し、金額は金一五五万六三八八円である。)、⑱の譲渡を受けたことは、認める。その余は、否認する。被告は、訴外会社に対し、訴外会社の有する売掛金債権を譲渡担保に、昭和六〇年一〇月二一日に金二億二八〇〇万円を、同月二五日に金三三〇〇万円を貸付け、同月二六日に譲渡通知をしたものである。被告が右譲渡担保契約を締結するに際し、訴外会社の一般債権者の存在を知り、その債権者らを害することの認識など全くなかった。

4. 同5のうち、株式会社東急ストアについては、否認する。阪神商事株式会社の支払いは認めるが、その金額は金一五五万六三八八円である。その余は、認める。

5. 同6は争う。

(抗弁)

1. 仮に、被告が否認した債権譲渡があったとしても、右譲渡契約は合意解除された。また、被告が債権譲渡契約に基づき受領した金員のうち、次の売掛先の各債権を除く売掛金については、譲渡契約の解除により、訴外会社に返還されたか、又は訴外会社が回収した。

② 株式会社イトーヨーカ堂

⑥ 株式会社シンバル

⑨ 株式会社田原屋

⑫ 株式会社東武ストア

⑬ 有限会社カガミ

⑯ 阪神商事株式会社

2. 仮に原告が売掛金債権を有していたとしても、訴外会社は、その後原告に対し、合計金八二一〇万円の弁済をしている。右弁済の内容は次のとおりである。

(一) 金二六四〇万円

訴外会社の代表取締役兵庫栄二の弟が経営する兵庫電機工業株式会社振出の約束手形三八枚で弁済した。そのうち金二一四〇万円は期日に決済され、その余は不渡になったが、その後兵庫の父親が金五〇〇万円を支払い、残額は免除を受けた。

(二) 金三三〇〇万円

訴外会社の株式会社アストリアに対する売掛金九四万三〇八〇円、株式会社オオコシに対する売掛金九二〇万五一八〇円、株式会社キクヤに対する売掛金二〇〇万円、株式会社キヤビンに対する売掛金三三九万七四四六円、鈴やに対する売掛金一八五万七一九七円、株式会社玉川屋に対する売掛金三六七万五八四四円、ナカヤに対する売掛金一八〇万円、株式会社紅屋に対する売掛金四八万円などの売掛金債権の回収金と被告より返還を受けた金一一六六万五四九六円の合計額金五〇七九万四八一三円が訴外会社の債権者らに弁済された。右売掛金五〇七九万四八一三円(返品等があり実質回収額は金四五〇〇万円)は原告(大口債権)、外三株式会社(中口債権)、正和株式会社(中口債権)、株式会社マサール(中口債権)の各債権者に債権額に応じ分配されたが、原告以外の三者には合計で金一二〇〇万円~金一三〇〇万円しか配分されず、その余の金三三〇〇万円は原告が取得した。

(三) 金一三七〇万円

群馬県吾妻郡嬬恋村大字鎌原字群馬坂一七八八番一二一所在の原野四〇四平方メートルで代物弁済し、手形で金三七〇万円を支払った。

(四) 金四〇〇万円

福島県所在の土地約一〇〇坪で代物弁済した。これは当初外三株式会社に対する代物弁済として渡したが、原告が取得した。

(五) 金四〇〇万ないし五〇〇万円

原告の協力によりLCを開設して新たに開始した事業の利益から弁済した。

3. 原告は、昭和六一年五月二六日訴外会社に対する残債権全部を放棄した。

(再抗弁に対する答弁)

再抗弁事実は、否認する。

第三、証拠関係<省略>

理由

一、訴外会社が昭和六〇年一〇月二六日、同月三一日に各手形不渡事故を起こしたことは、当事者間に争いがない。

二  右の争いのない事実、<証拠>並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

1. 原告は、婦人衣服の輸入、販売等を目的とする会社であり、訴外会社との間で昭和六〇年二月ころから継続的に商品の取引をしてきた。

2. 訴外会社は、昭和六〇年一〇月初めころから経営が極度に悪化し、原告に対する買掛金債務のみでも、金一億円以上に達し、全体として、約七億円の債務超過の状態になった。

3. 訴外会社は、取引銀行からの追加融資も得られなくなり、運転資金にも窮するようになった。

4. 訴外会社の代表者は、訴外会社の資金状態が右のごとき状態にあることを秘したまま、金融業務を営む被告に対し、運転資金の融資を求めた。被告は、訴外会社に対し、融資することにしたが、その担保として、既に金融機関に担保提供されていた訴外会社の社屋、代表者の自宅、代表者の義父の自宅について被告のために第一順位の抵当権を設定すること、売掛金を譲渡担保にすることなどの担保の提供を求め、訴外会社はこれを承諾した。

5. 被告は、昭和六〇年一〇月二一日に金二億二八〇〇万円を、支払期日は、同年一〇月二五日から昭和六一年三月三一日までの分割払いとする旨の約束で貸し付けた。被告と訴外会社は、同日、訴外会社が被告に負担する手形金債務、借入金債務など一切の債務を担保するために、前記の物件について極度額金三億五〇〇〇万円の根抵当権を設定し、訴外会社が不渡りを出した時、又は銀行取引停止処分を受けた時には、本件各売掛金(但し、⑭のナカヤ関係を除く。)を含む訴外会社の売掛金(合計金五六〇〇万円)を譲渡する旨の契約(以下「本件債権譲渡契約」という。)を締結した。訴外会社は、右借入金を前記物件に担保権を有していた金融機関への返済金及び運転資金に充てた。

6. 被告は、訴外会社が同年一〇月二五日に支払うべき返済金五〇〇万円が支払えなかったので、訴外会社の求めに応じ、訴外会社に対し、同月二五日に金三三〇〇万円を貸し付けた。

7. 訴外会社は、同月二六日、同月三一日に手形の不渡りを出し、事実上、倒産した。

8. 被告は、前記約束に基づき、同月二六日に本件債権譲渡契約の各債務者に対して譲渡通知をした。

以上のとおり認められる。

三、ところで、本件訴えは、本件債権譲渡契約が詐害行為であるとして、その一部の取消しとそれに基づく弁済金の返済を求めるものであるので、まず、右債権譲渡の効力について判断する。

債権譲渡が詐害行為として取消しうるには、債務者に詐害の意思を要するが、本件のごとく、新たに金員を借入れるに際してその担保のために設定された譲渡担保権の実行として債権譲渡がされた場合には、債務者の一般財産の増減には影響がないのであるから、一般的には、詐害行為にならないものというべく、当該債権譲渡が詐害行為に当たるというためには、右債権譲渡が、債務者が債権者と通謀して、他の一般債権者を害する詐害の意思の下にしたなどの特別な場合に限られるというべきであって、右のごとき詐害の意思の有無は、右譲渡担保契約である債権譲渡契約締結の時を基準にすべく、譲渡通知の時を基準とすべきではないと解される。

そして、前示二の事実によると、本件債権譲渡は、昭和六〇年一〇月二一日における譲渡担保契約に基づくものであり、右契約締結時において、訴外会社は多額な債務超過の状態にあったことが認められるものの、訴外会社の代表者は、被告に対して右事実を秘して、訴外会社の運転資金として融資を受けようとしたものであること、被告は、訴外会社に対する継続的な取引を予定し、訴外会社所有の不動産に極度額金三億五〇〇〇万円の根抵当権を設定した上、本件債権譲渡契約を締結したこと、被告からの融資は、担保権を有していた金融機関への弁済及び訴外会社の運転資金に充てられたことが認められるのであり、右事実に照らすと、本件債権譲渡契約締結時において、訴外会社が被告と通謀して、他の一般債権者を害する意思の下に、被告のみに特別の取扱いをしたものとはいえず、本件全証拠によるも、他に被告の詐害の意思を認めるに足りる証拠はない。

四、以上の次第であって、原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、失当であるから、棄却し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 筧康生)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例