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東京地方裁判所 昭和62年(ワ)10598号 判決 1988年12月20日

原告 森仁秀

右訴訟代理人弁護士 中村護

同 関戸勉

同 藤田徹

被告 協栄給食センター株式会社

右代表者清算人 星昇吉

右訴訟代理人弁護士 横山由紘

被告 新日本興産株式会社

右代表者代表取締役 板垣常男

右訴訟代理人弁護士 堀博房

被告 横浜信用金庫

右代表者代表理事 竹本浩

右訴訟代理人弁護士 杉浦尚五

同 須々木永一

同 杉原光昭

主文

一  原告の被告らに対する請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

(主位的請求)

1 被告協栄給食センター株式会社(以下「被告給食センター」という。)は、別紙物件目録記載の一、二の各土地(以下二筆の土地を合わせ「本件土地」といい、各土地をそれぞれ「本件一の土地」、「本件二の土地」という。)につき横浜地方法務局溝口出張所昭和五六年一二月一二日受付第五六一一七号所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

2 被告新日本興産株式会社(以下「被告新日本興産」という。)は、本件土地につき横浜地方法務局溝口出張所昭和五七年五月一日受付第二〇一七九号所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

3 被告横浜信用金庫は、本件土地につき横浜地方法務局溝口出張所昭和五七年六月七日受付第二七五八四号所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

4 原告と被告新日本興産及び同横浜信用金庫との間において、原告が本件土地の所有権を有することを確認する。

5 訴訟費用は被告らの負担とする。

(予備的請求)

1 被告らは、各自、原告に対し、七億九一九五万円を支払え。

2 訴訟費用は被告らの負担とする。

3 仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

[被告給食センター]

1 原告の被告給食センターに対する請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

[被告新日本興産]

1 本案前の答弁

(一) 原告の被告新日本興産に対する主位的請求に係る訴えを却下する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

2 本案の答弁

(一) 原告の被告新日本興産に対する請求をいずれも棄却する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

[被告横浜信用金庫]

1 本案前の答弁

(一) 原告の被告横浜信用金庫に対する訴えをいずれも却下する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

2 本案の答弁

(一) 原告の被告横浜信用金庫に対する請求をいずれも棄却する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

(主位的請求)

一  請求原因

1(一) 原告は、本件土地をもと所有していた。

(二) 被告給食センターは、本件土地につき横浜地方法務局溝口出張所昭和五六年一二月一二日受付第五六一一七号をもってされた原告から被告給食センターへの所有権移転登記を有している。

(三) 被告新日本興産は、本件土地につき同法務局同出張所昭和五七年五月一日受付第二〇一七九号をもってされた被告給食センターから同新日本興産への所有権移転登記を有している。

(四) 被告横浜信用金庫は、本件土地につき同法務局同出張所昭和五七年六月七日受付第二七五八四号をもってされた被告新日本興産から同横浜信用金庫への所有権移転登記を有している。

2(一) 原告は、昭和五七年四月三〇日、被告新日本興産との間において、原告が同被告から二億〇四〇〇万円を期限の定めなく借り受けるとともに、その担保として本件土地及びその地上の建物五棟の所有権登記名義を被告給食センターから原告に戻したうえで、更に原告から被告新日本興産に移転するという内容の譲渡担保契約を締結し、右契約に基づいて直接本件土地につき横浜地方法務局溝口出張所昭和五七年五月一日受付第二〇一七九号をもって被告給食センターから同新日本興産への所有権移転登記がされた。

(二) 右譲渡担保契約における消費貸借契約の利率は民法所定の年五分であるから、昭和六三年一〇月末日現在の債務額が元利合計で二億七〇三〇万円である。

(三) 右譲渡担保契約の目的となった本件一の土地の現在の価格は六億六七九四万円、本件二の土地の現在の価格は三億五四九一万円、取り壊された建物の価格は三九四〇万円で、その合計は一〇億六二二五万円である。

(四) 被告新日本興産は右譲渡担保契約に基づく清算手続をしておらず、原告は(二)の債務を直ちに支払い、本件土地を受け戻す用意がある。

(五) 被告横浜信用金庫は、本件土地を取得する目的をもって被告新日本興産と共謀のうえ、原告に右譲渡担保契約を締結させたうえで、被告新日本興産から所有権移転登記を受けたものであるから、被告新日本興産と同一の立場にあり、原告は受戻しによる所有権の復帰をもって登記なくして被告横浜信用金庫に対抗し得る。

3 被告新日本興産及び同横浜信用金庫は、いずれも、原告が本件土地の所有権を有することを争っている。

4 よって、原告は、被告らに対し、本件土地の所有権又は受戻権の行使に基づき、右各所有権移転登記の抹消登記手続を求めるとともに、被告新日本興産及び同横浜信用金庫との間において、原告が本件土地について所有権を有していることの確認を求める。

二  請求原因に対する認否

[被告給食センター]

請求原因1の事実は認め、2の事実は否認する。

[被告横浜信用金庫、新日本興産]

請求原因1、3の事実は認め、2の事実は否認する。

三  抗弁

[被告横浜信用金庫]

1 前訴判決の既判力(本案前の申立ての理由を兼ねる。)

(一) 原告は、本件被告横浜信用金庫を被告として、本件土地につき真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続を求める訴えを提起したが、横浜地方裁判所は、原告の請求を棄却する判決を言い渡し、右判決は、控訴審、上告審においても維持されて確定した(横浜地方裁判所昭和五八年(ワ)第二六三二号土地所有権移転登記手続請求事件、以下「前訴」という。)。

(二) 本訴における原告の被告横浜信用金庫に対する本件土地の所有権移転登記の抹消登記手続請求は、前訴判決の既判力に抵触する。

(三) よって、本件は訴えの却下又は請求棄却の判決がされるべきである。

2 原告の訴訟上の信義則違反(本案前の申立ての理由を兼ねる。)

(一) 被告横浜信用金庫は、前訴において、原告が昭和五七年三月二七日、被告新日本興産に対し、本件土地及びその地上の建物五棟を代金二億〇四〇〇万円で売り渡し、本件土地の所有権を喪失したとの抗弁を提出したが、これに対して、原告は、右売買契約は錯誤により無効であるとの再抗弁を提出して争った。そこで、前訴においては、右売買契約の成否、効力が主要な争点となって双方が攻防を尽くした結果、被告の抗弁が認められ、原告の再抗弁が排斥されて、原告の請求が棄却されたのである。したがって、本訴は前訴の蒸し返しというほかなく、原告が本訴において右売買契約の成立を争い、本件土地につき所有権を有すると主張することは信義則に反し許されない。

(二) よって、本件は訴え却下又は請求棄却の判決がされるべきである。

3 原告の本件土地所有権喪失

原告は、昭和五七年三月二七日、被告新日本興産に対し、本件土地及びその地上の建物五棟を代金二億〇四〇〇万円で売り渡した(以下「本件売買契約)という。)。

[被告新日本興産]

1 前訴判決の既判力又は原告の訴訟上の信義則違反(本案前の申立ての理由を兼ねる。)

(一) 被告新日本興産は、前訴の第一審から被告横浜信用金庫の補助参加人として訴訟に参加した。

(二) 前訴の経過は、被告横浜信用金庫主張のとおりであり、被告新日本興産も補助参加人として原告と被告新日本興産との間の本件売買契約の成否、効力につき原告と攻防を尽くしたのであって、原告の被告新日本興産に対する本訴請求は前訴判決の既判力に抵触し、あるいは原告が本件土地につき所有権を有すると主張することは信義則に反し許されない。

(三) よって、本件訴え却下又は請求棄却の判決がされるべきである。

2 原告の本件土地所有権喪失

被告横浜信用金庫の抗弁3と同じ。

[被告給食センター]

被告横浜信用金庫の抗弁3と同じ。

四  抗弁に対する認否

[被告横浜信用金庫の抗弁に対し]

抗弁1、2は争い、同3の事実は否認する。

[被告新日本興産の抗弁に対し]

抗弁1は争い、同2の事実は否認する。

[被告給食センターの抗弁に対し]

否認する。

(予備的請求)

一  請求原因

1 主位的請求の請求原因2(一)記載のとおり、原告は、昭和五七年四月三〇日、被告新日本興産との間において、原告が同被告から二億〇四〇〇万円を期限の定めなく借り受けるとともに、その担保として本件土地及びその地上の建物五棟の所有権登記名義を被告給食センターから原告に戻したうえで、更に原告から被告新日本興産に移転するという内容の譲渡担保契約を締結した。

2 主位的請求の請求原因2(二)と同じ。

3 主位的請求の請求原因2(三)と同じ。

4 前訴判決の確定により原告の受戻権が失われて清算すべき時期が到来し、原告は被告新日本興産に対し右3の合計価格から右2の債務額を差し引いた七億九一九五万円の清算金請求権を有している。

5 被告横浜信用金庫は、本件土地を取得する目的をもって被告新日本興産と共謀のうえ、原告に右譲渡担保契約を締結させたうえで、被告新日本興産から所有権移転登記を受けたものであるから、原告と連帯して右清算金を支払う義務がある。

6 被告給食センターは、実体的権利の移転がないのに原告から同被告への本件土地の所有権移転登記を受けたのであるから、原告に対し真実の権利関係と一致させるために所有権移転登記をすべきところ、被告新日本興産及び被告横浜信用金庫と共謀して被告新日本興産への所有権移転登記をしたものであって、これは著しい債務不履行である。そして、原告は、被告給食センターの右債務不履行により右清算金相当の損害を被ったから、同被告はこれを賠償する義務がある。

7 よって、原告は、被告ら各自に対し、七億九一九五万円の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

[被告ら三名]

否認する。

三  抗弁(本案前の申立ての理由を兼ねる。)

[被告横浜信用金庫]

主位的請求の抗弁2(本案前の申立ての理由を兼ねる)記載のとおりの前訴の経過にかんがみると、原告が本訴において本件売買契約の成立を争い、譲渡担保契約を締結したものと主張することは信義則に反し許されない。

四  抗弁に対する認否

争う。

第三証拠《省略》

理由

第一主位的請求について

一  請求原因1に基づく請求について

(被告横浜信用金庫に対する請求)

1 抹消登記手続請求について

原告の右請求が前訴の既判力に抵触するとの被告横浜信用金庫の主張について判断する。

(一) 《証拠省略》によれば、以下の事実が認められ、他にこの認定に反する証拠はない。

(1) 原告は、本件被告横浜信用金庫を被告として、本件土地につき真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続を求める前訴を提起し、その請求原因として次のとおり主張した。

イ 原告は、本件土地を所有している。

ロ 本件土地につき、補助参加人新日本興産(本件被告)を権利者とする所有権移転登記がされ、右補助参加人から被告横浜信用金庫に対して所有権移転登記がされている。

(2) 被告横浜信用金庫及び前訴の補助参加人であった本件被告新日本興産は、請求原因事実を認め(原告が本件土地をもと所有していた事実については、一審の判決理由中において弁論の全趣旨により当事者間に争いがないものとされている。)、抗弁として、本訴における抗弁と同じく、被告新日本興産が原告との間で昭和五七年三月二七日に本件売買契約を締結したとの事実を主張し、これに対して原告は、売買契約書を作成した事実はあるが売買契約を締結してはいないとして抗弁を否認するとともに、再抗弁として、仮に売買契約書を作成した際に売買契約が成立したとしても、原告は金銭消費賃借契約の準備行為の趣旨で売買契約書を作成したものであって、その趣旨は売買契約書作成に当たり本件被告新日本興産に表示していたから、原告の意思表示は要素の錯誤により無効であるとの主張をして争ったところ、一審の横浜地方裁判所は被告らの抗弁を認め、原告の再抗弁を認めることはできないとして原告の請求を棄却する判決を言い渡し、右判決は控訴審(東京高等裁判所昭和六〇年(ネ)第三一六三号)、上告審(最高裁判所昭和六一年(オ)第一二一五号)においても維持されて確定した。

(二) そこで検討するに、抹消登記に代えて真正な登記名義の回復を求める登記請求権は所有権に基づく物権的請求権としての性質をもつと解されるから、前訴の訴訟物は本件土地所有権に基づく物権的請求権としての真正な登記名義の回復を原因とする移転登記請求権であるということができる。そして、本訴の請求原因1によれば本訴請求のうち被告横浜信用金庫に対して本件土地所有権に基づいて所有権移転登記の抹消登記手続を求める部分の訴訟物も、本件土地所有権に基づく物権的請求権としての抹消登記請求権である。すると、前訴と本訴のうちの右部分とは登記の種類を異にするとはいえ、その訴訟物は同一であると解することができる。したがって、原告が被告横浜信用金庫に対して本件土地所有権に基づく物権的請求権としての登記請求権を有しないとの前訴確定判決の判断には既判力が生じており、原告は、本訴においてこれに反する主張をして争うことは許されず、当裁判所もこれと矛盾抵触する判断をすることは許されないものといわざるを得ない。してみれば、本訴における原告の被告横浜信用金庫に対する本件土地所有権に基づく抹消登記手続請求については、かかる登記請求権が存在しないという右の既判力ある判断を前提として審判すべきこととなるから、原告主張の請求原因事実の存否にかかわらず、原告の請求は理由がないものと判断すべきことになる。

なお付言するに、物権変動の過程を如実に公示しないような物権的請求権としての登記請求権は本来是認し得ないという立場から、抹消登記請求と真正な登記名義の回復を原因とする移転登記請求とは訴訟物が異なるという見解も十分あり得るところ、右見解に従っても、本件では前訴と本訴はいずれも本件土地につき原告の登記を回復することを目的とするものであって、原告はそのための方法として、前訴では、原告から被告横浜信用金庫に至るまでの所有権移転登記をすべて抹消するという本来の方法に代えて、被告横浜信用金庫に対し直接真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続を求めたのであるから、原告が本訴において被告横浜信用金庫に対し前訴と全く同じ請求原因事実を主張して抹消登記手続を求めることは信義則に反し到底許されないものというべきである。したがって、請求原因事実の存否にかかわらず、その請求には理由がないものと判断すべきものと解されるのであって、前記登記請求権の性質についての理解の相違は本件の結論に影響を及ぼすものではない。

2 所有権確認請求について

原告の右請求が訴訟上の信義則に違反するとの被告横浜信用金庫の主張について判断する。

(一) 前記認定の前訴の経過についての事実によれば、前訴においては、本件売買契約が有効に成立したことによって原告が本件土地の所有権を喪失したか否かが専ら争点となって、当事者間においてその点につき攻防が尽くされ、その結果、本件売買契約が有効に成立し、原告は本件土地の所有権を喪失したと認定されたものと認められる。

(二) 原告が本件土地につき所有権を有しないという右の点についての前訴判決の理由中の判断内容には既判力が生じているわけではないが、以上のような前訴の経過にかんがみると、本訴において原告が本件土地につき所有権を有すると主張し、本件売買契約の成否を争うことは、実質的に前訴の蒸し返しとなることが明らかというべきである。また、原告は、前訴において真正な登記名義の回復を原因とする移転登記手続請求のほかに所有権の確認をも併せて請求することが可能ではあったが、その必要性を感じなかったため格別その請求をしなかったものと推測されるところ、本訴において所有権確認請求をも併せて提起したのは前訴判決の既判力に抵触することを免れようとしたものと明らかに窺われる。しかし、このような原告の行為は、訴訟上の信義則に照らし到底許されないものと解するのが相当であり、してみれば、原告が被告横浜信用金庫に対し本件土地の所有権を主張することが許されない結果として、原告の被告横浜信用金庫に対する本件土地の所有権確認請求については、その請求原因事実の存否を問うまでもなく、その請求は理由がないものと判断すべきである。

(被告新日本興産に対する請求)

1 抹消登記手続請求について

(一) 原告の右請求が前訴判決の既判力に抵触し又は訴訟上の信義則に違反するとの被告新日本興産の主張について判断する。

被告新日本興産が、前訴において被告横浜信用金庫の補助参加人として訴訟に参加し、本件売買契約が有効に成立したと主張して争ったことは先に認定したとおりであるが、民事訴訟法七〇条の定める補助参加人に対する判決の効力については、既判力ではなく、判決の確定後補助参加人が被参加人に対してその判決が不当でみると主張することを禁ずるいわゆる参加的効力であると解されるから(最判昭和四五年一〇月二二日民集二四巻一一号一五八三頁参照)、前訴において勝訴した補助参加人たる被告新日本興産と補助参加の相手方たる原告との間に前訴の判決の効力が及んでいるものと解することはできない。

(二) 請求原因事実は当事者間に争いがなく、抗弁2(原告の本件土地所有権喪失)について判断する。

《証拠省略》を総合すると、以下の事実を認めることができる。

被告新日本興産は、不動産の仲介、売買等を業としているものであり、昭和五六年ころ、被告横浜信用金庫から川崎市高津区内に支店建設用地の取得を依頼され、適地を探していた。その当時、原告は、本件土地に抵当権を設定するなどして訴外鄭漢佑(以下「鄭」という。)、同小林弘(以下「小林」という。)らから借り入れた多額の借入金の返済に窮していたところ、同年一一月二五日、鄭の申立てにより、横浜地方裁判所川崎支部において本件土地を含む原告所有の土地建物について競売開始決定がされ、競売手続が進行することになった。原告は、競売により所有土地建物を失うことを避けたいと考え、負債の整理のために第三者から融資を受けたり、本件土地を含む原告所有の物件を売却するなどといった事項の処理を不動産仲介業を営む訴外今田政憲(以下「今田」という。)に委任し、今田は、昭和五六年一二月ころから、本件土地を被告横浜信用金庫の支店用地の適地と考えていた被告新日本興産との間で交渉を行った。原告は、本件土地を売却することはできる限り避けたいと考え、当初は売買ではなく被告新日本興産に抵当権を設定して融資を受けることを希望したが、被告新日本興産はあくまでも被告横浜信用金庫の支店用地として本件土地を買い受けるという前提で原告や今田と交渉した。その結果、原告は、なお将来本件土地を買い戻したいとの意向を有してはいたものの、被告新日本興産に対し、分筆前の川崎市高津区千年岩ノ前六二〇番一の土地の内の三六六・八六平方メートル(分筆により本件一の土地となった部分)と本件二の土地を合わせた五六一・八七平方メートル(一七〇坪)の土地をその地上の建物五棟とともに代金二億〇四〇〇万円で売り渡すことにした。また、原告の鄭ら債権者に支払うべき債務の総額が合計二億七〇〇〇万円になり、右売買代金をもってしてもその返済資金に不足するところから、被告新日本興産が原告に六六〇〇万円を貸し付け、分筆前の六二〇番一の土地のその余の部分と同所六二〇番三の宅地一三〇・一〇平方メートル及び建物一棟を目的として右債務の不履行を停止条件とする代物弁済契約を締結することになった。そこで、昭和五七年三月二七日、原告、被告新日本興産代表者板垣常男、今田及び鄭が被告新日本興産の事務所に参集して、原告と被告新日本興産との間でその旨の売買契約書を作成して本件売買契約を締結するとともに、六六〇〇万円の金銭消費賃借契約を締結し、右売買代金と貸付金の合計二億七〇〇〇万円の授受については、同月三〇日に原告及び原告に対する債権者らが被告新日本興産の事務所に参会して、被告新日本興産から原告の債権者に直接支払い、支払を受けた鄭が競売の申立てを取り下げる旨の合意がされた。

原告は、他方において、本件土地の所有権を失うことをできる限り避けたいと考え、訴外山田弁護士に依頼して鄭を相手方として民事調停の申立てをしたうえ、競売手続停止の申立てをしていたところ、売買代金の授受が予定されていた三月三〇日以前に競売手続停止決定が得られたため、三月三〇日には右金員の授受は実行されなかった。

しかしその後、鄭との調停が不調に終わり再び競売手続が進行することとなったため、原告と被告新日本興産との間で前記のとおり成立した売買契約及び金銭消費賃借契約の履行として二億七〇〇〇万円の授受を行うことになり、同年四月三〇日、原告、被告新日本興産代表者板垣、今田、鄭、被告給食センター代表者、被告給食センターの代理人と称していた訴外平田久男が被告新日本興産の事務所に参会して、被告新日本興産から原告に対する売買代金及び貸付金として合計二億七〇〇〇万円が原告の債務の支払として原告の債権者である鄭、小林、被告給食センターに交付された(小林については鄭が代理人として受領した。)。

以上のとおり認められ(る。)《証拠判断省略》

以上のとおりであるから、被告新日本興産の抗弁は理由があり、原告は本件土地の売買契約により本件土地所有権を喪失したものということができる。

2 所有権確認請求について

右認定、判断のとおり、原告は本件土地の売買契約により本件土地所有権を喪失したものであるから、原告の所有権確認請求は理由がない。

(被告給食センターに対する請求)

請求原因事実は当事者間に争いがないが、前記認定、判断のとおり、原告は本件売買契約により本件土地所有権を喪失したものであるから、被告給食センターの抗弁(原告の本件土地所有権喪失)は理由があり、原告の被告給食センターに対する抹消登記手続請求も理由がない。

二  請求原因2に基づく請求について

原告の請求原因2(譲渡担保契約の成立を前提とする受戻権の行使)については、原告と被告新日本興産との間で本件売買契約が締結されたことは既に認定したとおりであり、原告主張の譲渡担保契約が締結されたことを認めるに足りる証拠はないから、その余の検討を進めるまでもなく原告の各被告に対する請求はすべて理由がないことが明らかである。

第二予備的請求について

原告の予備的請求は、既に認定、判断したところから理由のないことが明らかである。

第三結語

以上の次第で、原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとして、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 原田和德 裁判官 藤村啓 峯俊之)

<以下省略>

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