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東京地方裁判所 昭和61年(行ウ)24号 判決 1989年3月29日

東京都墨田区東駒形四丁目一五番三号

原告

下田機工株式会社

右代表者代表取締役

下田秀正

右訴訟代理人弁護士

葭葉昌司

横溝高至

東京都墨田区業平一丁目七番二号

被告

本所税務署長

奥村和也

右指定代理人

堀内明

石黒邦夫

茂木昇

島田明

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告が昭和五七年一二月二一日付けで原告の昭和五二年六月一日から昭和五三年五月三一日までの事業年度(以下「五三年五月期」という。)の法人税についてした更正並びに過少申告加算税及び重加算税の賦課決定(ただし、いずれも審査裁決により一部取り消された後のもの)のうち所得金額を六四二二万二〇三四円として計算した額を超える部分を取り消す。

2  被告が前同日付けで原告の昭和五三年六月一日から昭和五四年五月三一日までの事業年度(以下「五四年五月期」という。)の法人税についてした更正及び重加算税の賦課決定(ただし、いずれも審査裁決により一部取り消された後のもの)のうち所得金額を三五三一万二一七一円として計算した額を超える部分を取り消す。

3  被告が前同日付けで原告の昭和五四年六月一日から昭和五五年五月三一日までの事業年度(以下「五五年五月期」という。)の法人税についてした更正並びに過少申告加算税及び重加算税の賦課決定(ただし、いずれも審査裁決により一部取り消された後のもの)のうち所得金額を六四九六万三〇八五円として計算した額を超える部分を取り消す。

4  被告が前同日付けで原告の昭和五五年六月一日から昭和五六年五月三一日までの事業年度(以下「五六年五月期」という。)の法人税についてした更正及び重加算税の賦課決定(ただし、いずれも審査裁決により一部取り消された後のもの)のうち所得金額を三七〇四万七五一九円として計算した額を超える部分を取り消す。

5  被告が前同日付けで原告の昭和五六年六月一日から昭和五七年五月三一日までの事業年度(以下「五七年五月期」という。)の法人税についてした更正並びに過少申告加算税及び重加算税の賦課決定(ただし、いずれも審査裁決により一部取り消された後のもの)のうち所得金額を二六九六万五五一一円として計算した額を超える部分を取り消す。

6  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  被告は、原告の五三年ないし五七年各五月期(以下「本件各事業年度」という。)の法人税について、それぞれ別表一ないし五の各「(再)更正・賦課決定」の項記載のとおり更正並びに過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定をした。

2  原告は、別表一ないし五記載のとおり右各更正及び賦課決定に対し不服を申し立てたところ、同各表記載のとおりいずれも異議申立てについては棄却決定があり、審査請求については一部取消しの裁決があつた。

3  しかし、右審査裁決により取り消された後の右各更正及び賦課決定(以下、併せて「本件各更正」又は「本件各賦課決定」という。)のうち、請求の趣旨1ないし5記載の各所得金額を基に計算した額を超える部分は、いずれも原告の本件各事業年度の所得金額を過大に認定したことに基づくものであるから違法である。

よつて、原告は、本件各更正及び本件各賦課決定の取消を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1、2の事実は認める。

2  同3の主張は争う。

三  被告の主張

1  本件の課税処分等の経緯は別表一ないし五記載のとおりである。

2  本件各更正の根拠及び適法性

(一) 本件各事業年度における原告の所得金額及びその算出根拠はそれぞれ別表六ないし一〇の各A欄記載のとおりであるところ、本件各更正に係る原告の所得金額はそれぞれ右の本件各事業年度における原告の所得金額の範囲内であるから、本件各更正はいずれも適法である。

(二) 架空給与の否認

別表六ないし一〇の加算項目のうち、同各表の区分欄2の架空給与の否認の項目に係る否認の根拠は次のとおりである。

(1) 原告は、高原透(以下「高原」という。)及び鈴木修(以下「鈴木」という。)に対しては五三年五月期ないし五五年五月期において、吉岡秀之(以下「吉岡」といい、高原、鈴木の両名と合わせて「高原ら」ともいう。)に対しては五五年五月期ないし五七年五月期において、別表一一記載のとおりそれぞれ使用人給与を支払つたとしてその額を損金に算入して本件各事業年度の申告をした。

(2) しかし、高原らが原告の従業員としてその職務を行つていた事実はない。すなわち、高原は、昭和五二年ないし五五年当時千葉県松戸市に居住して演歌師を業としており、昭和五四年一二月ころには同人の妻高原芙美子が経営する同市内の生花店の仕事に専ら従事していたものであり、鈴木は、昭和五二年ないし五五年当時東京都葛飾区東金町において飲食店「凡智」を経営し専ら右飲食店業に従事していたものであり、吉岡は、昭和五四年ないし五六年当時同町において飲食店「窓」を経営し専ら右飲食店業に従事していたものであつて、いずれも原告の事務所に出勤したことはない。また、高原らは原告の営業部の所属とされていたが、部長以下の営業部員について通常作成されている営業活動についての営業日報による報告書も高原らについては作成されていなかつた。なお、高原及び鈴木は、昭和五三年及び昭和五四年の原告の賃金台帳の職名欄に営業部長と記載されていたが、その実体は全くなく、原告の役員及び使用人においても高原らが原告の営業部長であるという認識はなかつた。

(3) 原告の賃金台帳には高原らに対して給与が支給されていた旨記載されており、また、高原らについては社会保険(健康保険、厚生年金保険及び雇用保険等)の加入手続もされていたが、これは、原告代表者下田秀正が、原告が自己の同族会社(当時の資本金は三〇〇万円で、発行済み株式総数六〇〇〇株のうち三五〇〇株を同人が保有していた。)であることを利用して自己の個人的費用に充てる資金を捻出するため、原告の取締役経理部長であつた西村(以下「西村」という。)に命じ、高原らがあたかも原告の従業員であるかのように仮装するために行つていたものである。

(4) したがつて、別表一一記載の高原らに関する給与計上額は損金とは認められず、それぞれ本件各事業年度の所得金額に加算すべきである。

(三) 架空役員報酬の否認

別表九の加算項目のうち、同表の区分欄3の架空役員報酬の否認の項目に係る否認の根拠は次のとおりである。

(1) 原告は、五六年五月期において、西村に対し、昭和五五年六月分及び七月分の役員報酬として三〇〇万円を支給したとする会計処理を行い、右金額を損金に算入して五六年五月期の申告をした。

(2) しかし、西村は、昭和五五年五月ころまでには仮払金の未清算分の調査結果等を原因として原告代表者の信頼を失い、実質的に退職を余儀なくされており、同年六、七月中は全く原告の業務に従事していなかつたのであるから、同年六、七月分の西村の原告に対する取締役としての報酬請求権ないし経理部長としての賃金支払請求権は発生しておらず、右の三〇〇万円の役員報酬は架空のものというほかはない。

(3) したがつて、右三〇〇万円は本来全額損金算入を否認されるべきであるが、本訴ではそのうち五六年五月期の更正において損金算入を認めた一二二万四二二四円を超える一七七万五七七六円の限度で損金算入を否認し、原告の所得に加算すべきであることを主張する。

3  本件各賦課決定の適法性

別表六ないし一〇のとおり、原告は、本件各事業年度の法人税の申告において架空の給与ないし報酬等を計上して損金に算入していたものであり、これは原告が、国税通則法六五条一項の規定に該当する場合において、課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実を隠蔽し、又は仮装して、その隠蔽、仮装したところに基づいて本件各事業年度に係る法人税の納税申告書を提出したことにほかならないところ、本件各事業年度の法人税に係る重加算税の対象所得金額は別表六ないし一〇の各B欄記載のとおりであり、右金額は、いずれの年度においても別表一二の本件各賦課決定における重加算税及び過少申告加算税の対象所得金額の合計額(増差所得金額)を上回るものであるから、本件各賦課決定は適法である。

四  被告の主張に対する認否

1  被告の主張1の事実は認める。

2  同2の(一)のうち、別表六の区分欄1、3ないし10及び12、別表七の区分欄1、3ないし10、12及び13、別表八の区分欄1、3ないし14、16及び17、別表九の区分欄1、4ないし12、14及び15、別表一〇の区分欄1、3ないし10及び12ないし14の各項目は認め、その余は争う。

同(二)の(1)の事実は認める。同(2)のうち、高原らが被告主張の職業にそれぞれ従事していたこと、高原らについては営業日報による報告書が作成されていなかつたこと、昭和五三年及び昭和五四年の原告の賃金台帳に高原及び鈴木が営業部長と記載されていたことは認め、その余の事実は否認する。高原は、妻の経営していた花屋については多少手伝つたことがある程度である。また、原告の役員及び使用人はすべて高原及び鈴木を営業部長として扱つていた。同(3)のうち、原告の賃金台帳には高原らに対して給与が支給されていた旨記載されていること、高原らについて社会保険の加入手続きがされていること、西村が原告の取締役経理部長であつたことは認め、その余の事実は否認する。同(4)は争う。

同(三)の(1)の事実は認める。同(2)及び(3)は争う。

3  同3のうち、本件各賦課決定における重加算税及び過少申告加算税の対象所得金額の合計額(増差所得金額)が別表一二記載のとおりであることは認め、高原らに対する給与及び西村に対する報酬の計上が事実を隠蔽、仮装したものであることは否認する。

五  原告の反論

1  高原らに対する給与について

(一) 原告は、毎月高原らに対する給与支給額として計上した額の一割程度を主に西村を通じて高原らに渡していたほか、これを含め、合計で少なくとも別表一三記載の額の金員を現実に高原らに支払つていたから、右金員は損金に算入されるべきである。

(二) 原告の営業内容は、グリーストラップ(粗集器と呼ばれるもので、厨房関係で用いられる浄化槽の一種である。)の加工及び販売を主としているため、建築関係業者、ホテル、飲食店等が取引先となつているところ、高原らは、他に仕事を持ちつつも、原告のために宣伝活動、顧客の紹介等を行つて働いていたのであり、その業務の性質上、常時事務所に出勤する必要がなかつたのである。

(三) 高原らに対して支払つた金員が仮に給与とはいえないとしても、同人らは現実に原告のために取引先の紹介等を行つていたのであるから、その報酬あるいは斡旋手数料として損金に算入されるべきである。

(四) 被告は、本件各更正においては、高原らについて別表十四記載の額の損金算入は認めていたのであり、これは、少なくとも高原らが原告のために仕事に従事していたことを認めていたにほかならないから、本訴において、改めて右の損金算入を否認することは許されるべきでない。

(五) 原告は、五三年五月期の法人税について、被告の調査を受け、その指導に基づいて修正申告をしたものであるところ、被告の係官は、高原及び鈴木に対する給与の支払いについては、同人らが毎日出勤するという勤務形態ではなかつたにもかかわらず、原告の製造販売にかかるグリーストラップが全く新しい分野の製品であり、広く宣伝活動をする必要があるとの原告代表者の説明を認め、これを認容した。しかるに、本件各更正はその後に至つてこれを覆したもので、信義則に違反し、違法である。

2  西村に対する役員報酬について

原告と西村との間においては同人の役員報酬を昭和五五年三月から月額一五〇万円とする旨の契約があり、同人が辞任した同年七月三一日までの間は、同人の稼働の有無にかかわらず原告は報酬支払義務を負つていたのであるから、同年六、七月分の役員報酬として三〇〇万円を損金に算入することは適法であるところ、本訴においては、二三二万四七〇四円の限度で損金算入を主張する。

六  原告の反論に対する認否

1  原告の反論1の(一)のうち、原告が高原らに対する給与支給額として毎月計上していた額の一割程度を主に西村を通じて高原らに渡していたことは認め、その余の金員の支払については否認する。右の高原らに対して支払われていた金員は、協力金ないし名義借上料であり、同人らに関して納付されていた社会保険料、税金と同様に、原告代表者が自己の個人的資金を捻出する目的で給与の支払を仮装するために支払われていたものであるから、原告の費用とはいえず、原告代表者が架空計上された給与額全部を取得し、その中から支払われたものというべきである。

同(二)のうち、原告の営業内容は、トラップの加工及び販売を主としているため、建築関係業者、ホテル、飲食店等が取引先となつていることは認め、その余の事実は否認する。原告の主張によつたとしても高原らは非常勤であり、常勤の者に比べて給与は低額であるのが通例であるのに高原らに対する給与は逆に格段に高額であり、極めて不自然である。

同(三)は争う。

同(四)のうち、被告が本件更正において高原らについて別表一四記載の額を損金に算入していることは認め、その余は争う。訴訟において更正の内容と異なる主張をすることは何ら差し支えない。

同(五)は争う。なお、仮に昭和五三年四月期の修正申告が被告の指導に基づくものであつたとしても、その後の調査により判明した事情に基づいて更正することは当然許されることである。

2  原告の反論2は争う。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の各記載を引用する。

理由

一  請求原因1、2及び被告の主張1の各事実、並びに同2の(一)の被告主張の原告の所得金額の計算項目のうち別表六の区分欄の1、3ないし10及び12、別表七の区分欄1、3ないし10、12及び13、別表八の区分欄1、3ないし14、16及び17、別表九の区分欄1、4ないし12、14及び15、別表一〇の1、3ないし10及び12ないし14の各項目(別表六ないし一〇の区分欄の各項目のうち番号に○印が付してあるもの)は、いずれも当事者間に争いがない。

二  高原らに対する給与について

1  本件各事業年度において、原告が別表一一記載のとおり高原らに対し使用人給与を支払つたとしてその額を損金に算入して申告したことは当事者間に争いがない。

2  高原が昭和五二年ないし五五年当時千葉県松戸市に居住して演歌師を業としており、昭和五四年一二月ころには同人の妻高原芙美子が経営する同市内の生花店の仕事に従事していたこと、鈴木が、昭和五二年ないし五五年当時東京都葛飾区東金町において飲食店「凡智」を経営し右飲食店業に従事していたこと、吉岡が、昭和五四年ないし五六年当時同町において飲食店「窓」を経営し右飲食店業に従事していたこと、高原らについて営業日報による報告書が作成されていなかつたこと、原告の賃金台帳には高原らに対して給与が支給されていた旨記載されており、社会保険の加入手続もされていたこと、昭和五三年及び昭和五四年の原告の賃金台帳に高原及び鈴木が営業部長と記載されていたこと、西村が原告の取締役経理部長であつたこと、高原らが主に西村を通じて毎月同人らの給与として原告の賃金台帳に計上された額の一割程度の金額を受領していたことはいずれも当事者間に争いがなく、右事実に原本の存在及び成立に争いがない甲第一ないし第五号証の各一ないし三、証人西村の証言及び官公署作成部分については成立に争いがなく、その余の部分については同証言により成立が認められる乙第二号証の一、同証言により原本の存在及び成立が認められる乙第二号証の五の一、二並びに弁論の全趣旨を総合すれば、高原らは、右に述べた各時期においてそれぞれ右に述べた職業に専ら従事していたものであるところ、原告代表者は、鈴木の経営する「凡智」や吉岡の経営する「窓」の顧客として、また、右の店等に演歌師として出入りしていた高原の馴染み客として、高原らと知己となつたものであること、原告代表者は、同人の個人的費用に当てる資金を捻出するために、高原らから原告の従業員として名義を借りることの了承を得た上、原告の取締役経理部長であつた西村に高原らを原告の従業員であるかのように仮装することを命じたこと、西村は、原告代表者の指示に基づいて、高原らについて、社会保険に加入する手続きをした上で、それぞれ本件各事業年度の間、原告の賃金台帳に、所属を営業部、役職を、高原については昭和五二年は営業第一課長、昭和五三年及び昭和五四年は営業部長、鈴木についても、昭和五三年及び昭和五四年は営業部長などとして登載し、毎月原告代表者の指示する金額を高原らに使用人給与として支給したこととして、右金額に応じた源泉所得税、住民税、社会保険料を控除した額を支払つた旨の記載をしていたこと、西村は、原告代表者の指示により、毎月高原らに、右賃金台帳に計上した源泉所得税等控除前の給与支給額の概ね一割に当たる金額を名義借りの対価として届け、源泉所得税等控除後の支払い額から右対価の額を差し引いた残額を毎月原告代表者に渡していたこと、高原らは、現実には、原告の事務所に執務のための出勤したことや営業担当の従業員が提出すべき営業日報による報告書を作成提出したことがなく、その他にも、原告の従業員として稼働した事実は存在しないことが認められる。

これに対し、原告は、高原らは他に仕事を持ちながら原告のために宣伝活動、顧客の紹介等を行つて働いていたのであり、その業務の性質上常時事務所に出勤する必要がなかつたものであると主張し、証人高原透の証言及びこれにより成立が認められる甲第六号証、証人鈴木修の証言及びこれにより成立が認められる甲第七号証並びに原告代表者尋問の結果及びこれにより成立が認められる甲第八号証中には原告の右主張に沿う部分がある。しかし、高原らが原告のために稼働していたとする期間はいずれも二、三年間にわたつているにもかかわらず、右各証言によれば、高原及び鈴木の原告の取扱商品に対する知識は販売担当の社員としてははなはだ貧弱なものであることが認められ、しかも、高原らの活躍により成約に至つた取引は、原告代表者の供述によつても一件あつたと思うという程度でその内容にも具体性がない。また、高原らに対する給与の額も、原告は、少なくとも別表一三記載の金額を支払つたと主張しているが、高原らの活動による成果が右に述べたような程度であり、しかも、同人らが他に職業を有していて、原告の主張によつても、原告の従業員としては非常勤であることからすると、右金額をもつてしてもなお格段に高額で極めて不自然であるといわざるを得ない。さらに、右各証言及び原告代表者の供述中には、別表一三記載の金額のうち、高原らが西村を介して毎月定期的に受領していた金額を除くその余の金額については、高原が自動車を購入するに際して二〇〇万円、吉岡が秋田犬を購入する際に五〇〇万円などという形で原告代表者が随時支給していたとする部分もあるが、仮にそのような金員の交付があつたとしても、給与というにはその支給形態があまりにも不自然といわざるを得ず、また、原告の取扱商品の販売に関する高原らのなんらかの実績を機縁に交付されたものと認めるべき証拠もない。

以上によれば、前掲各証拠中原告の主張に沿う部分は、いずれも措信することはできず、前記認定を左右するものではない。

3  なお、原告は、高原らに対して支払つた金員が仮に給与とはいえないとしても、高原らは原告のために取引先の紹介等を行つていたのであるから、少なくとも報酬あるいは斡旋料とみるべきものであると主張している。しかし、右に判示したところによれば、仮に高原らが自己の業務を通じてその顧客に対し、折りに触れて原告やその商品を宣伝し、あるいは紹介することがあつたとしても、それは原告代表者に対する交誼に基づくものにすぎないものとみるのが相当であり、対価性のある行為ということはできない。

4  また、被告が、本件各更正において、高原らについて別表一四記載の額の損金算入を認めていたことは当事者間に争いがないところ、原告は、更正で認めていた損金算入を改めて本訴で否認することは許されない旨主張するが、更正処分の取消訴訟において、更正の内容と異なる主張をすることは差し支えないと解すべきであるから、原告の右主張は失当である。

5  さらに、原告は、昭和五三年五月期の申告における調査において、被告係官は、高原らについての給与計上額を損金に算入することを認容したにもかかわらず、その後に至つてこれを覆すのは信義則に違反すると主張している。右の「認容」の趣旨は定かではないが、被告係官が高原らの給与の損金算入に関しては将来更正しないことを約束したとの趣旨であれば、そのような事実についてはこれを認むべき証拠が全くない。また、原告代表者尋問の結果によれば、被告係官は、右調査の際、高原らについての給与計上額を損金に算入して申告することについては格別指導の対象とはしなかつたことが認められるが、同尋問の結果によれば、被告係官は、当時、勤務形態は異例だが給与に見合う稼働はしているとの原告代表者の説明を一応信用したために、右2に認定したような高原らの勤務実態を必ずしも正確に把握しないで、指導の対象にしなかつたにすぎないことが認められるから、その後の調査により判明した事情に基づいて被告が更正することは何ら信義則に違反するものではない。

6  以上によれば、原告が高原らに対する給与として計上した額は、全部損金算入を否認して当該年度の原告の所得に加算すべきである。

三  西村に対する役員報酬について

1  西村が原告の取締役経理部長であつたこと、原告が五六年五月期において、西村に対し、昭和五五年六月分及び七月分の役員報酬として三〇〇万円を支給したとする会計処理を行い、右金額を損金に算入して五六年五月期の申告をしたことは当事者間に争いがない。

2  官公署作成部分については成立に争いがなく、その余の部分については弁論の全趣旨により成立が認められる甲第一六号証、原本の存在及び成立に争いがない乙第二号証の二の二、同号証の二の三の一ないし三、原告代表者尋問の結果及びこれにより成立が認められる甲第一〇号証の一、二、証人西村の証言及びこれにより原本の存在と成立が認められる乙第二号証の二の一に証人中川孝三の証言を総合すれば、西村は都税事務に従事していた経歴を持ち、昭和四九年の原告への入社後も原告の経理事務を担当してきたところ、仮払金の未清算分の処理等をめぐつて原告代表者の信頼を失い、昭和五五年四月二〇日ころには既に実質的に退職を余儀なくされており、原告の内部手続き上の退職日は同年七月三一日とされ、雇用保険の関係での離職日は同月二一日と届け出られているものの、同年六、七月には既に全く原告の業務に従事しておらず、従事することが予定されてもいなかつたことが認められる。しかして、取締役としての地位は会社との委任契約に基づくものであり、経理部長としての地位は雇用契約に基づくものであつて、いずれにしても具体的な報酬請求権の発生には、特段の合意がない限り、当該委任事務の遂行ないし労務の提供が必要であり、仮に非常勤の取締役のような場合を想定するとしても少なくとも有事の際には現実に委任事務を遂行することが予定されていなければならないものであるところ、右認定事実によれば、西村は、同年六、七月には全く原告の業務に従事しておらず、従事することが予定されてもいなかつたのであるから、原告に対して右各月分については、取締役としての報酬請求権も、経理部長としての賃金請求権も有しなかつたというべきである。

3  これに対し、原告は、西村が同年六、七月には稼働していなかつたとしても、原告は西村との間で同人の役員報酬を昭和五五年三月から一か月一五〇万円とする旨を合意していたのであるから、正式な退職日までは報酬支払義務が発生したと主張する。しかし、前掲甲第一六号証、原本の存在及び成立に争いがない乙第二号証の四の一、証人西村の証言によれば、右の合意の存在は認められるものの、これは、単に、西村の委任事務の遂行ないし労務の提供があつた場合に支払われるべき報酬額を定めた合意にすぎないものであることが認められ、西村が事実上退職し、全く稼働することが予定されない状態になつたときにまで当該額の報酬を支払う趣旨のものと認めるべき証拠はないから、原告の右主張は採用することができない。

もつとも、前掲乙第二号証の二の一、成立に争いがない乙第三号証の一、原本の存在及び成立に争いがない乙第三号証の三に証人西村、同中川孝三の各証言及び原告代表者尋問の結果を総合すれば、西村の報酬は昭和五五年三月分から一応月額一五〇万円とされていたところ、同年八月六日、原告と西村との間で、同年四月分から同年七月三一日までの同人の給料及び退職金と貸付金(同人に対する仮払いの精算金)とを相殺する旨の合意がされ、原告は、五六年五月期において、昭和五五年九月三〇日付けで西村の退職金(手取)七〇五万三七五〇円を、また、同年七月一一日付け及び同月二五日付けで同年六月分及び七月分の役員報酬各一五〇万円の内金各四九万八一四〇円(以上合計八〇五万〇〇三〇円)を、それぞれ西村に対する貸付金の返済に充当処理し、貸付金残高九三一万五六六五円は、五七年五月期において貸倒損失として計上したことが認められる。しかし、同年六、七月には西村は既に全く稼働しておらず、報酬の支払などは考えられない状況にあつたことは右に認定したとおりであり、右事実に前掲証拠を総合すれば、右の給料等との相殺の合意は、少なくとも同年六月分及び七月分に関する限り、西村に対する報酬の支払として行われたものではなく、もつぱら原告の経理上の便宜による名目上のものにすぎないと認められ、右認定を覆すに足りる証拠はないから、右の西村との相殺の合意によつて、原告の西村に対する昭和五五年六月分及び七月分の報酬ないし給与の支払義務が生じたものと認めることはできない。

4  したがつて、西村の原告に対する同年六月分及び七月分の報酬として計上された三〇〇万円は損金に算入することができず、少なくとも被告が損金算入を否認する一七七万五七七六円は五六年五月期の原告の所得に加算すべきである。

四  本件各更正の適法性

以上に基づき、本件各事業年度の原告の所得金額を算出すると、別表六ないし一〇のA欄の所得金額の項目の金額のとおりとなり、本件各更正に係る所得金額はいずれもその範囲内であるから本件各更正は適法である。

五  本件各賦課決定の適法性

原告が本件各事業年度の法人税の申告に当たり高原ら及び西村について架空の給与ないし報酬を計上して所得を過少に申告したものであることは右二、三に判示したとおりであるから、原告は右の計上額について課税標準等の計算の基礎となるべき事実を隠蔽、仮装し、これに基づいて申告したというべきであるところ、別表六ないし一〇記載の所得金額の計算項目のうち右一において当事者間に争いがない事実として判示した項目に係る重加算税の対象所得金額についての隠蔽仮装の要件に関しては原告は明らかに争わないものと認められるので、隠蔽、仮装により過少に申告された所得金額の合計は別表六ないし一〇の各B欄記載の金額となる。

ところで、本件各賦課決定における重加算税及び過少申告加算税の対象所得金額の合計が別表一二記載のとおりであることは当事者間に争いがなく、右金額は、いずれの年度においても別表六ないし一〇の各B欄記載の金額の範囲内であるから、本件各賦課決定は適法である。

六  以上によれば、原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法七条、民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 鈴木康之 裁判官 石原直樹 裁判官 佐藤道明)

別表一

昭和五三年五月期(昭和五二年六月一日から昭和五三年五月三一日までの事業年度)

(金額 単位円)

<省略>

別表二

昭和五四年五月期(昭和五三年六月一日から昭和五四年五月三一日までの事業年度)

(金額 単位円)

<省略>

別表三

昭和五五年五月期(昭和五四年六月一日から昭和五五年五月三一日までの事業年度)

(金額 単位円)

<省略>

別表四

昭和五六年五月期(昭和五五年六月一日から昭和五六年五月三一日までの事業年度)

(金額 単位円)

<省略>

別表五

昭和五七年五月期(昭和五六年六月一日から昭和五七年五月三一日までの事業年度)

(金額 単位円)

<省略>

別表六

昭和五三年五月期

(金額単位 円)

<省略>

別表七

昭和五四年五月期

(金額単位 円)

<省略>

別表八

昭和五五年五月期

(金額単位 円)

<省略>

別表九

昭和五六年五月期

(金額単位 円)

<省略>

別表一〇

昭和五六年五月期

(金額単位 円)

<省略>

別表一一

高原透、鈴木修及び吉岡秀之に係る架空給与の否認の明細表

<省略>

別表一二

本件各更正処分(ただし、裁決後の金額)による増差所得金額

(金額単位 円)

<省略>

別紙一三

高原透、鈴木修及び吉岡秀之に対する原告の主張の現実の支払額

<省略>

別紙一四

本件更正における高原透、鈴木修及び吉岡秀之に関する損金算入の認容額

<省略>

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