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東京地方裁判所 昭和61年(行ウ)20号 判決 1990年5月17日

第一、第二事件原告

ネッスル株式会社

右代表者代表取締役

エッチ・ジェイ・シニガー

右訴訟代理人弁護士

青山周

第一、第二事件被告

中央労働委員会

右代表者会長

石川吉右衞門

右指定代理人

渡部吉隆

品田修平

笹川康二

藤村誠

第一、第二事件被告補助参加人

ネッスル日本労働組合

右代表者本部執行委員長

斉藤勝一

第一事件被告補助参加人

ネッスル日本労働組合東京支部

右代表者執行委員長

植野修

第二事件被告補助参加人

ネッスル日本労働組合島田支部

右代表者執行委員長

吉野晴男

右三名訴訟代理人弁護士

岡村親宣

古川景一

山田裕祥

右第一、第二事件被告補助参加人及び第二事件被告補助参加人訴訟代理人弁護士

佐藤久

伊藤博史

杉山繁二郎

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は、参加によって生じたものを含めて原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

(第一事件)

一  請求の趣旨

1 被告が、原告を再審査申立人、被告補助参加人ネッスル日本労働組合及び被告補助参加人ネッスル日本労働組合東京支部を再審査被申立人とする中労委昭和五九年(不再)第四二号事件、並びに、被告補助参加人ネッスル日本労働組合及び被告補助参加人ネッスル日本労働組合東京支部を再審査申立人、原告を再審査被申立人とする中労委昭和五九年(不再)第四三号事件について、昭和六〇年一二月一八日付けをもってした命令中、主文第一項ないし第三項及び主文第四項のうち原告の再審査申立を棄却した部分を取り消す。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

(第二事件)

一  請求の趣旨

1 被告が、原告を再審査申立人、被告補助参加人ネッスル日本労働組合及び被告補助参加人ネッスル日本労働組合島田支部を再審査被申立人とする中労委昭和六〇年(不再)第一六号及び第一七号事件、並びに、被告補助参加人ネッスル日本労働組合及び被告補助参加人ネッスル日本労働組合島田支部を再審査申立人、原告を再審査被申立人とする中労委昭和六〇年(不再)第一八号事件について、昭和六一年六月一八日付けをもってした命令中、主文第一項ないし第三項及び主文第四項のうち原告の再審査申立を棄却した部分を取り消す。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

(第一事件)

一  請求原因

1 救済命令の存在

(一) 被告補助参加人ネッスル日本労働組合(以下「補助参加人組合」という。)及び被告補助参加人ネッスル日本労働組合東京支部(以下「補助参加人組合東京支部」という。)は、東京都地方労働委員会(以下「都労委」という。)に対し、原告及び原告の東京販売事務所(以下「東京事務所」という。)を被申立人として、<1>東京事務所が、補助参加人組合及び補助参加人組合東京支部から昭和五八年五月一二日付けでされた団体交渉開催の申入れを正当な理由なく拒絶したこと、及び、<2>原告が、昭和五八年一月以降、補助参加人組合東京支部所属の組合員の給与から組合費をチェックオフしていることが、それぞれ不当労働行為に該当するとして、救済を申し立てた(都労委昭和五八年(不)第五六号及び第六六号事件)ところ、都労委は、昭和五九年七月三日付けをもって、別紙一記載の主文のとおり、救済申立の一部を認容する初審命令を発した。

(二) 原告並びに補助参加人組合及び補助参加人組合東京支部は、いずれも右都労委の初審命令を不服として、それぞれ被告に対して再審査を申し立てた(中労委昭和五九年(不再)第四二号、第四三号事件)ところ、被告は、昭和六〇年一二月一八日付けをもって、別紙二記載の主文のとおり、原告の再審査申立を棄却し、補助参加人組合及び補助参加人組合東京支部の再審査申立の一部を容れて都労委の初審命令の救済内容の一部を変更する命令(以下「本件第一命令」という。)を発し、その命令書は、昭和六一年一月二四日、原告に交付された。

2 本件第一命令の違法

被告は、(一)原告は、昭和五八年五月一二日付けで補助参加人組合及び補助参加人組合東京支部からされた団体交渉開催の申入れを、原告内には同組合及び同組合支部なる労働組合は存在しないことを理由として、不当に拒否したとの事実認定の下に、右は、正当な理由なく団体交渉の開催を拒否するものであって、労働組合法七条二号所定の不当労働行為に該当する、(二)原告は、同年四月以降、原告の従業員が組織する労働組合として補助参加人組合及び補助参加人組合東京支部が存在することを否定し続け、訴外ネッスル日本労働組合(現在の本部執行委員長は四宮義臣である。以下、四宮義臣を本部執行委員長とする「ネッスル日本労働組合」を「訴外組合」という。)とのチェックオフ協定に基づくと称して、補助参加人組合東京支部所属の組合員の給与から組合費のチェックオフを行い訴外組合東京支部に引き渡しているとの事実認定の下に、右は、同人らを補助参加人組合及び補助参加人組合東京支部に属するが故に不利益に取り扱うと共に、組合費をその財政基盤とする同組合及び同組合支部の弱体化を意図するものであって、労働組合法七条一号、三号所定の不当労働行為に該当する、と判断して、前記1の(二)のような内容の本件第一命令を発した。

しかしながら、これは、事実認定及び法律の解釈・適用を誤った違法なものであり、取り消されるべきである。

3 よって、本件第一命令中、主文第一項ないし第三項及び主文第四項のうち原告の再審査申立を棄却した部分の取消を求める。

二  請求原因に対する認否

1 同1の(一)、(二)の事実は認める。

2 同2の事実のうち、被告が、原告主張のような認定・判断の下に本件第一命令を発したことは認め、その余は否認する。

三  被告の主張(略)

四  被告の主張に対する認否(略)

五  被告の主張に対する原告の反論(略)

六  原告の反論に対する被告の再反論(略)

(第二事件)

一  請求原因

1 救済命令の存在

(一) 補助参加人組合及び被告補助参加人ネッスル日本労働組合島田支部(以下「補助参加人組合島田支部」という。)は、静岡県地方労働委員会(以下「静労委」という。)に対し、原告及び原告の島田工場(以下「島田工場」という。)を被申立人として、<1>原告が、昭和五七年一二月以降、補助参加人組合島田支部所属の組合員の給与から組合費をチェックオフしていること、及び、<2>島田工場が、昭和五八年六月二二日以降、補助参加人組合島田支部との団体交渉を正当な理由なく拒絶していることが、それぞれ不当労働行為に該当するとして、救済を申し立てた(静労委昭和五八年(不)第四号、第五号事件)ところ、静労委は、昭和六〇年三月三〇日付けをもって、別紙三記載の主文のとおり、救済申立の一部を認容する初審命令を発した。

(二) 原告及び島田工場並びに補助参加人組合及び補助参加人組合島田支部は、いずれも右静労委の初審命令を不服として、それぞれ被告に対して再審査を申し立てた(中労委昭和六〇年(不再)第一六号、第一七号、第一八号事件)ところ、被告は、昭和六一年六月一八日付けをもって、別紙四記載の主文のとおり、原告の再審査申立を棄却し(島田工場については、原告の構成部分であって実質的には原告に含まれるとして、当事者の表示及び主文から削除した。)、補助参加人組合及び補助参加人組合島田支部の再審査申立の一部を容れて静労委の初審命令の救済内容の一部を変更する命令(以下「本件第二命令」という。)を発し、その命令書は昭和六一年七月一〇日、原告に交付された。

2 本件第二命令の違法

被告は、(一)原告は、昭和五八年六月二二日以降、原告内には補助参加人組合及び補助参加人組合島田支部なる労働組合は存在しないことを理由として、同組合支部との団体交渉の開催を拒否し続けたとの事実認定の下に、右は、正当な理由なく団体交渉の開催を拒否するものであって、労働組合法七条二号所定の不当労働行為に該当する、(二)原告は、同年四月以降、原告の従業員が組織する労働組合として補助参加人組合及び補助参加人組合島田支部が存在することを否定し続け、訴外組合とのチェックオフ協定に基づくと称して、補助参加人組合島田支部所属の組合員の給与から組合費のチェックオフを行い訴外組合島田支部に引き渡しているとの事実認定の下に、右は、同人らを補助参加人組合及び同組合支部に属するが故に不利益に取り扱うと共に、組合費をその財政基盤とする同組合及び同組合支部の弱体化を意図するものであって、労働組合法七条一号、三号所定の不当労働行為に該当する、と判断して、前記1の(二)のような内容の本件第二命令を発した。

しかしながら、これは、事実認定及び法律の解釈・適用を誤った違法なものであり、取り消されるべきである。

3 よって、本件第二命令中、主文第一項ないし第三項及び主文第四項のうち原告の再審査申立を棄却した部分の取消を求める。

二  請求原因に対する認否

1 同1の(一)、(二)の事実は認める。

2 同2の事実のうち、被告が、原告主張のような認定・判断の下に本件第二命令を発したことは認め、その余は否認する。

三  被告の主張(略)

四  被告の主張に対する認否(略)

五  被告の主張に対する原告の反論(略)

六  原告の反論に対する被告の再反論(略)

第三証拠(略)

理由

第一第一事件について

一  請求原因1の(一)及び(二)の事実、並びに同2の事実のうち、被告が(一)及び(二)記載のような認定・判断の下に本件第一命令を発したことは、いずれも当事者間に争いがない。

二  そこで、被告の主張1(本件紛争の経緯)について検討する。

1  まず、被告の主張1の(一)(原告及び東京事務所)についてみるに、弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(一) 原告は、神戸市に本社を置き、霞ケ浦、島田、広田及び姫路の四工場(ほかに、日高乳業株式会社との業務提携による日高工場がある。)、仙台、東京、名古屋、大阪及び広島の四販売事務所、全国主要都市に展開する一六営業所などを有して、インスタントコーヒー等の飲食料品の製造・販売を行う株式会社で、昭和五八年六月当時の従業員数は約二三四〇名であった。

(二) 東京事務所は、東京都中央区に所在し、昭和五八年六月当時、関東・京浜地区担当の第一地域営業部、及び北海道・東北、信越地区担当の第二地域営業部が行う営業活動をサポートする事務部門としての業務を担当しており、当時の第一地域営業部、第二地域営業部及び東京事務所を併せての従業員数は約二四〇名であった。

2  次に、被告の主張1の(二)(同一名称の二つの「ネッスル日本労働組合」が併存するに至った経緯)についてみるに、(証拠略)を総合すると、次の事実が認められ、(証拠略)のうち、この認定に反する部分は採用しない。

(一) 原告には、従前、昭和二一年五月に広田工場の従業員により結成されたネッスル日本広田工場労働組合と、昭和三五年六月に本社の従業員により結成されたネッスル日本神戸本社労働組合とがあったが、昭和四〇年一一月、右両組合が統合してネッスル日本労働組合(以下「ネッスル労組」という。)が結成された。これに伴い、従来のネッスル日本広田工場労働組合及び同神戸本社労働組合は、それぞれ下部組織としての広田支部及び神戸支部となり、また、そのほかの下部組織として、姫路支部及び東京支部が新たに結成された。

(二) 昭和四六年五月、ネッスル労組は、原告との間で、「……原則として原告の従業員は組合員とする。ただし、組合に加入しない者、脱退した者、及び組合から除名された者の取扱いは、原告及び組合の合同協議によるものとする。」旨のユニオン・ショップ制を定める労働協約を締結した。

(三) 昭和五六年八月二〇日、ネッスル労組の本部執行委員会は、第一六回定期全国大会の開催を前にして、当時、原告のキースタッフ(管理職)が大会代議員の選挙に介入している事実があるとして、同大会の日程を変更すると共に、本部役員は大会代議員の投票によって選出するとされている組合規約について、組合員の一般投票をもって代えることができる旨の新たな条項を付加する改正案を全組合員の一般投票に付することとした。

右組合規約の改正案は、同月二七日の一般投票で承認され、昭和五六年度の本部役員は、この新規約に基づき、組合員の一般投票によって選出された。

(四) 昭和五七年七月二〇日、ネッスル労組の川上本部執行委員長は、第一七回定期全国大会を同年八月二八日、二九日に開催する旨公示し、また、同日、同労組の小山尚一本部選挙管理委員長は、昭和五七年度本部役員の選挙(詳細は追って公示)及び右全国大会の代議員の選挙(投票日は同年八月一一日)を行う旨公示した。

なお、昭和五七年七月当時、ネッスル労組には、日高、霞ケ浦、東京、島田、大阪、神戸、広田及び姫路の八支部があり、その組合員数は約二一〇〇名であった。

(五) 昭和五七年七月二九日、右(四)の小山選挙管理委員長は、本部役員選挙を一般投票(投票日は同年八月一一日)によって行う旨と、本部役員候補者二五名の名簿を公示し、次いで、同年八月四日、同候補者らの選挙公報を発表した。

本部執行委員長に再び立候補した現職の川上は、原告の組合への介入を阻止するという立場から、右選挙公報の中で、「厳しい状況のもとで、組合員の利益を守るためには、職場の意向を基礎に新たな団結を作りあげなければなりません。『一六年の歴史あるネッスル労組』を組合のっとりの手から守り仲間の利益を守るために頑張ります。」と述べており、ほぼこれに同調する本部役員立候補者は、同人を含め一一名であった。

これに対し、本部執行委員長に新たに立候補した三浦は、当時の本部執行部を批判するという立場から、同じ選挙公報の中で、「皆さん、組合は現在のままでよいのでしょうか。四年間私たちの労働条件は何も改善できていません。現行体制では今後も同じでしょう、私はやります、産別方針に沿って一つでも二つでも皆さんと共に前進しよう。」と述べており、ほぼこれに同調する本部役員立候補者は、同人を含め一四名であった。

(六) 昭和五七年八月四日から本部役員及び大会代議員の選挙の不在者投票が開始されたが、同月六日、川上が率いる本部執行委員会は、右選挙に原告がキースタッフなどを使って露骨に介入しているとして、本部役員選挙の中止並びに第一七回定期全国大会及び同大会の代議員選挙の延期を決定した。

この措置に対して、前記三浦らは、本部執行委員会の役員一〇名と選挙管理委員長の退陣などを求めて、本部の弾劾、投票の完全実施並びに定期又は臨時の大会開催を要求する署名運動を展開し、全体の八割を越える組合員から署名を集め、要求書を本部に提出したほか、同年九月七日、第一七回定期全国大会の早期開催、選挙の続行・再開を求める仮処分を、同月一三日、臨時大会の早期開催を求める仮処分を、それぞれ神戸地方裁判所に申請した。

なお、右仮処分申請は、同年一一月一一日、必要性がなくなったとして、いずれも取り下げられた。

(七) 昭和五七年九月二四日、本部執行委員会は、同年一〇月一八日に第一七回定期全国大会の代議員選挙、同月三〇日に本部役員選挙をそれぞれ行い、同年一一月六日、七日に第一七回定期全国大会を開催する旨改めて発表した。

なお、本部執行委員会は、組織を混乱させたとして、同年八月三一日、本部執行部を批判する言動などがあった溝口霞ケ浦支部執行委員長ら同支部の役員四名の制裁を、次いで、同年九月三〇日、右(六)の署名運動に関与した三浦ら一〇一名の制裁を、それぞれ本部審査委員会(組合規約第七〇条)に申請した。

(八) 右(七)の代議員選挙の結果、有効投票の過半数を得られないため再度信任投票に付された者を含めて、川上を支持する者四二名、三浦を支持する者三五名、計七七名が当選した。次いで、昭和五七年一一月三日に開票された右(七)の本部役員選挙の結果、本部執行委員長に三浦、同書記長に田中、同副書記長に浜田、同執行委員に伊東といずれも三浦を支持する四名が当選したほか、有効投票の過半数を得られなかった上位得票者一〇名(本部副執行委員長候補一名と同執行委員候補九名)が、選挙規定に基づき、再度信任投票に付されることになったが、これら一〇名のうち川上を支持する者は植野一人のみで、その他はいずれも三浦を支持する者であった。

(九) 昭和五七年一一月六日、七日の両日、前記(七)のとおり、第一七回定期全国大会の開催が予定されていたが、三浦を支持する大会代議員三五名は、信任投票に付されるべき本部役員候補一〇名について、未だ信任投票が実施されておらず、また組合の会計監査も未了であるなどとして、同月六日の大会に参加しなかった。

そのため、大会に出席した川上を支持する大会代議員四二名のみでは大会成立の定足数(大会構成員の三分の二、規約一八条)を欠くという事態が生じたが、本部執行委員会は、欠席した大会代議員三五名は自らの権利・義務を放棄したもので議決権を有しないとの見解に基づいて、予定どおり第一七回定期全国大会の開催を強行し、同大会において、前記(七)の溝口や三浦らの制裁に関し、本部審査委員会(ただし、審査委員会としての定足数を欠いていた。)の答申を受けたうえ、溝口や三浦ら二二名を権利停止処分に、八名を戒告処分に、それぞれ付する旨決議した。

また、同大会は、同月七日、三浦を支持する大会代議員が欠席したまま、ネッスル労組の機関役員及び大会代議員になるためには、団結強化のための方針を遵守、実践すると共に、インフォーマル組織に加わっていないことを、全組合員に対し、文書で誓約することが必要である旨の付帯決議(以下「団結強化の方針」という。)を採択したほか、<1>同月一三日に続開大会を開催する、<2>昭和五七年度の本部役員の選出については、一般投票による選挙を中止し、右続開大会において、議決権を有する大会代議員(大会に出席した川上を支持する者らを指すとみられる。)の投票によって行う、<3>本部役員選挙の立候補者は、右付帯決議に基づく誓約書を提出することを要する、<4>右(八)の一般投票で当選した四名のうち、権利停止処分を受けた三浦の当選は無効とし、田中、浜田、伊東については、右付帯決議に基づく誓約書の提出を条件に、各役職への就任を認める旨決議した。

(一〇) 他方、三浦は、昭和五七年一一月八日、原告に対し、「ネッスル日本労働組合本部執行委員長三浦一昭」名義の文書をもって、先の一般投票による本部役員選挙の結果、執行委員長に三浦、書記長に田中、副書記長に浜田、執行委員に伊東の四名がそれぞれ当選し、他の一〇名の本部役員は上位得票者に対する信任投票によって選出される予定である旨を通告した(右昭和五七年一一月八日以降の三浦を本部執行委員長とする「ネッスル日本労働組合」を名乗るグループを、以下「三浦派」という。)。

次いで、三浦ら二名は、同月九日、右(九)の権利停止処分の効力停止を求める仮処分を神戸地方裁判所に申請し(権利停止処分を受けた一三名中、三浦ら二名のみが仮処分を申請した。)、同月一三日、同裁判所において、右権利停止処分の効力を停止する旨の仮処分決定を得た。

(一一) 右(一〇)の仮処分決定があった昭和五七年一一月一三日、川上を支持する大会代議員三九名が出席して、前記(九)の決議に基づく第一七回定期全国大会続開大会(以下「続開大会」という。)が開催され、同大会は、右三浦ら二名についての仮処分決定は、本部審査委員会が定足数を欠いていたことのみを理由とするものであるとの見解に基づき、改めて定足数を満たした本部審査委員会の答申を得たうえ、前回と同様、溝口や三浦ら一三名を権利停止処分に、八名を戒告処分に、それぞれ付する旨決議したほか、出席した大会代議員三九名のみによる本部役員選挙を実施し、本部執行委員長に斉藤勝一(以下「斉藤」という。)など一三名の本部役員を選出する一方、先の一般投票で当選した田中書記長、浜田副書記長、伊東執行委員については、前記(九)の団結強化の方針に基づく誓約書を提出しないため本部役員になることはできないとして、この三つのポストを欠員とした(右昭和五七年一一月一三日以降の斉藤を本部執行委員長とする「ネッスル日本労働組合」を名乗るグループを、以下「斉藤派」という。)。

この結果を受けて、斉藤派は、同月一六日、「ネッスル日本労働組合本部執行委員長斉藤勝一」名義の文書をもって、斉藤らが本部役員に就任した旨を原告に通告した。

(一二) 右(一一)の続開大会において再び権利停止処分を受けた溝口や三浦ら一三名は、昭和五七年一一月一七日、その効力停止を求める仮処分を、次いで、誓約書の不提出を理由に本部役員への就任を拒否された田中ら三名は、同月二二日、本部書記長などの地位にあることを仮に定める旨を求める仮処分を、更に、三浦は、昭和五八年二月四日、斉藤を本部執行委員長に選出した続開大会における決議の効力停止などを求める仮処分を、それぞれ神戸地方裁判所に申請した。

右各申請に対し、同裁判所は、同年一二月二日、溝口や三浦ら一三名に対する権利停止処分の効力を停止する旨の仮処分決定を、昭和五八年二月二五日、<1>斉藤を本部執行委員長に選出した続開大会における決議の効力を停止する、<2>斉藤は、三浦がネッスル労組の本部執行委員長としてその職務を遂行することを妨害してはならない旨の仮処分決定をそれぞれしたが、田中ら三名の申請については、同年三月三一日、同人らが本部書記長などに就任したことは明白であるから、仮に地位を定める必要がないとして、これを却下する決定(以下「三月三一日決定」という。)をした。

なお、三浦派は、原告に対し、いずれも三浦本部執行委員長名義の文書をもって、昭和五七年一二月六日、右同月二日仮処分決定及び前記(一〇)の同年一一月一三日仮処分決定の各決定書を添付して、ネッスル労組の本部執行委員長は三浦である旨を改めて通告したほか、昭和五八年二月二八日、右同月二五日仮処分決定の決定書を添付して、三浦をネッスル労組の本部執行委員長として対処するよう重ねて申し入れた。

(一三) 昭和五七年一一月二〇日、斉藤派は、前記(九)の団結強化の方針に沿った各支部の執行体制の確立を目指す必要があるとして、各支部大会の開催とその公示及び支部大会代議員選挙、支部役員選挙の公示を決定し、次いで、同年一二月五日、全組合員に対し、三浦派が姫路、大阪、島田、東京などの各支部で斉藤派の団結強化の方針に反した支部大会や支部の役員選挙を企てているのは分裂行為、第二組合作りであるとして、これに参加しないように呼び掛けると共に、同派の組合員であることを確認するため、全組合員に「私は、ネッスル日本労働組合の一員として、第一七回定期全国大会の決定に反する『選挙』や『支部大会』には参加しません。」との確認書の提出を求め、これを提出した者によって支部大会を開催することを決定した。

同派に所属する組合員らは、同月一九日に島田支部において支部大会を開催したのを皮切りに、同月二六日に東京支部、昭和五八年一月八日に日高支部、同月九日に霞ケ浦、神戸及び姫路の各支部において、それぞれ支部大会を開催した。

(一四) 他方、三浦派も、当時生じていた組織的混乱を鎮静化する必要があるとして、各支部大会の開催を優先する方針を採り、同派に所属する各組合員らは、昭和五七年一二月一五日に大阪支部において支部大会を開催したのを皮切りに、同月一九日に島田支部、昭和五八年一月一四日に姫路支部、同月一五日に神戸支部、同月一六日に東京支部及び広田支部において、それぞれ支部大会を開催し、本部役員選挙の信任投票の早期実施及び臨時全国大会の早期実施を求める決議をしたほか、これらの支部大会に合わせて支部役員選挙が実施された。

(一五) 昭和五七年一二月二九日、斉藤派は、三浦派が、右(一四)のとおり、同月一五日に大阪支部、同月一九日に島田支部と相次いで支部大会を開催したことをインフォーマル組織による組合分裂、第二組合の結成行為と捉え、このような動きが他支部に拡大していく状況の下では、早急に組合員を確定して全国大会を開催し、かつ、その下での活動方針を確立することが不可欠であるとして、前記(一三)の確認書を昭和五八年一月九日までに提出した者を斉藤派の組合員として確定したうえ、同月一五日に第一八回臨時全国大会を開催する旨決定した。

(一六) 昭和五八年一月一五日、斉藤派は、右(一五)の決定のとおり第一八回臨時全国大会を開催し、同大会において、前記(一三)の確認書を提出した者のみがネッスル労組の組合員であり、これを提出しなかった組合員らは集団脱退をし第二組合を結成するものであるとの見解に基づき、ネッスル労組が既に分裂状態にあることを確認し、斉藤派に所属する組合員を確定したほか、前記(二)の続開大会で欠員とされた三つのポストのうち、書記長と副書記長を補充する選挙を行った。

(一七) 昭和五八年三月一六日、三浦派は、第一七回定期全国大会を前に実施されたネッスル労組の本部役員選挙のうち、未だ信任投票の行われていなかった本部副執行委員長候補一名と同執行委員候補九名の上位得票者について、信任投票を実施する旨公示し、同月一八日から二四日にかけて右信任投票が実施された結果、斉藤派所属の前記植野一名を除き、三浦派所属の九名全員が信任された。

この結果を受けて、三浦派は、同月二五日、三浦本部執行委員長名義の文書をもって、信任を得た右九名が昭和五七年度の本部役員に就任した旨を原告に通告した。

(一八) 昭和五八年三月二〇日、斉藤派は、前記(一六)で確定した同派所属の組合員数を基礎にして選出された大会代議員が出席して、第一九回臨時全国大会を開催した。

同派は、同大会において、自らを第一組合、三浦派を第二組合と規定した議案書を提出し、両派の組織の違いを鮮明にすると共に、前記(二)の続開大会で選出された本部役員全員について、改めて出席した大会代議員による選挙を行い、斉藤本部執行委員長ら続開大会のときと同一の本部役員を選出したほか、組合規約を実状に合わせる必要があるとして、組合規約の改正を行った。

なお、右組合規約では、組合の略称を「ネッスル第一組合」、その目的を「組合員の強固な団結により、分裂を克服して、労働条件の維持改善をはかること」と規定し、また、新設された「団体交渉及び争議」の項には、「団体交渉権は本部、支部及び分会がもつ」と定められた。

(一九) 昭和五八年六月四日、五日、三浦派は、第一回臨時全国大会を開催し、同大会において、<1>ネッスル労組の昭和五七年度の本部役員選挙において、(三浦派の)現本部役員が選任され就任した、<2>ネッスル労組の各支部定期大会の開催及びそこでされた決議・確認は全て有効である。<3>ネッスル労組の昭和五七年度の各支部役員選挙において(三浦派の)現支部役員が選任され、就任した、<4>(斉藤派の行った)第一七回定期全国大会における決議・確認は全て無効であり、また、斉藤と共にする一部組合員の行動は、規約に反する分派行動であり、組合統制違反である旨決議したほか、今日、組織には、第一組合も第二組合も存在せず、ネッスル労組は一つであり、反対者(斉藤派組合員)に分派行動を強く反省させる旨の大会宣言を採択した。

(二〇) 昭和五八年八月二七日、二八日、斉藤派は第二〇回定期全国大会を、三浦派は第一八回定期全国大会を、それぞれ同一の期日に開催した。

3  次に、被告の主張1の(三)(同一名称の二つの「ネッスル日本労働組合東京支部」が併存するに至った経緯)についてみるに、(証拠略)を総合すると、次の事実が認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。

(一) ネッスル労組東京支部は、前記2の(一)のとおり、昭和四〇年一一月にネッスル労組が結成された際、同労組の下部組織として新たに結成されたもので、同労組の組合員のうち静岡県及び甲信越以北の営業関係の従業員によって構成され、昭和五七年一一月当時、支部執行委員長は前記植野(斉藤派に所属する。)、支部組合員数は約二六〇名であった。

(二) 昭和五七年一一月二九日、植野支部執行委員長は、<1>昭和五八年一月一六日に第一七回定期支部大会を開催する、<2>同支部役員及び右支部大会代議員の選挙を実施する(立候補受付は、昭和五七年一二月二日、三日、投票日は追って公示)旨公示した。

(三) 他方、荒井賢一(三浦派に所属する。)支部選挙管理委員長は、同年一二月八日、前記(一)の公示とは別に、昭和五七年度の支部役員及び支部大会代議員の選挙(立候補受付は同年一二月一三日、一四日、投票日は同年一二月二二日ないし二四日)を実施する旨公示した。

(四) 昭和五七年一二月九日、植野支部執行委員長は、前記(二)の公示を取り消し、次いで、同月一六日、<1>同月二六日に全員大会による第一七回定期支部大会を開催する、<2>支部役員は右大会において選出する旨改めて公示した。

(五) 昭和五七年一二月二六日、ネッスル労組東京支部の組合員のうち斉藤派に所属する者らは、前記2の(一三)の確認書を提出した組合員約一五名のみが出席して、右(四)の公示のとおり第一七回定期支部大会を開催し、同大会において、前記2の(九)の団結強化の方針を実践することなどの運動方針を採択したほか、支部執行委員長に植野など一二名の支部役員を選出した(右昭和五七年一二月二六日以降の植野を支部執行委員長とする「ネッスル日本労働組合東京支部」を名乗るグループを、以下「斉藤派東京支部」という。)。

この結果を受けて、斉藤派東京支部は、昭和五八年一月七日、植野支部執行委員長名義の文書をもって、支部役員の変更を東京事務所に通告した。

(六) 他方、ネッスル労組東京支部の組合員のうち三浦派に所属する者らは、前記(三)の公示のとおり支部役員及び支部大会代議員の選挙を実施して、支部執行委員長に四宮など二六名の支部役員と支部大会の代議員五三名をそれぞれ選出したうえ、昭和五八年一月一六日、右選出された代議員が出席して、第一七回定期支部大会を開催し、<1>本部役員の信任投票の早期実施及び臨時全国大会の早期開催を求める、<2>斉藤派が一二月二六日に開いた支部大会なるものは、植野個人の召集した単なる集会に過ぎない旨の緊急動議を採択した(右昭和五八年一月一六日以降の四宮を支部執行委員長とする「ネッスル日本労働組合東京支部」を名乗るグループを、以下「三浦派東京支部」という。)。

この結果を受けて、三浦派東京支部は、同月一七日、東京事務所に対し、四宮支部執行委員長名義の文書をもって、右選出された同支部の役員名を通告した。

(七) 昭和五八年四月九日、斉藤派東京支部は、同支部組合員一三名が出席して、第一八回臨時支部大会を開催し、同大会において、前記2の(一八)の斉藤派が第一九回臨時全国大会で本部役員の選挙のやり直しと組合規約の改正を行ったことに対応して、改めて支部役員の選挙を行い、支部執行委員長に植野など前記(五)の第一七回定期支部大会のときとほぼ同一の支部役員を選出したほか、支部としての組合規約(支部の略称を「ネッスル第一組合東京支部」と規定すると共に、自らが団体交渉権を有する旨の条項を含む。)を新たに制定し(なお、従前、ネッスル労組の各支部とも独自の規約を有していなかった。)、同年一月四日付けのチェックオフ協定の破棄通告にもかかわらず、原告がチェックオフを強行し御用組合たる第二組合に引き渡しているとして、これを激しく攻撃することなどを内容とする大会決議を採択した。

この結果を受けて、斉藤派東京支部は、同月一二日、植野支部執行委員長名義の文書をもって、新たに制定した同支部の組合規約を添えて、右大会で選出された同支部の役員名を東京事務所に通告した。

なお、同支部は、同年五月二五日、都労委から労働組合資格証明書を交付された。

4  次に、被告の主張1の(四)(団体交渉の拒否)についてみるに、(証拠略)を総合すると、次の事実が認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。

(一) 原告とネッスル労組との間で締結された労働協約一五条には、「原告と組合との団体交渉は、原告の従業員である組合員の中から選任された組合代表者と原告代表者との間で、神戸本社で行う。更に、一つの工場又は販売事務所だけに関係する事項についての交渉は、その工場又は販売事務所の原告代表者と組合支部代表者との間で行う。」旨定められている。

東京事務所では、従前、夏季休暇等の実施時期は、支部の団体交渉の交渉事項とされており、東京事務所とネッスル労組東京支部との間で団体交渉が行われていた。

(二) 斉藤派東京支部は、前記3の(五)の支部役員の変更を文書で通告した一週間後である昭和五八年一月一四日、東京事務所に対し、植野支部執行委員長名義の文書をもって、組合員の組合休暇の申請を受理しない問題について団体交渉を開催するよう申し入れ、また同月二七日にも、同様の申入れをした。

これに対し、東京事務所は、同月三一日、右申入れを拒否すると共に、四宮との間での話合いを求める旨、斉藤派東京支部に回答した。

(三) 昭和五八年二月八日、斉藤派東京支部は、東京事務所に対し、植野支部執行委員長の名義で、後記で問題となる昭和五八年一月分の組合費のチェックオフをした理由など三項目について、団体交渉の開催を要求する文書を送付した。

(四) 他方、東京事務所は、昭和五八年二月九日、斉藤派東京支部の植野支部執行委員長宛に、<1>前記(二)の同年一月二七日付け団体交渉申入れ文書がネッスル労組東京支部の正式文書であるか否かについて、東京支部の四宮支部執行委員長に照会したところ、正式文書ではない旨回答を得た、<2>植野らは新たに第二組合でも結成したものであるか照会する、という趣旨の文書を送付し、同支部の団体交渉開催の要求には応じなかった。

同支部は、同月二二日付けの植野支部執行委員長名義の文書をもって、東京事務所の右のような対応に抗議する一方、右照会を無視した。

(五) 斉藤派東京支部は、東京事務所に対し、いずれも植野支部執行委員長名義の文書をもって、昭和五八年四月七日、チェックオフされた組合費の返還(同支部は、後記のとおり、これより先の同年二月一四日、同支部組合員一五名の氏名を明らかにし、二月分以降の組合費をチェックオフしないように原告に要求していた。)などについて、同月一二日、右に加えて同支部組合員松村定春ら三名の配転問題について、同月一四日と一八日、重ねて右両交渉事項について、団体交渉の開催を申し入れた。

東京事務所は、右度重なる斉藤派東京支部からの団体交渉の開催申入れに、一切応じなかった。

(六) 昭和五八年四月二一日、斉藤派東京支部は、東京事務所に対し、植野支部執行委員長名義の文書をもって、団体交渉に応ずることなど三項目の要求を行い、この文書の中で、原告は、同月一八日の同支部との折衝において、東京事務所が労働組合として認めているのは四宮を支部執行委員長とする組合であるとの見解を示したが、前記2の(三)の三月三一日決定も「現時点ではもはや二つの労働組合の存在を否定し難い」と説示しているごとく、現実を無視したもので不当労働行為であるから、斉藤派(ネッスル第一組合)を正統なこれまでの労働組合を継承しているものと認めて誠意をもって団体交渉に応ずるべきである、という趣旨の見解を表明した。

次いで、同支部は、同月二七日、東京事務所に対し、植野支部執行委員長名義の文書をもって、右(五)の同月一八日付け団体交渉の開催申入れに応ずるよう、重ねて申し入れた。

(七) 一方、斉藤派本部も、昭和五八年四月二七日、原告に対し、斉藤本部執行委員長名義の文書をもって、前記2の(三)の三月三一日決定の決定書を添えて、三浦派は集団脱退して第二組合を結成したのであるから、残った私たちを旧組合を継承した第一組合と認めて団体交渉に応ずるよう申し入れた。

なお、右決定書には、三浦らのグループと基本路線を異にする斉藤らのグループが、昭和五八年三月二〇日、第一九回臨時全国大会を開き、従前のネッスル労組の分裂を確認したうえ、新たな組合規約を制定し、同一名称の「ネッスル日本労働組合」を旗揚げしたことが窺われ、現時点ではもはや二つの労働組合が存在することは否定し難い旨の裁判所の説示が記載されていた。

(八) 昭和五八年五月四日、東京事務所は、斉藤派東京支部の植野個人宛に、ネッスル労組の三浦本部執行委員長に確認したところ、ネッスル労組東京支部の支部執行委員長は、植野ではなく四宮であるとの回答を得たので、原告としては、ネッスル労組東京支部執行委員長ではない者によって作成された「東京支部執行委員長植野修名義」の文書を受領する理由も義務もない、という趣旨の「回答並びに返戻書」と題する文書を送付すると共に、団体交渉開催の申入書などそれまでに斉藤派東京支部から送付された一連の文書全てを返戻し、同支部からの団体交渉開催の申入れを拒否した。

なお、右「回答並びに返戻書」には、植野ほか一二名は新たに第二組合でも結成したものであるか、という趣旨のものが付言されていた。

(九) 昭和五八年五月九日、斉藤派東京支部は、東京事務所に対し、植野支部執行委員長名義の文書をもって、団体交渉の開催を重ねて申し入れたが、同事務所はこれを拒否した。

(一〇) 昭和五八年五月一二日、斉藤派及び同派東京支部は、連名で、東京事務所に対し、前記(八)の「回答並びに返戻書」に反駁する、組合が分離・独立するまでの経過を詳述した「反論及び申入書」と題する文書、及び、<1>松村ら三名の組合員の配置転換についての労働協約に基づく協議、<2>組合費のチェックオフの中止、<3>組合休暇その他の労働協約の遵守の三項目について団体交渉を開催するよう求めた文書を送付した。

なお、右三項目は、いずれも同支部限りの団体交渉事項である。

(一一) 原告は、その後も、原告内には原告の従業員によって組織された斉藤派及び斉藤派東京支部なる労働組合は存在しないという理由で、現在に至るまで、斉藤派及び斉藤派東京支部との団体交渉に応ずることを拒否し続けている。

5  最後に、被告の主張1の(五)(組合費のチェックオフの実施)についてみるに、(証拠略)当裁判所に職務上顕著な事実及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。

(一) 原告は、従前から、ネッスル労組との間で締結したチェックオフ協定に基づき、同労組から毎月五日までに提出される組合費控除対象者のリストに従って、毎月の組合員の給与から組合費を控除し、給与支払日(原則として毎月二五日)に同労組の指定する各支部の銀行口座に振り込んでいた。

(二) 昭和五八年一月四日、斉藤派は、斉藤本部執行委員長の名義で、原告に対し、組合規約を無視した特定の集団(三浦派を指すものとみられる。)が事実上の組合分裂を策しているため、本来の組合員たる者の範囲を確定することが困難な状態となっていることから、暫くの間は自らの力で組合費を徴収するとして、右(一)のチェックオフ協定の破棄を通告すると共に、昭和五八年一月分以降の組合費のチェックオフを取り止めるよう要求する文書を送付した。

(三) 他方、原告は、昭和五八年一月一〇日、ネッスル労組の三浦本部執行委員長に対し、<1>右(二)の同年一月四日付け文書はネッスル労組の正式の文書であるか否か、<2>現行労働協約(チェックオフ協定を含む)を一方的に破棄し、チェックオフを中止するのか否かについて、文書をもって照会したところ、三浦本部執行委員長から、<1>右(二)の同年一月四日付け文書はネッスル労組の正式の文書ではない、<2>チェックオフ協定を一方的に破棄するものではない旨文書による回答を得た。

これを受けて、原告は、同月二五日、ネッスル労組の斉藤本部執行委員長に対し、右照会文書及び回答文書を添えて、右(二)の要求を拒否する旨文書をもって回答した。

(四) 昭和五八年二月一四日、斉藤派東京支部は、東京事務所に対し、植野支部執行委員長名義の文書をもって、同支部に所属する組合員一五名の氏名を明示して、同年二月分以降の組合費のチェックオフの中止と、既にチェックオフした同年一月分の組合費の返還を求める旨を要求した。

(五) 更に、斉藤派東京支部は、昭和五八年二月二二日、東京事務所に対し、「私は、三浦一昭氏を本部執行委員長とする労働組合とは、いかなる係わりもない。よって、昭和五八年二月分賃金から組合費の控除をしないように申し入れる。」旨記載された同支部所属の各組合員が原告社長宛に作成した文書、及び、「私は、斉藤勝一氏を本部執行委員長とするネッスル日本労働組合の本部執行委員会に、私の組合費に関する交渉権限の一切を委任する。」旨記載された同支部所属の各組合員の委任状を添えて、組合費のチェックオフの中止を求める文書を送付した。

(六) 昭和五八年二月二五日、原告は、ネッスル労組の斉藤本部執行委員長宛に、<1>組合費のチェックオフは、労働協約の定めにより実施している、<2>斉藤らはネッスル労組を脱退し、新たに第二組合でも結成したのか、<3>そうであれば、チェックオフに関する労働協約は適用されない、という趣旨の文書を送付した。

また、同日、東京事務所は、ネッスル労組東京支部の植野支部執行委員長宛に、<1>組合費のチェックオフは、現行労働協約のチェックオフ協定に基づき、ネッスル労組東京支部の四宮支部執行委員長から所定の手続が取られたうえ、実施されている、<2>もし、ネッスル労組を脱退したのであれば、その旨の通知があり次第、労働協約の適用を受けなくなるので、チェックオフを中止する、という趣旨の文書を送付した。

(七) 原告は、前記のような斉藤派及び同派東京支部からの再三のチェックオフ中止の申入れにもかかわらず、右(六)の各文書に記載された見解に基づき、その後も、三浦派から提出される組合費控除対象者のリストに従い、斉藤派東京支部所属の組合員の給与から組合費をチェックオフし、その全額を三浦派東京支部に引き渡していた。

なお、斉藤派東京支部所属の組合員らが、昭和六〇年一二月九日、東京地方裁判所において、原告は右組合員らに支給する給与からネッスル労組(代表者村谷政俊・三浦派)の組合費を控除してはならない旨の仮処分決定を得たことから、原告は、同月以降、斉藤派東京支部に所属する組合員の給与から組合費をチェックオフすることを中止している。

三  補助参加人組合及び補助参加人組合東京支部の労働組合としての存在について

1  前記二の2に認定したところによると、ネッスル労組においては、第一七回定期全国大会の開催に先立って行われた大会代議員及び本部役員の選挙を巡って、現職の川上本部執行委員長を支持するグループと、川上に対抗して立候補した三浦を支持するグループとの対立が顕在化し、昭和五七年一一月に開催された続開大会以後は、斉藤派と三浦派とが、それぞれ独自に本部執行委員長などの本部役員を擁立して別個の組合活動を展開し、主導権争いを演ずるなど内部抗争を繰り広げるに至った。すなわち、斉藤派は、確認書を提出した組合員のみを所属組合員とすることを決定し、昭和五八年一月一五日に第一八回臨時全国大会を開催して所属組合員を確定し、次いで、同年三月二〇日に開催した第一九回臨時全国大会において、ネッスル労組が既に分裂状態にあることを確認したうえ、本部執行委員長に斉藤などの本部役員を改めて独自に選出すると共に、自らを「ネッスル第一組合」と略称し、支部に独自の団体交渉権を認めるなど、支部の独立性を強める内容の組合規約改正を行い、他方、三浦派は、昭和五七年一一月八日、原告に対し、本部役員選挙の結果、本部執行委員長に三浦など四名が当選し、残りの一〇名の本部役員は上位得票者に対する信任投票によって選出される予定である旨通告したほか、三浦などに対する権利停止処分の効力停止を求めるなどの仮処分を数次にわたって申請する一方、昭和五八年三月一八日から二四日までの間に右信任投票を実施し、三浦派に所属する九名を本部役員として信任、選出した。

このような事実関係に照らすと、斉藤派は、遅くとも、第一九回臨時全国大会を開催し、本部役員を改めて選出したうえ、自らを第一組合と略称し、支部の独立性を強める内容の組合規約改正を行った昭和五八年三月二〇日の時点において、客観的に独立した労働組合となり、三浦派の組織とは別個に存在するに至ったというべきである。この独立した労働組合となった斉藤派、すなわち斉藤を本部執行委員長とする「ネッスル日本労働組合」が、補助参加人組合である。そして、当然のことながら、三浦派、すなわち三浦を本部執行委員とする「ネッスル日本労働組合」も、斉藤派とは別個に独立した労働組合として存在しており、これが訴外組合(なお、現在の本部執行委員長は前記四宮である。)である。

右のように、原告内には、昭和五八年三月二〇日以降、いずれも原告の従業員が組織する補助参加人組合と訴外組合という二つの労働組合が併存するに至ったと認められるが、この補助参加人組合や訴外組合とネッスル労組との関係をどのように捉えるべきかは、にわかには判断し難いところがある。すなわち、前記認定のような本件事実関係が、いわゆる組合分裂の法理が適用される場合であって、ネッスル労組は消滅し、同労組とは同一性を持たない補助参加人組合と訴外組合とが新たに成立したと解すべきか、或いは、組合分裂の法理が適用される場合ではなく、ネッスル労組は現に存続していると解すべきかは、にわかには判断し難く、また、仮に、組合分裂の法理が適用される場合ではなく、ネッスル労組は現に存続していると解するにしても、補助参加人組合と訴外組合のいずれがネッスル労組と同一性を有する、つまり同労組を承継していると解すべきかも、やはりにわかには判断し難いからである。

しかし、前述したところによれば、この点はともかくとして、客観的にみて、原告内には、昭和五八年三月二〇日以降、いずれも原告の従業員が組織する補助参加人組合と訴外組合という二つの労働組合が併存するに至った事実は動かし難いというべきである。

2  また、前記二の3に認定したところによると、ネッスル労組東京支部においても、組合全体の内部抗争を反映して、続開大会以降、斉藤派と三浦派とが、それぞれ独自に支部執行委員長などの支部役員を擁立して別個の組合活動を展開し、主導権争いを演ずるなど内部抗争を繰り広げるに至った。すなわち、東京支部における斉藤派は、昭和五七年一二月二六日に確認書を提出した組合員らによって第一七回定期支部大会を開催して植野支部執行委員長などの支部役員を選出し、次いで、昭和五八年四月九日に開催した第一八回臨時支部大会において、斉藤派本部が第一九回臨時全国大会で本部役員の選出のやり直しと組合規約の改正を行ったことに対応して、植野支部執行委員長などの支部役員を改めて選出したほか、新たに、自らを「ネッスル第一組合東京支部」と略称するなどの支部規約を制定し、他方、東京支部における三浦派は、昭和五七年一二月二二日から二四日の間に、支部役員選挙を実施して四宮支部執行委員長などの支部役員を選出したうえ、昭和五八年一月一六日に第一七回定期支部大会を開催した。

このような事実関係に照らすと、斉藤派東京支部は、遅くとも、第一八回臨時支部大会を開催して支部役員を改めて選出したほか、新たに自らをネッスル第一組合東京支部と略称するなどの支部規約を制定した昭和五八年四月九日の時点において、客観的にみて、補助参加人組合の下部組織たる支部であると共に独立した労働組合として、三浦派東京支部の組織とは別個に存在するに至ったというべきである。この補助参加人組合の下部組織たる支部であると共に独立した労働組合となった斉藤派東京支部、すなわち植野を支部執行委員長とする「ネッスル日本労働組合東京支部」が、補助参加人組合東京支部である。

3  ところで、原告は、原告と訴外組合(なお、原告は、ネッスル労組と訴外組合とが同一性を有することを前提として主張しているが、前述のとおり、訴外組合とネッスル労組とが同一性を有するか否かは、にわかには判断し難い。)との間にユニオン・ショップ協定が締結されており、原告の従業員は全て訴外組合の組合員であるから、このような労使関係において訴外組合と個別の労働組合が成立するためには、別個の労働組合を結成しようとする当該組合員らが、組合規約に基づき訴外組合から脱退するか或いは除名されることが必要であるのに、現在に至るまで、原告の従業員の中に、訴外組合から脱退したり、除名された者は一人もいないから、訴外組合以外に原告の従業員が組織する労働組合が存在する余地はない旨主張する。

しかしながら、労働者が労働組合を結成する自由は憲法二八条の保障するところであるから、団結意思を有する複数の労働者らが、独自の規約、執行機関を有し、客観的にみて団結体としての実態を有するに至った場合には、その団結権は保障されるべきであって、たとえ、当該労働者らがそれまで所属していた労働組合と会社との間にユニオン・ショップ協定が締結されていて、当該労働者らが組合規約所定の脱退の手続を履践せず、また、除名されたことがないとしても、労働組合として成立すると解すべきである。これを本件についてみると、前述のとおり、補助参加人組合及び補助参加人組合東京支部は、独自の役員を選出したうえ、独自の組合規約を制定し、客観的に独立した労働者の団結体としての実態を有するに至っているのであるから、その所属組合員らがネッスル労組から脱退する手続を履践したか或いは除名されたかを問わず、労働組合として成立しているというべきである。脱退又は除名の有無は、当該労働者と労働組合との内部関係たるに止まり、新たな労働組合の成立にとっての支障とはならないのである。

四  団体交渉拒否の不当労働行為該当性

1  補助参加人組合は、昭和五八年三月二〇日以降、独立した労働組合として、また、補助参加人組合東京支部は、同年四月九日以降、補助参加人組合の下部組織たる支部であると共に独立した労働組合として、それぞれ客観的に存在するに至ったことは、右三で説示したとおりである。

2  そして、<1>ネッスル労組では、斉藤派と三浦派とが、それぞれ独自に本部役員を擁立して別個の組合活動を展開し、主導権争いを演ずるなどの内部抗争を全社的規模で繰り広げたこと、<2>ネッスル労組東京支部においても、組合全体の内部抗争を反映して、斉藤派と三浦派とが、それぞれ独自に支部執行委員長などの支部役員を擁立して別個の組合活動を展開し、主導権争いを演ずるなどの内部抗争を繰り広げたこと、<3>その間、両派とも、それぞれ別異の執行委員長名義の文書をもって、独自に選出した本部役員名や支部役員名を原告に通告していたこと、<4>右内部抗争の結果、補助参加人組合と同組合の下部組織たる補助参加人組合東京支部が客観的に独立した労働組合として存在するに至ったことなど前記二の2及び3に認定した諸事実に加えて、<5>(証拠略)によれば、原告は、労務部が中心となって、組合機関紙の収集に努めていたもので、ネッスル労組の内部抗争の動向を注視しその状況を子細に承知していたと推認されることをも併せ勘案すると、原告は、遅くとも、補助参加人組合東京支部が、東京事務所に対し、第一八回臨時支部大会において新たに制定した支部規約と共に改めて選出した支部役員名を通告した昭和五八年四月一二日の時点においては、補助参加人組合及び同組合の下部組織たる補助参加人組合東京支部がそれぞれ客観的に独立した労働組合として存在するに至っていることを確認したと推認するのが相当である。

なお、この点について、原告は、補助参加人組合及び訴外組合はいずれも自らがネッスル労組と同一性を有すると主張し、また、ネッスル労組の組合規約に基づいて脱退したり或いは除名された組合員は存在しないのであるから、このような状況下では、原告において二つの労働組合が併存するという認識を持ち得ない旨主張する。しかし、右に認定・説示したところによれば、原告の右主張は、補助参加人組合と訴外組合のいずれもが、その正統性を基礎づけるためにネッスル労組との同一性を主張し、また、ユニオン・ショップ制の下でネッスル労組の組合規約に基づいて脱退し又は除名された組合員は存在しないという表面的な事実のみを根拠とするもので、客観的に存在する事実を殊更に無視するものというほかはないから、採用することができない。

3  そうすると、原告は、昭和五八年四月一二日以降、補助参加人組合及び補助参加人組合東京支部に対して、それぞれ団体交渉応諾義務を負うことになる。

なお、補助参加人組合東京支部は補助参加人組合の下部組織たる支部であるが、同組合支部は、同組合の下部組織たる支部であると共に、前述のとおり、それ自体で独立した労働組合と認められるものであり、加えて、前記二の2及び3に認定したとおり、同組合及び同組合支部いずれの組合規約も、支部の団体交渉権を肯認していることをも併せ勘案すると、同組合支部には、同組合支部限りの事項について固有の団体交渉権が認められるというべきである。

4  以上によれば、原告が、昭和五八年五月一二日付けで補助参加人組合及び補助参加人組合東京支部からされた同組合支部限りの事項に係る団体交渉開催の申入れを、原告内には同組合及び同組合支部なる労働組合は存在しないことを理由として拒否したことは、正当な理由なく団体交渉の開催を拒否するものであって、労働組合法七条二号所定の不当労働行為に該当するというべきである。

五  組合費のチェックオフを実施したことの不当労働行為該当性

1  補助参加人組合は、昭和五八年三月二〇日以降、独立した労働組合として、補助参加人組合東京支部は、同年四月九日以降、補助参加人組合の下部組織たる支部であると共に独立した労働組合として、それぞれ客観的に存在するに至ったこと、そして、原告は、遅くとも、同月一二日には、同組合及び同組合支部がそれぞれ独立した労働組合として存在するに至っていることを認識したと認められることは、右四に説示したとおりである。

2  ところで、同一企業内に複数の労働組合が併存している場合には、使用者としては、その組織人員の多少や成立時期にかかわらず、各組合に対して中立的な態度を保持し、その団結権を平等に承認、尊重すべきであり、各組合の性格や傾向、運動路線等のいかんによって、一方の組合をより好ましいものとしてその組織の強化を助長したり、他方の組合の弱体化を図るような行為をすることは許されないのであって(最高裁昭和六〇年四月二三日第三小法廷判決・民集三九巻三号七三〇頁参照)、使用者が、右のような意図に基づいて両組合を差別し、一方の組合に対して不利益な取扱いをすることは、同組合に対する支配介入になるというべきである。

この使用者の中立保持義務は、使用者と組合費のチェックオフ協定を締結していた組合が内部抗争の結果として事実上二つの組合となった場合に、従前のチェックオフ協定に基づいてチェックオフを実施する場合においても異なるものではなく、特に組合費が、組合の財政的基盤をなすものとして組合の存続・活動上、極めて重要な意味を持つことからすると、使用者が一方の組合の組合員の給与からその中止申入れを無視してチェックオフした組合費を他方の組合に交付することは、明らかに、一方の組合の存在やその団結権を否定し、その弱体化を図ろうとする意図を推認させるものとして、労働組合法七条三号所定の不当労働行為に該当すると解するのが相当である。

3  これを本件についてみるに、原告は、前記二の5に認定したとおり、従前、ネッスル労組との間で締結したチェックオフ協定に基づき、毎月の組合員の給与から組合費を控除したうえ、給与支払日(原則として毎月二五日)に同労組の指定する各支部の銀行口座に振り込んでいたのであるが、前述のとおり、遅くとも、昭和五八年四月一二日には、補助参加人組合が客観的に独立した労働組合として訴外組合の組織とは別個に存在するに至っていることを認識していたと認められるから、右昭和五八年四月一二日以降、原告内に併存する補助参加人組合及び訴外組合の両組合に対して中立を保持する義務が生じ、従前のネッスル労組とのチェックオフ協定に基づく組合費のチェックオフの実施に当たっても、中立保持義務に反しない慎重な対応が求められる立場にあったというべきである。

しかるに、原告は、前記二の5及び四の2に認定したとおり、昭和五八年二月一四日に、補助参加人組合東京支部の前身である斉藤派東京支部から、同支部所属の組合員の氏名を明示して、チェックオフ中止の要求を受け、また、昭和五八年四月一二日には、補助参加人組合の下部組織である補助参加人組合東京支部が客観的に独立した労働組合として存在するに至ったことを認識し、同組合支部に所属する組合員の氏名を把握していたにもかかわらず、あえてこれらを無視し、昭和五八年四月分以降も、同組合支部の組合員の給与からチェックオフした組合費を、供託に付することもなく、別組合である訴外組合の下部組織たる訴外組合東京支部に交付していたのであるから、原告のこのような措置が、補助参加人組合及びその下部組織たる補助参加人組合東京支部の存在やその団結権を否定し、その弱体化を図ろうとする意図を推認させるものであることは明らかであって、労働組合法七条三号の不当労働行為に該当するというべきである。

なお、前述のとおり、原告に中立保持義務が生じたのは昭和五八年四月一二日であって、右チェックオフ協定上、昭和五八年四月分の基準日となる同月五日の経過後ではあるが、不当労働行為が成立するかどうかの判断は、実際にチェックオフを行った日時を基準とすべきであるから、たとえ、原告に中立保持義務が生じたのが、右チェックオフ協定に基づく基準日の経過後であったとしても、不当労働行為の成立に影響を及ぼすことはない。

4  ところで、原告は、仮に、補助参加人組合が訴外組合とは別個の労働組合として存在しているとしても、補助参加人組合に所属する者らが組合費をチェックオフされることを免れるためには、原告と訴外組合とのチェックオフ協定が失効するか、或いは、右チェックオフ協定の効力が、なんらかの理由によって、この者らに対して及ばなくなる以外には考えられないから、この点についてなんら具体的な説明をすることなく、補助参加人組合が独立した労働組合として存在するに至ったことのみを理由として、原告のチェックオフが不当労働行為に該当すると判断するのは、著しい論理の飛躍である旨主張する。

確かに、本件では、前述のとおり、ネッスル労組と補助参加人組合や訴外組合との関係をどのように捉えるべきかにわかには判断し難いから、原告とネッスル労組とのチェックオフ協定の効力をどのように解すべきか、すなわち、右協定はネッスル労組の分裂によって既に失効したと解すべきか、或いは、補助参加人組合又は訴外組合のいずれかの組合の組合員が集団的にネッスル労組を脱退したもので、チェックオフ協定そのものは有効に存続しており、しかも、その効力が補助参加人組合の組合員にも及んでいると解すべきかは、必ずしも明確ではない。しかしながら、不当労働行為制度は正常な集団的労使関係秩序の確保を目的とするものであって、たとえ形式的には労働協約の定めに従った使用者の行為であっても、それが実質的にみて正常な集団的労使関係秩序に違反するものである場合には、不当労働行為に該当すると解して妨げがないから、たとえ、右チェックオフ協定そのものは有効に存続しており、その効力が補助参加人組合の組合員にも及んでいるとしても、組合併存の下で両組合に対して中立保持義務を負っている原告が、一方の組合である補助参加人組合の下部組織たる補助参加人組合東京支部の組合員の給与からその中止申入れを無視してチェックオフした組合費を、供託に付することもなく、別組合である訴外組合の下部組織たる訴外組合東京支部に交付することは、明らかに右中立保持義務に背き、正常な集団的労使関係秩序に違反するものとして、不当労働行為に該当するというべきである。したがって、原告の右主張は採用することができない。

5  また、原告は、仮に組合費をチェックオフしたことが不当労働行為に該当するとしても、その救済としては、チェックオフした組合費相当額を当該従業員個々人に支払うことで必要かつ充分であり、これを補助参加人組合東京支部に支払うべき法律上の根拠はないから、被告が、チェックオフした組合費相当額を補助参加人組合東京支部に支払うべきであるとしたのは、この点において、著しく裁量権を濫用したものであって、違法である旨主張する。

しかしながら、不当労働行為が成立する場合には、労働委員会は、その委ねられた裁量権に基づき、個々の事案に応じた適切な救済措置を定めることができるところ、本件においては、前述のとおり、補助参加人組合の下部組織たる補助参加人組合東京支部の組合員の給与からチェックオフした組合費を訴外組合の下部組織たる訴外組合東京支部に交付した原告の措置が、補助参加人組合及びその下部組織たる補助参加人組合東京支部の存在やその団結権を否定し、その弱体化を図ろうとする意図を推認させるものとして、支配介入の不当労働行為に該当すると認められるのであるから、このような不当労働行為がなかったと同様の事実上の状態を回復させるための救済措置として、右組合費相当額に年五分の割合による金員を付加して補助参加人組合東京支部に支払うことを命ずることは、本件事実関係の下では、労働委員会に委ねられた裁量権を逸脱し、救済措置として相当性を欠くということはできないから、原告の右主張は採用することができない。

六  以上のとおりであるから、本件第一命令にはなんらの違法もないことになる。

第二第二事件について

一  請求原因1の(一)及び(二)の事実、並びに同2の事実のうち、被告が(一)、(二)記載のような認定・判断の下に本件第二命令を発したことは、いずれも当事者間に争いがない。

二  そこで、被告の主張1(本件紛争の経緯)について検討する。

1  まず、被告の主張1の(一)(原告及び島田工場)についてみるに、弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(一) 第一の二の1の(一)のとおり。

(二) 島田工場は、静岡県島田市に所在し、主としてインスタントコーヒーの製造を行う原告の事業所であり、昭和五八年八月当時の従業員数は約三三〇人であった。

2  被告の主張1の(二)(同一名称の二つの「ネッスル日本労働組合」が併存するに至った経緯)については、第一の二の2の(一)ないし(二〇)のとおり。

3  次に、被告の主張1の(三)(同一名称の二つの「ネッスル日本労働組合島田支部」が併存するに至った経緯)についてみるに、(証拠略)を総合すると、次の事実が認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。

(一) ネッスル労組島田支部は、昭和四七年一二月、ネッスル労組の下部組織として結成されたもので、同労組の組合員のうち島田工場の従業員によって構成され、昭和五七年一一月当時、支部執行委員長は長谷川(斉藤派に所属する。)、支部組合員数は約三二〇名であった。

(二) 昭和五七年一一月二九日、長谷川支部執行委員長は、昭和五八年一月一六日に第一〇回定期支部大会を開催する旨公示し、また、同月三〇日、同大会において代議員の投票による支部役員の選挙を実施する旨公示した。

なお、組合規約上は、支部大会において代議員制を採る場合、「支部執行委員会で立案し、本部執行委員会が決定する。」とされていた。

(三) 他方、ネッスル労組島田支部の執行委員のうち三浦派に属する者らは、昭和五七年一二月一日、同支部執行委員会名で、同月一九日に第一〇回支部大会を開催し、全員投票による支部役員の選挙を実施する旨右(二)の公示とは異なる公示を行い、次いで、同月二日、藁科邦夫(三浦派に所属する。)同支部選挙管理委員長は、一二月八日から一〇日までの間に全員投票による支部役員選挙を実施する旨、やはり右(二)の公示とは異なる公示を行った。

なお、組合規約には「支部大会の開催は、支部執行委員長の召集によるもの。」と規定されていた。

(四) 右(三)の公示のとおり支部役員の選挙が実施され、支部組合員数の約七二パーセントが投票した結果、支部執行委員長に前記伊東など全て三浦派に所属する一六名が当選した。

この選挙に対して、島田支部の組合員のうち斉藤派に所属する者らは、右選挙には島田工場の職制による介入が著しいとして、投票をボイコットするよう組合員に呼び掛けた。

(五) 昭和五七年一二月一五日、長谷川支部執行委員長は、前記(二)で公示した代議員制大会の予定を変更して、同月一九日に全員大会による第一〇回島田支部定期大会を開催する旨改めて公示した。

(六) 昭和五七年一二月一九日、ネッスル労組島田支部の組合員のうち前記2の(一三)の確認書を提出した約八〇名の者ら(全て斉藤派に所属する。)は、静岡県藤枝市の藤枝勤労者体育センターにおいて、斉藤派本部の斉藤本部執行委員長らが出席のうえ、右(五)の公示のとおり第一〇回島田支部定期大会を開催し、同大会において、支部執行委員長に長谷川など一四名(監査委員を除く。)の支部役員を選出したほか、昭和五八年度活動・予算方針や島田地区労働組合会議への正式加盟などを決議した(右昭和五七年一二月一九日以降の長谷川を支部執行委員長とする「ネッスル日本労働組合島田支部」を名乗るグループを、以下「斉藤派島田支部」という。)。

(七) 他方、ネッスル労組島田支部の組合員のうち三浦派に所属する約二三〇名の者らは、右(六)の斉藤派の大会と同日に、島田工場内の厚生棟食堂において、三浦派本部の三浦本部執行委員長らが出席のうえ、前記(三)の公示のとおり第一〇回島田支部定期大会を開催し、同大会において、前記(四)の選挙で当選した伊東など一六名の新支部役員を発表し、昭和五八年度活動方針を決議したほか、<1>本部役員の信任投票を早期に実施する、<2>臨時全国大会を早期に開催する、<3>第一七回定期全国大会及び続開大会における議決の無効を確認する旨の緊急動議を採択した(右昭和五七年一二月一九日以降の伊東を支部執行委員長とする「ネッスル日本労働組合島田支部」を名乗るグループを、以下「三浦派島田支部」という。)。

(八) 昭和五七年一二月二〇日、斉藤派島田支部は、長谷川支部執行委員長名義の文書をもって、労働協約に基づき、同支部の新役員名を島田工場に通告したが、同工場は、斉藤派島田支部の大会公示及び役員選挙は組合規約上正当でないと判断しているとして、右文書の受取りを拒否し、同支部に右文書を返戻した。

なお、島田工場は、前記(六)(七)の二つの支部大会開催以降、同工場に配達される郵便物のうち、宛先が「ネッスル日本労働組合島田支部執行委員長長谷川保夫」又は「ネッスル日本労働組合島田支部第一組合」などとなっているものについて、ネッスル労組島田支部は一つであり、同支部執行委員長は伊東であるとの理由で、それを三浦派島田支部に渡している。

(九) 昭和五八年一月二一日、斉藤派島田支部は、同月二三日の日曜日に島田工場構内にある組合事務所を使用するため、「ネッスル日本労働組合島田支部執行委員長長谷川保夫」名義で、休日使用申請書を島田工場に提出したが、同工場は、ネッスル労組島田支部の支部執行委員長は伊東であり、委員長の職にない者が委員長名を使用して提出した文書は無効であるとの理由で、右申請書の受取りを拒否した。更に、右同月二三日には、同工場の課長及び課長代理六、七人が、休日出勤したうえ、午前八時ころから約二時間にわたり同工場の通用門に集合し、斉藤派島田支部に所属する組合員の入構を阻止した。

なお、同支部は、昭和五八年二月五日、静岡地方裁判所において、原告は、同支部の労働組合事務所のある建物部分について、施錠したり、同支部の役員又は組合員が使用することを実力で妨げるなどして、同支部の占有を妨害してはならない旨の仮処分決定を得た。

(一〇) 昭和五八年四月九日、斉藤派島田支部は、藤枝市の藤枝勤労者体育センターにおいて、第一一回島田支部臨時大会を開催し、同大会において、前記2の(一八)の斉藤派が第一九回臨時全国大会で本部役員の選挙のやり直しと組合規約の改正を行ったことに対応して、改めて支部役員の選挙を行い、支部執行委員長に長谷川など前記(六)の第一〇回支部定期大会のときと同一の支部役員を選出したほか、斉藤派島田支部としての組合規約(支部自らが団体交渉権を有する旨の条項を含む。)を新たに制定し、自らの略称を「ネッスル第一組合島田支部」と決定した(なお、従前は、ネッスル労組の各支部とも独自の規約を有していなかった。)。

なお、同支部は、同年六月二二日、静労委から、労働組合資格証明書を交付された。

4  次に、被告の主張1の(四)(団体交渉の拒否)についてみるに、(証拠略)を総合すると、次の事実が認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。

(一) 原告とネッスル労組との間で締結された労働協約一五条には、「原告と組合との団体交渉は、原告の従業員である組合員の中から選任された組合代表者と原告代表者との間で、神戸本社で行う。更に、一つの工場又は販売事務所だけに関係する事項についての交渉は、その工場又は販売事務所の原告代表者と組合支部代表者との間で行う。」旨定められている。

島田工場では、昭和五七年ころまで、施設改善、安全衛生など同工場に係わる事項について、島田工場とネッスル労組島田支部との団体交渉事項とされていて、団体交渉が行われていた。

なお、島田工場は、その従業員の配置などについて、発令権限を有していた。

(二) 昭和五七年一二月二八日、斉藤派島田支部は、島田工場に対し、長谷川支部執行委員長名義の文書をもって、従前から労働協約に基づき同工場と協議のうえ締結している「年末・年始の休日出勤協定」について、団体交渉を開催するよう申し入れ、翌同月二九日にも、同様の申入れをした。

これに対して、同工場は、ネッスル労組島田支部は一つであり、その支部執行委員長は伊東であるとして、団体交渉の開催を拒否した。

(三) 一方、斉藤派本部は、昭和五八年四月二七日、原告に対し、斉藤本部執行委員長名義の文書をもって、前記2の(三)の三月三一日決定の決定書を添付して、三浦派は集団脱退して第二組合を結成したのであるから、残った私たちを旧組合を承継した第一組合と認めて団体交渉に応ずるよう申し入れた。

なお、右決定書には、三浦らのグループと基本路線を異にする斉藤らのグループが、昭和五八年三月二〇日、第一九回臨時全国大会を開き、従前のネッスル労組の分裂を確認したうえ、新たな組合規約を制定し、同一名称の「ネッスル日本労働組合」を旗揚げしたことが窺われ、現時点ではもはや二つの労働組合が存在することは否定し難い旨の裁判所の説示が記載されていた。

(四) 斉藤派島田支部は、島田工場に対し、いずれも長谷川支部執行委員長名義の文書をもって、昭和五八年五月六日、専従者職場復帰及びチェックオフの中止などについて、同年六月二二日、前記3の(一〇)の静労委から交付された労働組合資格証明書を添付して、チェックオフの中止と、既にチェックオフされた組合費の返還などについて、同月三〇日、重ねて右交渉事項について、団体交渉を開催するよう申し入れた。

これに対しても、同工場は、ネッスル労組島田支部は一つであり、その支部執行委員長は伊東であるとして、団体交渉の開催を拒否した。

(五) 更に、斉藤派島田支部は、昭和五八年七月五日と同月七日、島田工場に対し、いずれも長谷川支部執行委員長名義の文書をもって、斉藤派島田支部の組合員長谷川修に対する配転命令について団体交渉を開催するよう申し入れた。

これに対し、同工場は、長谷川修の異動は単なる職場変更に過ぎず、職種の変更ではないから、労働協約が定める労働組合への事前通知の対象とはならないとして、団体交渉の開催を拒否した。

なお、斉藤派島田支部が、昭和五八年六月二二日以降、島田工場に団体交渉の開催を申し入れた事項はいずれも同支部限りのものであった。

(六) 原告は、その後も、原告内には斉藤派及び斉藤派島田支部なる労働組合は存在しないとして、斉藤派島田支部との団体交渉に応じることを拒否している。

5  最後に、被告の主張1の(五)(組合費のチェックオフの実施について)についてみるに、左記(一)ないし(三)のほか、(証拠略)を総合すると、左記(四)ないし(七)の事実が認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。

(一) 第一の二の5の(一)のとおり。

(二) 第一の二の5の(二)のとおり。

(三) 第一の二の5の(三)のとおり。

(四) 昭和五八年二月一五日、斉藤派島田支部は、島田工場に対し、長谷川支部執行委員長名義の文書をもって、同支部所属の組合員八三名の名簿、「私は、三浦氏を本部執行委員長とする労働組合とは、いかなる係わりもありません。よって、昭和五八年二月分賃金から組合費の控除をされないように申し入れます。」旨の同支部所属の各組合員が原告社長を名宛人として作成した文書及び「私は、斉藤氏を本部執行委員長とするネッスル日本労働組合の本部執行委員会に、原告との間の私の組合費に関する交渉権限の一切を委任致します。」旨記載された同支部所属の各組合員の委任状を添えて、同年二月分以降のチェックオフの中止と既にチェックオフされた同年一月分の組合費の返還を申し入れた。

(五) 同年二月一六日、島田工場は、右(四)の二月一五日付けチェックオフの中止などを求める文書がネッスル日本労働組合島田支部の正式文書であるか否かについて、(三浦派)島田支部の伊東支部執行委員長宛に文書をもって照会したところ、同月二一日、同支部から、右文書は、同支部の正式文書ではなく、同支部とは全く無関係であるとの文書による回答を得た。

これを受けて、同工場は、同月二五日、斉藤派島田支部の長谷川支部執行委員長宛に、右照会文書及び回答文書を添えて、<1>組合費のチェックオフは、現行の労働協約及びチェックオフ協定に基づき、ネッスル労組島田支部から所定の手続が取られたうえ、実施されている、<2>ネッスル労組を脱退したとの通知があればチェックオフをしない旨文書をもって通告し、同支部のチェックオフ中止の申入れ及びチェックオフした分の返還を拒否した。

(六) その後も、斉藤派島田支部は、島田工場に対し、長谷川支部執行委員長名義の文書をもって、昭和五八年四月一四日、五月六日など、再三にわたり、チェックオフの中止と、既にチェックオフした分の返還を要求した。

(七) 原告は、前記のような斉藤派島田支部からの再三にわたるチェックオフ中止の申入れにもかかわらず、前記(五)の斉藤派島田支部宛の文書に記載された見解に基づき、その後も、三浦派島田支部から提出される組合費控除対象者のリストに従い、斉藤派島田支部所属の組合員の給与から組合費をチェックオフし、その全額を三浦派島田支部が指定する銀行口座に振り込んでいた。

なお、斉藤派島田支部の組合員らが、昭和五八年一一月七日、静岡地方裁判所において、原告は右組合員らに支給する給与からネッスル労組(代表者三浦)の組合費を控除してはならない旨の仮処分決定を得たことから、原告は、同年一一月分以降、斉藤派島田支部に所属する組合員の給与から組合費をチェックオフすることを中止している。

三  補助参加人組合及び補助参加人組合島田支部の労働組合としての存在について

1  補助参加人組合が、昭和五八年三月二〇日以降、客観的に独立した労働組合として訴外組合の組織とは別個に存在するに至ったことは、第一の三において説示したとおりである。

2  また、前記二の3に認定したところによると、ネッスル労組島田支部においても、組合全体の内部抗争を反映して、続開大会以降、斉藤派と三浦派とが、それぞれ独自に支部執行委員長などの支部役員を擁立して別個の組合活動を展開し、主導権争いを演ずるなど内部抗争を繰り広げるに至った。すなわち、島田支部における斉藤派は、昭和五七年一二月一九日に確認書を提出した組合員らによって第一〇回島田支部定期大会を開催して長谷川支部執行委員長などの支部役員を選出し、次いで、昭和五八年四月九日に開催した第一一回島田支部臨時大会において、斉藤派本部が第一九回臨時全国大会で本部役員の選出のやり直しと組合規約の改正を行ったことに対応して、長谷川支部執行委員長などの支部役員を改めて選出したほか、新たに自らを「ネッスル第一組合島田支部」と略称するなどの支部規約を制定し、他方、島田支部における三浦派は、昭和五七年一二月八日から一〇日の間に、支部役員選挙を実施して伊東支部執行委員長などの支部役員を選出したうえ、同月一九日に第一〇回島田支部定期大会を開催した。

このような事実関係に照らすと、斉藤派島田支部は、遅くとも、第一一回島田支部臨時大会を開催して支部役員を改めて選出したほか、新たに自らをネッスル第一組合島田支部と略称する支部規約を制定した昭和五八年四月九日の時点において、客観的にみて、補助参加人組合の下部組織たる支部であると共に独立した労働組合として、三浦派島田支部の組織とは別個に存在するに至ったというべきである。この補助参加人組合の下部組織たる支部であると共に独立した労働組合となった斉藤派島田支部、すなわち長谷川を支部執行委員長とする「ネッスル日本労働組合島田支部」が、補助参加人組合島田支部である。

3  訴外組合以外に原告の従業員が組織する労働組合が存在する余地はない旨の原告の主張を採用することができないことは、第一の三の3において説示したとおりである。

四  団体交渉拒否の不当労働行為該当性

1  補助参加人組合は、昭和五八年三月二〇日以降、独立した労働組合として、また、補助参加人組合島田支部は、同年四月九日以降、補助参加人組合の下部組織たる支部であると共に独立した労働組合として、それぞれ客観的に存在するに至ったことは、右三で説示したとおりである。

2  そして、原告は、遅くとも、昭和五八年四月一二日の時点において、補助参加人組合及び同組合の下部組織たる補助参加人組合東京支部が客観的に独立した労働組合として存在するに至っていることを認識したと推認するのが相当であることは、第一の四の2において説示したとおりである。

また、<1>ネッスル労組では、斉藤派と三浦派とが、それぞれ独自に本部役員を擁立して別個の組合活動を展開し、主導権争いを演ずるなどの内部抗争を全社的規模で繰り広げたこと、<2>ネッスル労組島田支部においても、組合全体の内部抗争を反映して、斉藤派と三浦派とが、それぞれ独自に支部執行委員長などの支部役員を擁立して別個の組合活動を展開し、主導権争いを演ずるなどの内部抗争を繰り広げたこと、<3>その間、両派とも、それぞれ別異の執行委員長名義の文書をもって、独自に選出した本部役員名や支部役員名を原告に通告していたこと、<4>右内部抗争の結果、補助参加人組合と同組合の下部組織たる補助参加人組合島田支部が客観的に独立した労働組合として存在するに至ったことなど前記二の2ないし4に認定した諸事実に加えて、<5>(証拠略)によれば、原告は、労務部が中心となって組合機関紙の収集に努めていたもので、右認定のようなネッスル労組の内部抗争の動向を注視しその状況を子細に承知していたと推認さることなどをも併せ勘案すると、原告は、補助参加人組合及び同組合の下部組織たる補助参加人組合東京支部がそれぞれ独立した労働組合として存在するに至っていることを認識した昭和五八年四月一二日の直後ころには、補助参加人組合島田支部についても、補助参加人組合の下部組織たる支部であると共に独立した労働組合として客観的に存在するに至っていることを認識したと推認するのが相当である。

なお、本件のような事実関係の下では、原告において二つの労働組合が併存しているとの認識を持ち得ない旨の原告の主張を採用することができないことは、第一の四の2において説示したとおりである。

3  そうすると、原告は、右認識の後である昭和五八年六月二二日以降、補助参加人組合島田支部に対して、団体交渉応諾義務を負うのはいうまでもないことになる。

なお、補助参加人組合島田支部は、補助参加人組合の下部組織たる支部であるが、同組合支部は、同組合の下部組織たる支部であると共に、前述のとおり、それ自体で独立した労働組合と認められるものであり、加えて、前記二の2及び3に認定したとおり、同組合及び同組合支部いずれの組合規約も、支部の団体交渉権を肯認していることをも併せ勘案すると、同組合支部には、同組合支部限りの事項について固有の団体交渉権が認められるというべきである。

4  以上によれば、原告が、昭和五八年六月二二日以降、補助参加人組合島田支部からされた同組合支部限りの事項に係る団体交渉開催の申入れを、島田工場内には同組合支部なる労働組合は存在しないことを理由として拒否したことは、正当な理由なく団体交渉の開催を拒否するものであって、労働組合法七条二号所定の不当労働行為に該当するというべきである。

五  組合費のチェックオフを実施したことの不当労働行為該当性

1  補助参加人組合は、昭和五八年三月二〇日以降、独立した労働組合として、補助参加人組合島田支部は、同年四月九日以降、補助参加人組合の下部組織たる支部であると共に独立した労働組合として、それぞれ客観的に存在するに至ったこと、そして、原告は、遅くとも、同月一二日の直後ころには、補助参加人組合の下部組織たる補助参加人組合島田支部が独立した労働組合として存在するに至っていることを認識したと認められることは、右四に説示したとおりである。

2  ところで、同一企業内に複数の労働組合が併存している場合、使用者としては中立保持義務を負うから、使用者と組合費のチェックオフ協定を締結していた組合が事実上二つの組合となった場合に、使用者が一方の組合の組合員の給与からチェックオフした組合費を他方の組合に交付することは、一方の組合の存在やその団結権を否定し、その弱体化を図ろうとする意図を推認させるものとして、労働組合法七条三号所定の不当労働行為に該当すると解するのが相当であることは、第一の五の2において説示したとおりである。

3  これを本件についてみるに、原告は、前記二の5に認定したとおり、従前、ネッスル労組との間で締結したチェックオフ協定に基づき、毎月の組合員の給与から組合費を控除したうえ、給与支払日(原則として毎月二五日)に同労組の指定する各支部の銀行口座に振り込んでいたのであるが、前述のとおり、遅くとも、昭和五八年四月一二日には、補助参加人組合が独立した労働組合として訴外組合の組織とは別個に存在するに至っていることを認識していたと認められるから、右昭和五八年四月一二日以降、原告内に併存する補助参加人組合及び訴外組合の両組合に対して中立を保持する義務が生じ、従前のネッスル労組とのチェックオフ協定に基づく組合費のチェックオフの実施に当たっても、中立保持義務に反しない慎重な対応が求められる立場にあったというべきである。

しかるに、原告は、前記二の5及び四の2において認定したとおり、昭和五八年二月一五日に、補助参加人組合島田支部の前身である斉藤派島田支部から、同支部所属の組合員の氏名を明示して、チェックオフ中止の要求を受け、また、昭和五八年四月一二日の直後ころには、補助参加人組合島田支部が補助参加人組合の下部組織であると共に客観的に独立した労働組合として存在するに至ったことを認識し、同組合支部に所属する組合員の氏名を把握していたにもかかわらず、あえてこれを無視し、昭和五八年四月分以降も、同組合支部の組合員の給与からチェックオフした組合費を、供託に付することもなく、別組合である訴外組合の下部組織たる訴外組合島田支部に交付していたのであるから、原告のこのような措置が、補助参加人組合及び同組合の下部組織たる補助参加人組合島田支部の存在やその団結権を否定し、その弱体化を図ろうとする意図を推認させることは明らかであって、労働組合法七条三号の不当労働行為に該当するというべきである。

なお、前記二の5の認定によれば、原告とネッスル労組とのチェックオフ協定では、同労組から毎月五日までに提出される組合費控除対象者のリストに従い、毎月のチェックオフを実施することとされており、実際上も、このように運用されてきたのであるが、前述のとおり、原告に中立保持義務が生じたのは昭和五八年四月一二日であり、補助参加人組合島田支部が客観的に独立した労働組合として存在するに至ったことを認識したのは、その直後ころであって、右チェックオフ協定に基づく基準日の経過後ではあるが、このような事情があっても、同月分について不当労働行為が成立することは、第一の五の3において説示したとおりである。

4  原告と訴外組合とのチェックオフ協定をどのように解すべきかについて、なんら具体的な説明をすることなく、補助参加人組合が独立した労働組合として存在するに至ったことのみを理由として、原告のチェックオフが不当労働行為に該当すると判断するのは、著しい論理の飛躍である旨の原告の主張が採用できないことは、第一の五の4において説示したとおりである。

5  被告が、救済措置として、チェックオフした組合費相当額を補助参加人組合島田支部に支払うことを命じたのは、著しく裁量権を濫用したものであって、違法である旨の原告の主張が採用できないことは、第一の五の5において説示したとおりである。

六  以上のとおりであるから、本件第二命令にはなんらの違法もないことになる。

第三結論

以上、認定・説示したところによれば、本件第一命令及び本件第二命令にはなんら違法の点はなく、原告の本訴請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九四条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 太田豊 裁判官 田村眞 裁判官新堀亮一は、転補のため署名押印することができない。裁判長裁判官 太田豊)

別紙一

主文

一 被申立人ネッスル株式会社は、被申立人ネッスル株式会社東京販売事務所だけに関係する事柄について、申立人ネッスル日本労働組合東京支部(同支部執行委員長植野修)から団体交渉の申入れがあったときは、「被申立人ネッスル株式会社には、申立外ネッスル日本労働組合(同本部執行委員長三浦一昭)一つしか存在せず、申立人ネッスル日本労働組合(同本部執行委員長斉藤勝一)は存在しない。従ってまた被申立人ネッスル株式会社東京販売事務所には、申立人ネッスル日本労働組合東京支部(同支部執行委員長四宮義臣)一つしか存在せず、申立人ネッスル日本労働組合東京支部(同支部執行委員長植野修)は存在しない」との理由で、これを拒否してはならない。

二 被申立人ネッスル株式会社は、今後、「ネッスル日本労働組合」との間の従前のチェックオフ協定に基づくと称して、申立人ネッスル日本労働組合東京支部(同支部執行委員長植野修)所属の各組合員の給与から組合費のチェックオフをしてはならず、また、同支部に所属する組合員の給与から、昭和五八年四月分以降、チェックオフした組合費相当額を同支部に支払わなければならない。

三 被申立人ネッスル株式会社は、本命令書受領の日から、一週間以内に五五センチメートル×八〇センチメートル(新聞紙二頁大)の白紙に、左記のとおり楷書で明瞭に墨書し、本社及び東京販売事務所の従業員の見易い場所に一〇日間掲示しなければならない。

昭和 年 月 日

ネッスル日本労働組合

本部執行委員長 斉藤勝一殿

ネッスル日本労働組合東京支部

東京支部執行委員長 植野修殿

ネッスル株式会社

代表取締役 H・J・シニガー

当社が貴組合東京支部(同支部執行委員長植野修氏)から申入れのあった昭和五八年五月一二日付け団体交渉を拒否したこと並びに貴組合東京支部所属の組合員の給与から昭和五八年四月分以降の組合費をチェックオフしたことは、いずれも不当労働行為であると東京都地方労働委員会で認定されました。今後、かかることのないよう留意します。

(注、年月日は掲示した日を記載すること。)

四 被申立人ネッスル株式会社は、前記第二、第三項を履行したときは、当委員会に文書で報告しなければならない。

五 その余の申立を棄却する。

別紙二

主文

一 本件初審命令主文第一項中「申立人ネッスル日本労働組合東京支部(同支部執行委員長植野修)から」を「申立人ネッスル日本労働組合(同本部執行委員長斉藤勝一)及び同ネッスル日本労働組合東京支部(同支部執行委員長植野修)から」に、「申立外ネッスル日本労働組合(同本部執行委員長三浦一昭)」を「申立外ネッスル日本労働組合(同本部執行委員長村谷政俊)」に改める。

二 本件初審命令主文第二項中「チェックオフした組合費相当額を」を「チェックオフした組合費相当額に年五分の割合による金員を付加して」に改める。

三 本件初審命令主文第三項の記中「貴組合東京支部(同支部執行委員長植野修氏)」を「貴組合(同本部執行委員長斉藤勝一氏)及び貴組合東京支部(同支部執行委員長植野修氏)」に、「東京都地方労働委員会」を「中央労働委員会」に改める。

四 その余の本件各再審査申立を棄却する。

別紙三

主文

一 被申立人ネッスル株式会社及び同ネッスル株式会社島田工場は、同工場に関する事項について、申立人ネッスル日本労働組合島田支部から団体交渉の申入れがあったときは、「被申立人ネッスル株式会社には、申立外ネッスル日本労働組合一つしか存在せず、また、被申立人ネッスル株式会社島田工場には、申立外ネッスル日本労働組合島田支部一つしか存在しない。それゆえ、申立人ネッスル日本労働組合島田支部なるものは存在せず、したがって、その団体交渉の申入れに応諾する義務はない。」との理由で、これを拒否してはならない。

二 被申立人ネッスル株式会社は、ネッスル日本労働組合と締結していたチェックオフ協定に基づくとの理由で、申立人ネッスル日本労働組合島田支部所属の各組合員の給与から、組合費をチェックオフしてはならない。

また、昭和五八年四月分以降の同組合員の給与からチェックオフした組合費相当額を、同支部に支払わなければならない。

三 被申立人ネッスル株式会社及び同ネッスル株式会社島田工場は、この命令交付後速やかに、縦三〇センチメートル、横六〇センチメートルの白紙に、左記のとおり楷書で明瞭に墨書し、これを本社及び島田工場の従業員の見易い場所に一〇日間掲示しなければならない。

昭和 年 月 日

ネッスル日本労働組合

本部執行委員長 斉藤勝一様

ネッスル日本労働組合島田支部

執行委員長 吉野晴男様

ネッスル株式会社代表取締役 H・J・シニガー

ネッスル株式会社島田工場

工場長 松岡敬二

当社及び島田工場が、昭和五八年六月二二日以降の貴組合島田支部からの団体交渉の申入れを拒否したこと、並びに貴組合島田支部に所属する組合員の給与から昭和五八年四月分以降の組合費をチェックオフしたことは、いずれも不当労働行為であると静岡県地方労働委員会において認定されました。

今後、このような行為を一切行うことのないよう十分留意します。

四 その余の申立は、これを棄却する。

別紙四

主文

一 本件初審命令主文第一項中「及び同ネッスル株式会社島田工場」を削り、「同工場」を「ネッスル株式会社島田工場」に、「被申立人ネッスル株式会社島田工場」を「ネッスル株式会社島田工場」に改める。

二 本件初審命令主文第二項中「また、昭和五八年四月分以降の同組合員の給与からチェックオフした組合費相当額を、同支部に支払わなければならない。」を「また、同支部に所属する組合員の給与から、昭和五八年四月以降、チェックオフした組合費相当額及びこれに対する年五分の割合による金員を同支部に支払わなければならない。」に改める。

三 本件初審命令主文第三項中「及び同ネッスル株式会社島田工場」、「ネッスル株式会社島田工場工場長松岡敬二」及び「及び当島田工場」を削る。

四 その余の本件各再審査申立を棄却する。

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