大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和61年(特わ)2911号 判決 1987年7月30日

本店所在地

東京都江東区木場二丁目一七番一三号

東京納品代行株式会社

(右代表者代表取締役 林功)

本籍

東京都板橋区板橋一丁目八四一番地

住居

同都練馬区桜台一丁目三四番地

会社役員

林功

昭和一八年四月二〇日生

右の者らに対する法人税法違反被告事件について、当裁判所は審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人東京納品代行株式会社を罰金三六〇〇万円に、被告人林功を懲役一年二月に、それぞれ処する。

被告人林功に対し、この裁判の確定した日から三年間その刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人東京納品代行株式会社(以下被告会社という。)は、東京都中央区日本橋浜町二丁目六一番四号に本店を置き(昭和六一年七月一日同都江東区木場二丁目一七番一三号に移転)、傘・繊維品・洋品雑貨の販売代行、梱包納品業等を目的とする資本金一九〇〇万円の株式会社であり、被告人林功は、被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括していたものであるが、被告人林は、被告会社の業務に関し法人税を免れようと企て、売上の除外・架空労務費の計上等の方法により所得を秘匿した上

第一  昭和五六年二月一日から同五七年一月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億〇五〇八万一〇四七円であった(別紙1修正損益計算書参照)のにかかわらず、同五七年三月三〇日、東京都中央区日本橋堀留町二丁目六番九号所在の所轄日本橋税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が三八一四万四四八三円でこれに対する法人税額が一三四四万六一〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和六二年押第二三五号の3)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社の同会社の右事業年度における正規の法人税額四一五〇万八八〇〇円と右申告税額との差額二八〇六万二七〇〇円(別紙4脱税額計算書)を免れ

第二  昭和五七年二月一日から同五八年一月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億六三四三万四九四九円あった(別紙2修正損益計算書参照)のにかかわらず、同五八年三月三一日、前記日本橋税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が五一三〇万七六四四円でこれに対する法人税額が一九一二万七三〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(前同押号の2)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額六六二〇万〇三〇〇円と右申告税額との差額四七〇七万三〇〇〇円(別紙5脱税額計算書参照)を免れ

第三  昭和五八年二月一日から同五九年一月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億八四六四万四一一三円であった(別紙3修正損益計算書参照)のにかかわらず、同五九年三月三〇日、前記日本橋税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が六一六九万八〇九〇円でこれに対する法人税額が二三〇五万三六〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(前同押号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額七四六七万一六〇〇円と右申告税額との差額五一六一万八〇〇〇円(別紙6脱税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全事実につき

一  被告人の(イ)当公判廷における供述

(ロ)検察官に対する供述調書一一通

一  岩瀬真里子の検察官に対する供述調書五通

一  収税官吏作成の次の調査書

(イ)販売代行手数料収入調査書

(ロ)労務費調査書

(ハ)外注作業費調査書

(ニ)減価償却費調査書(甲八)

(ホ)給与手当調査書

(ヘ)法定福利費調査書

(ト)福利厚生費調査書(甲一一)

(チ)退職給与引当金繰入額調査書

(リ)旅費交通費調査書

(ヌ)接待交際費調査書

(ル)賃借料調査書

(ヲ)支払手数料調査書

(ワ)受取利息配当調査書

(カ)賞与引当金繰入額調査書

(ヨ)交際費等の損金不算入額調査書

(タ)雑損失調査書

(レ)事業税認定損調査書

一  大蔵事務官作成の証明書

一  登記官作成の商業登記簿謄本(乙一四)

判示第一の事実につき

一  収税官吏作成の次の調査書

(ソ)傭車費調査書

(ツ)雑費調査書

(ネ)雑収入調査書

(ナ)支払利息割引料調査書

(ラ)車両売却益調査書

一  押収してある法人税確定申告書一袋(昭和六二年押第二三五号の3)

判示第二の事実につき

一  収税官吏作成の次の調査書

(ム)作業場賃貸収入調査書

(ウ)燃料費調査書

(ヰ)修繕費調査書

(ノ)備品消耗品費調査書

(オ)事故費調査書

(ク)賞与引当金戻入額調査書

(ヤ)駐車場賃貸調査書

(マ)前記(ツ)(ナ)(ラ)の調査書

一  押収してある法人税確定申告書一袋(同押号の2)

判示第三の事実につき

一  収税官吏作成の次の調査書

(ケ)減価償却費(一般管理費)調査書

(フ)諸会費調査書

(コ)前記(ム)(ヰ)(オ)(ヤ)の調査書

一  押収してある法人税確定申告書一袋(同押号の1)

(法令の適用)

法律に照らすと、被告会社の判示各所為は、いずれも法人税法一六四条一項、一五九条一項に該当するところ、情状により一五九条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから同法四八条二項により各罪につき定めた罰金の合算額以下において、被告会社を罰金三六〇〇万円に処する。

被告人林の判示各所為は、いずれも法人税法一五九条一項に該当するところ、所定刑中懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重した刑期範囲内で被告人を懲役一年二月に処し、後記情状により同法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から三年間右刑の執行を猶予する。

(量刑の理由)

本件は、判示のとおりメーカー等の依頼を受けて値札付け・包装及び配送等を行ういわゆる納品代行を業とする被告会社の代表者である被告人林が、被告会社の業務に関し、三期分合計で一億二六七〇万円余の法人税を免れたという事案であり、そのほ脱額は多額であり、税ほ脱率も通算で六六パーセントを越える高率である。

本件に至る経緯をみると、被告人は大学中退後信用金庫等に勤務したが、昭和四四年ころから個人で納品代行業を営み、同四五年二月東京販代梱包有限会社を設立し、同四七年四月これを株式会社に組織変更するとともに、商号を東京納品代行株式会社と変更し、その代表取締役となり、その後業績を拡大して昭和六一年当時において従業員約五〇〇名を擁し、年間売上高約二〇億円にのぼる納品業界第二位の会社に成長させた。そのほか、被告人は、関連会社として、商品保管及び値札付け等の物流加工を業とする東京商品管理株式会社をも設立して、その実質経営者となり、今日に至っている。その間において、被告人は、昭和五〇年三月不動産売買等を目的として東京住宅土地販売株式会社を、同五三年六月にはその子会社として大林建設株式会社を設立したが、両社とも当初から業績不振で、運転資金等に窮したことから、これを捻出するため被告会社の売上収入を一部を除外していたところ、本件対象期には、右目的のほか被告会社が将来建設すべき自社ビルの建築資金等にも充てる目的で本件犯行に及んだものである。

本件犯行の態様をみると、主な所得秘匿行為は、販売代行手数料収入約一億円の除外、作業場賃貸収入約三二〇〇万円の除外、架空労務費約七五〇〇万円の計上、架空外注費約三七〇〇万円の計上、架空給料手当約二〇〇〇万円の計上であるが、その他にも燃料費、傭車費、減価償却費、賃借料、備品消耗品費等の架空計上など多岐に亘り、しかもその不正工作を被告人が経理女子従業員に直接指示して行わせていたものである。

以上のような本件の動機・態様及びほ脱結果に徴すると、被告人の刑事責任は軽視できないが、反面、納品代行業はもともと被告人の発案・創始にかかるものであるが、その後大手業者が参入するなどして競争が激化したことから、被告会社の業績を維持・確保するためには相当の設備投資を必要としていたことが認められ、これが本件犯行の動機の一つともなっていること、本件犯行によって得た裏金は、その相当部分が前記赤字会社の資金繰りなどに使用されており、必ずしも被告人の個人的用途に充てられたとのみ言いきれない面もあること、被告人は、本件について査察調査を受けて以来、一貫して犯行を素直に認めており、ほ脱結果については本件対象期を含めて五期分の修正申告を行い、本税及び附帯税をすべて完納していること、犯行後経理事務を分業化し、責任者を外部から迎え入れるなどしていわゆる相互監視体制の強化を図っていること、被告人には昭和四一年七月業務上過失傷害罪により罰金刑に処せられた以外には前科・前歴がないこと、本件が新聞等に報道されたことにより相応の社会的制裁も受けていることなど被告人のため斟酌すべき事情も認められる。

以上を総合勘案すると、被告人に対しては懲役刑の執行を暫らく猶予してその自戒に委ねるのが相当である。

よって、主文のとおり判決する。

(求刑、被告会社につき罰金四〇〇〇万円、被告人につき懲役一年二月)

検察官井上經敏、弁護人伊藤卓藏、加藤義樹各出席

(裁判官 小泉祐康)

別紙1

修正損益計算書

東京納品代行株式会社 No.1

自 昭和56年2月1日

至 昭和57年1月31日

<省略>

別紙2

修正損益計算書

東京納品代行株式会社 No.1

自 昭和57年2月1日

至 昭和58年1月31日

<省略>

別紙3

修正損益計算書

東京納品代行株式会社 No.1

自 昭和58年2月1日

至 昭和59年1月31日

<省略>

別紙4

脱税額計算書

自 昭和56年2月1日

至 昭和57年1月31日

会社名 東京納品代行株式会社

<省略>

別紙5

脱税額計算書

自 昭和57年2月1日

至 昭和58年1月31日

会社名 東京納品代行株式会社

<省略>

別紙6

脱税額計算書

自 昭和58年2月1日

至 昭和59年1月31日

会社名 東京納品代行株式会社

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例