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東京地方裁判所 昭和61年(ワ)9190号 判決 1991年10月25日

原告 樹絵里パーツ株式会社

右代表者代表取締役 村尾昌美

右訴訟代理人弁護士 白井正明

白井典子

被告 株式会社 オリジン寳飾

右代表者代表取締役 松井宣博

<ほか二名>

右三名訴訟代理人弁護士 上野操

伊藤嘉健

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告の申立

1  被告株式会社オリジン寳飾及び同平田寳飾工藝株式会社(以下「被告会社両名」という。)は、別紙図面(三)記載の中折れ式留め金具(商品番号「KPK―三」、「KPK―四」、「KKK―一六」、「KKK―二八」及び「KKK―二九」。以下「被告商品(三)」という。)、同図面(四)記載の差込み式留め金具(商品番号「KKK―一九」、「KKK―二〇」及び「KKK―二六」。以下「被告商品(四)」という。)並びに同図面(五)記載の差込み式留め金具(商品番号「KKK―一七」。以下「被告商品(五)」という。)を販売、拡布、又は輸出してはならない。

2  被告らは、原告に対し、連帯して二五二一万七四七〇円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決及び右2について仮執行の宣言を求める。

二  被告らの申立

主文同旨の判決を求める。

第二請求の原因

(主位的請求)

一  被告会社両名に対する請求

1(一) 原告は、昭和五七年七月二六日、貴金属製品及びその部品の販売を目的として設立された会社であるところ、右設立日以降、別紙図面(一)記載の中折れ式留め金具(商品番号「ptN―一」、「ptN―三」、「ptN―四」、「ptN―五」、「K一八N―四」及び「K一八N―六」。以下「原告商品(一)」という。)並びに同図面(二)記載の差込み式留め金具(商品番号「ptC―一」、「ptC―二」、「ptC―三」、「K一八C―一」、「K一八C―二」、「K一八C―三」及び「K一八CH―四」。以下「原告商品(二)」という。)を製造販売している。

(二) 原告商品(一)は、「コ」の字のチェーン(鎖)との装着部と中央上蓋状装着部との間の間隙がほとんどなく、密着しており、また、上蓋状装着部の表面の形状に凹凸がないという形態上の特徴を有している。また、原告商品(二)は、形状全体及び「ツマミ」の形状に形態上の特徴を有している。

(三) 原告商品(一)及び(二)の形態は、昭和五八年九月頃までには、それぞれ原告の商品表示として広く認識されるに至った(以下広く認識されることを「周知」又は「周知性」ともいう。)。

原告商品(一)及び(二)の形態が、右時期までに原告の商品表示として周知性を取得するに至ったのは、次のような理由によるものである。すなわち、訴外株式会社ムラオ(以下「ムラオ」という。)は、昭和五三年一月頃以降原告商品(二)を製造販売し、また、同五四年八月頃以降原告商品(一)を製造販売してきたものであるところ、原告商品(一)及び(二)の形態は、前(二)に述べるとおりの特徴を有するものであって、その斬新さ、同商品の大量販売及び広告宣伝などにより、原告設立前既に、ムラオの商品表示として周知性を取得するに至っていた。原告は、この原告商品(一)及び(二)の製造販売をするために、同五七年七月二六日に設立されたものであって、設立時以降原告商品(一)及び(二)を製造販売し、その形態のムラオの商品表示としての周知性を承継し、同五八年九月頃までには、その形態の原告の商品表示としての周知性を取得するに至ったものである。

2(一) 被告会社両名は、共同して、昭和五九年六月以降、被告商品(三)ないし(五)を製造販売している。

(二) 被告商品(三)は、前記1(二)の原告商品(一)の形態上の特徴と同一の形態上の特徴を有し、また、被告商品(四)及び(五)は、前記1(二)の原告商品(二)の形態上の特徴と同一の形態上の特徴を有している。

(三) 被告商品(三)ないし(五)の形態も、それぞれ被告会社両名の商品表示であるところ、被告商品(三)の形態は、原告の周知の商品表示である原告商品(一)の形態と同一であり、また、被告商品(四)及び(五)の形態は、それぞれ原告の周知の商品表示である原告商品(二)の形態と同一である。

3 被告会社両名は、右のとおり、原告の商品表示と同一の被告の商品表示を使用した被告商品(三)ないし(五)を販売、拡布、又は輸出して原告の商品と混同を生ぜしめている。

4 原告は、右の被告会社両名の混同行為によって営業上の利益を害されている。

5(一) 被告会社両名は、故意又は過失により、原告に対し、右混同行為によって原告の営業上の利益を害して損害を加えた。

(二) 原告が被った損害は、次のとおりである。

(1) 原告は、被告株式会社オリジン寳飾に対し、昭和五八年七月二一日から同五九年七月二〇日まで(原告の決算第二期)の間に、一八金製の中折れ式留め金具及び差込み式留め金具を九八五個、プラチナ製のそれを五〇四個売渡しており、右の販売実績によると、原告は、被告株式会社オリジン寳飾に対し、昭和六〇年三月一日以降平成二年一二月一七日(原告の同日付準備書面提出の日)までの間に、少なくとも留め金具三〇〇〇個、一七七九万五二五〇円相当を売渡すことができたはずである。したがって、原告は、被告会社両名の前記混同行為によって右の販売実績を失ったものであるところ、その利益率は二〇%であるから、少なくとも三五五万九〇五〇円の得べかりし利益を喪失した。

(2) 被告会社両名は、被告商品(三)ないし(五)を原告商品(一)及び(二)よりも廉価で販売し、しかも、原告の従来からの得意先にまで販路を拡張し、その販売実績は、右(1)の本来原告から購入すべき分を除いても、昭和五九年一二月以降同六〇年八月までの間に四九〇六個、一か月平均では五四五個であるから、昭和六〇年一月以降五年間に少なくとも三万二七〇〇個、七四〇〇万円相当に達している。そして、そのうち利益の額は、二〇%の一四八〇万円である。原告は、同額の得べかりし利益を喪失した。

(3) 原告は、被告会社両名の執拗な値引攻勢に対抗するため、原告商品(一)及び(二)についても値引をせざるを得なかったところ、原告の決算第四期以降同第八期までの間の値引額は、少なくとも四五〇〇万円である。原告は、同額の得べかりし利益を喪失した。

(三) 原告は、右損害の額の合計六三三五万九〇五〇円のうち二五二一万七四七〇円の賠償を求める。

二  被告小室に対する請求

被告小室は、被告会社両名に勤務し、被告会社両名の前記不正競争行為を教唆、幇助して、原告に対し、被告会社両名と同様の損害を加えた。

三  結語

よって、原告は、不正競争防止法一条一項一号の規定に基づき、被告会社両名に対し、被告商品(三)ないし(五)の販売、拡布、又は輸出の差止めを求めるとともに、同法一条ノ二第一項及び民法七一九条の規定に基づき、被告らに対し、二五二一万七四七〇円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の連帯支払いを求める。

(予備的請求)

一  被告会社両名に対する請求

1(一) 原告は、前記(主位的請求)一5(二)(1)のとおり、被告株式会社オリジン寳飾に対し、原告商品(一)及び(二)を売渡してきたところ、被告会社両名は、これらを他に転売していたのであるが、その評判がよく、売行きもよいことに着目し、自ら原告商品(一)及び(二)と同一の商品を製造販売しようと企てた。

(二) そして、被告会社両名は、原告から、原告商品(一)及び(二)を購入することを取り止め、共同して、昭和五九年六月以降、被告商品(三)ないし(五)を製造販売するようになった。他方、被告小室は、当時、原告の取締役として営業を担当し、被告株式会社オリジン寳飾との取引にも関与していた。ところで、被告会社両名は、被告商品(三)ないし(五)を製造販売するに当たり、材料の選択に失敗し、不良品を出したことから、原告商品(一)及び(二)の製造販売に関する情報を入手し、材料などについても原告商品(一)及び(二)と全く同一の商品を製造販売しようと企図して、被告小室を勧誘し、被告平田寳飾工藝株式会社に入社させ、被告小室をして、原告商品(一)及び(二)の製造技術及び形態に関する知識を提供させて、原告商品(一)及び(二)と全く同一の被告商品(三)ないし(五)の製造販売に加担せしめた。

(三) 被告会社両名は、原告商品(一)及び(二)の購入を取り止めて後、被告商品(三)ないし(五)のパンフレットを作成して広告宣伝し、原告の得意先その他の業者に対し、被告商品(三)ないし(五)を原告商品(一)及び(二)よりも格安で購入することができる旨勧誘した。そのうえ、被告会社両名は、原告の商号と同一の「ジュエリーパーツ」の語を含む「ジュエリーパーツ創作」なる営業表示及び「パーツショップ一二〇〇」なる営業表示を用いて、被告商品(三)ないし(五)を販売した。右被告会社両名から勧誘を受けた業者の中には、被告商品(三)ないし(五)が原告商品(一)及び(二)と形態が同一であるばかりか、価格が安いこともあって、原告から原告商品(一)及び(二)を購入することを取り止め、被告会社両名から被告商品(三)ないし(五)を購入する者も出てきた。また、被告商品(三)ないし(五)の中に不良品が出たため、原告は、原告商品(一)及び(二)について有していた信用をも傷付けられた。

(四) このように、被告株式会社オリジン寳飾は、数年にわたって、原告から、原告商品(一)及び(二)を購入し、これを他に転売していたものであるが、原告商品(一)及び(二)に人気があることに着目し、原告の取締役であった被告小室を雇傭して、その製造技術及び形態に関する知識を盗み取り、原告商品(一)及び(二)と同一の被告商品(三)ないし(五)を製造し、これを原告商品(一)及び(二)よりも廉価で、かつ、「ジュエリーパーツ創作」と称して、原告の得意先に販売し、原告の営業上の利益を侵害した。

2 被告会社両名は、故意又は過失により、右のとおり原告の営業上の利益を侵害して、原告に対し、(主位的請求)一5(二)のとおりの損害を加えた。

二  被告小室に対する請求

被告小室は、被告会社両名に対し、原告商品(一)及び(二)の製造技術及び形態に関する知識を提供し、被告会社両名の前記不法行為を教唆、幇助して、原告に対し、被告会社両名と同様の損害を加えた。

三  結語

よって、原告は、民法七〇九条の規定に基づき、被告会社両名に対し、被告商品(三)ないし(五)の販売、拡布、又は輸出の差止めを求めるとともに、同条及び同法七一九条の規定に基づき、被告らに対し、二五二一万七四七〇円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の連帯支払いを求める。

第三請求の原因に対する被告らの答弁

(主位的請求)

一  被告会社両名に対する請求について

1(一) 請求の原告1(一)は認める。

(二) 同1(二)は否認する。

原告商品(一)の「コ」の字のチェーン(鎖)との装着部と中央上蓋状装着部とは、可動部分であるから、その間には当然に間隙が存する。また、上蓋状装着部の表面は、ヤスリで加工するから、多数の凹凸がある。もっとも、原告商品(一)の中には、原告の主張するとおり、間隙のないものや凹凸のないものもあるかも知れないが、それは、原告商品(一)の製造上のばらつきの範囲内のことである。次に、原告商品(二)の「ツマミ」の形状にしても、従前から、外国の商品や国内の第三者の商品の中に多数見られるものである(検乙第四号証、検乙第七号証、検乙第九号証)。このように、原告商品(一)及び(二)の形態は、原告の商品表示として周知性を取得するような特徴を有するものではなく、他社商品の形態を踏襲したものにすぎない。

(三) 同1(三)は否認する。

原告商品(一)のような中折れ式留め金具は、昭和五八年九月頃以前既に、留め金具市場において、他社商品として多数のものが存在していた。被告平田寳飾工藝株式会社においても、昭和五七年には、中折れ式のものを実用新案登録出願し、その製造販売をしていたものである(乙第一三号証)。また、原告商品(二)のような差込み式留め金具にしても、昭和五四年三月頃には、イタリアのウノ・ア・エレ社の商品が日本に輸入され、販売されていた(検乙第三号証ないし第五号証、乙第二号証の二)。したがって、原告商品(一)及び(二)は、昭和五八年九月頃、その形態から原告の商品であると判別が付く状況にはなかったのである。

また、原告は、原告商品(一)及び(二)の形態が周知性を取得した理由として、ムラオによる原告商品(一)及び(二)の大量販売及び広告宣伝などを主張するが、右の大量販売を証する書証として提出する甲第三〇号証は、本訴提起後に作成されたものであって、信用性に乏しいものであるばかりか、同号証記載の「生産個数」というのは、自社製ネックレスに用いたものも含んでおり、すべてが第三者に販売したものではない。また、原告が広告宣伝の証拠として提出する書証をみると、書証にみられる広告は、製造販売者名の記載のないものであったり(甲第一九号証ないし第二一号証)、記載のあるものもムラオ名であったり(甲第一五号証)、原告名の記載のあるものも、原告が周知性を取得したという昭和五八年九月以降に発行されたものであって、原告商品(一)及び(二)の形態が原告の商品表示としての周知性を取得したことを証するものではない。

2(一) 同2(一)は認める。ただし、被告会社両名は、被告商品(三)のうち、商品番号「KPK―三」という商品は製造販売していない。

(二) 同2(二)は否認する。

(三) 同2(三)は否認する。

被告商品(三)と原告商品(一)とは、バネの板厚その他形態上相違しており、また、被告商品(四)及び(五)と原告商品(二)とは、バネの形状その他形態上相違している。

3 同3ないし5は否認する。

二  被告小室に対する請求について

請求原因事実は否認する。

(予備的請求)

一  被告会社両名に対する請求について

1(一) 請求の原因1(一)のうち、被告株式会社オリジン寳飾が、原告から、留め金具を購入していたことは認めるが、その余の事実は否認する。

(二) 同1(二)のうち、被告会社両名が、原告から、原告商品(一)及び(二)を購入することを取り止め、共同して、昭和五九年六月以降、被告商品(三)ないし(五)(商品番号「KPK―三」を除く。被告の答弁において以下同じ。)を製造販売するようになったこと、被告小室が、当時、原告の取締役であったこと、その後、被告平田寳飾工藝株式会社に入社したことは認めるが、その余の事実は否認する。

被告小室は、被告平田寳飾工藝株式会社に入社した後、被告商品(三)ないし(五)の製造に関与したことはあるが、右製造に当たり、原告商品(一)及び(二)の製造販売に関する情報などを提供したことはない。被告会社両名は、被告小室を中心として、既存の外国商品などを参考としながら、独自に被告商品(三)ないし(五)を開発したものである。

(三) 同1(三)のうち、被告会社両名が、「ジュエリーパーツ」なる語を用いたことは認めるが、その余の事実は否認する。被告会社両名は、「パーツショップ一二〇〇」において被告商品(三)ないし(五)の販売をしたことはある。

(四) 同1(四)は否認する。

2 同2は否認する。

二  被告小室に対する請求について

請求原因事実は否認する。

第四証拠関係《省略》

理由

第一原告の主位的請求について

一  被告会社両名に対する請求

1  原告は、昭和五七年七月二六日貴金属製品及びその部品の販売を目的として設立された会社であるところ、右設立日以降、原告商品(一)及び(二)を製造販売していることは、当事者間に争いがない。

2  原告は、原告商品(一)及び(二)の形態は、昭和五八年九月頃までには、それぞれ原告の商品表示として広く認識されるに至ったとし、その理由とし、原告商品(一)及び(二)は、ムラオにおいて製造販売してきたものであるところ、その形態は、原告商品(一)にあっては、「コ」の字のチェーン(鎖)との装着部と中央上蓋状装着部との間の間隙がほとんどなく、密着しており、また、上蓋状装着部の表面の形状に凹凸がないという特徴を有し、原告商品(二)にあっては、形状全体及び「ツマミ」の形状に特徴を有し、その斬新さ、同商品の大量販売及び広告宣伝などにより、原告設立前既に、ムラオの商品表示として周知性を取得するに至り、次いで、原告は、その設立時以降原告商品(一)及び(二)を製造販売し、その形態のムラオの商品表示としての周知性を承継し、同五八年九月頃までには、その形態の原告の商品表示としての周知性を取得するに至った旨主張するので、原告の右主張について判断する。

(一) まず、原告の原告商品(一)及び(二)の形態に関する主張について検討するに、前示争いのない事実によれば、原告商品(一)は、中折れ式留め金具であって、その形態は、別紙図面(一)のとおりであり、また、原告商品(二)は、差込み式留め金具であって、その形態は、同図面(二)のとおりであるというのである。ところで、原告代表者村尾昌美は、その本人尋問の結果中、原告商品(一)及び(二)の右形態は、前示原告主張のとおりの特徴を有する旨供述するところ、仮に右供述のとおりであるとしても、《証拠省略》を総合すれば、(1)原告商品(一)及び(二)は、いずれもネックレス又はブレスレットに装着する留め金具という付属品であって、その商品の性質上、大きさにも限度があり、また、形態的にも本来目立たないものであること、(2)原告商品(一)及び(二)のような留め金具は、留め金具という用途上、形態よりも、むしろ、材質、安全性及び装着のし安さなどが重視され、それが商品の価値を決定するものであって、これらの点に着目して取引されること、(3)原告商品(一)及び(二)のような中折れ式又は差込み式の留め金具自体は、原告商品(一)及び(二)が製造販売される前から、ネックレスの輸入に伴い、我が国においても知られるようになり、次いで、単体でも、輸入販売されたり、我が国の業者において製造販売されたりするようになったこと、以上の事実が認められ、右認定の事実によれば、原告商品(一)及び(二)の形態は、それ自体、商品の出所を表示する機能を有するような特徴的なものであるとは認められない。

(二) 次に、原告の原告商品(一)及び(二)の販売に関する主張について検討するに、《証拠省略》によれば、ムラオ又は原告は、昭和五三年以降、三〇社以上のネックレス又はブレスレットの製造販売業者に対し、相当数の原告商品(一)及び(二)を販売したことが認められる。右認定の事実によれば、原告商品(一)及び(二)を購入してきたネックレス又はブレスレットの製造販売業者の中には、原告商品(一)及び(二)を見れば、形態上、それが原告の製造販売する商品であると認識することのできる者がいるであろうことは、推認するに難くないところである。しかし、前(一)の原告商品(一)及び(二)の形態に関する認定判断に照らすと、右の販売状況から直ちに、原告商品(一)及び(二)の形態が、原告の商品の出所を表示するものとして広く認識されるに至ったものと認定することは困難である。

(三) 更に、原告の原告商品(一)及び(二)の広告宣伝に関する主張について検討するに、《証拠省略》によれば、(1)ムラオは、原告設立前、自社のカタログ及び業界誌などにおいて、ムラオのネックレス及びブレスレットの広告をしており、そのネックレス及びブレスレットには、留め金具が装着されているが、どれが原告商品(一)及び(二)であるのかが判然とせず、ひいては、その形態も判然としないこと、(2)ムラオは、原告設立後、業界誌において、ネックレス及びブレスレットの広告をしており、そのネックレス及びブレスレットには、留め金具が装着されているが、原告の商品として留め金具の広告をしているものでもなく、広告の記載上もどれが原告商品(一)及び(二)か判然とせず、ひいては、その形態も判然としないこと、(3)ムラオ及び同業他社が一緒になって、原告設立後、業界誌において、ネックレス及びブレスレットの広告をしているが、広告の記載上、留め金具の形態が判然としない広告であること、(4)原告設立後に発行された業界誌の中には、ネックレスの広告が掲載されているものがあるが、広告の記載上、留め金具が原告の商品であるかどうかも判然としない広告であること、以上の事実が認められる。右認定の事実によれば、原告商品(一)及び(二)が、広告宣伝などにより、原告設立前既に、ムラオの商品表示として周知性を取得するに至ったとも、また、原告設立時以降、原告の商品表示として周知性を取得するに至ったとも認められない。

(四) 原告は、前示のとおり、原告商品(一)及び(二)の形態は、原告設立前既に、ムラオの商品表示として周知性を取得するに至り、次いで、原告は、その設立時以降、右形態のムラオの商品表示としての周知性を承継し、昭和五八年九月頃までには、その形態の原告の商品表示としての周知性を取得するに至った旨主張するので、審案するに、原告が、その設立時以降、原告商品(一)及び(二)の形態のムラオの商品表示としての周知性を承継したことを認めるに足りる証拠はなく、かえって、《証拠省略》によれば、(1)ムラオは、ネックレス及びブレスレットを製造販売してきたところ、その付属品である留め金具を別個に製造販売することとしたが、ムラオのまま販売すると、販売先が競業関係にある同業者になることから、ムラオとは別の販売会社を設立して同会社が販売することにする方が、業界にスムーズに参入することができるとの配慮により、原告を設立したものであること、(2)原告は、右のような配慮から、むしろ、ムラオの子会社であることを表に出さないで、独自に営業をしてきたこと、以上の事実が認められ、右認定の事実によれば、仮に原告商品(一)及び(二)の形態が、原告設立前既に、ムラオの商品表示としての周知性を取得していたとしても、原告が、その設立時以降、右形態のムラオの商品表示としての周知性を承継したものと認めることは困難である。

(五) 以上の認定判断を総合すると、原告商品(一)及び(二)の形態が、それぞれ原告の商品表示として広く認識されるに至ったものと認めるのは困難であるといわざるをえない。

なお、原告は、甲第一七号証の一ないし四を提出しているところ、同号証は、いずれも原告の同業者の作成名義の報告書であって、これには、原告商品(一)及び(二)は、業界においては、原告の留め金具として広く知られている旨記載されていることが認められる。右記載内容によれば、右甲号各証の作成名義者は、原告商品(一)及び(二)の形態は原告の商品表示としての周知性を有するものと認識しているものと解されるが、前項までの認定判断に照らすと、これを裏付けるに足りる的確なる証拠はなく、かえって、そのほかの証拠上、原告商品(一)及び(二)の形態が、それぞれ原告の商品表示として広く認識されるに至ったものと認めることは困難であるというほかはない。

3  次に、原告は、被告会社両名は、原告商品(一)及び(二)と形態を同一にする被告商品(三)ないし(五)を販売、拡布、又は輸出して原告の商品と混同を生ぜしめている旨主張するが、右主張事実を認めるに足りる証拠はなく、かえって、《証拠省略》によれば、原告商品(一)及び(二)又は被告商品(三)ないし(五)のような留め金具の購入者は、ネックレス及びブレスレットの製造販売業者であり、また、その相手方は、留め金具の製造販売業者である原告又は被告会社両名であり、その取引は、両者間において直接行われてきたものであることが認められ、右認定の事実によれば、右留め金具の取引においては、取引者間において相互に相手方を誤認するおそれがあるとは認められず、したがって、形態の同一性の故に出所の混同が生じるおそれがあるとは認められない。

4  以上によれば、原告の被告会社両名に対する主位的請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないものというべきである。

二  被告小室に対する請求

原告の被告小室に対する主位的請求は、被告小室が被告会社両名の不正競争行為を教唆、幇助したということを理由とするものであるところ、被告会社両名の不正競争行為が認められないことは、前説示のとおりであるから、その前提を欠き、理由がないものというべきである。

第二原告の予備的請求について

一  被告会社両名に対する請求

1  原告は、被告会社両名は、原告商品(一)及び(二)と同一の商品を製造販売しようと企て、同一の商品である被告商品(三)ないし(五)を製造販売するようになった旨主張するので、審案するに、仮に被告商品(三)の形態が原告商品(一)の形態と同一であり、また、被告商品(四)及び(五)の形態が原告商品(二)の形態と同一であるとしても、被告商品(三)ないし(五)を製造販売する行為が不正競争行為を構成しないことは、前説示のとおりである。その他同一形態の商品の製造販売行為自体が不法行為を構成することを理由あらしめるに足りる事実についての主張立証はない。

2  次に、原告は、被告会社両名は、原告商品(一)及び(二)の製造販売に関する情報を入手し、材料などについても原告商品(一)及び(二)と全く同一の商品を製造販売しようと企図して、被告小室を勧誘し、被告平田寳飾工藝株式会社に入社させ、被告小室をして、原告商品(一)及び(二)の製造技術及び形態に関する知識を提供させて、原告商品(一)及び(二)と全く同一の被告商品(三)ないし(五)の製造販売に加担せしめた旨主張する。そこで、右主張について検討するに、原告のいう原告商品(一)及び(二)の製造技術及び形態に関する知識というのが、どのようなものであるのかその具体的な内容が明らかではないので、それが被侵害利益として法的に保護されるべきものであるかどうかを判断することができない。また、被告会社両名が、原告商品(一)及び(二)と全く同一の商品を製造販売しようと企図して、被告小室を勧誘し、被告小室をして原告商品(一)及び(二)と全く同一の被告商品(三)ないし(五)の製造販売に加担せしめたとの事実を認めるに足りる証拠はなく、かえって、《証拠省略》によれば、(1)被告小室は、原告の取締役として営業を担当していたところ、昭和五九年七月、原告代表取締役村尾昌美に対し、役員報酬として一〇〇万円の支払いを要求したが、右村尾の承諾を得られなかったことから、結局、原告を退職することにしたこと、(2)被告小室は、原告を事実上退職した後、被告平田寳飾工藝株式会社の誘いを受けて、同年九月、同被告会社に入社し、留め金具の製造を担当するようになったこと、以上の事実が認められ、右認定の事実によれば、被告小室が原告を退職したのは、右被告会社の勧誘によるものではないことが認められる。

3  また、原告は、被告会社両名は、原告の得意先その他の業者に対し、被告商品(三)ないし(五)を原告商品(一)及び(二)よりも格安で購入することができる旨勧誘した旨主張するが、仮に被告会社両名が右のような勧誘をしたとしても、それが通常の営業行為の範囲を逸脱して不法行為を構成するものと認めるに足りる事実について主張立証はない。

4  更に、原告は、被告会社両名は、「ジュエリーパーツ創作」、「パーツショップ一二〇〇」なる営業表示を用いて、被告商品(三)ないし(五)を販売した旨主張するので、審案するに、《証拠省略》によれば、「ジュエリーパーツ」とは、ネックレスやイヤリングの部品を意味する用語であることが認められ、右認定の事実によれば、「ジュエリーパーツ」という語を用いたからといって、それが原告の商号を意味するものとは認められず、また、「パーツショップ一二〇〇」という語は、それ自体、原告の商号と異なるものであることは明らかであるから、被告会社両名が右のような営業表示を用いたことが不法行為を構成するものとは認められない。

5  更にまた、原告は、被告会社両名から勧誘を受けた業者の中には、原告から原告商品(一)及び(二)を購入することを取り止め、被告会社両名から被告商品(三)ないし(五)を購入する者も出てきた旨主張するが、被告会社両名の勧誘が不法行為を構成するものと認めえないことは、前3の説示のとおりであるから、仮に右原告の主張するような事実があったとしても、右事実をもって被告会社両名の不法行為を構成するものと認めることはできない。

6  また、原告は、被告商品(三)ないし(五)の中に不良品が出たため、原告は、原告商品(一)及び(二)について有していた信用をも傷付けられた旨主張するが、原告の右主張事実を認めるに足りる証拠はない。

7  原告主張の事実を総合して考察しても、前項までの認定判断に照らすと、被告会社両名の行為が全体的に不法行為を構成するものと認定することも困難である。

8  以上によれば、原告の被告会社両名に対する予備的請求は、理由がないものといわなければならない。

二  被告小室に対する請求

原告の被告小室に対する予備的請求は、被告小室が被告会社両名の不法行為を教唆、幇助したということを理由とするものであるところ、被告会社両名の不法行為が認められないことは、前説示のとおりであるから、その前提を欠き、理由がないものというべきである。

第三結語

以上のとおりであって、原告の本訴請求は、理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条の規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 清永利亮 裁判官 宍戸充 長谷川浩二)

<以下省略>

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