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東京地方裁判所 昭和61年(ワ)6461号 判決 1991年5月29日

本訴原告・反訴被告 有限会社 東文興産

右代表者代表取締役 東邦文子

<ほか八名>

右九名訴訟代理人弁護士 服部弘志

同 須藤修

同 中島史郎

同 山岸洋

右九名訴訟復代理人弁護士 村田珠美

本訴被告・反訴原告 ニュー新橋ビル管理株式会社

右代表者代表取締役 恵古和伯

同 宇瀬徳彦

右訴訟代理人弁護士 中島茂

同 野田謙二

右訴訟復代理人弁護士 栄枝明典

主文

1(一)  反訴被告有限会社東文興産は、反訴原告に対し、八一万一八四四円及び内金五七万七四二二円に対する昭和六一年三月一日から支払済みに至るまで年一四・六パーセントの割合による金員を支払え。

(二)  反訴被告有限会社東城は、反訴原告に対し、四七三万四七一〇円及び内金三三六万七五四八円に対する昭和六一年三月一日から支払済みに至るまで年一四・六パーセントの割合による金員を支払え。

(三)  反訴被告有限会社東邦物産は、反訴原告に対し、三八六万三〇四八円及び内金二七四万七〇〇七円に対する昭和六一年三月一日から支払済みに至るまで年一四・六パーセントの割合による金員を支払え。

(四)  反訴被告東邦文子は、反訴原告に対し、一〇四八万七二八三円及び内金七四五万八四七一円に対する昭和六一年三月一日から支払済みに至るまで年一四・六パーセントの割合による金員を支払え。

(五)  反訴被告株式会社五常は、反訴原告に対し、一五四万八五五一円及び内金一一〇万一四〇二円に対する昭和六一年三月一日から支払済みに至るまで年一四・六パーセントの割合による金員を支払え。

(六)  反訴被告有限会社黎明は、反訴原告に対し、三三〇万三六八六円及び内金二三四万九七二九円に対する昭和六一年三月一日から支払済みに至るまで年一四・六パーセントの割合による金員を支払え。

(七)  反訴被告有限会社イースト・クラウンは、反訴原告に対し、四九万九六四五円及び内金三五万五三六五円に対する昭和六一年三月一日から支払済みに至るまで年一四・六パーセントの割合による金員を支払え。

(八)  反訴被告株式会社昌平は、反訴原告に対し、一〇六万七三四三円及び内金七五万八五六五円に対する昭和六一年三月一日から支払済みに至るまで年一四・六パーセントの割合による金員を支払え。

(九)  反訴被告有限会社玉山は、反訴原告に対し、一七六万六八〇九円及び内金一二五万五四六四円に対する昭和六一年三月一日から支払済みに至るまで年一四・六パーセントの割合による金員を支払え。

2  本訴原告らの本訴請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は、本訴・反訴を通じて、本訴原告・反訴被告の負担とする。

4  この判決は、反訴原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判(本訴原告・反訴被告を以下「原告」といい、本訴被告・反訴原告を以下「被告」という。)

(本訴事件について)

一  原告ら

1 原告らそれぞれと被告との間において、別紙物件目録記載の区分所有建物についての管理規約(ニュー新橋ビル規約)一六条に基づく昭和五八年一月から同年九月までの間の各原告らの被告に対する主文1の(一)ないし(九)記載のとおりの金額の各管理費及び延滞金支払債務の存在しないことを確認する。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

との判決を求める。

二  被告

1 原告らの被告に対する請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決を求める。

(反訴事件について)

一  被告

1 主文第1項と同旨

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決及び仮執行の宣言を求める。

二  原告ら

1 被告の原告らに対する請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

との判決を求める。

第二当事者の主張

一  争いのない事実関係

1  (当事者の関係等)

原告らは、いずれも別紙物件目録記載の区分所有建物(ニュー新橋ビル。以下「本件ビル」という。)の区分所有者であって、各原告らの専有部分の区画番号、事務所(住宅)階・店舗階の別及び床面積は別紙専有部分目録記載のとおりである。

被告は、昭和四六年三月一日、本件ビルの全区分所有者によって承認された本件ビルの管理規約であるニュー新橋ビル規約(以下、単に「規約」という。)一一条及び一三条の各規定により、本件ビルの管理者に選任されて、管理所有権を有するとともに、規約一二条の規定に基づき、右同日、各区分所有者との間において管理委託契約を締結して、本件ビルの共用部分及び敷地の管理を行う株式会社であり、各年四月一日から翌年三月三一日までを本件ビル管理業務の一事業年度としている。

規約は、右に掲げたほかに、本件ビルの区分所有者らは、管理者が区分所有者らから委託を受けた共用部分及び敷地の管理に要する一切の費用(以下「管理費用」という。)を負担するものとし、管理費用の総額及び各区分所有者が毎月負担すべき金額は区分所有者集会の決議により決定又は変更すること(一六条一項、三項)、各区分所有者は、このようにして定められた各月の管理費を前月二五日までに管理者に対し支払うものとし、これを怠ったときには右期日の翌日から支払日まで年一四・六パーセントの割合による延滞金を支払うものとすること(同条四項、一七条)、共用部分の変更及び敷地利用上の変更(特定の区分所有者のために行うものを除く。)に要する費用(以下「変更費用」という。)は、区分所有者集会の決議により、費用総額、各区分所有者が負担する金額及び支払期日等を決定すること(同条二項)、区分所有者らは、専有床面積の割合に応じて共用部分から生ずる利益を収取すること(一八条一項)、右利益は、各区分所有者が負担する管理費に振替充当すること(同条二項)、規約に規定のない事項については、建物の区分所有等に関する法律によるほか、集会の決議によって決定すること(三〇条)などを規定している。

2  (原告らの管理費支払債務の発生)

昭和五七年度(昭和五七年四月一日から昭和五八年三月三一日まで)に本件ビルの区分所有者らが負担すべき管理費の月額は、昭和五七年四月二三日に行われた第二二回区分所有者集会における決議により、事務所(住宅)階の区分所有者は専有床面積一平方メートル当たり一六〇三円の割合による金員、店舗階の区分所有者は専有床面積一平方メートル当たり二二九三円の割合による金員と定められた。

また、昭和五八年度(昭和五八年四月一日から昭和五九年三月三一日まで)に本件ビルの区分所有者らが負担すべき管理費の額は、昭和五八年六月二八日に行われた第二四回区分所有者集会における決議により、前年度と同額とするものと定められた。

したがって、原告らは、被告に対して、昭和五八年一月から同年九月までの分の本件ビル管理費として、各専有部分の種別及び床面積に従い、それぞれ別紙管理費及び延滞金明細表記載の各納入期日に各延滞金額欄記載のとおりの管理費を支払うべき債務を負担するに至った(なお、昭和五八年度及び昭和五九年度の各決算の審議のために開催された区分所有者集会において、各年度末の決算残を各区分所有者に還元する旨の決議がなされ、原告らに対する還元金については、別紙管理費及び延滞金明細表記載のとおり、各管理費の延滞金に充当された。)。

3  (被告による収益金の変更費用等への振替充当及び繰越処理)

他方、被告は、昭和五〇年度から昭和五八年度までの間に、設備新、増設による新規資産取得費用として合計三六六一万五七九〇円、機械設備修繕費用として合計一億四五五六万九七〇〇円、営繕関係費用として一億三〇八六万八〇〇〇円(以上合計三億一三〇五万三四九〇円)を、昭和五八年度に共用部分の変更費用として九一〇〇万円をそれぞれ支出したが、区分所有者らからはこれら費用を直接徴収することなく、昭和五〇年度から昭和五八年度にかけて共有部分を駐車場として賃貸するなどして得られた収益金を右各費用に振替充当する会計処理をした。

また、被告は、各事業年度毎に収益金の一部を各区分所有者に分配することなく繰越処理をし、昭和五八年度末(昭和五九年三月三一日)時点における収益金の繰越額は一億九六〇七万五四九一円であった。

さらに、被告は、昭和五八年度末(昭和五九年三月三一日)までに、昭和五二年度から昭和五七年度までの分の損害保険引当金(自社保険積立金)として四〇一八万七〇〇〇円を計上し、これに相当する額の収益金を内部保留した。

4  (区分所有者集会決議)

被告は、昭和五〇年度の決算及び昭和五一年度から昭和五八年度までの各年度の決算及び予算について、それぞれ各年度毎に各区分所有者に対して区分所有者集会招集通知を送付して決算案及び予算案を提示し、そのすべてについて区分所有者集会において区分所有者及び議決権の各過半数による承諾決議を得て、各区分所有者に対し右決議内容を通知した。

そして、右各区分所有者集会においては、前項記載のとおりの新規資産取得、機械設備修繕及び営繕関係のために費用を支出すること並びに収益金について前項記載のとおりの会計処理をすることが議案として提示され、いずれも原案どおり承認されている。

二  原告らの主張

1  (原告らの収益金分配請求権)

区分所有者らは、所有権に基づく果実収取権として、本件ビルの共有部分から生ずる利益である収益金の分配を受ける権利を有し、右権利は個別かつ可分の金銭債権であるから、区分所有建物の共同利用調整のための団体法的制約に拘束される余地はなく、区分所有者の多数決によってもこれを奪うことはできない。

そして、収益金の分配時期については法律上も規約上も明文の規定がないが、管理事務の委任の趣旨に照らして、被告は収益金が生じたときにはこれをおそくとも当該事業年度末に各区分所有者に対して分配しなければならないと考えるべきである。これに対する例外は、規約一八条二項の規定に基づく収益金の管理費用への振替充当のみであって、収益金を変更費用その他の費用に振替充当し、次年度に繰り越し、あるいは内部保留することによって、収益金を各区分所有者に分配しないことは許されない。

2  (収益金の変更費用等への振替充当・繰越処理の違法無効)

管理費用は、通常のランニング・コストをいい、変更費用はこれに含まれない。被告が収益金をもって振替充当した前記の新規資産取得費用は資本的支出の性質を有し、機械設備修繕費用及び営繕関係費用は共用部分の改良に要する費用の性質を有し、いずれも変更費用に該当するものであって、収益金をこれらの費用に振替充当することは許されない。

ところが、被告は、前記のとおり、合計六億四〇三一万五九八一円の収益金について、変更費用への振替充当、次年度繰越及び内部留保を行い、これを区分所有者らに分配しなかったものであって、右のような会計処理は、いずれも規約に違反し、無効なものである。

したがって、原告らは、右収益金合計六億四〇三一万五九八一円について本件ビルの専有部分床面積合計二万五六二二・八六平方メートルに対する各原告らの専有部分床面積の割合に応じた額の具体的な収益金分配請求権を有するものというべきであり、原告らが分配請求権を有する収益金の額は、原告有限会社東文興産六九万九二二〇円、原告有限会社東城四〇七万七八七二円、原告有限会社東邦物産三五五万五八三〇円、原告東邦文子九二六万二三〇三円、原告株式会社五常一三三万三七一七円、原告有限会社黎明二八四万五三六四円、原告有限会社イースト・クラウン四三万〇三二七円、原告株式会社昌平一一四万九五四〇円、原告有限会社玉山一九八万八七〇五円となる。

3  (収益金分配請求権との相殺による管理費支払債務の消滅)

そこで、原告らは、昭和五八年九月一六日頃、被告に対して、原告らの被告に対する昭和五八年一月から同年九月までの間の本件ビル管理費支払債務と被告の原告らに対する収益金分配債務を対当額で相殺する旨の意思表示をし、これによって原告らの被告に対する右管理費支払債務は消滅した。

4  (結論)

よって、原告らは、本件請求として、各原告らの被告に対する昭和五八年一月から同年九月までの間の管理費及びその延滞金の支払債務の存在しないことの確認を求めるものであり、原告らに対して右管理費及び延滞金の支払いを求める被告の反訴請求は理由がない。

二  被告の主張

1  (収益金分配請求権の抽象性)

区分所有建物においては、分割のできない区分所有権の有機的な集合体である区分所有建物の存続・維持をはかるという社会的経済的要求があるから、各区分所有者の権利は、本質的に団体法理による制約を免れず、区分所有者らが共有部分から生ずる利益を共用部分の持分に応じて収取できる権利も、区分所有者集会においていかなる時期にいかなる範囲で各区分所有者に分配されるかが決定されてはじめて配分を求める具体的な権利に転化する抽象的な利益にすぎない。

したがって、原告らは、被告に対して区分所有者集会において分配の決定がされていない収益金の支払いを求める具体的な請求権を有せず、これを自働債権とする原告らの相殺の主張は失当である。

2  (被告の会計処理の適法性)

被告が収益金をもって振替充当した前記の設備新、増設による新規資産取得費用、機械設備修繕費用及び営繕関係費用は、いずれも管理費用に該当するものであるが、仮にこれらの中に変更費用に該当するものが含まれているとしても、規約上、変更費用についての各区分所有者の負担額及び支払期日等は区分所有者集会の決議により決定することとされており(規約一六条二項)、右の支払期日等の中には支払方法(費用徴収方法)も当然含まれるから、区分所有者集会は、その決議をもって、その費用の徴収方法の一つとして共用部分の利用により生じた収益金の振替充当を選択することができるものである。

また、本件ビルのような大規模な区分所有建物においては、経費も多額に上り、支出も日常的とならざるを得ないから、予想される経費等について予算を組んで徴収する方法をとることが必要であるが、その場合、不意の支出や将来の多額の出捐に備えて剰余金が出るように予算を組むことはむしろ望ましいことであって、剰余金が最終的には区分所有者集会の決議に基づき支出される限り、各年度の剰余金を次年度以降に繰り越すことは当然に許される。

そして、被告は、右の各費用等を支出すること、費用徴収の方法として共用部分の利用により生じた収益金を振替充当すること、繰越金及び損害保険引当金を計上することについて、すべて区分所有者集会の決議による承認を得ているのであって、被告らの会計処理にはなんら違法、不当な点はない。

3  (費用等請求権と収益金分配債務との相殺)

仮に右主張が理由がないとしても、収益金の振替充当、繰越処理及び内部留保は、費用支払債務と収益金分配債務との相殺処理としてとらえることもでき、したがって、被告は、各事業年度の区分所有者集会における予算の承認決議若しくはその通知又は決算の承認決議若しくはその通知によって相殺の意思表示をしたものというべく、原告らの被告に対する収益金分配請求権は、これによって消滅したというべきである。

4  (結論)

よって、原告らは、昭和五八年一月から同年九月までの間の管理費及びその各支払期日の翌日からの延滞金中決算残による充当分を控除した残額を支払う義務があるから、被告は、反訴請求として、原告らに対して、その支払いを求めるものであり、右債務の不存在の確認を求める原告らの本訴請求は理由がない。

理由

一  原告らの被告に対する昭和五八年一月から同年九月までの間の管理費支払債務の発生については前記のとおり当事者間に争いがなく、したがって、本訴・反訴各請求の成否は、もっぱら原告らが主張する収益金分配請求権と右管理費支払債務との相殺の可否にかかるものである。そして、原告らは、被告が区分所有者集会における決議に基づいて新規資産取得費用、機械設備等修繕費用及び営繕関係費用として三億一三〇五万三四九〇円を、変更費用として九一〇〇万円をそれぞれ支出したことや、損害保険引当金として四〇一八万七〇〇〇円を計上したこと自体の適否を問うものではなく、ただ、右費用等への振替充当、繰越処理又は引当金計上を理由に共用部分の利用により生じた収益金合計六億四〇三一万五九八一円が区分所有者らに現実に分配されなかったことが規約に違反する無効な会計処理であるとして、原告らは、被告に対して、その専有床面積の割合に応じて、右収益金の具体的な分配請求権を有すると主張して、右請求権と前記管理費支払債務との相殺を主張するものである。

そこで、原告らがその主張のような具体的な収益金分配請求権を有するものであるかどうかについて検討する。

二  規約一八条一項は、「区分所有者は、専有床面積の割合に応じて、共用部分から生ずる利益を収取する。」として、共用部分からの利益を収取する主体及び収取する割合を明らかにしているが、その分配方法又は分配時期については、同条二項が「前項の利益は、各区分所有者が負担する管理費用に、それぞれ振替充当する。」と規定するほかは、規約上には直接の規定はない。

ところで、区分所有建物においては、各区分所有者は、一棟の建物の一部を構成する専有部分に対して排他的な所有権を有する一方で、専有部分がその機能を保つために必要不可欠の補充的機能を営む共用部分に対して有する共有持分については、その分割又は解消を禁止され、専有部分と分離しての処分ができないなど、相互の拘束を受ける関係にある。区分所有者らのこのような関係に照らすと、区分所有者らの間には、一種の人的結合関係が性質上当然に成立しており、各区分所有者は、右結合関係に必然的に伴う種々の団体的拘束を受けざるを得ない関係にあると解するのが相当である。建物の区分所有等に関する法律(建物の区分所有等に関する法律及び不動産登記法の一部を改正する法律(昭和五八年法律第五一号)による改正後のもの。)三条が「区分所有者は、全員で、建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うための団体を構成し、この法律の定めるところにより、集会を開き、規約を定め、及び管理者を置くことができる。」と規定するのも、区分所有者らが性質上当然に団体を構成することを確認的に明らかにするとともに、区分所有者らが建物等の管理を行っていくうえでは右団体内部における法律関係の調整が必要不可欠であることから、その調整方法の一部を明定したものにほかならない。

そして、共用部分から生ずる利益は、先にみたとおり、区分所有者各人がこれを収取するものとされているけれども、共用部分の利用による収益金が生じるためには、先ず、規約又は区分所有者集会の決議において、共用部分の管理の一環として収益源となる事業を行うことについての区分所有者らの団体内の意思決定がなされ、それに基づき、区分所有者ら又はこれから委任を受けた管理者が区分所有者らの団体の事業として共用部分を第三者の利用に供してその対価を徴収し、右対価からそれを得るために区分所有者ら又は管理者が支出した経費、費用等を差し引くなど、一連の団体的な意思形成と業務遂行をとおして得られる性質のものであることを考え合わせると、共用部分そのものではないそこから派生した利益を収取する権利も、団体的拘束から自由ではないのであって、各区分所有者らは、収益の発生と同時に当然に即時これを行使することができるといった性質のものではなく、結局、共用部分から生じた利益は、いったん区分所有者らの団体に合有的に帰属して団体の財産を構成し、区分所有者集会決議等により団体内において具体的にこれを区分所有者らに分配すべきこと並びにその金額及び時期が決定されてはじめて、具体的に行使可能ないわば支分権としての収益金分配請求権が発生するものというべきである。

原告らは、共用部分から生ずる利益の管理費用への振替充当について規定する規約一八条二項を根拠として、収益金は右規定に基づき管理費用に振替充当した場合を除いて、すべて各区分所有者に分配されるべきであると主張するけれども、右条項の趣旨は、各区分所有者が区分所有者らの団体に対して負担する債務のうちで最も基本的なものであり、継続的・定期的に負担することが当然予想される債務である管理費用については、区分所有者集会における決議をまたずに直接同項の規定に基づき収益金を管理費用に振替充当する処理をすることができることを定めたものにすぎず、区分所有者集会の決議により収益金の会計処理として変更費用への振替充当や次年度への繰越をすることなどを禁ずるものではないことは明らかである。

また、原告らは、区分所有者集会の決議に基づき収益金を各区分所有者らに分配しない形での会計処理が行われたことをもって、多数決によって原告らが有する権利を奪うものであると主張するけれども、収益金の分配請求の内容、方法等については規約をもって別段の定めをすることができ(建物の区分所有等に関する法律一九条参照)、共用部分から生ずる利益の分配を求める権利が具体的に行使可能となるためには手続的にも内容的にも団体的な意思形成が必要であることは、右権利自体に内在する制約であるというべきである。そして、右の会計処理は、収益金を区分所有者らに分配しないこととする一方、区分所有者集会の決議に基づいて既に行われた修繕等について区分所有者らが負担すべき費用や将来の修繕等に備えて区分所有者らが積み立てるべき積立金・保険金等を個別に徴収しないこととするものであって、各区分所有者が区分所有者としての地位に基づき受ける利益を減じ又は負担を増すものではないのであるから、収益金を享受すべき主体及び割合を規定した規約一八条一項の規定に抵触するものではない。

三  したがって、原告らが主張するような具体的に行使可能な債権としての収益金分配請求権はこれを肯認することはできず、これを自働債権とする相殺により本件管理費支払債務が消滅したとする原告らの主張は、その余の点を判断するまでもなく、理由がない。

以上によれば、原告らに対して昭和五八年一月から同年九月までの間の本件ビルの前記管理費及びその各支払期日の翌日からの延滞金中決算残による充当分を控除した残額の支払いを求める被告の反訴請求は理由があるからこれを認容し、原告らの本訴請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法八九条及び九三条、仮執行の宣言については同法一九六条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 村上敬一 裁判官 小原春夫 徳田園恵)

<以下省略>

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