大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和61年(ワ)15970号 判決 1992年5月29日

原告

甲野太郎

右訴訟代理人弁護士

仲田晋

岡田克彦

清水恵一郎

鴨田哲郎

被告

安田生命保険相互会社

右代表者代表取締役

岡本則一

右訴訟代理人弁護士

中川幹郎

宇田川昌敏

太田恒久

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者双方の申立て

一  原告

1  被告は原告に対し、別紙1賃金目録「賃金額」欄記載の各金員及び別紙2賞与目録「金額」欄記載の各金員並びにこれらに対する各所定支給日の翌日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行の宣言。

二  被告

主文と同旨。

第二  当事者双方の主張

一  請求の原因

1  原告は、生命保険の募集等を業とする被告の従業員であり、同時に、昭和四七年に被告の従業員の一部をもって組織された全安田生命労働組合(当初は安田生命営業管理職員労働組合と称したが、昭和六〇年九月に全安田生命労働組合と改称した。以下「全労組」という。)の執行委員長の地位にある。

2  被告と全労組及び被告と原告とは、昭和四八年九月二七日、被告が原告を全労組の事実上の組合専従者として認めると共に、原告に対して所定の賃金を支払う旨の合意(以下「四八年合意」という。)をした。四八年合意は、労働協約の文言とは関わりのない職場発令のままの有給専従の合意又は協約上の時間内組合活動に対する事前包括同意の合意であって、将来労働協約で無給専従の定めがされた場合でも影響を受けないものとして成立したものである。

そして、原告は、同年一〇月一五日以来、神奈川県藤沢市所在の湘南支社に職場発令のまま、被告に対して全く労務を提供することなく、住居も東京都内に移転し、被告から提供された東京都新宿区所在の組合事務所で終日組合業務に専従する状態が続き、その間、一三年間にわたって被告から賃金の支払を受けてきた。

3  ところが、被告は、昭和六一年一二月五日以降、四八年合意は失効したものとして、原告に対する賃金の支払を拒否している。

4  昭和六一年一二月五日から平成四年一月末までの原告の賃金及び賞与は、別紙1賃金目録及び2賞与目録記載のとおりであり(別紙3及び4がその計算式)、その支払方法は、毎月末日締めの翌月一五日払である。

5  よって、原告は被告に対し、前記申立て記載のとおりの判決を求める。

二  被告の認否及び抗弁

1  請求の原因1は認める。同2のうち、四八年合意の成立は否認するが、原告が被告に対して労務を提供することなく全労組の組合業務に専従してきたこと、被告が原告に対して一三年間にわたり賃金を支払ってきたことは、いずれも認める。ただし、原告は当初から組合業務に専従していた訳ではないし、被告が労務を提供しない原告に対して長期間にわたり賃金の支払をしてきたのは、労働協約の締結による是正を企画しつつ時間が遷延したことに起因する。同3は認める。同4のうち、賃金の締め及び支払日は認め、その余は否認する。

2  被告と全労組とは、昭和五九年一〇月一日付けで労働協約(以下「五九年協約」という。)を締結したが、その八条一項で組合専従者を置くことを認めると共に、同条二項一号で組合専従者は、「専従期間中は無給休職とする」ことを定めたことにより、全労組の執行委員長である原告の取扱いを変更することが決定されたものである。

3  仮に、四八年合意が五九年協約の定めに関係なく効力を認められるものとしても、被告は、昭和六一年九月二日付け文書で、有効期間の定めのない労働協約の解約手続きに準拠し、九〇日以上の予告期間を置いて、原告が引き続き組合業務に専従するのであれば同年一二月五日以降は無給とする旨を通告したから、四八年合意は解約によって消滅した。

三  被告の抗弁に対する原告の認否及び主張

1  抗弁のうち、五九年協約が締結されたこと及び昭和六一年九月二日付け文書によって無給とする旨が通告されたことは、いずれも認めるが、その余は否認する。

2  五九年協約は、心裡留保として無効である。

(一) 被告には、全労組の結成当時、他にも三つの労働組合があったが、これらの労働組合と被告との間では、組合専従者については無給とする旨の労働協約が締結されていたにもかかわらず、長年の間、有給専従の扱いがされてきた。原告が四八年合意に基づいて全労組の有給専従となったのも、他の労働組合における右のような実情を踏まえたものであり、しかも、全労組の組合代表者に被告の本社近くに常駐して欲しいとの被告の要請によるものであった。

(二) 五九年協約中の組合専従者に関する条項は、他の労働組合との間で締結されていた従前の労働契約と同じ文言であって、労使の双方共に、専従者については労働協約の文言に拘らず従来どおりの取扱いとするとの前提で調印したもので、被告と全労組との間で四八年合意が再確認されたのである。

このことは、五九年協約の締結交渉の過程において、被告から従前の取扱いを改める旨の意思表示が全くされなかったこと、全労組からも、その点を確認する質問も全くされず、異議や留保も述べられなかったことによって明らかである。いいかえれば、全労組と被告との間には、五九年協約の前後を通じて、有給専従を定めた労働協約は存在しないにも抱らず、昭和六一年一一月までは原告に対して賃金が支払われてきたのであって、有給専従の協約がないことは、それまで支払われてきた賃金の支払を停止することの根拠とはならないのである。

(三) 仮に、被告が五九年協約によって従来の取扱いを変更しようとの意図を有していたものとすれば、それは、労使間の信義にもとる騙し打ちであり、全労組への不当労働行為意思の明白な現れである。全労組が四八年合意の解約となる五九年協約を文言どおり受け入れるはずがないことは、被告が最もよく知っているところであり、だからこそ、被告は、交渉の過程でも原告の今後の取扱いについては何ら触れなかったのであり、五九年協約の締結後も放置していたのである。

(四) したがって、五九年協約は、民法九三条ただし書きにより無効である。

3  被告と全労組との間において、五九年協約は原告に対して適用しないとの合意が成立している。

五九年協約は、就業規則の全面改定と統一労働協約の締結という被告の長年の願望実現のために、昭和五七年ころから交渉が重ねられていたものである。この交渉過程で、四八年合意に基づき現に有給専従として活動している原告の取扱いについては、被告からも全労組からも、全く触れられることがなかった。この点に触れてしまえば、全労組が反対することは明白であり、統一労働協約の締結が不能となるからである。仮に五九年協約が有効であるとしても、原告の取扱いについては、四八年合意を変更する何らの合意も形成されていないし、他の三つの労働組合のいずれも、現在享受している権益を下回ることはないとの前提で労働協約を締結したものである。したがって、原告については、四八年合意が五九年協約に優先して適用されるもので、五九年協約の適用を除外する旨の合意が成立しているものである。

4  四八年合意によって、原告と被告との間の労働契約は、原告が全労組の執行委員長である限りは労働義務を免除し且つ賃金を支給する内容のものとなった。かかる労働契約において最も重大な労働条件である賃金を不支給とすることは、労働条件の重大な不利益変更であって、原告の同意を必要とするものである。しかし、原告が同意をしていないことは明らかであるから、同意なき不利益変更としての賃金不支給は無効である。

5  五九年協約を根拠とする賃金不支給は不当労働行為である。全労組と被告との間の労使関係は、不当労働行為の歴史そのものであり、統一労働協約の締結の動きも、活発な組合活動を展開していた全労組の壊滅作戦の一環として位置づけられるものである。したがって、被告が右の結果として締結された五九年協約を根拠にして従来支払われてきた原告の賃金の支払を拒否することは、全労組に対する不当労働行為として許されない。

6  四八年合意は、労働協約に準ずる規範性を有しているのであって、これを一方的に破棄するには十分に合理的な理由と相応の手続きを要し、これを欠く一方的な破棄の通告は許されず、更に、全労組及び原告の受ける不利益の程度とも比較衡量し、総合的に勘案する必要がある。しかるに、被告は、四八年合意を破棄する理由ないし必要については全く説明していないし、交渉、協議という手続きも踏んでいない。他方、これによって受ける全労組ないし原告の受ける不利益は極めて甚大である。昭和六一年度の全労組の組合費収入(予算)は約二〇〇〇万円であって、これで九百数十万円に達する原告の年収を賄うことは不可能だからである。したがって、被告がした四八年合意の破棄通告は無効である。

四  原告の主張に対する被告の認否

原告の主張は、いずれも否認ないし争う。

理由

一争いのない事実

原告が生命保険の募集等を業とする被告の従業員であること、全労組が昭和四七年に被告の従業員の一部をもって組織された労働組合であって、原告がその執行委員長の地位にあること、その始期は別として、原告が被告に対して労務を提供することなく全労組の組合業務に専従してきたこと、被告が原告に対して昭和六一年一一月までの一三年間にわたり賃金の支払をしてきたこと、被告と全労組との間で、昭和五九年一〇月一日付けをもって、組合専従者につき「専従期間中は無給休職とする」ことを定めた五九年協約が締結されたこと、被告が原告に対して昭和六一年一二月五日以降の賃金を支払っていないことは、いずれも、当事者間に争いがない。

二四八年合意の法的性質、効力

原告は、被告が全労組の執行委員長として組合業務に専従する原告に対し一三年間にわたり賃金の支払をしてきたのは、被告と全労組及び被告と原告との間で、その支払を約する四八年合意が成立したことによるもので、右合意は労働協約の文言とは関わりのない職場発令のままの有給専従の合意又は協約上の期間内組合活動に対する事前包括同意の合意であって、将来労働協約で無給専従の定めがされた場合でも影響を受けないものとして成立した旨を主張し、これに対し、被告は、四八年合意の成立を争うと共に、仮に右合意が有効に成立したとしても、五九年協約の締結により原告の取扱いが変更され、そうでないとしても、昭和六一年九月二日付け文書でした通告により四八年合意は解約されたものと主張する。

右のように、被告は、仮定的ではあるが、四八年合意が有効に成立したことを前提とした上でその消滅事由について主張しているので、以下では、右仮定主張中の解約の成否について判断することとする。

1  原告は、先ず、四八年合意は労働協約の文言とは関わりのない職場発令のままの有給専従の合意であって、将来労働協約で無給専従の定めがされた場合でも影響を受けないものとして成立したと主張する。

しかし四八年合意が書面に記載されて被告と全労組の双方により署名又は記名押印されたものでないことは、原告の主張自体によって明らかであるから、右合意に労働協約としての効力を認める余地がないことはいうまでもなく(労組法一四条参照)、したがって、仮に何らかの法的効力を認めることができるとしても、被告と原告との間では労働協約に付随する特別な合意としての効力を、被告と全労組との間では単純な私法上の契約としての効力を、それぞれ、認め得るに過ぎないものというべきである。しかも、四八年合意の内容は、被告に対して労務を提供することなく全労組の組合業務に専従する原告に対して被告が賃金の支払をするというものであって、原告との関係では、書面によらない贈与としての実質を有するものというほかはないし、(なお、原告の主張中には、原本の存在及び成立に争いのない甲第九号証をもって、被告が有給専従の合意を認めた文書であるかのように述べた部分があるが、同号証は、被告が組合業務に専従する原告に対して賃金の支払をするに至った事情ないし経過を説明した不当労働行為請求事件についての準備書面に過ぎないから、これをもって、有給専従の合意すなわち被告の贈与意思を明らかにした書面と解することはできない。)、全労組との関係では、客観的に見て、労組法七条三号により不当労働行為として禁止された経理上の援助に当たることを免れ得ないものであるから、被告は、原告と全労組のいずれに対する関係においても、四八年合意を解約し将来に向って賃金の支払を打ち切ることができると解するのが相当である。賃金は本来的に労務の対価として支払われるべきものであって、(労基法一一条参照)、労務の提供なしに賃金の支払のみが約定された本件の場合には、被告としては、賃金に見合う労務の提供を求めることができない以上、原告との関係では、書面によらない贈与の取消を規定した民法五五〇条に従い、賃金支払の合意を解約することができるものと解すべきであるし、全労組との関係では、客観的に見て不当労働行為に当たるべき行為を取り止めることを否定されるべきものではないからである。特に、全労組との関係では、法律の要件を具備した労働協約であっても、有効期間の定めがないか又は有効期間の経過後も期限を定めず効力を存続する旨の定めがある場合には、一定の方式に従い且つ予告期間を置くことによって解約することが法律上認められていること(労組法一五条三項、四項)が参酌されるべきである。四八年合意が単なる私法上の契約であって労働協約としての効力を認める余地のないことは、前記のとおりであるが、更に有効期間の定めがあったことを認めるべき証拠もないから、経理上の援助による不当労働行為の成否はさておくとしても、四八年合意の解約が法律の要件を具備した労働協約の場合よりも制限的に解されるべき理由はないのである。

そして、右に述べたことは、四八年合意が将来労働協約で無給専従の定めがされた場合でも影響を受けないものとして成立したからといって左右されることはないし、また、右合意について原告主張のような動機、経緯があったこと、すなわち、原告が被告に対して労務を提供することなく全労組の組合業務に専従するようになったのが、全労組の組合代表者に被告の本社近くに常駐して欲しいという被告の要請によるものであったこと、賃金の支払が一三年の長期間にわたって続けられてきたことによって、何ら異なるものではない。

したがって、被告は、原告と全労組のいずれに対する関係においても、四八年合意を解約し、将来に向って賃金の支払を打ち切ることができるものというべきである。

2  原告は、また、四八年合意は協約上の時間内組合活動に対する事前包括同意の合意であって、将来労働協約で無給専従の定めがされた場合でも影響を受けないものとして成立したとも主張する。

しかし、昭和五九年以前に被告と全労組との間で労働協約が存在していたことは認められないから、四八年当時に協約上の時間内組合活動に対する何らかの合意が成立する余地はないし、将来における労働協約の締結を前提として事前にその適用に関する包括的な合意をしたことの裏付けとなるべき証拠もない。むしろ、<書証番号略>によれば、昭和五九年一〇月一日付けで締結された五九年協約においては、勤務時間内の組合活動に対して賃金が保証されるのは、全労組の組合員が事前に被告に届け出て特定の会議等に出席するか又は被告の事前の承認を得て特定の組合活動を行う場合に限られている上、いずれの場合にも、組合専従者は明確に除外されていることが認められるのであって、これとの関連で見ると、四八年当時において、右のような五九年協約の内容を予想した上で、組合専従者に対する協約の適用について、しかも協約の適用を除外する方向で事前の合意が成立したものと解することは到底できない。

したがって、四八年合意が協約上の時間内組合活動に対する事前包括同意の合意として成立したものと認めることはできない。

三四八年合意の解約とその効力

1  そこで被告がした四八年合意の解約の意思表示について見ると、<書証番号略>証人斎藤秀夫の証言及び原告本人尋問の結果(第一回)によれば、被告は、全労組との間で五九年協約が締結されたことを受けて、原告について五九年協約八条一項所定の専従者協定を締結するため、全労組に対し、昭和六〇年三月多数回にわたり、経営協議会や団体交渉等において申入れを行い、回答期限を定めた上で専従者協定を締結するか又は被告の業務に従事するかの選択を求めるまでしたが、全労組が従来の状態(原告が被告に対して労務を提供することなく組合業務に専従しつつ被告から賃金の支払を受ける。)の継続を主張するのみで右選択のいずれにも応じなかったことから、被告代表者の記名押印のある昭和六一年九月二日付け文書をもって、全労組の執行委員長たる原告に宛て、原告が全労組の組合業務に専従することを承認すると共に、九〇日後の同年一二月五日から原告の賃金をカットする旨を通告したことが認められる。右賃金カットの通告は、四八年合意が五九年協約の締結後もなお効力を維持していることを前提とした上で、期間の定めのない労働協約の解約手続に準じて、その解約の意思表示をしたと見ることができるものである。もとより、四八年合意が労働協約としての効力を有しないものであることは、前記のとおりであるから、その解約について労働協約の解約を定めた労組法一五条三項、四項に従う必要はない筋合であるが、被告が、より慎重な手続きを採用し、記名押印した文書をもって、しかも九〇日の予告期間を置いて解約の意思表示をしたからといって、その効力を否定されるべきものでないことはいうまでもない。

2  そして、被告と全労組との間で、組合専従者につき「専従期間中は無給休職とする」ことを定めた五九年協約が締結されたことにより、四八年合意と相いれない事態が生起したことは否定することができないので、被告が右事態の発生を受けて四八年合意の解消を求めたとしても、何ら不当とはいえないし、<書証番号略>によれば、被告の従業員をもって組織された全労組以外の三つの労働組合では、原告の主張とは異なり、いずれも、無給専従が実施されていて有給専従の取扱いがされたことはなく、したがって、四八年合意を解約しても特に全労組ないし原告のみを差別扱いすることもなかったことが認められるから、被告が昭和六一年九月二日付け書面でした賃金カットの通告は、原告及び全労組の双方に対する四八年合意の解約の意思表示として有効であると解すべきである。

3  原告は、五九年協約の締結に際して、被告と全労組との間で、四八年合意が再確認されたとか或いは五九年協約を原告に適用しない旨の合意が成立したなどと主張する。

しかし、原告の主張によれば、五九年協約の締結に際しては、四八年合意は問題とされず全く触れられることもなかったというのであるから、その時点において、被告と全労組との間で四八年合意が再確認されたとか或いは五九年協約を原告には適用しない旨の合意が成立したものと認めることはできないし、仮に、原告主張の事実が認められるとしても、労働協約とは別個の合意である四八年合意の解約を妨げるべき事情とはならない。また、原告は、五九年協約について心裡留保、信義則違反或いは不当労働行為などの主張をするが、被告がした四八年合意の解約は、五九年協約の締結を契機としたものではあるが、解約の根拠自体が五九年協約にある訳ではないから、右解約の効力と五九年協約の効力とは直接に関連があるとはいえないし、五九年協約は全労組だけでなく被告における他の労働組合との間でも共通のものとして締結された統一協約であって、しかも、他の労働組合において有給専従の事実がなかったことは、前記のとおりであるから、全労組のみについて原告が主張するような心裡留保、信義則違反或いは不当労働行為などの瑕疵があったものとは考えられない。原告が有給専従が実態として存在していたと主張する他の労働組合が、五九年協約の締結或いはその後の経過において、有給専従を問題にした形跡も認めることはできない。

4  なお、<書証番号略>によると、四八年合意の解約によって原告が無給専従となると、原告或いは全労組にとって経済的に大きな痛手となることが認められるが(原告の主張によると、昭和六一年度の全労組の組合費収入(予算)は約二〇〇〇万円であるのに対し、原告の年収は九百数十万円であって、四八年合意の解約によって受ける全労組ないし原告の不利益は極めて甚大であるとのことである。)、前述したように、組合専従者に対する賃金の支払は、客観的に見て、労組法七条三号により不当労働行為として禁止された経理上の援助に当たることを免れ得ないものであるから、右のような経済上の問題は、もともと被告との関係で解決すべき事柄ではないといわざるを得ない。原告の右主張は、賃金の支払が経理上の援助に当たることを認めるに帰着するものである。また、賃金が労働者にとって最も重大な労働条件であることは、原告の主張するとおりであるが、原告は賃金と対価関係に立つ労務を提供していないのであるから(原告本人尋問の結果(第一回)中には、原告は、有給専従の期間中においても、七割位は被告のために労務を提供していたのが実態であると述べた部分があるが、全労組の組合事務所に詰めながら被告に対してどのような労務を提供していたのかは、全く明らかでない。)、被告から賃金の支払を受けるべき原因を欠くものであって、原告の同意がなければ四八年合意を解約することができないことにはならない。被告が労務を提供することなく組合業務に専従している原告に対して賃金の支払を停止したからといって、労働条件の不利益変更が問題となる余地はなく、原告が被告から賃金の支払を受けるためには、労働契約で定められた労務を提供する以外にないというべきである。

更に、労組法一五条三項、四項が労働協約の解約について一定の方式と予告期間を定めているのみであることに照らすと、原告が主張するように、四八年合意が労働協約に準ずる規範性を有するものとしても(四八年合意が労働協約としての効力を認められないことは、前述したとおりである。)これを解約するには十分に合理的な理由と相応の手続きが必要であるというような解釈を採ることもできない。もっとも、本件では、五九年協約の締結による四八年合意とは相いれない事態の発生という合理的な理由に基づいて、しかも、相当に慎重な手続きを経た上で解約が行われていることは、前述したとおりであるから、解約の根拠及び手続きにおいて問題となるべき事情は見当たらない。なお、被告が昭和六一年九月二日付け書面で四八年合意の解約の意思表示をし原告に対する賃金の支払を打ち切ったことが不当労働行為を構成することを認めるべき証拠はない。

5  したがって、原告が主張するとおり、四八年合意が労働協約の文言とは関わりのない職場発令のままの有給専従の合意として成立し、それが五九年協約の締結後も存続していたものとしても、既に有効に解約されて消滅したことになるから、被告に対して労務を提供することなく全労組の組合業務に専従している原告が被告から賃金の支払を受けるべき権利のないことが明らかである。

四結論

そうすると、原告が昭和六一年一二月五日以降も全労組の組合業務に専従するのみで被告に対して労務を提供していない以上、被告から賃金の支払を受ける権利はないから、本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、失当として棄却されるべきである。

よって、訴訟費用の負担につき、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官太田豊)

別紙1 賃金目録<省略>

別紙2 賞与目録<省略>

別紙3 賃金計算式<省略>

別紙4 賞与計算式<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例