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東京地方裁判所 昭和60年(行ウ)201号 判決 1988年2月23日

原告

會津勇

原告

有限会社玉乃湯

右代表者取締役

大橋淳

高野博

大橋達郎

原告

板井良子

右原告ら訴訟代理人弁護士

三宅弘

山岸和彦

近藤卓史

被告

東京都知事

鈴木俊一

右指定代理人

樋口嘉男

西道隆

羽深昌道

加藤和樹

石坂敏明

主文

1  被告が原告會津に対してした昭和六〇年八月五日付け公文書非開示決定のうち、京葉線新砂町・東京間鉄道建設事業に係る環境影響評価審議会第一部会(合計八回開催)の審議記録(議事概要)の作成の基礎となつた同部会の文書中同部会の審議過程を記載した会議録に相当する文書を除くもの及び同部会に提出された審議資料名が記載された文書に関する部分を取り消す。

2  被告が原告有限会社玉乃湯に対してした同年六月二〇日付け公文書非開示決定のうち、同部会に提出された審議資料及び審議資料名が記載された文書に関する部分を取り消す。

3  原告會津及び原告有限会社玉乃湯のその余の請求並びに原告板井の請求をいずれも棄却する。

4  訴訟費用は、原告會津及び原告有限会社玉乃湯に生じた費用のそれぞれ三分の二と被告に生じた費用の九分の四を被告の負担とし、原告會津及び原告有限会社玉乃湯に生じたその余の費用は各自の負担とし、被告に生じた費用の九分の二は原告會津及び原告有限会社玉乃湯の負担とし、原告板井に生じた費用と被告に生じたその余の費用は同原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求める判決

一  請求の趣旨

1  被告がした、

(一) 原告會津に対する昭和六〇年八月五日付け、

(二) 原告有限会社玉乃湯(以下「原告玉乃湯」という。)に対する同年六月二〇日付け、

(三) 原告板井に対する同年八月五日付け、

の公文書非開示決定をいずれも取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告らの地位

(一) 原告會津

原告會津は、東京都の区域内に住所を有する者である。

(二) 原告玉乃湯

原告玉乃湯は、東京都の区域内に事務所を有する法人である。

(三) 原告板井

原告板井は、東京都の区域内に住所を有する者である。

2  公文書の開示請求

(一) 原告會津

原告會津は、昭和六〇年七月二二日、被告に対し、東京都公文書の開示等に関する条例(昭和五九年東京都条例第一〇九号。以下「公文書開示条例」という。)五条一号に基づき、日本鉄道建設公団(東京支社)による京葉線新砂町・東京間鉄道建設事業(以下「本件建設事業」という。)に係る環境影響評価審議会(東京都環境評価条例(昭和五五年東京都条例第九六号)三四条に基づき設置された都知事の附属機関。以下「審議会」という。)第一部会(①昭和五九年一一月一九日、②昭和六〇年一月一四日、③同年二月一二日、④同月二五日、⑤同年三月一八日、⑥同年四月一一日、⑦同月二五日及び⑧同年五月一〇日の合計八回開催)の審議記録(議事概要)の作成の基礎となつた同部会の文書(審議資料のほか、部会の審議過程を記載した会議録に相当する文書(以下「会議録」という。)を含む。)及び同部会に提出された審議資料名が記載された文書の開示を請求した。

(二) 原告玉乃湯

原告玉乃湯は、昭和六〇年六月六日、被告に対し、公文書開示条例五条二号に基づき、本件建設事業に係る審議会第一部会に提出された全記録(同部会に提出された審議資料、審議資料名が記載された文書及び同部会の会議録のうち委員の出欠を記載した部分)の開示を請求した。

(三) 原告板井

原告板井は、同年七月二二日、被告に対し、公文書開示条例五条一号に基づき、本件建設事業に係る審議会第一部会の会議録のうち委員の出欠を記載した部分の開示を請求した。

3  非開示決定

被告は、原告玉乃湯に対し、昭和六〇年六月二〇日、同會津及び同板井に対し、同年八月五日、原告らが開示請求した前記2の公文書について審議会が非開示とする旨を議決しているので公文書開示条例九条六号に該当するとの理由により、これらをいずれも開示しない旨の決定(以下、「本件各決定」という。)をした。

4  前置手続

原告玉乃湯は昭和六〇年八月一六日、同會津及び同板井はいずれも同月二三日、それぞれ被告に対し、本件各決定について異議申立てをしたが、被告は、昭和六一年一月二三日付けでいずれもこれを棄却する旨決定し、同各決定は同月三一日原告らに到達した。

5  結語

よつて、原告らは、本件各決定の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1ないし4の各事実は認める。

三  抗弁

1  審議会による非開示の議決

(一) 公文書開示条例九条六号前段の趣旨

(1) 公文書開示条例九条六号前段の規定が、合議制機関等の会議に係る審議資料、議決事項、会議録等の情報であつて、当該合議制機関等の議事運営規程又は議決により開示しない旨を定めているものを実施機関が開示をしないことができる文書としたのは、合議制機関の専門性、中立性と、その意思形成に関して独自の微妙な討議の過程を必要とする場合があるので、開示又は非開示の決定を当該合議制機関等の自主的な判断に委ねたものである。

(2) 公文書開示条例九条六号前段の場合、都民等の公文書開示請求に先立ち、非開示にできる情報を包括的に指定するのが一般的であり、後段の場合に実施機関が都民等の開示請求を受けて、当該合議制機関等の公正又は円滑な議事運営が著しく損なわれるか否かを個別的、具体的に判断するのと異なり、非開示とする実質的理由を実施機関において個別的に判断する必要がないものである。

(3) 公文書開示条例制定経過等に関する原告ら主張の後記四の1の(四)の(2)イないしカの各事実は認めるが、いずれも合議制機関等の自主的判断を尊重し、その認識のあり方を示したものに過ぎず、非開示とする公文書を事前に包括的に指定することを妨げるものではない。

(二) 審議状況

審議会は、公文書開示条例が昭和六〇年四月一日から施行されるところから、施行に先立つ同年一月二八日に行われた第七回の会議において、審議会における会議の公開等について審議した。

その審議の内容は、別紙「第七回東京都環境影響評価審議会議事速記録抜粋」記載のとおりである。

(三) 審議会の議決内容

右(二)の審議状況によれば、審議会の議決の内容は、次に述べるとおり、部会における審議資料等のうち、会議要録以外のものはすべて公開しないとする趣旨のものであつた(以下右の議決を「本件非開示議決」ともいう。)。

(1) 審議会は、従前、部会の審議資料等をすべて非公開とする取扱いをしていた。

(2) しかし、審議会は、公文書開示条例が制定、施行されることとなつたため、その趣旨を尊重し、部会の審議資料等のうちで、新たに作成する会議要録のみを特定してこれを開示するものとし、その開示の時期も当該案件についての答申後とする旨議決したのである。

(3) 加えて、従来からの取扱いにおいて、部会の審議資料等がすべて非公開であつたことに鑑みると、従来からの取扱いを変更する部分、すなわち、新たに作成する部会の会議要録を開示するには、この点について審議会の議決をしなければならなかつたことから、開示するもののみを特定し、その余のものは従来どおり非公開として扱うという議決方法が取られたのである。

(4) そうすると、審議会の議決は、会議要録以外の部会の審議資料等の非公開につき、何らの議決をしなかつたものというべきでなく、むしろ、これらの審議資料等については、従来どおり公開しないとの趣旨の議決がされたものである。

2  本件非開示議決に基づく本件各決定の適法性

(一) 公文書開示条例九条本文の趣旨

(1) 東京都が設置した東京都情報公開懇談会は、昭和五九年三月、被告に「情報開示制度確立に向けて―東京都情報公開懇談会提言―」(以下「提言」という。)を提出したが、その一四頁において、「情報開示制度を定める条例において、適用除外事項と守秘義務とを等置するような規定の仕方をする必要はない。したがつて、条例において適用除外事項を定めるときは、『開示しないことができる』情報として規定するのが適当である。しかし、このことは、情報開示制度の運用に当たつて、実施機関の職員に、請求された情報が適用除外事項に該当していてもこれを開示する裁量を認める趣旨ではない。」と述べている。

(2) このような、同条文の制定経緯をみると、同条各号のいずれかに該当する情報が記録されている公文書は、実施機関において、実施機関に開示をしない権限を与えたに止まらず、そもそも開示してはならないこととなるのである。

(二) 本件各決定の適法性

原告らが開示請求をした公文書は、いずれも審議会第一部会の会議要録以外の審議資料等の情報が記録されている公文書であり、知事の付属機関である審議会が、右のとおり公開しない旨の議決をしているものであるから、被告が公文書開示条例九条六号に該当するとして、本件各決定をしたのは適法である。

四  抗弁に対する認否及び原告らの主張

1  抗弁1について

(一) (一)の主張は争う。

(二) (二)の事実は認める。

(三) (三)の事実はすべて否認する。

(四)(1) 審議会規則(昭和五六年規則第七〇号)には、会議及びそれに併う有形情報の公開についての規定がなく、その六条において、「この規則に定めるもののほか、審議会の運営に関し必要な事項は、会長が審議会に諮つて定める」と規定しているが、昭和五六年五月二〇日開催の第一回の審議会において、会長が審議会に諮つて、「審議会は原則として公開とし、特別に非公開とする必要のあるときに非公開とする」と定めて以来、昭和六〇年一月二八日の審議会に至るまで、会長が部会の会議、審議資料、議決事項及び会議録の公開について審議会に諮つたことはない。それゆえ、審議会において部会の会議、審議資料、議決事項及び会議録を非公開とする議決は存在していなかつた。

(2) 合議制機関等が非開示の議決をするに当たつては、個々の公文書を特定し、その内容によつて、開示しない理由を個別的、具体的に判断することを要し、右の議決は、その上で明確にされなければならない。このことは、次のアの憲法等の規定及びイないしカの公文書開示条例制定経過等から明らかである。

ア 「知る権利」は、憲法二一条一項及び市民的及び政治的権利に関する国際規約(以下「B規約」という。)一九条二項の表現の自由の一形態として保障されている。この「知る権利」を制限するには、その制限目的を達するために真に必要と認められる限度に止められるべきであり、制限が許されるのは、具体的事情のもとにおいて、目的を確保するために放置することのできない程度の障害が生ずる相当の蓋然性があることが必要である。公文書開示条例九条六号前段に定める合議制機関等の非開示議決が開示請求されている情報の具体的内容を検討し、これを非開示とすべき実質的理由の有無を検討したうえでされなければならないことは、憲法二一条一項及びB規約一九条二項によつて保障されている国民の「知る権利」が侵害されることのないように最小限要請される解釈である。

イ 東京都情報公開準備委員会が昭和五七年一二月に発表した「都における情報公開制度(情報公開制度準備委員会報告書)」(以下「報告書」という。)は、その三頁において、「知る権利は憲法上内在的、黙示的に認められるものといえよう。情報公開の制度化は、こうした意義をもつ知る権利について、具体的に住民に対して『開示請求権』として認めるものである。」と前置きした上、同一〇頁以下において、「適用除外事項は、行政庁にいかなる情報が非公開となるのかについて、判断する根拠となるものであり、ことさらに抽象的、包括的に規定することは、多様な解釈をうみ、結果として無用な紛争を引き起こすことになりかねない。このような考え方から、適用除外事項は、その細目を含めて公開可否を容易に判断し得る程度に明確かつ限定的でなければならない。」とした。

ウ 提言は、その一頁において、「国民の知る権利は民主主義の理念に当初から内在していたものである。今日の情報化社会において民主政治を貫くためには、この国民の知る権利を更に実効あるものにする新しい制度の確立が要請されるに至つている。それがいわゆる『知る権利』を具体化する情報開示制度である。と前置きしたうえ、その一三頁以下において、「請求権者の『知る権利』をできるだけ広く保障していくためには、適用除外事項の範囲を必要最小限に限定するとともに、適用除外事項の規定を明確にして、その解釈の余地を狭めておかなければならない。」とした。

エ 浜田幸一情報公開準備室長は、昭和五九年九月二五日開催された東京都議会総務生活文化委員会において、「そういう具体的な内容につきまして、開示できるものとできないものがあろうかと存じます。それにつきまして、今までの取扱いが、慣行というのですか、情報開示制度がまだできてないので、慣行によつて開示されてないというのがあつたかと思います。今度、情報開示制度ができたときに、そういつた会議録についてどのように判断すればいいのかということで、やはり合議制みずからが判断するという結論になつたわけでございます。」と答弁し、また、同月二七日開催された同委員会においても、「基本的には原則公開という立場に立つて、やはりその具体的な内容によつて判断して、会議体、合議制機関みずからが判断していただくことになろうかと存じます。」と答弁した。

オ 情報公開懇談会副座長西尾勝東京大学教授は、「とうきよう広報」一九八六年八月号において、「少なくとも、会議録などの内容が他の非開示事項に該当しないかぎりその全部または一部を開示するように努めなければならない。」とした。

カ 前記浜田幸一らの監修した「セミナー情報公開」一八一頁は、「合議制機関等が合理的な根拠によらずいたずらに非開示とすることは好ましいことではなく、他の非開示事項に該当すること等の実質的な理由があつて初めて非開示とすることができると解すべきでしよう。」とした。

(3) しかし、審議会は、昭和六〇年一月二八日開催の会議において、開示しない理由を個別的、具体的に判断した非開示の議決をしていない。また、右の会議は、原告らが開示請求している公文書のうち右の会議以後に開かれた審議会第一部会に関するもの(すなわち、昭和五九年一一月一九日、昭和六〇年一月一四日開催の同部会に関するものを除いたもの。)については、それらが作成される前に開催されているから、審議会は、右の会議において、個々の公文書を特定することはもとより、これらを開示すれば有用な結論への到達が妨げられる場合があるかどうかを考慮した非開示の議決をすることができるはずはない。さらに、被告が主張する本件非開示議決は、被告の主張によれば、爾後の部会についてのものとしか見られないのであるが、そうであれば、原告らが開示請求している情報のうち、昭和五九年一一月一九日、昭和六〇年一月一四日開催の第一部会に関する情報については、形式的にも公文書開示条例九条六号前段にいう「議決」は存在しないこととなる。

2  抗弁2について

(一) (一)(1)の事実は認め、(2)の主張は争う。

(二) (二)の主張は争う。

(三) 「開示をしないことができる」文書であつても、実質秘といえない情報については、形式秘の指定を解除してこれを開示することができる。しかし、その判断は実施機関自らがすべきものであり、実施機関の職員が勝手に判断すべきものではない。提言が「実施機関の職員に、……開示する裁量を認める趣旨ではない。」としたのは、このことを明らかにしたに過ぎない。

五  再抗弁

1  審議会の裁量権の逸脱又は濫用

仮に原告らが開示請求をしている各公文書について審議会による本件非開示議決が存在していたとしても、同議決は、前記四の1の(四)の原告らの主張のとおり、非開示とすべき情報について、個別的、具体的にしかも合理的理由をもつて判断した上でされているわけではないから、審議会が有する裁量権の範囲を超え又はその濫用があつたものとして、公文書開示条例九条六号に違反する無効な議決である。したがつて、同議決を前提にする本件各決定は、その前提を欠き、同条例に基づかない処分であつて、違法である。

2  被告の裁量権の逸脱又は濫用

公文書開示条例九条は、公開を強制されない情報の範囲を示すものであつて、公開を禁止する範囲を定めたものではないので、公開を求められた公文書が形式的に同条六号前段の適用除外事由に該当する場合でも、実施機関において、当該公文書が実質秘である情報が記録された文書であり、それを公開することにより合議制機関等の公正な議事運営が著しく損なわれることになるかなど非開示の必要性に関する具体的事情を比較考量したうえ、開示すべきであると判断する場合には、これを開示することができることを規定しているものである。しかるに、本件における実施機関である被告は、次の(一)ないし(三)の理由により、原告らが開示請求した文書を開示すべきであつたにもかかわらず、審議会による本件非開示議決があるとの理由だけで本件各決定をしたものであり、同決定は、実施機関が右判断について有する裁量権の範囲を超え又は濫用した処分である。

(一) 文書開示の必要性

原告らが開示請求をした文書は、本件建設事業のもたらす騒音、振動、地盤沈下等、その生活に関わる重要事項について第一部会が充分な検討を行つたか否かを知るうえで原告らに必要なものである。

(二) 非開示とする根拠の不存在

本件建設事業に係る第一部会の審議は昭和六〇年五月一〇日に終了し、同月一七日には審議会総会に対して報告がされ、同日審議会は被告に答申を行つた。

したがつて、その後に原告らの請求する各公文書が開示されたとしても、第一部会の審議及び結論への到達を妨げることはあり得ず、また、部会の文書を一律に非開示とする根拠はない。

なお、神奈川県においては、昭和五九年二月二七日、環境影響評価審査会東逗子住宅団地造成事業部会の審査経過記録等の公開が支障のないものとして行われている。

(三) アセスメント手続上の資料の公開

被告は、東京都環境影響評価条例五条により、同条例に定める手続の実施に関し、必要な資料を公開するよう努めなければならない責務を有している。

右の責務の公文書開示条例に基づき開示請求された個々の公文書を開示すべきか否かを決定するにあたり、重要な判断基準となる。

しかも、環境影響評価に関する情報が、公文書開示条例の他の適用除外事項に該当するか否かについてみると、右情報が被告において事業者から入手したものである場合には、むしろ、同条例九条三号ただし書イの「事業活動によつて生じ、又は生ずるおそれがある危害から人の生命、身体及び健康を保障するために、開示することが必要であると認められる情報」になり、被告はこれを絶対的に開示しなければならないものである。

六  再抗弁に対する認否

1  再抗弁1の主張は争う。

2  同2について

冒頭の主張は争う。

(一)の事実は不知。

(二)のうち、中段の事実は否認し、その余の事実は認める。神奈川県の機関の公文書の公開に関する条例(昭和五七年神奈川県条例第四二号)には、東京都の公文書開示条例九条六号と同様の規定がないから、これらを同一に論ずることはできない。

(三)のうち、前段の事実は認め、中、後段の各主張は争う。

第三  証拠<省略>

理由

一請求原因について

請求原因1ないし4の事実はいずれも当事者間に争いがない。

二審議会による非開示の議決の存否等について

1  公文書開示条例九条は、「実施機関は、開示の請求に係る公文書に次の各号のいずれかに該当する情報が記録されているときは、当該公文書に係る公文書の開示をしないことができる。」と定めた上、その六号前段において、「実施機関(知事、公営企業管理者及び消防長を除く。)、都が設置する大学の教授会及び評議会並びに都の執行機関の附属機関及び専門委員並びにこれらに類するもの(以下「合議制機関等」という。)の会議に係る審議資料、議決事項、会議録等の情報であつて、当該合議制機関等の議事運営規程又は議決によりその全部又は一部について開示しない旨を定めているもの」が記録されている公文書を右の開示しないことができる公文書として掲げている。

審議会が東京都の執行機関である知事の附属機関であることは、前示のとおり当事者間に争いがないから、審議会が同条例九条六号に規定する合議制機関等に当たることは明らかであり、また、原告らが開示請求をした公文書には、審議会の第一部会の会議に係る同条例九条六号に規定の審議資料、議決事項、会議録等(以下「審議資料等」という。)の情報が記録されていることは、弁論の全趣旨によりこれを認めることができる。

2  被告は、原告らが開示請求をした公文書について、公文書開示条例九条六号前段に規定する非開示の議決が存在するから、同号によりこれらを開示しないとした本件各決定は適法であると主張する。そこで、右の非開示の議決の存否について判断する。

抗弁1(審議会による非開示の議決)(二)(審議状況)の事実は当事者間に争いがない。

右の事実に現れた昭和六〇年一月二八日開催の審議会の会議における審議の内容(別紙に記載のもの)を改めて摘記すると、次のとおりである。

(一)  審議会の事務局の担当部長から、口頭で、公文書開示条例が公布されたことにより(同条例は昭和五九年一〇月一日公布され、昭和六〇年四月一日施行された。)、公文書が原則的に公開されることになつたこと及び同条例九条六号前段の規定についての一般的説明が行われた後、同号前段に規定する審議会の議決及び会議の公開に関し、事務局の案として、審議会の総会に関しては、会議自体及びその会議録を公開すること、その部会に関しては、会議自体は非公開とするが、会議録については、その審議過程(審議事項、審議の結果等を含む。以下同じ。)を要約記載した会議の要録を作成し、当該要件の答申後にこれを公開することが提案され、審議会が右の提案をそのまま採択する旨の議決をした。

(二)  事務局の担当部長は、右の事務局案の提案に先立つて、「当審議会は従来から公開に関する規程はございませんが、総会につきましては会議録と会議自体、両方とも公開ということにしております。それから部会につきましては、会議自体は非公開でございます。また会議録につきましても、正式な記録は作成してございません。」との従来の取扱いを説明しており、この説明及び事務局案の提案を受けて、審議会の会長から、「要するに、これまでの会議でやつていたのと同じことなんですね、中身は。」との発言がされた。これに対し、事務局の担当部長から、部会については、今までと異なり、会議の要録を作成することとしたこと、これを答申後公開するが、途中では出さないこととの事務局案の趣旨が説明された。

そして、<証拠>によると、審議会では、その部会に関しては、従前、会議自体及び会議録を含む審議資料等を公開しないとの事実上の取扱い(議決によるものではない。)がされていたことが認められる。

以上の事実関係を前提として考えるに、右の審議会の会議の議決の内容は、右(一)の事務局案の提案及び審議会によるその採択という事実を字句どおり形式的に理解すると、同条例九条六号前段の規定との関係では、審議会の総会についての会議録及び審議会の部会についての答申後における会議の要録を公開する、すなわち、これらを非開示とはしないということを定めただけであつて、審議資料等の情報を非開示とする旨の同号前段の規定の議決は全くされていないと解することも不可能とはいえない。

しかし、右の審議会の議決は、文書化された案を議決したものではなく、事務局の口頭による提案をそのまま採択するという形でされたものであるところ、右の提案の前後に、右(二)に述べたような事実があり、また、右に述べたような従前の事実上の取扱いがあるのであるから、それらの事情も含めて、全体としていかなる議決がされたかを検討する必要があることは当然である。

右のような見地に立つて考えると、右の議決が、その部分に関しては、会議の要録のみを答申後に公開し、その余の審議資料等の情報は、従前の事実上の取扱いどおり、すべて非開示とする旨の議決であつたとする被告の主張は、これを理解することができないわけではない。しかしながら、右の見地で考えるとしても、やはり被告の主張は、これをそのまま採用することはできないと考える。その理由を挙げるとともに、右の議決の内容についての当裁判所の見解を示すと、次のとおりである。

まず、従前の事実上の取扱いは、同条例制定施行前の取扱いであるところ、都民等に権利として公文書開示請求権が認められたのは、同条例によるものであつて、それまでの取扱いは、同条例制定施行後において、これを漫然と継続したり、参酌することは必ずしも妥当とはいえないこと、次に、審議会の部会に関する従前の取扱いについての事務局の説明は、右(二)に摘記したように、表現上、会議録に関して触れているに過ぎず、他の審議資料等に関しては触れていないことが考慮されなくてはならない。さらに、同条例は、公文書の開示を定め、その請求権を都民等に与えたものであるが、開示しないことができる公文書を同条例の九条各号において、その要件とともに限定列挙し、しかも、同条各号は、その一号の法令等による除外及び本件で問題となつているその六号前段の場合を除いては、開示しないこととする実体的な要件を掲げ、公文書の作成者等やそれを開示する者の側の恣意により公文書が非開示となることがないようにしていることに照らすと、その六号前段の場合についても、その非開示の議決は、必ずしも文書化されることを要するとはいえないにしても、それと同程度に明確でいやしくも二義の解釈を許すようなものであつてはならないと解されるのである。このような諸点を合わせ考えると、先に述べた審議会の会議の議決は、その部会の審議資料等については、会議の要録は答申後に開示すること、すなわち、非開示とはしないこと、その反面、会議の要録を答申前には非開示とすること、また、右(一)に摘記した事務局の提案によれば、会議の要録は、審議過程を要約記載したものであつて、審議過程を記載した会議録に相当する文書(会議録)の代替文書であると解し得るところから、会議録についてはこれを非開示とすること(会議録を非開示とするからこそ、会議の要録を開示することとされたのである。)をそれぞれ定めているが、それ以外の審議資料等については何らの定めもしていない(したがつて、非開示との定めをしていない。)と解するのが相当というべきである。

なお、<証拠>によると、昭和六〇年六月二四日開催の審議会の会議において、事務局から、先に述べた同年一月二八日開催の会議の議決は、審議会の部会に関しては、会議の要録のみを答申後開示し、それ以外の審議資料等についてはこれを非開示とする旨の議決であつたものと考えているとの趣旨の報告がされ、審議会においてそれが了承されていることが窺われるが、これをもつてしても、右の判断を左右するに充分ではない。

3  昭和六〇年一月二八日開催の審議会の会議におけるその部会の審議資料等についての議決の内容を右2に述べたとおりのものと解すると、原告らが開示請求をした公文書につき公文書開示条例九条六号前段の非開示の議決があつたから本件各決定は適法とする被告の主張は、右の開示請求に係る公文書のうち、審議会の第一部会の審議過程を記載した会議録に相当する文書(会議録)の全部又は一部に関するものを除く審議資料等(主文1、2に掲記の各文書。以下「非会議録文書」という。)については、右の非開示の議決がないのであるから、前提を欠き失当というほかはない。そして、他に非会議録文書を非開示とすることを正当づける理由については主張がないから、本件各決定のうち、非会議録文書に関する部分は、その余の点を判断するまでもなく、違法というべきである(なお、念のため付言するに、右2の末尾に掲げた昭和六〇年六月二四日開催の審議会の会議における報告、了承を非会議録文書についての非開示の議決とみる余地があるかどうか、また、非会議録文書について同条例九条六号前段以外の非開示理由があるかどうかなどといつた点に関して判断を示さないのは、その点の主張がないためである。)。

三審議会の部会の会議録の非開示の当否等について

1 前記二の2で判断したとおり、審議会の部会に関しては、会議録について、これを非開示とする旨の審議会の議決が存在しているものということができる。

2  この点に関して、原告らは、審議会の非開示の議決が存在したとしても、本件各決定には、なお違法な点がある旨主張する(抗弁に対する認否及び原告らの主張1の(四)の(3)、再抗弁1、2)ので順次判断する。

(一)  まず、原告らは、右の議決は、昭和六〇年一月二八日開催の審議会の会議でされたもので、爾後開催される部会についての審議資料等に限定されているものであるから、昭和五九年一一月一九日、昭和六〇年一月一四日に開催の審議会の第一部会に関する審議資料等の情報については、非開示の議決がない旨主張する。

しかし、前記二の2で認定した右の会議における審議の内容によると、右の議決は、原告ら主張のような限定がされているものとは認められず、したがつて、右の議決は、その第一部会の開催日が右の会議以前であつても、これを対象としているものと解されるから、右主張は失当というほかはない。

(二)  次に、原告らは、公文書開示条例九条六号前段の議決は、開示しない理由を個別的、具体的に合理的な理由をもつて判断した上でされねばならないが、右の議決は、そのような判断を経ていないから違法無効である旨主張する。

ところで、民主主義社会において、住民等が合理的な範囲で公的な情報に接近することのできるような仕組みを作ることは、憲法二一条一項の趣旨等に照らしても、これを推進することが相当というべきであり、<証拠>によると、公文書開示条例もまさにこのような施策の一環として制定されたものと認められる。しかし、右の憲法の規定等によつても、住民等が当然に公的情報の開示を請求する具体的な権利を有するとまではいい難く、都民等の東京都の公的情報に係る公文書の開示請求権は、同条例により初めて認められることになつたものというべきである。そうすると、いかなる公文書を開示の対象とするかは、専ら条例の制定権者が決定すべき立法政策上の問題であり、その政策決定の当否が司法審査の対象外であることはいうまでもない。

しかるところ、同条例は、その九条六号前段において、合議制機関等の会議に係る審議資料等の情報であつて、当該合議制機関等の議事運営規程又は議決により開示しない旨定めているものを記録した公文書を開示しないこととしている。そして、右の規定は、<証拠>によると、合議制機関等においてその意思形成に関し微妙な討議の過程を必要とする場合があり、開示すれば有用な結論への到達を妨げられることがあり得ないではないことを慮つたために置かれたものと認められる。しかし、このことは、合議制機関等がする右の開示しない旨の定めが右のような理由なしにされた場合にこれを違法無効とする趣旨ではなく、合議制機関等がそのような定めをしたときは、右のような理由があるものとしてこれをそのまま尊重することとしたものと解されるのである。そうすると、合議制機関等が同条例九条六号前段の規定の開示しない旨の定めをした場合には、それに関する公文書を同条例が開示の対象外としているものといわなくてはならない。

したがつて、合議制機関等が審議資料等の情報について同条例九条六号前段により開示しない旨の定めをしたときは、その定めは、その具体的根拠が明らかでないなどといった理由により違法無効となることはあり得ないというべきであつて、右主張は失当というほかはない。

なお、右に述べたところと同条例九条六号前段の規定の文言に照らすと、合議制機関等が、事前かつ包括的に審議資料等の情報を開示しない旨の議決をすることも、それが許されないとは考えられない。

(三)  また、原告らは、審議会の議決があつても、実施機関である被告は、具体的事情を考慮の上、開示することができる場合があるのに、右のような判断をしていないから、本件各決定は違法があると主張する。

抗弁2(本件非開示決議に基づく本件各決定の適法性)(一)(公文書開示条例九条本文の趣旨)(1)の事実は当事者間に争いがない。

右の争いのない事実を参酌すれば、公文書開示条例は、開示の対象外の情報が記録された公文書は当然に公務員の守秘義務の範囲に入るものであるとの解釈が生ずることを避けるために、その九条において同条各号に該当する情報が記録されている公文書の「開示をしてはならない。」としないで、その「開示をしないことができる。」とし、実施機関に開示の拒否権限があるという形で規定したものであつて、同条例が、実施機関に対し、開示の対象外の情報が記録された公文書について、これを開示することができる権限を与えているものであると解することはできない。したがつて、実施機関である被告は、審議会の非開示の議決がある以上、その議決の具体的根拠を問うことなく、開示を拒否すべきものであり、右主張は失当といわなくてはならない。

なお、東京都環境影響評価条例五条による被告の資料を公開するよう努める責務は、訓示規定であつて、この規定を根拠に資料の開示を請求する権利が認められているわけではない。

3  以上判断したところによれば、本件各決定のうち、審議会の非開示の議決がある審議会の第一部会の会議録についてこれを非開示とする部分は、適法ということができる。

四結論

よつて、原告會津及び同玉乃湯の請求のうち、本件建設事業に係る審議会第一部会の会議録(委員の出欠記載部分を含む。)以外の文書に関する部分の非開示決定の取消しを求める部分はいずれも理由があるからこれを認容し、同原告らのその余の請求及び原告板井の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行訴法七条、民訴法八九条、九二条本文、九三条一項本文を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官鈴木康之 裁判官太田幸夫 裁判官青野洋士)

別紙第七回東京都環境影響評価審議会議事速記録抜粋

○藤林会長 (中略)

次に、当審議会の情報公開に関しまして、事務局からおつしやつていただくことにします。

○松島部長 それではご説明いたします。

東京都では昨年一〇月に「公文書の開示等に関する条例」を公布いたしております。この条例によりまして当審議会の会議録なども、この条例が公布されました昨年の一〇月一日以降、この条例の対象になる公文書という扱いを受けることになつたわけでございます。お手元に条例をお配りしてございます。「東京都公報」の写というのをお配りしてございますので、ごらんいただきたいと思います。

この条例では、公文書につきまして特に定めたもの以外は公開を原則とするという考え方をとつておりますが、条例の第九条第六号、この東京都公報の二枚目の右下の真ん中あたりに第六号というのがございますが、ここの規定によりまして、当審議会のような合議制の機関などの会議に係る審議資料、議決事項、会議録などにつきましては、議事運営規程または議決によりまして、その全部または一部について開示しない旨を定めているものは、開示しないことができるというぐあいに規定されてございます。そこで当審議会の会議録等の公開に関しまして本日お諮りいたしますとともに、この審議会の会議自体の公開につきましてもあわせてお決めいただきたいと存じます。

当審議会は従来から公開に関する規程はございませんが、総会につきましては会議録と会議自体、両方とも公開ということにしております。それから部会につきましては、会議自体は非公開でございます。また会議録につきましても、正式な記録は作成してございません。そこで今後の取扱いでございますが、情報開示の条例の趣旨を尊重いたしまして、総会につきましては従来どおり会議自体につきましても、それから会議録についても公開とする。それから部会につきましては審議会の答申に至るまでの意思形成の過程としての審議という性格がございますので、部会の会議自体については非公開とする。それから会議録につきましては、審議事項、審議の経過、それから審議の結果などを記載しました会議の要録を作成いたしまして、当該案件の答申を得た後に公開するという扱いにしてはいかがと存じますので、ご検討いただきたいと思います。

○藤林会長 いま事務局から当審議会の会議、それから会議録に関しましての情報公開に関する提案がされたわけでございますが、この点につきましてご質問やご意見がございましたら、どうぞご遠慮なくおつしやつていただきたいと思います。

要するに、これまでの会議でやつていたのと同じことなんですね、中身は。

○松島部長 若干違いますのは、部会については会議要録をつくつて、これを公表するというのはあまりはつきり決めてございませんでしたので。それから、その公開の時期も、答申が出てから、途中で一々やらないと、こういうことをはつきり決めているわけです。

○藤林会長 一まとめにして、後でね。

○松島部長 はい。途中では出さないというご提案でございます。

○藤林会長 大体、部会長報告のような要領ですね。

○松島部長 はい。あれにもうちよつと肉づけしたような形になろうかと思います。

○藤林会長 いかがでございますか。

特にご異議がないようでございますから、事務局提案を当審議会の決定とさせていただいてよろしゆうございますか。

では、そういうことにさせていただきます。どうぞ適当に事務局のほうで処理していただきますように、お願いをいたします。(後略)

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