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東京地方裁判所 昭和60年(ワ)5820号 判決 1986年12月02日

原告 籏眞紀子

<ほか三名>

右原告ら四名訴訟代理人弁護士 佐藤成雄

同 長井和雄

被告 籏保全株式会社

右代表者代表取締役 籏功泰

<ほか三名>

右被告ら四名訴訟代理人弁護士 兒島平

同 清水良二

主文

一  被告籏保全株式会社は、

原告籏眞紀子に対し額面普通株式四万二七四〇株

原告籏栄一郎に対し同株式二〇〇株

原告山際由美に対し同株式一〇〇株

原告籏明美に対し同株式一〇〇株

の各株券をそれぞれ発行せよ。

二  被告銀座籏ビル株式会社は、

原告籏眞紀子に対し額面普通株式六八五〇株

原告籏栄一郎に対し同株式一〇〇株の各株券を発行せよ。

三  被告籏興行株式会社は、

原告籏眞紀子に対し額面普通株式七三四〇株

原告籏栄一郎に対し同株式一五〇〇株

原告山際由美に対し同株式九〇〇株原告籏明美に対し同株式九〇〇株

の各株券を発行せよ。

四  被告ハタレジャースポーツ株式会社は、原告籏眞紀子に対し額面普通株式四〇〇株の株券を発行せよ。

五  訴訟費用は被告らの負担とする。

六  この判決は第一ないし第四項について仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

主文と同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  被告籏保全株式会社について

(一) 被告籏保全株式会社は、昭和三四年七月二三日設立した発行済株式総数九万四〇〇〇株の株式会社である。

(二) 右株式は、すべて額面普通株式である。

(三) 原告籏眞紀子は、被告籏保全株式会社の四万二七四〇株を保有する株主である。

(四) 原告籏栄一郎は、被告籏保全株式会社の二〇〇株を保有する株主である。

(五) 原告山際由美は、被告籏保全株式会社の一〇〇株を保有する株主である。

(六) 原告籏明美は、被告籏保全株式会社の一〇〇株を保有する株主である。

よって、原告らは、株主権に基づき、被告籏保全株式会社に対し、原告らが各保有する各株式に対応する株券の発行を求める。

2  被告銀座籏ビル株式会社について

(一) 被告銀座籏ビル株式会社は、昭和三〇年九月一五日設立した発行済株式総数六万株の株式会社である。

(二) 右株式は、すべて額面普通株式である。

(三) 原告籏眞紀子は、被告銀座籏ビル株式会社の六八五〇株を保有する株主である。

(四) 原告籏栄一郎は、被告銀座籏ビル株式会社の一〇〇株を保有する株主である。

よって、原告籏眞紀子及び原告籏栄一郎は、株主権に基づき、被告銀座籏ビル株式会社に対し、原告籏眞紀子及び原告籏栄一郎が各保有する各株式に対応する株券の発行を求める。

3  被告籏興行株式会社について

(一) 被告籏興行株式会社は、昭和二八年一月三一日設立した発行済株式総数四万株の株式会社である。

(二) 右株式は、すべて額面普通株式である。

(三) 原告籏眞紀子は、被告籏興行株式会社の七三四〇株を保有する株主である。

(四) 原告籏栄一郎は、被告籏興行株式会社の一五〇〇株を保有する株主である。

(五) 原告山際由美は、被告籏興行株式会社の九〇〇株を保有する株主である。

(六) 原告籏明美は、被告籏興行株式会社の九〇〇株を保有する株主である。

よって、原告らは、株主権に基づき、被告籏興行株式会社に対し、原告らが各保有する各株式に対応する株券の発行を求める。

4  被告ハタレジャースポーツ株式会社について

(一) 被告ハタレジャースポーツ株式会社は、昭和四七年五月二日設立した発行ずみ株式総数二万株の株式会社である。

(二) 右株式は、すべて額面普通株式である。

(三) 原告籏眞紀子は、被告ハタレジャースポーツ株式会社の四〇〇株を保有する株主である。

よって、原告籏眞紀子は、株主権に基づき、被告ハタレジャースポーツ株式会社に対し、原告籏眞紀子が保有する株式に対応する株券の発行を求める。

二  請求の原因に対する認否

すべて認める。

三  抗弁

1  被告籏保全株式会社について

(一) 相続株式分

(1) 設立時

ア 訴外籏克己(以下「克己」という。)は、被告籏保全株式会社の設立の際、同社の株式一〇〇〇株を引き受けて払込をなし、その株主となった。

イ 克己は、その頃、被告籏保全株式会社代表取締役克己との間で、右株式について株券を発行しない旨の合意をした。

(2) 第一回増資時

ア 克己は、昭和三五年一一月六日の新株発行に際し、同社の株式三〇〇〇株を引き受けて払込をなし、その株主となった。

イ 克己は、その頃、被告籏保全株式会社代表取締役克己との間で、右株式について株券を発行しない旨の合意をした。

(3) 第二回増資時

ア 克己は、昭和三七年一二月五日の新株発行に際し、同社の株式一万二〇〇〇株を引き受けて払込をなし、その株主となった。

イ 克己は、その頃、被告籏保全株式会社代表取締役克己との間で、右株式について株券を発行しない旨の合意をした。

(4) 合併時

ア 克己は、昭和四七年一二月九日の訴外籏興業株式会社の吸収合併に伴う新株の発行に際し、被告籏保全株式会社の株式一万六二〇〇株を引き受けて払込をなし、その株主となった。

イ 克己は、その頃、被告籏保全株式会社代表取締役克己との間で、右株式について株券を発行しない旨の合意をした。

(5) 訴外籏栄吉からの贈与

ア 克己は、昭和五一年九月三〇日、訴外籏栄吉から、被告籏保全株式会社の株式一万〇一四〇株の贈与を受けた。

イ 克己は、その頃、被告籏保全株式会社代表取締役克己との間で、右株式について株券を発行しない旨の合意をした。

(6) 克己からの贈与

克己は、昭和五四年八月三一日、原告籏栄一郎に対し、克己保有の被告籏保全株式会社の株式四万二三四〇株のうち一〇〇株を贈与した。

(7) 訴外籏いさからの贈与

ア 克己は、昭和五五年一二月九日、訴外籏いさから、被告籏保全株式会社の株式八〇〇株の贈与を受けた。

イ 克己は、その頃、被告籏保全株式会社代表取締役克己との間で、右株式について株券を発行しない旨の合意をした。

(8) 克己の死亡と原告らの相続

ア 克己は、昭和五六年五月一七日、死亡した。

イ 原告籏眞紀子は、克己保有の被告籏保全株式会社の株式四万三〇四〇株のうち四万二七四〇株を、原告籏栄一郎及び原告山際由美並びに原告籏明美は、同じく各一〇〇株を相続した。

(9) 原告らの相続した右株式は、いずれもその株券を発行しない旨合意されたもので、その株式を相続した原告らも右合意に拘束され、右株式について株券の発行を請求することはできない。

(二) 固有取得株式分

(1) 原告籏栄一郎は、昭和五四年八月三一日、克己から被告籏保全株式会社の株式一〇〇株の贈与をうけた。

(2) 原告籏栄一郎は、その際、被告籏保全株式会社代表取締役克己との間で、右株券を発行しない旨の合意をした。

(3) 原告籏栄一郎の親権者である原告籏眞紀子は、右合意について同意した。

2  被告銀座籏ビル株式会社について

(一) 相続株式分

(1) 設立時

ア 克己は、被告銀座籏ビル株式会社の設立の際、同社の株式二五〇〇株を引き受けて払込をなし、その株主となった。

イ 克己は、その頃、被告銀座籏ビル株式会社代表取締役克己との間で、右株式について株券を発行しない旨の合意をした。

(2) 第一回増資時

ア 克己は、昭和三六年一一月三一日の新株発行に際し、同社の株式二五〇〇株を引き受けて払込をなし、その株主となった。

イ 克己は、その頃、被告銀座旗ビル株式会社代表取締役克己との間で、右株式について株券を発行しない旨の合意をした。

(3) 第二回増資時

ア 克己は、昭和四五年二月二六日の新株発行に際し、同社の株式二五〇〇株を引き受けて払込をなし、その株主となった。

イ 克己は、その頃、被告銀座籏ビル株式会社代表取締役克己との間で、右株式について株券を発行しない旨の合意をした。

(4) 克己からの贈与

克己は、昭和五二年九月二〇日、被告籏保全株式会社に対し、克己保有の被告銀座籏ビル株式会社の株式八五〇株を、昭和五五年一月二五日、原告籏栄一郎に対し、同じく一〇〇株を各贈与した。

(5) 克己の死亡と原告らの相続

ア 克己は、昭和五六年五月一七日、死亡した。

イ 原告籏眞紀子は、克己保有の被告銀座籏ビル株式会社の株式六五五〇株を相続した。

(6) 原告籏眞紀子の相続した右株式は、いずれもその株券を発行しない旨合意されたもので、その株式を相続した原告籏眞紀子も右合意に拘束され、右株式について株券の発行を請求することはできない。

(二) 固有取得株式分

(1) 原告籏眞紀子について

ア 原告籏眞紀子は、昭和五二年四月二〇日、訴外籏栄吉から被告銀座籏ビル株式会社の株式三〇〇株の贈与を受けた。

イ 原告籏眞紀子は、その頃、被告銀座籏ビル株式会社代表取締役克己との間で、右株式について株券を発行しない旨の合意をした。

(2) 原告籏栄一郎について

ア 原告籏栄一郎は、昭和五五年一月二五日、克己から被告銀座籏ビル株式会社の株式一〇〇株の贈与を受けた。

イ 原告籏栄一郎は、その頃、被告銀座籏ビル株式会社代表取締役克己との間で、右株式について株券を発行しない旨の合意をした。

ウ 原告籏栄一郎の親権者である原告籏眞紀子は、右合意について同意した。

3  被告籏興行株式会社について

(一) 相続株式分

(1) 設立時

ア 克己は、被告籏興行株式会社の設立の際、同社の株式八〇〇株を引き受けて払込をなし、その株主となった。

イ 克己は、その頃、被告籏興行株式会社代表取締役訴外籏栄吉との間で、右株式について株券を発行しない旨の合意をした。

(2) 第一回増資時

ア 克己は、昭和四二年一月三一日の新株発行に際し、同社の株式二四〇〇株を引き受けて払込をなし、その株主となった。

イ 克己は、その頃、被告籏興行株式会社代表取締役訴外籏栄吉との間で、右株式について株券を発行しない旨の合意をした。

(3) 訴外籏栄吉からの贈与

ア 克己は、訴外籏栄吉から、同人の保有する被告籏興行株式会社の株式を、昭和五一年六月三〇日一二〇〇株、昭和五二年一月二五日一二〇〇株、昭和五三年七月六日一二四〇株それぞれ贈与を受けた。

イ 克己は、それぞれその頃、被告籏興行株式会社代表取締役訴外籏栄吉との間で、右株式について株券を発行しない旨の合意をした。

(4) 訴外籏いさからの贈与

ア 克己は、訴外籏いさから、同女の保有する被告籏興行株式会社の株式を、昭和五五年一月二八日一〇〇株、昭和五六年四月三日三〇〇株、それぞれ贈与を受けた。

イ 克己は、それぞれその頃、被告籏興行株式会社代表取締役克己との間で、右株式について株券を発行しない旨の合意をした。

(5) 克己の死亡と原告らの相続

ア 克己は、昭和五六年五月一七日、死亡した。

イ 原告籏眞紀子は、克己保有の被告籏興行株式会社の株式七二四〇株を相続した。

(6) 原告籏眞紀子の相続した右株式は、いずれもその株券を発行しない旨合意されたもので、その株式を相続した原告籏眞紀子も右合意に拘束され、右株式について株券の発行を請求することはできない。

(二) 固有取得株式分

(1) 原告籏眞紀子について

ア 原告籏眞紀子は、昭和五六年一月三〇日、訴外籏いさから被告籏興行株式会社の株式一〇〇株の贈与を受けた。

イ 原告籏眞紀子は、その頃、被告籏興行株式会社代表取締役克己との間で、右株式について株券を発行しない旨の合意をした。

(2) 原告籏栄一郎について

ア 原告籏栄一郎は、

① 昭和五〇年三月一五日、訴外籏栄吉から、被告籏興行株式会社の株式一〇〇〇株

② 昭和五一年六月一日、訴外籏栄吉から、同じく一二〇株

③ 昭和五二年一月二五日、訴外籏栄吉から、同じく一〇〇株

④ 昭和五三年九月五日、訴外籏栄吉から、同じく八〇株

⑤ 昭和五五年一月二八日、訴外籏いさから、同じく一〇〇株

⑥ 昭和五六年一月三〇日、訴外籏いさから、同じく一〇〇株

の各贈与を受けた。

イ 原告籏栄一郎は、右①ないし④の各贈与を受けた頃、被告籏興行株式会社代表取締役訴外籏栄吉との間で、右株式について株券を発行しない旨の合意をした。

ウ 原告籏栄一郎の親権者である克己及び原告籏眞紀子は、右各合意についてそれぞれ同意した。

エ 原告籏栄一郎は、右⑤及び⑥の各贈与を受けた頃、被告籏興行株式会社代表取締役克己との間で、右株式について株券を発行しない旨の合意をした。

オ 原告籏栄一郎の親権者である原告籏眞紀子は、右各合意についてそれぞれ同意した。

(3) 原告山際由美について

ア 原告山際由美は、

① 昭和五〇年三月一〇日、訴外籏栄吉から、被告籏興行株式会社の株式五〇〇株

② 昭和五一年六月一日、訴外籏栄吉から、同じく一二〇株

③ 昭和五二年一月二五日、訴外籏栄吉から、同じく一〇〇株

④ 昭和五三年九月五日、訴外籏栄吉から、同じく八〇株

⑤ 昭和五六年一月三〇日、訴外籏いさから、同じく一〇〇株

の各贈与を受けた。

イ 原告山際由美は、右①ないし④の各贈与を受けた頃、被告籏興行株式会社代表取締役訴外籏栄吉との間で、右株式について株券を発行しない旨の合意をした。

ウ 原告山際由美の親権者である克己及び原告籏眞紀子は、右各合意についてそれぞれ同意した。

エ 原告山際由美は、右⑤の贈与を受けた頃、被告籏興行株式会社代表取締役克己との間で、右株式について株券を発行しない旨の合意をした。

オ 原告山際由美の親権者である原告籏眞紀子は、右合意について同意した。

(4) 原告籏明美について

ア 原告籏明美は、

① 昭和五〇年三月一〇日、訴外籏栄吉から、被告籏興行株式会社の株式五〇〇株

② 昭和五一年六月一日、訴外籏栄吉から、同じく一二〇株

③ 昭和五二年一月二五日、訴外籏栄吉から、同じく一〇〇株

④ 昭和五三年九月五日、訴外籏栄吉から、同じく八〇株

⑤ 昭和五六年一月三〇日、訴外籏いさから、同じく一〇〇株

の各贈与を受けた。

イ 原告籏明美は、右①ないし④の各贈与を受けた頃、被告籏興行株式会社代表取締役訴外籏栄吉との間で、右株式について株券を発行しない旨の合意をした。

ウ 原告籏明美の親権者である克己及び原告籏眞紀子は、右各合意についてそれぞれ同意した。

エ 原告籏明美は、右⑤の贈与を受けた頃、被告籏興行株式会社代表取締役克己との間で、右株式について株券を発行しない旨の合意をした。

オ 原告籏明美の親権者である原告籏眞紀子は、右合意について同意した。

4  被告ハタレジャースポーツ株式会社について

(一) 原告籏眞紀子は、被告ハタレジャースポーツ株式会社の設立の際、同社の株式四〇〇株を引き受けて払込をなし、その株主となった。

(二) 原告籏眞紀子は、その頃、被告ハタレジャースポーツ株式会社代表取締役訴外籏栄吉との間で、右株式について株券を発行しない旨の合意をした。

四  抗弁に対する認否

1  被告籏保全株式会社について

(一) (一)項の(1)ないし(5)の各ア、(6)、(7)ア、(8)のア及びイの各事実は認める。

(一)項の(1)ないし(5)の各イ、(7)イの各事実は否認する。

(一)項の(9)は争う。

(二) (二)項の(1)の事実は認め、(2)及び(3)の各事実は否認する。

2  被告銀座籏ビル株式会社について

(一) (一)項の(1)ないし(3)の各ア、(4)、(5)のア及びイの各事実は認める。

(一)項の(1)ないし(3)の各イの各事実は否認する。

(一)項の(6)は争う。

(二) (二)項の(1)及び(2)の各アの各事実は認め、その余の事実は否認する。

3  被告籏興行株式会社について

(一) (一)項の(1)ないし(4)の各ア、(5)のア及びイの各事実は認める。

(一)項の(1)ないし(4)の各イの各事実は否認する。

(一)項の(6)は争う。

(二) (二)項の(1)ないし(4)の各アの各事実は認め、その余の各事実は否認する。

4  被告ハタレジャースポーツ株式会社について

(一)の事実は認め、その余の事実は否認する。

五  再抗弁

1  仮に、被告ら主張の株券不発行の合意がなされたとしても、右各合意は、会社の利益のために株主に一方的に不利益を強い、法の原則である株式の譲渡性を奪う結果となるので、かかる合意は、株式の自由譲渡を定めた商法二〇四条一項本文に照らして無効と言わざるを得ない。

(一) 商法二〇四条は、株式譲渡自由の原則を法律上の原則として規定している。この自由譲渡性を株主から絶対的に奪うことは株式会社の制度上認められない。自由譲渡性は、株式に内在する株主の権利である。

(二) 閉鎖的会社保護等の実際上の必要から、商法は、譲渡を制限する規定(二〇四条以下)を設けたが、これは、例外的に譲渡を制限する規定であって、自由譲渡性は、会社株主双方の利益均衡を計りながら、規定の中に確保されている。

(三) 株券の不発行は、事実上自由譲渡性を株主から剥奪する結果になる。社員権の証券化を禁止している有限会社の場合には、証券不発行のまま同趣旨の制限規定(有限会社法一九条)が適用されるが、株式会社の場合には、会社は、株券を発行しないことにより、一定の制限下に譲渡を認めている商法の規定を潜脱し、譲渡を完全に不可能ならしめる結果になる。

2  さらに、仮に、右各合意が有効であるとしても、この合意は、会社と各株主間の同族意識あるいは感情、個人的信頼を基礎になされたものであって、株式会社制度からみればまさに変則的な合意関係であり、この関係は一身専属的なものというべく、相続の対象とはならない。

素朴に考えて、一旦かかる合意がなされた以上、これが各株主並びにその相続人を永遠に拘束するものとするならば、権利関係は複雑になり、混乱を免れない。

将来改正が予想される閉鎖的会社の株券不発行制度も、もとより不発行を認めて、株式の自由譲渡性を否定するものではなく、(有限会社法一九条の場合と同様)不発行を前提とした譲渡制限の規定としての改正が予想されるところである。

3  また、仮に、以上の主張が認められないとしても、株券不発行の合意は、いつでもこれを解約することができるものであり、原告らは、昭和六一年一一月二八日の本件口頭弁論期日において、被告らに対し、株券不発行の各合意を解約する旨の意思表示をした。

六  再抗弁に対する認否

原告らの再抗弁主張はすべて争う。もっとも、原告らが昭和六一年一一月二八日の本件口頭弁論期日において被告らに対し株券不発行の各合意を解約する旨の意思表示をしたことは、認める。

1  株券不発行の合意により、株券が発行されていなくても、株主としての権利の行使には何ら支障はなく、株主として、株券は必ずしも必要ではない。このことは、株券不所持制度が認められていることからも明らかである。

2  また、株券が必要とされる株式譲渡については、被告らは同族会社で外部者の介入を排除する目的から、株式の譲渡制限がなされており、株式の自由譲渡は認められていないのである。したがって、株式譲渡の際必要な株券がなくても不都合はない。

3  また、右合意により株券を発行しなくても、会社債権者を害することはなく、他の株主の権利を害することもない。

4  したがって、株主と会社との間でなした株券不発行の合意は、無効とする必要性はなく、有効である。

第三証拠関係《省略》

理由

一  請求原因事実はいずれも当事者間に争いがない。

二  抗弁事実中、原告らの各株式取得の経緯(第1項(一)の(1)ないし(5)の各ア、(6)、(7)のア、(8)のア及びイ、同項(二)の(1)、第2項(一)の(1)ないし(3)の各ア、(4)、(5)のア及びイ、同項(二)の(1)及び(2)の各ア、第3項(一)の(1)ないし(4)の各ア、(5)のア及びイ、同項(二)の(1)ないし(4)の各ア、第4項(一)の各事実)については、いずれも当事者間に争いがない。

三  ところで、株券不発行の合意及び親権者の承諾の有無については一先ず判断を留保し、先に再抗弁につき判断する。

1  商法二二六条は、その一項で「会社ハ成立後又ハ新株ノ払込期日後遅滞ナク株券ヲ発行スルコトヲ要ス」と規定し、会社に対し、株券の発行を義務づけている。

もっとも、これには例外が認められており、株主が株券の所持を望まない場合のみ、既に株券が発行されているときは、当該株券を会社に提出してこれを寄託し、株券が発行されていないときは、会社は、株券を発行してはならないとされている(商法二二六条ノ二)。

株券不発行が許容されるのは、右例外の場合に限られ、それ以外には商法上このような例外を認める条文はない。

したがって、株主が株券の所持を望んでいない場合には、株券不発行の合意は有効であり、その合意をなした本人はもとよりその包括承継人にも右株券不発行の合意の効力は及ぶものと言うべきである。

そうとすれば、原告らの主張する再抗弁1及び2は、これを採用することはできない。

2  しかしながら、株券不発行の合意は、株主があくまでも株券の所持を望んでいない場合にのみ有効であるに過ぎず、株主が株券不所持の意思を翻し、株券の発行を求めたときは、本則に戻り、会社は、直ちに株券を発行すべきである。

被告らは、株主と会社の間で、株券不発行の合意がなされた場合には、右合意に基づき株券の発行を拒否できると主張するが、以上説示のとおり、被告らの右主張は失当であり、当裁判所はこれを採用しない。

このことは、商法二二六条ノ二第四項で、株券の不発行・寄託の申出をなした株主がいつでも株券の発行・返還を請求することができると定められていることからしても明らかである。

3  また、右の理は、公開会社であろうと閉鎖会社であろうと異なるところはない。

確かに、閉鎖会社にあっては、株式の自由譲渡の原則の例外として、株式の譲渡にあたり取締役会の承認を必要とする制度が存在するが、これは、あくまでも株式の譲受人の選定を会社の意思に係らしめようとするものであって、決して、株券の不発行を是認したものではない。

どのような株式会社であっても、会社の株主は、その保有する株式を譲渡して、その投下資本を回収することができるはずであるが、株券が発行されておらず、かつ株式の譲渡制限がなされている会社の株主が、その保有する株式を譲渡しようとして取締役会に対し株式の譲渡承認を求めたにもかかわらず、取締役会の承認が得られなかった場合には、取締役会は、株式譲渡そのものを否定することはできず、当該株式の先買権者を指定しなければならない。そして、その先買権者からの株式売り渡し請求が株主に対してなされた場合には、株主は、当該株式の株券を供託所に供託する必要があるのであり(商法二〇四条ノ二、同法二〇四条ノ三)、株券の不発行を奇貨として、事実上株主の株式譲渡を拒否することは許されない。

4  そうとすれば、仮に被告ら主張の各合意の事実が認定できたとしても、右各合意は、原告らが株券の所持を望まない場合に限って有効であるに過ぎず、原告らが、昭和六一年一一月二八日の本件口頭弁論期日において、被告らに対し株券不発行の各合意を解約する旨の意思表示をしたことは当事者間に争いがなく、したがって、原告らが、株券の所持を求めていることが明らかである本件においては、原告らの右解約の意思表示により、被告ら主張の各合意はその効力を失ったと解すべきである。再抗弁3はその理由がある。

四  以上のとおりであって、その余の点について判断するまでもなく、原告らの本訴各請求は、いずれもその理由があるから認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 末永進)

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