大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和59年(行ウ)86号 判決 1990年3月26日

東京都練馬区東大泉三丁目四三番四号

原告

岩本こと

李聖二

右訴訟代理人弁護士

佐藤義弥

東京都練馬区栄町二三

被告

練馬税務署長

溝江弘志

右指定代理人

堀内明

高橋孝二

菱田次男

青木与志二郎

増渕実

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  原告の昭和四三年分ないし昭和四五年分の所得税について被告が昭和四七年八月三一日付けでした更正及び重加算税賦課決定(いずれも昭和五九年三月二八日付け裁決で取り消された後のもの)のうち、昭和四三年分については総所得金額三二四五万五四四〇円を超える部分及び重加算税額四七六万二八〇〇円を超える部分、昭和四四年分については総所得金額五二九六万七一九一円を超える部分及び重加算税額八五九万二六〇〇円を超える部分、昭和四五年分については総所得金額四五五〇万六四六二円を超える部分及び重加算税額六九六万三〇〇〇円を超える部分を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告の昭和四三年分ないし昭和四五年分(以下、昭和四三年ないし昭和四五年を本件係争各年」という。)の所得税について原告のした確定申告、これに対して被告のした更正(以下「本件各更正」という。)及び重加算税賦課決定(以下「本件各決定」という。)等の経緯は別表1の一ないし三記載のとおりである。

2  しかしながら、本件各更正(いずれも審査裁決で取り消された後のもの。以下同じ)は原告の所得金額を過大に認定したものであるから違法であり、本件各更正を前提としてされた本件各決定(いずれも審査裁決で取り消された後のもの。以下同じ)も違法である。

よつて、原告は、本件各更正のうち昭和四三年分については総所得金額三二四五万五四四〇円を超える部分、昭和四四年分については総所得金額五二九六万七一九一円を超える部分、昭和四五年分については総所得金額四五五〇万六四六二円を超える部分の、本件重加算税賦課決定のうち昭和四三年分については重加算税額四七六万二八〇〇円を超える部分、昭和四四年分については八五九万二六〇〇円を超える部分、昭和四五年分については六九六万三〇〇〇円を超える部分の各取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1の事実は認めるが、同2は争う。

三  被告の主張

1  本件係争各年分の所得金額

財産増減法によつて算定した原告の本件係争各年分の所得金額は、以下のとおりである。

(一) 昭和四三年分について

(主位的主張)

(1) 原告の昭和四三年分の総所得金額は、五一一六万〇二四七円であり、その内訳は次のとおりである。

<1> 配当所得の金額 一〇七万三六〇〇円

<2> 雑所得の金額 二四万一二〇〇円

<3> 事業所得の金額 四九八四万五四四七円

(2) 右事業所得の金額は、次の方法により算定したものである。

<1> 期首純資産額(別表2の欄の<23>) 二億三三五八万三六〇〇円

<2> 期末純資産額(別表2の欄の<23>) 二億八七七九万四一七五円

<3> 純資産増加額(<2>-<1>) 五四二一万〇五七五円

<4> 所得に加算すべき金額(イ+ロ) 二九九万四七二〇円

イ 事業主貸の金額 二三八万二七八〇円

ロ 配当所得に係る源泉所得税 一六万一九四〇円

<5> 所得より減算すべき金額(イ+ロ+ハ+ニ) 七三五万九八四八円

イ 源泉分離課税とされる預金利息 五一五万一八四八円

ロ 配当所得の金額 一〇七万九六〇〇円

ハ 雑所得の金額 二四万一二〇〇円

ニ 譲渡と所得等の特別控除額 八八万七二〇〇円

<6> 事業所得の金額(<3>+<4>+<5>) 四九八四万五四四七円

(予備的主張)

事業所得における現金勘定についての予備的主張によれば、事業所得の金額は、後記のとおり五〇一四万五四四七円となるから、総所得金額は、別表3のとおり五一四六万〇二四七円となる。

(二) 昭和四四年分について

(主位的主張)

(1) 原告の昭和四四年分の総所得金額は、五九四八万五六五一円であり、その内訳は次のとおりである。

<1> 配当所得の金額 一一〇万六九三四円

<2> 雑所得の金額 三五万八四〇〇円

<3> 事業所得の金額 五八〇二万〇三一七円

(2) 右事業所得の金額は、次の方法により算定したものである。

<1> 期首純資産額(別表2の欄の<23>) 二億八七七九万四一七五円

<2> 期末純資産額(別表2の欄の<23>) 三億五〇七四万四六二六円

<3> 純資産増加額(<2>-<1>) 六二九五万〇四五一円

<4> 所得に加算すべき金額(イ+ロ) 四〇九万七三三〇円

イ 事業主貸の金額 三九二万九九四〇円

ロ 配当所得に係る源泉所得税 一六万七三九〇円

<5> 所得より減算すべき金額(イ+ロ+ハ) 九〇二万七四六四円

イ 源泉分離課税とされる預金利息 七五五万三一三〇円

ロ 配当所得の金額 一一一万五九三四円

ハ 雑所得の金額 三五万八四〇〇円

<6> 事業所得の金額(<3>+<4>-<5>) 五八〇二万〇三一七円

(予備的主張)

事業所得における現金勘定についての予備的主張によれば、事業所得の金額は、後記のとおり六一五二万〇三一七円となるから、総所得金額は、別表3のとおり六二九八万五六五一円となる。

(三) 昭和四五年分について

(主位的主張)

(1) 原告の昭和四五年分の総所得金額は、八二六三万五八四五円であり、その内訳は次のとおりである。

<1> 配当所得の金額 一一五万三六〇〇円

<2> 雑所得の金額 二六万七二〇〇円

<3> 譲渡所得の損失の金額 △ 一五万八九〇〇円

<4> 事業所得の金額 八一三七万三九四五円

(2) 右事業所得の金額は、次の方法により算定したものである。

<1> 期首純資産額(別表2の欄の<23>) 三億五〇七四万四六二六円

<2> 期末純資産額(別表2の欄の<23>) 四億三七〇三万四一四七円

<3> 純資産増加額(<2>-<1>) 八六二八万九五二一円

<4> 所得に加算すべき金額(イ+ロ+ハ) 五七〇万四六〇〇円

イ 事業主貸の金額 五三七万〇八六〇円

ロ 配当所得に係る源泉所得税 一七万四八四〇円

ハ 車両の譲渡損失の金額 一五万八九〇〇円

<5> 所得より減算すべき金額(イ+ロ+ハ) 一〇六二万〇一七六円

イ 源泉分離課税とされる預金利息 九一八万七三七六円

ロ 配当所得の金額 一一六万五六〇〇円

ハ 雑所得の金額 二六万七二〇〇円

<6> 事業所得の金額(<3>+<4>-<5>) 八一三七万三九四五円

(予備的主張)

事業所得における現金勘定についての予備的主張によれば、事業所得の金額は、後記のとおり九六二八万八九四五円となるから、総所得金額は、別表3のとおり九七五五万〇八四五円となる。

また、什器備品勘定及び未払金勘定についての予備的主張によれば、事業所得の金額は主位的主張額に比べ三〇六万七八三一円増加するから、総所得金額も同額増加し、八五七〇万三六七六円となる。

2  本件係争各年末資産負債の勘定科目別金額の内訳

(主位的主張)

(一) 本件係争各年末現在の資産負債の勘定科目別の金額は、別表2のとおりである。

(二) 右のうち、昭和四二年一二月三一日現在の現金、昭和四四年一二月三一日現在の現金及び営業権並びに昭和四五年一二月三一日現在の現金、営業権及び未払金の内訳は、次のとおりである。

(1) 昭和四二年一二月三一日現在の現金在高は、四八八〇万円である。(<1>+<2>+<3>-<4>-<5>)。

<1> 昭和四三年一二月三一日現在の現金在高四八五〇万円

<2> 昭和四三年三月二日に取得した練馬区上石神井一丁目二六五番地九所在の土地、建物の取得資金七七〇万円を昭和四三年一二月三一日現在の現金在高に加算する。

<3> 昭和四三年三月三日に取得した杉並区下井草五丁目五九番地の土地の取得資金四三〇万円を昭和四三年一二月三一日現在の現金在高に加算する。

<4> 昭和四三年五月及び八月に林征四郎から貸付金の返済として受領した四〇〇万円を昭和四三年一二月三一日現在の現金在高から控除する。

<5> 昭和四三年一一月下旬ころに譲渡した前記<2>の土地、建物の譲渡代金八〇〇万円から手数料三〇万円を差し引いた七七〇万円を昭和四三年一二月三一日現在の現金在高から控除する。

<6> なお、昭和四三年三月七日に埼玉銀行石神井支店の岩本芳子名義の普通預金に二〇〇万円、八千代信用金庫石神井支店の小倉重雄名義の普通預金に一〇〇〇万円、第一勧業銀行石神井支店の金子三郎名義の普通預金に八六〇万円の合計二〇六〇万円が入金されているが、右入金は、同日解約された埼玉銀行石神井支店の南武雄名義の定期預金八二五万六八三一円、高田芳子名義の定期預金五二四万四二一七円及び椎名やよい名義の定期預金七二三万三七四八円(解約利息は二万八七七三円である。)の解約金をもつてされたものであるから、昭和四二年一二月三一日現在の現金在高を算出するに当たつては、右の普通預金への入金及び定期預金の解約を考慮する必要はない。

(2) 昭和四四年一二月三一日現在について

<1> 現金在高四五〇〇万円(イ-ロ+ハ+ニ)

イ 昭和四三年一二月三一日現在の現金在高四八五〇万円

ロ 昭和四四年三月一〇日三菱銀行保谷支店に岩本鐘一名義で預金された現金一〇〇〇万円を昭和四三年一二月三一日現在の現金在高から控除する。

ハ 昭和四四年四月に林征四郎から貸付金の返済として受領した三〇〇万円を昭和四三年一二月三一日現在の現金在高に加算する。

ニ 昭和四四年四月に李震雨から貸付金の返済として受領した三五〇万円を昭和四三年一二月三一日現在の現金在高に加算する。

<2> 営業権一六〇〇万円

原告が昭和四四年五月一日に安嶋庄吾から取得したパチンコ店三楽ホールに係る営業権(以下「本件営業権」という。)の取得価額二〇〇〇万円から償却費の額四〇〇万円(取得価額の五分の一に相当する金額)を控除したものである。

(3) 昭和四五年一二月三一日現在について

<1> 現金在高三〇〇八万五〇〇〇円(イ-ロ+ハ)

イ 昭和四四年一二月三一日現在の現金在高四五〇〇万円

ロ 昭和四五年一二月一六日に次のとおり預金された現金二五〇〇万円を昭和四四年一二月三一日現在の現金在高から控除する。

(イ) 三菱銀行保谷支店李聖三名義六〇〇万円

(ロ) 同右李舜連名義六〇〇万円

(ハ) 富士銀行大泉支店岩本聖三名義一三〇〇万円

ハ 原告が昭和四五年七月二日に受領した三菱銀行保谷支店鈴木三郎名義の預金の解約金一〇〇八万五〇〇〇円(利息八万五〇〇〇円を含む。)を昭和四四年一二月三一日現在の現金在高に加算する。

<2> 営業権一二〇〇万円

本件営業権の前年末の未償却残高一六〇〇万円から昭和四五年分の償却費の額四〇〇万円(取得価額二〇〇〇万円の五分の一に相当する金額)を控除したものである。

<3> 未払金九九三〇万八四二〇円

内訳は別表4のとおりである。

(現金勘定についての予備的主張)

現金勘定について右の主張の一部が認められないならば、被告は予備的に次のとおり主張する。

(一) 原告のように営業活動を行つている者にとつて、現金はその性質上必要以上に、しかも長期にわたつて手元に残しておくものではないから、財産増減法を適用するに当たつては、正当に記録された現金出納帳の残高に依らない限り、現金在高は各年末とも変動がないものとして算定するのが合理的である。

(二) そうすると、原告の本件係争各年分の事業所得の金額及びその算出根拠は別表3の付表一及び二のとおりとなり、総所得金額は別表3のとおりとなる。

(什器備品勘定及び未払金勘定についての予備的主張)

昭和四五年一二月三一日現在の未払金として被告が主張するもののほかに片桐商会こと片桐光由(以下「片桐」という。)に対する未払金五九五万円が認められるならば、被告は予備的に昭和四五年一二月三一日現在の什器備品勘定及び未払金勘定について、次のとおり主張する。

(一) 什器備品一二二七万八〇七六円

原告が昭和四五年一二月に開店した武蔵関会館の遊戯設備代金は、パチンコ器の取得価額三八三万四〇〇〇円、パチンコ玉の取得価額九二万円、自動電磁カウンター、自動玉洗浄及び玉補給装置の取得価額一六七万二七六〇円、自動玉貸機の取得価額二三二万二八〇円並びにパチンコ器取付台の取得価額一四〇万二九六〇円の合計一〇一五万円である。

ところで、パチンコ玉はその取得時の必要経費に算入できるが、それ以外は減価償却資産であるから、その法定耐用年数を適用して、その減価償却費を計算すると、別表5のとおり総額二一万二一六九円となり、取得価額の一〇一五万円からパチンコ玉の所得費九二万円及び減価償却費二一万二一六九円を控除した九〇一万七八三一円は、什器備品勘定等として資産計上を要するものである。

しかるに、被告の主位的主張に係る昭和四五年一二月三一日現在の什器備品勘定の残高三二六万〇二四五円には、右パチンコ遊戯設備の全部が計上漏れとなつているので、右九〇一万七八三一円を加算する。

(二) 未払金一億〇五二五万八四二〇円

被告の主位的主張に係る昭和四五年一二月三一日現在の未払金勘定に片桐に対する未払金五九五万円を加算する。

(三) 原告の昭和四五年分の総所得金額は、被告の主位的主張額に(一)と(二)の金額の差額である三〇六万七八三一円を加算した八五七〇万三六七六円となる。

3  本件各更正の適法性

本件各更正における総所得金額はいずれも主位的主張における総所得金額と同額であり、予備的主張における総所得金額の範囲内であるから、本件各更正は適法である。

4  本件各決定の適法性

原告は、事業に関する帳簿を破棄したり、売上の一部を除外して簿外預金を設定する等して所得税の課税標準または税額等の計算の基礎となるべき事実の全部または一部を隠ぺいし、または仮装し、その隠ぺいし、または仮装したところに基づき納税申告書を提出していたものである。

そこで、被告は、国税通則法六八条一項に基づき、本件係争各年分について、本件各更正により納付すべき税額に一〇〇分の三〇を乗じて計算した金額をそれぞれ賦課したものであり、本件各決定はいずれも適法である。

四  被告の主張に対する認否

1  被告の主張1について

(一) (一)(主位的主張)(1)のうち、<1>の配当所得の金額及び<2>の雑所得の金額は認めるが、<3>の事業所得の金額は争う。

同(2)のうち、<1>の期首純資産額、<3>の純資産増加額及び<6>の事業所得の金額については争うが、その余は認める。

(予備的主張)のうち、配当所得の金額及び雑所得の金額は認めるが、その余は争う。

(二) (二)(主位的主張)(1)のうち、<1>の配当所得の金額及び<2>の雑所得の金額は認めるが、<3>の事業所得の金額は争う。

同(2)のうち、<2>の期末純資産額、<3>の純資産増加額及び<6>の事業所得の金額については争うが、その余は認める。

(予備的主張)のうち、配当所得の金額及び雑所得の金額は認めるが、その余は争う。

(三) (三)(主位的主張)(1)のうち、<1>の配当所得の金額、<2>の雑所得の金額及び<3>の譲渡所得の損失の金額については認めるが、<4>の事業所得の金額は争う。

同(2)のうち、<4>の所得に加算すべき金額及び<5>の所得より減算すべき金額については認めるが、その余は争う。

(予備的主張)のうち、配当所得の金額、雑所得の金額及び譲渡所得の金額は認めるが、その余は争う。

2  同2の(主位的主張)について

(一) (一)のうち、別表2の欄の<1>現金、<17>計及び<23>純資産額、欄の<1>現金、<17>計及び<23>純資産額並びに欄の<1>現金、<16>営業権、<17>計、<18>未払金、<22>計及び<23>純資産額については争うが、その余は認める。

(二) (二)(1)の冒頭の主張は争う。

<1>ないし<3>は認める。<4>の事実は認めるが、主張は争う。<5>の事実は認めるが、主張は争う。

<6>のうち、昭和四三年三月七日に埼玉銀行石神井支店の椎名やよい名義の定期預金が解約されたこと及び被告主張の普通預金への人金が定期預金の解約金だけでされたことは否認するが、その余の事実は認める。椎名やよい名義の定期預金が解約されたのは昭和四三年六月三〇日である。また、原告は手持現金から七〇〇万円を被告主張の普通預金に入金しているから、昭和四二年一二月三一日現在の現金在高を算出するに当たつては、右七〇〇万を昭和四三年一二月三一日現在の現金在高に加算すべきである。

同(2)<1>のイ及びロは認める。ハの事実は認めるが、主張は争う。ニの事実は認めるが、主張は争う。

<2>は認める。

同(3)<1>のイは争う。ロは認める。ハの事実は認めるが、主張は争う。

<2>は争う。

<3>のうち、別表4のとおり未払金があつたことは認める。右のほかにも、原告は、片桐に対して昭和四五年一二月に開店した武蔵関会館のパチンコ設備等の代金として次のとおり合計五九五万円を支払つたから、右金員を昭和四五年一二月三一日現在の未払金勘定に加算すべきである。

昭和四六年一月二九日 一二〇万円

同年二月二七日 一五〇万円

同年三月三〇日 二〇〇万円

同年四月三〇日 一二五万円

3  同2の(現金勘定についての予備的主張)について

(一)の主張は争う。財産増減法による所得の推計に当たつては、現金勘定も他の勘定科目と同様に、取り調べた一切の証拠に基づいて合理的に算出されるべきである。

(二)のうち、別表3の事業所得の金額及び総所得金額、同表の付表一のうち、<1>、<2>、<3>及び<13>並びに同表の付表二のうち、昭和四二年一二月三一日現在欄ないし昭和四四年一二月三一日現在欄の<1>現金、<17>計及び<23>純資産在高並びに昭和四五年一二月三一日現在欄の<1>現金、<16>営業権、<17>計、<18>未払金、<22>計及び<23>純資産在高については争うが、その余は認める。

4  同2の(什器備品勘定及び未払金勘定についての予備的主張)について

(一)のうち、武蔵関会館が昭和四五年一二月に開店したこと及び被告の主位的主張に係る昭和四五年一二月三一日現在の什器備品勘定の残高三二六万〇二四五円には武蔵関会館のパチンコ遊戯設備が計上されていないことは認めるが、その余は争う。

(二)は認める。

(三)は争う。

5  同3は争う。

6  同4のうち、原告が売上の一部を除外して簿外預金を設定していたことは認めるが、その余の事実は否認し、主張は争う。

五  原告の反論

1  刑事事件の判決との関係について

原告に対する所得税法違反被告事件(以下「本件刑事事件」という。)の確定判決における修正貸借対照表は、判決摘示の証拠に基づいて認定されたものであるから、右修正貸借対照表の現金在高を変更するためには、本件刑事事件の確定判決摘示の全証拠及び新たな証拠の取調べをして改めて貸借対照表を作成しなければならないのであつて、その現金が各勘定科目のどれにも化体していないことは被告において立証すべきであり、原告には右現金が他に預け入れられたこと、あるいは他に流用された事実を主張、立証する責任はない。

2  被告の主張する現金の使途について

(一) 原告の昭和四三年五月及び八月に林征四郎から返済を受けた四〇〇万円について

原告が林征四郎から昭和四三年五月に返済を受けた二〇〇万円は、同年五月三〇日の光信建設株式会社(以下「光信建設」という。)に対するパチンコ内装工事代金四九万円、同年五月及び六月の谷泉二商店(以下「谷商店」という。)に対するネオン工事代金一三〇万円並びに同年六月二九日のスプリングシヤツター代金九万円及び車庫ブロツク塀工事代金一六万四〇〇〇円の支払に充てられた。また、原告が同人から同年八月に返済に受けた二〇〇万円は、同年九月六日に第一勧業銀行石神井支店に小倉重雄名義で設定された三七〇万円の定期預金の預入金の一部に充てられた。

(二) 練馬区上石神井一丁目二六五番地九所在の土地、建物の譲渡代金七七〇万円について

右金員は、昭和四三年一一月三〇日に第一勧業銀行石神井支店の岩本聖三名義の普通預金口座に入金された七〇〇万円、右同日に同支店に借入金の返済として支払つた一〇〇万円、同年一二月二五日に大泉会館ネオン照明工事の残代金として谷商店に支払つた一〇〇万円並びに大泉東菜会館内装工事費用として光信建設に同年一二月九日に支払つた五〇万円及び昭和四四年一月一五日支払つた五〇万円に充当された。

(三) 昭和四四年四月に林征四郎から返済を受けた三〇〇万円及び李震雨から返済を受けた三五〇万円について

右各金員は、次の支出の全部又は一部に充当された。

(1) 原告が光信建設に対して不二会館のパチンコ内装工事代金として支払つた次の金員

<1> 昭和四四年五月二一日 一〇〇万円

<2> 同年六月二五日 五〇万円

<3> 同年七月八日 一五〇万円

<4> 同年七月三一日 二〇〇万円

<5> 同年九月九日 一〇〇万円

<6> 同年一一月一三日 二五万円

(2) 原告が安嶋庄吾に対して土地、建物及び営業権の購入代金として支払つた次の金員

<1> 昭和四四年五月一日 六〇〇万円

<2> 同年五月一三日 七五〇〇万円

(3) 昭和四四年一二月三〇日に第一勧業銀行石神井支店において小倉重雄名義で設定された六〇〇万円の通知預金の預入金

(四) 三菱銀行保谷支店の鈴木三郎名義の預金の解約金一八〇〇万五〇〇〇円について

右金員は、昭和四五年七月二七日に富士銀行大泉支店に設定された小沢一郎名義の五〇〇万円の定期預金の預入金、同年七月二九日に第一勧業銀行石神井支店に設定された岩本芳子名義の五〇〇万円の定期預金の預入金及び同年七月三〇日に八代代信用金庫石神井支店に設定された岩本舜連名義の五〇〇万円の定期預金の預入金に充当された。

3  本件営業権について

原告は、昭和四五年八月に三楽ホールを取り壊し、その跡に新しく建物を建築し、同年一二月に右建物内で武蔵関会館としてパチンコ店の営業を開始したが、三楽ホールの顧客が四散したため、武蔵関会館の開店に当たつては、多額の宣伝費を投入して新たな顧客を開拓したのであり、三楽ホールに認められた本件営業権による利益はなんら受けていない。したがつて、本件営業権は、昭和四五年八月に消滅したと認めるべきである。

4  被告の什器備品勘定及び未払金勘定についての予備的主張について

(一) 被告の主位的主張に係る昭和四五年一二月三一日現在の什器備品勘定について、原告は、これを認める旨の陳述をし、裁判上の自白が成立していたから、昭和四五年一二月三一日現在の什器備品勘定についての被告の予備的主張は、自白の撤回に当たるというべきであるところ、原告は右自白の撤回に異議がある。

(二) 昭和四五年一二月三一日現在の什器備品勘定及び未払金勘定についての被告の予備的主張は、時機に後れて提出された攻撃防御方法で、訴訟の完結を遅延させるものであるから、却下されるべきである。

(三) 東京都内のパチンコ店では、年数回パチンコ機械を更新し、一年以内に全部のパチンコ機械が入れ代わるのであるから、パチンコ機械については、所得税法施行令一三八条により、その取得価額に相当する金額を必要経費に算入することができるものであり、税務当局も、右取扱いを認めている。したがつて、パチンコ機械の一部を消耗品扱いし、一部を償却資産扱いにする被告の予備的主張は理由がない。

また、被告は、右取扱いを前提として、主位的主張においては什器備品勘定にパチンコ機械を含めなかつたのである。しかるに、被告は、未払金の存否が問題となり、被告の主張が危うくなると、一転してパチンコ機械を什器備品勘定に計上すべき旨を主張するに至つたのであり、右主張は、信義誠実の原則からみても許されない。

5  事業税について

東京都練馬都税事務所長は、昭和四七年一一月一三日に、原告の昭和四三年分ないし昭和四五年分の事業税について賦課決定をし、原告は、右決定によつて増加した税額である昭和四三年分については二六三万八三五〇円、昭和四四年分については二九七万一五五〇円、昭和四五年分については五九一万四一五〇円を昭和五一年一月一六日及び同年二月二日に納付した。

ところで、事業税については必要経費に算入することが認められているから、賦課決定により納付することとなつた昭和四三年分の事業税は昭和四四年分の必要経費に、昭和四四年分の事業税は昭和四五年から必要経費にそれぞれ算入されるべきである。

六  原告の反論に対する認否及び被告の再反論

1  原告の反論1は争う。

課税処分取消訴訟における主張が刑事判決と同じでなければならないことはないのであつて、原告の主張は失当である。なお、本件刑事事件の第一審判決は、検察官の昭和四三年ないし昭和四五年の各年末の現金在高がいずれも一三五〇万円であるとの主張を排斥し、昭和四五年末に存在した三口の通知預金の資金源泉として検察官主張の現金額以外の現金が存在したのではないかと推論し得る余地があるとし、また、控訴審判決は、昭和四四年末の現金在高に関し、同年一二月二六日に三菱銀行保谷支店に預け入れられた鈴木三郎名義の一〇〇〇万円の定期預金の原資につきその出所の証明がないので疑問はあるが、同年初めに存在した原判決認定以外の現金に由来するものとして同年分の所得金額を計算する旨判示したほかは原判決の認定を容認しているのであり、結局、右両判決は、刑事事件における「疑わしきは被告人の利益に」の考え方に従い、資金源泉の不明な預金の出所を現金の可能性もありうるとして被告人の利益に現金在高を認定したに過ぎないものであるのみならず、右各年末における一三五〇万円という現金在高も、その証拠は原告の検察官に対する供述調書程度しかなく、またそれとても確たる裏付資料があるわけではないのであつて、確定的に存在したとまではいえないのであるから、刑事事件の判決が認定した現金在高を本件訴訟においてもそのまま基礎としなければならない理由はない。

2  同2について

(一) (一)のうち、昭和四三年九月六日に第一勧業銀行石神井支店に小倉重雄名義で三七〇万円の定期預金が設定されたことは認めるが、原告主張のような支払がなされたことは知らず、その余の事実は否認する。

仮に、原告主張のような支払がされたとしても、林征四郎から返済を受けた金員と右各支払については、受領日と支払日が近接すること以外には関連性を裏付ける具体的主張がないうえ、右金員以外にもその支払を賄うのに十分な資金源として八千代信用金庫石神井支店の小倉重雄名義の普通預金の出金額があるのであるから、原告の主張は根拠がない。また、林征四郎から返済を受けた金員が小倉重雄名義で設定された定期預金の預入金に充当されているとの点については、受領日と預入日が近接すること以外に何ら根拠はなく、昭和四三年九月六日付けで解約された第一勧業銀行石神井支店の安藤和美名義定期預金一〇〇万円とその解約利息四万七〇五六円及び同日に同支店の金子三郎名義普通預金から出金された二〇〇万円の存在、日々の売上が一〇〇万円前後になる原告の収入状況等を考え併せれば、小倉重雄名義の定期預金の資金源としては右のもので十分と認められるから、原告の主張は失当である。

(二) (二)のうち、原告主張のように入金ないし支払がされたことは認めるが、譲渡代金と右入金ないし支払との関連姓については争う。

譲渡代金が右入金ないし支払に充当されたとする具体的かつ合理的根拠はないのみならず、八千代信用金庫石神井支店の小倉重雄名義の普通預金からの出金等右入金ないし支払を賄うに十分な資金源があることが明らかであるから、原告の主張は失当である。

(三) (三)は争う。

林征四郎及び李震雨から返済を受けた金員と原告の主張する支払との間には何ら関連性がないうえ、原告が主張する支払については、八千代信用金庫石神井支店の大川一郎名義の普通預金からの出金、同支店からの借入金等その支払を賄うに十分な資金源があるから、原告の主張は失当である。

(四) (四)のうち、原告主張のように定期預金が設定されたことは認めるが、鈴木三郎名義の預金の解約金が右定期預金の預入金に充当されたことは否認する。

原告の主張する定期預金の資金源となり得るのは右解約金のみではなく、昭和四五年七月二日に解約された富士銀行大泉支店の松田俊雄名義定期預金一〇〇〇万円、同年六月二四日に解約された同支店の川上三郎名義通知預金五〇〇万円、同年六月二五日に解約された第一勧業銀行石神井支店の小倉重雄名義通知預金六〇〇万円等も存在するのであり、この他原告の売上収入の存在することをも考え併せると、鈴木三郎名義の預金の解約金と新規に設定された定期預金三口の間の具体的関連性は何ら見いだすことができないから、原告主張は失当である。

3  同3について

原告が昭和四五年八月に三楽ホールを取り壊し、その跡に新しく建物を建築し、同年一二月に右建物で武蔵関会館としてパチンコ店の営業を開始したことは認めるが、本件営業権が消滅したとの主張は争う。

4  同4について

(一) (一)及び(二)は争う。

(二) (三)は争う。

パチンコ器の法定耐用年数は二年であるから、仮に原告主張のように、原告所有のパチンコ器のすべてが一年以内に取り替えられるとしても、その取得時の必要経費に算入できるものではなく、減価償却資産として計上すべきである。もつとも、現行所得税法施行令の規定によれば、法定耐用年数が二年以上の資産であつても一個、一組又は一そろいの取得価額が一〇万円未満であれば、その取得時の必要経費にできることとされている(所得税法施行令一三八条)ことから、パチンコ器一台の取得価額が一〇万円未満であれば、右規定により必要経費に算入することができるが、昭和四五年分の所得税に適用される昭和四九年政令四二号による改正前の所得税法施行令一三八条には、取得価額が五万円未満に限るといつた金額制限と「その者の業務の性質上基本的に重要なものを除く」という制限が存在していたから、パチンコ業の業務の性質上基本的に重要な資産であるパチンコ器は、たとえ取得価額が五万円未満であつても取得時の必要経費とはならず、資産計上すべきものである。

また、被告の予備的主張は、本訴における攻撃防御の一方法に過ぎないのであるから、何ら信義誠実の原則に反するものではない。

5  同5は争う。

事業所得の金額の計算上、その年分の必要経費に算入すべき金額は、所得税法三七条一項により事業所得の総収入金額に係る売上原価その他当該収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他事業所得を生ずべき業務について生じた費用の額とすると規定されており、その「費用」については同項後段のかつこ書により、「償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く。」ものとされている。また、租税公課の必要経費算入に係る税務上の取扱いも、各種所得金額の計算上必要経費に算入する国税及び地方税は、その年一二月三一日までに納付すべきことが具体的に確定したものとするとされている(所得税基本通達三七-六)。

原告が主張する事業税の増加額は、原告主張のとおり昭和四七年一一月一三日付け東京都練馬都税事務所長の事業税賦課決定処分により納付すべきことが確定したものであつて昭和四五年一二月三一日以前には確定していなかつたのであるから、右事業税の金額を本件係争各年分の必要経費に算入することはできない。

第三証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1については、当事者間に争いがない。

二  そこで、本件各更正の適法性について検討する。

1  刑事事件の判決との関係について

原告の、本件訴訟において本件刑事事件の確定判決における修正貸借対照表の現金在高を変更するためには、本件刑事事件の確定判決摘示の全証拠及び新たな証拠の取調べをして改めて貸借対照表を作成しなければならないのであり、その現金が各勘定科目のどれにも化体していないことは被告において立証すべき旨を主張する。しかし、課税処分取消訴訟たる本件訴訟においては、提出された証拠に基づき本件各更正及び本件各決定の適法性を審理、判断するものであり、その際に本件刑事事件の確定判決が証拠として提出されれば、その内容は当然考慮されるべきではあるが、本件刑事事件の確定判決は、本件訴訟に対する関係においては、右に述べた以上の法的効力を有するものではないから、本件刑事事件の確定判決摘示の全証拠を取り調べなければ右判決の修正貸借対照表を変更できないものではなく、また、本件刑事事件の確定判決があるからといつて、主張、立証責任が転換するものではないというべきである。原告の主張は、理由がない。

2  本件係争各年分の所得金額について

(一)  昭和四三年分及び昭和四四年分の配当所得の金額及び雑所得の金額並びに昭和四五年分の配当所得の金額、雑所得の金額及び譲渡所得の損失の金額については、当事者間に争いがない。

(二)  本件係争各年分の事業所得の金額について

(1) 昭和四三年一二月三一日現在の純資産額(別表2の欄の<23>)、昭和四三年分の所得に加算すべき金額(被告の主張1(一)(主位的主張)(2)<4>)及び所得より減算すべき金額(同<5>)、昭和四四年分の所得に加算すべき金額(被告の主張1(二)(主位的主張)(2)<4>)及び所得より減算すべき金額(同<5>)、昭和四五年分の所得に加算すべき金額(被告の主張1(三)(主位的主張)(2)<4>)及び所得より減算すべき金額(同<5>)並びに別表2のうち、欄の<1>現金、<17>計及び<23>純資産額、欄の<1>現金、<17>計及び<23>純資産額、欄の<1>現金、<16>営業権、<17>計、<18>未払金、<22>計及び<23>純資産額を除くその余の金額については、当事者間に争いがない。

(2) 現金在高について

<1> 被告の主張2(主位的主張)(二)(1)のうちの<1>ないし<3>、同(2)<1>のうちのイ及びロ並びに同(3)<1>のうちのロについては、当事者間に争いがない。

<2> 同(二)(1)の<4>及び<5>について

原告が昭和四三年五月及び八月に林征四郎から貸付金の返済として四〇〇万円を受領したこと及び原告が昭和四三年一一月下旬ころ練馬区上石神井一丁目二六五番地九所在の土地、建物を八〇〇万円で譲渡し、手数料三〇万円を差し引いて七七〇万円を受領したことについては、当事者間に争いがないが、原告が右金員を受領したために昭和四三年一二月三一日現在の手持現金が昭和四二年一二月三一日現在のそれに比べて一一七〇万円増加したことを認めるに足る証拠はない(右現金の使途を認めるに足る証拠もないが、しかし、それだからといつて右現金が昭和四三年一二月三一日まで保持されていたということはできない。)から、昭和四二年一二月三一日現在の現金在高を算出するに当たり、昭和四三年一二月三一日現在の現金在高から右一一七〇万円を控除すべきであるとの被告の主張を採用することはできない。

<3> 右のように、被告の主張2(主位的主張)(二)(1)の<4>及び<5>は採用することができないので、現金勘定についての被告の予備的主張について検討する。

イ 財産増減法を適用して所得金額を推計する場合に、各年末の現金在高は、本来現金出納帳等の確実な資料によつて把握されることが望ましいことはいうまでもないが、現金出納帳等の確実な資料がない場合には、営業活動を行つている者は、一定の額を超える現金を長期にわたつて保持していないのが通常であると考えられることに鑑み、翌年初めに多額の支出が予定され、その支出を行うために年末に多額の現金を所持している必要があるなどの特段の事情がない限り、各年末の現金在高は一定であるとして、各年分の所得金額を算出することも許されるものと解するのが相当である。

ロ これを本件についてみるに、成立に争いのない乙第四号証及び第二五号証並びに原本の存在及びその成立に争いのない乙第三五号証によれば、原告は、本件係争各年を通じて、パチンコ業等を営んでいたこと及び原告は現金出納帳を作成していなかつたことを認めることができるうえ、本訴においても、現金在高を把握するに足る確実な資料は提出されておらず、また、右にいう特段の事情を窺うに足る証拠もないから、昭和四二年から昭和四五年までの各年末の現金在高は一定であつたというべきである。

なお、前掲乙第四号証並びに成立に争いのない甲第四号証、第六号証及び第七号証によれば、本件刑事事件の第一審で、検察官は、捜査段階における原告の検察官に対する供述に従い、昭和四三年一二月三一日現在、昭和四四年一二月三一日現在及び昭和四五年一二月三一日現在の現金在高はいずれも一三五〇万円であると主張したが、第一審判決は、弁護人の主張を採用し、昭和四五年一二月三一日現在の原告の預金として認定されている三菱銀行保谷支店において昭和四五年一二月一六日原告名義で設定された通知預金六〇〇万円、同支店において同日李舜連名義で設定された通知預金六〇〇万円及び富士銀行大泉支店において同日岩本聖三名義で設定された通知預金一三〇〇万円の合計二五〇〇万円は、原告が、昭和四三年以前から現金として所持していたものを右通知預金設定の日に初めて預金化したものと認め、昭和四三年一二月三一日現在及び昭和四四年一二月三一日現在の現金在高をそれぞれ三八五〇万円、昭和四五年一二月三一日現在の現金在高を一三五〇万円と認定したこと、第二審判決は、弁護人の主張に従い、原判決が認定した昭和四四年一二月三一日現在の預金額の外に、原告は昭和四四年一二月二六日三菱銀行保谷支店に鈴木三郎名義で一〇〇〇万円の定期預金をし、満期の昭和四五年三月二六日その払戻しを受けたと認定したうえ、右払戻金がその後どのようになつたかは不明であり、これが昭和四五年一二月三一日においても原判決の認定した以外の資産として存在していたことを認めるに足る証拠はないとし、また、右鈴木三郎名義の定期預金の原資となつた現金一〇〇〇万円の出所が明らかでなく、これが原判決の認定した昭和四四年初めにおける現金以外の資産に由来するもの、あるいは同年中の事業活動から発生したものであるとの証明がないので、疑問はあるが、同年初めに存在した原判決の認定外の現金に由来するものとして同年分の所得金額を計算するのが相当であるとして、現金在高は昭和四三年末が四八五〇万円、昭和四四年末が三八五〇万円、昭和四五年末が一三五〇万円であると認定したことが認められるが、右各判決は、その判示自体から明らかなように、現金出納帳等の確実な資料に基づいて昭和四三年から昭和四五年までの各年末の現金在高を認定したものではない(前掲乙第四号証並びに成立に争いのない乙第二六号証及び第二七号証によれば、原告は、同人の所持する現金について、収税官吏に対しては、現金はそんなに多くなかつたが不時の出費に備えて一五〇万円かせいぜい二〇〇万円位であつた旨を供述し、また、検察官に対しては、昭和四三年一二月末及び昭和四四年一二月末のそれぞれの現金在高はいずれも同じ位で一三五〇万円位である旨を供述し、さらに、本件刑事事件の第一審の公判廷では、必ずしも明確ではないが、昭和四二年一二月末には七〇〇〇万円、昭和四三年一二月末には五〇〇〇万円、昭和四五年一二月末には一七〇〇万円である旨を供述していることが認められるところ、右認定の事実によれば、本件刑事事件の第一審判決及び第二審判決が現金在高を算定するための基礎とした捜査段階における原告の検察官に対する供述自体、根拠のあるものか疑問であるといわざるを得ない。)から右判決が存在することも前記認定を覆すに足りないものというべきである。また、前記のとおり、原告は、本件刑事事件の第一審の公判廷では、昭和四二年一二月末には七〇〇〇万円、昭和四三年一二月末には五〇〇〇万円、昭和四五年一二月末には一七〇〇万円である旨を供述しているのであるが、前掲乙第二七号証から明らかなように、右公判延における原告の供述は、変転を繰り返しており、また、原告の供述する現金の保有状況も極めて不自然であるということができるから、原告の右供述は到底信用しがたいものというべきである。

(3) 昭和四五年一二月三一日現在の営業権勘定について

<1> 原告が昭和四四年五月一日に安嶋庄吾から本件営業権を二〇〇〇万円で取得したこと及び本件営業権の昭和四四年分の償却費の額が四〇〇万円であることは、当事者間に争いがないから、昭和四五年一二月三一日現在の本件営業権の未償却残高は、昭和四四年一二月三一日現在の未償却残高一六〇〇万円から昭和四五年分の償却費の額(取得価額二〇〇〇万円の五分の一に相当する金額)を控除した一二〇〇万円となる。

<2> 原告は、本件営業権は昭和四五年八月に消滅したと主張するので、この点について検討する。

イ 所得税法二条一項一九号、同法施行令六条八号は、営業権を無形固定資産の一種とし、減価償却資産であることを明定しているところ、右にいう営業権とは、当該企業の長年の営業活動により創出された特有の名声、信用、得意先及び仕入先関係を基礎として生まれる社会的信用、当該企業の保有する営業上の秘訣、あるいはその営業についての許認可ないしは立地条件を含めた独占性、更にはその経営組織等の諸々の要素が有機的に結合されたことにより、他企業を上回る企業収益を稼得することができる無形の財産的価値を有する事実関係であるというべきであるから、営業としての同一性が肯定される限り、営業権の重要な部分以外の事実関係の一部に若干の変更があつたとしても、そのことによつて営業権の価値に消長をきたすことはないものというべきである。

ロ これを本件についてみるに、原告昭和四四年五月一日に安嶋庄吾から三楽ホールを買い受けたこと及び原告が昭和四五年八月に三楽ホールを取り壊し、その跡に新しく建物を建築し、同年一二月に右建物内で武蔵関会館としてパチンコ店の営業を開始したことは、当事者間に争いがなく、前掲乙第二七号証及び第三五号証並びに成立に争いのない乙第二三号証及び第三二号証によれば、安嶋庄吾は三楽ホールの店名でパチンコ営業を行うにあたり、営業許可を得、営業の地盤を作ることに苦労したが、約一〇年間にわたりパチンコ営業を続けた結果、原告が右ホールを買い受けた当時は、三楽ホールは客の入りがよく、盛況を呈していたこと、三楽ホールの所在する地区には同ホールから約五〇メートル離れた所に「西武」という屋号のパチンコ店が一軒あるだけで、他にはパチンコ店はないこと、三楽ホールは武蔵関駅の駅前にあり、しかも両面が商店街に向いているため立地条件が良いこと、原告は、三楽ホールを取り壊した際に従業員を全員解雇したため、武蔵関会館の開店にあたり新たに従業員を雇い入れたこと、以上の事実が認められる。これらの事実によれば、顧客の誘引力、立地条件の良さ及びパチンコ営業についての独占性等が本件営業権の重要な部分をなすということができるところ、これらの事実関係は三楽ホールの取壊し、武蔵関会館の開店ということによつて影響を受けるものではないと考えられるし、三楽ホールの所在した場所でのパチンコ営業は一時中断されただけで、廃止されたわけではないから、営業の同一性は失われていないというべきであつて、店名、従業員の変更があつても、本件営業権の価値が減少したとか、あるいは本件営業権が減失したということはできないものといわなければならない。

したがつて、原告の主張は採用することができない。

(4) 昭和四五年十二月三一日現在の未払金勘定について

<1> 昭和四五年一二月三一日現在別表4のとおり未払金があつたことは、当事者間に争いがない。

<2> 原告は、右のほかに、片桐に対して武蔵関会館のパチンコ設備等の代金五九五万円の未払金があつたと主張するので、この点について検討する。

片桐作成の昭和四五年一〇月七日付けの領収書(甲第二号証の一)には関町会館の玉の内金として四〇万円を受領した旨の記載が、同年一二月一四日付けの領収書(甲第二号証の二)には関町分内金として二〇〇万円を受領した旨の記載が、同年一二月二九日付けの領収書(甲第二号証の三)には関町分の機械代内金として三〇〇万円を受領した旨の記載が、昭和四六年一月二九日付けの領収書(甲第二号証の四)には不二及び大泉分残金として一二〇万円を受領した旨の記載が、同年二月二七日付けの領収書(甲第二号証の五)には関町分機械代内金として一五〇万円を受領した旨の記載が、同年三月三〇日付けの領収書(甲第二号証の六)には関町分の内金として二〇〇万円を受領した旨の記載が、同年四月三〇日付けの領収書(甲第二号証の七)には関町分の残金一二五万円、大泉会館クローズ張工事金三万円及び宇宙パイプ修理代金一万七〇〇〇円を受領した旨の記載がそれぞれなされており、証人本間富夫は、右領収書等は昭和五六年一二月ころに還付を受けた本件刑事事件の押収物件の中にあつた旨を証言する。

しかしながら、成立に争いのない乙第五〇号証、証人久世貴一の証言によつて真正に成立したものと認められる乙第四九号証及び同証言によれば、本件刑事事件において押収された原告の支払明細帳には甲第二号証の一ないし三及び七の領収書の記載に対応する支払については記帳されていたが甲第二号証の四及び五の領収書等の記載に対応する支払については記帳されていなかつたこと、右支払明細帳の記載と押収されていた領収書等の内容との間に整合しない点はなかつたことが認められ、また、成立に争いのない乙第二号証によれば、片桐は、検察官に対して、昭和四五年中にはパチンコ機械や内装の代金は全部払つてもらつており、その年には代金の残額はない旨を供述していることが認められる。

右認定事実によれば、甲第二号証の四及び五は、本件刑事事件の押収物件の中にはなかつたというべきであるから、これらは後日作成された疑いがあり、また、甲第二号証の七は、その支払がなされた当時に作成されたものであるということはできるものの、その支払がなされた日を考慮すると、右の関町分の残金一二五万円が昭和四五年中に発生した債権の未払金であるということはできないから、甲第二号証の四ないし七をもつて原告主張の未払金があつたと認めることはできず、他にこれを認めるに足る証拠はない。したがつて、原告主張の未払金はなかつたものと認めるのが相当である。

(5) 什器備品勘定及び未払金勘定についての被告の予備的主張について

なお、念のため、什器備品勘定及び未払金勘定についての被告の予備的主張について検討する。

<1> 原告は、什器備品勘定についての被告の予備的主張は自白の撤回に当たり、右自白の撤回には異議があると主張するが、自白とは相手方が主張責任を負う事実を認める陳述であるところ、什器備品勘定がいくらであるかについては被告が主張責任を負うのであるから、被告の自白の対象となることはあり得ないのであつて、原告の主張は理由がない。

<2> また、原告は、什器備品勘定についての被告の予備的主張は、時機に後れて提出された攻撃防禦方法であるから却下されるべきであると主張するが、本件記録によれば、被告は、第七回口頭弁論期日において陳述された準備書面において、仮に原告主張の未払金が存在するとしても、什器備品勘定に右未払金の金額を上回る資産の計上漏れがあると主張し、その後、右主張に訂正を加えていつたことが明らかであるから、什器備品勘定についての被告の予備的主張が時機に後れて提出されたものであるということはできない。

<3> さらに、原告は、未払金についての被告の主張が危うくなつたために、パチンコ機械を什器備品勘定に計上すべき旨を主張するに至つたのであり、右主張は、信義誠実の原則からみても許されないと主張するが、訴訟の経過に従つて新しい主張を提出することは、民事訴訟法一三九条一項で却下されない限り許されているのであつて、原告の右主張を採用することはできない。

<4> そこで、什器備品勘定及び未払金勘定についての被告の予備的主張の当否について検討する。

イ 被告の主位的主張に係る昭和四五年一二月三一日現在の什器備品勘定の残高三二六万〇二四五円には武蔵関会館のパチンコ遊戯設備が計上されていないことは、当事者間に争いがない。

ロ 原告の未払金についての主張は、前記のところから明らかなように、甲第二号証の四ないし七の領収書等によるものであるが、このうち、甲第二号証の四は、その記載自体から明らかなように、武蔵関会館に関するものでないから、原告の主張する未払金のうち武蔵関会館に関するものは四七五万円であるというべきである。そして、前掲乙第四九号証及び証人本間富夫の証言によつて真正に成立したものと認められる甲第二号証の一ないし三によれば、原告が武蔵関会館のパチンコ設備代金及びパチンコ玉の代金として昭和四五年中に支払つた金額は五四〇万円であることが認められるから、仮に、原告主張の未払金が存在したとするならば、武蔵関会館の設備代金及びパチンコ玉の代金は合計一〇一五万円となるのであり、また、前掲乙第二三号証、成立に争いのない乙第二二号証、原本の存在及びその成立に争いのない乙第四八号証の四によれば、パチンコ遊戯設備はパチンコ器、パチンコ器取付台、自動玉貸機、自動電磁カウンター、自動玉洗浄及び補給装置で構成されていること、武蔵関会館のパチンコ設備代金及びパチンコ玉の代金のうちパチンコ玉の代金は九二万円、パチンコ器の代金は三八三万四〇〇〇円であつたと認めることができるから、パチンコ器以外のパチンコ設備であるパチンコ取付台、自動玉貸機、自動電磁カウンター、自動玉洗浄及び補給装置の代金は、五三九万六〇〇〇円であつたということができる。

ところで、パチンコ玉は減価償却資産には該当しないから、その取得価額を必要経費に算入することができるが、パチンコ遊戯設備は所得税法施行令六条七号の器具及び備品に該当し、その耐用年数については、昭和四五年大蔵省令第三三号による改正後の減価償却資産の耐用年数に関する省令(昭和四〇年三月三一日大蔵省令第一五号。以下、単に「省令」という。)別表第一により、パチンコ器は器具及び備品の項の「9 娯楽又はスポーツ器具及び興行又は演劇用具」の「パチンコ器」に該当するから二年、パチンコ器取付台(木製のもの)は同じく「9 娯楽又はスポーツ器具及び興行又は演劇用具」の「その他のもの、その他のもの」に該当するから五年、自動玉貸機は同じく「11 前掲のもの以外のもの」の「自動販売機」に該当するから五年、自動電磁カウンターは同じく「9 娯楽又はスポーツ器具及び興行又は演劇用具」の「その他のもの、主として金属製のもの」又は「2 事務機器及び通信機器」の「複写機、計算機」に該当するから一〇年または五年、自動玉洗浄及び補給装置は同じく「9 娯楽又はスポーツ器具及び興行又は演劇用具」の「その他のもの、主として金属製のもの」に該当するから一〇年であるということができる。

以上に基づいて、武蔵関会館のパチンコ遊戯設備について昭和四五年分の減価償却費を計算すると、別表6のとおり二二万四七一五円となる(パチンコ器以外の設備については、原告の有利に耐用年数はいずれも五年であるとして計算した。)。

そうすると、武蔵関会館のパチンコ設備の昭和四五年一二月三一日現在の未償却残高は、次式のとおり九〇〇万五二八五円となる。

10,510,000-920,000-224,715=9,005,285

ハ 原告は、東京都内のパチンコ店では、年数回パチンコ機械を更新し、一年以内に全部のパチンコ機械が入れ代わるのであるから、パチンコ機械については所得税法施行令一三八条により、その取得価額に相当する金額を必要経費に算入することができるものであり、税務当局も右取扱いを認めている旨を主張する。

しかしながら、減価償却資産の耐用年数は省令の別表第一から第九に定められており、税法上、減価償却費はこれらのいずれかの耐用年数(法定耐用年数)を適用して計算することとされている(省令一条)が、各企業が所有している個別の減価償却資産について法定耐用年数と著しい開差が生じることもあるので、所得税法施行令は、申請、届出ないし承認により法定耐用年数によることなく減価償却を行う制度を設け(同令一三〇条、一三三条、一三三条の二)、その間の調整を図つているのであるから、法定耐用年数によらずに減価償却をしようとする者は、右の申請ないし届出を行い、あるいは承認を受けるべきであつて、これらの手続を行うことなく恣意的に減価償却を行うことは許されないと解すべきである。したがつて、原告が主張するように、一年以内に全部のパチンコ機械が入れ代わつたとしても、原告が右に述べた手続を行つていない(前掲乙第四八号証の四によれば、原告は、昭和四六年分の確定申告において、武蔵関会館のパチンコ器について法定耐用年数によつて減価償却をしていることが認められるのであつて、この事実によれば、原告が右手続をしていないことは明らかである。)以上、法定耐用年数によつて減価償却すべきであり、パチンコ機械を取得した年にその取得価額に相当する金額を必要経費に算入することはできないものというべきである(前掲乙第二五号証によれば、原告は、審査請求に係る審理に際し、三楽ホールの什器備品の取得価額から昭和四四年分の減価償却費六〇万円を控除した四四〇万円を昭和四四年一二月三一日現在の什器備品勘定に計上すべき旨を主張したこと、裁決では右主張が採用され、同日現在の什器備品勘定の残高は被告の主張した三六九万〇五〇三円に右四四〇万円を加えた八〇九万〇五〇三円であるとされたことが認められ、また、被告は、本訴において、昭和四四年一二月三一日現在の什器備品勘定の残高を裁決認定額と同額である八〇九万〇五〇三円と主張し、前記のとおり、原告はこれを認めているから、原告自身パチンコ機械については減価償却することを認めているというべきである。)。

また、昭和四五年分の所得税について適用される昭和四八年政令第五三号による改正前の所得税法施行令一三八条は、その者の業務の性質上基本的に重要なものについては適用されないこととされているところ、パチンコ機械は原告の行うパチンコ業にとつて基本的に重要なものに該当すると考えられるから、これについては所得税法施行令一三八条は適用されないというべきである。

なお、前掲乙第三二号証によれば、本件刑事事件の第一審において、収税官吏浜田理は、パチンコ機械を消耗品扱いで申告すれば税務当局もこれを認める扱いである旨を証言していることが認められるところ、仮に税務当局が右のような扱いを否認しなかつたとしても、そのことの故に右扱いが適法となるわけではないから、右証言も前記認定を左右するに足るものではないというべきである。

ニ 以上によれば、昭和四五年一二月三一日現在の什器備品勘定は、被告の主位的主張に係る三二六万〇二四五円に九〇〇万五二八五円を加算した一二二六万五五三〇円、未払金勘定は一億〇五二五万八四二〇円となり(未払金勘定については当事者間に争いがない。)、昭和四五年一二月三一日現在の純資産額は被告の主位的主張のそれよりも多額となるのであるから、昭和四五年分の事業所得の金額も増加するこことなる。したがつて、原告主張の未払金が認められるとしても、昭和四五年分の事業所得の金額は、被告の主位的主張のそれよりも少なくなることはないというべきである。

(6) 事業税について

原告は、昭和四七年一一月一三日に賦課決定された昭和四三年分の事業税二六三万八三五〇円は昭和四四年分の必要経費に、昭和四四年分の事業税二九七万一五五〇円は昭和四五年分の必要経費に算入されるべきであると主張するので、この点について検討するに、所得税法三七条一項によれば、事業所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額は、事業所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他事業所得を生ずべき業務について生じた費用(償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く。)の額とするとされているところ、原告が昭和四四年分及び昭和四五年分の必要経費に算入すべき旨を主張する事業税が昭和四五年一二月三一日以前に確定していなかつたことは原告の主張から明らかであるから、右事業税を昭和四四年分及び昭和四五年分の必要経費に算入することはできない。

(7) 以上によれば、現金を除く純資産額は、昭和四二年一二月三一日現在が一億八四七八万三六〇〇円、昭和四三年一二月三一日現在が二億三九二九万四一七五円、昭和四四年一二月三一日現在が三億〇五七四万四六二六円、昭和四五年一二月三一日現在が四億〇六九四万九一四七円となるから、純資産増加額は昭和四三年分が五四五一万〇五七五円、昭和四四年分が六六四五万〇四五一円、昭和四五年分が一億〇一二〇万四五二一円となり、この金額と前記のとおり当事者間に争いがない所得に加算すべき金額及び所得より減算すべき金額によれば、原告の事業所得の金額は昭和四三年分が五〇一四万五四四七円、昭和四四年分が六一五二万〇三一七円、昭和四五年分が九六二八万八九四五円となる。

(三)  そうすると、総所得金額は、昭和四三年分が五一四六万〇二四七円、昭和四四年分が六二九八万五六五一円、昭和四五年分が九七五五万〇八四五円となり、本件各更正はいずれも右金額の範囲内でされたものであるから、本件各更正には原告の所得金額を過大に認定した違法はない。

三  本件各決定の適法性について

原告が売上の一部を除外して簿外預金を設定していたことについては、当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第一号証によれば、原告が事業に関する帳簿を破棄していたことを認めることができるのであつて、右の事実によれば、原告は所得税の課税標準または税額等の計算の基礎となるべき事実の全部または一部を隠ぺいまたは仮装し、その隠ぺいまたは仮装したところに基づいて納税申告書を提出していたということができるから、本件各更正によつて増加した税額を対象として重加算税を賦課した本件各決定は適法である。

四  結論

よつて、原告の本訴請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 宍戸達徳 裁判官 北澤晶 裁判官 三村晶子)

別表1(本件課税処分の経緯)

一 昭和四三年分

<省略>

二 昭和四四年分

<省略>

二 昭和四四年分

<省略>

別表2 各年末資産負債の在高

<省略>

別表3の付表一

事業所得の金額の計算

<省略>

※ <1><2>の各年末純資産在高の内訳は、付表二のとおり

別表3

<省略>

※ 事業所得の金額の計算根拠は、付表一のとおり

別表3の付表二 各年末資産負債の在高

<省略>

別表4 昭和45年12月31日現在の未払金

<省略>

<省略>

別表5

<省略>

別表6

<省略>