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東京地方裁判所 昭和59年(行ウ)144号 判決 1986年12月05日

原告

桂秀光

被告

地方公務員災害補償基金東京都支部長鈴木俊一

右訴訟代理人弁護士

大山英雄

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告に対して、昭和五八年一月七日付で行った、原告の昭和五七年一一月分の平均給与額を六〇九八円、休業補償金額を四万七五六四円とする休業補償決定処分を取り消す。

2  被告が原告に対して、昭和五八年三月一日付で行った、原告の昭和五七年一二月分の平均給与額を六〇九八円、休業補償支給金額を四万二四六円とする休業補償決定処分を取り消す。

3  訴訟費用は、被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨。

第二当事者の主張

一  請求原因

1(原告の受傷と公務上の災害認定)

原告は、東京都品川区立荏原第四中学校(以下「荏原四中」という。)に教諭として勤務していた昭和五七年五月二四日、同校放送室において生徒の暴行により、第一腰椎圧迫骨折、頸椎捻挫及び骨盤打撲の傷害を受けた。

被告は、右原告の負傷のうち第一腰椎圧迫骨折及び頸椎捻挫について、昭和五七年六月一五日付で、骨盤打撲については同年一一月二二日付でそれぞれ公務上の災害と認定した。

2(休業補償決定処分の存在)

(一)  被告は、昭和五八年一月七日付で、原告の同五七年一一月一日から同月三〇日までの間の休業補償につき、平均給与額を六〇九八円、補償期間を一三日間、休業補償金額を四万七五六四円とする休業補償決定処分(以下「本件処分(一)」という。)をした。

(二)  被告は、昭和五八年三月一日付で、原告の同五七年一二月一日から同月三一日までの間の休業補償につき、平均給与額を六〇九八円、補償期間を一一日間、休業補償金額を四万二四六円とする休業補償決定(以下「本件処分(二)」という。)をした。

3(違法事由の存在)

(一)  請求の不存在

本件処分(一)(二)(以下「本件各処分」という。)は、原告の意思に基づかない休業補償請求を基礎になされたものであって無効である。

(二)  平均給与額、休業補償金額算定の誤り

(1) 本件処分(一)について

原告の昭和五七年一一月当時の一日あたりの賃金額は七四九五円八五銭である。本件処分(一)は、右金額を一日あたりの給与額として算定の基礎にすべきところ、誤って平均給与額六〇九八円を算定の基礎としたため、一日あたり一三九七円八五銭、休業した一三日分合計一万八一七二円五銭の減収を原告にもたらした。

したがって、本件処分(一)の平均給与額、休業補償金額には、算定上の誤りがある。

(2) 本件処分(二)について

原告の昭和五七年一二月当時の一日の賃金額は右同様七四九五円八五銭である。本件処分(二)は、右同様の誤りを犯したため、一日あたり一三九七円八五銭、したがって休業した一一日分合計一万五三七六円三五銭の減収を原告にもたらした。

したがって、本件処分(二)の平均給与額、休業補償金額には、算定上の誤りがある。

(三)(1)  荏原四中学校長井ノ内宏(以下「井ノ内校長」という。)は、昭和五七年六月上旬、被告の代理人としてあるいは被告の代理人である東京都及び東京都教育委員会の機関として原告に対し、「原告の収入は、普通に勤務している場合より減少することはない」と述べて、原告が休業してもその収入が減ずることがないように休業補償することを約した。

(2) 昭和五七年六月上旬、原告の当時の服務監督権者品川区教育委員会教育長和田三郎及び指導室長石郷岡二郎も、被告の代理人として、あるいは被告の代理人である東京都及び東京都教育委員会の機関として、右同様の補償を約した。

(3) 原告は、右井ノ内校長らの約した補償を信頼して通院を続けていたのであり、原告の右信頼は保護されるべきであり、これと異なる本件各処分は取り消されるべきである。

(4) 被告は、原告の任命権者及び服務監督者に対し、公務災害補償制度を周知徹底せしめる義務があるところ、被告はこれを怠り、右井ノ内校長、和田三郎、石郷岡二郎(以下「井ノ内校長ら」という。)らに右のとおりの説明をさせたのであるから、被告は右説明と異なる処分をなすことは許されない。

4 よって、本件各処分は取り消されるべきである。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1、2の事実は認める。

2  同3(一)の事実は否認する。

同3(二)の事実は争う。

同3(三)(1)(2)の事実のうち、荏原四中の校長が井ノ内宏であったこと、品川区教育委員会の教育長が和田三郎、指導室長が石郷岡二郎であったことは認め、井ノ内校長、和田三郎、石郷岡二郎が被告の代理人であったこと及び東京都や東京都教育委員会が被告の代理人であることは否認し、その余は不知。同3(3)は争う。

仮に原告主張の如き話があったとしても、それは単に休業補償制度があることを知らせた以上の意義を有するものではなく、被告がそれに拘束されることはない。

同3(4)は争う。

三  被告の主張

1(一)(休業補償受給手続)

休業補償を受けようとする者は、地方公務員災害補償基金(以下「基金」という。)の定めるところにより、補償の請求書を職員の任命権者を経由して基金に提出する(地方公務員災害補償法施行規則―以下「法施行規則」という。―三〇条一項)。基金はこの規定に基づいて、請求書に記載すべき事項を定め、休業補償を受けようとする者は、この請求書を任命権者を経由して基金の支部長に提出することになる(地方公務員災害補償基金業務規程―以下「業務規程」という。―一二条一項)。

(二)  なお原告の任命権者は東京都教育委員会であり、原告の事実上の服務監督者は井ノ内校長である。そして井ノ内校長は東京都品川区教育委員会の補助機関としてその職務を行っているのである。

また、基金は東京都教育委員会とは別個の法人である。

(三)  原告は、本件各処分の前提となる各補償請求書を任命権者である東京都教育委員会(事実上は井ノ内校長)に提出し、同委員会は同請求書を支部長たる被告に提出し、被告は原告の提出した各請求書に基づいて本件各処分を行ったものである。

(四)  また、井ノ内校長、品川区教育委員会教育長和田三郎及び同指導室長石郷岡二郎は、いずれも教育委員会に所属するものであって、被告の機関でもなければ代理人でもなく、被告が同人らの行為について責任を負う理由はない。

2  平均給与額、休業補償金額の算定について

(一) 本件各処分における平均給与額及び休業補償金額の算定方法

(1) 地方公務員災害補償法(以下「法」という。)二八条によれば、基金は、「職員が公務上負傷し、……療養のため勤務することができない場合において、給与を受けないときは、休業補償として、その勤務することができない期間につき、平均給与額の百分の六十に相当する金額を支給する。」こととなっており、平均給与額とは、「負傷……の原因である事故の発生の日……の属する月の前月の末日から起算して過去三月間(……)にその職員に対して支払われた給与の総額を、その期間の総日数で除して得た金額をいう。」(法二条四項)ことになっている。

(2) そこで、原告の平均給与額すなわち、原告が公務上の災害に該当する負傷を受けた昭和五七年五月二四日の属する月の前月である四月の末日から起算して過去三月間に原告に支払われた給与の総額をその期間の総日数で除して得た金額を計算すると金六〇九八円となる。

その詳細は次の通りである。

<1> 給与期間昭和五七年二月一日から二八日まで。

a総日数 二八日

b勤務した日数 二三日

c給料 一三八、二一六円

d調整手当 一二、四三九円

e通勤手当 二〇、六七〇円

f義務教育特別手当 七、〇〇〇円

合計 一七八、三二五円

<2> 給与期間昭和五七年三月一日から同三一日まで。

a総日数 三一日

b勤務した日数 二六日

c給料 一三八、二一六円

d調整手当 一二、四三九円

e通勤手当 二〇、六七〇円

f義務教育特別手当 七、〇〇〇円

合計 一七八、三二五円

<3> 給与期間昭和五七年四月一日から同三〇日まで。

a総日数 三〇日

b勤務した日数 二五日

c給料 一四四、九七六円(四月一日昇給)

d調整手当 一三、〇四七円

e通勤手当 二〇、六七〇円

f義務教育特別手当 七、三〇〇円

合計 一八五、九九三円

<4> 以上の総合計

a総日数 八九日

b勤務した日数 七四日

c給料 四二一、四〇八円

d調整手当 三七、九二五円

e通勤手当 六二、〇一〇円

f義務教育特別手当 二一、三〇〇円

合計 五四二、六四三円

<5> 右の結果、平均給与額は、支給総額五四二、六四三円を総日数で除した六、〇九七円一一銭を切上げた六、〇九八円となる。

そして、被告が原告に対し支給すべき休業補償額は、平均給与額の六〇%であるから、

a昭和五七年一一月分(休業日数一三日) 金四七、五六四円

b昭和五七年一二月分(休業日数一一日) 金四〇、二四六円

となる。

(二) 被告は、原告の平均給与額を算定するにあたり、(1)法二条四項本文による金額、(2)同項ただし書による金額、(3)法二条六項又は法施行規則三条一項による金額、(4)法施行規則三条二項による金額、(5)法施行規則三条三項による金額、(6)法施行規則三条四項による金額をそれぞれ比較し、金額的に原告に最も有利な(1)の方法による金額としたものである。但し、(3)及び(4)を適用する余地はない。

なお、平均給与額を算定するにあたり、計算の基礎に算入すべき手当は、法二条五項に定められている手当に限られており、中学進路指導対策費や出張手当はこれに含まれない。しかも、法二条五項に定められている特殊勤務手当は、多学年学級担当手当、舎監手当又は著しく危険、不快、不健康又は困難な勤務その他著しく特殊な勤務で、給与上特別の考慮を必要とし、かつその特殊性を給料で考慮することが適当でないと認められるものに従事する職員について支給する手当であるから(学校職員の給与に関する条例一五条)、中学進路指導対策費及び出張手当はこれに当たらないことも明らかである。したがってこれらの対策費等は、平均給与額算定の基礎に算入される手当には含まれない。

3  以上のとおり、本件各処分はいずれも、原告の請求に基づき、被告が法令上の根拠に基づき適法に行った処分であり、何ら違法事由はない。

四  被告の主張に対する認否及び反論

1  被告の主張に対する認否

(一) 被告の主張1(一)は不知。同(二)の事実のうち原告の任命権者が東京都教育委員会であることは認め、その余は否認する。同(三)の事実のうち、原告の任命権者が東京都教育委員会であることは認める。同(四)は争う。

井ノ内校長、和田三郎及び石郷岡二郎は被告の代理人若しくは機関として原告に説明したものである。

(二) 被告の主張2(一)、(二)は争う。

2  反論

(一) 被告は、法施行規則三条三項により平均給与額を計算すべきところ、被告の主張2のとおりの計算をしたため、「東京都職員の公務災害補償等に伴う付加給付に関する条例」付則四項による東京都からの付加給付の支給を受けることができず原告の収入を減ずる結果をもたらしたのであるから、被告の平均給与額の算定は拠るべき方法を誤ったものである。

(二) 原告は井ノ内校長らの休業補償により収入が減ずることはないとの言を信頼していたのであり、被告も井ノ内校長らのこのような言動に対して責任を負うべき立場にある。それにもかかわらず、本件各処分は原告に対し収入減の結果をもたらしている。このような被告が責を負うべき行為により収入減の結果を生ずる場合の平均給与額は、法二条七項にいう法二条四項によっては「公正を欠くと認められる場合」に該当するので、法二条四項によるべきではない。

(三) 原告は、次のとおり、中学校進路指導対策費、出張手当の支給をうけており、これらの手当等は法二条五項にいう特殊勤務手当に該当する。被告は本件各処分にあたって右手当等を平均給与額算定の基礎に算入してない。

(1) 原告は昭和五七年四月二七日

中学校進路指導対策費として四〇〇〇円受給。

(2) 原告は、昭和五七年二月一九日荏原四中の生徒を引率して、神奈川県横浜市内のこどもの国に出張し、出張手当を受給。

(3) 原告は、昭和五七年三月一一日荏原四中の生徒を引率し、東京都大田区内の蒲田ロキシーに出張し、出張手当を受給。

(4) 原告は、昭和五七年三月一二日荏原四中生徒を引率して山梨県富士吉田市内富士急ハイランドに出張し、出張手当を受給。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1、2の事実は当事者間に争いがない。

二  原告の補償請求の有無について

(一)  休業補償を受けようとする者は、基金の定めた請求書を職員の任命権者を経由して基金(支部長)に提出して、休業補償の請求をする必要がある(法施行規則三〇条一項、業務規程一二条一項)。

したがって原告が補償請求をする場合、原告はその任命権者である東京都教育委員会(原告の任命権者が東京都教育委員会であることは当事者間に争いがない。)を経由して、所定の請求書を被告に提出する必要がある。

(二)  ところで、原告は本件各処分は、原告の意思に基づかない請求によるものであるから無効である旨主張するので、この点について検討するに、(証拠略)、原告本人尋問の結果によれば、原告は昭和五七年一一月一日から同月三〇日までの間に休業した一三日間について同年一二月三日付で、また、同年一二月一日から同月三一日までの間に休業した一一日間について昭和五八年二月一六日付でそれぞれ被告宛てに、休業補償請求書を作成し、被告宛てに提出していること、原告には各請求書に記載された平均給与額に不満はあるものの、休業補償を受ける意思はあることが認められ、これらの事実に照らすと、原告に右期間の休業補償を請求する意思があり、その意思に基づいて被告に休業補償の請求をしたものと認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

したがって、原告の右主張は理由がない。

三  平均給与額及び休業補償額の算定について

(証拠略)及び弁論の全趣旨を総合すると、原告は、公務災害の療養のために、昭和五七年一一月一日から同月三〇日までの間に一三日間、また同年一二月一日から三一日までの間に一一日間休業したこと、原告の同年一一月、一二月当時の給与は、給料一五万一七三六円、調整手当一万三六五六円、義務教育特別手当七六〇〇円、通勤手当二万一九〇〇円合計一九万四八九二円であったこと、ところが、原告は右のとおり休業したため、職員の給与に関する条例二〇条により、原告の同年一一月分の給与から、給料七万五八六八円、調整手当六八二八円、義務教育特別手当三八〇〇円、通勤手当一万九五〇円合計九万七四四六円を、また同年一二月分の給与から、給料六万四一九六円、調整手当五七七八円、義務教育特別手当三二一六円、通勤手当九二六六円合計八万二四五六円減額されたこと、原告の昭和五七年二月から四月までの給与が被告の主張2(一)(2)のとおりであり、被告が本件各処分にあたり法二条四項本文に基づいて被告の主張2(一)(2)のとおり平均給与額、休業補償額を算出したことが認められる。

ところで、原告は、被告が法二条四項により平均給与額を算出したことについて、本件各処分については、法二条四項本文によるべきではなく、法施行規則三条三項、あるいは法二条七項によるべきである旨主張するのでこの点について判断するに、まず法施行規則三条三項は、法二条四項によって得られた平均給与額が、同施行規則三条二項によって計算して得られた金額に満たないときは同項によるべき旨定めているところ、同項によって算出される平均給与額は、給料一五万一七三六円に調整手当一万三六五六円を加えた額を三〇で除した五五一三円七銭、したがって五五一四円となるのであって、法二条四項本文によって計算して得られた平均給与額より低額であること明らかであり、また東京都職員の公務災害補償等に伴う付加給付に関する条例附則(昭和五八年条例一一八号)四項の付加給与を受給するために便宜的に法施行規則三条三項によって計算することも許されないから、結局本件において、法施行規則三条三項によって平均給与額を算定すべき余地はない。次に法二条七項の適用について検討するに、本件各処分が算定の基礎にした平均給与額は原告の期待に添うものではないとしても、それ自体不当に低額であるとはいえないこと、右条例附則四項による付加給付の受給は、基金による休業補償とは別個の制度による支給であって、そのような条例による受給の有無を考慮しないことが本件において直ちに公正を欠くとはいえないこと、また仮に、井ノ内校長らが原告主張の如く休業により原告の収入が減ずることはない旨話したとしても、そのことが直ちに本件各処分の採った平均給与額が公正を欠くとはいえず、しかも後記のとおり右発言は被告の責任に影響を及ぼすことはないことからすれば、いまだ法二条四項本文によって平均給与額を算出したことが、法二条七項にいう「公正を欠くと認められる場合」に該当するものということはできない。

次いで、原告は昭和五七年二月から同年四月までの間に中学校進路指導対策費、出張手当の支給を受けており、これらは法二条五項にいう特殊勤務手当に該当するところ、被告はこれら手当等を平均給与額算出の際の計算に入れていない違法がある旨主張するが、特殊勤務手当については学校職員の給与に関する条例一五条一項によりその支給要件として、(1)多学年学級を有する学校に勤務する教育職員には、多学年学級担当手当、(2)舎監勤務に従事する職員には舎監手当、(3)右(1)(2)のほか、著しく危険、不快、不健康又は困難な勤務その他著しく特殊な勤務で給与上特別の考慮を必要とし、かつその特殊性を給料で考慮することが適当でないと認められるものに従事する職員にはこれに必要な手当を支給する旨規定され、右中学校進路指導対策費や出張手当が右条例にいう特殊勤務手当に該当しないこと明らかであって、原告の主張は理由がない。

四  原告は、井ノ内校長らは、被告の機関ないし代理人、あるいは被告の代理人である東京都らの機関として、同人らが休業補償によって収入が減少することはない旨約したのであるから、あるいは被告の周知義務不徹底を理由に、被告が本件各処分の如く原告に収入減をもたらす処分は許されない旨主張するのでこの点について判断する。

そこでまず、教育委員会と基金の関係についてみるに、教育委員会は各地方公共団体に設置される委員会であるのに対し基金は地方公務員災害補償法に基づく補償と福祉施設の事業を実施するために設立された法人であって、教育委員会とは別個の法人である。このことは、基金の支部長を各地方公共団体の長が兼任し、あるいはその職員が各地方公共団体と兼務していることによって変わらないし、また基金は地方公共団体の補償責任を代行する実施機関としての性格は有するとしてもこのことに変わりはない。したがって井ノ内校長らは、東京都教育委員会の機関ではあり得ても、当然に基金の機関ということはできない。そして、被告に対する補償請求が、東京都教育委員会を経由してなされるとしても、そのことから直ちに東京都や東京都教育委員会が被告から代理権を授与されていると見ることはできないし、また本件全証拠によるも、本件において、被告が東京都や東京都教育委員会に補償に関し代理権を授与したとも認められない。また、本件全証拠によるも井ノ内校長らが被告から代理権を授与されたとの事実も認めることはできない。

したがって原告の、井ノ内校長らが、被告の機関ないし代理人あるいは、被告の代理人である東京都等の機関であることを前提とする主張は理由がない。

次に、被告の周知義務の点について検討するに、休業補償に関する請求は、前示のとおり任命権者を経由して基金に提出されるのであるから、請求書の提出は、任命権者、本件では東京都教育委員会であり具体的には校長である井ノ内校長や品川区教育委員会に対してなされることになる。ところで休業補償を行うにあたっては、請求書の提出を受けた任命権者が制度の趣旨を適確に説明できるよう基金あるいは被告は配慮すべきであるにしても、休業補償の際の補償の程度、方法等はいずれも地方公務員災害補償法等によって定められていることからすれば、その配慮すべき程度も低いものであって、仮に井ノ内校長らに原告主張の如き発言があり、原告がそのように信頼したとしても、そのことから直ちに被告が本件各処分をなすにあたって影響を及ぼすが如き義務違反があったとはいえず、原告の右主張は採用しえない。

五  以上のとおり、原告の違法事由の主張は理由がない。

六  よって、原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 遠山廣直)

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