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東京地方裁判所 昭和59年(ワ)14803号 判決 1986年12月23日

原告

松澤圭子

松澤亮

松澤純

右両名法定代理人親権者母

松澤圭子

右三名訴訟代理人弁護士

古川春雄

被告

共立輸送株式会社

右代表者代表取締役

瀬尾君雄

被告

内野俊雄

右両名訴訟代理人弁護士

松原厚

被告

有限会社桐屋商事

右代表者代表取締役

桐谷利夫

被告

桐谷利夫

右両名訴訟代理人弁護士

渡邊眞次

主文

一  被告らは、各自、原告松澤圭子に対し一六二二万九二四七円及びうち一五二二万九二四七円に対する昭和五九年八月二八日から、うち一〇〇万円に対する昭和六〇年一月二日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を、原告松澤亮及び同松澤純に対しそれぞれ八一一万四六二三円及びうち七六一万四六二三円に対する昭和五九年八月二八日から、うち五〇万円に対する昭和六〇年一月二日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを二分し、その一を被告らの、その余を原告らの各負担とする。

四  この判決は、主文第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、各自、原告松澤圭子(以下「原告圭子」という。)に対し三三六二万〇六〇六円及びうち三二一二万〇六〇六円に対する昭和五九年八月二八日から、うち一五〇万円に対する昭和六〇年一月二日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を、原告松澤亮(以下「原告亮」という。)及び同松澤純(以下「原告純」という。)に対しそれぞれ一六八一万〇三〇三円及びうち一六〇六万〇三〇三円に対する昭和五九年八月二八日から、うち七五万円に対する昭和六〇年一月二日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  被告共立輸送株式会社(以下「被告共立輸送」という。)及び同内野俊雄(以下「被告内野」という。)

(一) 原告らの被告共立輸送及び同内野に対する請求をいずれも棄却する。

(二) 訴訟費用は原告らの負担とする。

2  被告有限会社桐屋商事(以下「被告桐屋商事」という。)及び同桐谷利夫(以下「被告桐谷」という。)

(一) 原告らの被告桐屋商事及び同桐谷に対する請求をいずれも棄却する。

(二) 訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

訴外松澤俊二(以下「俊二」という。)は、昭和五九年八月二八日午前五時ころ、自動二輪車(足立ら六三一二、以下「被害車」という。)を運転して千葉県市川市稲荷木三丁目二四番地付近高速自動車専用国道京葉道路上り線(以下「本件事故現場」という。)を市川方面から小松川方向へ向かって進行中、被告内野が運転する大型貨物自動車(習志野一一を五六四五、以下「第一加害車」という。)から本件事故現場に落下させた鉄骨の組立に使用する建築用アングルブラケット(三辺の長さ約七六センチメートル、六五センチメートル、四七センチメートルの三角形で厚さ約八センチメートル)約一〇個を避けようとした際、本車線の第三通行帯に駐車していた被告桐谷が運転する普通貨物自動車(千葉一一す八九七三、以下「第二加害車」という。)の後部左側に衝突し、そのため脳挫傷・開放性頭蓋骨複雑骨折により即死した(以下「本件事故」という。)。

2  責任原因

(一) 被告内野は、第一加害車を運転する際、積荷を荷台上に確実に積載して走行中それが荷台から転落しないような措置を講ずるとともに、とりわけ高速自動車専用国道において第一加害車を運転する際には、あらかじめ細心の注意を払って積荷の状態を点検し、それが荷台から転落することがないよう万全の措置を講ずべき注意義務があるのにこれを怠り、積荷のアングルブラケットを本件事故現場一面に落下させた過失により本件事故を発生させたものであるから、民法七〇九条により、原告らの後記損害を賠償すべき責任がある。

(二) 被告桐谷は、高速自動車専用国道である京葉道路を走行する際には、本車線上にむやみに第二加害車を駐車してはならないとともに、やむを得ず第二加害車を本車線上に駐車させる場合でも、直ちに表示機材を置きあるいは発煙筒をたくなどして後方から高速で進行してくる後続車両に対して第二加害車の存在を表示し、後続車が第二加害車に衝突するのを防止すべき注意義務があるのにこれを怠り、漫然第二加害車を本車線の第三通行帯に駐車させた過失により、本件事故を発生させたものであるから、民法七〇九条により、原告らの後記損害を賠償すべき責任がある。

(三) 被告共立輸送は第一加害車を、被告桐屋商事は第二加害車をそれぞれ所有し、自己のために運行の用に供していた者であるから、いずれも自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条により、原告らの後記損害を賠償すべき責任がある。

3  損害

(一) 俊二の損害

(1) 逸失利益 六三三四万一二一三円

俊二は、本件事故当時四〇歳(昭和一九年七月一二日生)であり、東京都教育庁総務部に勤務し、本件事故に遭遇しなければ平均余命の範囲内で六七才まで就労し、この間以下の収入を得ることができた。

(ア) 東京都を停年退職するまでの間の給与収入 五三八五万四一八八円

俊二は、本件事故当時、東京都小学校、中学校等教育職員給料表上二等級二三号級であり、定期昇給が原則として停止される五八歳に達するまでの間少なくとも年一回一号級づつ昇給となるはずであつたから、その間の右昇給を前提とした給与収入は別紙計算書(一)の1及び2のとおりであり(なお、俊二が死亡してから口頭弁論終結時までの間に、東京都学校職員給与は数回にわたって改正されているから、昭和六一年度以降の給与月額は、昭和六〇年七月一日から適用された改正後の給料表による。)、生活費としてその収入の三割を控除し、年五分の割合による中間利息控除をライプニッツ方式で行ってその現価を算出すると、その合計は五三八五万四一八八円となる。

(イ) 退職金 三七八万四二五一円

東京都小学校、中学校等教育職員で教職調整額を受けている者の停年時における退職金は、停年時の給与月額とその教職調整額を加えた額に支給割合を乗じた金額であるところ、俊二は、本件事故に遭遇しなければ、停年時二等級四一号級にあり、少なくとも三六万八〇〇〇円の給与月額の支給を受け得たはずであり、また、俊二の勤続年数は通算三〇年となり、その退職金支給割合は六四となるから、これに停年時のライプニッツ係数を乗じて俊二の停年時の退職金の現価を算出すると、次の計算式のとおり八七九万〇九二五円(一円未満切捨て)となる。

(計算式)

(三六万八〇〇〇円+三六万八〇〇〇円×〇・〇四)×六四×〇・三五八九=八七九万〇九二五円

ところで、原告らは既に、東京都から、俊二の退職金として四八七万七六三六円及び差額金一二万九〇三八円合計五〇〇万六六七四円を法定相続分に従って受け取ったから、これを右金額から控除すると、残額は三七八万四二五一円となる。

(ウ) 東京都退職後六七歳までの間の収入 五七〇万二七七四円

俊二は、東京都を停年退職後六七歳に達するまで更に就労が可能であり、その間少なくとも停年時の年収の六割に相当する収入を得ることができたはずであるから、その収入の四割を生活費として控除し、ライプニッツ方式でその現価を算出すると、別紙計算書(二)のとおり五七〇万二七七四円となる。

(2) 慰籍料 二〇〇〇万円

俊二は、東京都教育委員会指導主事に栄転した直後に本件事故に遭遇し、妻と若年の子供二人を残して死亡したものであり、被告らが注意義務を怠らず事故防止の手段を講じていたならば、社会人としてはもちろん家庭においても充実した人生を過ごすことができたであろうことを考えると、同人の苦しみは筆舌に尽くしがたい。かかる俊二及び原告らの苦しみにもかかわらず、被告らは、遺族である原告らに対して挨拶にも訪れず、本件訴訟では責任逃れの主張を繰り返しており、このような被告らの対応は、人道的にはもちろん法律的にも許されるべきではなく、かかる被告らの不誠実さ無反省さにその他の事情も併せ考慮すれば、俊二の精神的苦痛を慰籍するためには二〇〇〇万円をもってするのが相当である。

(3) 相続

俊二は右損害賠償請求権を有するところ、原告圭子は俊二の妻、原告亮及び原告純はその子であり、いずれも俊二の相続人であるから、法定相続分に従い、同人から、原告圭子は右損害賠償請求権の二分の一を、原告亮及び原告純は右損害賠償請求権のそれぞれ四分の一を相続した(但し、一円未満は切り捨てる。)。

(二) 原告らの損害

(1) 葬儀費用 九〇万円

原告圭子は、右金額の二分の一を、原告亮及び原告純は右金額のそれぞれ四分の一を負担した。

(2) 弁護士費用 三〇〇万円

原告らは、被告らに対し右損害の賠償請求をするため、原告訴訟代理人に対し、本件訴訟の提起及びその追行を依頼し、その報酬として三〇〇万円の支払を約束し、原告圭子は、右金額の二分の一を、原告亮及び原告純は右金額のそれぞれ四分の一を負担した。

(三) 損害の填補

原告らは、本件事故により、自動車損害賠償責任保険(以下「自賠責保険」という。)から保険金二〇〇〇万円の支払を受け、原告圭子は右金額の二分の一を、原告亮及び原告純は右金額のそれぞれ四分の一を自己の損害に充当したから、原告らの残損害額は、原告圭子について三三六二万〇六〇六円、原告亮及び原告純についてそれぞれ一六八一万〇三〇三円となる。

4  結論

よって、被告ら各自に対し、原告圭子は右損害金三三六二万〇六〇六円及びうち弁護士費用を除く三二一二万〇六〇六円に対する本件事故の日である昭和五九年八月二八日から、うち弁護士費用一五〇万円に対する本件事故の日ののちである昭和六〇年一月二日から各支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の、原告亮及び原告純はそれぞれ一六八一万〇三〇三円及びうち弁護士費用を除く一六〇六万〇三〇三円に対する本件事故の日である昭和五九年八月二八日から、うち弁護士費用七五万円に対す本件事故の日ののちである昭和六〇年一月二日から各支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否及び主張

1  被告内野及び被告共立輸送

(一) 請求原因1(事故の発生)の事実は認める。

(二) 請求原因2(責任原因)の事実のうち、(三)の被告共立輸送が第一加害車を所有し、自己のために運行の用に供していた者であることは認めるが、(一)の被告内野の過失はすべて否認する。

被告内野が第一加害車から本件事故現場付近にアングルブラケットを落下させてから本件事故発生まで、時間にして約五分が経過しており、俊二は、右アングルブラケットの落下時、落下地点より五キロメートル以上船橋寄りを走行していたものである。したがって、同人が進路前方を注視して被害車を運転していさえすれば、右アングルブラケット及び駐車中の第二加害車の存在を右落下地点及び本件事故現場の遙か前方でそれぞれ現認し、徐行のうえ適確なハンドル操作をすることによってこれらの障害物をいずれも避けることが十分に可能であったものであるから、右アングルブラケットの落下と本件事故の発生との間には因果関係がないというべきである。

(三) 請求原因3(損害)の事実はすべて知らない。

なお、原告らは、俊二の本件事故後の賃金が毎年一回昇給するであろうことを基礎として同人の逸失利益を積算しているが、これは、死亡者の遺族が逸失利益の賠償を現在の時点で全額受領して現在の物価の中で利用できること、俊二が本件事故に遭遇しなければ停年退職したであろう将来の時点までの期間中には幾多の不確定要素の介在が避けられないことに照らし、逸失利益の合理的な算出方法とはいえない。

また、原告らは、俊二が停年退職するまでの間の生活費控除を一律三割として同人の逸失利益を算出しているが、俊二の妻である原告圭子は俊二と同一の職種に就いており、同女もまた停年時まで在職するものと予想されるところ、夫婦の双方が仕事を持ってほぼ等しい収入を得ている場合には、配偶者の一方のみが一家の収入の大部分を稼いでくる夫婦の場合と比べ、一方の配偶者がその収入を自身の生活費に費消する割合は比較的高率とみるのが妥当であるから、右生活費の控除割合は明らかに低きに失しているというべきであるうえ、扶養を要する子女を有する者の逸失利益を算定する場合においては、右子女が成人に達した時を境として生活費控除割合を高率化させるのが合理的であるから、俊二の二男である原告純が成人に達した以後の昭和七〇年四月からの生活費控除割合は、従前よりも更に高率にすべきである。

さらに、原告らは、俊二が東京都を停年退職後に得べき収入を退職前一年間の俸給の六割としているが、停年退職者の再就職時の初任給が右数値よりも遙かに低いものであることに照らし、右算定は不合理といわざるを得ない。

2  被告桐谷及び被告桐屋商事

(一) 請求原因1(事故の発生)の事実は認める。

(二) 請求原因2(責任原因)の事実のうち、(三)の被告桐屋商事が第二加害車を所有し、自己のために運行の用に供していた者であることは認めるが、(二)の被告桐谷の過失はすべて否認する。

被告桐谷は、本件事故当時、本件事故現場付近の京葉道路上り線の第三通行帯を走行していたところ、先行車が路上に落下させたアングルブラケット一個に接触してこれを右にはじいたため、急いで回避措置を講じたものの間に合わず、これを右前輪に引っかけてパンクしてしまい、ハンドルが思うようにきかなくなった。そこで、被告桐谷は、第二加害車がクレーン付きの四トン車で不安定なため直ちに徐行したが、当時、第一通行帯及び第二通行帯にはいずれも後続車両があり、高速道路上の右通行帯を徐行しながら横断することはかえって後発事故を惹起する危険性が大きかったため、やむを得ず、後続車との事故を誘発しないよう制動に注意しながらパンク地点から約一五〇メートル先の第三通行帯の右側端に非常点滅表示燈及び駐車燈をつけて停車した。そして、被告桐谷が、自車の走行が可能かどうかを調べるため一旦車を降りてパンクの状況を確認した後、更に後続車に対する注意の合図をするため再び運転台に戻って停止表示機材を取り出そうとしていた矢先に本件事故が発生したものである。したがって、被告桐谷は、本件事故当時、運転者として通常要求される危険防止義務を尽くしていたし、停止表示板を設置し、また発煙筒を燃やすなどの方法をとる時間的余裕はなかったのであるから、同人に本件事故発生について過失はないというべきである。

(三) 請求原因3(損害)の損害額については争う。

三  抗弁

1  免責(被告桐屋商事)

被告桐屋商事の所有する第二加害車には構造上の欠陥も機能上の障害も存在しなかったし、また、被告桐谷が、本件事故当時運転者として危険防止義務を尽くしていたことは既に述べたとおりである。

ところで、本件事故現場は、片側三車線のアスファルト道路で、通行区分帯は白色ペイントで明瞭に表示され、前方の見通しも良好であり、幅員約三・五メートルの第三通行帯に接して右側に幅員約〇・五メートルの路肩が設置されていたところ、第二加害車の幅は約二メートルであったから、同車が右道路右端に停止していた際にも第三通行帯の左側の幅員約一・五メートルから二メートルの部分は走行可能な状態にあったし、落下していたアングルブラケットのうちで最も道路右寄りにあったものでも第二通行帯の右端から二・三メートルの位置にあったから、俊二は、本件事故当時、第二通行帯の右側部分と第三通行帯の左側部分の合計三・八メートルないし四・三メートルの幅員部分を走行することが可能であった。また、後続車両は、第二加害車が非常点滅表示燈及び駐車燈を点灯して停車しているのを事前に十分確認できる状態であった。しかるに、被害車は、走行可能な右幅員部分を走行せず、非常点滅表示燈及び駐車燈をつけて停車していた第二加害車に衝突したのであるから、本件事故は、被告内野が、荷物の積載方法及び固定方法の不注意により荷崩れを生じさせて高速道路上に多数のアングルブラケットを落下散乱させた過失と俊二の前方注視義務違反及び不安定な自動二輪車を高速で運転走行して操縦を誤った過失とが競合して発生したものといわざるを得ず、被告桐屋商事に自賠法三条の損害賠償責任はないというべきである。

2  過失相殺(被告四名)

被告内野が第一加害車から本件事故現場付近にアングルブラケットを落下させてから本件事故発生までは、時間にして約五分が経過しており、俊二は、右アングルブラケットの落下時、落下地点より五キロメートル以上船橋より(東方)を走行していたものであるところ、本件事故現場付近は俊二の進行方向から見て左に大きなカーブを描いてはいるが、右アングルブラケットが散乱していた地点は、道路がややカーブし始めた地点に位置し、東方からほぼ直線状に延びている道路の延長線上にあるため、俊二の進行方向からは、その数百メートル手前から右散乱地点を見通すことができた。また、右アングルブラケットの散乱していた場所の西端から第二加害車の停車地点までの距離は約九七・五メートルあったうえ、右散乱地点から第二加害車の停車地点への見通しも良好であった。したがって、俊二が進路前方を注視して被害車を運転していさえいれば、道路上に散乱していたアングルブラケット及び停車中の第二加害車の存在を右散乱地点及び本件事故現場の遙か手前でそれぞれ現認し、直ちに減速したうえ適確なハンドル操作をすることによって右障害物をいずれも避けることが十分可能であったにもかかわらず、漫然進路前方を注視しないで時速八〇キロメートルを越える高速度で本件事故現場付近を疾走した過失により、本件事故が発生したものである。このような俊二の過失の重大性を勘案すると、仮に被告らに損害賠償責任が認められる場合においても、その損害賠償額の七割以上を減額すべきである。

四  抗弁に対する認否及び主張

抗弁1(免責)及び同2(過失相殺)の事実はいずれも否認する。

本件事故現場の道路(以下「本件道路」という。)は、東京と千葉とを結ぶ大動脈の自動車専用道路であり、多数の自動車が高速で通行しているうえ、被害車である自動二輪車は運転者の視線の位置が低くしかも視野が狭いため、被害車が本件事故現場の遙か前方を走行していたとしても、先行車両によって視界を妨げられ、落下物や停車車両などの障害物を発見することは困難であったことに加え、本件事故現場は道路が左方向にカーブしているため、一層道路上の障害物の発見は困難な状態にあった。自動車専用道路においては、運転者が十分な積載物の落下防止措置を講じているのが通常であるうえ、歩行者もなく外部からの落下物も予想しにくいため、運転者は道路上に危険な落下物は存在しないという信頼のもとに走行しているのが一般的であることに照らしても、俊二に前方注視義務違反は認め難く、仮に前方注視義務違反があったとしても、その程度は極めて軽微であったというべきである。

また、被害車である自動二輪車には、四輪車と比較して安定を保ちづらく、急ブレーキや急ハンドルはその安定を容易に損ない、直ちに転倒などの危険を招くこと、カーブした道路を走行する際には、車体を内側に倒して車体にかかる遠心力との均衡を保ちながら走行する必要があるため、一層安定を欠く状態となり、この状態で落下物などに接触すれば、転倒や走行車線をはみ出すなどの事態を招く危険が大きく、ブレーキやハンドル操作で落下物の回避措置をとった場合にも、同様の危険が生ずることなどの特性があるから、既に述べたような本件事故現場の道路状況、落下物の形状とその落下状態に照らし、本件事故の発生について、俊二に被害車の運転操縦を誤った過失を認めることはできないというべきである。

第三  証拠<省略>

理由

一請求原因1(事故の発生)の事実は、いずれの当事者間にも争いがない。

二そこで、被告らの責任原因について判断する。

1  被告内野及び同桐谷の責任

<証拠>総合すると、以下の事実が認められる。

(一)  被告内野は、昭和五八年一一月に被告共立輸送に入社し、大型一種免許を取得した昭和五九年四月以降被告共立輸送の指示を受け、大型貨物自動車を運転して貨物の輸送業務に従事していた。

(二)  第一加害車は、最大積載重量が一万五〇〇キログラムの大型貨物自動車であるが、被告内野は、本件事故の前日の昭和五九年八月二七日、被告共立輸送の他の従業員に指示して第一加害車の荷台にアングルブラケット(三辺の長さ約七六センチメートル、四七センチメートル、六五センチメートル、厚さ約八センチメートルの直角三角形をした鋼材で、重さは一個約二〇キログラム)二八個を積み込ませた。

(三)  右アングルブラケットは、地上からの高さが約一・三九メートルの第一加害車の荷台上に約〇・六五メートルの高さにH型鋼を二段にわたって積み上げ、これを二本のワイヤーロープで荷台に固定したのち、右H型鋼の上に約一〇センチメートル角で長さ約一メートルの角材をH型鋼と直角に二本敷き、その上に二個のアングルブラケットを組み合わせて四角状にしたものを一四段にわたり、約一・二二メートルもの高さに積み上げ、その上部に荷台の両横から引いた太さ約一・五センチメートルのワイヤーロープ一本を真横にかけて荷締機で締め付けたのみであった。

(四)  アングルブラケットは、右のような方法で荷台に積み込まれていたため、アングルブラケットの上端は、荷台から約二・〇七メートルの高さにまで達し、荷台の側板の高さ(約〇・三六メートル)を約一・七メートル越えたうえ、第一加害車の運転席の天井板より高い荷台前端の鳥居板の上端を三〇センチメートル以上越えるに至った。

(五)  被告内野は、右アングルブラケットをH型鋼上に一個ずつ平に並べてワイヤロープで固定するなど他のより確実な方法で第一加害車の荷台上に積み込むことも可能であったのに、初めて右のような形で積み込んだものであり、本件事故が発生するまで特に荷崩れの危険性を意識せず、荷造り後、京葉道路(以下適宜「本件道路」ということがある。)に進入する少し手前で一度積荷の状態を見ただけで、本件道路に進入したわずか五分後に本件事故現場付近にアングルブラケットを落下させた。

(六)  アングルブラケットが落下飛散した地点は、京葉道路上り線市川インター入口から約五〇〇メートル離れた三・五キロポスト付近であり、右地点は、市川インターから直線状に延びてきた京葉道路上り線が江戸川大橋へ向けて左カーブを描き始めた地点から約一〇〇メートル江戸川大橋寄りのカーブの円弧上にある。

(七)  現場付近の本件道路は、中央分離帯によって上下線が区分され、片側の全幅員が一五メートルで、三つの車両通行帯が設けられており(以下進行方向に向かって左側から「第一通行帯」、「第二通行帯」、「第三通行帯」という。各通行帯の幅員は、第一通行帯が三・六メートル、第二、第三通行帯が三・五メートルである。)、第一通行帯の左側には三・四メートルの、第三通行帯の右側には一メートルの路肩がそれぞれ設けられている。路面は平坦でアスファルト舗装が施されており、本件事故当時は乾燥していた。交通量は本件事故当時の時間帯においても比較的多く、自動車専用、駐停車禁止、最高速度時速六〇キロメートルの各交通規制がなされている。

(八)  本件道路上に落下したアングルブラケットは、合計八個であり、右アングルブラケットは、京葉道路上り線三・五キロポストから江戸川大橋方向へ約一〇メートルから三〇メートルの間の第一通行帯と第二通行帯上に散乱した。

(九)  被告内野は、アングルブラケットが路上に落下した直後にこれに気がつき、落下地点から約一五〇メートル離れた本件道路左端の路肩に第一加害車を停車させ、同車を降りて落下地点まで戻り、第一通行帯上にあった手近のアングルブラケットを二個拾って路肩に移動させたが、第一加害車に発煙筒を積んでいたにもかかわらず、これを燃やすなどして後続車に落下物の存在を知らせる措置は全くとらなかった。

(一〇)  一方、被告桐谷は、第二加害車(最大積載重量二七五〇キログラムのクレーン付普通貨物自動車)を運転して本件道路の第二通行帯を走行し、本件事故現場に差し掛かったところ、第二通行帯の先行車両が渋滞していたため、第三通行帯に車線を変更してアングルブラケットの落下地点を通過しようとしたが、先行する大型車がはじき飛ばしたアングルブラケットに自車左前輪を引っかけてパンクさせてしまったことから、右方に片寄ろうとする車体をハンドルを左に切って立て直しながら第三通行帯を約九〇メートル徐行し、前記カーブの円弧上の第三通行帯右側端に非常点滅燈及び車幅燈をつけて停車した。

(一一)  被告桐谷が右地点に第二加害車を停車させたのは、同車の右前輪がパンクしたため、車体が右方に片寄る傾向があったこと、第二加害車の後続車がアングルブラケットの落下地点を通過後、第一通行帯及び第二通行帯に車線を変更して第三通行帯を徐行していた第二加害車を追い抜いていたことによるものであるが、第三通行帯をそのまま数百メートル徐行しながら走行すること又は後続車両の合間を縫って方向指示器を表示しながら第二通行帯及び第一通行帯を横断し、道路左側の路肩部分に停車することも必ずしも不可能とはいえない状況にあった。

(一二)  被告桐谷は、停車させた第二加害車から降車してパンクの状況を確認した後、一旦道具箱からパンク修理道具を取り出したが、思い直して運転席に戻り停止表示器を取り出そうとしていたとき、被害車が第二加害車の後部左側に衝突して本件事故が発生した。

(一三)  第二加害車には停止表示器及び発煙筒がいずれも装備されていたが、使用する前に本件事故が発生したものであるところ、被告桐谷は、本件事故当時同車の助手席に乗車していた二一歳の同被告の息子に対し、後続車両に対する警告措置をとるよう指示はしなかった。

以上の事実が認められ、右認定に反する<証拠>はその余の前掲各証拠に照らし信用するに足りず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右事実に徴すると、被告内野は、大型貨物自動車の荷台にアングルブラケットのような鋼鉄製の重い貨物を積載して自動車専用道路を走行する際には、右積載物を路上に転落又は飛散させた場合、他の車両の安全且つ円滑な走行を著しく妨害し車両間の追突などの交通事故を惹起する危険の大きいことが予想されたのであるから、右貨物の積載を確実に行ったうえ走行し、かかる事態の発生を防止する措置を講ずべき注意義務があったにもかかわらず、これを怠り、前記認定のとおり、二段に組んだH型鋼の上に運転席の天井を越える高さにまでアングルブラケットを積み上げてわずか一本のワイヤロープで荷台に固定するという甚だ不安定な方法で右貨物を積載したまま走行した過失により、走行中にアングルブラケットを転落飛散させたものというべきである。もっとも、<証拠>を総合すると、俊二は、本件事故直前、京葉道路上り線を市川インター方面から江戸川大橋方面へ向けて右道路の第一通行帯と第二通行帯の境界線付近を走行していた際、進路前方のアングルブラケットの落下地点手前でこれを避けようとする車両が渋滞していたのを認めたにもかかわらず、その渋滞車両前方の安全を確認しないまま、制限速度時速六〇キロメートルの本件事故現場を時速八〇キロメートルないし九〇キロメートルの高速度で進行して本件事故に遭遇したことが認められ(右認定を覆すに足りる証拠はない。)、このような俊二の運転行為が本件事故の一因となっていることは推認されるが、そもそも第二加害車が本件事故現場に停車していた原因は、第一加害車が落下させたアングルブラケットに右前輪を引っかけたことにあるうえ、<証拠>によれば、被害者の前後輪タイヤには鉄錆のようなものの付着がみられたうえ、その後輪のホイールには鋭利なものに乗り上げたような凹損がみられ、これらはいずれも被害車がアングルブラケットに乗り上げた際の痕跡とみても不合理ではないこと、被告内野は、本件事故直後の実況見分の際に、警察官に対して被害車がアングルブラケットの落下地点を通過してからバランスを崩し蛇行しながら第二加害車に衝突したと指示説明していたことが認められ(右認定に反する<証拠>は、右各証拠に照らし信用することができない。)、右認定事実に照らすと、俊二は、路上に落下していたアングルブラケットに乗り上げてバランスを崩したために第二加害車との衝突を避けることができなかったものと推認され、したがって、アングルブラケットの落下と本件事故の発生との間に因果関係が認められることは明らかである。

また、被告桐谷は、自動車専用道路においてパンクのため一時的に停車する際には、本件事故現場付近の道路が大きく左側にカーブしているうえ、第三通行帯の右側には路肩部分が約一メートルしかないため、本件事故現場付近の道路右側端に第二加害車を停車した場合、同車の車幅の半分以上が第三通行帯に掛かる形となり、左カーブ時の遠心力により道路右側に膨らむ傾向を有しながら走行してくる後続車の安全且つ円滑な走行を妨害し車両間の追突などの交通事故を惹起する危険があることが予想され、しかも、右前輪がパンクしたとはいえ、徐行しながらそのまま第三通行帯を数百メートル走行して道路の直線部分まで移動しあるいは後続車両の合間を見ながら第一、第二通行帯を横断して道路左側端の約三・四メートルの路肩部分まで走行することは必ずしも不可能ではなかったのであるから、右のような道路の比較的安全な場所に移動したうえで停車し、後続車の安全且つ円滑な走行を妨害し車両間の追突などの交通事故を惹起する事態の発生を防止する措置を講ずべき注意義務があったにもかかわらず、これを怠り、前記認定のとおり、漫然本件事故現場の道路右側端に停車した過失により、本件事故を発生させたというべきである。

したがって、被告内野及び被告桐谷は、いずれも民法七〇九条に基づき本件事故によって生じた損害を賠償すべき責任があるというべきところ、被告桐谷の運転していた第二加害車がパンクした原因は、そもそも被告内野が運転していた第一加害車から落下したアングルブラケットに右前輪を引っかけたことにあり、しかも、そのパンク自体は前記認定のとおり回避が不可能であったと認められることに鑑みると、右被告両名間においてはその責任の大半を被告内野が負うべきものというべきではあるが、本件事故は前記認定のとおり右被告両名の過失が競合して発生したものであるうえ、右被告両名の過失行為は、その時間的場所的関係を客観的にみると社会通念上一個の行為と認められるべきものであるから、同法七一九条一項により共同不法行為となり、結局、右被告両名は、被害者たる原告らに対する関係ではその損害の全額について連帯して責任を負うものというべきである。

2  被告共立輸送及び同桐屋商事の責任

被告共立輸送が第一加害車を所有し、自己のために運行の用に供していた者であること及び被告桐屋商事が第二加害車を所有し、自己のために運行の用に供していた者であることはいずれも当事者間に争いなく、被告内野の第一加害車の運転に過失があることは前記認定のとおりであるところ、本件事故の原因となつたアングルブラケットは、走行中の第一加害車から落下したものであり、その落下からわずか数分後に本件事故が発生したものであるから、本件事故は第一加害車の運行によって発生したものといって何ら妨げないというべきであり、また、本件事故は第二加害車の停止中に発生したものではあるが、同車は、パンクという緊急自体に対処するために一時的に停車していたにすぎず、その修理が済みしだい直ちに発進する態勢にあったことは既に認定したとおりであり、右停車は運行の一態様に含まれると解すべきであるから、本件事故は第二加害車の運行によって発生したものといってまた妨げないというべきである。したがって、被告共立輸送及び同桐屋商事は、いずれも自賠法三条に基づき本件事故によって生じた損害を賠償すべき責任があるというべきところ、前同様の理由により、自賠法四条、民法七一九条が適用され、被告共立輸送及び同桐屋商事の自賠法上の責任もまた共同不法行為の関係にあることになるから、右被告両名は、原告らとの関係においては損害の全額について連帯責任を負うこととなる。

三進んで、原告らの損害について判断する。

1  俊二の損害

(一)  逸失利益 五三一八万三五六五円

<証拠>によれば、俊二は、本件事故当時、四〇歳(昭和一九年七月一二日生)で東京都教育庁総務部に勤務し、東京都教育委員会指導主事の地位にあったことが認められるところ、本件事故に遭遇しなければ、俊二は、経験則に照らし、平均余命の範囲内である六七才まで就労することができたものと推認することができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(1) 東京都を停年退職するまでの間の給与収入 四六一六万〇七〇五円

<証拠>を総合すると、東京都の学校職員の停年退職年齢は六〇歳であること、本件事故当時、俊二は、学校職員の給与に関する条例(昭和三一年九月二九日東京都条例第六八号、以下「給与条例」という。)七条一項一号に規定された小学校、中学校等教育職員給料表(以下「給料表」という。)の適用を受け、給料表(昭和五九年四月一日適用のもの)の二等級二三号給を給されていたこと、給与条例八条二項には、職員が現に受けている号給を受けるに至ったときから、一二月を下らない期間を良好な成績で勤務したときは、その者の属する職務の等級における給料の幅の中において直近上位の号給に昇給させることができる(以下「定期昇給」という。)旨規定されていること、給与条例八条三項には、職員の勤務成績が特に良好である場合等においては、定期昇給の期間を短縮し、もしくはその現に受ける号給より二号給以上上位の号給まで昇給させ、又はそのいずれをもあわせ行うことができる(以下「特別昇給」という。)旨規定されていること、俊二は、昭和四九年四月一日東京都公立学校教員に任命されて以来本件事故で死亡するまでの間健康を害して職場を休むようなことはなく、少なくとも毎年一回定期昇給又は特別昇給を受けていたこと、義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置に関する条例(昭和四七年三月一七日東京都条例第一二号)三条一項には、給料表の適用を受ける者のうちその属する職務の等級が給料表の二等級又は三等級である者には、その者の給料月額の一〇〇分の四に相当する額の教職調整額を支給する旨規定されており、また、同条例四条には、右教職調整額は調整手当、期末手当、勤勉手当及び退職手当の算定については給料とみなす旨規定されていること、給与条例一三条の二第一項及び第二項には、学校職員に対し当分の間月額が給料、管理職手当及び扶養手当の月額の合計額の一〇〇分の九の範囲内の額の調整手当を支給する旨規定されていること、給与条例二四条の三には、義務教育諸学校に勤務する教育職員等に義務教育等教員特別手当を支給する旨規定されており、義務教育等教員特別手当に関する規則(東京都教育委員会規則第八号)四条一号に定める給料表の適用を受ける者の右特別手当の額は、別紙給与表(三)の1及び20のとおりであること、給与条例二四条一項及び二項並びに学校職員の期末手当に関する規則(昭和四三年五月三一日東京都教育委員会規則第四二号)三条及び六条には、在職期間が一五〇日以上の学校職員に対し給料、扶養手当及びこれらに対する調整手当の月額の合計額の一〇〇分の四四〇を乗じて得た額の期末手当を一年間に支給する旨規定していること、給与条例二四条の二第一項及び第二項並びに学校職員の勤勉手当に関する規則(昭和五四年三月二〇日東京都教育委員会規則第一六号)三条及び六条には、支給期間における勤務実績が二六〇日以上の学校職員に対し、給料、扶養手当及びこれらに対する調整手当の月額の一〇〇分の五〇を乗じて得た額の勤勉手当を一年間に支給する旨規定されていること、右期末手当の支給月は、一・九か月分については六月、二・五か月分については一二月であり、右勤勉手当の支給月は三月であること、昭和五九年四月一日適用の給料表に定められた二等級二三号給及び二四号給の給与月額は、別紙計算表(三)の番号1及び2のとおりであり、昭和六〇年七月一日適用の給料表に定められた二等級二五号給ないし四一号給の給与月額は、別紙計算表(三)の番号3ないし20のとおりであること、給与条例八条五項には、学校職員が五八歳に達した時点で原則として昇給が停止される旨規定されていること、以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

そして、これらの事実、特に俊二が東京都公立学校教員に任命されてから死亡するまでの一〇年間少なくとも毎年一回定期昇給又は特別昇給を受けていた事実に照らすと、俊二は、停年である六〇歳に達するまで東京都の学校職員として在職し、その間昇給が原則として停止される五八歳に達するまで少なくとも毎年一回昇給を受け、その給与月額を基礎とした教職調整額、調整手当、教員特別手当、期末手当及び勤勉手当を受け得たものと推認することができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

したがって、右推認を前提として俊二が東京都を退職するまでの間の各年度の収入を算出し、原告圭子本人尋問の結果により俊二の妻である原告圭子が俊二と同種の比較的安定した職に就き俊二と同程度の収入を得ていることが認められることなどを考慮して四割の生活費の控除をしたうえ、ライプニッツ方式で中間利息の控除を行って各年度の逸失利益の現価を算出すると、その数額は別紙計算表(三)の番号1から20のとおりとなる。

(2) 東京都を退職後六七歳までの間の収入 四七五万二三一〇円

前記認定の俊二の健康状態、経歴と経験則によれば、俊二は、東京都を退職した後も他に就労するなどして六七歳に達するまでの間、少なくとも毎年右退職時の年収の五割を下らない収入を得ることができるものと推認されるから、前同様の理由で各年度の右収入の四割を生活費として控除するのを相当として中間利息控除をライプニッツ方式で行い右各年度の逸失利益の現価を算出すると、その数額は、別紙計算表(四)の番号1から7のとおりとなる。

(3) 退職金 二二七万〇五五〇円

<証拠>によれば、職員の退職手当に関する条例(昭和三一年九月二九日東京都条例第六五号)六条及び九条の七第二項には、東京都小学校、中学校等教育職員で教職調整額を受けている者の停年時における退職金は、停年時の給与月額に教職調整額を加えた合計額に支給割合を乗じた金額である旨規定され、前記認定によれば、俊二が本件事故に遭遇しなければ東京都を停年退職するまで通算勤続年数は三〇年となるから、その退職金支給割合は六四となることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

そして、前記認定のとおり俊二が本件事故に遭遇しなければ、東京都を停年退職時二等級四一号給にあり少なくとも三六万八〇〇〇円の給与月額の支給を受け得たと推認できるから、この金額を基礎として停年時の退職金の額を算出し、中間利息控除をライプニッツ方式で行ってその現価を算出すると、次の計算式のとおり、八七九万〇九二五円となる(一円未満切捨て)。

(計算式)

三六万八〇〇〇×一・〇四×六四×〇・三五八九=八七九万〇九二五(一円未満切捨て)

ところで、<証拠>によれば、原告らは、東京都から、俊二の退職金及び差額金として合計五〇〇万六六七四円を受け取り、これを法定相続分に従って分配したことが認められるから、これを前記退職金総額から控除し、さらに、前同様の理由で右逸失退職金から四割の生活費を控除するのを相当としてその残額を計算すると、二二七万〇五五〇円となる(一円未満切捨て)。

(二)  慰籍料 一八〇〇万円

<証拠>によれば、原告圭子は俊二の妻、原告亮及び原告純はその子であることが認められるところ、右原告らと俊二との身分関係、俊二の年齢その他本件に現れた諸般の事情を考慮すると、死亡した俊二に対する慰籍料は一八〇〇万円と認めるのが相当である。

(三)  相続

俊二は右損害賠償請求権合計七一一八万三五六五円を有するところ、原告圭子が俊二の妻、原告亮及び原告純がその子であることは前記認定のとおりであるから、法定相続分に従い、同人から、原告圭子は右損害賠償請求権の二分の一を、原告亮及び原告純は右損害賠償請求権のそれぞれ四分の一を相続した(但し、一円未満は切り捨てる。)。

2  原告らの葬儀費用 九〇万円

<証拠>によれば、原告らは俊二の葬儀費用として相当額を支出し、原告圭子は二分の一を、原告亮及び原告純はそれぞれ四分の一を負担したことが認められるが、右のうち九〇万円が本件事故と相当因果関係があると認められる。

3  過失相殺

前記認定事実によれば、俊二には、自車の進路前方のアングルブラケットの落下地点手前でこれを避けようとする車両が渋滞していたから、本件事故当時の時間帯から考えて進路前方に交通の流れを阻害する障害物等の存在が予想され、しかも、前記認定のとおり現場道路が左側に大きくカーブしているため、自動二輪車の進路の変更が比較的困難な道路条件の場所に差し掛かったのであるから、自車の速度を控え目にして渋滞車両前方の安全を確認しつつ進行すべき注意義務があったにもかかわらず、漫然その渋滞車両前方の安全を確認しないまま、自車の速度を落とすどころか制限速度時速六〇キロメートルの本件事故現場を時速八〇キロメートルないし九〇キロメートルの高速度で進行した過失があると認められるので、右過失を斟酌し、被告らの損害賠償額を三割減額するのが相当と認める。

そこで、原告らの前記損害賠償請求権(原告圭子は三六〇四万一七八二円、原告亮及び原告純はそれぞれ一八〇二万〇八九一円)から、俊二の右過失を被害者側の過失として三割減額すると、原告圭子は二五二二万九二四七円、原告亮及び原告純はそれぞれ一二六一万四六二三円となる(但し、一円未満は切り捨てる。)。

4  損害の填補

<証拠>によれば、原告らは、本件事故により、自賠責保険から保険金二〇〇〇万円の支払を受け、原告圭子は右金額の二分の一を、原告亮及び原告純は右金額のそれぞれ四分の一を自己の損害に充当したことが認められるから、原告らの残損害額は、原告圭子について一五二二万九二四七円、原告亮及び原告純についてそれぞれ七六一万四六二三円となる。

5  弁護士費用

弁論の全趣旨によれば、原告らは、本件訴訟の提起及び追行を原告らの訴訟代理人に委任し、その報酬として相当額の支払を約束し、原告圭子は、右金額の二分の一を、原告亮及び原告純は右金額のそれぞれ四分の一を負担したことが認められるところ、本件事案の内容、訴訟の経過及び請求認容額その他諸般の事情に照らすと、弁護士費用として被告らに損害賠償を求め得る額は、合計二〇〇万円(原告圭子について一〇〇万円、原告亮及び原告純についてそれぞれ五〇万円)と認めるのが相当である。

四以上のとおりであるから、原告らの本訴請求は、被告ら各自に対し、原告圭子が一六二二万九二四七円及びうち一五二二万九二四七円に対する本件事故の日である昭和五九年八月二八日から、うち一〇〇万円に対する本件事故の日ののちである昭和六〇年一月二日から各支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を、原告亮及び原告純がそれぞれ八一一万四六二三円及びうち七六一万四六二三円に対する本件事故の日である昭和五九年八月二八日から、うち五〇万円に対する本件事故の日ののちである昭和六〇年一月二日から各支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める限度で理由があるからいずれもこれを認容することとし、右原告三名のその余の請求は理由がないのでいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言について同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官塩崎 勤 裁判官宮川博史 裁判官潮見直之)

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