大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和59年(ワ)10771号 判決 1986年12月26日

原告

町田アサ

町田行永

町田幹雄

町田浩

右原告三名法定代理人親権者母

町田アサ

原告

町田松太郎

町田ゑい

右原告六名訴訟代理人弁護士

吉岡寛

被告

大成建設株式会社

右代表者代表取締役

佐古一

被告

丸二工業株式会社

右代表者代表取締役

羽切吉一

右被告両名訴訟代理人弁護士

関根俊太郎

大内猛彦

主文

一  被告らは、各自、原告町田アサに対し一二七三万五八八七円及びうち一一七三万五八八七円に対する昭和五九年二月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、原告町田行永、同町田幹雄及び同町田浩それぞれに対し四二一万一九六二円及びうち三九一万一九六二円に対する昭和五九年二月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、原告町田松太郎及び同町田ゑいそれぞれに対し七五万円及びうち七〇万円に対する昭和五九年二月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを三分し、その一を被告らの、その余を原告らの各負担とする。

四  この判決は、主文第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、各自、原告町田アサ(以下「原告アサ」という。)に対し三六五八万三八八六円及びうち三三二五万八〇七九円に対する昭和五九年二月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、原告町田行永(以下「原告行永」という。)、同町田幹雄(以下「原告幹雄」という。)及び同町田浩(以下「原告浩」という。)それぞれに対し一二一九万四六二八円及びうち一一〇八万六〇二六円に対する昭和五九年二月一日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を、原告町田松太郎(以下「原告松太郎」という。)及び同町田ゑい(以下「原告ゑい」という。)それぞれに対し三三〇万円及びうち三〇〇万円に対する昭和五九年二月一日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

訴外町田勝元(以下「勝元」という。)は、昭和五九年二月一日午後二時一五分ころ、前橋市鳥羽町七八所在日本精工株式会社前橋工場内の二―B棟増設工事(以下「本件工事」という。)現場(以下「本件工事現場」という。)において、被告丸二工業株式会社(以下「被告丸二工業」という。)の従業員訴外大塚英世(以下「大塚」という。)の指示と受け、同人と共に右増設建物の基礎として打ち込まれた鉄筋(通称ピアノ線。以下便宜「鉄筋」という。)入りのコンクリート製パイプ状パイル(以下単に「パイル」という。)の周囲の地盤を捨てコンクリート打ちの前段作業として地固めするため、同人の操作する転圧機(一辺四八・五センチメートルの正方形の板状になつた鉄製底部を上下に震動させることによつて地盤を固める重さ約八〇キログラムの機械。以下「本件転圧機」という。)をロープで引つ張る補助作業(本件転圧機による地固め作業を以下「本件転圧作業」といい、勝元の従事した右補助作業を「本件補助作業」という。)に従事していたところ、後ずさりしながらロープを引つ張つていた際足を滑らせて転倒し、付近のパイルから突出していた鉄筋の一本に右顔面を打ちつけ、頸髄損傷の傷害を負つて、同日午後二時五五分ころ死亡した(以下「本件事故」という。)。

なお、右頸髄損傷は、鉄筋が勝元の右顔面に突き刺さつた際、いわゆる首吊りの状態になり、体重が頸部に掛かつたために生じたものである。

2  責任原因

(一) 被告大成建設株式会社(以下「被告大成建設」という。)は、土木建築工事等の設計管理及び請負等を営業目的とする株式会社であり、被告丸二工業は、土木建築工事等の請負業等を営業目的とする株式会社であるところ、被告大成建設は、日本精工株式会社から、本件工事を請け負い、そのうちの基礎工事等を被告丸二工業に下請けさせていた。他方、勝元は、日雇い建築労働者として人夫の紹介を業とする訴外樋口建設工業(以下「樋口建設」という。)に登録され、建設会社等からの要請に応じて建設工事現場に派遣されていた者であるところ、昭和五九年一月から樋口建設を介して本件工事現場に赴き、被告大成建設の統括の下に、被告丸二工業の建築現場作業員として本件事故の日まで働いていたものである。

また、勝元が本件補助作業に従事するに至つた経緯は、被告大成建設の工事主任である訴外北村仁(以下「北村」という。)から被告丸二工業の職長である訴外森木宣雄(以下「森木」という。)に対し、本件転圧作業の指示があり、これを受けて同人が同じく同被告の職長である大塚に対しこれを実施するように命じ、同人が勝元と共に本件転圧作業を行うに至り、その際同人はロープにより本件転圧機を引つ張る右補助作業を行つたというものである。

(二)(1) ところで、被告らは、その支配下で作業に従事する現場作業員に対し、施工計画、施工方法、安全管理等につき指示命令を与えていたものであるから、工事現場の作業過程において、現場作業員の生命、身体、健康等に危害が及ばないよう安全を配慮すべき義務(以下「安全配慮義務」という。)を負つていた。

(2) しかるところ、被告らが勝元に対して負つていた右安全配慮義務の具体的内容は次のとおりである。

(ア) 本件事故当時、本件工事現場では、工場建物建設のための基礎工事を行つており、地表から約二メートル掘り下げた約一〇メートル四方ほどの穴が三か所掘られ、更に右各穴の掘削底には、建物の基礎となる直径四五センチメートルのパイルが縦三本、横四本の合計一二本打ち込まれていた。本件事故が発生した現場(以下「本件事故現場」という。)は、右穴の一つであり、各パイルは、芯間一メートル、したがつてパイルの外壁間の最短約五五センチメートルの間隔で打ち込まれ、これらのパイルの掘削底の地表部分から出ている約七〇センチメートルのうち上部約五〇センチメートルの部分は、コンクリートが砕かれ、中に埋められている直径九ミリメートルの鉄筋が一本のパイルにつき七本ずつ剥き出しになつていた。そして、右鉄筋の先は切断されたままの状態で鋭利なものが多かつたうえ、まつすぐそろえられておらず、上方へ向けて開き気味に林立し、中には外側へ折れ曲がつているものもあつた。

したがつて、上下に震動しながら作動する約八〇キログラムの重量と一辺四八・五センチメートルの正方形の板状になつた底部からなる本件転圧機を長さ約三メートルのロープで引つ張つて誘導する本件補助作業は、パイル間の間隔も狭く困難なうえ、時には後ずさりしながらこれを行わなければならないため、作業者にとつて、思わぬ転倒などの際右鉄筋が身体を刺通する事故が発生する危険が高かつたものである。したがつて、勝元にかかる危険な作業を行わせる以上、被告らは、(a)鉄筋の先端をプラスティックキャップで覆い、(b)作業前に鉄筋の広がりを直し、内側へ曲げるなり、パイル中心部へそろえてまとめるなりして、鉄筋との接触を回避し、安全に作業できる間隔を広げ(労働安全衛生規則五四四条)、(c)本件事故当日は前日来の大雪の後で足場が悪いこともあつたのであるから、滑らないような靴を用意する(同規則五五八条)などの措置を採るべき義務があつた。

(イ) また、(ア)のような措置を採らないのであれば、安全な作業間隔がないうえ、前日からの大雪のため本件事故現場の足場が悪く、本件のような事故の発生が十分予想されたのであるから、パイル相互間の地固め作業はそもそも中止すべきであつた。

なお、仮に、本件事故現場の地面が湿つている程度であり、足場が悪くなかつたとすれば、転圧機は自走機能があり、これを使用した地固め作業は通常の場合一人で十分可能であり、転圧機をロープで引いて先導するという補助作業の必要性は存しなかつたというべきであるから、やはり前記のような危険性のある状況下において、勝元に対して本件補助作業を行わせるべきではなかつた。

(ウ) 更に勝元が転圧作業に従事するのは本件事故時が初めてであつたから、被告らとしては、勝元に対し、直接又は同人を具体的に指導、教育する職長の立場にあつた森木及び作業長の資格を持つ大塚らをして、前記のような危険性のある本件補助作業を含む本件転圧作業について具体的な安全教育を施すべき義務があつた。

(三) しかるに、被告らは、勝元に対し、右のような安全配慮義務を負つていたにもかかわらずこれを怠り、漫然同人に対して本件補助作業を行わせたことにより本件事故を発生させ、同人を死亡させたものであるから、民法四一五条又は同条の類推適用により、本件事故により生じた損害を賠償すべき責任がある。

また、被告らは、右のような安全配慮義務を怠つた過失により勝元を死亡させたものであるから、同法七〇九条以下の規定により、本件事故により生じた損害を賠償すべき責任がある。

3  損害

(一) 勝元の損害と原告町田アサらの相続

(1) 逸失利益 五九一一万七四七二円

(ア) 農業収入 一八五万四四二九円

勝元は、原告らと共に居住し、農業を営んでいたものであり、町田家の耕作面積は、田六・三反及び畑四・四反であつたところ、田では、夏期に全面積にわたつて稲作を行い、冬期には田の面積のうち五・五反で小麦を、残りの〇・八反でいちごを栽培する二毛作を行つていた。また、畑では、一年中季節に応じ春はえんどう、ねぎ、夏はきゆうり、なす、とまと、おくら、じやがいも、にんじん、秋にはとうもろこし、さといも、大豆、ごぼう、さつまいも、冬には大根、白菜、小松菜、かぶなどの野菜・芋類を栽培していた。

そこで、まず、米、麦について勝元の得べかりし年間収入額をみるに、第三二次群馬農林水産統計年報昭和五九年〜六〇年によれば、藤岡市の一反当たりの一年間の米の収穫量は四一七キログラム、麦の収穫量は三九一キログラムとなつているところ、群馬県食糧事務所作成の昭和六〇年度政府買入価格表と過去の町田家の出荷実績、出荷方法に照らし、米については三類三〇キログラム紙袋一等九三五七円、麦については普通小麦三〇キログラム一等五六四五円としてその収益額を計算し、更に経費率を二〇パーセント、勝元の家族構成が妻である原告アサのほか、老父母と中学生、小学生及び未就学児の三人の子供であつたことから勝元の寄与分を八〇パーセントとすると、次の計算式のとおり、米については五二万四四一一円、麦については二五万八九七七円となる(ただし、一円未満は切り捨てる。)。

(計算式)

米について、六・三×四一七÷三〇×九三五七×〇・八×〇・八=五二万四四一一(一円未満切捨て)

麦について、五・五×三九一÷三〇×五六四五×〇・八×〇・八=二五万八九七七(一円未満切捨て)

次に、農協の出荷実績表によれば、町田家のいちごの年間出荷額は七五万七八四六円であるが、町田家においては、農協への出荷以外にいちご狩り、親類縁者への贈答などの市場に出さないものが出荷量の五〇パーセント以上にのぼるため、いちごについては農協への出荷額の一五〇パーセントをその収益額とし、前同様に経費率を二〇パーセント、勝元の寄与分を八〇パーセントとしてその得べかりし年間収入額を算出すると、次の計算式のとおり、七二万七五三二円となる(ただし、一円未満は切り捨てる。)。

(計算式)

七五万七八四六×一・五×〇・八×〇・八=七二万七五三二(一円未満切捨て)

更に、前記以外のその他の畑作収入をみると、前記のとおり、町田家における米の反当たり収益額は一三万〇〇六二円となるところ(ただし、一円未満は切り捨てる。)、広報ふじおか昭和六一年二月一五日第四〇五号掲載の農業所得標準においては、米の反当たり所得金額は八万四一〇〇円となつており、両者間にはおよそ一対一・五五の格差があるから、この格差を基に同標準普通畑所得金額七万八七〇〇円に一・五五の修正率を乗じて町田家の畑の年間収益額を計算し、前同様に経費率を二〇パーセント、勝元の寄与分を八〇パーセントとしてその得べかりし年間収入額を算出すると、次の計算式のとおり、三四万三五〇九円となる(ただし、一円未満は切り捨てる。)。

(計算式)

四・四×七万八七〇〇×一・五五×〇・八×〇・八=三四万三五〇九(一円未満切捨て)

したがつて、米、麦、いちご及びその他の畑作による勝元の得べかりし年間農業収入の合計は一八五万四四二九円となる。

(イ) 建設労務賃金 二六六万八七五〇円

勝元は、農業を営む傍ら、農閑期には建築現場等の臨時雇い労働者として稼働し、日当七五〇〇円を得ていたものであるところ、昭和五七年一二月から昭和五八年一一月までの一年間の就業日数は二六二・五日であつたから、右日当に右就業日数を乗じ、これに運転手当が一か月五〇〇〇円支給されていたのでその一年分を加えたうえ、勝元が年間二六〇日以上勤務し常傭に近かかつたので臨時給の支給を受けることが考えられたこと及び残業手当もかなりの額の支給を受けていたことを考慮し、臨時給及び残業手当相当分として月平均取得賃金一六万円の四か月分を加算することとして、勝元の一年間の建設労務賃金として得べかりし収入額を算出すると、次の計算式のとおり、二六六万八七五〇円となる。

(計算式)

七五〇〇×二六二・五+五〇〇〇×一二+一六万×四=二六六万八七五〇

(ウ) 訴外佐藤トキ(以下「佐藤」という。)宅手伝い労務収入 七二万円

勝元は、佐藤との間で、毎月四日間同人宅の農作業を手伝い、一日につき一万五〇〇〇円の労賃の支払を受ける約束をしていたところ、右収入の一年間の合計額は、次の計算式のとおり、七二万円となる。

(計算式)

一万五〇〇〇×四×一二=七二万

(エ) 以上のとおり、勝元は、本件事故当時一年間に五二四万三一七九円の収入を得ていたものであるところ、同人は死亡当時四二歳であり、以後六七歳に至るまでの二五年間就労可能であつたから、勝元の質素な生活態度や家族数などに照らして生活費控除率を二〇パーセントとし、ライプニッツ方式により年五分の割合による中間利息を控除し死亡当時の同人の逸失利益の現価を算出すると、次の計算式のとおり、五九一一万七四七二円となる(ただし、一円未満は切り捨てる。)。

(計算式)

五二四万三一七九×〇・八×一四・〇九三九=五九一一万七四七二(一円未満切捨て)

(2) 損害の填補

原告アサ、同行永、同幹雄及び同浩らは、労働者災害補償保険(以下「労災保険」という。)から、遺族特別支給金三〇〇万円の支払を受けたので、右金額を前記逸失利益から控除する。

(3) 慰藉料 一八〇〇万円

勝元は、本件事故により、満四二歳の働き盛りの時期に死亡したものであり、一家の支柱として、また、幼い三児の父親としてその精神的苦痛は計りしれず、仮にこれを金銭に評価するならば一八〇〇万円を下ることはない。

(4) 相続

原告アサは勝元の妻であり、同行永、同幹雄及び同浩は勝元の嫡出子であるから、法定相続分に応じ、勝元の前記損害賠償請求権の全額七四一一万七四七二円のうち二分の一(三七〇五万八七三六円)を原告アサが、各六分の一(一二三五万二九一二円)を同行永、同幹雄及び同浩がそれぞれ相続した。

(二) 原告松太郎及び同ゑいの損害(慰藉料) 合計六〇〇万円

原告松太郎及び同ゑいは、勝元の実父母であるところ、家業の農業後継者として勝元に非常な期待をかけていた。年老いた両親にとつて、勝元を失つたことによる精神的苦痛は甚大であり、仮にこれを金銭に評価するならば、右原告両名につきそれぞれ三〇〇万円が相当である。

(三) 弁護士費用 合計七二五万一六一三円

原告らは、本件訴訟の提起及び遂行を原告代理人に依頼し、原告代理人に対し相当額の報酬を支払うことを約束したものであるが、そのうち原告アサについて三三二万五八〇七円、同行永、同幹雄及び同浩についてそれぞれ一一〇万八六〇二円、同松太郎及び同ゑいについてそれぞれ三〇万円は、本件事故と相当因果関係のある損害である。

4  結論

よつて、被告ら各自に対し、原告アサは右損害額の一部である三六五八万三八八六円及び弁護士費用を除くうち三三二五万八〇七九円に対する本件事故の日である昭和五九年二月一日から支払いずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を、同行永、同幹雄及び同浩はそれぞれ右損害額の一部である一二一九万四六二八円及び弁護士費用を除くうち一一〇八万六〇二六円に対する前同様の遅延損害金の支払を、原告松太郎及び同ゑいはそれぞれ右損害金三三〇万円及び弁護士費用を除くうち三〇〇万円に対する前同様の遅延損害金の支払をそれぞれ求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1(事故の発生)の事実のうち、前段は認め(ただし、勝元の転倒の原因は不知)、後段(頸髄損傷の原因)は否認する。

2  同2(責任原因)の(一)の事実は認める。

3  同2の(二)(1)(被告らの一般的安全配慮義務)の事実は認め、同2の(二)(2)(具体的安全配慮義務)は、(ア)の前段はおおむね認め(ただし、パイルの外壁間の間隔及び地表部分からの高さに関する部分を除く。右の点は後記のとおりである。)、後段は本件転圧機の重量、底辺部の大きさ、形状及びロープの長さに関する部分は認めるが、その余はすべて否認する。(イ)(本件転圧作業の中止義務)は否認し、(ウ)(安全教育等)は、勝元が転圧作業の経験がなかつたとの点は否認し、したがつて、本件転圧作業につき改めて具体的安全教育を行う必要はなかつたものである。なお、作業員に対する一般的安全教育は定期的に行つていた。

4  同2の(三)の主張は争う。

5  同3(損害)(一)(1)(ア)の事実のうち、町田家の耕作面積が、田六・三反及び畑四・四反であつたこと、第三二次群馬農林水産統計年報昭和五九年〜六〇年によれば、藤岡市の一反当たりの一年間の米の収穫量は四一七キログラム、麦の収穫量は三九一キログラムとなつていること、群馬県食糧事務所作成の昭和六〇年度政府買入価格表の数値、農協の出荷実績表によれば、町田家のいちごの年間出荷額は七五万七八四六円であること及び広報ふじおか昭和六一年二月一五日第四〇五号掲載の農業所得標準においては、米の反当たり所得金額は八万四一〇〇円となつていることはいずれも認めるが、経費率及び勝元の寄与率の数値並びに得べかりし農業収入の金額は否認し、その余の事実は知らない。

原告らの主張によれば、勝元は、月に二一・七日間建設労務に従事していたほか、毎月四日間は佐藤宅へ農作業の手伝いに行つていたということであるから、一か月のうち二五・七日は自宅の農作業はできないはずである。したがつて、町田家の農作業は原告ら家族の手によつて行われていたといわざるを得ないのであり、勝元の寄与率は約一五パーセント程度に過ぎないというべきである。

また、原告らは、いちごを除いたその余の作物については出荷実績を主張していないが、この事実は、町田家の現実の農業収益額が統計上の数値を相当程度下回る低額なものであることを物語るといわざるを得ず、したがつて、統計値によつて町田家の農業収益額を推定する手法は採りえず、現実の出荷実績等の主張立証がない以上、申告所得額を基礎としなければならないというべきである。

6  同3(一)(1)(イ)の事実のうち、勝元の就労日数については認めるが、同人が臨時給を得ていたこと及び同人の得べかりし建設労務賃金の金額は否認し、その余の事実は知らない。

7  同3(一)(1)(ウ)の事実は知らない。

8  同3(一)(1)(エ)の主張のうち、勝元が死亡当時四二歳であつたこと、同人が六七歳に至るまで二五年間就労可能であること、中間利息をライプニッツ係数を用いて控除することは認めるが、勝元の得べかりし年間収入の金額、勝元の生活費を二〇パーセントとする点及び同人の逸失利益の総額は否認する。勝元の家族構成を考慮すれば、同人の生活費控除率は三五パーセントが相当である。

9  同3(一)(2)(損害の填補)の事実は認める。ただし、後記三3のとおり、損害填補額は六五七万三〇〇一円である。

10  同3(一)(3)(慰藉料)の金額は争う。

11  同3(一)(4)(相続)の事実のうち、原告アサが勝元の妻であり、同行永、同幹雄及び同浩が勝元の嫡出子であること並びに右原告らの法定相続分については認めるが、その余は争う。

12  同3(二)(原告松太郎及び同ゑいの損害)の事実のうち、原告松太郎及び同ゑいが勝元の実父母であることは認めるが、慰藉料の金額は争う。

13  同3(三)(弁護士費用)の事実のうち、報酬金額に関する部分は争う。

三  被告らの主張

1  安全配慮義務違反の不存在

(一) 本件事故が発生した現場は、工場建物の基礎となるパイルを打ち込むために掘られた穴のうちの一つであり、本件工場現場では様々の大きさの穴が全部で二四か所掘られていたが、本件事故が発生した穴の大きさは縦四・五メートル横五・五メートル四方であり、その中に縦三本、横四本の合計一二本のパイル(パイルナンバー一五六番から一六七番)が打ち込まれており、各パイル間の外壁の間隔は約六〇センチメートルあつた。右パイルのうち地表に出ている部分の高さは約六四センチメートルで、その地表部分のうちの上部約五四センチメートルにわたつてパイルから出た七本の鉄筋が伸びていた。

本件事故当時、勝元が従事していた作業は、捨てコンクリート打ち作業の前に、本件工事現場に約一〇センチメートルの厚さで敷いた砕石を転圧機を用いて敷き固める作業であり、この転圧作業は、スコップやじよれん等を用いて地表に敷いた砕石をならした後に行うものであるから、作業員である勝元の足元は平坦な状態にあつた。また、本件事故の前日、相当の積雪があつたものの、本件事故現場には降雪に備えて地表にむしろやシートを敷き詰めて養生していたから、直接地表への降雪はなく、しかも、前記のとおり、本件事故現場の地表には約一〇センチメートルの厚さで砕石が敷き詰めてあつたから、融雪による水分が地表面に蓄えられることもなく、足場は良好で滑り易いということはなく転圧作業には全く支障のない状態であつた。したがつて、右のような状態で本件転圧作業及び本件補助作業を行うことは何ら危険なことではないし、勝元自身も一度も危険を訴えなかつた。

また、ビルの建築の際には、基盤を強固にするために地中にパイルを打ち込み、その頭を切りそろえるのであるが、その際、技術的制約から鉄筋をまつすぐに保つようにすることは不可能であるうえ、事後に曲がつた鉄筋をまつすぐに矯正すると、鉄筋は本来の強度を失い、水平、垂直震動に対する支持力を低下させてしまうため、鉄筋をパイルの内側に曲げあるいはパイルの中心部へそろえてまとめるなどの方法で矯正していなかつたことは、今日の建築技術の水準からみて許容されていることであるから、右事実をもつて安全配慮義務に違反したものということはできない。

更に、そもそも勝元の死因は、鉄筋の先端と同人の顔面が衝突した衝撃で頸髄損傷の傷害が生じたためとみるべきであり、鉄筋の先端にキャップが付けてあつたとしても、勝元の顔面に相当の衝撃が加わつたであろうことに変わりはなく、本件事故と同様に頸髄損傷の結果が生じたであろうことが予想できるから、キャップ不装着の事実は勝元の死亡とは因果関係がなく、この事実をもつて安全配慮義務違反の根拠とすることはできない。仮に、キャップ不装着の事実と勝元の死亡との間に因果関係が存するとしても、鉄筋の先端をプラスティックのキャップで覆わなければならないという事業者の義務を定めた法令は存しないうえ、被告大成建設は、高所の足場からの転落事故があつた際に鉄筋の先端が転落者の身体を刺通することを防止するため、社内的に規則を設け右キャップの装着をなさしめているのであるから、足場を高所に設けて作業をするような工程に達していない本件事故時の段階では、社内規則上も右キャップの装着は必要ではなかつたし、本件事故当時、大手の建設会社においても、本件事故現場のような状況において鉄筋にキャップを装着することは一般的に行われていなかつた。したがつて、本件事故当時において、本件事故現場に存在したような鉄筋の先端に一律にキャップを装着することは、一般の安全確保基準を著しく超えることであり、本件事故当時一般に要求されていた安全配慮義務の内容とはなしえない。

また、本件事故当時、勝元は長靴を履いていたものであるところ、長靴は通常の靴に比べて非常に滑りにくいものであるから、滑らない靴を提供すべき安全配慮義務に違反したとする原告らの主張は当たらない。

また、転圧作業は、それに従事するために特別な資格や技能を要求される作業ではないうえ、そもそも本件事故は転圧機自体の取扱いの過誤によつて発生したものではなく、転圧機をロープで引つ張るという単純作業によつて発生したものであるから、転圧作業についての指導の有無と本件事故の発生とは直接の関連性はないし、右のような単純作業に関して特別な教育が必要であるとは考えられない。加えて、勝元は、本件事故以前に転圧作業の経験を有していたのであるから、原告らの右主張はその前提を欠くというべきである。

(二) 勝元は、本件事故現場に打ち込まれていた一二本のパイルの外周を一周して転圧を終え、次いでパイルとパイルとの間の地表を転圧すべく穴の東南隅から西方に方向を変える際、それまで顔を進行方向に向けて両腕を後ろ手にして本件転圧機に取り付けたロープを引いていた姿勢から、自発的に向きを変えて大塚に向き合い、後ずさりしながらロープを引つ張つていたところ、ナンバー一六六番と一六七番のパイルの間に進めた本件転圧機の向きが完全に西方に向きを変えないうちに、バランスを失い両手でロープをつかんだまま後向きのまま右後方に倒れ、ナンバー一六三番のパイルから露出していた鉄筋の一本の先端に右顔面頬部を打ちつけて頸髄を損傷し、その結果死亡するに至つたものである。したがつて、本件事故は専ら勝元の自己過失による転倒によつて発生したものというべきであり、被告らは、民法四一五条又は同条の類推適用による損害賠償責任を負うものではない。

2  過失相殺

仮に被告らの責任が認められる場合でも、前記のとおり本件事故が発生した重要な原因は勝元の自己過失による転倒にあるから、過失相殺の法理により、その損害額の九割を減額すべきである。

3  損益相殺

(一) 原告アサ、同行永、同幹雄及び同浩らは、労災保険から、保険給付として原告ら主張の金額のほか葬祭料として三六万七二一〇円、遺族補償年金として二九一万三二九一円、労災就学等援護費として二九万二五〇〇円の支払を受けている。

(二) 原告アサらは、本件事故により、遺族補償前払一時金として平均賃金日額五四〇七円の一〇〇〇日分を取得しうるから、被告らは、右金額五四〇万七〇〇〇円については損害賠償の責任を免れるというべきである。

四  被告らの主張に対する認否

1  被告らの主張1(安全配慮義務違反の不存在)の事実のうち、本件事故が専ら勝元の自己過失による転倒によつて発生したものであり、被告らに安全配慮義務違反の事実がなかつたとの部分は否認する。

2  同2(過失相殺)の主張は争う。

3  同3(損益相殺)の(一)の事実のうち、原告アサ、同行永、同幹雄及び同浩らが、労災保険から、保険給付として原告ら主張の金額のほか被告ら主張の金額の支払を受けていることは認める。(二)の主張は争う。

第三  証拠<省略>

理由

一請求原因1(事故の発生)の前段の事実(勝元の転倒の原因を除く。)は当事者間に争いがなく、右争いのない事実に、<証拠>によれば、勝元の直接の死因は頸髄損傷とされているところ、右受傷の原因は、同人が足を滑らせたか又はパイルの外側に曲がつている鉄筋に触れたかしてバランスを失して転倒し、パイルの鉄筋に右顔面頬部を突き刺した際、本件転圧機のロープを両手に持つていたためとつさに手で身体を支えることができず、身体全体の重さが首に掛かり頸髄を骨折したことによるものと推認され、この推認を覆すに足りる証拠はない。

二そこで、被告らの責任原因について判断する。

1  請求原因2の(一)の事実(被告らと勝元との関係及び同人の本件補助作業に至る経緯等)は当事者間に争いがない。

2  請求原因2の(二)(ア)前段の事実は、各パイルの外壁間の間隔、掘削底地表部に出ている各パイルの高さ、鉄筋の先端が鋭利なものが多かつたとの各部分を除き当事者間に争いがない。

3  前記1、2の事実に、<証拠>を総合すると、以下の事実が認められる。

(一)  被告らは、被告大成建設が本件工事の総元請会社、同丸二工業がその基礎工事部分等の下請会社という関係にあるが、被告大成建設も本件工事現場付近に工事事務所を設け、工事係長訴外西村宏(以下「西村」という。)以下工事主任の北村らを配し、被告丸二工業を統括しながら、これと一体となつて、その支配下で作業に従事し、労務の提供を行う勝元(勝元の法律上の使用主は樋口建設である。)ら本件工事現場作業員に対し、施工計画、施工方法、安全管理等につき指示命令を与えていたものであり、作業過程全般にわたり、右作業員らの生命、身体、健康等に対する安全を配慮すべき立場にあつた。

右安全面の管理については、元方安全衛生管理者である西村が最高責任者となり、北村をはじめ、被告丸二工業の従業員であり、作業長ないし職長であつて東京労働基準局長主催の安全推進員講習を受け、その修了証の交付を受けている森木、大塚らを指揮してこれに当たつており、現場作業員との関係では月に一度被告ら社員全員と現場作業員全員が参加して安全大会を開催し、西村が本件工事現場構内作業場における全般的な安全上の注意事項を与え、北村には個々の作業場内に関する安全注意などを事細かに行わせていたほか、毎日朝礼会を開き、ラジオ体操、その日の工事工程の説明などとともに安全上の注意を与えるなどしていた。また、工事主任の北村と下請事業者の職長との間では、いわば安全管理担当者間での工事安全打合会が持たれていた。

右のとおり、本件工事現場における作業員の安全確保のため一応組織的な指揮命令体制が敷かれていたが、本件工事現場についての危険性殊に同所での本件転圧作業遂行上の安全の問題については、本件事故発生に至るまで、被告らにおいてこれを取り上げて検討したことは一度もなく、何らの問題意識も抱いていなかつた。

(二)  本件事故現場は、工場建物の基礎となるコンクリート製パイプ状パイルを打ち込むために地表から約二メートルの深さに掘り下げられた縦約四・五メートル横約五・五メートルの長方形の穴底であり、その掘削底に直径約四五センチメートルのパイル合計一二本(一五六から一六七まで番号が付して特定してある。)がパイル間の芯間約一メートル、パイルの外壁の間隔約六〇センチメートルを保つて、縦に三本、横に四本整然と打ち込まれていた。右各パイルは全体が地中に打ち込まれるわけではなく、建設土台部分と連結するため掘削底地表からおおむね約六〇センチメートルほど抗頭部分を出し、そのうちの上部約五〇センチメートルはパイルのコンクリート部分が破砕されて中の直径約九ミリメートルの鉄筋がパイル一本につき七本ずつ五〇ないし六〇センチメートルの高さ(上端が大人の膝上から大腿部付近に達する程度)で剥き出しのまま林立していた。

右鉄筋の中には、前記コンクリート部分の破砕作業の技術的制約からパイルの外側に大きく折れ曲がつてしまつたままのものがあり(一六二番のパイル)、その余のものも必ずしもまつすぐにそろえられているわけではなく、全体としてバラバラの状態であつた。また、その先端は、鋭利なものも相当数あるが、そうでないものもあり、キャップなどの覆いは装着されていなかつた。

このような鉄筋の状態は、被告ら以外の他の建設工事現場においてみられるごく一般的なものであるところ、これは、右のような状態は建物の基礎としての機能には何ら支障がないばかりか、建築技術上の観点からは、曲がつた鉄筋をまつすぐに矯正すると本来の期待された強度を失い、水平、垂直震動に対する耐久力を低下させるとの配慮によるものである。

なお、被告大成建設は、本件工事現場に高所の足場を設ける次段階の作業工程に移ると、右足場からの転落事故などの際鉄筋の先端が転落者の身体を刺通するなどの危険が予測できるとし、これを防止するため、社内的に規則を設け、鉄筋の先端にプラスティックキャップを装着することとしていたが、かかる工程に達していない本件転圧作業の段階では、特段の危険はないものとして、キャップの装着は命じていなかつた。なお、法令上は鉄筋の先端に右キャップの装着を義務づける根拠はなく、本件事故当時は、大手の建設会社においても右被告会社と同様の対処をしているのが一般であつたが、一部の大手建設会社では、鉄筋工事に従事する作業員の安全確保に十分留意するよう作業現場を指導し、作業状況に応じて鉄筋端部をキャップ、板などで覆うなどの措置を採つていた。ちなみに、被告らにおいても、本件事故発生以後は転圧作業の段階においても鉄筋にキャップを装着している。

(三)  本件事故当時、勝元が従事していた本件補助作業は、本件事故現場の掘削底にコンクリートを貼るいわゆる捨てコンクリート打ち作業の前段階の作業であり、本件事故現場のパイルの周囲に約一〇センチメートルの厚さで敷いた砕石を重量約八〇キログラム幅約四八・五センチメートルの本件転圧機を使つて敷き固める作業の一環としてこれを補助するものである。

勝元が本件補助作業に従事するに至つた経緯は、被告大成建設の工事主任である北村から被告丸二工業の職長である森木に対し、本件転圧作業の指示があり、これを受けて同人が同じく同被告の職長である大塚に対しこれを実施するよう命じ、同人が勝元に対しこれを補助するよう命じたものである。なお本件転圧機には自走機能があるため、通常は一人の作業員が転圧機に固定して付けられているハンドルを握りこれを後ろから押して移動させながら転圧作業をするのであるが、本件事故当日は、各パイル間の外側の約六〇センチメートルの間隔を含め、本件事故現場の全域にわたつて敷き詰められた前記厚さの砕石を透き間なく効率的に転圧するため、本件転圧機のハンドルを操作する大塚のほか、補助者として勝元を配し、長さ約三メートルのロープを右転圧機の前底部分二か所に結び付けたうえ、勝元が右ロープを引つ張りながなら右転圧機の方向を前後左右に変えるなどして誘導していた。

ところで、勝元は、本件事故前、小須田建設株式会社の建設工事現場で働いていた際、土工、運搬、雑役作業のほか転圧作業にも従事したことがあるが、本件補助作業形態も含めてかかる転圧作業に特に習熟していたというものではなかつた。勝元は、大塚に命じられるまま本件補助作業に入つたのであるが、前記のとおり、本件事故現場はパイルが密集して打ち込まれ、転圧機の進路をこまめに変更しながら作業を進めなければならないうえ、各パイルから突出した鉄筋が不規則に林立しているため、これとの身体の接触を回避することにも留意しながら作業を進めなければならず、転圧作業自体としても平易なものとはいい難く、また、鉄筋に接触、転倒する危険も伴うものであつた。

なお、本件事故発生の日の前日相当程度の降雪があつたが、本件事故現場にはむしろなどで覆いがしてあり、また、一〇センチメートルほどの厚さに砕石が敷き詰められていたこともあつて、ぬかるみなどの転圧作業に支障を来たすような状態はなく、特に足場が悪いというものではなかつた。また、勝元は長靴を履いており、かかる作業に従事するのに格別の不適切はなかつた。

(四)  勝元は、本件事故発生直前までに、本件事故現場に打ち込まれていた一二本のパイルの外周付近一帯を一周して転圧の補助作業を終え、次いでパイルとパイルの間の約六〇センチメートルの間隔の地表の転圧を補助すべく、東南隅から西方に方向を変えるに際し、それまで顔を進行方向に向け、両腕を後ろ手にして本件転圧機に取り付けたロープを引いていた姿勢から、相当の重量のある本件転圧機の方向を左回りに急角度で変えるため、右転圧機を操作していた大塚に向き合う姿勢になつて、後ずさりしながら両手で握つたロープに体重をかけ、右転圧機の進行方向に向かつて左斜め後方に引つ張り、一六六番と一六七番のパイルの間に差し掛かつた右転圧機の向きが完全に西方に向きを変えないうちに、一六二番のパイルから外側へ向けて折れ曲がつていた鉄筋に身体の一部を引つかけ、そのため身体のバランスを失い、両手でロープをつかんでいたためとつさに体勢を立て直すこともできずに、後向きのまま右後方に倒れ、一六三番のパイルから突出していた鉄筋の一本の先端に右顔面頬部を突き刺し、その衝撃も加わつて手で身体を支えることができないまま、全体重が頸部に掛かつたことにより頸髄を骨折損傷し、その結果死亡するに至つた。

(五)  被告らは、いずれも本件事故発生当日の前記本件事故現場の状況をつぶさに掌握していたものであるが、勝元に本件補助作業を行わせるに際して、前記補助作業の危険性を全く認識しておらず、これが回避のために作業工程について具体的指導を与えたことはなかつた。なお、前記のとおり、被告らは、定期的に安全集会なるものを開いていたが、右集会の内容は、作業手順に関する事項や安全に関する一般的注意事項を与えていたにすぎず、本件転圧作業ないし本件補助作業に言及したことは全くない。

(六)  また、勝元に直接本件補助作業を命じた大塚は、安全管理推進員であり、また職長として本件工事現場をまとめ、他の従業員の上に立つて作業を進める職責を有していたものであるが、勝元に対し、前記のような平易とはいえずかつ危険の予測された本件補助作業を行わせるに当たり、かかる事情を意識することがなかつたため、大塚は、右作業を命ずるに当たり、勝元との間で作業に伴う危険を前提として作業手順の打合せ等をすることなく、作業開始後も、自らの本件転圧機の操作に気を取られ、同人の動向を全く注視しておらず、前記方向転換を終えるまで本件事故が発生したことにさえ気づかなかつた。

また、前記のとおり、北村、森木も順次本件転圧作業を命じたのであるが、その際、勝元に対し安全上の注意は何ら与えていなかつた。

以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

4 以上の認定事実によれば、被告らは、自らの支配監督下にある建設工事現場において、勝元に本件補助作業を命じ、勝元からその労務の提供を受けていた関係上、実質的には勝元の使用者ともいうべく、被告らと勝元との間には、雇用関係に類似ないし近接する特別な使用従属的法律関係を認めるのが相当というべきである。したがつて、被告らは、右法律関係に付随する義務として、勝元に対し、本件転圧作業ないし本件補助作業を行わせるに当たり、その生命、身体及び健康に対する安全を配慮すべき義務を負つていたものと解すべきであるところ、右安全配慮義務の具体的内容は、作業現場の状況、作業員の作業内容等の具体的状況に応じて個別的に措定されるべきものであつて、必ずしも実定法上使用者の配慮すべき義務として規定されているか否かによつて左右されるものではないから、その作業現場の状況、作業内容等に照らして勝元の生命、身体、健康に対する危険の発生が客観的に予見される以上、右危険を防止ないし除去するための人的、物的措置を講ずべき安全配慮義務を負つているものと解すべきである。

そこで、勝元の本件補助作業について検討してみるに、前記認定事実によれば、右作業は、大人の膝上から大腿部付近に達する直径約九ミリメートルの鉄筋を露出させたままの状態のパイル多数が打ち込まれた狭い本件工事現場で、重量約八〇キログラム幅約四八・五センチメートルの転圧機をロープで引つ張りながら誘導するというものであり、また、各パイル間の地表を効率よくしかも透き間なく転圧する必要上本件転圧機の方向を前後左右に頻繁に変える必要があるため、右補助作業に従事する勝元において、ロープを相当の力で引つ張りその牽引方法と方向を変えながら各パイルの間を頻繁に移動し、時には本件での勝元のごとくロープに体重をかけ後ずさりしながら牽引するという不安定で危険な作業も予想され、更に、突出した鉄筋はまつすぐにのびているわけではなく、パイルの外周の外側に折れ曲がつているものもあつたのであるから、右補助作業に従事する勝元が各パイル間を移動中にパイルの鉄筋に足を引つかけたり、あるいはロープに体重をかけすぎ体勢を崩して転倒し、本件のような事故の発生する危険が客観的に存在し、かつ、右危険は本件転圧作業を命ずる者において容易にこれを予見しえたものというべきである。したがつて、勝元に対し、前記安全配慮義務を負つていた被告らは、前記認定のパイルの鉄筋の突出状況が建築技術上やむをえないものであつたとしても、本件補助作業のような作業を命ずるに当たつては、右危険の存在を十分掌握し、北村、森木、大塚ら具体的に作業場及び作業員に対する安全管理を担当する立場にある者を介して、転圧作業の経験に乏しい勝元に対し、ロープに体重をかけ後ずさりしながら左右に転圧機を牽引するという不安定で危険な作業をしないよう指示するとか、鉄筋の先端にキャップを装着したうえ転圧作業を行わせるなど勝元の生命、身体、健康の安全確保のため適宜の措置を採らせるとともに、勝元ら現場作業員に対してもかかる危険ないしこれを回避する適宜の措置を周知徹底させ、同人らがかかる危険を回避しあるいは右危険に対し適切な対応が行えるよう安全教育を施すべき具体的な注意義務を負つていたものというべきである。なお、被告らは、実定法に規定がないことを理由に右義務のうち鉄筋のキャップ装着義務がない旨主張するが、これが採用できないものであることは前記説示したところから明らかである。

しかるに、被告らは、前記認定のとおり、定期的な安全大会の開催などを通して、一応作業員の安全に対する配慮を払つていたことはうかがわれるものの、本件補助作業に伴う前記危険に対しては、全くこれに意を払うことなく、漫然と従来の慣行に従つて作業を行わせ、前記の具体的な安全配慮義務を懈怠したため、本件事故の発生を防止しえなかつたものというべきであるから、被告らは、本件事故によつて生じた損害を賠償すべき責任があるものといわざるをえない。

右のとおり、本件事故発生につき第一に非難されるべき点は被告らの前記安全配慮義務違反にあるというべきであるが、他方、前記認定事実によれば、被告丸二工業が下請した本件工事現場を統括し、他の作業員の上に立つてその生命、身体の安全を配慮しながら作業を進めるべき役割を担う安全管理推進員であるとともに職長の地位にもあつた大塚としては、被告丸二工業の下請作業の遂行のために本件補助作業を行わせるにあたつては、その作業に伴う前記危険の発生を予見し、これが回避のために、前記鉄筋の先端にキャップを装着する手配をするとか、そうでなければ本件転圧作業を開始するに先立ち、予め勝元に対し右危険に対する注意を喚起し、作業に入つてからは、常時同人の牽引姿勢、周囲の鉄筋の状況、同人の足元の障害物の有無等を注視し、同人が身体のバランスを失つて転倒などすることのないよう同人に対して迅速かつ的確な指示をすべき注意義務があつたにもかかわらず、これを怠つた過失により本件事故を発生させたものというべきであり、また、被告大成建設が請け負つた本件工事の工事主任として、その基礎工事部分等を請け負わせた被告丸二工業を統括するとともに、安全管理面についての最高責任者である元方安全衛生管理者西村のもとで、個々の作業場内に関する安全注意などを事細かに行つていた北村としては、被告大成建設の請負作業の遂行のために本件転圧作業を行わせるにあたつては、その作業に伴う前記危険の発生を予見し、これが回避のために、直接にあるいは被告丸二工業の従業員である森木、大塚らを介して、前記鉄筋の先端にキャップを装着する手配をするとか、そうでなければ本件転圧作業を開始するに先立ち、予め勝元に対し右危険に対する注意を喚起し、ロープに体重をかけ後ずさりしながら左右に転圧機を牽引するという不安定で危険な作業をしないよう指示するなど勝元の生命、身体、健康の安全確保のため適宜の措置を採るとともに、勝元に対してもかかる危険ないしこれを回避する適宜の措置を周知徹底させ、同人がかかる危険を回避しあるいは右危険に対し適切な対応が行えるよう安全教育を施すべき注意義務があつたにもかかわらず、これを怠つた過失により本件事故を発生させたものというべきである(なお、西村が、被告大成建設の工事係長として下請の被告丸二工業を統括するとともに本件工事現場の安全管理面の最高責任者である元方安全衛生管理者の地位にもあつた者として、また、森木が、大塚と同様被告丸二工業の職長として本件工事現場を統括するとともに他の作業員の生命、身体の安全を配慮しながら作業を進めるべき役割を担う安全管理推進員でもあつた者として、それぞれ本件補助作業に伴う前記危険の掌握に欠け、本件事故発生防止のために採るべき注意義務を怠つたことも否定できないところである。)から、大塚の使用者である被告丸二工業及び北村の使用者である被告大成建設は、いずれも民法七一五条一項に基づき、本件事故によつて生じた損害を賠償すべき責任があるといわなければならない。

三進んで、原告らの損害について判断する。

1  勝元の損害

(一)  逸失利益 二六九二万一一一〇円

(1) 農業収入 七〇万円

町田家の耕作面積が、田六・三反及び畑四・四反であつたことは当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、田では、夏期に全面積にわたつて稲作を行い、冬期には田の面積のうち五・五反で小麦を、残りの〇・八反でいちごを栽培する二毛作を行つていたこと、畑では、一年中季節に応じ野菜・芋類を栽培していたこと、右のうちいちごを除く他の農作物のほとんどが自家消費に充てられており、市場には出荷されていなかつたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

ところで、農業収入の正確な把握は農産物価格、生産費、労務提供者の労務提供部分などを確定する資料が乏しいなどの種種の要因から一般に困難なところとされているが、町田家においても、右認定のとおり、一定の田畑を保有し、収穫を得ていながら、一部の農作物以外は自家消費に充てられているため、収入としての評価は困難である。したがつて、<証拠>によれば、本件事故前三年間の申告農業収入額は年平均七五万三〇二二円と認められるものの、これを直ちに町田家の農業収入総額とするのは相当でなく、これに、町田家を含む地域の平均収穫量及び標準所得金額等の統計数値を基準にして算出したところを比較総合して町田家そして勝元の将来の農業収入を推計するのが相当というべきである。

そこで、統計数値による推計収入額をみるに、<証拠>によれば、町田家の耕作地はいずれも群馬県藤岡市内に存在することが認められるところ、第三二次群馬農林水産統計年報昭和五九年〜六〇年によれば、藤岡市の一反当たりの一年間の米の収穫量は四一七キログラム、麦の収穫量は三九一キログラムとなつていること、群馬県食糧事務所の昭和六〇年度政府買入価格表によれば、群馬県における水稲の三〇キログラム当たりの政府買入価格が八六九七円を下回らないこと、同県における普通小麦の三〇キログラム当たりの政府買入価格が五五七八円を下回らないことはいずれも当事者間に争いがないから、右収穫量及び買入価格を基準として米及び麦の一年間の収益額を推計し(町田家において水稲一等及び普通小麦一等を生産していたという事実を認めるに足りる証拠はないから、その買入価格を基準とすることは相当でない。)、当裁判所に顕著な農林水産省農林経済局統計情報部編昭和五八年産農産物生産費調査報告・米及び麦類の生産費によれば、群馬県における昭和五八年の水稲の一〇アール当たりの粗収益に占める経営費の割合は六〇パーセントを下らないこと、昭和五八年の田作小麦の一〇アール当たりの粗収益に占める経営費の割合は五九パーセントを下らないこと、証人町田積夫の証言によれば、町田家の農業は勝元を中心としてその両親及び妻である原告アサの四人が協力して行つていたことが認められるから(右認定に反する甲二六及び二八号証並びに証人町田積夫の証言は採用するに足りない。)、経費率を六〇パーセント、勝元の寄与分を七〇パーセントとして米及び麦について同人の得べかりし年間農業収入額を算出すると、次の計算式のとおり、米については二一万三二四六円、麦については一一万一九五七円となる(ただし、一円未満は切り捨てる。)。

(計算式)

米について、六・三×四一七÷三〇×八六九七×〇・四×〇・七=二一万三二四六(一円未満切捨て)

麦について、五・五×三九一÷三〇×五五七八×〇・四×〇・七=一一万一九五七(一円未満切捨て)

次に、農協の出荷実績表によれば、町田家のいちごの年間出荷額は七五万七八四六円であることは当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、町田家においては生産したいちごの約五〇パーセントを自家消費に充てており、市場に出荷していたのは生産したいちごの約五〇パーセントに過ぎなかつたことが認められるから、右事実に自家消費分のいちごの価額を市場出荷額の半分と控え目に見積つていちごについては農協への出荷額の一五〇パーセントをもつてその収益額とするのを相当とするところ、当裁判所に顕著な農林水産省農林経済局統計情報部編昭和五八年産農産物生産費調査報告・野菜生産費及び同報告・果実生産費によれば、昭和五八年の水稲の裏作として行われた場合の野菜及び果実の一〇アール当たりの粗収益に占める経営費の割合は平均して約五〇パーセントであると認められるから(右認定に反する甲二六及び二八号証並びに証人町田積夫の証言は採用するに足りない。)、右数値に照らして経費率を五〇パーセントとし、前同様に勝元の寄与分を七〇パーセントとしていちごについてその得べかりし年間収入額を算出すると、次の計算式のとおり、三九万七八六九円となる(ただし、一円未満は切り捨てる。)。

(計算式)

七五万七八四六×一・五×〇・五×〇・七=三九万七八六九(一円未満切捨て)

更に、<証拠>によれば、昭和六〇年農業所得標準においては、普通畑所得金額は一〇アール当たり七万八七〇〇円となつていることが認められるから、右所得金額を基準として町田家の畑の年間収益額を推計し(前記認定のとおり、町田家における米の反当たり収益額は、統計に基づいて推計したものであるから、その数値を更に他の統計と比較した比率を乗じて町田家の畑作による収益額を計算すべきとする原告の主張は合理性を欠き、他に、町田家において右所得金額の一・五五倍の畑作収益をあげ得たことを認めるに足りる証拠はない。)、当裁判所に顕著な農林水産省農林経済局統計情報部編昭和五八年産農産物生産費調査報告・野菜生産費によれば、昭和五八年の露地栽培による夏どりの分を含めた野菜の一〇アール当たりの粗収益に占める経営費の割合は平均して約四〇パーセントであると認められるから(右認定に反する甲二六及び二八号証並びに証人町田積夫の証言は採用するに足りない。)、右数値に照らして経費率を四〇パーセントとし、前同様に勝元の寄与分を七〇パーセントとして畑作についてその得べかりし年間収入額を算出すると、次の計算式のとおり、一四万五四三七円となる(ただし、一円未満は切り捨てる。)。

(計算式)

四・四×七万八七〇〇×〇・六×〇・七=一四万五四三七(一円未満切捨て)

したがつて、統計値を利用した米、麦、いちご及びその他の畑作による勝元の得べかりし年間農業収入の合計は八六万八五〇九円となる。

そこで、右推計値を前記町田家の申告農業所得平均額七五万三〇二二円に占める勝元の寄与分(前同様七〇パーセント)五二万七一一五円(一円未満切捨て)と比較総合すると、同人の年間農業収入はこれを七〇万円程度と認めるのが相当である。

(2) 建設労務賃金 二〇二万八七五〇円

<証拠>によれば、勝元は、農業を営む傍ら、農閑期には建築現場等の臨時雇い労務者として稼働し、日当七五〇〇円及び運転手当一月五〇〇〇円を得ていたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない(なお、勝元が臨時給及び残業手当を得ていたことを認めるに足りる証拠はない。)。そして、勝元の昭和五七年一二月から昭和五八年一一月までの一年間の就業日数が二六二・五日であつたことは当事者間に争いがないから、前記認定日当金額に右就業日数を乗じ、運転手当の一年分を加算して勝元の一年間の建設労務賃金として得べかりし収入額を算出すると、次の計算式のとおり、二〇二万八七五〇円となる。

(計算式)

七五〇〇×二六二・五+五〇〇〇×一二=二〇二万八七五〇

(3) 佐藤宅手伝い労務収入 〇円

<証拠>を総合すると、勝元は、本件事故当時、佐藤宅へ毎月四日間、一日の手当が一万五〇〇〇円の約束で農作業の手伝いに行つていたことが認められるものの、町田家や佐藤宅の家族構成の将来の変化、佐藤宅の農作業の繁閑等の諸事情に照らすと、右収入は、将来にわたつての継続性、安定性に疑問があるといわざるをえないから、これを勝元の向後二五年間の逸失利益算定の基礎収入に加えることは相当でないというべきである。

以上のとおり、勝元は、本件事故当時一年間に右収入の合計二七二万八七五〇円の収入を得ていたものと認めるのが相当であるところ、勝元が死亡当時四二歳であり、本件事故に遭遇しなければ六七歳に至るまで二五年間右の作業に就労することが可能であつたと考えられること、原告アサが勝元の妻であり、同行永、同幹雄及び同浩が勝元の嫡出子であること、原告松太郎及び同ゑいが勝元の実の父母であることはいずれも当事者間に争いがないから、勝元が妻と三人の子供及び父母をかかえる一家の支柱であつたことなどを考慮して右収入から生活費として三〇パーセントを控除するのを相当とし、ライプニッツ方式により年五分の割合で中間利息を控除するのを相当として勝元の死亡当時の逸失利益の現価を算出すると、次の計算式のとおり、二六九二万一一一〇円となる(ただし、一円未満は切り捨てる。)。

(計算式)

二七二万八七五〇×〇・七×一四・〇九三九=二六九二万一一一〇(一円未満切捨て)

(二)  慰藉料 一六〇〇万円

原告アサが勝元の妻であり、同行永、同幹雄及び同浩が勝元の嫡出子であることは既に認定したとおりであるところ、前記認定の本件事故発生の態様、右原告らと勝元との身分関係、勝元の年齢その他本件に現れた諸般の事情を考慮すると、死亡した勝元に対する慰藉料は一六〇〇万円と認めるのが相当である。

(三)  相続

勝元は右損害賠償請求権合計四二九二万一一一〇円を有するところ、原告アサが勝元の妻であり、同行永、同幹雄及び同浩が勝元の嫡出子であることは既に認定したとおりであるから、法定相続分に従い、勝元から、原告アサは右損害賠償請求権の二分の一(二一四六万〇五五五円)を、同行永、同幹雄及び同浩は右損害賠償請求権のそれぞれ六分の一(七一五万三五一八円)を相続した(ただし、一円未満は切り捨てる。)。

2  原告松太郎及び同ゑいの損害

(慰藉料) 合計一八〇万円

原告松太郎及び同ゑいが勝元の実の父母であるところ、右原告らと勝元との身分関係、<証拠>により認められる右原告らの年齢その他本件に現れた諸般の事情を考慮すると、右原告らに対する慰藉料は各九〇万円と認めるのが相当である。

3  過失相殺

前記認定事実によれば、勝元は、本件事故以前に小須田建設株式会社の作業現場で転圧作業をしたことがあるから、その作業手順や作業方法を一応知つていたものと推認されるうえ、本件事故現場のパイル及び鉄筋等の状況から、転圧の補助作業に従事中に転倒した場合には本件事故のような重大な事故が発生するであろうことを予想できたというべきであるから、自らその作業方法、姿勢及びその周囲の鉄筋や障害物の状況に注意を払う等してこのような事故を未然に回避するべき義務があつたにもかかわらず、これを怠つた過失があると認められ、右過失及び前記認定の原告らの損害の費目等を考慮するとき、損害の公平な分担の観点から、原告らの前記損害賠償請求権はそれぞれその相当額を減額し、原告アサについて一五九三万九三八九円、同行永、同幹雄及び同浩についてそれぞれ五三一万三一二八円、同松太郎及び同ゑいについてそれぞれ七〇万円とするのが相当である。

4  損害の填補及び履行の猶予

原告アサ、同行永、同幹雄及び同浩らが、労災保険から、原告らが損害の填補として自認する遺族特別支給金三〇〇万円のほか葬祭料として三六万七二一〇円、遺族補償年金として二九一万三二九一円、労災就学等援護費として二九万二五〇〇円の保険給付を受けていることは当事者間に争いがないところ、右のうち、葬祭料については原告らにおいて勝元の葬儀費として右保険給付額以上の支出を余儀なくされたことが経験則上推認されるが、原告らは右を損害として主張していないこと、また、就学等援護費については、労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)二三条に基づく労働福祉事業の一環として労働者の福祉の増進を図るために支給されるものと解されること等に照らすと、右葬祭料及び就学等援護費に係る分を損害の填補として控除するのは衡平を失し、相当ではないというべきである。したがつて、労災保険からの右支給額のうち損害の填補として控除すべきものは、前記遺族特別支給金三〇〇万円のほか、遺族補償年金二九一万三二九一円であるというべきである。

ところで、被告らは、労災保険法六七条一項一号に基づき、右損害の填補の主張と合わせて、遺族補償年金前払一時金の最高限度額に相当する額五四〇万七〇〇〇円(被告丸二工業代表者本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる乙一九号証により右遺族補償年金の基礎給付日額と認められる五四〇七円の一〇〇〇日分に相当する額)の限度で、本件事故につき損害賠償責任を免れる旨主張するところ、右のうち支給ずみの遺族補償年金相当額については現実に損害の填補を受けているのであるから被告ら主張どおりに解されるとしても、これを越える部分については未だ給付がなされていないから、右前払一時金の受給権があることをもつて直ちに損害賠償責任を減ずるのは相当ではない。しかしながら、同条号によれば、事業主は、遺族補償年金前払一時金の最高限度額に相当する額の限度で民事上の損害賠償義務の履行を猶予されているから、被告らは、右五四〇万七〇〇〇円の限度においては直ちに損害賠償の支払をなすことを要せず、したがつて、被告らの損害填補の主張は、右の履行の猶予を求める限度において理由があるというべきである。

そして、弁論の全趣旨によれば、原告らが既に支給を受けた遺族特別支給金三〇〇万円及び遺族補償年金二九一万三二九一円と被告らが履行の猶予を受けている二四九万三七〇九円の合計八四〇万七〇〇〇円については、原告アサにおいてその約二分の一に相当する四二〇万三五〇二円、原告行永、同幹雄及び同浩においてその約六分の一に相当する一四〇万一一六六円(いずれも自己の損害のうちの勝元の逸失利益相当部分の一部)につきそれぞれ被告らに対し請求することができないものと認められるから、被告らが今直ちに右原告らに対して支払を要する損害額は、原告アサについて一一七三万五八八七円、原告行永、同幹雄及び同浩についてそれぞれ三九一万一九六二円となる。

5  弁護士費用

弁論の全趣旨によれば、原告らは、本件訴訟の提起及び追行を原告らの訴訟代理人に委任し、その報酬として相当額の支払を約束したことが認められるところ、本件事案の内容、訴訟の経過及び請求認容額その他諸般の事情に照らすと、弁護士費用として被告らに損害賠償を求め得る額は、原告アサについて一〇〇万円、原告行永、同幹雄及び同浩についてそれぞれ三〇万円、原告松太郎及び同ゑいについてそれぞれ五万円と認めるのが相当である。

四以上のとおりであるから、原告らの本訴請求は、被告ら各自に対し、原告アサが一二七三万五八八七円及び弁護士費用を除くうち一一七三万五八八七円に対する本件事故の日である昭和五九年二月一日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を、原告行永、同幹雄及び同浩が四二一万一九六二円及び弁護士費用を除くうち三九一万一九六二円に対する右同様の遅延損害金の支払を、原告松太郎及び同ゑいが七五万円及び弁護士費用を除くうち七〇万円に対する右同様の遅延損害金の支払をそれぞれ求める限度で理由があるからいずれもこれを正当として認容するが、その余の請求は理由がないのでいずれもこれを失当として棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言について同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官塩崎 勤 裁判官藤村啓 裁判官潮見直之)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例