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東京地方裁判所 昭和58年(ワ)814号 判決 1984年10月04日

原告 久野栄

右訴訟代理人弁護士 杉山朝之進

被告 佐野光由

右訴訟代理人弁護士 佐々木黎二

同 猪山雄二

同 相原英俊

同 久留勲

主文

一  被告は、原告に対し、別紙物件目録記載の部屋を明渡し、かつ、昭和五八年一月一日から右明渡し済みに至るまで一か月金五万五〇〇〇円の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  この判決は、第一項の金員の支払を命ずる部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文第一、二項同旨と仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

3  仮執行免脱の宣言

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、別紙物件目録記載の部屋(以下「本件部屋」という)を所有している。

2  被告は、遅くとも昭和五六年一月一日以降本件部屋を占有している。

3  本件部屋の同日以降の賃料相当額は、一か月五万五〇〇〇円である。

よって、原告は、被告に対し、所有権に基づき本件部屋の明渡しを求めるとともに、その不法占拠による損害賠償請求権に基づき右占有開始の後である昭和五八年一月一日から右明渡し済みに至るまで一か月金五万五〇〇〇円の割合による賃料相当損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1の事実は不知。同2・3の事実は認める。

三  抗弁

被告は、原告より、昭和五一年一二月二一日から本件部屋を賃借していたところ、原告と被告とは、昭和五五年一二月二二日に、期間昭和五六年一月一日より昭和五七年一二月末日、賃料一か月金五万五〇〇〇円として毎月末日限り翌月分を持参または送金して支払うという約定のもとに右賃貸借契約を更新した。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実は認める。

五  再抗弁

1  用方違反による解除

(一) 原告と被告とは、本件賃貸借契約に際し、次のような約定を定めた。

(1) 被告は、本件部屋を住居を目的として利用する。

(2) 被告は、本件部屋内において、犬、猫等の動物を飼育してはならない。

(3) 被告が右(1)、(2)の約定に違反した場合には、原告は本件賃貸借契約を解除することができる。

(二) 被告は、右約定に反し、昭和五七年六月ころ、本件部屋を居住用として利用することなく、犬、猫の飼育、及び飼料、器具等の保管場所として利用した。

(三) 原告は、被告に対し、昭和五七年六月下旬、本件部屋内において犬、猫を飼育することをやめるよう申入れるとともに、昭和五七年七月二二日到達の内容証明郵便により、被告が本件部屋を住居として利用しない場合、または、動物の飼育場所として利用する場合には、昭和五七年七月末日限り契約を解除する旨の意思表示をした。

(四) 被告は、同年同月末日を経過するも、本件部屋を犬、猫の飼育、及び飼料、器具等の保管場所として利用を続けていた。

2  期間満了

(一) 本件賃貸借契約の期限は昭和五七年一二月末日であるところ、右期日は経過した。

(二) 原告は、被告に対し、昭和五七年六月、本件部屋は原告の家族の住居に利用したいので、昭和五七年一二月末日の契約期間満了時には明渡してほしい旨申入れ、同日限り本件賃貸借契約の更新を拒絶する意思表示をした。

(三) 右更新拒絶には、次のような正当事由がある。

(1) 原告は、本件部屋を含む別紙物件目録記載の三階建の建物全部を所有し、二階南側は原告夫婦が、三階北側の六帖、四帖は原告長女真須美夫婦とその長女が、三階南側の四帖は原告夫婦の次女富士美がそれぞれ利用し、三階南側の六帖は原告家族全員の居間として利用し、本件建物の陸屋根南側部分に、次女の仕事場としてプレハブ建物六帖を設置、利用しているが、手狭であり、かねてから次女富士美の住居として使用するため本件部屋の明渡しを求めている。

(2) 本件賃貸借は、居住用に使用することを目的とするものであるが、被告は、昭和五七年五月ころから他に住居を所有し、本件部屋は前記のとおり原告の承諾を得ることなく、犬、猫の飼育、及び飼料、器具等の保管場所等として使用するに至った。

六  再抗弁に対する認否

1  再抗弁1の事実について

(一)のうち(2)の約定があり、被告が、右(2)の約定に違反した場合、原告は、契約を解除することができる旨の約定があったことは認めるが、その余は否認する。(二)のうち、被告が昭和五七年六月ころ、犬、猫を本件部屋に入れたことがあることは認めるが、犬の助産のため緊急やむを得ず一回だけ入れたものであって本件賃貸借契約の解除原因とするに足りる用方違反に当たるものではない。その余の事実は否認する。(三)は認める。(四)は否認する。

2  再抗弁2の事実について

(一)、(二)は認める。

(三)の(1)の事実中、原告が本件部屋を含む別紙物件目録記載の三階建の建物全部を所有している点は不知、その余は否認する。(三)の(2)は否認する。

原告主張の更新拒絶には正当の事由がない。この点に関する被告の主張は次のとおりである。

(一) (被告側の事情)

(1) 被告は、本件建物が新築される以前から、同所にあった木造モルタル塗二階建建物の一階店舗を原告から賃借し、ペットショョプを営んでいたが、犬、猫等の生き物が商品であるため、その管理上店舗と住居が一体となっていることが望ましかったので、原告が本件建物を新築するに際し、ひきつづきその一階部分を店舗として賃借するとともに、これを密接不可分なものとして本件部屋を賃借することとした。

(2) ところが、被告の家族は妻及び三人の子供の計五人であるが、子供達の成長にともない本件部屋で生活するには手狭となり、やむなく昭和五七年他に住居をかまえるに至った。

(3) しかし、その後も被告は、週に三日余は本件部屋に宿泊し、動物の管理を行っているのであり、店舗と密接不可分な関係にある本件部屋の明渡しは、ペットショップの閉店を意味するものである。

(二) (原告側の事情)

(1) 被告が本件部屋を賃借した後に、原告の長女が結婚して同居し、出産して手狭になったという原告主張のような事情は、原告において本来受忍すべきものである。

(2) 原告は、本件建物のうち六部屋を使用し、さらに屋上にプレハブ建物も所有しており、現在の住宅事情から考えれば狭いとはいえない。

七  再々抗弁(再抗弁1に対し)

仮に、原告が主張するような用方違反があったとしても、次にのべるような背信行為と認めるに足りない特段の事情が存するので、これをもって本件賃貸借契約の解除原因とすることはできない。

1  被告は、本件建物の一階部分をペットショップとして原告より賃借し、その営業に附随して本件部屋を賃借したのであり、そのため、犬、猫等の病気、助産等緊急を要する場合には、原告の承諾を得て本件部屋において犬、猫等を飼育することもできる旨を原告と特約したのである。

2  被告は、昭和五七年六月頃、犬、猫を本件部屋に入れたことはあるが、これは一回だけ犬の助産のため犬を本件部屋に入れたことがあり、また、犬につきっきりで猫の飼育ができなかったので、猫も本件部屋に収容したもので、いずれも緊急を要しやむを得なかったもので、原告の承諾を得ることができなかったものである。

八  再々抗弁に対する認否

1  再々抗弁事実中、犬、猫等の病気、助産等緊急を要する場合には本件部屋を犬、猫の飼育にも利用できる旨の約定があったこと、及び、昭和五七年六月ころ被告が本件部屋に犬、猫を入れたことは認めるが、その余は否認する。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因について

1  請求原因1(本件部屋の所有)の事実については、《証拠省略》により明らかであって、これを覆すべき証拠はない。

2  請求原因2(本件部屋の占有)及び3(賃料相当額)の事実は、当事者間に争いがない。

二  抗弁について

抗弁事実(本件部屋の賃貸借)は、当事者間に争いがない。

三  再抗弁1(用方違反による解除)について

1  本件賃貸借契約が居住を目的とするものであって、被告がこの用方に違反したときは原告は本件賃貸借契約を解除することができる旨の特約があったことは、《証拠省略》により明瞭であって、これを動かすべき証拠はない。また、本件賃貸借契約に、被告は本件部屋内において犬、猫等の動物を飼育してはならず、これに違反したときは、原告は本件賃貸借契約を解除することができる旨の特約があったことは当事者間に争いがない。

2  再抗弁1の(二)の事実について判断するに、昭和五七年六月ころ、被告が本件部屋内に犬、猫を入れたことがあることは被告の自認するところであり、このことと、《証拠省略》を総合すると、被告は、原告から本件建物の一階部分をペットショップとして借り受けるとともに、これとは別にその二階にある本件部屋を住居として借り受け、妻及び三人の子供とともに居住していたものであるが、昭和五六年六月ころ他に住居を購入して転居し、被告及び家族の生活の本拠としては本件部屋を使用しなくなったこと、被告が、昭和五七年六月ころ、本件部屋を犬、猫等の飼育及び飼料、器具等の保管場所として使用していたので、同月下旬ころ原告が被告に対し、本件部屋内において犬、猫等を飼育することをやめるよう申し入れたが、その後も被告は本件部屋内において犬、猫等を飼育し、飼料、器具等の保管場所として本件部屋を利用し続けたことを認めることができ、この認定を動かすに足りる証拠はない。しかして、これが本件賃貸借契約における前記約定の用方に違反し、本件賃貸借契約の解除原因になると解すべきことは明らかであり、これが解除原因となる用方違反に当たらない旨の被告の主張は採用し難い。

3  再抗弁1の(四)(条件成就)の事実について判断するに、《証拠省略》によれば、原告が再抗弁1の(三)のとおり、条件付解除の意思表示をしたにもかかわらず、昭和五七年七月末日に至ってもなお、被告は、本件部屋を犬、猫の飼育、及び飼料、器具等の保管場所として利用し続けていた事実を認めることができ、この認定を動かすに足りる証拠はない。

四  再々抗弁(背信行為と認めるに足りない特段の事情)について

1  本件賃貸借契約において、犬、猫等の病気、助産等の緊急を要する場合には、被告は原告の承諾を得て本件部屋において犬、猫等を飼育することができる旨の特約があったことは当事者間に争いがないが、前記のとおり被告が本件部屋において犬、猫を飼育したことについて、原告の承諾があったことについては主張立証がない。

2  被告は、本件部屋内に犬、猫を入れたのは、犬の助産のため一回だけであり、緊急を要し原告の承諾を得ることができなかった旨主張する。しかし、前記三2認定の事実に照らして当時被告が本件部屋内に犬、猫を入れたことが一回だけであったとは認め難いのみならず、仮に当時被告が本件部屋に犬、猫を入れるについて被告が主張するような緊急を要する事情があったとしても、犬、猫を本件部屋に入れることについて被告がその事前においてはもとより事後においても全く原告の承諾を得ていないことは被告自身その本人尋問において自認しているところであり、しかも、前記のとおり被告は原告の内容証明郵便による条件付解除の意思表示があった後においても同様の用方違反を続けていたものであること等の諸事情を考えると、この点をもって背信行為と認めるに足りない特段の事情があるとすることは到底できない。

また、被告が本件部屋を使用し得ることは階下におけるペットショップの営業上被告にとって都合のよいことであることは明らかであるが、このことや前記特約の存在をもって被告の前記のような用方違反が本件賃貸借契約における背信行為と認めるに足りないとすべき特段の事情があると認めることもできない。

3  以上のほか、前記のような被告の用方違反が本件賃貸借契約における背信行為と認めるに足りない特段の事情があるとすべき事実については主張立証がない。

以上のとおりであるから、原告の主張する解除の意思表示は有効であるというべきである。

五  結論

そうすると、原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく理由のあることが明らかであるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、金銭の支払いを命ずる部分についての仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用し、その余の部分について仮執行宣言を付することと、金銭の支払を命ずる部分についての仮執行の免脱の宣言を付することは、いずれも相当でないからこれを付さないこととする。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 小川英明)

<以下省略>

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