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東京地方裁判所 昭和58年(ワ)12922号 判決 1990年11月07日

原告

国際勝共連合

右代表者理事長

梶栗玄太郎

右訴訟代理人弁護士

上野忠義

本島信

被告

日本社会党

右代表者中央執行委員長

土井たか子

被告

温井寛

被告両名訴訟代理人弁護士

水嶋晃

儀同保

宮里邦雄

山口広

主文

一  被告日本社会党は、原告に対し、別紙謝罪広告(一)記載の謝罪広告を、被告日本社会党の機関紙「社会新報」に、表題の「謝罪広告」とある部分は一二ポイント活字、その余の部分は八ポイント活字として、縦四センチメートル、横一〇センチメートルの枠組みで一回掲載せよ。

二  被告らは、原告に対し、連帯して一〇〇万円及びこれに対する昭和五九年一月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告の被告らに対するその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は、これを五〇分し、その一を被告らの、その余を原告の各負担とする。

五  この判決は、第二項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  申立

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告に対し、別紙謝罪広告(二)記載の謝罪広告を、被告日本社会党の機関紙「社会新報」紙上に、一面下段に縦四センチメートル、横一〇センチメートルの枠組みで、「謝罪広告」の見出しは1.5倍のゴシック文字、その他の部分は、明朝体9.5ポイント平二活字をもって一回掲載せよ。

2  被告らは、原告に対し、連帯して一億円及びこれに対する昭和五九年一月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は、被告らの負担とする。

4  右2につき仮執行宣言

二  本案前の答弁

1  本件訴えを却下する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

三  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

第二  当事者の主張

(請求原因)

一  当事者

原告は、共産主義と対決しこれを克服する「反共、勝共」の政治的諸活動を行うことを目的とし、国防国民運動とスパイ防止法制定運動は共産党撲滅運動の両輪であるとして活動している政治団体である。

被告日本社会党(以下「被告社会党」という。)は、日本に社会主義を実現することを目的とする野党第一党の地位を占める政党であり、被告温井寛(以下「被告温井」という。)は、本件で問題となっている名誉毀損記事が被告社会党の党機関紙「社会新報」に掲載された当時右機関紙の編集長の職にあった者である。

二  レフチェンコ事件の事実経過

1 ソ連国家保安委員会(以下「KGB」という。)の機関員であったスタニスラフ・A・レフチェンコ(以下「レフチェンコ」という。)は、昭和五〇年(一九七五年)二月に「ノーボエ・ブレーミヤ(新時代)」誌の東京特派員として着任し、以後約四年八か月間日本に滞在していたが、昭和五四年(一九七九年)一〇月二五日アメリカに亡命した。

2 レフチェンコは、アメリカに亡命後の昭和五七年(一九八二年)七月一三日及び同月一四日の両日、アメリカ議会下院情報特別委員会が開催した秘密聴聞会に証人として喚問され、同月一四日、在日KGB機関員の積極工作活動について証言した。

レフチェンコは、右の聴聞会において、在日KGB機関員の積極工作の目的は、①日米間の政治・軍事協力の緊密化を妨げること、②日米中三国の反ソ協力関係の形成を阻止すること、③日ソ善隣協力条約の締結を推進すること、④ソ連の経済的結びつきを急激に拡大する必要性を日本政府に納得させることなどであり、このため、在日KGBは自由民主党(以下「自民党」という。)及び被告社会党の著名な政治家に働きかけ、親ソ・ロビーを作るほか、財界やマスコミの有力者の間にエージェント(協力者)を作る工作を展開した、と証言し、KGBと被告社会党との関係については、KGBが主要野党、特に被告社会党に深く浸透し、自民党が国会で政治的独占を確立しないようにするため、野党の政治綱領に影響を与えることを積極工作の目的の一つとしていたと証言し、七〇年代にはKGBは被告社会党の政治綱領を効果的にコントロールでき、その高級指導者一〇人以上を大物エージェントに取り込んでいたと証言し、さらにレフチェンコ自身が操ったエージェントの中には被告社会党の幹部級党員が含まれており、そのエージェントは、被告社会党の右傾化や対中関係の強化を妨げること、すなわち、ソ連の利益に適うよう党内で積極工作を行うことに使われたと証言した(以下、レフチェンコのアメリカ下院情報特別委員会の秘密聴聞会における右の各証言を「レフチェンコ証言」という。)。

レフチェンコ証言は、アメリカ議会がアメリカ中央情報局(以下「CIA」という。)との協議を経たうえ、昭和五七年(一九八二年)一二月九日、聴聞会証言議事録の全文を公表したことによって明らかになったが、これに先立ち、昭和五七年一二月二日に毎日新聞が右内容の記事をスクープして掲載した。

3 その後、日本のマスコミの主たる関心は在日KGBの機関員に協力した日本人エージェントの実名の割り出しに向けられていたが、毎日新聞は、昭和五八年四月一三日、レフチェンコが米国リーダーズダイジェスト誌に対して日本人エージェント二六人のコード(暗号)名及びその内八名は実名を明らかにしたことを伝え、被告社会党関係では衆議院議員の勝間田清一(元委員長)、同伊藤茂、社会主義協会事務局長の佐藤保の各実名をあげて報道し、同日、日本リーダーズダイジェスト社は、昭和五八年五月号掲載予定のレフチェンコと同誌のインタビュー記事のゲラ刷りを発表し、それに基づき、翌一四日付の新聞各紙は毎日新聞と同様にエージェントの実名に関する右内容の記事を報道した。

4 その後も、マスコミの取材は続き、被告社会党関係ではKGBのエージェントとして疑惑を持たれた人物が時間の経過とともに九人に増えた(以下、レフチェンコ証言以後のレフチェンコの日米の報道関係者に対する発言を、レフチェンコ証言と区別して「レフチェンコ発言」といい、レフチェンコ証言に端を発したこれらの一連の事件を「レフチェンコ事件」という。)。昭和五八年六月二日号「週刊文春」の「これはインタビューではなく言葉による決闘である」と題した記事掲載の九人のコード名と実名は、以下のとおりである。

① アトス=佐藤保・社会主義協会事務局長

② ウラノフ=上田卓三・被告社会党代議士

③ ギャバー=勝間田清一・被告社会党元委員長・代議士

④ グレース=伊藤茂・被告社会党代議士

⑤ キング=被告社会党の有力なリーダー

⑥ ズム=上田代議士の秘書

⑦ ティーバー=被告社会党員

⑧ ラムセス=被告社会党員

⑨ ディック=被告社会党代議士

三  被告らの名誉毀損行為

被告らは、以上の一連のレフチェンコ事件に関し、昭和五八年七月一日付け及び同年五月二七日付けの社会新報で次の1ないし4記載の記事(以下それぞれ問題部分を含む記事の全体を「本件(一)記事」、「本件(二)記事」のように略称し、これらをまとめて「本件各記事」ともいう。)を掲載した。本件各記事のうち、以下に述べる部分は、レフチェンコ事件を原告がCIAと結託して仕掛けた政治的謀略事件であるとして、原告の政治団体としての名誉を毀損したものである。

1 本件(一)記事の記載内容(<証拠>)

昭和五八年七月一日付けの号外一面で、「レフチェンコ証言 謀略の真相」という見出しと「レフチェンコ問題は、平和運動や日ソ親善運動に取組む真面目な人々や社会党を〝ソ連の手先〟呼ばわりしておとしいれるために米CIAと日本の右翼団体が仕組んだ政治謀略事件に違いない。」と述べている部分

2 本件(二)記事の記載内容(<証拠>)

昭和五八年七月一日付けの号外二面で、「レフチェンコ事件の本質は、米国CIAと日本の反共右翼諸組織が緊密な連けいのもとに仕組んだ一大政治謀略事件だ。その攻撃の主な狙いは、平和・軍縮運動に取組む社会党や真面目な日ソ親善運動の活動家を〝ソ連のスパイ〟呼ばわりすることで落としこめ、より一層の軍備増強、スパイ防止法等の民主主義破壊をはかることである」、「レフチェンコが来日後に移り住んでいるマンションの隣には国際勝共連合の事務所があり、彼が早くからこれと接触していた事実も指摘されている」、「毎日の歴代ワシントン特派員記者の多くが米国の対日軍事要求を代弁するかの如き記事を書き送り、帰国してのちは勝共連合や日本安保センターなどの右翼組織の活動に協力していることも事実である。」、「リーダイ、毎日、CIA、勝共連合をつなぐ奇妙な結びつきは、レフチェンコ騒動がこれら諸勢力の密接な連携のもとに仕組まれたものであることを十分に推測させる」と述べている部分

3 本件(三)記事の記載内容(<証拠>)

昭和五八年七月一日付けの号外三面で、「一九七九年初レフチェンコの方から世界日報と連絡をとり、勝共連合関係者との接触を始めている。」、「レフチェンコがすでに滞日中に深くCIAおよび勝共連合などと結びついていたことなどを推測させるのである。」と述べている部分

4 本件(四)記事の記載内容(<証拠>)

昭和五八年五月二七日付けの二面で、「日本における『レフチェンコ事態』の仕掛人『統一協会=勝共連合』の暗躍は、こうした国際謀略と軌を一にしたものである。」と述べている部分

四  原告の損害

原告は、日本の政治団体としての自主性・独立性を堅持している。政治団体が外国政府機関と結託して日本国内で政治的謀略を行うことは、政治団体として自殺行為である。しかるに、被告らは、頒布部数約五〇万部の政党機関紙社会新報に本件各記事を掲載したのであって、国民の間における政治的信頼を生命とする政治団体の原告は、甚大な打撃を受け、国民からの名誉・信頼を失墜し、精神的苦痛を被った。右失墜した名誉・信頼を回復するためには、請求の趣旨記載の謝罪広告の掲載が必要であり、右精神的苦痛の慰藉料としては少なくとも一億円が相当である。

五  被告らの責任

1 被告社会党は、レフチェンコ証言によって掲示されたソ連・KGBの被告社会党への浸透・介入の事実に関し、自ら疑惑を晴らすことをせず、国民の真相究明を求める目をそらす意図のもとに、レフチェンコ問題はすべて原告が米CIAと結託して仕掛けた政治的謀略事件であるとの架空の筋書きを創作し、党機関紙社会新報に本件各記事を掲載し、党員などに広く頒布して、原告の政治団体としての名誉を毀損したものであり、後記のとおり被告温井と共同不法行為責任を負う。

2 被告温井は、当時の社会新報編集長として、本件各記事の作成・編集責任者の立場にあったが、被告社会党の右方針に基づき、本件各記事を作成・掲載することによって、原告の政治団体としての名誉を毀損したものであり、被告社会党と共同不法行為責任を負う。

六  よって、原告は、被告らに対し、共同不法行為責任に基づき、請求の趣旨記載のとおりの謝罪広告の掲載、慰謝料として一億円及びこれに対する不法行為の後である昭和五九年一月一三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の連帯支払いを求める。

(本案前の答弁の理由)

原告は、レフチェンコ事件に関して、その機関紙「思想新聞」などにおいて、「社会党はソ連のスパイの巣」などと悪質な反社会党キャンペーンを行ってきたものであるが、本件訴えは、名誉毀損に名を借りて、被告社会党が社会新報に掲載した本件各記事による政治的言論を嫌悪するとともに、被告社会党が誹謗中傷する原告の反共政治運動の一環として、専ら政治的意図のもとにされたものであり、訴権を濫用するものとして却下されるべきである。

(本案前の答弁の理由に対する認否)

原告の本訴請求が専ら政治的意図のもとにされたとの点は否認する。原告は、被告の名誉毀損行為によって生じた損害の賠償及び名誉・信頼の回復を被告らに求めるものであって、何ら訴権の濫用には当たらない。

(請求原因に対する認否)

一  請求原因一の事実は認める。

二1  請求原因二1の事実は認める。

2  請求原因二2の事実のうち、レフチェンコが原告主張の日時にアメリカ下院情報特別委員会の秘密聴聞会で証言したことは認めるが、その証言内容は不知。アメリカ会議がCIAと協議のうえ右証言の議事録全文を昭和五七年(一九八二年)一二月九日に公表したこと及び右公表に先立ち毎日新聞が右証言内容をスクープしたことは認める。

3  請求原因二3の事実は認める。

4  請求原因二4の事実は認める。

三  請求原因三の事実のうち、被告らが昭和五八年五月二七日付及び同年七月一日付社会新報に本件各記事を作成・掲載したことは認めるが、右記事中の原告主張部分が原告の政治団体としての名誉を毀損したとの主張は争う。

四  請求原因四は争う。

本件については、つぎのような事情からすれば、原告には名誉毀損による損害は生じていない。

1 原告のような政治団体にとって不法行為制度により保護されるべき名誉とは、世間一般の当該政治団体についての客観的評価、すなわち、その綱領・政治活動・活動歴などを総合した評価であり、右評価が低下した場合に名誉毀損による不法行為が成立すると解すべきである。

2 原告は、反共・勝共の政治的諸活動を行うことを目的とし、共産党撲滅運動の両輪は国防国民運動とスパイ防止法制定運動であるとして活動している政治団体である。また、原告は、文鮮明を教祖とし、その強固な指導下にある統一協会(世界キリスト教統一神霊協会、以下「統一協会」という。)の政治活動の面を担う団体であり、統一協会の支配下にある「世界日報」は、実質的に原告の機関紙である。統一協会、すなわち、原告は、文鮮明の提唱する宗教理念に基づき、政治・言論・文化等各方面で、世界、特に韓国、日本、アメリカにおける影響力の拡大を企図して活動しており、右目的達成のため、アメリカ保守政治言論界、CIA元要人等に人脈をはりめぐらすとともに、日本の保守政界・言論界にも様々な人脈及び活動を通して浸透し、また、過去様々な政治的謀略や社会問題を惹起してきたとの評価を一般に受けている。

3 以上の観点からすれば、本件各記事の内容は、いずれも原告の政治的謀略活動についての従来からの一般の評価の延長線上にあり、新たな原告の評価を低下させるような性質の内容ではない。かえって、原告がレフチェンコ事件を政治的謀略として仕組んだとの部分は、原告の政治的影響力を、その是非はともかくとして、積極評価するものであり、また、原告とCIAとの連携や結びつきを指摘した部分は、原告の勝共という目的からして、国際政治における影響力・組織力を積極評価するものであり、さらに、レフチェンコが在日中から原告と接触があったとの部分も、原告の日本国内における政治活動の多様性・計画性を積極評価するものであって、いずれも反共政治団体としての原告の評価を低下させることにはならない。

五  請求原因五は争う。

(抗弁)

一  公正な論評による違法性阻却

1 政党(政治団体)間論争の特殊性

政党や政治団体は、それぞれ独自の相異なる綱領や目的・活動方針等を有し、ときに対立抗争するものであり、様々な政治的諸問題をめぐって政党間あるいは政党・政治団体間で論争(以下「政党間論争」という。)が行われざるを得ないが、右論争をめぐっての名誉毀損の成否を判断するに当たっては、以下に述べるようなその論争の重要性及び特殊性を考慮するべきである。

(一) 政党間論争は、論争者それぞれが言論・表現の自由を最大限に保障される中で、自由活発に行われることが民主主義の要請するところであり、その論争の当否は、本来何れが国民世論形成に影響を与え、その支持を得たかによって決せられる。

(二) 政党間論争は、政党の政治理念・政党等を明らかにするものであり、国民は、相互の論争・批判活動を知ることによって政治に関する意見を形成し、政党に対する認識を深め、政党に対する支持又は批判を行う。

(三) 政党間論争は、自らの主張・政策等の正しさを国民に訴えて、国民世論の支持を獲得するための政治活動としての積極的意義を持つものであるから、対立政党の理念や体質・政策等に対する批判を不可避のものとする。

(四) 他政党から批判を受けた政党は、最大限これを甘受すべきであり、批判に対しては、その有する手段によっての反論・再批判によって対処して信頼を回復すべきものである。

2 政党機関紙による時事問題の報道の特殊性

政党機関紙は、政党の主張を掲載し、その主張を社会に公表して世論を喚起するための政党にとって最も基本的な表現媒体であり、その読者は機関紙の中の報道記事が一定の立場から書かれていることを前提に閲読するのであって、政治的中立性・公平性を標榜する一般の商業紙と全く性格を異にする。

社会新報の場合、発行部数は約四九万五〇〇〇部であり、その配付方法も、社会党員及び社会党を支持する人々を対象にし、原則として手渡しの方法によるものであって、駅頭・街頭などで不特定多数の者に配付される一般商業紙と性格を異にする。また、本件各記事の内容は、レフチェンコ事件の真相究明という高度に政治的な時事問題であり、レフチェンコ事件によって攻撃を受けた被告社会党としては、参議院議員通常選挙等を控え、早急に反論活動を展開する必要があった。

3 名誉毀損の成立要件

(一) 以上のような政治間論争の重要性及び特殊性に鑑みるときは、本件のように政党が機関紙等において他の政治団体についてする論評記事が名誉毀損として違法性を有するというためには、以下の基準を満たすことが必要であり、かつ、その要件に該当すべき事実は、原告がこれを主張・立証すべきである。

(1) 論評記事の虚偽性

論評が明らかな虚偽もしくは容易に虚偽であると判明する事実に基づいてされていると認められること

(2) 論評目的の悪意性

論評の目的が政党の政治活動から逸脱し、悪意に基づく中傷や侮辱・攻撃のためにされたとみとめられること

(3) 論評対象の非公益性

論評の対象が政治的問題でなく、公共の利害と関連しないと認められること

(二) 本件各記事は、レフチェンコ事件という公益性を有する高度な政治的問題に関するもので、被告らがその真相究明という公益目的で書いたものであり、明らかに虚偽もしくは容易に虚偽であると判明する事実に基づくものではないから、右各要件に該当しない。

(三) 仮に、本件について公正な論評の法理が適用されないとしても、本件各記事は、レフチェンコ事件という公共の利害に関する事実に関し、被告らが、専らその真相究明という公益目的で書かれたものであり、後述するように、本件各記事は真実であり、仮に真実でないとしても被告らには本件各記事が真実であると信じるについて相当の理由があるから、不法行為は成立しない。

二  真実性の証明

1 真実性の証明を要する程度

本件各記事のように内容が高度に政治的問題であって公共性が高く、記事の対象者で公共性が高く、かつ、公的評価に常にさらされるべき性格の政治団体である場合には、前項に述べた政党間論争の重要性及び特殊性にも鑑み、真実性の証明に要求される程度は、個人のプライバシーや犯罪報道における基準と比べて緩やかに解すべきであって、記事の基礎となる事実が真実であることを裏付ける一応の真実があれば、名誉毀損は成立しないというべきである。

2 レフチェンコ事件の前後における事実経過及び政治情勢

(1) 昭和五七年六月一二日、国連軍縮総会が開催され、ニューヨークで反核一〇〇万人デモが行われた。

(2) 昭和五七年七月一四日、レフチェンコがアメリカ下院情報特別委員会の秘密聴聞会で証言した。この時点では、エージェントの具体的氏名は出ていない。

(3) 昭和五七年一一月二四日、中曽根内閣が発足した。

(4) 昭和五七年一二月二日、毎日新聞の古森義久特派員によるレフチェンコ証言公表のスクープ記事が掲載された。

(5) 昭和五七年一二月九日、アメリカ下院情報特別委員会がレフチェンコ証言に関する議事録を公表し、翌一〇日日本の新聞各紙で報道された。

(6) 右公表後、レフチェンコは、日本の報道関係者に再三会って、近いうちにエージェントの氏名を公表する旨の発言をし、レフチェンコ騒動が始まった。

(7) 昭和五八年一月、自民党田中派の石井一衆議院議員がレフチェンコ事件調査のため訪米した。

(8) 昭和五八年一月二六日、ロッキード事件で田中角栄元首相に五年の求刑がされ、衆議院解散の気運が高まった。

(9) 昭和五八年二月三日、衆議院予算委員会で、石井議員がレフチェンコ事件に関して質問し、原告の機関紙である「思想新聞」はこれを大きく報道した。

(10) 昭和五八年三月、加瀬英明及び宮崎正弘によって、レフチェンコ証言の日本語訳が出版された。

(11) 昭和五八年三月一七日、統一地方自治体選挙が告示された。

(12) 昭和五八年四月九日、「世界日報」がレフチェンコ供述に基づくとしてエージェントの氏名の一部を公表し、騒動が本格化した。それ以降、原告を中心に人物特定キャンペーンが始まった。

(13) 昭和五八年四月一〇日、統一地方自治体選挙の投票が行われた。

(14) 昭和五八年四月一三日、リーダーズダイジェスト日本語版の五月号のゲラが報道関係者に交付された。

(15) 昭和五八年四月二三日、リーダーズダイジェスト日本語版五月号が発行された。

(16) 昭和五八年五月一七日、衆議院国会議員調査団がレフチェンコ事件に関しアメリカに派遣された。

(17) 昭和五八年五月二三日、警視庁がレフチェンコ事件に関する捜査の打切りを発表した。

(18) 昭和五八年六月三日、参議院議員通常選挙が告示された。

3 レフチェンコ事件の政治的意図

(一) 以上のレフチェンコ事件の経過を通じて、その謀略性を検討するためには、①なぜこの時期のレフチェンコ証言が公表され、マスコミが大騒動する事態になったのか、②誰(又はどのような政治勢力)がレフチェンコ発言を大きく騒動化したのか、③レフチェンコ事件で誰が利益を受けたのか、の三つの視点から検討する必要がある。

(二) レフチェンコ証言が公表された昭和五七年末から昭和五八年にかけては、ロッキード事件の求刑公判を機に、田中元首相のみならず自民党に対する政治倫理問題について、野党や世論の追及は厳しさを加えており、統一地方自治体選挙、参議院議員選挙を控え、また、衆議院の解散総選挙も予想された時期であり、政府自民党にとっては不利益な状況であった。

(三)(1) レフチェンコ事件の火種となったレフチェンコ証言の公表は、形式的にも内容的にもCIAの情報に基づいて、CIAとアメリカ下院情報特別委員会の両機関が共同で行ったものである。

(2) レフチェンコ証言自体は、その内容において具体性がなく抽象的なものであり、エージェントとされた人物の実名は一切明らかにされていないのであり、真実性に乏しいものであったが、右具体性に欠けるレフチェンコ証言を内容的に補完し特定人物の氏名を一部出す等によって騒動拡大に寄与したのはリーダーズダイジェスト社(ワシントン総局主任編集委員ジョン・バロン(「今日のKGB」著者)、同誌日本語版編集長塩谷鉱)であった。

(3) 毎日新聞は、昭和五七年一二月二日、古森特派員によるレフチェンコ証言に関するスクープ記事を掲載し、さらに昭和五八年四月一三日、同じく古森特派員によるリーダーズダイジェスト日本語版同年五月号のゲラに基づくエージェントの実名に関するスクープ記事を掲載し、レフチェンコ騒動を煽った。

(4) 石井議員は、昭和五八年一月レフチェンコ事件に関して訪米し、同年二月三日衆議院予算委員会でレフチェンコ証言について質問して、レフチェンコ騒動を拡大させた。

(5) 田中元首相の懐刀といわれる後藤田正晴官房長官は、昭和五八年四月一八日参議院決算委員会で「レフチェンコ証言は全体として信憑性と具体性がある。」と発言して、レフチェンコ騒動拡大に寄与した。

(6) 統一協会系の世界平和教授アカデミー本部理事、日本安全保障研究センター理事長である加瀬英明、同センター事務局長である宮崎正弘は、昭和五八年三月一〇日、「ソ連KGBの対日謀略―レフチェンコ証言の全貌」と題するレフチェンコ証言の日本語訳の単行本を発行し、レフチェンコ騒動を拡大させた。

(7) 原告は、その機関紙「思想新聞」において、昭和五八年二月一一日、前記石井議員の国会質問を一面で大きく報道し、その後もレフチェンコ事件を有利な材料として、その主張するスパイ防止法制定促進キャンペーンを行っている。

(8) 前記のように原告と同一視できる統一協会の支配する新聞である「世界日報」は、他紙に先駆けて、昭和五八年四月九日、レフチェンコ発言によるエージェント人物の特定記事を掲載し、レフチェンコ事件騒動化の契機を作り、その後もエージェントの実名探しやスパイ防止法制定促進のキャンペーンを展開した。

(四) 以上のように、参議院議員選挙及び地方自治体統一選挙を前にして、かつ、ロッキード事件を契機に政治倫理問題が論議されていた状況において、レフチェンコ発言がされ、それによって指摘された人物の多くが被告社会党及び野党関係者であったことから、その対抗勢力である政府自民党及び自民党と利益の共通する原告ら右翼勢力が利益を受けたことは明白であり、また、スパイ防止法制定促進運動を盛り上げようとする原告ら右翼政治勢力にとって、レフチェンコ発言は運動促進の格好の材料となり、ソ連への警戒感を高まらせる機能を果たし、中曽根内閣の防衛政策の促進に寄与した。さらに、国連軍縮総会以来高まる反核運動への反動の材料となり、レーガン政権、すなわち、CIAの目論む対ソ情報戦略の必要性を特に日本との関係で強調する恰好の材料となった。このように、レフチェンコ事件で利益を得たのが政府自民党関係者及び自民党の拡大強化やスパイ防止法制定促進を運動方針の柱の一つとする原告を含む右翼政治勢力であったことは明らかである。

(五) 以上のとおり、レフチェンコ証言公表の時期、レフチェンコ騒動を拡大した政治勢力、レフチェンコ騒動によって利益を得た勢力からすれば、レフチェンコ事件騒動化の政治的意図は、政府自民党及び原告を含む右翼勢力による選挙を前にした被告社会党攻撃及びスパイ防止法制定促進等にあったことは明らかである。

4 原告とCIAの関係

統一協会及びその政治団体である原告は、CIAにつながりを有し、韓国中央情報局(以下「KCIA」という。)と一体となってCIAなどのアメリカ政府機構に様々な働きかけをしてきた。共産主義への敵対及びソ連敵視において政治的立場を同じくするCIAと原告とは、時としてテーマによっては利用し合う関係であった。このような関係は、原告が世界反共連名(WACL)、アメリカ社会統一協会連合(CAUSA)等の組織活動を通じて、アメリカ保守政治言論界、CIA元要人等(シンクローブ、レイクラウン、ウィリアムコルビー、コードメイヤー、ナサニエルセイヤー、リチャードアレンなど)に人脈を求めて近づくことによって作られてきたものである。

5 毎日新聞社と原告の関係

毎日新聞の元ワシントン特派員の三好修及び那須聖は、日本保安保障研究センター、世界平和教授アカデミー等を通じて原告と密接な関わりがあり、また、前述のとおり元ワシントン特派員の古森がレフチェンコ騒動に関し多大な寄与をしたことも考え合わせると、毎日新聞社と原告は密接な結びつきを有すると考えられる。

6 毎日新聞社とリーダーズダイジェスト社の関係

毎日新聞社とリーダーズダイジェスト日本社は、ともに東京竹橋のパレスサイドビルに入っており、右ビルを所有する株式会社パレスサイドビルディングの役員には毎日新聞社とリーダーズダイジェスト社の役員が名を連ね、共同経営していた関係にあったが、リーダーズダイジェスト社が日本から撤退する際には、毎日新聞社がリーダーズダイジェスト社の有していたパレスサイドビルディングの株式を譲受けるなど、互いに密接な関係にあった。レフチェンコ事件の契機となった毎日新聞のスクープ記事にも、毎日新聞がいち早くリーダーズダイジェストのゲラをみることができる関係にあったからである。

7 原告とレフチェンコの関係

レフチェンコは、アメリカに亡命する前から、日本において自ら世界日報社に連絡して原告の活動家宮城武文と接触し、世界日報社のすぐ近くのマンションに引っ越すなど、既に亡命以前から原告と相当程度の接触があった。

8 CIA、レフチェンコ及びリーダーズダイジェスト社の相互関係

レフチェンコは、亡命直前からCIAと接触し、亡命からレフチェンコ証言までの三年間は、居住・生活・執筆などすべてがCIAの管理監督下に置かれていた。レフチェンコ証言公表に際しても、議事録の内容をCIAがチェックし、記者会見にジョンマクマホンCIA副長官も立ち合っている。リーダーズダイジェストは、かつての冷線時代にはCIAの隠れミノとして機能していた機関であり、現在も「反ソ」を基調とした論説を重ねている。リーダーズダイジェスト社のワシントン総局主任編集委員ジョン・バロンは、元アメリカ海軍の情報将校で、一九五三年から一九五九年にかけて対ソ連諜報活動に従事し、「ワシントンスター」誌からリーダーズダイジェストに移ったが、亡命一か月後にはレフチェンコと会い、その後レフチェンコから三年間にわたる取材をし、レフチェンコ事件の情報源となった「今日のKGB―内側からの証言」を著した。このようにし、レフチェンコ及びリーダーズダイジェスト社は相互に密接な関係がある。

9 原告のレフチェンコ事件に占める位置及び本件各記事の真実性

以上のように「世界日報」と「思想新聞」は、いち早くレフチェンコ証言の公表を大きく取り上げるとともに、被告社会党に焦点をあてた実名さがしのキャンペーンを騒動として大きくするとともに、被告社会党攻撃の先陣を切った。特に当時の一般マスコミがレフチェンコ発言をそのまま鵜呑みにするという論調は少なくて、背後にある政治的意図やその中身についても懐疑的であったのに対し、「世界日報」「思想新聞」は、それらが全部真実であるということを前提として、スパイ防止法制定という政治的な結果を導き出そうとする意図をもってキャンペーンを展開したものである。そして、同様にレフチェンコ騒動の拡大に寄与したCIA、リーダーズダイジェスト、毎日新聞、そして、石井議員、後藤田官房長官、加瀬英明、宮崎正弘ら政府自民党及び保守勢力と原告との前述してきた結びつきに鑑みると、レフチェンコ事件が原告を中心とする保守勢力が仕掛けた政治的謀略事件であるとの本件各記事の内容はいずれも真実である。

三  真実と信ずる相当な理由

本件各記事を作成・編集した高木浩司らは、昭和五八年四月一三日付毎日新聞でエージェントとして名指しされた人々に直接会って事実確認をし、いずれも強くレフチェンコとのつながりを否定する回答を得た。特にエージェントとして名指しされ、レフチェンコ問題についての分析・反論活動を熱心に行っていた評論家山川暁夫には何回も会って、同人が後に中央公論で発表した「レフチェンコ証言に反撃する」との論文と同様の内容の話を詳しく取材した。さらに、評論家梶谷善久、東京大学稲葉三千男教授、創価大学新井直之教授等、国際関係やマスコミに詳しい専門家にレフチェンコ事件の見方を聞くなど、多方面にわたって取材した。以上のような取材の結果、高木らは、第三項に記したような諸事実を把握し、本件各記事を作成したものであって、右高木らは、本件各記事の内容が真実と信ずるについて相当な理由があったというべきである。

(抗弁に対する認否)

一  抗弁一(公正な評論による違法性阻却)について

1 抗弁一1(政党間論争の特殊性)(一)ないし(四)は一般論としては認める。ただし、この場合の政党間論争とは、政治理念や政策等に関するものであって、本件のような虚偽事実の摘示には関係がない。

2 抗弁一2(政党機関紙による時事問題の報道の特殊性)の事実のうち、政党機関紙の性格については一般論としては認めるが、社会新報の発行部数・配付数からして、本件各記事による虚偽事実の摘示が不特定多数の者に対してされたことは明らかである。また、レフチェンコ事件が高度に政治的な時事問題あることは認めるが、本件各記事の内容は原告に対する悪意の中傷であって、被告らの反論の域を超えている。

3 抗弁一3(名誉毀損の成立要件)(一)の三基準については争う。右の三基準は、政治権力を批判・監視する民間の自由なプレスの自治を保障し、その公的言論・論評を保護したものであり、被告らのような準国家機関たる権力を有する政党の機関紙による言論を保護したものではなく、また、本件各記事は論評ではなく虚偽事実の摘示であり、この意味でも右の三基準は妥当しない。

同(二)は争う。仮に右の三基準によったとしても、被告らは、レフチェンコ証言によって窮地に追い込まれた結果、本件各記事によって原告をスケープゴートに仕立てあげたのであり、虚偽性及び悪意性が認められ、違法性は阻却されない。

同(三)は争う。

二  抗弁二(真実性の証明)

1 抗弁二1(真実性の証明を要する程度)は争う。本件各記事は前述したように原告の政治団体としての存在基盤を根本から履す内容であって、真実性の証明は厳密にされなければならない。

2 抗弁二2(レフチェンコ事件の前後における事実経過及び政治情勢)の事実のうち、(12)の原告を中心に人物特定キャンペーンが始まったとの点は否認し、その余は認める。

3 抗弁二3(レフチェンコ事件の政治的意図)(二)の事実は認める。

同(三)(1)の事実については、レフチェンコ証言の議事録の公表に当たり、CIAがアメリカ下院情報特別委員会と協議した事実は認めるが、公表自体は、アメリカ下院情報特別委員会が単独で行ったものである。

同(三)(2)の事実中、レフチェンコ証言中にエージェントの実名が明らかにされていない事実は認めるが、真実性が乏しいとの点は争う。リーダーズダイジェストがエージェントとされた人物の実名を出してレフチェンコ証言を補完した事実は認める。(3)ないし(5)の事実は認める。同(三)(6)の事実中、加瀬、宮崎の両名が被告ら主張の単行本を発行したことは認めるが、その余は不知。同(三)(7)の事実は認める。同(三)(8)の事実中、世界日報がレフチェンコ発言によるエージェント人物の特定記事を掲載したことは認めるが、世界日報と原告は別団体である。

同(四)の事実中、レフチェンコ騒動によって利益を受けた勢力については不知。その余は争う。

同(五)は争う。

4 抗弁二4(原告とCIAの関係)の事実は否認する。

5 抗弁二5(毎日新聞社と原告の関係)の事実のうち、毎日新聞の古森特派員の記事がレフチェンコ騒動拡大に寄与していることは認めるが、その余は不知。

6 抗弁二6(毎日新聞とリーダーズダイジェスト社の関係)の事実のうち、毎日新聞社とリーダーズダイジェスト社が同じ社屋に入っていたとの点は認めるが、その余は不知。

7 抗弁二7(原告とレフチェンコの関係)の事実のうち、「世界日報」の記者宮城が取材のためレフチェンコと一度インタビューしたこと、レフチェンコのマンションが世界日報社と近かったことは認めるが、相当程度接触があったとの点は否認する。その余は不知。

8 抗弁二8(CIA、レフチェンコ及びリーダーズダイジェスト社の相互関係)の事実はいずれも否認ないし不知。

9 抗弁二9(原告のレフチェンコ騒動に占める位置及び本件各記事の真実性)は否認ないし争う。

三  抗弁三(真実と信ずる相当な理由)の事実のうち、高木らの取材経過については不知。被告に本件各記事の内容が真実と信ずるについて相当な理由があったとの点は争う。

第三  証拠<省略>

理由

第一本案前の答弁における被告らの主張に対する判断

原告の本訴請求は、被告らが本件各記事によって原告の政治団体としての名誉を毀損したと主張して、被告らに対し損害賠償及び名誉回復措置としての謝罪広告を請求するものであり、原告の反共政治活動の一環として、専ら被告らを誹謗する政治的意図に出たものと認めるべき証拠はなく、本訴提起が権利濫用ということはできないから、被告らの本案前の答弁における主張は採用するに由ない。

第二請求原因に対する判断

一請求原因一(当事者)について

請求原因一の事実は、当事者間に争いがない。

二請求原因二(レフチェンコ事件の事実経過)について

1  請求原因二1の事実は、当事者間に争いがない。

2  請求原因二2の事実のうち、レフチェンコが、昭和五七年(一九八二年)七月一四日アメリカ下院情報特別委員会の秘密聴聞会で証言したこと、アメリカ議会がCIAと協議のうえ、同年一二月九日右証言の議事録全文を公表したこと、右公表に先立って、同年一二月二日毎日新聞が右証言内容をスクープしたことは、当事者間に争いがない。

そして、<証拠>並びに弁論の全趣旨によれば、右証言は、おおむね、KGBの世界及び日本における活動の全般的な状況を述べるとともに、レフチェンコの在日中のKGB機関員としての積極工作活動について述べたものであり、右工作活動の目的は、①日米間の政治・軍事協力の緊密化を阻止すること、②日米中三国の反ソ協力関係の形成を阻止すること、③ソ連との経済的結びつきを急激に拡大する必要を日本政府に納得させること、などであり、その目的達成のため、レフチェンコは、政府自民党、被告社会党、マスコミ関係者等にエージェントを作り、被告社会党については、KGBは、一九七〇年代(昭和四五年ないし昭和五四年)において、被告社会党の政治綱領(platform)を効果的に制御することのできる状態にあり、被告社会党に対する影響力を有するエージェントとして、一〇人以上の高級幹部を確保していた、との内容であったことが認められる(以下右の内容において「レフチェンコ証言」という。)

レフチェンコ証言は、右の判示からでも明らかないように、KGBの世界及び日本における活動の全般的な状況の報告を目的とするものであり、日本における活動状況にしても、政治家に対する工作活動については、自民党関係者と被告社会党関係者の双方に対して行ったとするなど、被告社会党に対してのみ照準を当てたものではなかったということができ、また、被告社会党に関する部分にしても、証言の目的からいって当然のことではあるが、具体性・特定性を持たせておらず、その信憑性を吟味することが困難なほど、漠漠たるものであったといわざるを得ない。

そして、前掲各証言によれば、右の証言には、いかなる団体ないし個人がエージェントであるかなどの個々具体的な事実関係については、その真実性を担保すべき客観的な資料を提出されてはおらず、その後もレフチェンコやCIA関係者などから提出されなかったことが認められる。

3  請求原因二3、4の次の事実は、当事者間に争いがない。

レフチェンコ証言の公表及び毎日新聞のスクープ以後、日本のマスコミの主たる関心は、在日KGBの機関員に協力した日本人エージェントの実名の割り出しに向けられていたが、毎日新聞は、昭和五八年四月一三日、レフチェンコが米国リーダーズダイジェスト誌に対し日本人エージェント二六人のコード(暗号)名及びその内八名は実名を明らかにしたことを伝え、被告社会党関係では、衆議院議員の勝間田清一(元委員長)、同伊藤茂、社会主義協会事務局長の佐藤保の各実名をあげて報道し、同日、日本リーダーズダイジェスト社は、昭和五八年五月号掲載予定のレフチェンコと同誌のインタビュー記事のゲラ刷りを発表し、それに基づき、翌一四日付の新聞各紙は毎日新聞と同様にエージェントの実名に関する右内容の記事を報道した。その後も、マスコミの取材活動は続き、被告社会党関係ではKGBのエージェントとして疑惑を持たれる人物が時間の経過とともに九人に増えた(以下、レフチェンコ証言後のレフチェンコの日米の報道関係者に対する右の発言を事実摘示欄と同様に「レフチェンコ発言」という。なお、レフチェンコ証言及び公表をその端緒として発生したこれら一連の事件を、右のレフチェンコ証言及びその公表を含む「レフチェンコ事件」といい、含まない場合を「レフチェンコ騒動」という。)。昭和五八年六月二日号の「週刊文春」の「これはインタビューではなく言葉による決闘である」と題した記事掲載の九人のコード名と実名は、請求原因二4記載のとおりである。

4  レフチェンコの証言及び発言の内容のうち我が国の政党ないし政治関係者に関する部分は、右判示のとおり、我が国の責任あるべき野党の幹部ないしその経験者がソ連の諜報活動の協力者であったとして名指ししたものであり、我が国の国民一般に大きな動揺を与えざるを得ない衝撃的な内容であり、しかも、その真実性を担保すべき客観的な資料の提出はなく、矢面に立たされた関係者が直接、かつ、有効に反論する機会の保障のないものであり、したがって、レフチェンコ証言及び発言の真実性の有無は、基本的には、これを信用するか否かのみにかかっていたのであるから、報道関係者は、その報道に当たっては、これを読む一般読者の受け取り方に対する十分な配慮を要するべきであったというべきである。そして、その後の社会的・政治的な状況の推移等に鑑みれば、今日の段階では、レフチェンコの証言及び発言のうち我が国の政党ないし政治関係者に関する個々具体的な事実にかかる部分は、真実性の乏しいものであったと扱わざるを得ない。

三請求原因三(被告らの名誉毀損行為)について

請求原因三の事実のうち、昭和五八年七月一日付け及び同五月二七日付け社会新報に本件各記事が掲載されたことは、当事者間に争いがない。本件各記事が原告の名誉を毀損するか否かについては、次項において、判断する。

四請求原因四(原告の損害)について

1  原告のような政治団体にとって不法行為制度により保護されるべき人格権としての名誉とは、世間一般の当該政治団体についての客観的評価、すなわち、その綱領・政治活動・活動歴などを総合した評価であり、右評価がある表現行為により抽象的又は具体的に低下したと認められる場合に名誉毀損による不法行為が成立すると解される。

2  右の視点から本件各記事を検討すると、名誉毀損となる部分は、次のとおりである。

(一) 本件(一)記事(<証拠>)のうち、「レフチェンコ問題は、和平運動や日ソ親善運動に取組む真面目な人々や社会党を“ソ連の手先”呼ばわりしておとしいれるために米CIAと日本の右翼団体が仕組んだ政治謀略に相違いない。」との部分(なお、右記事を<証拠>と合わせて読めば、右の右翼団体との言葉とは、主として原告を指称することは明らかである。)

(二) 本件(二)記事(<証拠>)のうち「レフチェンコ事件の本質は、米国CIAと日本の反共右翼諸組織が緊密な連けいのもとに仕組んだ一大政治謀略事件だ。その攻撃の主な狙いは、平和・軍縮運動に取組む社会党や真面目な日ソ親善の活動家を“ソ連のスパイ”呼ばわりすることで落としこめ、より一層の軍備増強、スパイ防止法等の民主主義破壊をはかることである」との部分(右記事を<証拠>の他の部分及び<証拠>と合わせて読めば、右の反共右翼諸組織との言葉は、主として原告を指称することが明らかである。)、「レフチェンコが来日後に移り住んでいるマンションの隣には国際勝共連合の事務所があり、彼が早くからこれと接触していた事実も指摘されている」との部分、「リーダイ、毎日、CIA、勝共連合をつなぐ奇妙な結びつきは、レフチェンコ騒動がこれら諸勢力の緊密な連携のもとに仕組まれたものであることを十分に推測される」との部分

(三) 本件(三)記事(<証拠>)のうち、「一九七九年初レフチェンコの方から世界日報と連絡をとり、勝共連合関係者との接触を始めている」との部分、「レフチェンコがすでに滞日中にCIAおよび勝共連合などと結びついていたことなどを推測させるのである」との部分

(四) 本件(四)記事(<証拠>)のうち、「日本における『レフチェンコ事態』の仕掛人『統一協会=勝共連合』の暗躍は、こうした国際謀略と軌を一にしたものである。」との部分(なお、この部分は、一九八三年五月一七日付けウォール・ストリート・ジャーナル紙(<証拠>)の記事を引用したうえでの、右記事について被告社会党がした解説の一部であるが、右ウォール・ストリート・ジャーナル紙の引用部分と解説部分の区分けが不明であり、一般読者の立場に立ったとき、この部分もウォール・ストリート・ジャーナル紙に掲載されているとの理解ないし印象を受けることは避けられない。)

3  右2の掲げた各部分は、いずれも、原告が、CIA、リーダーズダイジェスト社、毎日新聞社、その他右翼諸勢力と連携して、レフチェンコにアメリカ議会下院情報特別委員会の秘密聴聞会で内容虚偽の証言をさせ、かつ、右証言を公表し、これによってその後の我が国におけるレフチェンコ騒動の拡大化まですべて仕組んだ、すなわち、レフチェンコ事件はその発生から拡大まですべて原告らが企画実行した政治的謀略事件であるとの内容を主幹とするものである。

4 日本の政治団体が外国政府機関と提携して日本国内で一定の政治的活動を行うことは、当該政治団体が右の政治的活動をすることを自らの意志決定に基づいてしている限り、政治団体としての自主性・独立性を損なうことにはならないというべきである。しかしながら、いかなる団体であっても、また、単独にせよ、他の団体等と共同にせよ、かつまた、いかなる理由があるにせよ、元政府高官等に外国の議会で虚偽の証言をさせ、それを公表させることによって、自己の一定の目的の達成に利用しようすることは、社会的に強く非難されるべき違法性の高い行為であり、これを企画実行したとされる団体は、その名誉を毀損されることはいうまでもないところである。したがって、本件各記事が、その内容において真実性がないとすれば、発行部数約四九万五〇〇〇部(この点については当事者間に争いがない。)の社会新報に掲載され、被告社会党支持者と中心に、広く頒布されたのであるから、これによって、原告の政治団体としての世間一般からの客観的評価は低下したといわざるを得ない。なお、本件(一)記事のうち「レフチェンコ証言・謀略の真相」という見出し部分と、本件(二)記事のうち「毎日の歴代ワシントン特派員記者の多くが米国の対日軍事要求を代弁するかの如き記事を書き送り、帰国して後は勝共連合や日本安保センターなどの右翼組織の活動に協力していることも事実である」との部分は、いずれもそれのみでは原告の政治団体としての名誉を毀損する性質のものではない。

5  被告らは、原告は文鮮明を教祖とする統一協会と実質的同一団体であり、統一協会の実質的機関紙「世界日報」とともに、文鮮明の提唱する宗教理念に基づき、政治・言論・文化等各方面で、世界、特に韓国、日本、アメリカにおける影響力の拡大を企図し、過去様々な政治的謀略や社会問題を惹起してきたとの評価を一般に受けているから、本件各記事の内容はいずれも原告の政治的謀略活動についての従来からの一般の評価の延長線上のものにすぎず、新たに原告の評価を低下させるような性質のものではないと主張する。

確かに、<証拠>並びに弁論の全趣旨によれば、原告と統一協会及び「世界日報」とは、組織体としては別個であるが、いずれも文鮮明を創始者あるいは思想的創主として勝共理論、原理講論を理論的基礎とし、その創立の経緯、資金面、人脈面等においていずれも密接・不可分の関係があり、また、統一協会は、青少年の家出、悪徳商法等の社会問題を引き起こしているとの報道等が継続反復して行われた時期があり、少なくともその時期には、少なからぬ国民がそのように信じている社会的な状況にあったこと、さらに、文鮮明の提唱する宗教理念に基づき、政治・言論・文化等各方面で、世界、特に韓国、日本、アメリカにおける影響力の拡大を企図していると認められる。

しかしながら、原告や統一協会が従来から日本及びアメリカの保守言論界、CIAに人脈を張りめぐらしているとの点、それらを利用して様々な政治的謀略事件を引き起こしてきたとの点、及びそのような評価が世間で一般的にされているとの点は、いずれもこれを認めるに足りる証拠はなく(原告とアメリカ保守言論界の人脈関係については後に述べる。)、原告や統一協会についてそのような評価が一部にされている事実がありうるとしても、レフチェンコ事件について原告がこれに関係したとの点は、本件各記事において初めて指摘された事実であり、原告の従来までの評価の延長線上にあるものとは認められないから、新たに原告の評価を低下させるものではないとの被告らの主張は失当である。

また、被告らは、本件各記事は、原告の政治的影響力、組織力、政治活動の多様性・計画性を積極的に評価するものであるとも主張するが、そのような評価が真実に立脚しないものであり、かつ、被評価者の基本的な意思等に反するものであれば、被評価者を積極的に評価したことにはならないことはいうまでもなく、被告らの右主張は失当である。

6  以上のとおり、原告は、本件各記事によって、政治団体としての名誉を毀損されたものと認められる。なお、原告の受けた損害の額等については、被告らの抗弁に対する判断を踏まえて、後に判断する。

五請求原因五(被告らの責任)について

<証拠>及び弁論の全趣旨によれば、被告社会党は、レフチェンコ事件によって、KGBとの関わりがクローズアップされ、参議院議員通常選挙等を控えて政治的に不利な立場に立たされたため、レフチェンコ事件についての弁明・反論、被告社会党としての事件の見方等について、明確に意見を表明する必要があるとの方針を決定し、社会新報の当時の編集長であった被告温井は、被告社会党の右方針に従って、本件各記事を作成し、掲載したものと認められ、また、いずれも、右内容の記事を作成し掲載することによって原告の政治団体としての評価を低下させることを予見していたと認められるから、被告らは、その主張する抗弁が採用されない限り、原告に対し、各自不法行為責任を負うべきである。

第三抗弁に対する判断

一抗弁一(公正な論評による違法性阻却)について

1  政党間論争の特殊性について

政党・政治団体は、現代社会において、国民の政治意思を形成する有力な媒体として、かつ、議会制民主主義の円滑な運営を支える存在として不可欠のものである。すなわち、国民は、政党・政治団体のそれぞれの独自の綱領や目的、活動方針をめぐる政党間論争を通じて、自ら国政等に関する意見を形成し、意見の過誤を是正し、政党・政治団体の政策・活動を批判又は支持し、それに従って意見を表明し、活動することによって、国民や地方の政治に参加する権利と社会的責務を有するものといことができる。したがって、政党間論争は、それが言論表現の自由を最大限に保障されるなかで自由活発に行われることこそ民主主義の要請するところであり、その内容は、自らの主張・政策等の正しさを国民に訴えて、国民世論の支持を獲得するため、対立政党・政治団体の理念や体質・政策等に対する批判を不可避のものとし、政党・政治団体は、そのような他党からの批判に対しても、原則としてその有する手段によっての反論・再批判によって対処し、信頼を回復すべきものであるということができる。

2  政党機関紙による時事問題についての報道の特殊性について

(一) 政党機関紙は、政党の主張を掲載し、その主張を社会に公表して世論を喚起するための、政党にとって最も基本的表現媒体の一つであり、その読者は機関紙の中の報道記事が一定の立場から書かれていることを前提に閲読するのであって、政治的中立性・公平性を標榜する一般の商業紙と性格を異にする点があり、<証拠>並びに弁論の全趣旨によれば、社会新報の場合も、政治・経済・社会・国際問題について勤労国民の立場に立った分析・解説を試み、被告社会党支持者への社会党活動の理解を求めることがその主たる発行目的であり、また、その配付方法も、社会党支持者を中心に、原則として手渡しの方法によっていると認めることができる。

(二) しかしながら、先に認定したように、社会新報は野党第一党の地位にある被告社会党の機関紙として、発行部数約四九万五〇〇〇部と広く頒布されており、それが本件のごとき名誉毀損の表現行為の手段として使われた場合の右表現行為の国民、世間一般に及ぼす影響は甚大なものがあり、たとえ右表現行為の受け手の大半が被告社会党支持者であり、その配付方法が基本的には手渡しであったとしても、それが法律上、不特定多数の者に対する表現行為に該当することはいうまでもなく、前述した政党機関紙の特殊性の点は、原告の被った損害の金額の算定及び名誉回復手段の選択に当たって考慮することは格別、名誉毀損による不法行為の成否についての結論に直接影響を及ぼすものではない。

3  名誉毀損の成立要件について

(一) 言論・出版等の表現行為により名誉が侵害された場合には、人格権としての個人の名誉の保護(憲法一三条)と表現の自由の保障(同二一条)とが衝突し、その調整を要することとなるのであり、この点については、被害者が個人である場合と法人ないし本件のように政治団体である場合とによって、特に差を設けるべきではないと考えられるところ、民主制国家にあっては、表現の自由、とりわけ公共的事項に関する表現の自由は、特に重要な憲法上の権利として保障されなければならないものであることに鑑み、当該表現行為が公共の利害に関する事実にかかり、その目的が専ら公益を図るものである場合には、当該事実が真実であることの証明があれば、右行為による不法行為は成立せず、また、真実であることの証明がなくとも、行為者がそれを真実であると信じたことについての相当の理由があるときは、右行為には故意又は過失がなく、不法行為は成立しないものというべきである(最高裁昭和五六年(オ)第六〇九号同六一年六月一一日大法廷判決・民集四〇巻四号八七二頁)。

(二)  被告らは、この点につき、「公正な論評」の法理を適用し、名誉毀損による不法行為の成立を認定するためには、論評記事の虚偽性、論評目的の悪意性、論評対象の非公益性の三要件の該当性を原告において主張立証することが必要であると主張する。しかし、右「公正な論評」の法理は、公共性を有する事項に関する争いのない事実に対する意見、批評等の論評による表現行為を保護するための不法行為法上の免責法理であり、右法理の考え方によっても、事実に対する論評の域を超えて、表現行為中に摘示された事実そのものによって名誉が毀損され、かつ、その真実性の有無が争いになっているような場合は、その適用の対象外と考えられている。本件について、この点をみると、本件各記事は、レフチェンコ事件が原告らの企画実行による政治謀略事件であったとの事実を摘示しており、まさに事実の真実性が争いになっているのであるから、右法理を適用する前提を欠き、被告らの主張は、いずれにしても、採用することはできない。

4  表現行為の対象及び目的について

<証拠>によれば、本件各記事は、レフチェンコ事件という国際的に高度な政治問題について、被告社会党としての事実認識及び見解がその内容となっているのであって、本件各記事の対象は、公共性を有する事項であると認めることができる。そして、先に認定したように、被告らが本件各記事を作成・掲載した目的は、レフチェンコ証言によってKGBとの関わりを指摘された被告社会党が参議院議員通常選挙等を前に失地回復を図るとともに、レフチェンコ事件についての被告社会党としての事件の事実認識及び見解を世間一般に示すことにあったと認められ、レフチェンコ事件の有する高度の政治性及び国政における被告社会党の立場・影響力に鑑みれば、右目的は、専ら公益を図ることにあったと評価することができる。

二抗弁二(真実性の証明)について

1  真実性の証明を要する程度について

真実性の証明は、表現の自由の重要性に鑑み、摘示された事実の瑣末な点についてまでも要求されるのではなく、摘示された事実の主要な点において真実であると認められれば足りるものであるが、本件につき真実性の証明に要求される程度を個人のプライバシーや犯罪報道における基準と比べて別異に解する理由はなく、被告ら主張のように「記事の基礎となる事実が真実であることを裏付ける一応の事実」があっただけでは、真実性の証明があったとはいうことができない。

2  レフチェンコ事件の前後における事実経過及び政治情勢について

抗弁二2の(1)ないし(18)の事実のうち、原告を中心に人物特定キャンペーンが始まったとの(12)の事実を除くその余の事実は、当事者間に争いがなく、右の(12)の事実については、後に認定するように、原告は、レフチェンコによって指摘されたエージェントの氏名特定に向けての当時のマスコミの動きの中にあって、特に積極的に取材・報道の活動をしていたと認められる。

3  レフチェンコ騒動の政治的狙いについて

(一) 抗弁二3(二)(三)の事実のうち、争いのない事実及び証拠によって認定できる事実をまとめると、以下のとおりである。

(1) レフチェンコ証言が公表された昭和五七年末から昭和五八年にかけては、ロッキード事件の求刑公判を機に、田中元首相のみならず自民党に対する政治倫理問題について、野党や世論の追及は厳しさを加えており、統一地方自治体選挙及び参議院議員通常選挙を控え、また、衆議院の解散・総選挙も予想された時期であり、政府自民党にとって不利な状況であった(右事実は当事者間に争いがない。)。

(2) <証拠>並びに弁論の全趣旨にそれば、レフチェンコ騒動の直接的原因となったレフチェンコ証言の公表は、形式的にはアメリカ下院情報特別委員会が単独で行ったものであり、CIAと共同で行ったと認められないが、右公表に当たって、アメリカ下院情報特別委員会とCIAが事前に協議を経ていたことは当事者間に争いがなく、<証拠>及び弁論の全趣旨によれば、その内容についてもCIAが事前にチェックしていたと認められる。

(3) レフチェンコ証言の内容がエージェントの氏名を特定しておらず、具体性に欠けるものであったこと、その内容を補完し、特定人物の氏名を一部割り出す等によって騒動拡大に関与したのはリーダーズダイジェスト社(ワシントン総局主任編集委員のジョン・バロン(「今日のKGB―内側からの証言」著者)、同誌日本語版編集長塩谷鉱)であった事実は当事者間に争いがない。

(4) 毎日新聞は、昭和五七年一二月二日古森特派員によるレフチェンコ証言に関するスクープ記事を掲載し、さらに、昭和五八年四月一三日同じく古森特派員によるリーダーズダイジェスト日本語版同年五月号のゲラに基づくエージェントの実名に関するスクープ記事を掲載した(右事実は当事者間に争いがない。)。

(5) 自民党田中派の石井議員は、昭和五八年一月レフチェンコ事件に関して訪米し、同年二月三日衆議院予算委員会でレフチェンコ証言について質問した(右事実は当事者間に争いがない。)。

(6) 後藤田官房長官は、昭和五八年四月一八日参議院決算委員会で「レフチェンコ証言は全体として信憑性と具体性がある。」と発言した(右事実は当事者間に争いがない。)。

(7) 加瀬英明及び宮崎正弘が、昭和五八年三月一〇日、「ソ連KGBの対日謀略―レフチェンコ証言の全貌」と題するレフチェンコ証言の日本語訳の単行本を発行し、レフチェンコ騒動の拡大を企図し(右事実は当事者間に争いがないか又は弁論の全趣旨によって認められる。)、<証拠>及び弁論の全趣旨によれば、加瀬英明、原告及び統一協会系の世界平和教授アカデミー本部理事、日本安全保障研究センター理事長であり、宮崎正弘は、同センター事務局長であると認められる。

(8) 原告は、その機関紙「思想新聞」において、昭和五八年二月一一日、前記石井議員の国会質問を一面で大きく報道し、その後もレフチェンコ事件を材料として、その政策目標であるスパイ防止法制定促進キャンペーンを行っている(右事実は当事者間に争いがない。)。

(9) 「世界日報」が、他紙に先がけて、昭和五八年四月九日、レフチェンコ発言によるエージェント人物の特定記事を掲載してレフチェンコ騒動を拡大し、その後もエージェントの実名捜しやスパイ防止法制定促進キャンペーンを展開したことは、当事者間に争いがなく、「世界日報」、統一協会及び原告の三者が互いに密接な関係にあることは、先に認定したとおりである。

(二) 以上の事実によれば、①レフチェンコ騒動が我が国で勃発・拡大した時期は、政治倫理問題等で政府自民党にとって不利な状況であったこと、②エージェントとして指摘された人物の多くが被告社会党の関係者であったため、その対抗勢力である政府自民党及び原告ら右翼諸勢力がレフチェンコ事件によって反射的に利益を受けたこと、③レフチェンコ騒動の拡大に積極的に関与したのは、原告ら右翼諸勢力であったことが認められ、特に、原告は、その主要な政策目標であるスパイ防止法制定促進運動の恰好の材料としてレフチェンコの証言及び発言を利用したということができる。

4  原告とCIAの関係について

<証拠>並びに弁論の全趣旨によれば、原告、統一協会及びCIAが反共産主義という共通した思想基盤を有していること、原告及び統一協会がKCIAと密接な関係を保ちながら、韓国及びアメリカでの影響力拡大を企図して政治活動、経済活動、布教活動など幅広い活動を行っていることが認められる。しかし、その結果として、原告及び統一協会が、世界反共連名(WACL)、アメリカ社会統一協会(CAUSA)、ヘリテッジ財団等の諸組織を通じて、シンクローブ、レイクラウン、ウィリアムコルビー、コードメイヤー、ナサニエルセイヤー、リチャードアレン等、元CIA長官、副長官等を含むアメリアの保守政治言論界の人脈に深く浸透していたとの事実については、前掲証拠中には、これらの点を指摘する雑誌、論文、報告書等も存在するものの、具体性及び明確性を欠き、その根拠資料が明らかでないものが多く、直ちに信用することはできず、他にこれを認めるに足る的確な証拠はなく、判決の基礎としての事実関係として確定することはできない。

5  毎日新聞社と原告の関係について

レフチェンコ騒動が、毎日新聞社の元ワシントン特派員である古森特派員のスクープ記事(昭和五七年一二月二日付け)を契機に生起したものであること、その後も同特派員のスクープ記事(昭和五八年四月一三日付け)がレフチェンコ騒動の拡大に拍車をかけたことは、いずれも当事者間に争いがなく、<証拠>並びに弁論の全趣旨によれば、三好修及び那須聖は、いずれも毎日新聞社の元ワシントン特派員であり、日本安全保障研究センター、世界平和教授アカデミー等を通じて原告及び統一協会と関わりがあり、その活動の理解者であると認めることができるが、右事実から直ちに原告と毎日新聞社の関係が密接であると認定することが相当ではない。

6  毎日新聞社とリーダーズダイジェスト社の関係について

毎日新聞社とリーダーズダイジェスト日本社がともに東京竹橋のパレスサイドビルに入っていた事実は当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、右ビルを所有する株式会社パレスサイドビルディングの役員には毎日新聞社とリーダーズダイジェスト日本社の役員が名を連ねて共同経営しており、リーダーズダイジェスト日本社が日本から撤退する際には、毎日新聞社がリーダーズダイジェスト日本社の有していたパレサイドビルディングの株式を譲受けた事実が認められる。

7  原告とレフチェンコの関係について

レフチェンコがアメリカに亡命する前に「世界日報」の記者である宮崎武文と接触してその取材に応じた事実が、世界日報本社のすぐ近くの渋谷区宇田川町のマンションに引っ越した事実は、いずれも当事者間に争いがなく、<証拠>及び弁論の全趣旨によれば、宮城の右取材は、レフチェンコからの求めに応じ、かつ、レフチェンコの自宅マンションでされたこと、宮城は、レフチェンコの亡命二日前にもレフチェンコの姿を見かけていること、宮城は、統一協会の信者であることが認められるが、以上の事実をもってしては、レフチェンコの亡命以前から、原告とレフチェンコとの間に、原告がレフチェンコ事件の発生に関係したことを推測させるほどの密接な接触があった推認することは不十分である。

8  CIA、レフチェンコ、リーダーズダイジェスト社の相互関係について

<証拠>並びに弁論の全趣旨によれば、CIAは、レフチェンコの亡命に関与し、亡命後証言までのレフチェンコの三年間の生活を管理したこと、その身上調査及びレフチェンコ証言の内容となるレフチェンコの供述についての信憑性を調査したこと、レフチェンコ証言公表に際しては議事録の内容をチェックし、また、レフチェンコ証言前日のアメリカ下院情報特別委員会秘密聴聞会及びレフチェンコ証言公表に際しての記者会見にジョンマクマホンCIA副長官が出席したことが認められる。そして、<証拠>並びに弁論の全趣旨によれば、リーダーズダイジェストは、戦後の連合軍総指令部(GHQ)の占領下での対日世論工作の役割を担っていたこと、その後も「反ソ」を基調とした論説を重ねていることが認められ、さらに、<証拠>並びに弁論の全趣旨によれば、リーダーズダイジェスト社のワシントン総局主任編集委員のジョン・バロンは、亡命一か月後にはレフチェンコと会い、その後レフチェンコから三年間にわたり取材し、レフチェンコ事件の情報源となった「今日のKGB―内側からの証言」を著した事実が認められる。

9  本件各記事の真実性について

(一) 以上認定してきた事実によれば、原告及び原告と密接な関係にある統一協会は、CIA及びレフチェンコとの関係がレフチェンコ証言及びその公表を企画実行することができるような密接な関係にあるとは認定せざるを得ないのであるから、レフチェンコ証言の内容が個々具体的な事実に関しては真実であることについて客観的な資料が乏しいことに思い至っていたものと推認されるのにかかわらず、自己の思想的立場や政治的運動等に有利であることのみから、それぞれ「思想新聞」及び「世界日報」において、逸速くレフチェンコ証言の公表を大きく取り上げるとともに、被告社会党に焦点を当てたエージェントの実名捜しのキャンペーンを展開して、被告社会党攻撃の先陣を切り、レフチェンコ騒動を不当に拡大させようとしたということができる。そして、<証拠>及び弁論の全趣旨によれば、当時の一般のマスコミは、レフチェンコ証言や発言をそのまま鵜呑みにするというよりは、その中身や背後にある政治的な意図について懐疑的な論調をとるなど慎重な態度であったと認められるが、そのような状況の中で、右のような原告及び統一協会の動きは、参議院議員通常選挙を前にした政府自民党に事実上大きく利するものであったこと、及び自らスパイ防止法制定運動促進という政治的目的をもってされたものということができる。そして、リーダーズダイジェスト、毎日新聞社、加瀬、宮崎らが、レフチェンコ事件の日本国内における騒動の拡大化について、意図的又は結果的に、様々な形でそれぞれ関与・貢献していたと推認することができ、原告及び統一協会を含めたこれらの組織・人物の間に何らかの結びつきもあるという一応の推察は可能であったということができる。

(二)  しかしながら、本件各記事の内容を、一般読者の普通の注意と読み方を基準にして総合的に検討すると、「原告が仕掛人となった政治謀略事件」には、レフチェンコの虚偽の証言をさせたこと自体及びアメリカ下院情報特別委員会にその公表をさせたこと自体も含まれ、むしろ、原告がCIAその他の諸組織と共謀してこれを企画し実行したという政治謀略性こそが本件各記事の主眼すなわち重要部分であると認められるのであって(高木証人も「政治謀略事件」にはレフチェンコ証言及びその公表も含まれると認めている。)、この点が最も重要な真実性の証明対象であるというべきである。そうすると、右に述べたとおり、原告が政治的意図をもってレフチェンコ証言公表後の不当な騒動拡大に積極的に関与した事実については、真実性の証明がされたと認められるが、それを超えて、レフチェンコ証言及びその公表が、原告とCIAその他の諸組織が共謀して企画実行したとの事実については、先に認定したように、原告とCIAその他の組織との間に何らかの結びつきがあるとの推測が成り立ち、いずれもレフチェンコ証言後の騒動化に積極的に関与した事実は認められるものの、レフチェンコ証言及びその公表に関する謀略の日時・場所、謀略にかかわった当事者、その具体的内容等は全く明らかにされておらず、かえって、<証拠>及び弁論の全趣旨によれば、レフチェンコ証言は、ソ連の世界における諜報活動の実体を明らかにすることを目的としたアメリカ下院情報特別委員会の審議の対象の一部にすぎないこと、また、従前にもアメリカに亡命したチェコスロバキアの諜報機関員の証言をアメリカ下院情報特別委員会が公表した例もあることが認められ、このような事実に照らすと、原告とCIAその他の組織との結びつき及びそれらによるレフチェンコ事件の騒動化への関与といった事実のみから、レフチェンコ証言及びその公表がCIA及び原告らの謀略に基づいて引き起こされたとの事実を推認することはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

(三) したがって、本件各記事の内、本件(一)記事のうち、「レフチェンコ問題は、平和運動や日ソ親善運動に取組む真面目な人々や社会党を“ソ連の手先”呼ばわりしておとしいれるために米CIAと日本の右翼団体が仕組んだ政治謀略事件に違いない。」との部分(なお、右「右翼団体」との言葉が主として原告を指称することは前判示のとおりである。)、本件(二)記事のうち、「レフチェンコ事件の本質は、米国CIAと日本の反共右翼諸組織が緊密な連けいのもとに仕組んだ一大政治謀略事件だ。その攻撃の主な狙いは、平和・軍縮運動に取り組む社会党や真面目な日ソ親善の活動家を“ソ連のスパイ”呼ばわりすることで落としこめ、より一層の軍備増強、スパイ防止法等の民主主義破壊をはかることである」との部分、「リーダイ、毎日、CIA、勝共連合をつなぐ奇妙な結びつきは、レフチェンコ騒動がこれら諸勢力の緊密な連携のもとに仕組まれたものであることを十分に推測させる」との部分、本件(四)記事のうち、「日本における『レフチェンコ事件』の仕掛人『統一協会=勝共連合』の暗躍は、こうした国際謀略と軌を一にしたものである。」との部分については、真実性の証明がされたとはいえず、結局本件各記事は、その主要な部分又は重要な部分について真実性の証明がされたとはいえない。

三抗弁三(真実と信じる相当な理由)について

(一)  <証拠>並びに弁論の全趣旨によれば、本件各記事を作成・編集した高木浩司を含む社会新報のスタッフは、昭和五八年四月一三日付けの毎日新聞社でエージェントとして名指しされた上田議員の九名のうち、勝間田、伊藤、佐藤、杉森、山川、上田の六氏と直接会って事実確認し、いずれも強くレフチェンコとのつながりを否定する回答を得、特にレフチェンコ事件についての分析・反論の活動を熱心に行っていた評論家山川暁夫に何回も会って、同人が後に中央公論で発表した「レフチェンコ証言に反撃する」との論文(<証拠>)と同様の内容の話を取材し、さらに、評論家梶谷善久及び同藤井治夫(この二名は、レフチェンコ事件につき、社会党と狙う謀略あるいはCIAが背後で操ったものであるかの認識をもっていたと認められる。)、東京大学稲葉三千男教授、創価大学新井直行之教授等、国際関係やマスコミに詳しい専門家にレフチェンコ事件の見方を聞き、レフチェンコ事件についての新聞記事、雑誌、評論を多数集め参考にする等の取材活動をし、本件各記事の内容が真実であると信じていた事実が認められる。

(二)  しかしながら、高木らが右のような取材活動の結果、レフチェンコ事件について把握した事実は、結局被告らが抗弁二で主張し、当裁判所が前記(第三の二)で認定した各事実であるところ、先述したように、右各事実のみでは、本件各記事の主眼部分といえるレフチェンコ証言自体及びその公表の政治謀略の事実は何ら明らかになっていないのであって、右各事実のみからレフチェンコ証言及びその公表の政治謀略性を導き出すのは根拠薄弱であり、被告社会党の立場から見た一つの仮説にすぎないものというべきである。なお、<証拠>によれば、梶谷、藤井、山川の三評論家は、レフチェンコ事件の背景にある政治的意図やレフチェンコ事件へのCIAの関与に着目した評論を出している事実が認められるが、いずれもレフチェンコ証言公表以後の騒動拡大現象をその評論対象としており、また、梶谷、藤井の両氏の評論には原告の関与についての記載はないし、山川の論評については、本件各記事が社会新報に掲載された当時は未だ公刊されていなかったのであり、右論評基調の本件各記事との共通性及び論評中のウォール・ストリート・ジャーナル記事の引用の仕方等からして、高木らが逆に山川に影響を与えた可能性も否定できない。

(三) 以上のとおりであるから、高木において、本件各記事のうち、前記(第三の二(三))で述べた部分については、真実と信じるについて相当な理由があったと認められることはできない。

第四原告の損害額及び名誉回復措置について

本件各記事の掲載によって原告の受けた損害の額及びその名誉回復措置について検討するに、本件各記事の見出し、本文、その表現の方法(断定、推測等の仕方など)、被告社会党の政党機関紙社会新報においてされたこと、社会新報の発行部数・読者の範囲などを考慮し、他方、原告がレフチェンコの証言及び発言の個々具体的な事実については真実性を担保すべき客観的な資料がないのに、あえて被告社会党に対する攻撃材料としてレフチェンコの証言及び発言を使用して、騒動を煽り、その政治的目的等に利用したこと、被告社会党のその当時おかれていた政治的・社会的な状況、その他本件に顕れた一切の事情を総合すると、原告の右精神的損害を慰藉するための金額としては一〇〇万円が相当であり、毀損された原告の名誉を回復するためには、被告社会党において、社会新報に別紙謝罪広告(一)記載のとおり謝罪広告を、主文のとおりの掲載方法で一回掲載するのが相当である。なお、弁論の全趣旨よれば、社会新報の現編集長は、被告温井ではなく、桝村実であると認められ、右謝罪広告の名義人としては、現編集長である桝村を掲げるのが相当である。

第五結論

以上のとおり、原告の本訴請求は、被告社会党に対し、別紙謝罪広告(一)記載のとおりの謝罪広告を主文第一項記載のとおりの方法で一回掲載すること、並びに被告らに対し連帯して慰藉料一〇〇万円及びこれに対する不法行為の後の日である昭和五九年一月一三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるから、これを容認し、その余は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担については民訴法八九条、九二条本文、九三条一項本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官塚原朋一 裁判官小出邦夫 裁判官瀧澤泉は差支えにつき署名押印することができない。裁判長裁判官塚原朋一)

別紙謝罪広告(一)

謝罪広告

日本社会党は、党機関紙「社会新報」(昭和五八年五月二七日付け及び同年七月一日付け)の記事において、スタニスラフ・A・レフチェンコがアメリカ議会下院情報特別委員会の秘密聴聞会で証言し、アメリカ議会がこれを公表したのは、国際勝共連合が米国CIA等と仕組んだ国際的政治謀略に基づくものであるとの虚偽の真実を掲載し、よって、国際勝共連合の名誉を毀損したので、ここに謝罪の意を表明します。

日本社会党中央執行委員長 土井たか子

日本社会党機関紙社会新報編集長桝村実

国際勝共連合殿

別紙謝罪広告(二)

謝罪広告

日本社会党は、党機関紙社会新報(昭和五八年五月二七日付け及び同年七月一日付け)に米紙ウォール・ストリート・ジャーナルを引用する際、記事を捏造するなどして、レフチェンコ問題は、国際勝共連合が米国CIA等と仕組んだ国際的政治謀略に基づくものであるとの虚偽の真実を掲載し、よって、貴連合の名誉を傷つけたので謝罪します。

平成 年 月 日

日本社会党中央執行委員長 土井たか子

日本社会党機関紙社会新報編集長桝村実

国際勝共連合殿

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