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東京地方裁判所 昭和57年(行ウ)208号 判決 1989年11月27日

原告

網掛ヤヱ子

被告

参議院

右代表者議長

土屋義彦

被告

右代表者法務大臣

後藤正夫

被告ら訴訟代理人弁護士

星智孝

被告ら指定代理人

大沼洋一

石川和雄

豊島信夫

大谷昭

主文

一  原告の被告参議院に対する訴えをいずれも却下する。

二  原告の被告国に対する請求を棄却する。

三  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告参議院の原告に対する昭和五一年度以降昭和五九年度までの累年の任用行為が無効であること確認し、被告参議院は、原告に対し、右の無効に伴う原状回復をせよ。

2  被告参議院は、原告に対し、金三〇〇万円及びこれに対する昭和六〇年四月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  被告国は原告に対し九九四万六一三二円及びこれに対する昭和六〇年四月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は被告らの負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

(被告参議院)

1 被告参議院に対する訴えを却下する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

(被告国)

1 被告国に対する請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

3 仮執行免脱宣言

第二当事者の主張

一  請求原因

別紙請求の原因のとおり。

二  被告参議院の本案前の主張

1  原告の請求の趣旨1に係る訴えは、次のいずれの理由によっても不適法である。

(一) 請求の趣旨1は、「任用行為の無効」と「原状回復」を求めるものである。しかし、その前者は、原告を国会職員の給与等に関する規程(昭和二二年一〇月一六日両院議長決定、昭和六〇年一二月二〇日改正前のもの。以下同じ。以下、単に「規程」という。)一条一項三号行政職給料表(一)四等級(以下単に「四等級」という。)から同表三等級(以下単に三等級という。)に昇格させなかったという不作為を違法とするものであるから、「任用行為」に該当する処分が存在せず、後者は、いかなる状態からいかなる状態への「原状回復」をいうのかが不明であって、請求の趣旨としての特定に欠ける。

(二) 参議院職員の任命権者は参議院事務総長であるから、参議院職員たる原告に対し、任用行為を行いうるのは、被告参議院ではなく、任命権者である参議院事務総長であるから、請求の趣旨1に係る訴えは被告を誤ったものである。

(三) 原告は、昭和六〇年三月三一日付けで参議院を定年退職しており、任用行為の無効確認や原状回復を求めるべき法律上の利益を欠いている。

2  原告の請求の趣旨2に係る訴えは、金員の支払いを求める訴えであるが、かかる訴えの被告は権利主体でなければならないところ、被告参議院は国の機関にすぎず、権利主体ではないから、右訴えの被告となりえず、右訴えは被告適格を欠くものになされた不適法なものである。

三  請求原因に対する被告らの認否

1(一)  請求原因一1、3は認める。

(二)  同2は、そのうち、原告が昭和五七年半ばに病欠になるまでは分限、懲戒等の処分を受けた事実がないこと、長期病欠の結果、昭和五八年六月一日より職場に復帰したことは認め、その余は不知。

(三)  同4は、そのうち原告が昭和四六年七月、四等級一一号給を給せられてから昭和五七年末までの四等級在級は実に一一年六月の長期に及ぶとの事実を認め、その余は争う。

2(一)  請求原因二1はそのうち、参議院の給与体系は権力分立の建前上独自の法制による管理体制をとり、国家公務員法二条三項の一四号の職として特別職の職員の給与に関する法律第一一条に基づく国会職員法第二五条により、その実体規定は規程にゆだねられているとの部分は争わないが、その余は争う。

(二)  同2は、そのうち、国会職員の昇格、昇給等が昭和三二年一一月一一日付け両院議長協議決定等に基づき運用されていることは認め、その余は争う。

3(一)  請求原因三1は、そのうち、原告の職務歴は認め、その余は争う。

(二)  同2の(一)の(1)ないし(3)、(5)、(二)及び(三)は争う。同2の(一)の(4)は、そのうち、原告が昭和四六年に四等級になっていることは認め、その余は争う。

4  請求原因四及び五は争う。

5  国会職員法二五条三項を受けた、「国会職員の初任給、昇格、昇級の基準に関する件」(昭和三二年一一月一一日両院議長協議決定、昭和六〇年一二月二一日改正前のもの。以下同じ。以下単に「協議決定」という。)の別表第一は、三等級及び四等級の標準的な職務内容を定めている。そして、四等級から三等級に昇格させる場合の資格要件については、右協議決定の一条で準用される人事院規則九―八(昭和六〇年一二月二一日人事院規則九―八―三による改正前のもの。以下同じ。)において、同規則別表第二の必要資格年数の経過により昇格の資格を取得できる旨定められている。

ところで、参議院事務局のいかなる四等級の職員を三等級に昇格させるかは、任命権者である参議院事務総長の広範な事由裁量に委ねられており、必要在級年数等の必要な資格を取得したからといって、直ちに昇格が実施されるものでもなければ、昇格する権利が保障されるものでもない。

したがって、原告をたまたま三等級に昇格させなかったとしても、原則的には違法となる余地はない。

第三証拠(略)

理由

第一被告参議院に対する請求について

一1  昭和五一年度以降昭和五九年度までの累年の任用行為の無効確認及び右の無効に伴う原状回復を求める請求にかかる訴えの訴旨は、必ずしも明確ではないが、要するに、参議院事務局の職員であった原告は、その経歴、日常業務によって実証された原告の勤務成績にか(ママ)らすると、遅くとも昭和五一年には、三等級に昇格しているのが当然であるのに不当な差別によって違法に昇格させられなかったから、昭和五一年に遡って、三等級に昇格させ、以後毎年これを前提として、昇給させるとともに併せてその間の給与の差額の支払いを求めるというものと解される。

2  しかるところ、参議院事務局職員の昇格、昇給を含む任用行為を行いうるのは、参議院ではなく、参議院事務総長であることは、国会法二七条、国会職員法三条等の規定に照らし明らかである。したがって、自らを三等級に昇格させ、かつそれを前提として毎年昇給させることを求める訴えが仮に許されるとしても、その被告は、参議院事務総長である。

また、昭和五一年に三等級に昇格し、その後毎年昇給したことを前提として給与の差額の支払いを求める訴えは、行政事件訴訟法上の当事者訴訟であると解されるところ、行政事件訴訟法上の当事者訴訟の当事者能力を有するのは、民事訴訟の当事者能力を有する者と同一であり、被告参議院は、後二で述べるとおり、民事訴訟の当事者能力を有しない。

3  したがって、原告の右請求にかかる訴えは、自らを三等級に昇格させ、かつそれを前提として毎年昇給させることを求める訴えが適法であるか否かをはじめとするその余の点について触れるまでもなく、不適法として却下を免れない。

二  被告参議院に対し三〇〇万円及びこれに対する昭和六〇年四月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払いを求める訴えは、原告を三等級に昇格させなかったことが不法行為に当たるとして、その損害賠償として三〇〇万円の慰籍料及びこれに対する訴え変更申立書送達の翌日からの遅延損害金の支払いを求めるものと解される。そうすると、右訴えは、通常の民事訴訟であるから、その当事者能力を有するのは、権利主体であるか、民事訴訟法四六条の規定するいわゆる権利能力なき社団のみであるが、参議院は、国の機関であって、権利主体でないのはもちろん、権利能力なき社団でもないから民事訴訟の当事者能力を有しない。したがって、原告の被告参議院に対し三〇〇万円の支払いを求める訴えも当事者能力のないものを被告とする不適法なものである。

第二被告国に対する請求について

一  原告の被告国に対する請求は、原告は、遅くとも昭和五一年には、三等級に昇格しているのが当然であるのに、理由のない差別によって違法に昇格させられなかったことを不法行為として、その損害賠償として、昭和五一年に三等級に昇格していた場合に受けうべきであった給与と現実に支給を受けた給与との差額相当額、慰籍料及びこれに対する訴え変更申立書送達の翌日からの遅延損害金の支払いを求めるものと解される。

二  ところで、国会職員の給与の種類、額、支払条件等については、国会職員法二五条三項に基づき規程により定められているところ、国会職員の職務は規程一条一項二ないし五号までの給料表に定める職務の等級に分類するものとされ、その分類の基準となるべき標準的な職務の内容は、両議院の議長が協議して定めるものとされている(規程一条三項)。そして、協議決定によると、三等級の標準的職務は「各議院事務局、各議院法制局・・・・の困難な業務を処理する課長補佐の職務」、「各議院事務局の常任委員会調査室における調査業務・・・・のうち特に高度の専門的知識又は経験を必要とする職務」等と定められている(協議決定別表第一)。

一方、国会職員の職務の等級は、両議院の議長が協議して定める基準に従い決定される(規程一条五項)が、協議決定の一条によると、「国会職員の・・・昇格・・・の基準については・・・・政府職員の例に準ずるもの」とされている。そして、政府職員の職務の等級、昇格等の基準については、人事院規則九―八が定めているが、これによると、職員の職務の等級を決定する基準は、原則として、同規則の別表第二に定める等級別資格基準表に定める必要在級年数又は必要経験年数のいずれかとされている(同規則五条、六条)。すなわち、ある職員が、三等級と決定されるためには、等級別資格基準表の試験欄の区分及び学歴免許等欄の区分に対応して定められている、必要在級年数(例えば、試験区分・上級甲、学歴免許等区分・大学卒の職員の場合は四年)又は必要経験年数(例えば、右の職員の場合は一三年)のいずれかの要件を満たしていることが必要とされている。

しかし、右の必要在級年数又は必要経験年数のいずれかの要件を満たしていることは、ある職員を昇格をさせる場合に、最低必要とされる資格要件ではあるが、当該職員が右要件を満たしているからといって、当然に昇格する権利ないしは地位を取得することはないというべきである。

いかなる職員を三等級に昇格させるかは、任命権者が、右資格を有する職員の中から、右の標準的職務内容に照らし、その職員の担当する職務内容が三等級に相応しいものであるか否か、その従前の勤務成績等から判断される当該職員の能力等を総合的に検討して決定するのであって、その決定は、任命権者の自由裁量に委ねられていると解すべきである。

そして、原告の任命権者が、右の裁量に当たって考慮してはならないことを考慮するなどして、右裁量の範囲を逸脱して原告を三等級に昇格させなかったことを認めるに足りる証拠はない(なお、原告本人尋問の結果中には、参議院の事務局職員中で、三等級に昇格しなかった者はいない旨の部分があるが採用し(ママ)できない。)。

したがって、その余について判断するまでもなく、原告の被告国に対する請求は失当である。

第三結論

以上の次第で、原告の被告参議院に対する訴えをいずれも却下し、被告国に対する請求を棄却することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条に従い主文のとおり判決する。

(裁判官 水上敏)

(別紙) 請求の原因

一 始

1 原告は福島県雇等を経て、昭和二三年一〇月に被告参議院事務局に採用されて以来昭和五八年一二月で在職三五年二月になる。

2 原告は昭和五七年半病欠になるまでは分限、懲戒、その他口頭注意等一切これらの処分を受けた事実はない。

ただ、等級滞留一年加わるたびに四囲の軽視の度が増して、第四課に配置換になって四半期過頃から全く理由不明な侮蔑と迫害行為が重なるばかりなので、それらの心理的抑圧が重なり、高血圧症となり、長期病欠の結果、昭和五八年六月一日から職場に復帰した。

3 原告は国会職員の給与等に関する規程第一条一項三号行政職給料表(一)(以下行(一)表という。)の適用によって昭和五十四年一月行(一)表四等級二〇号をもって老令延伸措置を受けて後、同五五年七月四等級二一号給を、五七年一〇月に四の二二号給を受けている。

4 昭和四六年七月、四等級一一号給を給せられてから昭和五七年末までの四等級在級は実に一一年六月の長期に及ぶ、欠格者以外は全く余人に例を見ない不利益差別扱いである。

本来原告の職務経歴をもってすれば行(一)表三等級一八号給を支給されても過給ではない。

二 参議院の給与基準

1 給与規定

参議院の給与体系は権力分立の建前上独自の法制による管理体制をとり、国家公務員法二条三項の一四号の職として特別職の職員の給与に関する法律第一一条に基づく国会職員法第二五条により、その実体規定は国会職員の給与等に関する規程にゆだねられている。

本件は同規程第一条一項三号の行(一)表(別表第三)に定める基準の運用にかかる不法差別に関する問題である。

2 運用基準

両院議長が協議して定めた標準的な職務内容の分類を基準とした国会職員の行(一)職の給料表は自主的に制定される。この表の構成形式は人事院の公務員に関する事務掌理の基準統一の趣旨に従って当然に政府の行政職俸給表(一)と同一内容に定められているが、その運用については、人事院規則九ー八にいう資格基準表の基準区分によらずに別表(一)の基準によって運用されている(この参議院の運用は同じ国会職員法規による衆議院の運用とも異なるものがある。)。この表の昇格格付の要件である資格基準の区分において既に根本的に単に男・女という身分による資格差別が明示され、図表化されて実施されているのである。

この実体は法が禁じている男女差別管理の形態といえる。

しかのみならず、この差別された実態比較基準を更に裁量運用して或者には更に差別による不利益を二重に加えることになるのである。原告はこの最たる被害者である。

それから両者(人事院規則九ー八にいう資格基準表、別表(一)の基準)ともに給与関係規定上「学歴年功制」を採っていることが明らかであることを指摘しておく。

別表(一)表上に見られるこの差別は、客観的、合理的且、合目的理由や裏付の下になされる、本来あるべき許された裁量権行使の行為とは考えられない。自由裁量であっても、常に人権尊重の理念の上に、法の下に平等(憲一四条)の原則を前提にふまえての合理的な差別ならば許されるべきである。当表の構成運用には何ら客観的理由や合理的選考手段も窺えず単に男と女という観念的性別のみで制度的体系の権利基準を根本的に差別してかかっていることは、憲法が要求する個人の尊重(憲一三条)をはじめ人権に関する各法条並びに民法一条の二、国公法二七条、および労基法三条・四条の強行規定その他諸規定に違反する不法行為として無効とさるべきものである。

三 不利益差別扱いの疎明

1 原告の職務および編集係の構成とその比較

昭和二三年一〇月参議院事務局に就職後、参議院法制局に出向を経て、昭和三八年四月一日参議院事務局記録部速記第一課勤務となり、昭和五六年六月末日まで、一八年三ケ月の間、委員会会議録の編集事務(参議院事務局事務分掌規定二四条九号)に従事していたが五六年七月一日付で同部第四課に調査係として配置換えになり今日に至る。

編集係構成員各人の職務範囲は明確であり、その各員の担当するそれぞれの職務内容については、懲罰委員会のように開催回数に差があるものはあっても、質、複雑困難度、責任等職務要素の度合については大差はない。即ち一人一係の実態にあって、各人個々の持分処理が原則であり、一の職務についての係員相互間の関連はない。流れ作業的関連や影響はなく、全く各人別持分の責任処理である。

しかし、女性係員は左掲表示の編集処務の外に更にその事務室内の掃除や各員の机上の清掃、吸殻の始末、お茶汲み等当番制で雑用労働が加重されていた。

2 原告に対する差別の態様

(一) 参議院の昇格実態比較の表(別表(一))を基準とした運用面から見た差別

当昇格実態比較表については前にその違法性を述べたが、独自機関のたてまえ上、今仮にその違法性を等閑視して左にその基準で模擬運用して見る(但し概略。詳細は人事秘匿にて不明)。

(1) そうすると、原告は、最下位資格旧中卒(中途学卒資格取得を無として)の評価であっても昭和五二、三年には欠格事由がなければ当然に三等級昇格措置を受け得べき要件を充たしている。当運用基準は前にも指摘したように平等法規に違反して男女差をつけたものであるが、それを不問に付して男女差別の基準のままでも昭和五二、三年には三等級に昇格されるべきことになるのである。

(2) これを両性平等の原則をもって男性初級の基準で運用すれば昭和四七年頃には三等級昇進となるべきものである。

(3) 因に、参議院がいう「政府職員の例に準じ……」を準用見当すると、中卒資格は経験二五年で三等級になるのが標準であって、政府方が一年余遅いことにはなるが、この政府基準には男と女の格差をつけた差別管理の明示はないから、客観的合理性がないかぎり、原則として要件を具備すれば、男女同一基準で運用されることになるから昭和四八年頃には三等級昇格が期待されるべきものである。

しかるに参議院の当該基準は、前提となる基準の根元に、既に確たる合理的理由もなく「女」であることの評点差別が織込んである。この差別基準を運用、更に運用の機微という職権の妙を発揮し、人事官の恣意専断による格差を重ねることになれば、その峡間に挾まれた女性は二重の差別格差の不利益を負うことになる。これは平等法の精神及び目的に違反する。

たとえこれら格差が組合との協定によって成されたものであっても、格差があるという事実は違法である。それが院と組合との労使合意に基づくものであっても法が禁じている男女間の賃金格差をつくる協定は、そのこと自体が強行法規違反として、公序良俗に反する不法行為である。

故に、この参議院給与基準(昇格実態比較による運用)は、管理運営事項として、瑕疵があるといわなければならない。即瑕疵ある給与基準による運営は如上のとおり諸規定法条に違反し、公序良俗に反するものとして無効である。

(4) 原告は、昭和四六年に四等級になっている。別表(一)の「昇格実態比較表」の女性資格欄の中級、初級の基準によれば、四等級在級六年をもって三等級に昇格することになっているから、原告は女性中級の基準では昭和四九年に、また初級の旧中卒資格で押しても昭和五二年頃には三等級の職位に昇進されるべきが至当である。しかし在級に一一年余、在職三四年余になっても等級滞留してしたまま昇進延伸処遇にあふ。

この間、原告は参議院に対して、継続して支障なく職務給に対する労働力を命令どおり誠実に提供し、昇格要件である在職、在級の基準も十分に充たし、欠格事由もないから、合理的公正な承認滞留の理由は見出せない。

右証左に明らかであるように職階基準に即応して、比較対象者と同一労働を給した原告に対する対価としては、男性初級基準以下をもって律することは、公平適正な処遇ではない。

この原告に対する参議院の差別処遇は、不当な昇格実態比較の基準にさえも全く該当しない。そのどのケースにも当嵌まらないもので、最低の中卒基準からも大きく食み出した捨扶持扱いの残酷なものである。欠格事由のない昇格要件適格者に対するものとしては、院内、世上にも曽てその類例を見得ない、不当な不利益差別扱いであって、ことここに至っては、これは単なる「扱」ではなく正に「(処分行為なき)処分」というべき実態にある。この不作為事態は院の裁量権を不当な恣意専断によって行使した「故意」ある不法行為といわねばならない。勤務評定は毎年一定時期になされるのであるから善意の過失が拾余年も積年累加することは有り得ないからである。

(5) 原告と対比することの出来る学歴資格の者は、参議院事務局職員では黒田純子(「a」女)一人のみである。

この「a」女に関しても、試験任用の実証に基づくものではなく、昭和三二年にごく一般的な補職選考採用の後、昭和三六年に七等級に、昭和四一年に六等級に、昭和四五年に五等級に、昭和五〇年に四等級に、昭和五五年に三等級に、それぞれ昇格しているが、その間の昭和四〇年に法政大学通信教育法学部を卒業している。「a」女は参議院の運用基準としては院開設以来の女子職員中では破格の優待を受けている。参議院の男性職員については、女性の中級基準に対応する基準の区別はなく男性初級の中に選考採用の大卒から中卒資格までも包括して、多岐にわたる運用をしているものと見られるが、「a」女はこの男性初級基準の大卒資格相当に格付けされている。これはまた政府職員基準にも相応しているものである。院治下公務員統一の基準としての規定の面からもみても厚遇である。

一方原告は、これに対岐して劣らない資格要件を備え、また担当職務、職能その他各般につき損色なく遂行しているとは自他共に推認されることであるから、評定者の差別裁量によって、法が規定する所定の昇進がなされず、一〇年余もの常軌を逸した昇進滞留措置を受ける理由は全くないのである。この不公正な人事のため原告は、経済的損害や心理的苦痛ばかりでなく、この両者の明、暗対立した立場が、あまりにも瞭然としているからか、人は、「a」女に対しては、元文相の縁者の配偶にあったからと、羨望と情実任用の噂はしながらも諦観し、権力におもね怖じるばかりである。が原告に向かっては特に記録部職員中には、原告が人事権力から疎まれ隔離された者と見て、事の是非を糺し、当否を判断することもなく、またその者等自身己を律し、理非を分別することもなく、悪童の「いじめ」もさこそと思う謂われなき誹謗と軽視、無体な村八分を企図して原告の人格権を侵害した。

右「a」女と原告の格差の理由を客観的合理的には見出せず、理解できないのである。

(二) 女子二部大卒に対する任用差別

現在、公務員行(一)職の給与体系は、学歴別年功序列制をとり、被告参議院も同体制にあることは既に述べた。

次の問答は、女子二部大卒者の任用に関する被告参議院事務局と同院労働組合婦人部職員との問答である。

三 二部大卒者に対しては、男子職員と同じ取扱をすること。

答 二部大卒者については、上級職採用をやっていないので、試験制度がないということになっている。今後の問題として検討しなければと思う。

右問答によると参議院は女子職員の二部大卒資格は認めないことになる。目下のところ在籍女子職員中該当者は原告一人であるので、多数優勢の思はくか、或は原告一人に対する恣意差別の意思による策略言詞であるのか不明であるが、公権力の名において公務を執行する任命権者としては、詭弁としても誠に不用意な、失当不謹慎きわまる発言といわねばならない。

これにおいて、原告の存在は全く無視抹消されて、昇進期待は封鎖されてしまった。

これは差別の予断であり、その管理意思は公正を欠く行為である。現法制下で差別をするならば、何らかの合理的手段を通じてなすべきであり、その労を惜む怠慢ならば在来の学歴年功制を踏襲すべきが筋である。

現公務員行(一)職および国会職員関係の人事規定中二部大卒者の上級昇進を抑制し差別する規定はなく、平等原則上許さるべきではない。反って中途資格取得者に対してもそれを調整換算されることになっているのである。

参議院の人事機関が基本的人権についての考察を誤っているとは考えたくないが、我国憲法は、近代民主諸国の憲法同様に基本的人権を保障する主要原則として個人の尊厳を認め人格権を与えている。(憲一二、一三、九七)

参議院が独自体制であるとしても、その権限は国の一機関であることの右に出るものではないから、憲法の原理にしたがい、上部法規に拘束されることになるもので、その裁量行為は憲法一三、一四、三九、および二七条を受けた国公法二七条、労基法三、四条の労働条件の保障規定その他の原則法規、条理等の制約をうける。その面から見て参議院の組織運営上、また職務体制上、女子二部大卒のみ上級任用を否定する客観的正当性、合理的な特殊事情もありえない。

のみならず、原告は現に如上例証のとおり参議院の職制にしたがい、他の職員と同じくその職務を遂行し、しかも今次の病休に至までの間は欠格事由もない。しかるに、男子は二部大卒でも基準に則って上級昇任をし、また女子でも通信教育課程の大学教課履修者および私立女専卒は上級に昇進しているのである。

右問答の答弁には明らかに「現在の二部大卒昇任規制は将来は廃止す(べきであ)る」という内意が含まれている。

つまり、法制上、条理上からは、当然には女子二部大卒者の昇進を制限する正当な理由はなく、また実際的にも制限の必要はないのだから、近き将来の任用については考慮している。ただ、現存する唯一人の該当者(原告)については任命機関が故なく主観的に嫌悪している実情にあるために昇任制限をよそうものであるから、……この原告一人のためにする、この抑制策に対する所内抵抗は皆無であると計って、かかる詭弁をもって原告の進路を制限し、不利益差別の措置をとる意図を示したことに外ならない。

何故ならば、それは、「将来は考えなければならない」といっている文言のそこには、女子二部大卒者も「資格要件具備者」であることを認め了知していることになる。今も社会一般の観念的な評価では二部大卒より通教卒の評価は低いのが通例である。

これは明らかに謂われなき「差別」であり、原告一人に対して意図した差別意思と判断せざるを得ない。たとえそれが二部大卒任用についての一般的な抑制方針による制度としてのものであるとしても、ここには差別さるべき客観的合理性、合目的性はなく、その差別自体が法の下の平等に違反するものである。

参議院の右女子二部大卒に対する管理(任用)規制は憲法一四条、国家公務員法二七条の平等原則、その他上部法規に反し、労働基準法三、四条の強行規定に違反するものである。この人事運営は公序良俗に反するものとして無効とさるべきである(民九〇条)。

従って、参議院が原告に対してなされた「(ママ)二部大卒なるが故の昇進規制およびこれに伴って評価された、累年の昇任、昇格延伸という不利益差定部分の任用行為は無効である。

(三) 二部大卒差別の類型として。

(1) 二女性の資格要件から見た格差とその較差の比較

「a」女および原告の概略については前に表示したほか度々引合いに出している。

参議院女子職員中、大学資格の二次的課程とでもいうか、この種の教課を履修したものは、当院開設以来今日までのところ、この二人のみと推定する。

この両人の採用については、随時補職の体制で、面接選考であった。以後の昇任についても客観的に公正な選考手段も公平な競争事実による実証もなく、専ら裁量選考によって一方の「a」女上級職に昇進し、原告は四等級滞留一一年に及んでいる。

この二者間の格差について、原則として、任用条件の較差からは合理的理由は成り立たない。主観的情実的差別評定であると断定せざるを得ない。

この通信課程の在宅履修に比べて、大学夜間部は旧学制当時から正規の制度として歴史も古く、学校教育制度制定(昭二二頃)後に時流によって改正付加された通信教育課程し(ママ)優るとも劣らぬ格調と実質的内容をもつものであり、原則として受講効果も劣るものではないと信ずる。

殊に同院事務局職員として、同一職制の給与表の適用をうけていながら「a」は在職二三年で上級職三等級(下位在級五年)に、原告は在職三四年余で四等級停留のまま終身となる。この乖離は、男女差を別にして、同性間の格差としても同一奉職の平等上から見て余りにも大きく、差の生ずべき合理的理由がない限り許された裁量権の範囲を超えた違法な行為である。参議院は、任命権にもとづく裁量行為ではあっても、常に条理に適った確たる合理的根拠をもって、その差別理由を説明する責任と義務がある。

(2) 男子夜間部卒業の者との比較

参議院職員(男子)中には、二部大卒の者も多く在籍している。

夜学の専門部卒の者も法定基準に、また同位同職のルールに則して昇進されている。しかし原告一人はこの二部大卒任用比較の面から見ても累積差別をうけていることが明らかである。

この不当措置は、政府職員等一般行政職の任用及び運用基準との対比は措いて、特別職としての主体性による自主的運用基準(別表(一))の操作としても男女なり学歴なりの一面から見てさえ、その公正、合理的性の筋を通した公平な扱いは見られず、唯単に一人原告に対してのみ各方面において、理不尽きわまる多角的扱をしているものであって、公平、妥当性を欠き、公正なるべき給与管理の面で公務員たる本質の考慮を失した裁量である。

まして、原告は、この参議院の内部裁量である昇格実態表の最下位基準(女性初級二九年=人規では二五年)の枠から、しかも客観的に正当な欠格事由がないのに大きく食み出した不利益措置を受けているのであるからその差別理由については、参議院に信義則上解説すべき責務がある。

ことに前掲の問答に対する回答は、人事権をもつ職責にある者の見識をもってするには、その「不合理」を認めた苦衷を表しているが、職員を愚弄するものである。

(3) 中卒資格と推定される者の具体的昇任実態例

別表(一)の昇格実態比較表の男性初級の運用は人事院が行う上級公務員試験および参議院主体の大卒者採用試験合格者以外の選考採用の大卒以下各層の裁量基準としてなされるものと見られるので、その男性初級該当者の中から、人事院規則九―八の中卒資格基準に相当する運用と判断される者を抽出して原告を比較すると、この面でも、原告は各員に比肩できない不当きわまる処遇差別を受けていることが明白である。

最下位基準の運用によって昇進した参議院在籍職員の昇格実態について知りえた範囲の経路を見てみると、最下位資格の者でもその資格要件を充せば各位の資格等級の待遇を受けている。原告は除外されている。性差別の基準でなく政府統一の給与表を準用したならば、そして合理的評価をうけたならば中卒女性でもこの昇任経緯の中に含まれていることになる。

この中卒資格と推定される者の具体的昇任実態と前述の「a」女及び原告を比べて見ると、ここでも大卒評価を受ける「a」の処遇は一人卓越している。

唯々、この「a」、原告両人並びに他の職員達との公正な差別評価の基点を知りたい。

原告は二部大卒であり、欠格事由もなく、経由した職務の評価その他の条件もこれ等職員に決して劣らないと自負している。しかし、原告の昇進速度は、「a」、中卒資格と推定される他の職員と対比比較すると隔絶の格差がある。

参議院はもとより、政府職員も行(一)職の任用は学歴を基礎とした年功で決まり、それを選考で修正して運営しているのであるから学歴は第一段階の評価基準になることになる。aと原告両者の較差は前述のとおりである。しかしaは他の各人に優越昇進し、原告はaに遅れるばかりでなく、他の下位資格基準の者よりも一〇年余の昇進滞留扱いを受けているのである。これは他に類を見ない余りにも酷な差別である。

四 差別事情による派生事実(主として部内職員の人権侵害)

原告は職員間の交流においては、自己を堅持して人の先に立つようなことはせず、常に控え、日常の諸事についても決して人に負うことのないように心掛処理して来た。部内特に速記四課分室の者達から配置換以後病休にいたるまでの連日に渡る差別、軽視、揶揄、あらゆる侮辱と障害に心因性症状による病欠となるほどの屈辱を受ける原因をなすものは微塵もない。たとえ昇任経路から外されたとしても、職務関係上もまた個人的人権の上からも彼等からとやかくされる謂われはないし、彼等はその立場にない。

原告は、常に己に恥ぢない生涯を願い、ひたすら自己に努めて、己の欲しないところは人にも施ず、不即不離所内各人間に負目や確執は持たない。唯人間としての好悪感は否めないものとしても、それはまた別の問題であり、それをもって、兎角の理不尽は、その者の認識不足であり、識見の欠恕である。

本件の事の事実は客観的に公正なる立場に立って適性に判断裁定し指導あるべき問題であり人気判断ではない。合理的に公正な識別をもって解説すべきがその責務である。

原告に対する被告参議院の異常な昇格延伸職級滞留措置の累積に伴って後順位者が逐次追越昇進して順位不均衡の度が累加するにつれ加速的に局内職員達の原告軽視の心裡が憶測虚構に雷同して諸事に微細に白眼視して、次第に挙措も微妙に明確に、侮も露骨に、常人にあるまじき悪童の「いじめ」さながら児戯にひとしい侮蔑で村八分を謀り疎外し、果ては傲然と公務事象の阻害や、原告個人の生活妨害に、外来客までをも侮蔑し、来訪者の営業をも妨害するほどにその度を増した。毎年昇格期前後は疎外感が深まり、人の心が去っていくのである。

原告は、不侵、不可侵を信条として、ひたすら寡黙をもって耐えたが、これらの事態は原告にとって周辺社会に対する狭隘感となり、その心痛から、ただ原告と面識があることだけで侮辱され軽んじられることを恐れて知友、縁者との交誼は断ってしまっている。

五 不利益扱いの解消について

国会職員に関する法制と対比して、原告には、資格要件も満たして、義務違背その他の非違的要素もない昇進滞留措置という不利益差別を受ける客観的合理的理由は全くない。まして比較対象者と隔絶した差別は正に言語に絶する思いである。

被告参議院の人事行為は、平等の原則、公正の原則に違反し、勤務評定の実施義務に違反して、長年におよび原告に対し勤務評定不実施をもって、原告に不作為による不利益をもたらした。

これは公正保持の目的に反する、国家公務員法二七条および四〇条違反に対する罰則規定である同法一〇九条八号、一一〇条一項九号に抵触する行為である。

また、本差別は、労働基準法第三条、第四条の均等待遇、同一賃金の規定にも違するものである。

これらの被告参議院の行為は強行法規に違反し、公序良俗に反する行為として無効である。

よって、原告の給料は、法規定にのっとって昇進すべき対往年まで逆及し、原状に復して順次昇任発令することを求めるものである。

また、被告参議院には、原告が違法に昇任させられなかったことにより被った精神的損害を慰藉するため三〇〇万円の支払いをも求める。

尚、参議院に違法性阻却事由は存在しない。

国には、国家賠償法一条の規定に基づき、参議院の不法行為によって生じた損害を賠償すべき、二次的責任を負うことを求めるものである。

請求金額の算出は別紙のとおり本俸を基礎とした得べかりし給与の差額に慰謝料を加えたものである。

別紙請求差額算出一覧表(略)

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