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東京地方裁判所 昭和55年(特わ)2495号 判決 1981年5月28日

本店所在地

東京都渋谷区桜丘町一六番一五-三〇一号

大日建設株式会社

右代表者代表取締役

田中義一

本籍

東京都目黒区上目黒四丁目二二九七番地

住居

東京都杉並区堀ノ内一丁目八番三-一〇〇七号

会社役員

田中和

昭和六年四月一日生

本籍

長野県南安曇郡安曇村八一二番地

住居

神奈川県川崎市多摩区下麻生八六一番地二

日本住宅公団麻生台団地二二棟七〇三

無職(元帝都高速度交通営団職員)

上條謙祐

昭和八年一〇月二五日生

本籍

東京都文京区本郷五丁目五三番地

住居

東京都板橋区徳丸一丁目五番八号

無職(元帝都高速度交通営団職員)

齋藤伸三

昭和九年一月二日生

本籍

神奈川県横浜市西区浅間町四丁目三三五番地の三

住居

右同所同番地

無職(元帝都高速度交通営団職員)

平澤喜悦

昭和三年三月二九日生

本籍

東京都杉並区堀ノ内一丁目一五七八番地

住居

東京都杉並区堀ノ内一丁目一五番二三号

会社役員

大岡伸吉

昭和一〇年一一月八日生

右被告人大日建設株式会社に対する法人税法違反、被告人田中和に対する法人税法違反及び贈賄、被告人上條謙祐、同齋藤伸三及び同平澤喜悦に対する各収賄並びに被告人大岡伸吉に対する贈賄各被告事件について、当裁判所は、検察官寺西輝泰及び同岩槁義明(被告人大日建設株式会社を除く被告人五名につき)、ならびに検察官樋渡利秋(被告人大日建設株式会社につき)各出席のうえ審理をし、次のとおり判決する。

主文

1  被告人大日建設株式会社を罰金一五〇〇万円に処する。

2  被告人田中和を懲役二年六月に処する。

この裁判確定の日から五年間右刑の執行を猶予する。

3  被告人上條謙祐を懲役二年に処する。

この裁判確定の日から四年間右刑の執行を猶予する。

同被告人から金一四五万円を追徴する。

4  被告人齋藤伸三を懲役一年に処する。

この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

東京地方検察庁で保管中のアイアンゴルフクラブ八本(昭和五五年東地領第九二〇号符二三六二号)を同被告人から没収する。

同被告人から金四五万円を追徴する。

5  被告人平澤喜悦を懲役二年に処する。

この裁判確定の日から四年間右刑の執行を猶予する。

同被告人から金一八五万円を追徴する。

6  被告人大岡伸吉を懲役一〇月に処する。

この裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予する。

理由

(被告人らの経歴、担当職務など)

被告人大日建設株式会社は、被告人田中和の父田中義一が代表者として昭和二六年一〇月二四日設立した田中建設工業株式会社を商号変更したもので(以下いずれも「被告会社」という。)、東京都渋谷区桜丘町一六番一五-三〇一号(昭和五三年九月二四日以前は東京都渋谷区桜丘町三番一四号)に本店を置き、土木工事・建設工事業等を営む資本金三二〇〇万円の株式会社であり、その事業内容は、帝都高速度交通営団(以下「営団」という。)から受注する地下鉄の営繕工事がほとんどを占めていたものである。

被告人田中和は、昭和二八年日本大学工学部建築科を卒業後、被告会社に入社し、昭和三〇年取締役、同四五年には専務取締役となり、同五〇年初めころに父義一が会社経営から手を引いたため、専務取締役のまま被告会社の実質的経営者となり、昭和五三年一〇月二四日から同五五年一一月一四日までは被告会社の代表取締役社長の地位にあって、同会社の業務全般を統括していたものであり、同月一五日に代表取締役を辞任している。

被告人上條謙祐は、昭和三一年山梨大学工学部土木工学科を卒業後営団に就職し、昭和四三年工務部改良工事課設計係長、同五〇年工務部調査役などを経て、同五二年二月二五日工務部土木課長となり、営団が発注する開業線土木構築物の改良工事に係る事業計画、設計、指名請負業者の選定、工事の施行等に関し、所属部長の命を受けてこれを遂行するなどの職務を担当していたもので、本件により昭和五五年一一月二八日をもって営団を懲戒解職されている。

被告人齋藤伸三は、昭和三一年日本大学工学部建築科を卒業後営団に就職し、同四二年工務部建築課設計係長、同四八年工務部調査役などを経て、同四九年一二月一日工務部建築課長となり、営団が発注する建物の新設工事及び改良工事に係る事業計画、設計、指名請負業者の選定、工事の施行等に関し、所属部長の命を受けてこれを遂行するなどの職務を担当していたもので、本件により昭和五五年一一月二八日をもって営団を懲戒解職されている。

被告人平澤喜悦は、昭和三五年一〇月国鉄を退職して営団に入り、施設部建築課をはじめとして現場勤務を経た後、同四九年工務部建築課主任を経て、同五二年四月一日同課計画管理係主任となり、営団が発注する建物の新設工事及び改良工事に係る事業計画の企画・立案等に関する職務を担当していたもので、本件により昭和五五年一一月二八日をもって営団を懲戒解職されている。

被告人大岡伸吉は、昭和四一年知人と共同して薬液注入等の土木工事を営業目的とする株式会社を設立して専務取締役となり、その後同社の商号変更及び対等合併を経て、昭和四七年九月から土木建築工事業、防水工事業等を営む東亜グラウト工業株式会社の代表取締役社長に就任し、現在に至っているものである。

(罪となるべき事実)

第一  被告人田中和は、昭和五三年一〇月二四日から同五五年一一月一四日までの間被告会社の代表取締役社長(昭和五三年一〇月二三日以前は専務取締役)として、同会社の業務全般を統括していたものであるが、同会社専務取締役(同日以前は平取締役)田中安義と共謀のうえ、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、架空材料費及び架空外注費などを計上して簿外預金を蓄積するなどの方法により所得を秘匿したうえ、昭和五二年七月一日から同五三年六月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億三七一三万三三五六円(別紙(1)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、昭和五三年八月三一日、東京都渋谷区宇田川町一番三号所在の所轄渋谷税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二八一五万九四七二円でこれに対する法人税額が八八三万八三〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和五六年押第一一号の2)を提出し、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額五二三九万円(別紙(2)ほ脱税額計算書参照)と右申告税額との差額四三五五万一七〇〇円を免れ、

第二被告人上條謙祐は、

一  被告人田中から、被告会社が被告人上條の担当する営団発注の土木構築物の改良工事等について、入札指名参加、受注等に関し、好意ある取り計らいを受けたことなどの謝礼ならびに将来も同様の好意ある取り計らいを受けたい趣旨のもとに供与されるものであることの情を知りながら、

1 昭和五四年六月二〇日ころ、東京都台東区東上野四丁目一〇番四号佐々木ビル二階の喫茶店ばらにおいて、現金一五万円

2 昭和五五年二月上旬、東京都港区北青山三丁目六番一二号営団千代田線表参道駅ホームにおいて、現金一五万円

3 同年四月二七日ころ、神奈川県川崎市多摩区下麻生八六一番地二日本住宅公団麻生台団地二二棟七〇三被告人上條の自宅において、現金二〇万円

の各供与を受け、

二  被告人大岡から、東亜グラウト工業株式会社が被告人上條の担当する営団発注の土木構築物の漏水補修工事等について、入札指名参加、受注等に関し、好意ある取り計らいを受けたことなどの謝礼ならびに将来も同様の好意ある取り計らいを受けたい趣旨のもとに供与されるものであることの情を知りながら、

1 昭和五二年一二月三一日ころ、東京都新宿区西新宿一丁目九番一八号永和ビル地下二階の喫茶店トップコーヒー西口支店において、現金一〇万円

2 昭和五三年一二月下旬、前記喫茶店トップコーヒー西口支店において、現金一〇万円

3 昭和五四年一二月下旬、東京都新宿区西新宿一丁目八番一号新宿ビルディング内の大衆酒場末広において、現金一〇万円

4 昭和五五年四月三〇日ころ、東京都台東区浅草一丁目三二番一一号喫茶店ボンソアールにおいて、現金三〇万円

5 同年七月三〇日ころ、東京都新宿区歌舞伎町二丁目四六番七号スナック加藤路上において、現金五万円

の各供与を受け、

三  土木、建築の設計、測量業等を営む株式会社シビルエンジニアーズ代表取締役社長後藤寛次から、右会社が被告人上條の担当する営団発注の土木構築物の調査設計工事等について、特命による受注等に関し、好意ある取り計らいを受けたことなどの謝礼ならびに将来も同様の好意ある取り計らいを受けたことなどの謝礼ならびに将来も同様の好意ある取り計らいを受けたい趣旨のもとに供与されるものであることの情を知りながら

1 昭和五三年一二月二八日ころ、東京都台東区上野七丁目一二番九号ファミリー割烹明ちゃんにおいて、金額一五万円の小切手一通

2 昭和五五年二月二〇日ころ、東京都台東区東上野四丁目二番一号喫茶店グランプリにおいて、現金一五万円

の各供与を受け、

もって、それぞれ自己の職務に関して賄賂を収受し、

第三被告人齋藤伸三は、

一  被告人田中より、被告会社が被告人齋藤の担当する営団発注の建物の新設工事及び改良工事等について、入札指名参加、受注等に関し、好意ある取り計らいを受けたことなどの謝礼ならびに将来も同様の好意ある取り計らいを受けたい趣旨のもとに供与されるものであることの情を知りながら、

1 昭和五三年四月二日ころ、千葉県市原市古敷谷九七五番地かずさカントリークラブ更衣室において、現金一〇万円

2 昭和五四年五月三〇日ころ、東京都渋谷区道玄坂二丁目三番一号大外ビル前路上において、現金一五万円

3 昭和五五年二月一日ころ、東京都渋谷区道玄坂一丁目三番一五号飯島ビル前路上において、現金一〇万円

4 同年七月一五日ころ、東京都港区赤坂から同都板橋区徳丸一丁目五番八号被告人齋藤の自宅に向け走行中のタクシー車内において、現金一〇万円

の各供与を受け、

二  石工事業を営む野村大理石株式会社代表取締役社長野村義弘から、右会社が被告人齋藤の担当する営団発注の建物の修繕工事について、入札指名参加、受注等に関し、好意ある取り計らいを受けたことなどの謝礼ならびに将来も同様の好意ある取り計らいを受けたい趣旨のもとに供与されるものであることの情を知りながら、昭和五四年四月一五日ころ、前記自宅玄関前路上において、アイアンゴルフクラブ八本(時価約四万円相当、昭和五五年東地領第九二〇号符二三六二号)の供与を受け、

もって、それぞれ自己の職務に関して賄賂を収受し、

第四  被告人平澤喜悦は、被告人田中から、被告会社が営団発注の建物の新設工事及び改良工事に係る事業計画の内容、施行時期、入札予定価格等を内通するなど種々便宜な取り計らいを受けたことなどの謝礼ならびに将来も同様の行意ある取り計らいを受けたい趣旨のもとに供与されるものであることの情を知りながら、別紙(3)犯罪事実一覧表記載のとおり、昭和五三年一月中旬から同五五年八月中旬までの間、前後三二回にわたり、いずれも東京都台東区東上野三丁目一七番九号喫茶店ビブロスにおいて、現金合計一八五万円の各供与を受け、

もって、それぞれ自己の職務に関して賄賂を収受し、

第五被告人田中和は、

一  被告人上條に対し、前記第二の一記載と同趣旨のもとに、

1 前記第二の一の1記載の日時、場所において、現金一五万円

2 前記第二の一の2記載の日時、場所において、現金一五万円

3 前記第二の一の3記載の日時、場所において、現金二〇万円

を各供与し、もって、被告人上 の前記職務に関してそれぞれ賄賂を供与し、

二  被告人齋藤に対し、前記第三の一記載と同趣旨のもとに、

1 前記第三の一の1記載の日時、場所において、現金一〇万円

2 前記第三の一の2記載の日時、場所において、現金一五万円

3 前記第三の一の3記載の日時、場所において、現金一〇万円

4 前記第三の一の4記載の日時、場所において、現金一〇万円

を各供与し、もって、被告人齋藤の前記職務に関してそれぞれ賄賂を供与し、

三  被告人平澤に対し、前記第四記載と同趣旨のもとに、同記載の日時、場所において、現金合計一八五万円を各供与し、もって、被告人平澤の前記職務に関してそれぞれ賄賂を供与し、

第六  被告人大岡伸吉は、被告人上條に対し、前記第二の二記載の趣旨のもとに、

1  前記第二の二の1記載の日時、場所において、現金一〇万円

2  前記第二の二の2記載の日時、場所において、現金一〇万円

3  前記第二の二の3記載の日時、場所において、現金一〇万円

4  前記第二の二の4記載の日時、場所において、現金三〇万円

5  前記第二の二の5記載の日時、場所において、現金五万円

を各供与し、もって、被告人上條の前記職務に関してそれぞえ賄賂を供与し

たものである。

(証拠の標目)

被告人らの経歴、担当職務などにつき

被告会社につき

1  被告人田中の検察官に対する供述調書(昭和五五年八月五日付、以下全て昭和五五年にあたる部分を省略し、単に検察官調書八・五付などと略記する。)

2  東京法務局渋谷出張所登記官作成の被告会社に関する登記簿謄本二通

被告人田中につき

3  前掲番号1、2の各証拠

4  被告人田中の検察官調書(九・一三付)

5  被告人田中の検察官調書(九・二六付)

被告人上條につき

6  被告人上條の当公判廷における供述

7  被告人上條の検察官調書(九・一九付)

8  被告人上條の検察官調書(九・二四付)

9  大村司馬男(九・二一付)、齋賀冨士郎、中野三男、柏倉竹夫(九・二二付)、鈴木一志及び高瀬靖之の各検察官調書

10  鈴木義信の検察官調書(一〇・八付)

11  大貫博康の検察官調書二通

12  帝都高速度交通営団作成の営団報八一三号二、三頁(写)

被告人齋藤につき

13  前掲番号9、10、12の各証拠

14  被告人齋藤の当公判廷における供述

15  被告人齋藤の検察官調書(九・三〇付)

16  被告人齋藤の検察官調書(一〇・一~二付)

17  大谷一夫の検察官調書(九・二一付、九・二二付)

被告人平澤につき

18  前掲番号9、10、12、17の各証拠

19  被告人平澤の当公判廷における供述

20  被告人平澤の検察官調書(九・二九~三〇付、一〇・七付)

被告人大岡につき

21  被告人大岡の検察滑調書(一〇・八付)

22  東京法務局新宿出張所登記官作成の登記簿謄本

判示第一の事実につき

23  前掲番号1、2、4の各証拠

24  被告人田中の当公判廷における供述

25  第一、第二、第四及び第六回各公判調書中の被告人田中の供述部分(被告会社についてのみ)

26  被告人田中の検察官調書(八・六付、九・一六付ただし第二項を除く。)

27  赤坂環(八・四付、九・二二付)及び田中安義(八・四付、九・一六付)の各検察官調書

28  被告人田中外三名(二通)、田中安義、田中孝之、田中安義外二名及び田中義一外二名各作成の申述書各一通

29  収税官吏作成の架空材料費、架空外注費、架空運搬費、簿外交際費、架空雑費、簿外役員賞与、簿外給料手当、簿外福利厚生費、簿外修繕維持費、架空広告宣伝費、租税公課、簿外保険料、簿外消耗品費、簿外雑費、受取利息、受取収益金、雑収入、支払謝礼金、交際費限度超過額、事業税認定損及び架空未成工事支出金に関する各調査書各一通

30  渋谷税務署長作成の証明書

31  押収してある法人税確定申告書(53/6期)一袋(昭和五六年押第一一号の2)

判示第二ないし第六の各事実につき

32  前掲番号9の各証拠

33  証人齋賀冨士郎の当公判廷における供述

34  大村司馬男(九・一九付)及び金丸純一の検察官調書

判示第二の一及び第五の一の各事実につき

35  前掲番号5、6、8、11、24の各証拠

36  被告人上條の検察官調書(九・三〇付)

37  被告人田中の検察官調書(一〇・二~三付)

38  被告人田中の検察官調書(一〇・七付)

39  赤坂環(九・二八付)及び渡辺秀昭(九・二五~二六付、一〇・三付)の検察官調書

判示第二の一の1及び第五の一の1の各事実につき

40  検察事務官作成の捜査報告書(九・一七付)

判示第二の一の2及び第五の一の2の各事実につき

41  中崎長真の検察官調書(一〇・三付)

判示第二の一の3及び第五の一の3の各事実につき

42  鈴木義信の検察官調書(九・二二付)

判示第二の二及び第六の各事実につき

43  前掲番号6、8、11、22の各証拠

44  被告人大岡の当公判廷における供述

45  被告人上條の検察官調書(一〇・八付、一〇・九付検察官請求証拠番号乙10)

46  被告人大岡の検察官調書(一〇・六~七付、一〇・九付)

47  柏倉竹夫(九・三〇付、一〇・三付)、大岡侑三(二通)及び多々良博典(二通)の各検察官調書

判示第二の二の1、2及び第六の1、2の各事実につき

48  検察事務官作成の電話聴取書(九・二六付)

判示第二の二の3及び第六の3の各事実につき

49  検察官事務官作成の捜査報告書(九・二九付)

判示第二の二の4及び第六の4の各事実

50  前掲番号42の証拠

51  検察官作成の電話聴取書

判示第二の二の5及び第六の5の各事実につき

52  検察事務官作成の捜査報告書(一〇・五付)

判示第二の三の各事実につき

53  前掲番号6、8、11の各証拠

54  被告人上條の検察官調書(一〇・三付)

55  後藤寛次(一〇・三付、一〇・四付検察官請求証拠番号甲67)及び柏倉竹夫(九・二八付)の各検察官調書

56  東京法務局登記官作成の株式会社シビルエンジニアーズに関する登記簿謄本

判示第二の三の1の事実につき

57  被告人上條の検察官調書(一〇・九付検察官請求証拠番号乙12)

58  後藤寛次(一〇・四付検察官請求証拠番号甲68)及び藤戸政雄の各検察官調書

判示第二の三の2の事実につき

59  検察事務官作成の電話聴取書(九・二二付)

判示第三の一及び第五の各事実につき

60  前掲番号5、14、16、17、24、38、39の各証拠

61  被告人齋藤の検察官調書(一〇・三~四付、一〇・四~五付)

62  大谷一夫の検察官調書(九・二六付)

判示第三の一の1ないし3及び第五の二の1ないし3の各事実につき

63  被告人田中の検察官調書(一〇・四~五付)

判示第三の一の1及び第五の二の1の各事実につき

64  検察事務官作成の捜査報告書(一〇・七付)

判示第三の一の2ないし4及び第五の二の2ないし4の各事実につき

65  渡辺秀昭の検察官調書(九・二七付、九・三〇付)

判示第三の一の2、3及び第五の二の2、3の各事実につき

66  渡辺秀昭の検察官調書(一〇・二付)

67  検察官作成の捜査報告書

68  検察事務官作成の捜査報告書(九・二六付)

判示第三の一の2及び第五の二の2の各事実につき

69  田中安義(一〇・一付)及び林宏の各検察官調書

70  検察事務官作成の捜査報告書(一〇・六付)

判示第三の一の4及び第五の二の4の各事実につき

71  被告人田中の検察官調書(一〇・六付)

判示第三の各事実につき

72  被告人齋藤の検察官調書(一〇・八付検察官請求証拠番号乙20、一〇・九付)

判示第三の二の事実につき

73  前掲番号14、16、17の各証拠

74  被告人齋藤の検察官調書(一〇・七付、一〇・八付検察官請求証拠番号乙19)

75  野村義弘(三通)、中崎長真(九・二八付)、本間研志(二通)及び川俣明の各検察官調書

76  東京地方検察庁で保管中のアイアンゴルフクラブ八本(昭和五五年東地領第九二〇号符二三六二号)

判示第四及び第五の三の各事実につき

77  前掲番号5、17、19、20、24、38、39、62の各証拠

78  被告人平澤の検察官調書(一〇・五付)

79  被告人田中の検察官調書(九・二九~三〇付、一〇・九付)

判示第四及び第四の三の各別表14ないし32の各事実につき

80  被告人平澤の検察官調書(一〇・一付)

判示第四及び第五の三の各別表12の各事実につき

81  赤坂環の検察官調書(九・二九付)

判示第四の各事実につき

82  被告人平澤の検察官調書(一〇・三付、一〇・九付)

(補足説明)

1  被告人田中及び同齋藤の各弁護人は、判示第三の一の2及び第五の二の2の事実につき、現金一五万円の授受を否定し、その際被告人田中が同齋藤に渡したのはタクシー代としての現金一ないし二万円にすぎなかったから被告人両名は無罪であると主張し、さらに、被告人田中の検察官調書(一〇・四~五付)及び被告人齋藤の検察官調書(一〇・四~五付)の各該当部分の任意性及び特信性などを争っている。しかし、被告人田中の取調検察官である証人土屋東一及び被告人齋藤の取調検察官である証人江川功の両名は、それぞれ、これら被告人が右の現金一五万円の授受を自供するに至った経緯につき証言しているところ、この証言は優に信用できるのであって、これによれば、各自供の経緯については、弁護人が指摘するような不自然な点は認められない。また、右各検察官調書の内容についても、他の証拠と対比して特に不合理な点は認められない。これに対し、右の点に関する両被告人の当公判廷における供述は、あいまいで不自然な点もあり、到底、納得のいくものではない。従って、被告人両名の右各検察官調書は、いずれも任意性はもとより、いわゆる特信性もあって信用できるのであり、これによれば、判示のとおり、両被告人間で授受されたのは現金一五万円であったと認められるから、弁護人の前記主張は採用できない。

2  次に、判示第一の法人税法違反の事実のうち、別紙(1)修正損益計算書勘定科目番号<48>の支払謝礼金五五〇万七〇〇〇円につき、検察官は、当初これを損金に算入する処理をして起訴したものの、公判途中で右支払謝礼金はいわゆる脱税経費であって損金には算入できないとの見解を表明して訴因の変更請求に及び、当裁判所もこれを許可したものであるところ、関係証拠によれば、右支払謝礼金は、被告会社が下請業者に依頼して架空外注費及び架空材料費を計上するに際し、右下請業者において費用を水増しした請求書、領収証の作成、右架空分の小切手・手形の現金化及びその返還などに協力したことに対し、その謝礼として支払われたもので純然たる脱税のための経費であると認められる。このような支出は、収益を得るために必要なものではなく、所得を秘匿するためのものにすぎないから、これを損金に算入すべきではない。そこで、貸方に同額を計上することとした(別紙(1)修正損益計算書勘定科目番号<58>参照)。

(法令の適用)

被告人田中が田中安義と共に犯した判示第一の所為は被告会社の業務に関してなされたものであるから、被告会社については、昭和五六年法律第五四号脱税に係る罰則の整備等を図るための国税関係法律の一部を改正する法律(以下「法律第五四号」という。)による改正前の法人税法一六四条一項、刑法六〇条により判示第一の罪につき法律第五四号による改正前の法人税法一五九条一項の罰金刑に処せられるべきところ、情状により同条二項を適用し、右金額の範囲内で被告会社を罰金一五〇〇万円に処することとする。

被告人田中の判示第一の所為は、行為時においては法律第五四号による改正前の法人税法一五九条一項・刑法六〇条に、裁判時においては改正後の法人税法一五九条一項・刑法六〇条に該当するが、犯罪後の法律により刑の変更があったときにあたるから刑法六条、一〇条により軽い行為時法の刑によることとし、判示第五の一の1ないし3、第五の二の1ないし3及び第五の三の別紙(3)の番号1ないし28の各所為はいずれも昭和五五年法律第三〇号刑法の一部を改正する法律(以下「法律第三〇号」という。)による改正前の刑法一九八条一項、一九七条一項前段に、判示第五の二の4及び第五の三の別紙(3)の番号29ないし32の各所為はいずれも刑法一九八条、一九七条一項前段にそれぞれ該当するので、所定刑中いずれも懲役刑を選択するが、以上は同法四五条前段の併合罪なので、同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第一の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で、同被告人を懲役二年六月に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から五年間右刑の執行を猶予することとする。

被告人上條の判示第二の一の1ないし3、第二の二の1ないし3及び第二の三の1、2の各所為は、いずれも行為時においては法律第三〇号による改正前の刑法一九七条一項前段に、裁判時においては改正後の刑法一九七条一項前段に該当するが、犯罪後の法律により刑の変更があったときにあたるから同法六条、一〇条によりいずれも軽い行為時法の刑によることとし、判示第二の二の4及び5の各所為はいずれも同法一九七条一項前段に該当するところ、以上は同法四五条前段の併合罪なので、同法四七条本文、一〇条により刑及び犯情の最も重い判示第二の二の4の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で、同被告人を懲役二年に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から四年間右刑の執行を猶予し、同被告人が判示第二の一ないし三の各犯行により収受した賄賂は没収することができないので、同法一九七条ノ五後段によりその価額合計金一四五万円を同被告人から追徴することとする。

被告人齋藤の判示第三の一の1ないし3及び第三の二の各所為は、いずれも行為時においては法律第三〇号による改正前の刑法一九七条一項前段に、裁判時においては改正後の刑法一九七条一項前段に該当するが、犯罪後の法律により刑の変更があったときにあたるから同法六条、一〇条によりいずれも軽い行為時法の刑なよることとし、判示第三の一の4の所為は同法一九七条一項前段に該当するところ、以上は同法四五条前段の併合罪なので、同法四七条本文、一〇条により刑の重い判示第三の一の4の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で、同被告人を懲役一年に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予し、主文掲記のアイアンゴルフクラブ八本は同被告人が判示第三の二の犯行により収受した賄賂であるから、同法一九七条ノ五前段によりこれを同被告人から没収し、同被告人が判示第三の一の各犯行により収受した賄賂は没収することができないので、同法一九七条ノ五後段によりその価額合計金四五万円を同被告人から追懲することとする。

被告人平澤の判示第四の別紙(3)の番号1ないし28の各所為は、いずれも行為時においては法律第三〇号による改正前の刑法一九七条一項前段に、裁判時においては改正後の刑法一九七条一項前段に該当するが、犯行後の法律により刑の変更があったときにあたるから同法六条、一〇条によりいずれも軽い行為時法の刑によることとし、判示第四の別紙(3)の番号29ないし32の各所為はいずれも同法一九七条一項前段に該当するところ、以上は同法四五条前段の併合罪なので、同法四七条本文、一〇条により刑及び犯情の最も重い判示第四の別紙(3)の番号29の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で、同被告人を懲役二年に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から四年間右刑の執行を猶予し、同被告人が判示第四の各犯行により収受した賄賂は没収することができないので、同法一九七条ノ五後段によりその価額合計金一八五万円を同被告人から追徴する。

被告人大岡の判示第六の1ないし3の各所為は、いずれも法律第三〇号による改正前の刑法一九八条一項、一九七条一項前段に、判示第六の4及び5の各所為はいずれも刑法一九八条、一九七条一項前段に該当するので、所定刑中いずれも懲役刑を選択するが、以上は同法四五条前段の併合罪なので、同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第六の4の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で、同被告人を懲役一〇月に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予することとする。

(量刑の事情)

本件は、請負工事の大半を営団から受注する営繕工事で占めていた被告会社による脱税事件及びこれが摘発に端を発して発覚した営団職員とその請負業者間の贈賄事件からなる。そもそも、営団は、いわゆる春闘などにおいて大手私鉄と同様に扱われているとはいえ、昭和一六年法律第五一号帝都高速度交通営団法によって設立された公法上の法人であって、出資金の大半を国鉄と東京都に仰ぎ、国からの補助も受けていて、その公共性は極めて高度のものといえる。このような営団にあって、土木建築工事の発注が公正に行なわれることの肝要なことについては、今更多言を要しないところである。しかるに、関係証拠とくに被告人上條、同齋藤及び同田中らの公判供述等によれば、営団工務部発注工事における指名競争入札に際して業者間で、予定価格に関する情報を事前に営団から入手するなどしたうえ、かなり長期かつ広般にわたって談合の行なわれていたことが窮われる。もとより、本件がこうした談合と直接関連していたとの確証はないものの、このような事情を背景として、業者から営団工務部の職員に賄賂が供与され、しかも、その賄賂の大部分が脱税会社から流出したものであることなどの点は、甚だ遺憾であって、量刑判断にあたり見逃すことができないものといえる。

そこで、まず脱税事件についてみるに、被告会社は、昭和五三年六月期において四三〇〇万円余りの法人税を免れたものであるが、ほ税率も八三パーセント強と高く、ほ脱の態様も下請業者に謝礼金を支払うまでして経費を水増しするなど悪質である。また、こうした脱税は金額に差はあれ右年度の前後の年度にもみられるのであって、被告人田中の納税意識の希薄さを容易に看取することができる。しかも、同被告人は、積極的に材料費や外注費などの水増しにも関与しているのであり、被告会社及び被告人田中の刑責は決して軽いとはいえない。他方、被告会社では、本件脱税による本税、重加算税等を完納していること、本件等により営団から請負指名業者の取り消しを受けていることなどの事情も認められる。

次に贈収賄事件では、いずれも収賄者側が飲食やゴルフなどにより小遣に窮したため金員等を要求し、あるいは自分が購入したより紳士録の買い取りを被告人田中に要請したことなどが発端となっており、被告人上條、同齋藤及び同平澤は、営団職員としての自覚に欠け、いとも簡単に金銭などを要求あるいは受領しているのであって、本件はまさに収賄者主導型の事件といえる。しかも、賄賂の対象となったものは、判示のアイアンゴルフクラブ八本を除けば、すべて現金や小切手であるうえ、右被告人三名は、いずれも相手方業者に営団の秘密に属する情報を提供し、あるいは頻繁に請負工事の入札参加業者に指名するなどしており、殊に被告人平澤は、入札予定価株などの重要な情報を被告人田中に漏らすなどしている。また、被告人上條及び同齋藤は、課長として部下に範を示す立場にありながら、むしろたびたびの飲食や接待ゴルフを通じて、業者とのゆ着ぶりを深め、その中で本件に及んだものといえる。さらに、被告人三名が各業者から賄賂を受けた期間、回数及び金額は、被告人上條において昭和五二年一二月三一日ころから同五五年七月三〇日ころまでの間に、三名の業者から前後一〇回にわたり現金合計一三〇万円及び金額一五万円の小切手一通、被告人齋藤において昭和五三年四月二日ころから同五五年七月一五日ころまでの間に、二名の業者から前後五回にわたり現金合計四五万円及び時価約四万円相当のアイアンゴルフクラブ八本、被告人平澤において昭和五三年一月中旬から同五五年八月中旬までの間に、被告人田中から前後三二回にわたり現金合計一八五万円といずれも長期間にわたり、多数回かつ多額に及んでいる。以上の諸事情を考慮すれば、収賄側被告人三名、特に被告人上條及び同平澤の刑責は重いといわなければならない。次に被告人田中は、被告会社の業績の伸展をはかり、積極的に本件収賄者に接近したうえ、賄賂の要求を受けるや直ちにこれに応じ、被告人上條、同齋藤及び同平澤に対し、昭和五三年一月中旬から同五五年八月中旬までの長期間にわたり、前後三九回、現金合計二八〇万円もの多額の賄賂を供与したものであって、その犯情は悪質であり、刑責は重い。被告人大岡は、同上條に対し、昭和五二年一二月三一日ころから同五五年七月三〇日ころまでの間、五回にわたり現金合計六五万円を供与したというのであって、決して少ない額とはいえず、また、最初の供与は被告人上條の要求に応じたものであるとはいえ、それ以後は自発的に金員を用意したうえで同被告人に手渡しており、その刑責は軽視できない。

しかし、営団の営業内容や職務の実態は民間交通機関のそれと何ら変わるところはなく、これが公務員性についての自覚の欠如を招いたといえないではない。また、前示のような請負業者間の談合の実態もさることながら、営団職員と業者との飲食や接待ゴルフなどが被告人らに限ったものではないことなど本件当時における営団工務部内外の綱紀には弛緩したものが認められ、こうした事情も、本件の背景として無視できないところである。また、被告人五名は、いずれも本件により初めての逮捕及び相当期間の身柄拘束を受けたほか、本件が新聞等により広く報道されたうえ、特に被告人上條、同齋藤及び同平澤については、当然のこととはいえ営団から懲戒解職の処分を受け、他方、贈賄側についても、それぞれ経営会社が広範に指名停止の措置を受けるなどして相当厳しい社会的制裁を受けている。そのほか、被告人らは、いずれも営団の内外にあって、長年地下鉄工事その他の土木工事等に従事し、それなりに社会に寄与・貢献してきたこと、被告人大岡は、同上條と私生活上も親しかったため、安易に同被告人に現金を供与したという面もみられること、被告人大岡において交通違反で処罰されたと供述している以外に、被告人らにはいずれも前科がないことなど、被告人五名にとって有利な事情も認められる。そのほか右被告人らの反省の程度、家族関係など本件にあらわれた全ての事情を考慮し、殊に被告人田中、同上條及び同平澤の刑責は前記のとおり重いのであるが、右三被告人についても今回に限りいずれも刑の執行を猶予することとし、主文のとおり量刑する。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小瀬保郎 裁判官 久保眞人 裁判官 川口政明)

別紙(1) 修正損益計算書

大日建設株式会社

自 昭和52年7月1日

至 昭和53年6月30日

<省略>

別紙(2) ほ脱税額計算書

会社名 大日建設株式会社

自 昭和52年7月1日

至 昭和53年6月30日

<省略>

別紙(3) 犯罪事実一覧表

<省略>

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