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東京地方裁判所 昭和54年(合わ)259号 判決 1979年10月22日

主文

一、被告人関永創を懲役四年に処する。

同被告人の未決勾留日数中一四〇日を本刑に算入する。

二、被告人兪建節を懲役五年に処する。

同被告人の未決勾留日数中一四〇日を本刑に算入する。

三、被告人黄清輝を懲役一年六月に処する。

同被告人の未決勾留日数中一二〇日を本刑に算入する。

四、被告人関永創及び同兪建節から

(1)  覚せい剤(ビニール袋入り)二五袋(昭和五四年押第一〇五七号の一)

(2)  覚せい剤(ビニール袋入りで紙で包んだもの)一袋(同押号の二)

(3)  覚せい剤原料(ビニール袋入り)一三袋(同押号の三)

(4)  覚せい剤(紙に包んだもの)二包(同押号の七)

を没収する。

五、被告人関永創及び同兪建節から

それぞれ金一、七五五円を追徴する。

理由

(罪となるべき事実)

第一  被告人関永創(以下、「被告人関」という。)及び同兪建節(以下、「被告人兪」という。)は、香港在住の陳少文と共謀のうえ、

(一)  営利の目的で覚せい剤を輸入しようと企て、昭和五四年四月七日、被告人関において覚せい剤である塩酸フエニルメチルアミノプロパン約510.144グラム(昭和五四年押第一〇五七号の一、二及び七はその一部)をビニールの袋で区分けして同被告人の腹部にガムテープで貼りつける方法により隠匿して携行し、被告人兪もこれに同行して香港からノースウエスト航空第〇〇八便に塔乗し、同日午後五時三〇分ごろ、千葉県成田市三里塚字御料牧場一番地の一所在の新東京国際空港に到着して右覚せい剤を日本国内に搬入し、もつて営利の目的で覚せい剤を輸入し、

(二)  右(一)記載のとおり、同日香港から新東京国際空港に到着した後、同空港内東京税関成田税関支署旅具検査場において、旅具検査を受けるにあたり、被告人関において前記のとおり覚せい剤を携帯していたにもかかわらず、同支署係官に対しこれを申告することなく通関し、もつて税関長の許可受をけることなく覚せい剤を輸入し、

第二

(一)  被告人関は、法定の除外事由がないのに、同月一三日、東京都千代田区内幸町一丁目一番一号帝国ホテルにおいて、被告人兪と共謀のうえ営利の目的で、被告人関所携のアタツシユケース内に前記覚せい剤二六袋(合計約五508.79グラム、前同押号の一及び二はその一部)及び覚せい剤原料である一―フエニルー二―メチルアミノプロパノールー一塩酸塩(一ーフエニルー二―メチルアミノプロパノールー一として一〇パーセントを超えて含有する物)一三袋(合計約242.448グラム、同押号の三はその一部)を隠匿携帯し、かつ、単独で(営利の目的なく)、自己のズボンのポケツト内に前記覚せい剤二包(合計約0.184グラム、同押号の七はその一部)を隠匿携帯し、もつてこれらを一括所持し、

(二)  被告人兪は、法定の除外事由がないのに、被告人関と共謀のうえ、営利の目的で、右(一)のとおり、同日、同所において、被告人関所携のアタツシユケース内に前記覚せい剤二六袋(合計約508.79グラム)及び覚せい剤原料一三袋(合計約242.448グラム)を隠匿携帯して所持し、

第三  被告人黄清輝(以下、「被告人黄」という。)は、法定の除外事由がないのに、営利の目的で、同月八日ごろ、千葉市栄町二〇番八号青葉旅館において、前記覚せい剤約1.17グラムを所持したものである。

(証拠の標目)(法令の適用)<いずれも略>

(押収にかかる覚せい剤及び覚せい剤原料の没収について)

証拠によれば、没収の言渡しをした、主文掲記の覚せい剤及び覚せい剤原料(以下、併せて「本件物件」という。)は、いずれも香港在住の外国人陳少文の所有物であるが、そのうち覚せい剤は、判示第一事実のとおり、陳が被告人兪及び同関と共謀のうえ同被告人らにおいてこれを運搬してわが国に密輸入したものであり、また、覚せい剤原料は、陳が昭和五三年八月ごろその妻に命じて運搬させてわが国に密輸入し、千葉市内の旅館内に隠匿していたところ、今回被告人兪に命じてわが国において処分(売却)しようとしたものであることが認められる。

ところで、このような本件物件を没収するについて刑事事件における第三者所有物の没収手続に関する応急措置法(以下、「法」という。)に定める手続を経る必要があるかどうかについて考えてみるのに、もともと一般に刑事事件の裁判において被告人以外の者(以下、「第三者」という。)の所有に属する物を没収するには、法に定める手続を経ることを要するのであるが、第三者の所有に属する物であつても、覚せい剤、覚せい剤原料、あるいは麻薬のごとき、その物自体の危険な性質から、法令に基づき特に許される場合を除いて、何ぴとも所持すること自体が許されない、いわゆる法禁物(狭義)と称される物件については、証拠上、当該物件が覚せい剤取締法、麻薬取締法その他の法令に基づいて適法に所有することが許された者の所有に属すること又はその蓋然性が窺われる場合は別として、そのようなことが窺われず、当該物件の現所有者の所有が到底適法なものとは認められない場合についてまで、果して法に定める手続を経ることが必要であるかどうかはひとつの問題であると考えられる。しかし、法禁物の没収に関するこのような一般問題はさておき、さしあたり当面の問題に限つて言えば、本件のように、証拠上、右例示のごとき法禁物が、日本国外にいる、日本人以外の者の所有に属し、しかもその者がみずから若しくは他の者と共謀し、又は他の者を介して当該物件を日本国に密輸入したと認められる場合には、その物件の没収につき法に定める手続を経ることは必要ではないと解するのが正当である。けだし、この場合には、所有者は、それを存在させること自体が日本国の法秩序を侵害することになる法禁物をあえて日本国に搬入したものであつて、日本国において法律上その物件の所有を主張して保護を求め得るものではないことが明らかであり、このような場合についてまで、法に定める手続を経ること、すなわち、所有者にいわゆる告知と聴聞の機会を与えることを必要とする合理的な理由が存在するとは考えられないからである(ちなみに、最高裁判所昭和三七年(あ)第九三七号同四一年五月一八日大法廷判決、裁判集刑事一五九号三三頁は、本件と事案を異にするものである。)。さらに、実際問題としても、このような場合に、所有者の氏名と住居が判明し、かつ、書類の送達に関し当該外国と司法共助の取決めがあるときについては、外交経路を通じて所有者に法二条一項所定の告知書を送達した後でなければ没収し得ないと解したり(このような送達を要求することは、軽易でない手続と費用、短くない期間を要するばかりでなく、時には送達担当の官憲をして告知書を携えてギヤングの巣窟に赴かせることにもなりかねない。)、また、告知書を送達し得ないときについては、同条二項により所定の事項を国費を払つて官報及び新聞紙に掲示し、又は検察庁の掲示場に掲示する手続を経なければ没収し得ないと解したりすることの、あまりにも非現実的であり、無益であることも明らかであろう。第三者所有物の没収に関する告知と聴聞の原則は、もとより重要であるが、その原則にもおのずから事柄の実際に即した合理的な例外があるべきものと思うのである。

このような理由から、当裁判所は、本件物件の没収については、法に定める手続を経る必要はないと解するものである(検察官は、本件物件につき、法二条所定の事項を検察庁の掲示場に掲示する手続をしたが、これはもともと不要な手続をしたまでのことである。)。

よつて主文のとおり判決する。

(大久保太郎 小出錞一 小川正持)

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