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東京地方裁判所 昭和54年(ワ)7518号 判決 1981年5月28日

原告 千代田トレーディング株式会社

右代表者代表取締役 高橋良忠

右訴訟代理人弁護士 池部敬三郎

被告 太陽自動車株式会社

右代表者代表取締役 川上登貴松

右訴訟代理人弁護士 佐藤真喜夫

同 山野一郎

主文

1  被告は、原告に対し、別紙物件目録記載一の土地及び同二の建物を明け渡し、かつ、昭和五四年七月一日から右明渡済みに至るまで一か月金三六万円の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

3  この判決は、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

主文同旨

二  被告

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  訴外牧谷嘉明(以下「嘉明」という。)は、別紙物件目録記載一の土地「以下「本件土地」という。)及び同二の建物(以下「本件建物」という。)を所有していたが、昭和五一年四月一日、被告に対し、(イ)本件土地を駐車場利用目的、賃料月額三六万円、期間一年の約定で賃貸し(以下「本件賃貸借契約」という。)、(ロ)本件建物を期間一年の約定で、使用目的を定めず、無償で貸した(以下「本件使用貸借契約」という。)。

なお、本件賃貸借契約及び本件使用貸借契約には、契約期間中であっても、当事者の都合により、三か月前に相手方に通告することにより契約を解除することができる旨の特約が存した。

2  嘉明と被告とは、昭和五二年四月一日、本件賃貸借契約及び本件使用貸借契約を従前と同一の約定により更新する旨の合意をした。

3  訴外牧谷光恵(以下「光恵」という。)は、昭和五三年一月一日、相続により、本件土地及び本件建物を取得するとともに、本件賃貸借契約上及び本件使用貸借契約上の各貸主の地位を承継した。

4  光恵と被告とは、昭和五三年四月一日及び昭和五四年四月一日、いずれも、本件賃貸借契約及び本件使用貸借契約をそれぞれ従前と同一の約定により更新する旨の合意をした。

5  原告は、昭和五四年六月一九日、光恵から、売買により、本件土地及び本件建物を取得するとともに、本件賃貸借契約上及び本件使用貸借契約上の各貸主の地位を承継した。

6  原告は、昭和五四年七月二四日被告到達の書面をもって、被告に対し、同年一〇月末日限り本件賃貸借契約及び本件使用貸借契約を解除する旨の意思表示をした。

7  ところが、被告は、昭和五四年一一月一日以後も、本件土地及び本件建物を占有して原告の使用を妨害し、原告に対し、一か月三六万円相当の損害を与えている。

8  よって、原告は、被告に対し、(イ)本件賃貸借契約及び本件使用貸借契約の終了に伴う目的物返還請求権に基づき、本件土地及び本件建物の明渡し、(ロ)本件賃貸借契約に基づき、昭和五四年七月一日から同年一〇月末日まで一か月三六万円の割合による賃料の支払い並びに(ハ)本件土地及び本件建物の不法占有による損害賠償として、同年一一月一日から本件土地及び本件建物の明渡済みに至るまで一か月三六万円の割合による損害金の支払いをそれぞれ求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実のうち、嘉明が本件土地及び本件建物を所有していたことは認めるが、その余は否認する。

2  同3の事実のうち、光恵が昭和五三年一月一日相続により本件土地及び本件建物を取得したことは認める。

3  同5の事実のうち、原告が昭和五四年六月一九日売買により本件土地及び本件建物を取得したことは認める。

4  同6の事実は、認める。

三  抗弁

1  賃借権

(1) 被告は、昭和四五年四月一日、嘉明から、本件土地及び本件建物をそれぞれ賃料一〇万円、期間右同日から昭和六五年三月三一日までの二〇年間の約定で賃借した(以下、右賃貸借契約を「当初賃貸借契約」という。)。

(2) 光恵は、昭和五三年一月一日、相続により、嘉明から本件土地及び本件建物を取得するとともに、当初賃貸借契約上の貸主の地位を承継し、次いで、原告は、昭和五四年六月一九日、売買により、光恵から本件土地及び本件建物を取得するとともに、当初賃貸借契約上の貸主の地位を承継した。

(3) また、被告は、昭和四五年四月一日、嘉明から本件建物を賃借すると同時に、その引渡しを受けたから、本件建物についてされた当初賃貸借契約は、借家法一条一項の規定によりその後本件建物の所有権を取得した原告に対しても効力を有する。

また、原告は、本件建物が存在することを知悉しながらあえて本件土地の所有権を取得したのであるから、本件土地について、当初賃貸借契約に基づき被告が有する賃借権の制限を受ける。

(4) よって、被告は、当初賃貸借契約による賃借権に基づき、昭和六五年三月三一日まで本件土地及び本件建物を占有することができる。

2  民法九〇条

仮に本件賃貸借契約及び本件使用貸借契約の成立が認められるとしても、本件土地及び本件建物は、その実体は自動車修理工場とその敷地であり、本来借地法及び借家法の適用を当然に受ける性質のものであるところ、本件賃貸借契約及び本件使用貸借契約は、これを説法する目的で作為的に締結されたものであり、民法九〇条により無効である。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1(1)の事実は、知らない。

同1(2)の事実のうち、光恵及び原告がそれぞれ被告主張のとおり本件土地及び本件建物を取得したことは認めるが、その余は否認する。

同1(3)及び(4)の主張は争う。

2  同2の主張は、争う。

五  再抗弁

仮に当初賃貸借契約の成立が認められるとしても、嘉明と被告とは、昭和四九年四月一日、これを合意解約した。

六  再抗弁に対する認否

再抗弁事実は、否認する。

第三証拠《省略》

理由

一  本件土地及び本件建物がもと嘉明の所有であったことは当事者間に争いがなく、右事実並びに《証拠省略》を総合すると、次の事実を認めることができ(る。)《証拠判断省略》

1  嘉明は、昭和四五年当時、タクシー、ハイヤーにより一般乗用旅客自動車運送事業を営む被告の代表取締役として被告の経営に当っていたが、被告の築地営業所の車庫拡張のため、自己の所有する本件土地及び本件建物を被告の利用に供することとし、同年四月一日、被告との間に、本件土地及び本件建物につき被告主張のような内容の当初賃貸借契約を締結した。

2  そして、被告は、本件土地及び本件建物をタクシー、ハイヤーの車庫、その分解整備工場等として使用してきた。

3  ところが、嘉明は、その後、病状が思わしくないことなどから、被告経営の意欲を失い、昭和四九年初めころ、自己の保有する被告の株式全部を訴外柿木卓美が代表取締役として経営する訴外柿木商事株式会社(以下「柿木商事」という。)に売却するとともに、被告の代表取締役を辞任し、被告の経営から全面的に手を引くに至った。ところで、嘉明は、自己が被告の経営に当っていたところから、自己所有の本件土地及び本件建物につき前記のように被告との間に当初賃貸借契約を締結し、これを長期賃貸したものであるが、右のように被告の経営から全面的に手を引くことになったところから、自己使用の必要が生じた場合にはいつでも被告から本件土地及び本件建物の返還を受けることができるようにしておくことを欲し、同年四月一日、被告との間で、当初賃貸借契約を合意解約するとともに、改めて、本件土地については、賃貸目的駐車場利用、賃料一か月二五万円、賃貸期間右同日から同年一二月三一日まで、ただし、期間満了の場合当事者双方の合意により更新することができ、また、賃貸期間中であっても当事者双方は互いに三か月前に相手方に通告することにより契約を解除することができる旨の内容の賃貸借契約を、本件建物についても、被告はこれを右賃貸借契約継続中無償で使用することができる旨の使用賃貸借契約をそれぞれ締結した。

4  そして、嘉明と被告とは、昭和五〇年一月三一日、本件土地の賃料を一か月三〇万円、賃貸期間を同年一月一日から同年一二月三一日までの一年間と改訂したほかは従前と同一の内容で前記の本件土地賃貸借契約及び本件建物使用貸借契約を合意更新し、次いで、昭和五一年四月一日、本件土地の賃料を一か月三六万円、賃貸期間を右同日から昭和五二年三月三一日までの一年間と改訂したほかは従前と同一の内容で右の本件土地賃貸借契約及び本件建物使用貸借契約を再度合意更新した。これが原告主張の本件賃貸借契約及び本件使用貸借契約である。

二  右認定の事実によれば、原告主張の本件賃貸借契約及び本件使用貸借契約はその成立を認めることができる。

被告は、右各契約は民法九〇条により無効であると主張するが、右認定の事実によれば、右各契約をもって被告主張のように借地法及び借家法の適用を潜脱するためにされた公序良俗に反するものと認めるに足らず、他に右被告主張事実を認めるに足りる証拠はない。よって、被告の右主張(抗弁2)は、理由がない。

三  光恵が昭和五三年一月一日相続により本件土地及び本件建物を取得したこと並びに原告が昭和五四年六月一九日売買により本件土地及び本件建物を取得したことは、当事者間に争いがなく、また、本件賃貸借契約及び本件使用貸借契約が昭和五二年四月一日嘉明と被告との合意により従前と同一の約定により更新されたこと、右各契約上の貸主の地位が昭和五三年一月一日光恵に承継されたこと、右各契約が同年四月一日及び昭和五四年四月一日いずれも光恵と被告との合意により従前と同一の約定により更新されたこと並びに右各契約上の貸主の地位が同年六月一九日原告に承継されたことは、被告の明らかに争わないところであるから、自白したものとみなす。

そして、原告が昭和五四年七月二四日被告到達の書面をもって被告に対し同年一〇月末日限り本件賃貸借契約及び本件使用貸借契約を解除する旨の意思表示をしたことは、これまた、当事者間に争いがない。

そうすると、本件賃貸借契約及び本件使用貸借契約は、昭和五四年一〇月末日限り解除されて終了したものというべきであるから、被告は、原告に対し、本件土地及び本件建物を返還すべき義務がある。

四  被告が原告に対し昭和五四年七月一日から同年一〇月末日までの一か月三六万円の割合による本件土地の賃料を支払ったことについては、被告の主張しないところであるから、被告は、原告に対し、右未払賃料を支払う義務がある。

五  被告が昭和五四年一一月一日以後も本件土地及び本件建物を占有していることは、被告の明らかに争わないところであるから、自白したものとみなす。

被告は、右占有権原として当初賃貸借契約を主張するが、前記一において認定したとおり、当初賃貸借契約は昭和四五年四月一日締結されたものの、昭和四九年四月一日合意解約されたことが明らかであるから、被告の右主張(抗弁1)も、結局、理由がない。

そうすると、被告は、昭和五四年一一月一日以降、本件土地及び本件建物を不法に占有して原告の使用を妨害し、原告に対し少なくとも一か月当り本件土地の賃料相当額である三六万円を下らない損害を与えているものというべきである。したがって、被告は、原告に対し、昭和五四年一一月一日から本件土地及び本件建物の明渡済みに至るまで一か月三六万円の割合による損害金を支払う義務がある。

六  よって、原告の本訴請求はすべて理由があるから、これを認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を、仮執行宣言について同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 石井健吾)

<以下省略>

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