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東京地方裁判所 昭和53年(ワ)9536号 判決 1979年7月19日

原告

山本安彦

ほか二名

被告

第一船舶企業株式会社

主文

一  被告は、

1  原告山本安彦および原告山本豊子に対し、それぞれ金四四八万三、〇九八円と内金三七二万六、五九二円に対する昭和五二年九月三日から完済まで年五分の割合による金員

2  原告山本シズ子に対し、金三三〇万円と内金三〇〇万円に対する同日から完済まで年五分の割合による金員

を各支払え。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

四  この判決は、一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一  原告らは、「一 被告は、原告山本安彦および原告山本豊子に対し、それぞれ金四五八万三〇九八円と内金三八二万六五九二円に対する昭和五二年九月三日から完済まで年五分の割合による金員を、原告山本シズ子に対し、金三八五万円と内金三五〇万円に対する同日から完済まで年五分の割合による金員を各支払え。二 訴訟費用は被告の負担とする。」との判決および仮執行の宣言を求め、請求の原因として次のとおり述べた。

一  事故の発生

1  日時 昭和五二年九月三日午後零時三四分頃

2  場所 東京都江戸川区江戸川六丁目四〇番五号先信号機のある交差点

3  加害車 大型貨物自動車(習志野一一お一八三九号)

右運転者 訴外瑞慶覧長徳

4  被害者 訴外亡山本秀紀(昭和四五年四月一六日生・以下秀紀という。)

5  態様 秀紀が右交差点北側横断歩道を青信号に従い西側から東側に向つて自転車に乗り横断中、赤信号を無視して右(南)側から直進してきた加害車に接触された。

6  結果 秀紀は、頭蓋骨紛砕、脳挫滅により即死した。

二  責任原因

本件事故の際、加害車は被告が所有し、被告の従業員である右訴外瑞慶覧が運転して被告のために運行の用に供していたものであるから、被告は自動車損害賠償保障法(以下自賠法という。)三条に基づき本件事故によつて生じた損害を賠償する責任がある。

三  損害

1  葬儀費用金七〇万円

原告山本安彦(以下原告安彦という。)および原告山本豊子(以下原告豊子という。)は、秀紀の葬儀費用として金二三八万八五八三円を支払つたが、このうち各金三五万円(計金七〇万円)を本件事故による損害として請求する。

2  逸失利益金一、四九五万三一八四円

(一) 秀紀は、本件事故当時七歳の健康な男子であつたから、本件事故にあわなければ、平均余命の範囲内で一八歳から六七歳まで稼働し、その間少なくとも男子労働者の平均賃金程度の収入をあげ得たというべきところ、昭和五二年度の賃金センサス第一表、全産業計・企業規模計・学歴計の男子労働者の平均給与月額は金一八万三二〇〇円・年間の賞与その他の特別給与額は金六一万六九〇〇円となるから、右額を基礎とし、生活費として収入の五〇パーセントを控除し、ライプニツツ式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して秀紀の逸失利益を計算すると次の算式のとおり金一四九五万三一八四円(〔183,200円×12+616,900円〕×0.5×〔18.9292-8.3064〕=14,953,184円)となる。

(二) 原告安彦は秀紀の実父であり、原告豊子は秀紀の実母であつて、秀紀の逸失利益請求権を各二分の一に当る金七四七万六五九二円宛相続したものである。

3  慰藉料各金三五〇万円

(一) 原告安彦および原告豊子につき

右原告両名が秀紀を失つたことによる精神的苦痛は甚大であつて、右各金額が相当である。

(二) 原告山本シズ子(以下原告シズ子という。)につき同原告は、秀紀の祖母であり、共稼ぎでスーパーマーケツトに勤務していた両親に代わり秀紀の養育監護をなしていたものであるが、年老いた同原告にとり秀紀は生きがいそのものであつて、本件事故により秀紀を失なつたことで精神的虚脱状態に陥り、秀紀の面影をしのんで涙にくれる毎日を送つている。しかも、本件事故後、被告は原告らの示談の申し入れに対して全く誠意がなく、原告シズ子が昭和五二年一〇月二二日付で被告に宛て切々と気持を打明けた手紙に対しても何の返事もよこさない。最愛の秀紀をひき殺され、さらに被告からかかる非情な態度をとられ、同原告の精神的苦痛、口惜しさは筆舌に尽しがたいものがある。右事情に加えて、加害車運転者右訴外瑞慶覧は、信号無視をなし、前方の横断歩道上に横断を開始した秀紀を認めたにもかかわらず、敢然と警笛を鳴らしながら加害車を進行させており、加害車の積荷は法定の重量を超えていたものであり、このような悪質な事故態様を併考すれば、被告は前記(一)の両親の慰藉料の他に原告シズ子に金三五〇万円の慰藉料を支払う義務がある。

4  損害の填補

原告安彦および同豊子は、本件事故による損害につき昭和五三年八月一六日に自動車損害賠償責任保険(以下自賠責保険という。)から金一、五〇〇万円を受領し、これを右原告らの前記損害に各金七五〇万円宛充当した。

5  前号の金一、五〇〇万円受領までの同金額についての遅延損害金七一万三〇一三円

被告は、原告安彦および同豊子に対し、右保険からの支払により損害の填補がなされた金一、五〇〇万円の損害賠償金につき、本件事故発生日である昭和五二年九月三日から右支払いの前日である昭和五三年八月一五日までの間(三四七日分)の民事法定利率年五分の割合による遅延損害金七一万三〇一三円(右原告両名各金三五万六五〇六円宛)を支払う義務がある。

6  弁護士費用金一一五万円

原告らは、被告が任意の弁済に応じないため、弁護士である原告ら訴訟代理人に本件訴訟手続の追行を委任し、その費用報酬として認容額の一割を第一審判決言渡時に支払うことを約したので、弁護士費用として原告安彦および原告豊子が各金四〇万円、原告シズ子が金三五万円の支出を要する。

四  よつて、原告らは、請求の趣旨と同旨の判決および仮執行の宣言を求める。

第二  被告は、「一 原告らの請求を棄却する。二 訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決を求め、答弁として次のとおり述べた。

一  請求原因一の事実は認める。

二  同二の事実中、本件事故の際、被告が加害車を所有し、被告の従業員である右訴外瑞慶覧がこれを運転して被告のために運行の用に供していたことは認める。

三  同三の事実中、原告らが自賠責保険から金一、五〇〇万円を受領したことは認める、慰藉料額および本件事故発生日から自賠責保険金受領日までの遅延損害金ならびに原告シズ子の慰藉料および加害車の積荷が法定の重量を超えていたことは否認するが、その余の事実は知らない。

第三  証拠として、原告らは、甲第一ないし第一六号証を提出し、原告豊子および原告シズ子各本人尋問の結果を援用し、被告は、甲第三ないし第五号証の成立は知らないが、その余の甲号各証の成立は認めると述べた。

理由

一  被告の責任原因

請求原因一の事実全部および同二の事実中、本件事故の際、被告が加害車を所有し、被告の従業員である右訴外瑞慶覧がこれを運転して被告のために運行の用に供していたことはいずれも当事者間に争いがない。

右事実によると、被告は、本件事故によつて被つた原告らの後記損害につき、自賠法三条本文所定の責任を負わなければならない。

二  原告らの損害

1  原告安彦および同豊子について

(一)  葬儀費用各金二五万円

原告豊子本人尋問の結果およびこれによつて真正に成立したものと認められる甲第四、第五号証によると、秀紀の両親である原告安彦および同豊子は、秀紀の葬儀費用として各金三五万円計金七〇万円を下らない金員を支出したことが認められるが、このうち各金二五万円計金五〇万円が本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。

(二)  逸失利益各金七四七万六五九二円

(1) 成立に争いのない甲第六号証および原告豊子本人尋問の結果によると、秀紀は、昭和四五年四月六日生まれで、本件事故当時、七歳の健康な男児であつたことが認められるところ、右事実に照らすと、秀紀は、本件事故に遭遇しなければ、平均余命の範囲内で一八歳から六七歳まで稼働し、その四九年間少なくとも男子労働者の平均賃金程度の収入をあげ得たものと推認することができる、そこで、当裁判所に顕著である労働大臣官房統計情報部作成にかかる「昭和五二年賃金構造基本統計調査報告」と題する書面第一巻第一表中の産業計・企業規模計・学歴計の男子労働者の平均賃金月額金一八万三二〇〇円、年間賞与その他特別給与額金六一万六九〇〇円を基準とし、収入の五〇パーセントを生活費として控除し、ライプニツツ方式により年五分の割合による中間利息を控除して秀紀の逸失利益を算定すると金一、四九五万三一八四円(〔183,200円×12+616,900円〕×0.5+〔18.9292-8.3064〕=14,953,184円)となる。

(2) 前掲各証拠によると、原告安彦は秀紀の実父であり、原告豊子はその実母であることが認められるので、右原告両名は秀紀の逸失利益請求権を各二分の一に当る金七四七万六五九二円宛相続したことになる。

(三)  慰藉料各金三五〇万円

前掲甲第六号証および原告豊子本人尋問の結果によると、原告安彦および同豊子は、四人の男子の父母であつたが、本件事故により三男である秀紀を失なつたため、甚大な精神的苦痛を被つたことが認められるところ、右事実と本件事故の態様・被告側の過失の程度等本件に顕われた一切の事情を斟酌すれば、右原告両名の精神的苦痛を慰藉するためには、各金三五〇万円をもつて相当とすべきである。

(四)  損害の填補

原告豊子本人尋問の結果によると、原告安彦および同豊子は、昭和五三年八月一六日本件事故による損害につき自賠責保険から金一、五〇〇万円の支払いを受け(原告らが右金員を受領したことは当事者間に争いがない。)、各金七五〇万円を右原告両名の前記損害に充当したことが認められる。

(五)  右各金七五〇万円に対する遅延損害金三五万六五〇六円

右事実によると、特段の事情の認められない本件では、被告は右原告両名に対し、右各金七五〇万円に対する本件事故発生日である昭和五二年九月三日から右支払日の前日である昭和五三年八月一五日まで(三四七日)民事法定利率年五分の割合による遅延損害金各金三五万六五〇六円(円未満切捨て)を支払うべき義務がある。

(六)  弁護士費用各金四〇万円

原告豊子本人尋問の結果および弁論の全趣旨によれば、右原告両名は、被告が任意の弁済に応じないので、弁護士である原告ら代理人に本件訴訟の提起と追行を委任し、報酬を支払う旨約したことが認められるが、本件事案の内容、審理の経過、認容額等諸般の事情を考慮すると、弁護士費用としては、右原告両名につき各金四〇万円が相当である。

2  原告シズ子について

(一)  慰藉料金三〇〇万円

前掲甲第六号証、原告シズ子本人尋問の結果によつて真正に成立したものと認められる甲第三号証および同原告本人尋問の結果によると、原告シズ子は秀紀の祖母であり、屡々、共同して化粧品、医薬品等の販売をしていた原告安彦および同豊子に代つて秀紀を養育監護し、同人を非常に可愛がり、その将来を期待していたところ、本件事故により秀紀を失なつたため、かなりの精神的苦痛を被つたことが認められるが、これと前記二―(三)のような諸般の事情を考慮すれば、原告シズ子の慰藉料としては金三〇〇万円が相当である。

(二)  弁護士費用金三〇万円

原告豊子、同シズ子各本人尋問の結果および弁論の全趣旨によると、原告シズ子は、前記二―(六)と同じ理由で原告ら代理人に本件訴訟の提起と追行を委任し、報酬支払いの約束をしたことが認められるが、諸般の事情を考慮すれば、弁護士費用は金三〇万円が相当である。

三  よつて、原告らの本訴請求中、原告安彦および同豊子の各金四四八万三〇九八円および前記各遅延損害金と各弁護士費用を除く内金三七二万六五九二円に対する本件事故発生日である昭和五二年九月三日から完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金を求める部分、原告シズ子の金三三〇万円および弁護士費用を除く内金三〇〇万円に対する同日から完済まで同様の割合による遅延損害金を求める部分はいずれも理由があるのでこれを認容するが、その余の部分はいずれも失当としてこれを棄却すべく、民事訴訟法八九条、九二条但書、一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 松本朝光)

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