大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和53年(ワ)5733号 判決 1980年3月27日

原告 小谷知也

右訴訟代理人弁護士 堀越董

同 堀越みき子

同 今井勝

同 上寺輝雄

同 浅野正浩

被告 新水戸カントリー株式会社

右代表者代表取締役 大久保隆

右訴訟代理人弁護士 藤井英男

同 古賀猛敏

同 古口章

同 西川茂

主文

一  被告は原告に対し、金一、〇〇〇、〇〇〇円及びこれに対する昭和五三年七月四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  この判決は、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文第一、第二項と同旨の判決並びに仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  被告はゴルフ場経営を主たる目的とする会社であるが、原告は、昭和四七年一一月一三日、被告の経営する新水戸カントリークラブに入会し同クラブの個人正会員となり、その際被告に対し金一〇〇万円を預託した。

2  前項の預託金は、原・被告間の約定により、被告が預託を受けた日から満五年間無利息にて預るものとし、右期間経過後は原告の請求あり次第返還する定めとなっている。

3  よって、原告は被告に対し、預託金返還請求権に基づき右金一〇〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和五三年七月四日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求の原因に対する認否

1  請求の原因第1項は認める。

2  同第2項は否認する。

本件預託金は、会員資格保証金として預託されたもので、正式開場後五か年を据置き、その後請求により理事会の承認を得て返還する定めとなっている。本件預託金については、原告の返還請求はあっても、理事会はいまだこれを承認していない。

3  同第3項は争う。

三  被告の主張

1  本件預託金契約は、単なる消費貸借や消費寄託契約ではなく、原告らが新水戸カントリークラブに入会するにつき、会則に基づき被告に会員資格保証金として預託され、その譲渡、返還方法、手続等についても、すべて会則に規定するところに従うという特殊な性格を有する契約である。従って、会則は、原被告間の法律関係を定める約款としての性格を有する。

2  会則の規定

新水戸カントリークラブ会則八条によれば、入会金の据置期間が満了しても、会員から請求があり、かつ理事会の承認を得たうえで返還する旨規定する。本件入会金については、原告の請求はあっても理事会はいまだこれを承認していないので、被告の返還義務はいまだ発生していない。

また同会則八条によれば、特別の事情のある場合には、理事会の決議をもって据置期間を延長することができる旨規定する。新水戸カントリークラブ理事会は、昭和五二年一〇月一一日、右規定に基づき諸般の事情、ことに会員全体の利益を考慮のうえ、返還期限を四か年延長する旨の決議をした。右の決議は、次のとおり合理性を有しかつ会則に基づくものであるから、原被告間の預託金契約の内容をその限度において変更するものである。

3  理事会の承認または決議の合理性

(一) 理事会の性格

会則上、理事会の権限として通常規定されるものは、会員の入会承認、退会の承認、除名、資格停止などの決議、委員の選任、細則の制定、変更、会則の改正などにわたり、クラブによっては、本件会則のごとく、預託金返還の承認、据置期間の延長決議などをも規定する。会員制事業なるものは、会員集団と会社との間に、施設所有ないし経営と利用という内部的な利益対立を内包しつつ、全体として一個の企業体をなすものとも考えられ、対向当事者の関係を、そのような全体的でかつ高次元の立場から規制する機能を会則上与えられたのが、理事会であると解される。すなわち、理事会は、単にクラブの管理運営に関することのみならず、会員と会社間の種々の関渉事項について利益調節者または仲裁的判断者としての役割を果たすものである。

(二) 理事会の承認または決議の合理性

預託金返還問題は、単に会員と会社の問題であるばかりでなく、返還を請求する会員と他の施設利用会員間の問題でもある。一部高額会員の返還請求に会社がこれに応ずるとすれば、他の高額会員に波及しなだれ現象を起こす。その結果、ゴルフ場は機能を停止し、他の会員の施設利用を事実上不可能にすることは明白である。ゴルフクラブの機能(会員の共同施設利用関係)が停止し、会員全体の利益がおびやかされる時には、クラブの運営機関である理事会の判断によって、一時的に返還を承認せず、または据置期間の延長をなすことは合理的であると解される。

(三) 理事会の審議について

本クラブ理事会は、昭和五二年一〇月一一日、理事一六名中九名(別に委任状出席七名)が出席して開催され、預託金据置期間延長の件を審議したが、理事会は、単に会社の説明と提案をう呑みにしたのではなく、会社の経営内容と返還の可能性、一部会員への返還が他の会員に対し与える波及的効果、他の会員の利益等を十分検討のうえ、返還請求に対しては当分の間承認せず、また据置期間を四年間(会社提案は五年間)延長するのをやむを得ない事情があるものと認めてこれを可決した。審議にあたっては、単に会社の経営的利益のみならず、会員全体の立場をも十分考慮したうえ結論をだしたものである。

四  被告の主張に対する反論

1  会則が契約約款との主張について

本件会則は、会員相互間の親睦を目的とした任意団体である新水戸カントリークラブがその名において制定した内部規約にすぎず、被告が預託金を受け入れるにあたり、被告の名において類型的契約条項を相手に提示したものといえないから、会則が直ちに原・被告の法律関係に拘束力を及ぼすものとはいえない。

2  会則八条の効力について

会則八条は、理事会の承認や決議による預託金の返還や返還期間の延長を可能とする。ところが、理事会の構成員につき、理事長は被告取締役会によって推薦され、理事は、会社の役員の中から及び会社の取締役会において推薦された被告株主並びに会員の中からこれを理事長が委嘱し、しかも会員の中から委嘱される理事の数は理事全員の半数を越えない範囲とされている。このように理事会の構成員は、被告が一方的に任命したものに限定されているのであるから、理事会の実体は、被告の意を受けた被告の受任者ということができる。

会則八条は、右のような被告の意を受けた受任者である理事会に、預託金返還という会員の基本的権利に変更を及ぼす重要事項について包括的に授権したものであるから、自己契約双方代理禁止の法意に反し、更には公序良俗に反し無効と解される。

被告は、前記理事会に先だち、昭和五二年九月二日の理事会において、会則八条但書を、天災地変その他不可抗力の事態が発生したとき又は経営上ならびにクラブの発展向上のため必要やむを得ない場合には、理事会の決議により据置期間を延長できると変更した。しかし、契約締結後に変更された約款が既存契約に影響を及ぼすものでないと解されるから、被告の会則八条の改正及びそれに準拠する理事会の延長決議も、会員全員の同意なくしては有効になし得ないものである。

第三証拠《省略》

理由

一  請求の原因第1項の事実は当事者間に争いがない。

二  《証拠省略》を総合すると、

(一)  新水戸カントリークラブは、被告の経営するゴルフ場施設を利用しようとする者が、入会保証金を被告に納入して会員となるいわゆる預託会員制ゴルフクラブであること、

(二)  ところで新水戸カントリークラブには、原告が入会した当時会則が定められており、同クラブ入会者は右会則に従うことを一般的に承諾したうえで、会員資格保証書の交付を受けていたこと、

(三)  右会則の内容は、おおよそ、新水戸カントリークラブの目的として、被告の経営するゴルフ場等を使用し健全なるゴルフの普及発達と技術向上を計り会員相互の親睦を図るものであること(会則二条)、その他会員の種類及び会員の入会手続(四条ないし八条)、会員権の譲渡及び会員の資格喪失に関する事項(九条、一〇条、一三条、一四条)、諸経費の納入等(一一条、一二条)、理事及び理事会に関する事項(一五条ないし二一条)等が規定されていること、そして会則八条には、入会金(会員資格保証金)の取扱いについて預託期間を正式開場又はその後の入会については入会の日から五年間とし、その後請求あり次第理事会の承認を得て返還することとし、但し天災地変その他の不可抗力の事態が発生した場合は、理事会の決議により預託期間を延長することができると規定されていたこと、

(四)  昭和五二年九月二日に開催された新水戸カントリークラブ理事会において、右八条の但書以下について、「天災地変、その他不可抗力の事態が発生したとき、又は経営上並びにクラブの発展向上のため必要やむを得ない場合は」理事会の決議により預託期間を延長することができると決議して改正したこと、

(五)  新水戸カントリークラブの正式開場が昭和四七年一〇月一八日であり、原告は入会の日から五か年経過後被告に対し本件預託金一〇〇万円の返還を請求したが、理事会は右請求に対し承認するか否かの決議をせず、被告はいまだ支払をしないこと

以上の事実をそれぞれ認めることができ、右認定を左右する証拠はない。

三  そこで、本件会則の性格、原告入会後の会則改正あるいは理事会の決議あるいは承認等が、原告の預託金返還請求権に対してどのような影響を及ぼすかについて、判断する。

1  本クラブ会則の性格

前記認定の諸事実、とりわけ会則の様式及び内容等に徴すると、新水戸カントリークラブの会則の法的性格は、会員に対して団体法的な拘束力を生ずる社団の定款に類するものといえないことは当然のこととしても、被告とクラブ会員との間のゴルフ場施設利用等についての集団的な契約関係を規律する約款としての性格を有するものと認めるべきであり、同クラブの会員となろうとする者は右会則を承認して同クラブに入会することにより、被告との間に直接契約を締結したと同様の拘束を受けるものと解するのが相当である。

従って、この点に関する原告の反論は相当でなく、被告の主張を採用する。

2  クラブ理事会の性格

《証拠省略》を総合すれば、理事らの選任方法及び職務については、理事長は被告会社の取締役会から推薦されて選任され(会則一六条)、新水戸カントリークラブ職務を統轄すること(一七条)、理事は被告会社役員の中から及び被告会社から推薦された会社株主並びに会員の中から理事長が委嘱するものであって、会員の中から委嘱されるいわゆる部外理事の数は理事全員の半数を越えないとされ(一八条)、理事は理事会を組織すること(一九条)、理事会の決議事項としては、クラブ運営に関する重要事項や諸規則の制定改廃、各種クラブ委員の委嘱などであり、これらを被告会社職員をして執行せしめることができること(二〇条)などが認められる。

また理事らの実際の選任方法をみるに、《証拠省略》によれば、同クラブ一色達夫理事長は被告会社代表取締役の知人であって同人の個人的依頼に基づき、他の理事も先任の理事の推薦や被告の依頼等によっていずれも選任されていることが認められる。

以上の事実をみると、新水戸カントリークラブの目的が前記のようにゴルフ場施設を利用する会員相互の親睦を計るものであるにもかかわらず、その機関にあたる理事会の構成員は、規約上あるいは実際においても会員の総意とは全く関係なく選任されていることが明らかである。従って、これらの者によって組織される理事会も、被告会社役員が相当数加わっていることも加えて、組織上結局において被告の意向を強く反映した機関といわざるを得ず、会員の総意を代弁するものといえないことが明らかである。

3  理事会の承認ないし決議の効力

同クラブ理事会の性格が以上のようなものである以上、同理事会の権限として会員に対してその有効性をもちうるのは、会則二条に掲げる目的を遂行するためのクラブの組織運営に関する事項に限られるのであって、加えてこれにはその性格上おのずから限界があるのであって、会員の基本的権利義務に影響を及ぼす事項については、これを有効になし得ないものと解するのが相当である。

従って、仮に会則の規定により、会員の右基本的権利義務に関する事項について理事会の承認ないし決議にかからしむるものとしても、当該規定は会員に対して有効性を主張しえないものといわなければならない。

本件において、原告の預託金返還に関する請求権は会員の重要なる権利であることは論を俟たないところであって、本クラブ会則八条において、預託期間経過後預託金の返還につき理事会の承認にかからしむる部分については、右の理由により、会員たる原告に対して効力を有しないものといわなければならない。

4  また、クラブ会則が約款たる性格を有する以上、クラブ会員の被告に対する権利義務の内容は、入会時における会則の内容によって定まるものであって、その後理事会による会則改正が行なわれたとしても、原則として右改正は個々の会員の同意を得ない限り各会員に対してなんら効力を及ぼさないものといわなければならない。

従って、本件において、同クラブ理事会が前記のとおり会則を改正する旨の決議をし(右決議事項が会員に対して有効性をもちうるものであるかはさておき)、右改正規定に則り預託期間をさらに四年間延長する旨の決議を行なったとしても、右決議は原則として会員たる原告を拘束する効力を有しないものと認められる。

以上のとおりであるから、被告の右の点に関する各主張はいずれも採用の限りでなく、原告の被告に対する預託金返還請求権は、結局会則八条に基づく理事会の承認や預託期間延長の決議等によって、なんら影響を受けないものと解するのが相当である。

四  よって、原告が被告に対し預託金一〇〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日であることが本件記録上明らかである昭和五三年七月四日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める本訴請求は、結局理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 永田誠一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例