大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和53年(ワ)10356号 判決 1983年5月30日

原告 東綱商事株式会社

右代表者代表取締役 鈴木丹

右訴訟代理人弁護士 川崎友夫

同 大江保直

同 斎藤栄治

同 吉田正夫

同 柴田秀

同 狐塚鉄世

同 萩谷雅和

被告 東西商事株式会社

右代表者代表取締役 浅野宣之助

主文

一  被告は、原告に対し、金一九七二万円及び内金九一二万円に対する昭和五三年四月一日から、内金一〇六〇万円に対する同年五月一日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを二五分し、その一を原告の負担とし、その余は被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、二〇六二万円及びうち九五二万円に対する昭和五三年四月一日から、うち一一一〇万円に対する同年五月一日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、ロープ、石油製品等の販売を目的とする株式会社、被告は、石油製品の販売等を目的とする株式会社、菱三商事株式会社(以下、菱三商事という)は、石油製品のほかいわゆる総合商社として各種物品の販売輸出入等を目的とする株式会社である。

2  被告代表取締役浅野宣之助は、いわゆるオーダー整理取引(空業転ともいわれ、最初の売主と最終の買主とが同一人であり、売買目的物が実際には存在しない取引のことをいう)という方法によって原告から売買代金名下に金員を騙取しようと企て、A重油を売る意思も引き渡す意思もないのに、原告に対し、次のとおり、A重油を現金で買い受けてほしい旨申し込んだ。

(一) 申込年月日 昭和五三年一月二一日ころ

数量 二〇〇キロリットル

代金 四五六万円

(二) 申込年月日 同月二八日ころ

数量 二〇〇キロリットル

代金 四五六万円

(三) 申込年月日 同年二月二三日ころ

数量 五〇〇キロリットル

代金 一〇六〇万円

3  菱三商事石油課長宮内喜重は、浅野の前記オーダー整理取引を利用する金員騙取の企図を認識し、浅野と共謀のうえ、A重油を買い取る意思も受領する意思もないのに、原告に対し、次のとおり、原告が被告から買い受ける予定のA重油を菱三商事が原告から更に買い受ける旨申し込んだ。

(一) 申込年月日 昭和五三年一月二一日ころ

数量 二〇〇キロリットル

代金 四七六万円

(二) 申込年月日 同月二八日ころ

数量 二〇〇キロリットル

代金 四七六万円

(三) 申込年月日 同年二月二三日ころ

数量 五〇〇キロリットル

代金 一一一〇万円

4  原告は、被告が真実前記各A重油を売り渡そうとしており、また、菱三商事が真実それらを買い受けるものと誤信し、被告から前記各A重油を買い受けてこれを菱三商事へ売り渡すことに決め、浅野及び宮内からの前記各申込に対して承諾した。その結果、原告と被告との間には2項の各申込年月日ころ右申込内容どおりの売買契約が、原告と菱三商事との間には3項の各申込年月日ころ右申込内容どおりの売買契約がそれぞれ締結され、また、右各契約において、右各契約の目的物たるA重油は被告から直接菱三商事へ引き渡す旨の合意が成立した。

5  宮内は、浅野と共謀のうえ、菱三商事が原告に対し、菱三商事において被告からA重油を受領した旨の物品受領書を発行交付すると、原告は被告の原告に対するA重油引渡債務が履行されたものと信じ直ちに被告に対して売買代金を現金で支払うことを熟知しながら、A重油を受領した事実がないにもかかわらず、原告に対し、前記各売買契約の目的物たるA重油をそれぞれ受領した旨の各物品受領書を発行交付した。

6  仮に、宮内において、浅野の企てた原告からの金員騙取に故意に加担したものではないとしても、宮内は、菱三商事が原告に対して物品受領書を発行交付すれば、原告が直ちに被告に売買代金を現金で支払うことを知悉しながら、菱三商事が被告から前記各売買契約の目的物たるA重油の引渡を受けたか否かを全く確認することなく原告に対して前記各物品受領書を発行交付したものであるから、少なくとも過失により浅野の前記不法行為に加功したものというべきである。

7  原告は、宮内が原告に対し前記各物品受領書を発行交付したため、菱三商事が被告から前記各A重油を受領したものと誤信し、被告に対し、売買代金として、昭和五三年一月二四日に四五六万円、同月三一日に四五六万円、同年二月二四日に一〇六〇万円をそれぞれ支払い、右同額の損害を被った。のみならず、原告は、被告から仕入れて菱三商事へ転売することによって得ることができた筈の売買差益合計九〇万円を得ることができず、右同額の損害をも被った(浅野は、原告が転売目的で前記各A重油を仕入れていること及び右転売における各売買代金額を熟知していた)。

8  浅野は被告の代表取締役であり、前記不法行為は浅野が被告の職務を行うにつきなしたものであるから、被告は、商法二六一条二項、七八条二項、民法四四条一項により、浅野の右不法行為により原告が被った前記損害を賠償する責任を負う。

9  よって、原告は、被告に対し、二〇六二万円及びうち九五二万円に対する前記不法行為の日の後である昭和五三年四月一日から、うち一一一〇万円に対する前記不法行為の日の後である同年五月一日から各支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

浅野(被告)に原告を欺罔する意思があったとの点及び浅野が宮内と共謀したとの点はいずれも否認する。

第三証拠《省略》

理由

原告は、本訴請求の請求原因事実として被告代表取締役浅野及び菱三商事石油課長宮内の共謀による詐欺(予備的に、浅野の詐欺と宮内の過失による右詐欺との共同不法行為)を主張し、被告は、浅野の欺罔の意思及び浅野と宮内との共謀を争った。そこで、原告は、右主張事実を立証するため、昭和五五年九月二五日付証拠申出書をもって被告代表者尋問の申出をなしたので、当裁判所は、同日午後三時の第一三回口頭弁論期日における証拠決定により右申出を採用し(なお、昭和五七年一月二二日付分離決定前の相被告菱三商事も昭和五五年三月六日付証拠申請書をもって被告代表者尋問の申出をなしていたので右申出も採用した)、右証拠調期日を第一四回期日(同年一二月一一日午後三時)と指定し、同年一〇月六日到着の郵便による適式の方法で浅野に対し、右口頭弁論及び被告代表者尋問施行の期日呼出状を送達した(なお、原告が提出した被告代表者尋問申出書副本は、同日到着の郵便によって浅野に送達され、右副本によれば、被告代表者尋問の立証趣旨として、浅野と宮内とが共謀して本件各空業転をなした事実、その他原告主張事実などの記載がある)。しかし、当裁判所は、右第一四回期日を昭和五六年一月二九日午後三時に変更し、昭和五五年一〇月二五日到着の郵便による適式の方法で浅野に対し右変更後の口頭弁論及び被告代表者尋問施行の期日呼出状を送達した。しかるに、浅野は正当の事由なく右第一四回期日の呼出に応じなかった。そこで、当裁判所は、被告代表者尋問の施行を延期し、右証拠調期日を追って指定することにした。その後、当裁判所は、被告代表者尋問施行の期日を第一六回期日(昭和五六年七月三一日午後二時三〇分)と指定し、同年六月二〇日到着の郵便による適式の方法で浅野に対し右口頭弁論及び被告代表者尋問施行の期日呼出状を送達したが、浅野は正当の事由なく右第一六回期日の呼出に応じなかった。そのため、当裁判所は、被告代表者尋問の施行を延期し、右証拠調期日を第一七回期日(同年一〇月二三日午後一時)と指定、同月一六日到着の郵便による適式の方法で、浅野に対し右口頭弁論及び被告代表者尋問施行の期日呼出状を送達したが、浅野は正当の事由なく右第一七回期日の呼出に応じなかった。そこで更に、当裁判所は、被告代表者尋問の施行を延期し、右証拠調期日を第一八回期日(昭和五七年一月二二日午後二時)と指定し、昭和五六年一二月二九日到着の郵便による適式の方法で浅野に対し右口頭弁論及び被告代表者尋問施行の期日呼出状を送達した(なお、同日到着の郵便により、原告の同年一一月二五日付当事者尋問の申出書副本が浅野に送達されたが、右副本には尋問事項に関する原告の主張が詳細かつ具体的に記載されている)。しかるに、浅野は正当の事由なく右第一八回期日の呼出に応じなかった。以上の事実は、本件記録上明らかである。

よって、当裁判所は、民訴法三三八条に則り、右尋問事項に関する原告の主張、即ち、請求原因2ないし5項の各事実、及び同7項の事実のうち、原告が各売買目的物の受渡がなされたものと誤信して被告に対し原告主張どおりの各代金を支払った事実を真実と認める。右事実によれば、浅野は、宮内と共謀のうえ、原告から売買代金名下に合計一九七二万円を騙取し、そのため原告は右同額の損害を被ったものということができる。なお、原告は、売買差益合計九〇万円も浅野及び宮内のなした右詐欺による損害である旨主張するけれども、右差益は右詐欺と相当因果関係のある損害であるということはできないから、右主張はそれ自体において失当である。

そして、浅野が被告の職務を行なうにつき右行為をなしたものであるとの点は、被告において明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。

以上によれば、本訴請求は、一九七二万円及びうち九一二万円に対する前記不法行為の日の後である昭和五三年四月一日から、うち一〇六〇万円に対する前記不法行為の日の後である同年五月一日から各支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九二条を、仮執行の宣言について同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 山﨑宏)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例