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東京地方裁判所 昭和52年(行ウ)351号 判決 1978年6月14日

原告 有限会社七洋電業

被告 通商産業大臣

訴訟代理人 高津幸一 岩淵正紀 小山隆夫 ほか七名

主文

1  本件訴えを却下する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告が昭和五二年五月一一日付で新日光造船株式会社に対してした第七長洋丸の輸出承認処分を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決

二  被告

1  本案前の申立て

主文と同旨の判決

2  本案についての申立て

(一) 原告の請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

との判決

第二原告の請求原因

一  被告は、外国為替及び外国貿易管理法第四八条第一項、輸出貿易管理令第一条の規定に基づき、昭和五二年五月一一日付で新日光造船株式会社(以下「新日光造船」という。)に対して第七長洋丸(以下「本件船舶」という。)の輸出承認処分(以下「本件処分」という。)をした。

二  しかしながら、本件処分は、次の理由により違法である。

1(一)  本件船舶には債権者新日光造船、債務者及び所有者桑村涼、被担保債権額金三二五〇万円とする抵当権が設定され、昭和四七年八月七日その旨登記が経由されていたところ、新日光造船は、シンガポール共和国内に碇泊していた同船舶について同国裁判所に対して右抵当権に基づく競売申立てを行ない、昭和五二年春ころ同国人が同船舶を競落した。そして、外国人である右競落人が同船舶の所有権取得に必要な同国の船舶登録を受けるためには日本国における船舶登録の抹消が必要であり、右抹消手続には本件処分がその前提となるため、新日光造船からの輸出承認申請に基づき本件処分がされたものである。

(二)  しかしながら、本件船舶は日本船舶であり、その所有者は日本国民であり、抵当権者も日本国法人であり、右債権関係は日本国において生じたものであるから、シンガポール共和国裁判所には同船舶の競売手続につき管轄権がない。また、本件船舶は日本国籍のまま競売されたから、外国人は競落によつて同船舶の所有権を取得することはできない。

(三)しかるに、本件処分は、本件船舶が何ら裁判管轄権を有しないシンガポール共和国裁判所において競売に附されたこと及び同国人が競落人になつたことを看過して輸出を承認したものであるから、違法である。

2  本件船舶は、輸出検査法第四条第二項、輸出検査品目令第二条第二項所定の船舶に該当し、同法上所定の各検査を受けて、その検査に合格し合格した旨の表示を附されたものでなければ輸出してはならない(同法第四条第二項、第三条)とされているところ、本件処分は、同法に基づく何らの検査も経ずにされたものであるから、違法である。

三  原告は、次の理由により本件処分の取消しの訴えにつき原告適格を有する。

1  輸出承認処分は、同処分を要する輸出契約においてその効力発生要件であり、私法上の権利関係の重要な要素となつている。そして、輸出承認に関する諸規定(輸出貿易管理規則、輸出承認事務取扱要領等)によれば、船舶の輸出承認申請の審理に当たつては、当該輸出契約に係る船舶についての担保物権の有無、保全処分の存否等の法的物的瑕疵の有無に至るまで判断の対象事項とされていることは明らかである。したがつて、輸出承認処分は、公益の保護を目的とするものであると同時に、個々の輸出契約あるいはそれに関係する私法上の権利関係の調整、保護を目的とするものと考えられる。

2  原告は、本件船舶の所有者桑村涼に対して金一六一七万一六一八円の債権を有し、昭和五一年一月一〇日右債権に基づき長崎地方裁判所より同船舶に対する仮差押命令を得てその旨の登記を経由したものであるが、このような場合には同船舶の輸出承認申請に当たり、その申請者が事前に仮差押債権者に対して輸出の承諾を求め、仮差押登記の抹消に必要な対価を支払つてその抹消手続を行なうと共に輸出承諾書の交付を受けることになつているから、原告の如き仮差押債権者は、同船舶につき輸出承認処分がされるに当たつて債権の満足を受ける地位にある。しかるに、本件処分に当たつては何ら右の如き手続がとられず、原告不知の間に一方的に本件処分がされた結果、その申請者である新日光造船に対して競売代金受領権を付与し、右代金の一人占めを可能ならしめたのであり、原告は、仮差押債権者としての権利を行使する機会を逸することとなつた。原告は、本件処分により右の如き重大な不利益を被つているから、その取消しを求めるにつき法律上の利益を有する。

四  よつて、原告は、本件処分の取消しを求める。

第三被告の答弁

一  本案前の主張

原告は、以下に述べるとおり本件処分の取消しを求めるにつき何ら法律上の利益を有しないから、原告適格を欠き、本件訴えは不適法である。

1  輸出承認処分は、私法上の権利関係の調整、保護を目的とするものではない。すなわち、輸出承認の有無は、輸出者と輸入者の間の輸出契約自体の私法上の効力あるいはその契約関係者の私法上の権利関係に何ら影響を及ぼすものではなく、輸出承認の際に判断される事項は、もつぱら国際収支の均衝の維持、外国貿易及び国民経済の健全な発展という観点からの公益に関するものに限られ、輸出契約あるいはそれに関係する私法上の権利関係のいかんは判断事項とはならない。

したがつて、本件処分によつて何ら原告の個別・具体的な権利利益が侵害されるものではない。

2  本件処分によつて原告の仮差押債権者としての法律上の地位は何ら影響を受けるものではない。

(一) 新日光造船が本件船舶につき昭和四六年九月二八日原告主張の抵当権設定契約を締結し、同四七年八月七日その旨の登記を経由したのに対し、原告がその主張の仮差押命令を得てその旨の登記を経由したのは同五一年一月一〇日であるから、原告の右仮差押は新日光造船の右抵当権に劣後するものである。しかも、仮差押債権者は、任意競売の期日の通知を受けるべき利害関係人に該当しないと解されている。このような原告の仮差押債権者としての法律上の地位は、本件処分の有無に何らかかわらないことは明らかである。

(二) 本件船舶がシンガポール共和国法に基づいて競売されたのは、同船舶が同国の港に碇泊していたために同国法の適用を受けたことによるものであつて、本件処分は何ら同国における競売手続の要件ないし条件になつていないから、本件処分が原因となつて原告において本件船舶が外国で競売されたという不利益を受けたとすることはできない。

(三) 原告の前記仮差押命令の執行として碇泊命令は出されておらず、仮差押命令の嘱託登記記入の方法によつてその執行を完了しているから、右仮差押執行は、同船舶を国内の港に止め置く効力を有せず、同船舶の外国港碇泊中に他の債権者、担保権者等から当該船舶に対する強制執行、任意競売等の手続がとられることがあり得ることを当然の前提としてされたものということができる。

したがつて、本件船舶がシンガポール共和国裁判所において競売されたからといつて、そのことが原告の得た仮差押に抵触し、あるいはそれを侵害するということはあり得ず、その競売の結果輸出承認申請があり、それに対して法令の規定に従つて承認を与えたからといつて、そのことが原告の仮差押債権者としての地位自体に不利益を与えるということはあり得ない。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因一の事実は認める。

2  請求原因二の1のうち、本件船舶には新日光造船のために抵当権設定登記が経由されていたこと、同船舶の所有者が桑村涼であつたこと、新日光造船がシンガポール共和国裁判所に対して競売申立てを行ない、同国人が同船舶を競落したこと、新日光造船から本件処分の申請がされ、それに基づいて本件処分がされたこと、本件船舶が日本船舶であり、その所有者は日本国民であり、抵当権者も日本国法人であつたことは認めるが、その主張は争う。

3  請求原因二の2のうち、本件船舶が輸出検査法第四条第二項、輸出検査品目令第二条第二項所定の船舶に該当すること、同船舶について同法に基づく検査がされていないことは認めるが、その主張は争う。

4  請求原因三の1の主張は争う。

5  請求原因三の2のうち、原告が桑村涼に対して債権を有していることは不知、長崎地方裁判所が本件船舶につき原告のために仮差押命令を発し、その旨の登記が経由されたことは認めるが、その主張は争う。

理由

一  まず、原告が本件処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有するかどうかについて判断する。

原告は、原告は本件船舶の所有者に対して債権を有し同船舶に対して仮差押命令を得てその旨の登記を経由した者であり、輸出承認処分がされるに当たり債権の満足を受け得る地位にあつたのにかかわらず、原告不知の間に本件処分がされたことにより右仮差押債権者としての権利を行使する機会を逸し、重大な不利益を被つたから、本件処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する旨を主張する。

ところで、本件処分は、外国為替及び外国貿易管理法第四八条第一項、輸出貿易管理令第一条の規定に基づいてされたものであるが、右法令所定の輸出承認制度の目的は、国際収支の均衡の維持並びに外国貿易及び国民経済の健全な発展を図るために輸出につき必要最少限度の制限をし、もつて国民経済の復興と発展に寄与することにあると解せられ(同法第一条、第四七条、第四八条第二項、同令第一条第六項)、原告が主張するように、これを超えて個々の輸出契約あるいはそれに関係する私法上の権利関係の調整、保護をもその目的とするものとは到底解することができない。また、右法令の各条項を検討しても、同令第一条第五項の規定が特定の貨物につき別段の定めをしていることを除き、同条第六項の規定が、国際収支の均衡を維持し並びに外国貿易及び国民経済の健全な発展を図るため必要があると認められるときに限り、同条第一項所定の輸出の承認をせず、又は承認に条件を附することができるとしているにとどまり、輸出承認の許否に当たり、当該貨物につき仮差押命令を得ている債権者の権利利益につき配慮すべき旨を定めた規定は見当らないし、そもそも輸出承認処分は、輸出の一般的禁止の解除にとどまり、それ自体の効力として右のような債権者の権利利益に変動を与えるものではない。

そうしてみると、原告にその主張のような権利ないし地位が存するか否かにつき検討するまでもなく、右権利ないし地位は適正な輸出承認制度の運用によつて保護されるべき法律上の権利利益に該当せず、原告の主張する理由によつては、原告は本件処分の取消しを求める法律上の利益を有しないし、輸出の承認に関する右のような法令の定めに照らせば、その他にも原告が本件処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有すると認むべき余地は全くない。

二  よつて、本件訴えは不適法であるからこれを却下することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 三好達 菅原晴郎 成瀬正己)

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