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東京地方裁判所 昭和52年(行ウ)312号 判決 1980年4月22日

東京都新宿区左門町二番地二

原告

長谷川吉雄

右訴訟代理人弁護士

堀川多門

東京都新宿区三栄町二四番地

被告

四谷税務署長

山田芳郎

右指定代理人

竹内康尋

磯部喜久男

小笠原忠

岡田攻

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた判決

一  原告

1  被告が昭和五〇年三月一二日付けでした原告の昭和四八年分所得税の更正及び過少申告加算税賦課決定(ただし昭和五〇年八月九日付け異議決定により一部取り消された後のもの)を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告の昭和四八年分所得税の課税経過は、別表一記載のとおりである。

2  原告は、昭和四八年において、株式会社百万電気(以下「百万電気」という。)及び有限会社長谷川不動産(以下「長谷川不動産」という。)の代表取締役を務め、両社のため、営業場所及び資金を提供し、連帯保証等により信用を供与し、取引先を開拓し、情報を提供するなどして、両者を保護育成する事業を営んでいたが、百万電気が倒産したため、同社の保証人となつていた原告は、一〇二、七七六、九八六円の保証債務を支払うことになり(右金額のうち六三、一一〇、一九五円は昭和四八年中に支払い、残り三九、六六六、七九一円は昭和四九年中に支払つた。)、事業の遂行上右同額の損失を受けた。すなわち、原告の事業所得は一〇二、七七六、九八六円の損失となり、この損失と不動産所得、給与所得及び分離長期譲渡所得の金額とを損益通算すれば、原告の昭和四八年分の所得金額は赤字となるのである。したがつて、被告が昭和五〇年三月一二日原告に対して行つた別表一記載の更正(以下「本件更正」という。)及び過少申告加算税賦課決定は取り消されるべきである。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1は認める。

2  同2のうち、原告が百万電気及び長谷川不動産の代表取締役を務め、百万電気の倒産に伴い一〇二、七七六、九八六円の保証債務を履行したことは認めるが、その余の主張は争う。

三  被告の主張

原告の昭和四八年分の正当な所得金額は、総所得が次の1ないし3の金額を合計した一三、五五〇、五〇〇円、分離長期譲渡所得が次の4のとおり八、七三九、四九一円で、合計二二、二八九、九九一円である。本件更正による所得金額(異議決定により一部取り消された後のもの)は、総所得が八、六五七、五六一円で、分離長期譲渡所得が一一、八九五、〇〇〇円で合計二〇、五五二、五六一円であり、同じく算出税額は、総所得に対する税額が二、五一一、九四〇円、分離長期譲渡所得に対する税額が一、七八四、二五〇円で、合計四、二九六、一九〇円である。これらの本件更正による所得金額及び算出税額は、前記の正当な所得金額二二、二八九、九九一円及びこれに対する算出税額の範囲内であるから、本件更正は適法であり、これに伴う過少申告加算税賦課決定も適法である。

原告は、百万電気の倒産のため、同社の保証人として一〇二、七七六、九八六円の保証債務を支払うことになり、原告の事業所得に同額の損失が生じたから、この損失を他の所得の金額と損益通算すべきであると主張するが、右保証債務の金額のうち昭和四八年中に支払つた六三、一一〇、一九五円については、次の4の(四)記載のとおり、その求債権の行使が不能であるとして所得税法六四条二項の規定により昭和四八年分の譲渡所得の金額の計算上これに見合う額の所得がなかつたものとして取り扱つている。また、昭和四九年中に支払つた残りの三九、六六六、七九一円についても、原告の昭和四九年分譲渡所得の金額の計算上、右規定を適用してこれに見合う額の所得がなかつたものとして取り扱つている。このように、原告主張の一〇二、七七六、九八六円の損失は、所得金額の計算の中に既に取り込まれているのであるから、これを再度他の所得の金額と損益通算すべき理由はない。そもそも、損益通算とは、不動産所得、事業所得、山林所得又は譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額があるときに、これを他の各種所得の金額から控除することをいうが、次の1ないし4のとおり、原告の各種所得の金額の計算上損失は生じていないのであるから、損益通算の余地はないのである。

1  不動産所得 七四五、九六四円

不動産所得の金額は、百万電気からの家賃収入五二〇、〇〇〇円と長谷川不動産からの未収家賃五四〇、〇〇〇円との合計一、〇六〇、〇〇〇円から必要経費三一四、〇三六円を控除した七四五、九六四円である。

2  事業所得 一一、〇五三、三一一円

原告は、昭和四〇年三月二五日宅地建物取引業者の登録をしてから昭和四八年二月六日廃業届けを提出するまでの間、個人で宅地建物取引業を営んでいた。他方、長谷川不動産は、昭和四七年一一月二四日有限会社として設立され、昭和四八年二月二日宅地建物取引業者の免許を取得し、原告の従前の営業場所で宅地建物取引業を開始した。原告の昭和四八年の事業所得は、次の(一)の金額から(二)及び(三)の金額を控除した一一、〇五三、三一一円である。

(一) 売上収入 四六、四〇一、五三一円

原告の昭和四八年中の売上収入は、次の(1)ないし(3)の合計金額四六、四〇一、五三一円である。

(1) 原告は、別表二記載のとおり、昭和四七年中に厚木市三田字根岸下の土地合計一、四五四、二八平方メートルを購入し、その一部に建売住宅一一棟を建築し、同年中にうち五棟をその敷地と共に販売した。右建売住宅の残り六棟は、昭和四八年中にその敷地と共に、長谷川不動産の名義で仲介人株式会社マエダによつて総額四〇、五〇〇、〇〇〇円で販売され、長谷川不動産は、株式会社マエダに仲介手数料として三、〇〇〇、〇〇〇円を支払い、右販売代金の三パーセントに当る一、二一五、〇〇〇円を自社の手数料として収受した。したがつて、残り三六、二八五、〇〇〇円が原告の昭和四八年分の収入となつた。

(2) 長谷川不動産は、右土地の一部に建売住宅二棟(別表三記載のA棟及びB棟)を建築し、その敷地である原告所有の土地と共に総額一八、七〇〇、〇〇〇円で販売した。右土地の販売により原告の収入となつた金額は、別表三記載の計算のとおり一〇、〇九一、一七一円である。

(3) 原告は、昭和四八年一月中にコピー売上収入二五、三六〇円を得た。

(二) 売上原価 二九、七九八、六九二円

(一)の売上収入に対応する売上原価は、別表二記載のとおり二九、七九八、六九二円である。

(三) 必要経費 五、五四九、五二八円

(一)の売上収入に対応する必要経費(売上原価を除く。)は、別表四記載のとおり五、五四九、五二八円である。

3  給与所得 一、七五一、二二五円

給与所得の金額は、百万電気からの給与一、三五〇、〇〇〇円と長谷川不動産からの給与九〇〇、〇〇〇円との合計二、二五〇、〇〇〇円から給与所得控除四九八、七七五円を控除した一、七五一、二二五円である。

4  分離長期譲渡所得 八、七三九、四九一円

分離長期譲渡所得の金額は、次の(一)の金額から(二)ないし(五)の金額を控除した八、七三九、四九一円である。

(一) 収入金額 七六、七一〇、一九五円

原告は、昭和四八年一二月二二日その所有に係る東京都新宿区左門町二番二の土地一一五・五平方メートル(以下「左門町の土地」という。)を四谷産業合資会社に一三、六〇〇、〇〇〇円で譲渡し、同年一一月二八日榎本サト及び榎本智との共有に係る同区四谷三丁目一番の土地一二二・〇七平方メートル(以下「四谷三丁目の土地」という。)を同人らと共に東京都に一二六、二二〇、三九〇円で譲渡し、原告の持分二分の一に対応する六三、一一〇、一九五円を取得した。したがつて、原告の収入金額は、一三、六〇〇、〇〇〇円と六三、一一〇、一九五円の合計七六、七一〇、一九五円である。

(二) 取得費 三、八三五、五〇九円

左門町の土地の取得費六八〇、〇〇〇円及び四谷三丁目の土地の取得費三、一五五、五〇九円の合計額である。

(三) 譲渡費用 二五、〇〇〇円

左門町の土地に係る印紙代五、〇〇〇円及び雑費二〇、〇〇〇円の合計額である。

(四) 保証債務に対する弁済額 六三、一一〇、一九五円

原告は、百万電気の保証人として負担した保証債務の支払いのため四谷三丁目の土地の譲渡代金六三、一一〇、一九五円を充てながら、百万電気にこれを求償できなかつたから、所得税法六四条二項の規定により右金額を控除する。

(五) 特別控除額 一、〇〇〇、〇〇〇円

租税特別措置法三一条二項の規定による特別控除額である。

四  被告の主張に対する認否

1  被告の主張冒頭部分は争う。

2  被告の主張1、3及び4は認める。

3  被告の主張2のうち、原告の宅地建物取引業者の登録及び廃業届け、長谷川不動産の設立及び宅地建物取引業者の免許取得、原告の土地購入と建売住宅一一棟の建築、長谷川不動産の建売住宅六棟の販売と建売住宅二棟の建築販売の事実は認めるが、その余の事実は否認する。

原告は、昭和四七年まで個人で宅地建物取引業を営んでいたが、昭和四八年一月一日個人事業時代の資産及び負債を長谷川不動産に譲渡し、事業を同社に引き継いだ。したがつて、被告主張の土地付建売住宅の販売やコピー売上げによる収入は、すべて長谷川不動産に帰属するものである。原告は、原告に所得があるかのごとく確定申告を行つたが、これは誤りである。原告は、百万電気の倒産によりばくだいな損失を被り、ぼう然自失となり、混乱した状態のまま、長谷川不動産の所得と自己の所得を混同して確定申告をしてしまつたものである。原告が長谷川不動産に譲渡した資産及び負債は次のとおりであり、両者はほぼ見合つているので、右譲渡に伴う所得も原告には何ら生じていない。

(一) 資産 三九、〇二九、二七八円

(1) 厚木市三田字根岸下一、三四八番、一、三四九番、一三五二番及び一三五三番の土地八三〇・八九平方メートル一九、一〇二、〇三六円

(2) 同所一、三四五番五及び一、三四六番六の土地一六二・七一平方メートル 三、九三七、〇〇〇円

(3) (1)及び(2)の土地上の建売住宅六棟(原告の昭和五三年九月七日付け準備書面に「五棟」とあるのは誤記と認める。)二七九・二四平方メートル 一二、一一六、四五六円

(4) 測量、造成、上下水道設備、広告等による(1)ないし(3)の不動産の増加価値 二、〇〇〇、〇〇〇円

(5) 店内設備 二九二、〇〇〇円

(6) 車輛 一四五、六七七円

(7) 汁器備品 一、四三六、一〇九円

(二) 負債 三九、〇〇〇、〇〇〇円

同栄信用金庫四谷支店に対する借入金返還債務 三九、〇〇〇、〇〇〇円

第三証拠

一  原告

1  甲第一号証及び第二号証

2  原告本人尋問の結果

3  乙号各証の成立(乙第九号については原本の存在及び成立)は認める。

二  被告

1  乙第一号証、第二号証の一ないし三、第三号証の一ないし三、第四号証、第五号証の一ないし三及び第六号証ないし第一〇号証

2  証人立田彰及び同千葉慎一郎の各証言

3  甲号各証の成立は認める。

理由

一  本件課税経過

原告の昭和四八年分所得税の課税経過が別表一記載のとおりであることについては、当事者間に争いがない。

二  原告の所得金額

原告の所得金額のうち、不動産所得が被告の主張1記載のとおり七四五、九六四円であること、給与所得が同3記載のとおり一、七五一、二二五円であること、及び分離長期譲渡所得が同4記載のとおり八、七三九、四九一円であることについては、当事者間に争いがないので、残る同2記載の事業所得について検討することとする。

1  売上収入

(一)  原告が昭和四〇年三月二五日宅地建物取引業者の登録をして以来個人で宅地建物取引業を営み、昭和四七年中に別表二記載のとおり厚木市三田字根岸下の土地合計一、四五四・二八平方メートルを購入し、その一部に建売住宅一一棟を建築し、同年中にうち五棟をその敷地と共に販売したこと、及び、長谷川不動産が昭和四八年中に右建売住宅の残り六棟をその敷地と共に販売するとともに、右土地の一部に建売住宅二棟を建築してこれをその敷地と共に販売したことについては、当事者間に争いがない。

成立に争いのない乙第二号証の二及び乙第五号証の一ないし三、原本の存在と成立に争いのない乙第九号証、証人立田彰の証言並びに原告本人尋問の結果によると、長谷川不動産は、株式会社マエダを介し、原告が建築した右の建売住宅六棟とその敷地を総額四〇、五〇〇、〇〇〇円で販売し、株式会社マエダに仲介手数料三、〇〇〇、〇〇〇円を支払つたことが認められる。

また、右掲記の証拠によると、長谷川不動産は、自己が建築した右の建売住宅二棟をその敷地と共に総額一八、七〇〇、〇〇〇円で販売したこと、及びこのうち敷地に対応する金額は一〇、四〇三、二六九円であることが認められる。

したがつて、原告が建築した建売住宅六棟及びその敷地並びに長谷川不動産が建築した建売住宅二棟の敷地(以下「本件土地建物」と総称する。)を販売したことにより、原告又は長谷川不動産に帰属した収入は、四〇、五〇〇、〇〇〇円と一〇、四〇三、二六九円の合計五〇、九〇三、二六九円から、株式会社マエダへの支払手数料三、〇〇〇、〇〇〇円を減じた四七、九〇三、二六九円と認められる。

(二)  成立に争いのない乙第二号証の二及び原告本人尋問の結果によると、原告が宅地建物取引業を営んでいた事務所には複写機が設置され、これによるコピー売上収入が昭和四八年一月中に二五、三六〇円あつたことが認められる。

(三)  そこで、右(一)の本件土地建物の売上収入四七、九〇三、二六九円と(二)のコピーの売上収入二五、三六〇円の帰属について検討するに、原告が昭和四八年二月六日宅地建物取引業者の廃業届けを提出したこと、長谷川不動産が昭和四七年一一月二四日有限会社として設立され、昭和四八年二月二日宅地建物取引業者の免許を取得し、原告の従前の営業場所で宅地建物取引業を営むことになつたこと、及び原告が長谷川不動産の代表取締役であつたことについては、当事者間に争いがない。原告は、昭和四八年一月一日に本件土地建物を含め個人事業時代の資産及び負債一切を長谷川不動産に譲渡し、事業を同社に引き継いだから、前記売上収入は長谷川不動産に帰属すると主張し、原告本人もこの主張に添う供述をしている。しかしながら、成立に争いのない甲第二号証、乙第一号証、乙第二号証の一ないし三及び乙第四号証並びに原告本人尋問の結果によると、次の事実が認められる。

(1) 原告から長谷川不動産への本件土地建物の所有権譲渡について、契約書の作成や登記はなされていない。

(2) 原告の負債の中心をなす同栄信用金庫四谷支店に対する借入金返還債務についても、長元川不動産は債務引受をなしていない。

(3) 原告は、本件の確定申告、異議申立て及び審査請求を通じ、長谷川不動産に対し事業資産を譲渡した旨の主張はなさなかつた。

(4) 反対に、原告は、本件確定申告において、本件土地建物の販売による所得を自己の事業所得として申告するとともに、長谷川不動産に対し本件土地建物の販売代金の三パーセントに当たる金額をあつせん手数料として支払つた旨申告した。

以上の事実及び前記の当事者間に争いのない事実を総合すれば、長谷川不動産は宅地建物取引業者の免許を取得した昭和四八年二月二日から宅地建物取引業を開始し、原告は本件土地建物の所有権を保有しつつその販売を長谷川不動産に委託し、長谷川不動産はこれを委託販売したものであり、その売上収入のうち販売代金の三パーセントに当たる金額は販売手数料として長谷川不動産に帰属し、残りは所有者である原告に帰属し、また、昭和四八年一月中のコピー売上収入も原告に帰属するものと認めるのが相当である。これに反する原告本人の供述は採用することができない。したがつて、本件土地建物の売上収入四七、九〇三、二六九円のうち、販売代金五〇、九〇三、二六九円の三パーセントに相当する一、五二七、〇九八円は長谷川不動産に帰属し、残り四六、三七六、一七一円は原告に帰属し、また、昭和四八年一月中のコピー売上収入二五、三六〇円も原告に帰属するから、原告の売上収入は合計四六、四〇一、五三一円になるものというべきである。

2  売上原価

成立に争いのない乙第三号証の二及び乙第五号証の一ないし三並びに証人立田彰の証言によると、本件土地建物の売上原価は二九、七九八、六九二円であることが認められる。

3  必要経費

成立に争いのない乙第二号証の一及び二並びに乙第五号証の一ないし三、並びに証人立田彰の証言によると、1記載の売上収入に対応する必要経費(売上原価を除く。)は別表四記載のとおり五、五四九、五二八円であることが認められる。

4  事業所得

したがつて、原告の事業所得は、1記載の売上収入四六、四〇一、五三一円から2記載の売上原価二九、七九八、六九二円及び3記載の必要経費五、五四九、五二八円を減じた一一、〇五三、三一一円である。

5  所得金額

そして、原告の昭和四八年分の所得金額は、総所得が右の不動産所得、事業所得及び給与所得の合計一三、五五〇、五〇〇円、分離長期譲渡所得が八、七三九、四九一円で、合計二二、二八九、九九一円である。

三  損益通算

1  昭和四八年に百万電気が倒産し、同社の保証人となつていた原告が一〇二、七七六、九八六円の保証債務を支払うことになり、同年中に六三、一一〇、一九五円、昭和四九年中に三九、六六六、七九一円を支払つたことについては、当事者間に争いがない。原告は、自己が代表取締役を務める百万電気のために保証債務を負担した行為は、同社を保護育成するという事業の遂行上の行為であり、その履行に伴う求償権の行使不能により原告の事業所得に同額の損失が生じたから、この損失と前認定の所得の金額とを損益通算すべきである旨主張する。しかし、株式会社の代表取締役が事実上自己の個人経営に係る当該会社のためいわゆる個人保証などをしたからといつて、これを会社の保護育成という一つの事業としてとらえることは、社会通念に照らし認められるところではない。原告の個人事業は前述のとおり宅地建物取引業であり、百万電気のための保証債務の負担は右事業遂行のため必要なものとはいえないから、求償権行使不能による損失を事業所得の金額計算上で必要経費に算入することは許されない。

2  のみならず、右保証債務のうち、昭和四八年中に支払われた六三、一一〇、一九五円については、被告の主張4の(四)記載のとおり、その求償権の行使が不能であるとして所得税法六四条二項の規定により昭和四八年分の譲渡所得の金額の計算上これに見合う額の所得がなかつたものとして取り扱われているのであるし、また、昭和四九年中に支払われた三九、六六六、七九一円についても、同様にして昭和四九年分の譲渡所得の金額の計算上これに見合う額の所得がなかつたものとして取り扱われていることが、成立に争いのない甲第二号証及び証人千葉慎一郎の証言により認められる。このように、原告主張の損失は譲渡所得の金額の計算上で考慮され、その分の所得がなかつたものとして取り扱われているのであるから、これを重ねて事業所得上の損失に算入し、他の所得の金額と損益通算することは、所得金額の計算上二重の控除を受けることになり、認められないものといわなければならない。このことは、所得税法六四条二項が、保証債務を履行するために資産を譲渡した場合において求償権の行使不能による損失を事業所得の計算上必要経費に算入したときは、譲渡所得の金額の計算上右損失に相当する額の所得がなかつたものとするとの特例を適用しない旨かつこ書で規定していることからも明らかである。

四  本件更正等の適法性

以上のとおり、原告の昭和四八年分の所得金額は、総所得が一三、五五〇、五〇〇円、分離長期譲渡所得が八、七三九、四九一円で、合計二二、二八九、九九一円となるが、成立に争いのない甲第一号証により認められる原告申告の所得控除三一八、三五二円を総所得の金額から減じた上、昭和四九年法律一五号による改正前の所得税法八九条一項及び同年法律一七号による改正前の租税特別措置法三一条一項の規定を適用して税額を算出すると、総所得に対する税額が四、九九三、六〇〇円、分離長期譲渡所得に対する税額が一、三一〇、八五〇円で、算出税額の合計は六、三〇四、四五〇円となる。

本件更正による所得金額(異議決定により一部取り消された後のもの)は別表一記載のとおり合計二〇、五五二、五六一円であり、同じく算出税額は合計四、二九六、一九〇円であるから、本件更正による所得金額及び算出税額は原告の右所得金額及び算出税額の範囲内のものであり、したがつて本件更正及びこれに伴う過少申告加算税賦課決定は適法というべきである。

五  結論

よつて、原告の本件請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条及び民事訴訟法八九条の規定を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佐藤繁 裁判官 泉徳治 裁判官 岡光民雄)

別表一

課税経過

<省略>

別表二

売上原価

<省略>

昭和48年分売上原価の合計 29,798,692円

別表三

土地の売上収入

1 土地付建売住宅2棟の売上収入を家屋部分の金額と土地部分の金額にあん分する計算

<省略>

(注) 上記の計算は、昭和49年7月16日付け直法2-49直所3-4国税庁長官通達「土地と建物を一括譲渡した場合の土地等の対価の区分について」によつたものである。

2 土地の売上収入10,403,269円のうちの原告の収入金額の計算

10,403,269円×(1-0.03)=10,091,171円

(注) 0.03は、長谷川不動産の手数料率である。

別表四

必要経費

<省略>

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