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東京地方裁判所 昭和52年(行ウ)292号 判決 1980年12月22日

東京都練馬区旭町一丁目三番七号

原告(昭和五二年(行ウ)第二九二号事件)

株式会社 タイコウ

右代表者代表取締役

朴洙鎬

東京都練馬区旭町一丁目二番一三号

原告(昭和五二年(行ウ)第二九三号事件)

川原道子

右両名訴訟代理人弁護士

戸田等

水田晴夫

東京都練馬区栄町二三番地

被告(右両事件)

練馬税務署長

右指定代理人

細井淳久

吉岡栄三郎

鴨下英主

渡部康

吉岡光憲

主文

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

(昭和五二年(行ウ)第二九二号事件)

一  同事件原告株式会社タイコウ(以下「原告会社」という。)

1  被告が昭和五〇年八月三〇日付でした原告会社の昭和四八年九月一日から昭和四九年八月三一日までの事業年度分法人税の更正処分及び重加算税賦課決定処分を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決

二  被告

1  原告会社の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告会社の負担とする。

との判決

(昭和五二年(行ウ)第二九三号事件)

一  同事件原告川原道子(以下「原告川原」という。)

1  被告が昭和五〇年八月三〇日付でした原告川原の昭和四九年分所得税の更正処分及び重加算税賦課決定処分を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決

二  被告

1  原告川原の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告川原の負担とする。

との判決

第二当事者の主張

一  原告らの請求原因(右両事件)

1  原告会社の昭和四八年九月一日から同四九年八月三一日までの事業年度(以下「本事業年度」という。)分の法人税について、原告会社のした確定申告、これに対し被告が昭和五〇年八月三一日付でした更正と重加算税賦課決定、原告会社の異議とこれに対する決定、更に審査請求とこれに対する裁決に至る経緯及び内容は別表一の(一)記載のとおりであり、原告川原の昭和四九年分所得税について、原告川原がした確定申告、これに対し被告が昭和五〇年八月三〇日付でした更正と重加算税賦課決定、原告川原の異議とこれに対する決定、更に審査請求とこれに対する裁決に至る経維及び内容は別表一の(二)記載のとおりである。(以下、右のとおり被告が昭和五〇年八月三〇日付でした各更正を「本件各更正」と、また各重加算税賦課決定を「本件各賦課決定」という。)。

2  しかしながら、本件各更正は所得を過大に認定した違法があり、また本件各賦課決定は右違法な更正を前提とするもので違法であるから、原告らはその取消しを求める。

二  請求原因に対する被告の認否

請求原因1の事実は認めるが、同2の主張は争う。

三  被告の主張

1  被告が認定した原告会社の本事業年度分の所得及び原告川原の昭和四九年分の所得の各内訳は次表のとおりである。

(一) 原告会社

<省略>

(二) 原告川原

<省略>

2  右の土地売却益計上もれ加算の根拠は次のとおりである。

(一) 原告らは、別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)を共有(持分各二分の一宛)していたところ、昭和四九年の本事業年度内にこれを山三建設株式会社(以下「山三建設」という。)に対し代金三八、六六七、二〇〇円で売却したとし、各自の譲渡収入額はその二分の一に相当する一九、三三三、六〇〇円であるとして(但し、原告川原は計算を誤って一九、三三三、五〇〇円であるとして)、それぞれ確定申告をした。

(二) しかしながら真実は、原告らが本件土地を売却した相手方は青木金属商事株式会社(以下「青木金属」という。)であり、代金額は六一、五一六、〇〇〇円(各自の譲渡収入額はその二分の一に相当する三〇、七五八、〇〇〇円)であったすなわち、

(1) 原告会社は、鋼鉄販売等を目的とし、資本金一〇、〇〇〇、〇〇〇円(発行済株式総数二〇、〇〇〇株)として昭和四八年三月五日設立された同族会社であって、設立当初における代表取締役は、松本一郎こと朴洙鎬(以下「松本」という。持株数九、〇〇〇株)、原告川原(持株数八、〇〇〇株)は取締役であり、本事業年度内の昭和四八年一二月一二日原告川原が代表取締役に、松本は代表権のない取締役に変更されたものの、実質的な経営者は依然として松本であった。

(2) 原告らは、同業者である株式会社寺川商店代表取締役寺川重雄から本件土地の買受人として青木金属を紹介されたものであって、昭和四九年三月八日松本方において、売主側から原告川原及び松本が、買主側から青木金属の代表取締役青木一夫、取締役経理部長天野峯雄外一名がそれぞれ出席して本件土地の売買交渉が行なわれ、その結果、坪当り三五〇、〇〇〇円、総額六一、五一六、〇〇〇円で本件土地を青木金属に譲渡する旨の一応の合意が成立した。

(3) 原告らと青木金属は右の合意に基づき、昭和四九年三月一九日右松本方において、本件土地につき、<1>代金額は坪当り三五〇、〇〇〇円、総額六一、五一六、〇〇〇円とする、<2>代金の支払いは、契約日(三月一九日)に手付金一〇、〇〇〇、〇〇〇円、同年三月二六日に残金五一、五一六、〇〇〇円を支払う、との内容の売買契約を締結した。

右売買契約締結の場には、売主側から原告川原及び松本が買主側から前記天野峯雄外二名がそれぞれ出席した。

(4) 右売買代金のうち手付金一〇、〇〇〇、〇〇〇円は、昭和四九年三月一九日現金五、〇〇〇、〇〇〇円及び同額の東海銀行上野支店振出に係る自己宛小切手(いわゆる預手)が松本及び原告川原に交付され、また残金五一、五一六、〇〇〇円は同年三月二六日同銀行上野支店振出に係る三〇、〇〇〇、〇〇〇円及び二一、五一六、〇〇〇円の預手二枚が、いずれも青木金属から松本に交付されて、原告らに対する支払いがなされた。

右預手のうち、手付金として交付された五、〇〇〇、〇〇〇円の預手は、松本が前記寺川重雄に対し小切手交換を依頼し、同人はこれと引き換えに右寺川商店振出の第一勧業銀行成増支店の金額五、〇〇〇、〇〇〇円の小切手一枚を松本に交付し、松本はこれを同支店で現金化した。また残代金支払いのため交付された預手のうち三〇、〇〇〇、〇〇〇円の預手は同年三月二八日朝銀東京信用組合池袋支店の原告会社名義の普通預金口座に振込まれ(なお、この三〇、〇〇〇、〇〇〇円のうち、三、二〇〇、〇〇〇円は同年四月三日右支店の松本名義の普通預金口座に、うち一六、二三三、六〇〇円は同日右支店の原告川原名義の普通預金口座にそれぞれ振替えられている。)、また二一、五一六、〇〇〇円の預手は、うち一六、五一六、〇〇〇円が同年三月二六日東海銀行上野支店の原告川原の長男朴泰奉(以下「泰奉」という。)名義の普通預金口座に入金された外、残金五、〇〇〇、〇〇〇円は同日右支店の泰奉名義の定期預金(昭和五〇年三月二六日期日)とされた。

(5) 本件土地の所有権移転登記は、昭和四九年三月二九日付で原告らから青木金属に対する同月二六日売買を原因としてなされた。

(6) 以上のとおり本件土地の売買契約は、原告川原が昭和四九年三月一九日原告会社の代表取締役兼本人として締結したものであるが、仮に原告川原が自ら意思表示をしたものでなかったとしても、松本が原告川原から代理権を授与され、その代理人として行なったものであり、また仮に松本が本件土地を青木金属に売渡す代理権を授与されていなかったとしても、これを他に売却する代理権を付与されていたところ、原告川原は松本の自宅を兼ねた原告会社の事務所において本件土地の権利証及び実印を保管し、松本はその使用を許されていた等の事情によれば、青木金属には松本に権限ありと信ずべき正当な理由があった。従って、松本が原告らの代理人として青木金属との間で締結した本件土地についての売買契約は、民法第一一〇条の表見代理により、原告らに対して効力を生ずるものというべきである。

(三) 右のとおりであるから、本件土地譲渡による真実の収入額と申告に係る収入額との差額、すなわち原告会社につき一一、四二四、四〇〇円、原告川原につき一一、四二四、五〇〇円をそれぞれ所得金額(但し、原告川原については分離短期譲渡所得金額)に加算すべきである。

3  以上の所得金額に基づく原告会社の本事業年度分の法人税額及び原告川原の昭和四九年分の所得税額の計算は別表二の(一)及び(二)記載のとおりであり、また、原告らは以上のとおり本件土地の譲渡先及び収入金額を仮装し、これによる売却益の一部を除外してそれぞれ確定申告書を提出したものであるから、国税通則法第六八条第一項に基づき重加算税を課すべきものであり、その金額の計算は別表三の(一)及び(二)記載のとおりである。

四  被告の主張に対する原告らの認否及び主張

1  被告の主張1の事実は、土地売却益計上もれを加算すべきであるとの点は争うが、その余の事実は認める。

2  同2(一)の事実は認める。

3  同2(二)のうち、冒頭の事実は否認する。(1)の事実のうち、原告会社が同族会社であり、松本が実質的な経営者であったとの点は否認するが、その余は認める。(2)、(3)の事実のうち、原告らの行為に関する部分は否認するが、その余は不知。(4)の事実のうち、原告らに代金の支払いがなされたとの点は否認するが、その余の事実は認める。(5)の事実は認める。(6)の事実は否認する。

原告川原は、昭和四九年三月一〇日変血圧で倒れ、人事不省に陥り、同日から同年四月二日まで国立埼玉病院に入院していたのであって、原告川原が本件土地の売買交渉及び契約締結の場に出席し、売買の意思表示をしたことは全くないし、売買代金の受渡しにも関与せず、松本に代理権を授与したこともない。本件土地の売買は松本が勝手に山三建設との間で行なったことであって、無効である。

4  被告の主張2(三)の主張は争う。松本が行なった本件土地の売買によって原告らが受けた利得は、前記申告額のみである。

5  同3の事実のうち、計算関係は認めるが、その余は否認する。

第三証拠

一  原告ら

1  甲第一号証、第二号証の一ないし四、第三ないし第六号証、第七号証の一ないし三及び第八ないし第一二号証を提出。但し、甲第一一号証のうち原告会社代表取締役川原道子作成の部分は偽造文書である。

2  証人鄭月子及び同川口照男の各証言並びに原告会社代表者松本一郎こと朴洙鎬及び原告川原道子の各本人尋問の結果を援用。

3  乙第一号証の一及び第一二号証の五の成立は不知。第一号証の二ないし五の原本の存在及び成立はいずれも不知。第一二号証の二及び三の成立は否認する。その余の乙号各証の成立(写をもって提出されたものについては原本の存在を含む)はすべて認める。

二  被告

1  乙第一号証の一ないし五、第二、第三号証、第四ないし第六号証の各一、二、第七号証、第八号証の一、二、第九ないし第一一号証、第一二号証の一ないし七、第一三、第一四号証、第一五号証の一、二、第一六ないし第二〇号証、第二一号証の一ないし三及び第二二号証を提出(但し、第一号証の二ないし五、第四ないし第六号証の各一、二、第八号証の一、二、第九号証、第一四号証、第一五号証の一、二、第一六ないし第二〇号証及び第二一号証の一ないし三はいずれも写をもって提出)。

2  証人川口照男の証言を援用。

3  甲第七号証の一ないし三、第一一及び第一二号証の成立は不知。その余の甲号各証の成立はすべて認める。

理由

一  請求原因1の事実は当事者間に争いがなく、被告の主張1の事実は、土地売却益計上もれを加算すべき点を除き、当事者間に争いがない。

二  そこで、右土地売却益計上もれ加算の可否について判断する。

1  本件土地は原告らの共有(持分各二分の一)であったところ、昭和四九年三月二九日付で青木金属に対し同月二六日売買を原因として所有権移転登記がなされていること、ところが原告らは本件土地を山三建設に対し代金三八、六六七、二〇〇円で売却し、各自の譲渡収入額はその二分の一に相当する一九、三三三、六〇〇円(但し、原告川原は計算の誤りにより一九、三三三、五〇〇円)であるとして、それぞれ確定申告をしたことは当事者間に争いがない。

2  成立に争いのない甲第三ないし第六号証、第九号証、乙第二、三号証、第七号証、第一〇、一一号証、第二二号証、原本の存在と成立に争いのない乙第四ないし第六及び第八号証の各一、二、第九号証、第一四号証、第一六ないし第二〇号証、第二一号証の一ないし三、原告川原の尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第七号証の一ないし三、証人川口照男の証言により真正に成立したものと認められる乙第一号証の一ないし五(同号証の二ないし五については原本の存在を含む)、証人鄭月子の証言並びに原告会社代表者松本及び原告川原の各本人尋問の結果(但し、原告川原の尋問の結果中、後記採用しない部分を除く)によれば、次の事実が認められる。

(一)  原告川原と松本とは昭和二五年秋ころ福岡市において事実上の婚姻生活に入り(昭和二七年一〇月二二日婚姻の届出)、二人の間に長男泰奉の外、一男一女をもうけたが、昭和三五年一〇月二七日に協議離婚し、松本はそのころ鄭月子と婚姻し、昭和三九年ころ上京して東京都練馬区旭町一丁目四番一〇号に居住して屑鉄商を営み、その後原告川原と右泰奉ら子供達を呼び寄せて、近くに住まわせていた。なお、原告川原は松本との離婚後の昭和三九年一一月、同人との子・泰成を出産し、松本は昭和四七年九月一九日これを認知している。

(二)  松本は原告川原とともに、昭和四八年三月五日、鋼鉄類、鋼材の販売等を目的とし、資本金一〇、〇〇〇、〇〇〇円(発行済株式総数二〇、〇〇〇株、うち松本の持株数九、〇〇〇株、原告川原の持株数八、〇〇〇株)として原告会社を設立し、当初は松本が代表取締役、原告川原が取締役となり、同年一二月一二日代表取締役を松本から原告川原に変更したが(以上の事実は当事者間に争いがない。)、原告会社の仕入れ、加工、販売等の仕事は一貫して専ら松本が行ない、原告川原は計理事務を分担していた。また、原告会社の事務所は松本の右住居から約一〇メートル離れた東京都練馬区旭町一丁目三番七号に置かれたが、松本は原告川原及び泰奉ら子供達を右事務所の一角の住居に住まわせた。

(三)  本件土地は、原告らが昭和四八年三月ころ代金折半で購入したものであったが、原告会社は同年八月三一日で終る事業年度において二、六一九、〇〇〇円余の欠損を計上し、資金繰りも苦しく、松本は原告川原に対し、本件土地を売らなければ仕方がない旨相談し、原告川原においても、売却先及び代金等の具体的な点はさて措き、これを他に売却すること自体はやむを得ないとして、その旨松本に話していた。

(四)  そこで松本は、かねて知り合いの山三建設の代表取締役野見山巌と本件土地に建売住宅を建てる相談などをしたが、松本としては早く金がほしいとして、一括して買受ける買手をさがしていたところ、取引先の株式会社寺川商店の代表取締役寺川重雄から青木金属を紹介され、昭和四九年三月八日右寺川の案内で青木金属の代表取締役青木一夫、取締役経理部長天野峯雄及び東京営業所の菅原忠利らが前記松本方を訪れ、松本との間で本件土地売買の交渉をし、その結果坪当り三五〇、〇〇〇円(一七五・七六坪の計算で代金総額六一、五一六、〇〇〇円)で売買する旨の一応の合意を見た。

(五)  そこで、あらためて同年三月一九日、青木金属の右天野及び菅原外一名が松本方を訪れ、前記金額によって売買を行なう旨を松本との間で確認したうえ、手付金として青木金属振出に係る金額、五、〇〇〇、〇〇〇円の小切手二枚を松本に交付したところ、同人から現金化を求められたため、右天野ら三名は直ちに青木金属の取引銀行である東海銀行上野支店に赴き、これを現金五、〇〇〇〇〇〇円及び同支店振出の五、〇〇〇、〇〇〇円の預手一枚に換え、松本方において同人にこれを交付した。そして更に同年三月二六日、青木金属の前記青木、天野及び菅原が松本方を訪れ、残代金の支払いとして東海銀行上野支店振出の金額三〇、〇〇〇、〇〇〇円及び二一、五一六、〇〇〇円の預手二枚を松本に交付した(以上の現金及び預手の松本への交付の点は当事者間に争いがなく、そして右預手のうち、手付金支払いのため交付された分は他の小切手と引換の上現金化され、残金支払いのため交付された分は原告会社及び泰奉名義の預金口座に分けて振込まれ、原告会社名義の預金口座に振込まれたものの一部は更に原告川原及び松本の預金口座に振替えられたのであって、その経緯が被告の主張2(二)(4)記載のとおりであることは当事者間に争いがない。)。

(六)  右残代金授受の際、松本の要請により、売主を山三建設、買主を青木金属とし、代金六一、五一六、〇〇〇円として本件土地を売買する旨の昭和四九年三月一九日付売買契約書(乙第九号証はその写)が作成され、また原告らの手元には売主を原告会社とし、買主を山三建設として、代金三八六六七、二〇〇円で本件土地を売買する旨の同年一月一四日付売買契約書(甲第一一号証)が存在しているが、これは後日松本と野見山厳が日付を遡らせて作成したもので、いずれも仮装の売買契約書である。

(七)  原告川原は、昭和四九年三月一〇日高血圧のため倒れて人事不省に陥り、同日から同年四月二日まで国立埼玉病院に入院し、この間原告会社の業務は全部松本が執り行なっていたところ、松本は原告川原が退院して一、二か月後、原告川原に対し本件土地を売却したことを説明したが(但し、その説明は代金三八、六六七、二〇〇円で山三建設に売却したというのであった。)、原告川原はこのことについて特段に異を唱えた形跡もなく、その後同年一〇月三一日には本件土地の売却益を原告会社の所得に加算して自ら法人税の確定申告をし、翌五〇年三月一三日には同様にして原告川原の所得税の確定申告をした(確定申告の点については、前記のとおり、当事者間に争いがない。)

以上のとおり認められ、これらの事実によれば、松本は原告らを代理して青木金属に対し本件土地を代金六一、五一六、〇〇〇円で売渡し、その代金を受領したものであって、当事松本は原告会社代表取締役兼本人である原告川原から本件土地を処分する包括的な代理権を授与されていたものと認めるのが相当である。

右の認定に反する原告川原の供述部分は、前掲各証拠に照らし採用できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

3  してみると、松本が原告らを代理して本件土地を譲渡したことに基づく法的効果は原告らに帰属したものというべく、その経済的成果である代金の二分の一宛と各自の申告に係る譲渡収入額との差額、すなわち原告会社につき一一、四二四、四〇〇円、原告川原につき一一、四二四、五〇〇円をそれぞれの所得金額(但し、本件土地の取得時期は前記のとおり昭和四八年三月であるから、原告川原については昭和四九年法律第一七号による改正後の租税特別措置法第三二条により分離短期譲渡所得)に加算すべきである。原告らは、松本が行った本件土地の譲渡により原告らが利得した額は申告額の限度であると主張するが、松本が代金を受領した後の清算関係は原告らと松本との間で解決すべき問題であって、原告らの譲渡所得の成否に直接影響を及ぼすものではないというべきである。

右のとおりであって、各自の申告額に右の差額を加算した各所得及び当事者間に争いのない被告の主張3の計算諸元に基づいて税額を算出すると別表二の(一)及び(二)記載のとおりとなるから、これと同趣旨の本件各更正に違法はない。

三  次に本件各賦課決定の適否について判断する。

1  前段認定の事実によれば、原告らの代理人松本が本件土地の売買に関し、仮装の売買契約書二通を作るなどして所得を隠ぺいしたことが明らかであるところ、前示のとおり松本は当時原告会社の取締役であって、原告川原と分担してその業務を執行し、ことに原告川原が入院中は全面的にその業務を行なっていたものであるから、松本のした隠ぺい又は仮装の行為に基づいて、原告川原が原告会社の法人税の確定申告をした以上、松本のした隠ぺい又は仮装の行為は原告会社代表者の行為と同視するのが相当である。

2  また、原告川原の所得税の関係についてみても、松本は前示のとおり原告川原個人とも密接な関係を有していたところ、証人川口照男の証言並びに原告会社代表者松本及び原告川原の各本人尋問の結果によると、被告所部の職員は原告会社の法人税調査のため昭和五〇年二月一四日ころ原告会社に赴き、その際応対した松本及び原告川原に対し、青木金属や東海銀行上野支店等の調査の結果に基づき、本件土地の真実の売却先は青木金属であって、代金額は六一、五一六、〇〇〇円であるとして質問し、これが契機となって、原告川原は松本から、前認定のような真実の売却先と代金額を説明されたことが認められる。してみると、原告川原が同年三月一三日所得税の確定申告をした際は、すでに松本のした隠ぺい又は仮装の行為を認識していたものと推認されるのであり、にもかかわらず松本のかかる行為に基づいて計算した確定申告をした以上、自らも所得の一部を隠ぺい又は仮装して確定申告をしたものといわざるを得ない。

もっとも、前記原告会社代表者松本の本人尋問の結果中には、松本は当時同居していた妻鄭月子と別れることとなり、その手切金ないし同女との間の子供の生活費として一三、〇〇〇、〇〇〇円を都合するため、原告川原にも隠して売買代金を過少に仮装し、ごまかしたとの趣旨の部分があるが、証人鄭月子の証言によれば、離婚の話が出たのは本件土地の売買の後であって、本件土地売買は右離婚とは関係がなく、もっぱら原告会社の資金調達のためにされたものと認められる。さらに、原本の存在及び成立に争いのない乙第一五号証の一、二及びこれにより成立を認める甲第一二号証によれば、原告川原自身も内容虚偽の領収書の作成等本件土地売買に関する隠ぺい工作に関与している事実が認められる。そうして、以上認定の事実に照らせば、前記原告会社代表者の本人尋問の結果は採用できず、他に原告川原が少なくとも確定申告当時においては本件土地の売買に関する真相を認識していたとする前記認定を左右するような証拠は存在しない。

3  以上によれば、原告らに対し重加算税を課すべきであり、そこでその額について検討するに、原告会社については本件更正による所得の増加額一一、四二四、四〇〇円は右隠ぺい又は仮装に基因するものであり、当事者間に争いのない被告の主張3の計算諸元に基づいて重加算税額を算出すると別表三の(一)記載のとおりとなる。

次に原告川原については、本件更正による分離短期譲渡所得の増加額一一、四二四、五〇〇円のうち一〇〇円は、計算を誤って本件土地譲渡による収入額を一〇〇円過少に申告したこと(一〇〇円が計算の誤りであることについては当事者間に争いがない。)に伴うものであるから、この部分については隠ぺい又は仮装に基因したものとはいえない。ところで重加算税を課すべき場合、税額計算の基礎となる事実に隠ぺい又は仮装以外の事由に基づくものがあるときは、その事実のみによって更正があったと仮定した場合の税額を控除すべきところ(国税通則法第六八条第一項、同法施行令第二八条第一項)、当事者間に争いのない被告の主張3の計算諸元によると、隠ぺい又は仮装事由以外の事実によって更正があったと仮定した場合の分離短期譲渡所得の額は申告額八、五三三、五〇〇円に一〇〇円を加えた八、五三三、六〇〇円であり、これに対応する税額を算出するには一、〇〇〇円未満の端数を切り捨てるから(国税通則法第一一八条第一項)、算出税額は申告に係る税額と変りがなく(成立に争いのない甲第二号証の四のうち、<D>欄の<2>、<6>、<9>参照)、結局一〇〇円の過誤の点は重加算税の額に影響がない。そしてその余の計算は別表三の(二)記載のとおりである。

してみると、本件各賦課決定にも違法はない。

四  よって、原告らの本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条、第九三条第一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤田耕三 裁判官 原健三郎 裁判官 田中信義)

別紙

物件目録

東京都練馬区旭町一丁目六六四番九

一 宅地 五八一・〇四平方メートル

以上

別表一

(一) 原告会社の課税処分の経緯

<省略>

(二) 原告川原の課税処分の経緯

<省略>

別表二

(一) 原告会社の更正に係る法人税額

<省略>

(二) 原告川原の更正に係る所得税額

<省略>

但し、右適用法律の所得税法は昭和四九年法律第一三号、法人税法は同年法律第一六号、租税特別措置法は同年法律第一七号による改正後のもの。

別表三

(一) 原告会社の重加算税額

<省略>

(注1)原告の申告税額は一七一万三八〇〇円であるが、正しい税額計算によれば一七九万一七〇〇円となり、申告税額は、七万七九〇〇円過少である。従って重加算税の対象となる税額は、更正により納付すべき税額四五三万三四〇〇円から、右七万七九〇〇円を差し引いた四四五万五〇〇〇円(千円未満の端数切捨)となる。

(二) 原告川原の重加算税額

<省略>

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