大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和52年(手ワ)1713号 判決 1980年3月24日

原告 大久保正治

右訴訟代理人弁護士 木村敢

被告 サニーペット株式会社

右代表者代表取締役 若林孝太郎

右訴訟代理人弁護士 稲葉隆

主文

一  被告は原告に対し金八二万八六〇〇円及びこれに対する昭和五〇年一二月八日から支払済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は七分し、その五を原告の負担とし、その二を被告の負担とする。

四  この判決一項は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し金二九〇万〇一〇〇円及びこれに対する昭和五〇年一二月八日から支払済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  原告は別紙手形目録のように手形要件が記載されかつ裏書連続のある約束手形七通(以下、本件各手形という)を現に所持している。

2  被告会社は本件各手形を振出した。

3  本件各手形は支払呈示期間内に支払場所に呈示されたが、いずれも支払を拒絶された。

よって、原告は被告に対し本件手形金合計金二九〇万〇一〇〇円及びこれに対する本件各手形の最終支払期日後の日である昭和五〇年一二月八日から支払済に至るまで手形法所定の年六分の割合による利息の支払を求める。

二  請求の原因に対する認否

1  請求の原因1項の事実は認める。

2  同2項の事実は否認する。本件各手形は登記簿上の本店所在地を東京都杉並区和泉四番八号とする訴外サニーペット株式会社(以下、訴外会社という)が提出したものである。

3  同3項の事実は認める。

三  仮定抗弁

1(一)  本件各手形の受取人である訴外向後政二は真実は訴外会社が振出したものであることを知って右各手形を取得した。

(二)(1) 本件(一)(二)(四)手形の第一被裏書人である訴外北川隆之、本件(三)手形の第一被裏書人である訴外株式会社カスガ商事、本件(六)手形の第一被裏書人である訴外寺村敏夫は、いずれも右(一)の事情及び被告会社を害することを知って右各手形を取得した。そして、原告は右各手形を期限後裏書により取得した。

(2) 本件(五)(七)手形の第一被裏書人である原告は右(一)の事情及び被告会社を害することを知って右各手形を取得した。

または本件(五)(七)手形の第一被裏書人である原告は受取人である訴外向後政二から隠れた取立委任裏書により右各手形を取得した。

2  本件(一)ないし(四)手形の訴外北川隆之から原告に対する譲渡(本件(三)手形は実質的には向後政二→株式会社カスガ商事→向後政二→北川隆之→原告と譲渡されたものである)、及び本件(六)手形の訴外寺村敏夫から原告に対する譲渡は、いずれも訴訟行為をさせることを主たる目的としてされたものであるから、右各譲渡は信託法一一条に違反し無効であり、原告は手形上の権利を取得しない。

3  被告会社は、訴外会社が有する左記抗弁をもって、原告に対抗できると解すべきである。なぜなら、もし、被告会社が左記抗弁をもって原告に対抗できないとすれば、真実の振出人である訴外会社は原告に対して支払を拒むことができるのに反し、真実の振出人ではない被告会社が支払の責任を負うことになり、極めて不合理な結果となるからである。

(一)(1) 訴外会社は昭和四八年一二月一日に訴外向後政二を通して同人名義で株式会社日本クレジットビューローから金員を借入れたのであるが、訴外会社は同日付で右向後に対し右借入金の支払(二四回割賦払)を委任し、そのため本件各手形を含む二四枚の約束手形を向後に振出交付した。しかして、訴外会社は昭和四九年一〇月末に向後との右委任契約を解除したから、訴外会社は向後に対し本件手形金の支払義務はない。

(2) 仮定抗弁1項の(二)に同じ。

(二) 訴外会社に対する本件手形金請求権は、いずれも満期の日から三年をもって時効により消滅している。

四  仮定抗弁に対する認否

1  仮定抗弁1項の(一)の事実は不知。同項の(二)の事実のうち、原告が本件(一)ないし(四)、及び(六)手形を期限後裏書により取得したことは認めるが、その余の事実は否認する。

2  同2項の事実は否認する。

3  同3項の冒頭の主張は争う。被告会社に対する請求に対し、訴外会社の有する抗弁を主張するのは失当である。同項(一)(1)の事実は不知。(一)(2)に対する認否は右仮定抗弁に対する認否1項の後段に同じ。

第三証拠関係《省略》

理由

一  請求の原因1項及び3項の事実については当事者間に争いがない。

本件各手形の振出行為について、原告は被告会社がなしたと主張し、被告会社は訴外会社がなしたと主張するので、以下この点について検討する。ところで、商号及び代表者を同一にする法人が複数存在する場合において、手形を振出すときは、どの法人のためにするかを手形面上明示すべきである。手形面上の表示からどの法人のためになされたか判示しがたい場合においては、手形の文言証券性からして手形外の証拠によってどの法人のために振出されたかを決することは許されず、手形の流通性保護のため、手形所持人は複数の法人いずれに対しても手形金の請求ができ、請求を受けた法人は原則として振出人としての責任を免れないが、真実どの法人のためになされたかを知っている相手方に対しては手形法一七条、七七条の悪意の抗弁をもって対抗できると解するのが相当である(最高裁昭和四七年二月一〇日判決参照)。そして、これを本件についてみると、《証拠省略》によれば、被告会社と訴外会社は商号及び代表者が同一であること、両会社の代表者である若林孝太郎は、本件各手形の振出人欄に「東京都渋谷区代々木2丁目39番地1号サニーペット株式会社代表取締役若林孝太郎」と表示したゴム印と「サニーペット株式会社代表取締役印」と刻した印章を押捺して、本件各手形を振出したこと、右振出人欄の肩書地は被告会社の登記簿上の本店所在地とも異なるし、訴外会社のそれとも異なることが認められる。右認定事実からすれば、本件各手形の振出人は、手形面上からは被告会社であるとも訴外会社であるとも解することができるものと言わざるをえず、そして本件各手形の所持人である原告は被告会社を振出人として本訴請求をしているのであるから、被告会社は本件各手形について振出人としての責任を免れることはできないと言わなければならない。

二  そこで、被告会社主張の抗弁1について検討する。《証拠省略》によれば、本件各手形は真実は訴外会社が振出したものであること、向後政二は訴外会社の取締役であるうえ、本件各手形振出の直接かつ実質上の相手方であって、右各手形振出の事情を知悉していることが認められる。そして、《証拠省略》によれば、向後政二は被告会社の存在は知らなかったものと推認されるが、前記認定事実からすれば、向後政二は本件各手形を振出したのは訴外会社であることを知って取得したと認めざるをえない。しかし、本件各手形の第一被裏書人である訴外北川隆之、同株式会社カスガ商事、同寺村敏夫及び原告が本件各手形を取得する際に真実の振出人は訴外会社であることを知っていたことを認めるに足る証拠はない。かえって、《証拠省略》によれば、被告会社と訴外会社は本件手形振出当時はともに登記簿上の本店所在地に営業所はなく、両会社ともに本件手形の肩書地である東京都渋谷区代々木二丁目三九番地一号を事実上の本店所在地として営業を行なっていたこと、そして、両会社とも右営業所において、電話はもちろん伝票等の計算書類から用箋に至るまで共通のものを使用しており、また外部に対して両会社を区別して応対することもしていなかったこと、前記本件各手形の第一被裏書人らは、若林孝太郎を代表者とするサニーペット株式会社と何らかの関係を持っていたのであるが、右商号及び代表者を同一にする会社が被告会社と訴外会社と二つ存在することはもちろん、自分達が関係していたのが被告会社であるのか訴外会社であるのかも知らなかったことが認められ、右認定事実からすれば、本件各手形の第一被裏書人らは、取得に際し、本件各手形の真実の振出人が訴外会社であることは知らなかったと推認せざるをえない。また、本件(五)(七)手形について向後から原告に対する裏書が隠れた取立委任裏書であると認めるに足る証拠はない。とすれば、その余の事実について判断するまでもなく、被告会社主張の抗弁1は理由がない。

三  次に、訴訟信託の抗弁について検討する。《証拠省略》によれば、本件(一)(二)(四)手形は裏書記載のとおり向後政二から北川隆之へ、北川から原告へ譲渡されたものであり、本件(六)手形も同じく裏書記載のとおり向後から寺村敏夫へ、寺村から原告へ譲渡されたものであること、本件(三)手形は裏書上は向後から株式会社カスガ商事へ、カスガ商事から原告へと譲渡された形になっているが、実質的には向後からカスガ商事へ、カスガ商事から向後へ、向後から北川へ、北川から原告へと譲渡されたものであること、北川は向後に対する九〇万円の貸金の見返りとして本件(一)ないし(四)手形を受取り、寺村は向後に対する三五万円位の貸金の見返りとして本件(六)手形を受取ったのであるが、原告は元同僚であった北川及び寺村から右各手形の期限後(期限後であることは当事者間に争いがない)に取立てを頼まれて右各手形の譲渡を受けたのであり、原告はその際両名に対し各々五万円ずつ支払っているにすぎず、取立てができた場合には三人で分配する約束になっていること、右各手形はいずれも契約不履行を理由に支払拒絶されていることに加えて、原告の職業(農業兼日雇)及び原告と若林孝太郎の従前の関係からして、原告が右各手形を訴訟外において取立てうる可能性は極めて少なく、また実際にも訴訟外の取立行為はしていないことが認められる。以上の事実を総合勘案すれば、北川及び寺村から原告に対する右各手形の譲渡は主として原告の名義をもって被告会社に対する訴訟行為を行なうことを目的としてなされた信託行為であり、信託法一一条に違反し無効であると言わざるをえない。したがって、原告の右各手形についての本訴請求は理由がないことに帰する。

四  最後に、残された本件(五)及び(七)手形について抗弁3を検討する。ところで、第三者固有の抗弁を使用して、自己に対する請求を排斥することは、法定されている場合(民法四五七条二項等)を除いては、相手方の請求が権利濫用である場合等援用を認めないと不合理な結果となる特段の事情がある場合に限られると解するのが相当である。これを本件についてみると、被告会社自身が右(五)及び(七)手形についての原因関係等の抗弁が訴外会社固有のものであることを自認している以上、訴外会社固有の右抗弁を被告会社が援用できないとしても何ら不合理な結果とはならないと言わなければならない。なぜなら、本件において真実の振出人でない被告会社が振出人としての責任を負わざるをえなくなったのは前認定のとおり手形面上において振出人がどちらの会社であるかを明示しなかった被告会社及び訴外会社に責任があるのであり、真実の振出人を知っている者に対しては前記のように悪意の抗弁をもって対抗すれば足りるのであって、原告のようなそれ以外の者が訴外会社固有の抗弁をもって対抗される理由はないからである。したがって、被告会社の抗弁3の主張は(一)、(二)の事実について判断するまでもなく失当である。

五  以上のとおりであって、被告会社は原告に対し本件(五)及び(七)手形の手形金合計金八二万八六〇〇円及びこれに対する右各手形の最終支払期日後の日である昭和五〇年一二月八日から支払済に至るまで手形法所定の年六分の割合による利息を支払う義務がある。

よって、原告の本訴請求は右の限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条二項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 市瀬健人)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例