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東京地方裁判所 昭和52年(ワ)5930号 判決 1979年3月22日

昭和五二年(ワ)第七二三号事件原告

斉藤隆夫

ほか一名

昭和五二年(ワ)第五九三〇号事件原告

宮沢ヨシ子

昭和五二年(ワ)第七二三号・第五九三〇号事件被告

蛯原勝正

ほか一名

昭和五二年(ワ)第七二三号事件被告

関根忠由

主文

一  被告蛯原勝正、同関根忠夫、同関根忠由は連帯して、原告斉藤隆夫に対し金四八二万四、五八〇円及び内金四四二万四、五八〇円に対する昭和五〇年一二月三一日以降支払済みに至るまで年五分の割合の金員を、原告斉藤国子に対して金九〇万円及び内金八〇万円に対する昭和五〇年一二月三一日以降支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

被告蛯原勝正、同関根忠夫は各自、原告宮沢ヨシ子に対し金二八六万八、四二〇円及びこれに対する昭和五二年七月八日以降支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告斉藤隆夫、同斉藤国子の被告蛯原勝正、同関根忠夫、同関根忠由に対するその余の請求及び原告宮沢ヨシ子の被告蛯原勝正、同関根忠夫に対するその余の請求は、いずれも棄却する。

三  訴訟費用は、原告斉藤隆夫、同斉藤国子と被告蛯原勝正、同関根忠夫、同関根忠由との間に生じた分についてはこれを二分し、その一を原告斉藤隆夫、同斉藤国子の負担とし、その余を被告蛯原勝正、同関根忠夫、同関根忠由の負担とし、原告宮沢ヨシ子と被告蛯原勝正、同関根忠夫との間に生じた分についてはこれを三分し、その二を原告宮沢ヨシ子の、その余を被告蛯原勝正、同関根忠夫の負担とする。

四  その判決の第一項は、仮に執行することができる。

事実

第一申立

昭和五二年(ワ)第七二三号事件につき

(原告ら)

一  被告蛯原勝正、同関根忠由、同関根忠夫は連帯して、原告斉藤隆夫に対し金八四〇万八、〇〇〇円及び内金七六四万八、〇〇〇円に対する昭和五〇年一二月三一日以降支払済みに至るまで年五分の割合による金員を、原告斉藤国子に対し金六四四万一、〇〇〇円及び内五八六万一、〇〇〇円に対する昭和五〇年一二月三一日以降支払済みに至るまで年五分の割合による金員を、それぞれ支払え。

二  訴訟費用は、被告らの負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言。

(被告ら)

一  原告らの請求を棄却する。

二  訴訟費用は、原告らの負担とする。

との判決。

昭和五二年(ワ)第五、九三〇号事件につき

(原告)

一  被告蛯原勝正、同関根忠夫は各自、原告に対し金七五六万四、三二九円及びこれに対する昭和五二年七月八日以降支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は、被告らの負担とする。

との判決。

(被告ら)

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

との判決。

第二主張

(原告ら)

「請求原因」

一  事故の発生

昭和五〇年一二月三〇日午後五時三五分頃、福島県岩瀬郡鏡石町大字久来石掘向一六番地先の交差点において、白河市方面から進行して来て矢吹町方面に向け同交差点を右折しようとした被告蛯原運転の普通乗用車(福島五五は四七二一、以下「蛯原車」という)と、これに対向して須賀川市方面から進行して来た被告関根忠由運転の普通乗用車(練馬五五な五二八五、以下「関根車」という)とが衝突し、関根車に同乗していた訴外斉藤尚(当時一五歳)は全身打撲、脳損傷等の傷害を負い同日午後六時一〇分頃死亡するに至つた。

二  被告らの責任

本件事故当時、被告蛯原は蛯原車の、被告関根忠夫は関根車をそれぞれ所有し、自己のため運行の用に供していたものであるから自賠法三条に基づき本件事故による損害の賠償責任を負う。

被告関根忠由は、蛯原車が本件事故現場の交差点を右折しようとしていたのであるから同車の動きに充分注意し、自車が蛯原車と衝突するのを回避すべき注意義務があるのにこれを怠り漫然と走行した過失により本件事故を惹起させたのであるから不法行為者としてやはり賠償責任がある。

三  原告らの地位等

被害者斉藤尚は、原告斉藤隆夫とその妻であつた原告宮沢ヨシ子の子で、昭和三五年一二月二八日生れ、事故当時中学三年の健康な男子であつた。

なお原告斉藤隆夫と同宮沢ヨシ子は昭和四一年八月二九日協議離婚し、そして原告斉藤隆夫において被害者斉藤尚(以下「亡尚」ともいう)を引取り養育していたが、その後同原告は昭和四三年六月二一日に原告斉藤国子と結婚し、以来同原告らにおいて被害者を養育してきたものである。

右の次第で原告宮沢ヨシ子は被害者尚の母親であるところ、同原告は原告斉藤隆夫と離婚するに際し、被害者及びその弟と二人の子の養育を原告斉藤隆夫に委ねたところ、その弟も本件事故前の昭和四四年に交通事故によつて死亡したものである。

四  原告斉藤らの損害

(イ) 原告斉藤隆夫の損害

(一) 葬儀費 五〇万円

葬儀費用として六一万五、一八〇円を要したので、内右金額は本件事故による損害である。

(二) 亡尚の逸失利益の相続分 一、〇一三万九、五一五円

亡尚は一八歳から六七歳まで少なくとも全産業労働者の平均賃金を得られたと考えられる。そこでこの期間中の得べかりし収入からその生活費として五〇%を控除した額をライプニツツ方式により中間利息を控除した額が同人の逸失利益とみて相当である。右得べかりし利益は、昭和五〇年度の平均賃金に九%を加算した額が相当なので同人の逸失利益は、二〇二七万九、〇三一円とする。

そうすると原告斉藤隆夫は右金額の二分の一を相続したので、一、〇三一万九、五一五円となる。

(三) 慰藉料 五〇〇万円

前記のごとき事情からすると右金額の慰藉料をもつて相当とする。

(四) 損益相殺

右(一)ないし(三)の損害合計は一、五六三万九、五一五円となるところ、原告斉藤隆夫は自賠責保険金七九九万一、四二〇円を受領したのでこれを差引くと残額は七六四万八、〇〇〇円(一、〇〇〇円未満切捨)となる。

(五) 弁護士費用 七六万円

本訴提出を弁護士に委任した。その費用として右損害額を請求する。

(六) 請求総額 八四〇万八、〇〇〇円

(ロ) 原告斉藤国子の損害

(一) 扶養請求権侵害による損害 四八六万一、二一五円

原告斉藤国子は前記のとおり昭和四三年六月原告斉藤隆夫と結婚して当時七歳の被害者斉藤尚を以来我が子と同様に養育してきたものであり、養子縁組こそしていなかつたが実の親子と変らない関係が事実上形成されていたのである。

一方実母である原告宮沢ヨシ子は昭和四一年八月亡尚を原告斉藤隆夫の母親の許に置き去りにしたまま家を出たのであり、離婚後は亡尚を養育したことはもとより同人と面会したこともなく、昭和五〇年一月一〇日に訴外宮沢弘三と婚姻して今日に至つている。

これら諸般の事情を考え合わせると原告斉藤国子は亡尚の姻族一親等として、またその育ての親として原告斉藤国子が五〇歳から平均余命の七八歳に至るまで二八年間亡尚の前記平均賃金を基準とした収入の二五%程度の扶養を事実上得られる可能性があり、これが扶養請求権として四八六万一、二一五円を請求する。

なおさらに付言するに本件交通事故に関し自賠責保険から原告斉藤国子は一五〇万円を、原告宮沢ヨシ子は七五九万一、五八〇円を受領しているが、この両者の受領額を比較すると大きな隔たりがある。このような差が生じたのは自賠責保険が逸失利益及び被害者本人の慰藉料の支払を相続説によつてなしたからである。交通事故による死者の逸失利益等に関し、今日圧倒的多数の判例が相続説によつて遺族に対する配分を決めており、またほとんど大部分の事件はかかる配分によつてもさほど不公平な結果は生じないと考えられる。

しかし巷間本件被害者のごとく、両親の離婚その他の事情により実父母の一方または双方と長期間にわたり離別したまま養育されている者があることも否定できないのである。このような場合長年にわたつてまつたく養育もしていなかつた者が相続説により多額の賠償を得、事実上の父母ないしそれ以上に世話した者がほとんど賠償金を得られないとするのはあまりにも形式的で妥当でない。特にかかる場合にいわゆる笑う相続人といわれる甥や姪(被害者とほとんど会つたこともない場合もあるであろう)等が賠償金を得ることになり、その反面被害者を事実上養育してきた者が相続人でないとして賠償金を得られないこともあり得ることを考えると相続説も必ずしもすべての場合について妥当するものでないことは一層明らかである。

よつてこのような場合においては扶養請求権による損害賠償請求権を比較的容易に認めることにより、あるいは慰藉料の額を適正に配分すること等の方法により具体的に公平な損害賠償金の配分がなされるべきである。本件においても原告らの前記のごとき事情、既受領をあわせ考えれば原告斉藤国子が今後支払を受ける額は原告宮沢ヨシ子より多額であるべきである。

なお仮に右主張が認められないとすればこの額を後記慰藉料に加算して慰藉料として請求する。

(二) 慰藉料 二五〇万円 (七三六万一、〇〇〇円)

前記のごとき原告斉藤国子と亡尚の関係に鑑み、同人の死亡による原告斉藤国子の精神的苦痛は甚大であり、その慰藉料としては右金額をもつて相当とする。

なお前記扶養請求権侵害による損害が認められないのであればこれを補完するものとして七三六万一、〇〇〇円(一、〇〇〇円未満切捨)を慰藉料として請求する。

(三) 損益相殺

原告斉藤国子は自賠責保険金一五〇万円を受領したので、これを右損害額から控除する。

(四) 弁護士費用 五八万円

本訴提起を弁護士に委任したその費用として右損害額を請求する。

(五) 請求総額 七六四万八、〇〇〇円

五  原告宮沢ヨシ子の損害

(一) 亡尚の逸失利益相続分 九九〇万五、九〇九円

本件事故なかりせば亡尚は一八歳から六七歳まで就労可能で、その間昭和五〇年度賃金センサス産業計企業規模計男子労働者平均賃金を一〇%加算した収入を得られたはずである。

そこでこの間のこの収入をライプニツツ方式によつて現価に引直し、且つ一八歳に達つするまでの間一ケ月二万円の養育費を控除すると亡尚の逸失利益は一、九八一万一、八一八円となる。

原告宮沢ヨシ子はその二分の一を相続により承継したので右金額を請求する。

(二) 慰藉料 四七五万円

亡尚自身の慰藉料は一五〇万円をもつて相当とし、原告宮沢ヨシ子はその二分の一の七五万円を相続した。

次に原告宮沢ヨシ子自身の慰藉料であるが、同原告が原告斉藤隆夫と離婚したのは斉藤隆夫の不貞行為によるものであり、しかも亡尚及びその弟とも交通事故で失うところとなつたのである。原告宮沢ヨシ子は昭和一一年生まれでその年齢に鑑み今後子供を分娩する可能性はなく、二人の子を失つた精神的衝撃は筆舌に尽し得ぬところで、その慰藉料としては四〇〇万円もつて相当とする。

よつて原告宮沢ヨシ子の慰藉料の合計は右金額となる。

(三) 損益相殺

原告宮沢ヨシ子は、自賠責保険金七五九万一、五八〇円を受領したので右損害額からこれを控除する。

(四) 弁護士費用 五〇万円

本訴提起を弁護士に委任したが、その費用のうち右金額を損害として請求する。

(五) 請求総額 七五六万四、三二九円

六  結論

よつて原告斉藤らは、被告蛯原、同関根忠夫、同関根忠由に対して右各請求総額及び内弁護士費用を除く分に対する民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求め、請求の趣旨(昭和五二年(ワ)第七二三号事件)のとおりの判決を求め、また原告宮沢ヨシ子は、被告蛯原、同関根忠夫に対して同じく請求の趣旨(昭和五二年(ワ)第五、九三〇号事件)どおりの判決を求める次第である。

「被告らの抗弁に対する反論」

争う。すなわち本件事故発生につき被告関根忠由に前記のとおり過失があり、よつて被告関根忠夫の免責の抗弁は失当である。また事故前亡尚が被告関根忠由運転の自動車に同乗したとか、同被告から運転を習つていたということはない。亡尚は事故当時中学三年で自動車運転免許に関する法律的知識はなく、被告関根忠由が運転免許を取得していると信じて同乗していたはずである。

さらに本件事故発生について被告蛯原の過失が極めて重大なのであるから仮に被告関根らが主張するような事実があつても過失相殺はもちろん好意同乗よる減額もなさるべきでない。

また仮に若干の過失相殺がさるべきだとしても、原告らの請求の基礎となつている平均賃金が今日に至るまで前年度比九%の割合で上昇していることは公知の事実であり、過失相殺さるべき損害額は右平均賃金の上昇によつて算出される損害額をもつて充当する。

(被告蛯原)

「請求原因に対する答弁」

請求原因一項、及び同二項中被告蛯原が蛯原車運行供用者であることは認める。

同三項は不知、

同四、五項は争う。

「過失相殺等の抗弁」

亡尚は被告関根忠由が高校生で運転技術が未熟で無免許であり、特に一般道路の運転は二回目で不慣れであることを知つて同乗したのであるから、かかる亡尚の過失は過失相殺として考慮さるべきである。

また亡尚は関根車に無償同乗していたのであるが、この点は被告関根忠由に対する損害賠償の減額事由となるのみならず、これと衝突した被告蛯原の関係でも減額事由として考慮さるべきである。本件の場合被告関根忠由の運転が未熟なため被告蛯原は被害にあつた形となつており、被告蛯原に過失があつたとしても、被告関根忠由と亡尚が親類関係にある本件にあつては無償同乗の事情を斟酌すべきである。

(被告関根ら)

「請求原因に対する答弁」

請求原因一項は認める。

同二項中、被告関根忠夫が関根車の運行供用者であることは認めるが、本件事故発生につき被告関根忠由に過失があることは争う。

同三項中原告らの身分関係等は認める。

同四、五項中、原告斉藤国子が同斉藤隆夫と結婚後亡尚を我が子同様養育してきたこと及び原告らが自賠保険金を受領したこと、本訴の提起を弁護士に委任したことは認めるが、その余の点は争う。

「免責等の抗弁」

一  本件事故は、被告蛯原が本件交差点において右折して隘路に入るため蛯原車を突然右折させもつて対向して来た関根車に衝突させたものであり、同被告の一方的過失にもとづくもので、被告関根忠由には過失はない。また関根車には故障はなかつた。ちなみに被告蛯原は本件事故及び他の事故により福島地方裁判所白河支部において禁錮一年に処せられたが、被告関根忠由は無免許運転により道交法違反で水戸簡裁で罰金に処せられたのみである。

二  仮りに被告関根忠由に何らかの過失があつたとしても、同被告が無免許であることを知りながら同乗した亡尚にも過失があるので過失相殺がなさるべきである。

すなわち亡尚は、本件事故前にも数回被告忠由運転の車両に同乗していて同被告が無免許であることを知つており、そして同被告から運転を習つたりしていたのである。亡尚の年齢からすると当然その非を知つていたはずで、その過失は多大である。

第三証拠関係〔略〕

理由

(責任関係等)

一  請求原因一項の本件事故の発生及び同二項中、被告蛯原が蛯原車の、被告関根忠夫が関根車のそれぞれ運行供用者であることは当事者間に争いがない。

しかるところ被告関根らは、本件事故は、被告蛯原の一方的過失に起因するとしてその責任を争つている。なるほど成立につき争いのない乙第六号証の一ないし一五、同第七号証の一ないし三、同第八号証の一、二同第一六号証の一、二同第一七、第一八号証、同第二二号証、同第三二号証、同第四二号証、及び被告関根忠由本人尋問の結果によれば、本件事故現場は南北に走る国道四号線(平坦、直線車道幅員約六・六メートル、中央線が白線で引かれていて両側に幅員約一メートルの路側帯がある。)が、西方は久米石部落方面へ、東方は矢吹町方面へと向う幅員の狭い町道と交差している十字路交差点上であること、被告蛯原は、蛯原車を運転して南方(白河市方面)から進行して来て東方矢吹町方面へと向うべくこの交差点を右折しようとして交差点手前から道路中央線に寄つたところ、前方約二〇〇メートルの地点に対向して来る関根車のライトを認めたこと、そこで同被告はこの対向車の通過を待つべく減速したのであるが、その際後方から進行して来る車両に追突されることを懸念して左側フエンダーミラーを見ることに気をとられ、よつてハンドル操作を誤り、対向車たる関根車が前方約一七メートルの所に接近しているのに右交差点南側入口付近で突然自車を対向車線に進入させ、車道のほぼ中央付近で自車前部を関根車右前部に衝突させて同車を国道東側の田圃の中へ転落させたことの各事実が認められ、従つて被告蛯原は対向して来る直前で突如自車を対向車線内に進入させたわけであり、本件事故に至つたにつき同被告の過失は少なくないところである。

二  しかしながら前掲各証拠及び成立につき争いのない乙第二三号証、同第二六号証、同第二八号証によれば、被告関根忠由は、事故当時自動二輪の運転免許は有していたが普通免許は取得しておらず、庭や畑において父親の車両等で練習して自動車を運転することはできたが、路上運転は数回の経験しかなかつたこと、当時同被告は時速五〇キロ位で関根車を運転していたのであるが、国道の路面(コンクリート舗装)はみぞれ雪のため湿潤して滑り易い状態となつていたため運転技術の未熟な同被告としては滑らないように真直ぐ走らせることに専念していたこと、かかる状態で運転していたため前方の本件交差点南側に対向して来る蛯原車を認めたものの同車は直進するものと速断し右折の点滅ライトにはまつたく気付かず、そのため減速することなく前記速度のまま本件交差点を通過しようとしたところ、約二五メートルまで接近した時に蛯原車が自車線に進入するのを認めたこと、しかし同被告としては何らの措置を採ることもできず、そのまま前記のとおり蛯原車と衝突に至つたこと、の各事実が認められる。

そうすると被告関根忠由の無免許で運転技術が未熟なのに自動車を運転し、そのために前方への注視を欠いたのと運転操作が的確でなかつた過失も本件事故の原因となつていることは明らかである。

よつて被告関根忠夫の免責の抗弁はその余の点を判断するまでもなく理由がなく、従つて同被告、及び被告蛯原は運行供用者として自賠法三条により、また被告関根忠由は、右のとおり過失により本件事故を惹起させたのであるから不法行為者として本件事故による原告らの損害を賠償すべき責任がある。

なお被告らは、亡尚は被告関根忠由が運転免許を取得していなかつたことを知つて同乗したのであるから原告らの損害につき過失相殺がなさるべきだと主張するのでこの点につき検討するに、原告斉藤隆夫は、亡尚は被告関根忠由が運転免許を取得していると信じて同乗したはずである旨供述する。

しかしながら前記乙第二八号証、同二八号証、成立につき争いのない甲第一号証、乙第一三号証、被告関根忠由本人尋問の結果によれば、本件事故は、原告斉藤隆夫の一家が、同原告の現在の妻である原告斉藤国子の実家に遊びに来ていた時に、やはり東京から同家に遊びに来ていた被告関根忠夫の保有する関根車を被告関根忠由において運転して生じたもので、被告関根忠由は、原告斉藤国子、被告関根忠夫の甥にあたること、原告斉藤ら一家はこれまでも正月、夏休み等を利用して幾度か被告関根忠由方を訪れており、同被告と亡尚は年齢が近いこともあつて夜は同じ部屋で寝る等親しくしていたこと、なお事故当時亡尚は中学三年、被告関根忠由は一七歳で高校二年であつたこと、事故の少し前被告関根忠由は、兄から同人の車が庭から出るのを関根車が邪魔しているので被告関根忠夫にこれを動かして欲しいとの連絡を頼まれたのであるが、叔父が親戚の者と酒を呑んでいたことから、被告関根忠由自身において関根車を動かし、一旦道路に出て庭に戻つたこと、しかるにその時亡尚において被告関根忠由が運転しているのを認め、どこかへ行こうとの声をかけて助手席に乗り込んできたため同被告においてもその気になつてそのまま路上に出て数キロ先の鏡石駅まで行き、その帰途に本件事故が生じたこと、の各事実が認められる。

被告関根忠由はその本人尋問中において、亡尚に以前自分は自動二輪の運転免許は持つているが、普通免許は有していないと話したことがあり、そして亡尚はこの点を承知しながら同被告の運転する車両に同乗したり、あるいは同被告から造成地等で自動車の運転を教わつたことがある旨供述する。この供述をそのまま採用できないにしても、右のごとき原告斉藤一家と被告関根忠由一家との交際関係、亡尚の年齢、被告関根忠由との年齢差、親密度等を勘案すると、亡尚において同被告が普通免許を有しておらず、運転技術が未熟であつたことを知つていたと推認できるところである。

そうすると亡尚は、右のごとき事実を知りながら被告関根忠由に車で出かけようとの声をかけてドライブに出かけたわけでこの点同人と被告関根忠由との関係からすると同人に落度があつたものと考えざるを得ず、損害額の算定にあたり斟酌するのを相当とする。

(損害関係)

一  亡尚の生年月日、原告らの身分関係その他の事情が、請求原因三項主張どおりであることは、原告らと被告関根らとの間においては争いがなく、被告蛯原との間においては前記甲第一号証、乙第一三号証成立につき争いのない甲第一号証及び原告斉藤隆夫、同宮沢ヨシ子各本人尋問の結果によつてこれを認めることができる。

そうすると原告斉藤国子は、亡尚が七歳の時から同人を養育していたものであり、自分の実家に再三遊びに連れて行つていたことは前記のとおりであり、かかる事実並びに右各証拠によれば、同原告は原告斉藤隆夫と結婚後亡尚を母親代わりになつて養育していたことが窺える。

右のごとき原告斉藤国子と亡尚の関係からすると同原告を亡尚の母親に準ずる者とみて民法七一一条を類推適用して同原告につき被告らに対し被害者尚の生命侵害による慰藉料の請求を認めて相当である。

二  ところで同原告は被害者尚の死亡によつて扶養請求権が侵害されたとしてその賠償を請求していることがこの請求は認められないところである。なぜなら右事実並びに原告斉藤国子の主張から明らかなように、同原告と亡尚との間に養親子関係があつたわけではなく、従つて亡尚が法律上同原告に対して扶養義務を負担することはないわけである。もつとも事実上養親子関係が形成されていたのみならず亡尚において現実に扶養していたとか、あるいは相当の蓋然性をもつて近い将来扶養をしたであろうと認められる事情があれば、扶養の利益が侵害されたとみて原告の右のごとき請求につき考慮すべき余地はある。しかしながら本件は、一五歳の亡尚が一〇数年先の将来に同原告を扶養することを前提としているのであつて、原告斉藤国子がそのような蓋然性の高い亡尚から扶養を受ける利益を有していたとは認め難いところであり、右のごとき請求は認められないと考えざるを得ない。

以上のごとき事実並びに判断を前提として本件事故による原告らの損害を算定すると次のとおりとなる。

三  原告斉藤隆夫関係

(一)  葬儀費用 三五万円

原告斉藤隆夫本人尋問の結果により成立の認められる甲第二号証、同本人尋問の結果によれば、同原告は亡尚の葬儀費用として六一万円余を負担したことが認められるが、本件事故による損害として認め得るのは右金額をもつて相当とする。

(二)  亡尚の逸失利益の相続分 一、〇一三万九、五一五円

原告斉藤隆夫は、亡尚が一八歳から六七歳まで就労可能で、その間平均すると年額二五七万二、〇〇〇円弱の収入があることを前提とし、生活費としてその五〇%を費消するとみてこれを控除し、ライプニツツ方式によつてこの間のこの収入を現価に引直した(係数一五・六九五)ものを亡尚の逸失利益としている。昭和五二年度賃金センサスを参照すると右主張の平均年収を下回らない収入を亡尚において得ることが出来たと認められるので同原告の主張する亡尚の逸失利益は相当であり、よつて原告斉藤隆夫の主張する亡尚の逸失利益の相続分の金額はこれを認め得る。

(三)  慰藉料 三五〇万円

本件事故の態様、原告斉藤隆夫と亡尚の前記のごとき関係並びに亡尚が前記のごとき経過で被告関根忠由運転の関根車に同乗したこと等諸般を勘案して亡尚の死亡による同原告の慰藉料としては右金額をもつて相当とする。

(四)  過失相殺、損益相殺

前記のごとく亡尚は、被告関根忠由が無免許で且つ運転技術が未熟であることを知りながら関根車に同乗したのであり、かかる事情並びに本件事故の態様からすると、その後の平均賃金の上昇を考慮しても、過失相殺の法理に鑑み、右(一)、(二)の損害については、その一割五分程度を減じた合計八九一万六、〇〇〇円の限度で被告らにおいて賠償責任を負うのを相当とする。

よつて右金額に(三)慰藉料を加算した合計一、二四一万六、〇〇〇円につき被告らは賠償責任を負うところ、原告斉藤隆夫において自賠責保険から七九九万一、四二〇円の損害の填補を受けたことを自認しているので、これを差引くと残額は四四二万四、五八〇円となる。

(五)  弁護士費用 四〇万円

本件訴訟の内容、審理の経緯、認容額に鑑み、原告斉藤隆夫の負担した弁護士費用のうち右金額の限度で本件事故による損害と認め得る。

(六)  請求元本 四八二万四、五八〇円

四  原告斉藤国子関係

(一)  慰藉料 二三〇万円

本件事故の態様、原告斉藤国子と亡尚の前記のごとき関係及び亡尚が関根車に同乗するに至つた経緯等諸般の事情に鑑み同原告の慰藉料としては右金額をもつて相当とする。

なお同原告の扶養請求権侵害による損害の賠償請求が認められないことは先に述べたところである。

(二)  損益相殺

同原告が自賠責保険から一五〇万円の填補を受けたことは自認するところであり、これを差引くと八〇万円となる。

(三)  弁護士費用 一〇万円

前記と同様の理由により右金額の限度で本件事故による損害と認められる。

(四)  請求元本 九〇万円

五  原告宮沢ヨシ子関係

(一)  亡尚の逸失利益相続分 八四二万円

前記原告斉藤隆夫の本件事故による損害の判断において説示したことから明らかなように亡尚の逸失利益は原告宮沢ヨシ子の主張額を下回らないところであり、亡尚が関根車に同乗した経緯に鑑みその一割五分を減じた右限度で被告らに請求できるとみて相当である。

(二)  慰藉料 一八〇万円

前記のとおり原告宮沢ヨシ子は交通事故により原告斉藤隆夫との間にもうけた二人の子を共に失なつてしまつたわけであり、また前記甲第一号証、原告宮沢ヨシ子本人尋問の結果によれば、同原告は昭和一一年生れで今後子供をもうける可能性は極めて低く、そのため原告斉藤隆夫と離婚後亡尚と会つたことはできれば同人を引取りたいと考えていたことが認められる。

右のごとき事実、本件事故の態様、亡尚が関根車に同乗するに至つた経緯、並びに同原告は離婚後八年近く亡尚を養育していないのであるが、亡尚の逸失利益については法定相続分の割合で相続できる地位にあること等諸般の事情に鑑み、被害者尚の死亡による同原告の慰藉料としては総額右金額をもつて相当とする。

(三)  損益相殺

よつて原告宮沢ヨシ子は被告らに対し一〇二二万円の損害賠償請求権を有するところ、自賠責保険から七五九万一、五八〇円を受領したことを自認しているので、これを差引くと残額は二六二万八、四二〇円となる。

(四)  弁護士費用 二四万円

右金額の限度で本件事故による損害と認められる。

(五)  請求元本 二八六万八、四二〇円

(結論)

よつて被告蛯原、同関根忠夫、同関根忠由は連帯して原告斉藤隆夫に対して四八二万四、五八〇円及び内弁護士費用を除く四四二万四、五八〇円に対する事故の翌日たる昭和五〇年一二月三一日以降支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を、原告斉藤国子に対して九〇万円及び内弁護士費用を除く内八〇万円に対する同じく年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があり、また被告蛯原、同関根忠夫は原告宮沢ヨシ子に対して二八六万八、四二〇円及びこれに対する本訴状送達の翌日たる昭和五二年七月八日以降支払済みに至るまで年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があり、原告らの本訴各請求はこの限度で理由があるのでこれを認容し、その余の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 岡部崇明)

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