大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和52年(ワ)5875号 判決 1981年5月18日

原告

エク・セル・オー・コーポレーシヨン

被告

トーエーパツク株式会社

右当事者間の標記事件につき、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1当事者の求めた裁判

1  原告

1 被告は原告に対し、金8994万8000円及び内金6628万7000円に対する昭和52年7月2日以降、内金2366万1000円に対する昭和53年10月19日以降各支払済みまで年5分の割合による金員の支払をせよ。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決及び仮執行の宣言

2  被告

主文同旨の判決

第2請求の原因

1  原告は、次の実用新案権(以下、「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考案」という。)について、出願公告から登録までいわゆる仮保護の権利を、登録から存続期間満了の日である昭和53年6月14日まで実用新案権を有していた。

登録番号 第1155713号

名称 折り込み底部閉鎖部のついた容器

出願 昭和38年6月14日

(前特許出願日援用)

出願公告 昭和46年2月18日(昭46―4661)

登録日 昭和52年1月24日

本件実用新案登録出願の願書に添附した明細書(補正後のもの)の実用新案登録請求の範囲の記載(以下、「本件登録請求の範囲の記載」という。)

「加熱された時に活性化されて接着性になる熱塑性プラスチツク表面を有する板紙乃至同等物から形成された容器において、この容器は4つの側パネル34、35、36、37及びパネル37と一体でパネル34の内表面に接着された細い側部継手フラツプ38より成る断面方形の本体21、該本体の頂部にある頂部閉鎖部23、前記本体の底部にある底部閉鎖部22を有し、しかして前記底部閉鎖部22は、(a)本体パネル34、36の下端に連接しそして底部閉鎖部の最も外側の層を形成する対置せる一対の主パネル111、112、(b)底辺28b、28dにおいて本体パネル35、37の下端に連接しそして最初に折り込まれて底部閉鎖部の最も内側の部分を形成する対置せる一対の三角形折り込みパネル40、42、(c)前記主パネル111、112と折り込みパネル40との間にあつてこれらに連接しそして自由切断縁56a、55aを夫々有する一対の三角形折り返しパネル56、55、(d)前記主パネル112と前記折り込みパネル42との間及び前記側部継手フラツプの延長部114と折り込みパネル42との間にあつてこれらに連接しそして自由切断縁61a、60aを夫々有する一対の三角形折り返しパネル61、60から構成されており、更に(イ)前記側部継手フラツプの延長部114は端部に斜めに切欠き119を有しており、(ロ)前記二対の折り返しパネル55、56、60、61は折り込みパネル40、42の折り込みと共に折り返されて該折り込みパネルと主パネル111、112との間に位置しており、(ハ)前記パネル111は両側にテーバ部分118を有しそして他方の主パネル112と折り込しパネル55、61との間に挿入される折り込みフラツプ115を備えており、(ニ)前記主パネル112は折り込みフラツプ115を覆つて位置せしめられそして前記側部継手フラツプ延長部の斜めに切欠き119と実質的に相補形状の斜めに切欠き120を有する重ねフラツプ116を備えており、これによりこの底部閉鎖部完成時に該切欠き120と前記側部継手フラツプ延長部の切欠き119の自由縁が折り込みフラツプ115を介在させて互に整列しており、更に(ホ)前記折り返しパネル55、56の自由切断縁55a、56aがこの底部閉鎖部の折り込み及び封着に際して互に緊密に衝合するように、折り返しパネル55、56が主パネル112、111と連接する辺55b、56bの長さの和を折り込みパネル40の底辺28bの長さよりも僅かに大きくしており、同様に折り返しパネル60、61が延長部114及び主パネル112と連接する辺60b、61bの長さの和を折り込みパネル42の底辺28dの長さよりも僅かに大きくしてあることを特徴とする容器。」(別添実用新案公報及び訂正公報参照。)

2  本件考案は、加熱により接着性となる熱可塑性プラスチツク表面を有するシートないし板紙から容易に折り立てかつ密閉される、ミルクその他の食品の包装に適した強靱な包装容器において、すぐれた防漏性を有し、底のかどが衝撃を受けるような苛酷な使用条件下でさえも液密状態を維持することができ、容器の内部及び容器内容物に対して露出する未処理縁、すなわち被覆を持たない切断縁を最少ならしめ、更に重なるパネルの枚数が局部的に多くなつてより厚くなることのない容器底部閉鎖部の改良構造を提供するものである。

そして、その構成要件は、次のとおりである。

(1)  (容器の素材)

加熱された時に活性化されて接着性になる熱塑性プラスチツク表面を有する板紙ないし同等物から形成された容器であること。

(1) 活性化とは、加熱されたとき接着しうる状態になるという趣旨である。また、熱塑性とは、熱可塑性と同義であり、適当な温度に加熱すると軟化、溶融することにより塑性変形し、冷却すると硬化する性質をいう。

(2)  右のような性質を有するプラスチツクで板紙ないし同等物の表面を覆うのは、プラスチツクが被包装物質に対して不活性であること、板紙ないし同等物が廉価でありながら、プラスチツクで覆うことにより液密性の高い強靱で耐久性のある容器の素材となること、及びプラスチツクが加熱することにより活性化されて接着性になる熱塑性であるため、被覆層たるプラスチツク自体が接着剤として役立つことによる。

このような性質を有するプラスチツクの代表的な例がポリエチレンである。

(2)  (容器の構成)

容器は、次の(1)ないし(3)のとおり、本体21、頂部閉鎖部23及び底部閉鎖部22から成ること(別添実用新案公報第1図参照。以下同様。)

(1) 本体21は、4つの側パネル34、35、36、37、及びパネル37と一体でパネル34の内表面に接着された細い側部継手フラツプ38より成る断面方形のものであること(第2図)。

すなわち、本体21は、素材の上下辺間の全体に延びる平行かつ等間隔の垂直折り線29、30、31、32と、素材の側辺間に水平に延びる横折り線26、28とにより区画された4つの側パネル34、35、36、37、及び側パネル37と一体の側部継手フラツプ38から構成されており、側部継手フラツプ38が側パネル34の内側に接着されて、本体21は断面方形となる。

側部継手フラツプ38を側パネル34に接着する場合、接着剤として熱塑性プラスチツク(ポリエチレン被覆)を用いることも可能であるが、ある場合には側部接合を形成する目的で接着剤を塗布するのが適当と考えられる。

(2) 頂部閉鎖部23は、本体21の頂部にあること。

頂部閉鎖部23は、側パネルの上端と一体的に、ただし横折り線26に区切られて形成されている複数個のパネルより形成され、切妻形状となつている(第1、第2図)。

(3)  底部閉鎖部22は、本体21の底部にあること。

底部閉鎖部22は、側パネルの下端と一体的に、ただし横折り線28により区切られて形成されている複数個のパネルにより形成され、折りたたまれて扁平となる(第2図、第3図ないし第6図)。

(3)  (容器の底部閉鎖部の構成)

前記底部閉鎖部22は、次の(a)ないし(b)のとおり、主パネル111、112、三角形折り込みパネル40、42、三角形折り返しパネル56、55、三角形折り返しパネル61、60から構成されていること。

(a) 一対の主パネル111、112は、本体パネル34、36の下端に連接しそして底部閉鎖部の最も外側の層を形成して対置されていること。

すなわち、辺28aを介して側パネル34の下端に連接する主パネル111、及び辺28cを介して側パネル36の下端に連接する主パネル112があり(第2図)、これら主パネル111、112は、底部閉鎖部の組み立てに当たつて最後に折りたたまれ、底部閉鎖部の最も外側の層を形成する(第3ないし第6図)。

(b) 一対の三角形折り込みパネル40、42は、底辺28b、28dにおいて本体パネル35、37の下端に連接しそして最初に折り込まれて底部閉鎖部の最も内側の部分を形成して対置されていること。

すなわち、三角形折り込みパネル40、42は、横折り線28b、28dを介して側パネル35、37に連接していて、互に対置され(第2、第3図)、底部閉鎖部の組み立てに当たつて最初に折り込まれ(第4図)、底部閉鎖部の最も内側の部分を形成する。

(c) 一対の三角形折り返しパネル56、55は、主パネル111、112と折り込みパネル40との間にあつてこれらに連接し、そして自由切断縁56a、55aをそれぞれ有していること(第2図)。

すなわち、三角形折り返しパネル56、55は、底部閉鎖部の組み立てに当たつて主パネル111、112と三角形折り込みパネル40との間に折り込まれ、このとき自由切断縁56a、55aは相対して接合する。

この自由切断縁55aと56aは、後記60a、61aとともに底部閉鎖部の内部に折り込まれ、未処理部分(熱塑性プラスチツクに被覆されない部分)同士で接合する主要な部分であり、底部閉鎖部の確実な密閉にはこの自由切断縁の緊密な接合が不可欠であると同時に、この部分の緊密な接合が達成されれば底部閉鎖部の確実な密封が期待できる。

(d) 一対の三角形折り返しパネル61、60は、主パネル112と折り込みパネル42との間及び側部継手フラツプの延長部114と折り込みパネル42との間にあつてこれらに連接し、そして自由切断縁61a、60aをそれぞれ有していること(第2図)。

すなわち、三角形折り返しパネル61、60は、底部閉鎖部の組み立てに当たつて主パネル112と三角形折り込みパネル42との間及び主パネル111の内側に接着した側部継手フラツプ38の延長部114と折り込みパネル42との間に折り込まれ、このとき自由切断縁61a、60aは前記自由切断縁56a、55aと同様相対して接合する。

したがつて、この自由切断縁61a、60aの接合状態は、同様に底部閉鎖部の確実な密封に重大な意味を有するものである。

(4)  (底部閉鎖部の構成要素の形状、相互関係)

(イ) 斜めの切欠き119が側部継手フラツプの延長部114の端部に設けられていること。

(ロ) 二対の折り返しパネル55、56、60、61は、折り込みパネル40、42の折り込みとともに折り返されて、該折り込みパネルと主パネル111、112との間に位置していること。

(ハ) 主パネル111には、両側にテーパ部分118を有し、他方の主パネル112と折り返しパネル55、61との間に挿入される折り込みフラツプ115が備えられていること(第2図)。

このテーパ部分118が設けられている効果として、主パネル111に備えられた折り込みフラツプ115は、底部閉鎖部の組み立てに当たつて主パネル112と三角形折り返しパネル55、61との間に容易に挿入できるのである。

(ニ) 主パネル112は、折り込みフラツプ115を覆つて位置せしめられ、そして側部継手フラツプ延長部114の斜めの切欠き119と実質的に相補形状の斜めの切欠き120を有する重ねフラツプ116を備えており、これにより底部閉鎖部完成時に該切欠き120と119の自由縁が折り込みフラツプ115を介在させて互に整列していること(第2、第7図)。

右の効果として、底部閉鎖部を構成する複数のパネルが重なり合う帯域において該帯域の1部分が残部より厚くなることが防がれ、その結果、底部閉鎖部の確実な密封が保たれるのである。もし、これらの切欠きがないとすると、切欠き120を対角線とする矩形部分は前記帯域の残部よりも厚くなり、右矩形部分と残部との境目に段ができてそこに溝ないし間隙が生じ、完全な密封を損う結果となるのである。

(ホ) 折り返しパネル55、56が主パネル112、111と連接する辺55b、56bの長さの和は、折り込みパネル40の底辺28bの長さよりも僅かに大きく、折り返しパネル60、61が側部継手フラツプの延長部114及び主パネル112と連接する辺60b、61bの長さの和は、折り込みパネル42の底辺28dの長さよりも僅かに大きくなつていること(55b+56b>28b、60b+61b>28d)。

前記のとおり底部閉鎖部の確実な密封には自由切断縁55a、56a及び60a、61aの緊密な接合が必要とされるが、辺が右のような長さの関係にあることにより、底部閉鎖部の各パネルを十分に折りたたんだ状態においては、右自由切断縁相互は封接圧縮力を受けて集着し合い、相互間に溝ないし間隙が生成されることを効果的に阻止することになる。

右の効果と、前記切欠き119、120の効果との相乗により容器の底部閉鎖部は相互に極めて緊密、確実な衝合関係を保持できるのである。

なお、本件考案は完成した容器を対象とするものであり本件明細書において説明の対象とされているのも完成した容器そのものである。例えば、本件登録請求の範囲の記載中の「この容器は4つの側パネル34、35、36、37及びパネル37と一体でパネル34の内表面に接着された細い側部継手フラツプ38より成る断面方形の本体21……」との部分は、完成した容器を表現したものと理解する外ないはずである。そもそも、実用新案の明細書は、完成した製品を説明するものであり、それに添附された図面も当然完成した製品を説明するものなのであつて、明細書は決して製品の仕様書ではないのである。したがつて、本件明細書の考案の詳細な説明の欄の記載ないし図面に容器を組み立てる過程に関するものであつても、それは、単に完成した容器の説明の便宜のためのものであり、本件明細書における説明の対象が本件考案の対象たる完成した容器であることに変りはない。本件登録請求の範囲の記載ないし本件明細書の記載の解釈に当たつては、それらが完成品としての容器を対象としていることを忘れてはならない。

3  被告は、昭和46年6月以降、別紙第1物件目録(1)ないし(3)記載の各容器(本体21'の長さLが異なるのみで、その他の寸法及び形状は全く同一であり、しかも右本体21'の長さLは本件考案の構成要件との対比については全く関係がないので、以下、総称して「イ号物件」という。)を製造し、「トーエーパツク」なる商品名で販売した。

右イ号物件の特定につき、被告は、組み立てる前の容器の素材の形状、寸法によつて特定するべきであると主張する(第3、13中段)が、前記2後段のとおり本件考案が完成した容器を対象とするものであり、原告が本訴において本件実用新案権の侵害品として対象にしているイ号物件も、完成した容器である「トーエーパツク」という牛乳容器であるから、イ号物件特定のための説明書及び図面は、この完成した容器を表示するものでなければならないのであり、したがつて、その図面中の展開図は「完成した容器を展開した図」であることは当然である。このようにしてイ号物件を正確に表示したものが別紙第1物件目録である。

なお、組み立てて完成したイ号物件において、スコア55c'、56c'、60c'、61c'が自由切断縁にまで延びていることは明らかである。

4  イ号物件の構成は、別紙第1物件目録(1)ないし(3)の1ないし4記載のとおりであり、本件明細書記載の実施例と全く同じであつて、以下のとおり本件考案の構成要件をすべて充足するから、イ号物件は、本件考案の技術的範囲に属するものである。

1 イ号物件の構成1(別紙第1物件目録(1)ないし(3)(説明書)の1をいう。以下同様。)のうち、「本件容器は内外表面にポリエチレンを被覆した1枚の板紙から……形成する。」との点が、本件考案の構成要件(1)を充足することは明らかである。

2 イ号物件の構成1のうち、「本件容器は……本体21'、底部閉鎖部22'及び頂部閉鎖部23'を形成する。」との点は、本件考案の構成要件(2)の柱書部分を充足し、イ号物件の構成21は本件考案の構成要件(2)(1)を、イ号物件の構成41は本件考案の構成要件(2)(2)を、イ号物件の構成31は本件考案の構成要件(2)(3)をそれぞれ充足する。

3 イ号物件の構成31の(a)、(b)、(c)、(d)は、本件考案の構成要件(3)の(a)、(b)、(c)、(d)をそれぞれ充足する。

被告は、イ号物件におけるパネルの形状はスコアの中心線で囲まれた部分の形状で判断することを前提に対比の主張をする(第3、22の(1)(1)及び(2))。

しかし、前記2後段のとおり本件考案は完成した容器を対象とするものであるところ、組み立てて完成した実際の製品では、パネルは、ある一定の幅をもつた部分で折れ曲るのであつて、観念的な一本の線で折れ曲るものではない。したがつて、完成した容器を説明するための明細書にいう「折り線」とは、一定の幅をもつた部分を意味するのは当然なのである。そして、右の一定の幅をもつた折り線すなわちスコアは、その幅全体が湾曲して折れ曲るのであつて、スコアの中心線で折れ曲るわけではないから、パネルを三角形ないし五角形にする必要があるならば、スコアを除いた部分のパネルを三角形ないし五角形にしなければならないのである。したがつて、本件考案にいうパネルの形状はスコアを除いたパネルの形状をいうのであり、それはスコアの内側の線を結んだときに現われる形状で示されるのである。もし、スコアの中心線で囲まれた部分の形状で判断するとすれば、パネルの1部としてスコアが含まれることになるが、組み立てて完成した容器の構成部分の1つを記述するために「パネル」という語が用いられているのであるから、この「パネル」の1部として組み立てられたとき湾曲するスコアを含めて考えるのは常識的ではない。

右の観点でイ号物件を見れば、折り込みパネル40'、42'、折り返しパネル55'、56'、60'、61'が組み立て後はいずれも三角形であることは明らかである。

なお、「スコア」とは、「折り線」部分を表現するのにわが国当業技術者間で一般的に用いられている語であり、組合により1本線で表わしたり2本線で表わしたりするが、いずれも実際の製品を念頭において表現しているのであつて、単なる観念的な1本の線ではない。

4 イ号物件の構成31の(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)及び(ⅰ)、(ⅱ)は、本件考案の構成要件4の(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)及び(ホ)をそれぞれ充足する。すなわち、

(1)  イ号物件の主パネル111'の内側に接着された側部継手フラツプの延長部114'の端部には、斜めに切欠き119'が設けられ、主パネル112'には重ねフラツプ116'が備えられ、この重ねフラツプ116'には斜めに切欠き120'が設けられている。この切欠き119'と120'は相補形状にあり、主パネル112'が主パネル111'に備えられた折り込みフラツプ115'を覆つて位置せしめられる結果、右切欠き119'と120'は折り込みフラツプ115'を介在させて互いに整列している。そして、右折り込みフラツプ115'は、両側にテーパ部分118'を有し、かつ、主パネル112'と折り返しパネル55'、61'との間に挿入される。

右の構成要素の形状及び相互関係、すなわちイ号物件の構成31の(イ)、(ハ)、(ニ)は、本件考案の構成要件(4)の(イ)、(ハ)、(ニ)を充足する。

イ号物件においては、右構成をとることにより、底部閉鎖部22'を構成する複数のパネルが重なり合う帯域において該帯域の1部分が残部より厚くなることが防がれ、また、テーパ部分118'の存在が折り込みフラツプ115'の挿入を容易にしているのであつて、このことは、本件考案の場合(前記2(4)の(ハ)、(ニ))と全く同じである。

(2)  イ号物件の折り返しパネル55'、56'、60'、61'は、折り込みパネル40'、42'の折り込みとともに折り返されて、該折り込みパネルと主パネル111'、112'との間に位置しており、そして、右折り返しパネル55'、56'が主パネル112'、111'と連接する辺55b'、56b'の長さの和は、折り込みパネル40'の底辺28b'の長さよりも僅かに大きく、折り返しパネル60'、61'が側部継手フラツプの延長部114'及び主パネル112'と連接する辺60b'、61b'の長さの和は、折り込みパネル42'の底辺28d'の長さよりも僅かに大きくなつている(55b'+56b'>28b'、60b'+61b'>28d')。

右の構成要素の形状及び相互関係、すなわちイ号物件の構成31の(ロ)及び(ⅰ)(ⅱ)は、本件考案の構成要件(4)の(ロ)及び(ホ)を充足する。

イ号物件においては、右構成をとることにより、自由切断縁55a'、56a'及び60a'、61a'が封接圧縮力を受けて集着し合い、相互間に溝ないし間隙が生成されることを効果的に阻止しているのであつて、このことは、本件考案の場合(前記2(4)(ホ))と全く同じである。

なお、イ号事件において、本件考案にいう「折り返しパネル55、56が主パネル112、111と連接する辺55b、56bの長さ」及び「折り返しパネル60、61が延長部114及び主パネル112と連接する辺60b、61bの長さ」に相当するのは、それぞれ別紙参照図のX2、X1、X4、X3(別紙第1物件目録(1)ないし(3)の各a2、a1、a4、a3に相当する。)の長さである。なぜなら、本件考案の構成要件(4)(ホ)にいう長さの関係は、「折り返しパネル55、56の自由切断縁55a、56aがこの底部閉鎖部の折り込み及び封着に際して互いに緊密に適合するように」(本件登録請求の範囲の記載)規定されているのであるから、イ号物件においても、各部分の長さは実際に折れている個所から測つたものでなければならないからである。そして、実際には、スコア56b'は、スコア28a'の下側線との交点から折れているのであつて、決してX1'の個所では折れていないのであるから、「辺56b'」の長さとはX1の部分をいうと解すべきである。同様に、「辺55b'」の長さはX2、「辺60b'」の長さはX4、「辺61b'」の長さはX3をそれぞれ指すと解すべきである。

被告は、「辺56b'、55b'」の長さはX1、X2をいうと解することはできない旨主張する(第3、2 2(4)後段)が、「辺56b'、55b'」は、X1'、X2'の部分で折れ曲ることはなく(X2'で折れ曲るとすると、主パネル111'もX1'の点から「辺56b'」に垂直に主パネル111'上に引いた線で折れ曲ることになるが、実際には、主パネル111'はこのような面の途中から折れ曲ることはなく、スコア28a'の下側線から折れ曲るのである。)、また、構成要件(4)(ホ)によれば辺55b、56bは「折り返しパネル55、56が主パネル112、111と連接する」辺55b、56bと規定されており、イ号物件においてこの意味での「辺56b'、55b'」に該当するものは、スコア56b'の途中であるX1'部分ではなく、スコア56b'の全体であるX1部分であるというべく、X1を「辺56b'」と解することに何らの疑問もない。なお、X1部分の長さとは、スコア56b'全体の長さという意味であつて、主パネル111'の辺をいうのではなく、また主パネル111'、112'と折り込みパネル56'、55'がスコア56b'、55b'によつて「連接」していると解して何の不都合もない。

被告は、主パネル111'はスコア28a'の中心線から折れるものである旨主張する(第3、2 2(1)(2)中段)が、スコアがどの部分で折れ曲るかというと、平面が曲面に、曲面が平面に変る線をいうのが妥当であつて、これをイ号物件に即していえば、パネルが平面に、スコアが曲面に該当し、したがつて、主パネル111'はスコア28a'の下側線から折れ曲つており、主パネル111'に接続するスコア56b'もスコア28a'の下側線との交点から折れ曲つているのである。

仮に曲面であるスコア28a'の中心線をとり、そこから長さを測るとしても、スコアの幅は等しいため同じ長さが両者に加算され、大小関係は変らないから、イ号物件が本件考案の構成要件(4)(ホ)を具備することに変りはない。

5 被告は、昭和46年6月以降、前記のとおり本件考案の技術的範囲に属するイ号物件を製造、販売したが、その売上高は、昭和46年6月から昭和50年6月までが18億2410万円、昭和50年7月から昭和52年2月までが29億8050万円、昭和52年3月から本件実用新案権の存続期間満了の日である昭和53年6月14日までが23億6610万円にのぼつている。

1 被告は、故意又は過失により右のとおり本件実用新案権及び仮保護の権利を侵害したものであるから、これによつて原告の被つた損害を賠償すべき義務があるところ、実用新案法第29条第2項、第12条第2項の各規定により、原告は、本件考案の通常の実施料相当額を自己の損害の額としてその賠償を請求することができるものである。

しかして、原告が訴外十條製紙株式会社に対して本件実用新案権について通常実施権を許諾した契約における実施料は、昭和46年6月から昭和50年6月までが売上高の2パーセント、昭和50年7月から昭和53年6月14日までが売上高の1パーセントであるが、これは、右契約の当事者以外にも適用できる通常の実施料である(なお、甲第6号証の社団法人発明協会研究所編著「改訂実施料率」によれば、「紙加工および紙製品」の分野における実施料は、売上額の3ないし4パーセントがほとんどであるから、1ないし2パーセントというのは、低いことはあつても高いということはない。)。

したがつて、原告が被告に対し自己の損害の額として賠償を請求することができる右通常の実施料相当額は、18億2410万円の2パーセントに当たる3648万2000円(昭和46年6月から昭和50年6月まで)、29億8050万円の1パーセントに当たる2980万5000円(昭和50年7月から昭和52年2月まで)、23億6610万円の1パーセントに当たる2366万1000円(昭和52年3月から昭和53年6月14日まで)の計8994万8000円となる。

2 仮に右1が認められないとすれば、被告は、本件実用新案権及び仮保護の権利の侵害行為により、右1の通常の実施料相当額と同額を法律上の原因なくして利得し、これがために原告に同額の損失を及ぼしたのであるから、右金額を不当利得として原告に返還すべき義務がある。

よつて、原告は被告に対し、主位的に不法行為に基づく損害賠償請求として、予備的に不当利得返還請求として、前記8994万8000円及び内金6628万7000円に対する昭和52年7月2日(不法行為の後の日である訴状送達の日の翌日)以降、内金2366万1000円に対する昭和53年10月19日(不法行為の後の日である訴変更(請求の拡張)申立書送達の日の翌日)以降各支払済みまで民事法定利率年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第3請求の原因に対する答弁及び被告の主張

1  1 請求の原因1は認める。

2  請求の原因2前段については、本件明細書にそのような記載があることは認める。

同中段についての認否は、次のとおりである。

(1)  構成要件(1)は認める。

(2)  構成要件(2)は認める。

ただし、(1)中に、本体21が断面方形のものである旨の部分があるが、側パネル37の辺が側パネル34の厚さの分だけ長くなるので、本体21の断面は正確な正方形ではない。

(3)  構成要件(3)は認める。

(4)  構成要件(4)のうち、本件考案の構成要件自体((イ)、(ロ)、(ハ)の前段、(ニ)の前段、(ホ)の前段)は認めるが、作用効果の記載は正確ではない。原告主張の作用効果は、本件考案に固有なものではない。

なお、後記2 1(1)のとおり、右構成要件は、すべて本件考案の実用新案登録出願前から公知のものであり、本件考案の作用効果と同等の作用効果を奏するものが出願前から存在した。

同後段について、本件考案が完成した容器を対象とするものであることは認めるが、本件登録請求の範囲の記載は、各パネル等の形状、寸法を組み立てる前の容器の素材によつて特定したものであり、本件明細書の考案の詳細な説明の欄の記載も、すべて容器を組み立てる前の展開図に従つて本件考案を説明したものであつて、本件考案は、このような素材を組み立てたものであることを構成要件とするものと解すべきである。例えば、本件登録請求の範囲の記載の「前記折り返しパネル55、56の自由切断縁55a、56aがこの底部閉鎖部の折り込み及び封着に際して互に緊密に衝合するように、折り返しパネル55、56が主パネル112、111と連接する辺55b、56bの長さの和を折り込みパネル40の底辺28bの長さよりも僅かに大きくしており、同様に折り返しパネル60、61が延長部114及び主パネル112と連接する辺60b、61bの長さの和を折り込みパネル42の底辺28dの長さよりも僅かに大きくしてある」との部分及び本件明細書の考案の詳細な説明の欄の「これを実現するための具体的な構成として、折り線28に対して垂直な、三角形折り返しパネル55、56の辺55bと56bの長さの和は、折り込みパネル40の折り線28に沿つた底辺28bの長さよりも僅かに長くなるように、パネル40は寸法どられている(第2図参照)。同様に60b+61b>28dとなるようにパネル42は寸法どられている。言い換えるならば、三角形の折り返しパネル55、56、60、61の各々の辺55b、56b、60b、61bを形成している垂直折り線29、30、31及び32の長さが各々の折り込みパネル40、42の折り線28に沿つた辺28b及び28dの長さの1/2よりも僅かに長いようにこれらのパネルは寸法取られているのである。」(別添実用新案公報6欄4ないし18行)との記載は、組み立てる前の容器の素材によつて寸法を特定するものであることが明らかである。

本件考案のように紙を折りたたんで組み立てる容器においては、加熱、加圧によつて各パネルの形状、寸法が変化する(特に各パネルの衝合する角の部分は変形が著しい。)ため、組み立てた後に各パネルの形状がどのようになつているかを正確に特定することは困難であり、それ故、本件考案は折りたたんで組み立てる前の素材を基準として形状を特定し、それを組み立てたものであることを構成要件としているのである。現に、原告自身、後記2 1(2)の原告別件発明の明細書において、組み立てた後には外見上三角形となつてしまう折り返しパネル(原告別件発明の実施品たる検乙第4号証を折りたためば、折り返しパネルは三角形に見える。)も、組み立てる前の状態で梯形と指称しているのである。

3  請求の原因3については、被告が昭和46年6月以降、「トーエーパツク」なる商品(イ号物件)を製造、販売したことは認めるが、イ号物件を表示するものとしての別紙第1物件目録(1)ないし(3)の記載(図面及び説明書)は争う。

イ号物件は、別紙第2物件目録(1)ないし(3)のとおり特定するべきである。すなわち、別紙第1物件目録は、原告の主張によれば組み立てて完成した容器を展開したものを表示したものとのことであるが、前記2末尾2段のとおり本件考案が各パネル等の形状、寸法を組み立てる前の容器の素材によつて特定したものである以上、イ号物件も、別紙第2物件目録のように組み立てる前の容器の素材の形状、寸法によつて特定するべきである(原告がイ号物件特定のために提出、援用する検甲号各証や甲第3号証添附写真の被写体もすべて組み立てる前のものである。)。また、本件明細書では、スコアを全く意識しないで各パネルの形状、寸法が特定されているから、スコアの存在は無視し、その中心線をもつて記載したものとして理解し、イ号物件もスコアの中心線をもつて特定するべきである。

仮にイ号物件を組み立てて完成した容器を展開したものをもつて特定するとしても、別紙第1物件目録(1)ないし(3)の記載(図面及び説明書)は不正確である。イ号物件の組み立ては自動機械によつて加熱、加圧して行うのであるが、その仕上りは一様でなく、製品によつて相当のばらつきがある。そして、折り線のとおりに折り曲げられるとは限らず、また、折り曲げられることにより折り線の部分は変形するし、衝き合せ部分は著しく変形する。したがつて、一度組み立てて完成したイ号物件を展開しても別紙第1物件目録(1)ないし(3)のようにはならない。形状は歪みのあるものとなり、折り線も単純な直線とはならず、例えば、折り線(スコアの中心線)55c'l、56c'lは、その交点部分において、その第12図のように直線同士で直角に交わることはなく、同図において下方に湾曲して交わることになる。また、辺55b'lと56b'lの長さの和と辺28b'lの長さの大小関係及び辺60b'lと61b'lの長さの和と辺28d'lの長さの大小関係も組み立てて完成した状態で見るべきことになるが、そうすると、イ号物件では、右各辺が別紙第1物件目録(1)ないし(3)(説明書)の3 2の(ⅰ)及び(ⅱ)のような大小関係とはならない。すなわち、右各辺が右のような大小関係となるには、折り返しパネル55'lと56'l、折り返しパネル60'lと61'lがそれぞれ重ならなければならないが、現実のイ号物件では、折り返しパネル同士が重なることはなく、折り返しパネルの自由切断縁が衝合しているか、その間に若干の隙間があるかのいずれかである(すなわち、55b'l+56b'l≦28b'l、60b'l+61b'l≦28d'l)。これは、前記のとおりの組み立てる際の変形により辺の長さが短くなることや、折り線のとおりに折り曲げられないものである。

4  請求の原因は争う(後記2において詳述する。)。

5  請求の原因5について、被告が製造、販売したイ号物件の売上高は、多くとも(他製品の売上げがあり、正確には特定できない。)昭和46年6月から昭和50年6月までが18億2000万円、昭和50年7月から昭和52年2月までが29億8000万円、昭和52年3月から昭和53年6月14日までが23億6600万円である。

(1)  同5 1の前段は争う。

同5 1の中段のうち、原告と十條製紙株式会社間の契約における実施料は不知、売上高の2ないし1パーセントが本件考案の通常の実施料であるとの点は争う。

仮に十條製紙株式会社が原告主張の実施料を支払つていたとしても、それは、単なる本件実用新案権の実施許諾の対価としてではなく、実質的には業務、技術協力、商標使用等に関して支払われているものとも考えられ、通常の実施料とみることはできない。

考案の通常の実施料は、単に業界の一般的基準により定まるものではなく、当該考案の有用性、代替構成の有無、生産数量の多少等によつて左右されるものであるところ、本件考案は、後記2 1(1)のとおり、新規性、進歩性が極めて疑わしく、しかも他に多数の代替構成もあるのであり、また、本件考案に係る容器は大量に使用される消費材であるから、本件考案の通常の実施料は原告主張の額より低額であつてしかるべきである。

同5 1の後段は争う。

(2)  同5 2は争う。

2 イ号物件と本件考案の対比

イ号物件は、以下のとおり、本件考案の技術的範囲に属しない。

1 本件考案の技術的範囲

(1)  公知技術と本件考案の対比

(1)(ⅰ) いずれも原告を出願人とする、昭和36年5月25日特許庁受入れのフランス特許第1249232号明細書(乙第1号証。以下「本件フランス特許明細書」という。)及び昭和35年6月7日特許庁受入れのオーストラリア特許第225010号明細書(乙第2号証。以下、「本件オーストラリア特許明細書」という。)には、両者に共通の図面が添附されていて、本件考案とほとんど同一の構成の容器が示されている。すなわち、本件考案と本件フランス特許明細書に記載された発明(以下、「本件フランス特許発明」という。)(及び後記(ⅱ)のミルクデイーラー記載の容器)との対比の詳細は、別紙「本件考案と本件フランス特許発明及びミルクデイーラー記載の容器の比較表」及びその添附図面(乙第1号証第2図に本件明細書の番号を附したもの)、写真(乙第8号証35頁の写真に本件明細書の記載に従い番号を加筆したもの)のとおりであるが、本件フランス特許発明は、本件考案の構成要件(4)の(イ)、(ハ)、(ニ)、すなわち「斜めの切欠き119が側部継手フラツプの延長部114の端部に設けられ、主パネル112は折り込みフラツプ115を覆つて位置せしめられ、そして側部継手フラツプ延長部114の斜めの切欠き119と実質的に相補形状の斜めの切欠き120を有する重ねフラツプ116を備えており、これにより底部閉鎖部完成時に該切欠き120と119の自由縁が折り込みフラツプ115を介在させて互いに整列していること」を欠如しているのみで、他は本件考案と全く同じである。

そして、右のような実質的に相補形状にある2つの斜め切欠き119、120が存在することによつて、本件考案についての登録異議の申立ては理由なきものとされ、本件考案は実用新案登録されたものであるが、本件フランス特許発明においても、斜めの切欠きではないにしても、継手フラツプ延長部53とフラツプ50の切欠き52とは実質的な相補形状をなしており、底部閉鎖部を構成する複数のパネルが重なり合う帯域において、該帯域の1部分が残部より厚くなることを防ぎ、底部閉鎖部の確実な密封を保つという作用効果を奏する(乙第1号証3頁右欄25ないし31行)のであつて、本件考案の場合と同じであり、この点において本件考案に格別の作用効果は認められない。

(ⅱ) また、昭和37年7月24日国立国会図書館受入れの書籍「ザ・ミルクデイーラー」1962年(昭和37年)6月号(乙第8号証。以下、「ミルクデイーラー」という。)35頁には、本件考案の底部の構成と全く同一の構成の底部を有するポリコートした牛乳容器が示されている。

特に、主パネル112と折り込みフラツプ115の重ね順及び斜めの切欠きに関して、斜めの切欠きを有する主パネル112に相当する部分が折り込みフラツプ115を覆つており、また、折り込みフラツプ115を介在させて、実質的な相補形状にある斜めの切欠き120と119を衝合させるようにしてあることが明らかである。

原告は、ミルクデイーラーの記事には、容器の構成、組み立てに関する記述は一切なく、その写真は、容器本来の形状が極めて分りにくい状態にあるのみならず、本件考案に係る容器を同じ方向から撮影したという前提では矛盾し、説明不可能な点が多々あるので、これから容器の底部構造を知ることは不可能である旨反論する。

しかし、この写真には、各パネルの形状、組合せ状態が明瞭に示されており、この種容器の製造販売の専門家であれば容易にその構成を理解することができるものである(証人平田勲の証言参照。)し、また、この写真はすべて「同じ方向から撮影した」ものであるという前提自体が原告の誤つた独断であり、注意して対比して見れば、撮影方向が180度相違しているものがあることは誰でも判断できることである。特に、本件考案の実用新案登録出願当時、本件フランス特許発明及び本件オーストラリア特許明細書(乙第2号証)記載の発明(以下、「本件オーストラリア特許発明」という。)が公知のものとなつており、更に、乙第3、第20号証から明らかなように熱可塑性合成樹脂を使用した紙容器が研究、開発されていて、当業技術者がこの種紙容器についての技術的知識を十分有していたという事実を前提とすれば、右写真から容器の底部構造を知ることは不可能であるとの原告の反論は、当業技術者の技術常識によらない素人論といわねばならない。

(ⅲ) 更に、後記31のとおり、東栄は、相補形状にある斜めの切欠きを設けることを含め、本件考案の構成と実質上同一と評価しうる容器を、本件考案の実用新案登録出願前から製造、販売していた(乙第3、第20号証)。

なお、折り込み順について、三角形状の折り込み部を容器外側に出すか内側に入れるかというようなことは、基本的な容器の形状(展開図)さえ定まれば、あとは便宜当業技術者において容易に考案しうるものである(乙第16号証の1ないし3、第18、第19号証)。

(2) 右(1)のとおり、本件考案は、その実用新案登録出願前に公知であつた本件フランス特許発明と基本的に同一であり、本件考案が本件フランス特許発明と相違すると考えられる点もミルクデイーラーに示されたもの及び東栄が実施していたものと同一であつて、これらを単に寄せ集めたものにすぎず、何らの新規性、進歩性も認めることはできない。

したがつて、本件考案は、従前の公知技術と同一のものであり、あるいは少なくともそれから極めて容易に考案できたものであるから、本件考案についての実用新案登録は無効原因を有するものであり、被告請求に係る無効審判手続において早晩無効にされるべきものであつて、現に特許庁は、昭和55年5月7日、右手続において本件考案についての実用新案登録を無効にする旨の審決をなした。右審決に対して原告が東京高等裁判所に取消訴訟を提起し、同訴訟が現に係属中であるため、右審決が確定していない現在においては、本件実用新案権は一応有効に存在していたものとして扱わざるをえないとしても、その技術的範囲は、最も厳格に理解される本件登録請求の範囲の記載の字義を越えることができないのはもちろんとして、本件明細書の考案の詳細な説明の欄記載の実施例に一致するものに限定されるものと解すべきである。

(2)  原告別件発明と本件考案の対比

原告が本件考案の実用新案登録出願(昭和38年6月14日)前の昭和38年3月16日(優先権主張昭和37年4月2日)に特許出願をした発明(以下、「原告別件発明」という。)の明細書(その特許公報たる乙第5号証参照。)には、本件考案における三角形折り返しパネル55、56、60、61の形状が梯形であり(すなわち梯形折り返しフラツプ)、三角形折り込みパネル40、42の底辺が側パネル35、37の幅よりも小である点を除いては、本件考案の構成と全く同一の構成の容器が図示説明されている。右明細書の実施例では、その特許請求の範囲の記載にいう梯形折り返しフラツプは、折り返し部33、34、37、38と表現されているが、折り返し部33、34、37の上部頂点が折り線12において幅13.97センチメートルのパネル14、16と0.125インチ(0.31センチメートル。なお、右乙第5号証に3.30センチメートルとあるのは計算違いである。)接して1辺(上底)なし、折り返し部38の上部頂点が折り線12において幅13.97センチメートルのパネル16と0.187インチ(0.47センチメートル)接して1辺(上底)をなしているため、それぞれ梯形を形作つている。そして、このように(梯形)折り返しフラツプすなわち折り返し部33、34、37、38の形状をその上部を1辺となして梯形に形成することの作用効果が、「このため第7図から第10図に示すごとくして底を形成する際、容器底の各隅に大量の紙材が押しやられることなく、フラツプ26および28を容器底へと折り込むことができる。」(右特許公報2頁右欄34ないし38行)と特記されている。

右明細書の第1図を見ると、右梯形折り返しフラツプは一見したところ三角形のように見えるが、原告(出願人)は、三角形の頂点の1つが僅か0.31センチメートルあるいは0.47センチメートル程度でも幅13.9センチメートルのパネルに接していれば、それは三角形ではなく梯形であると認識していたことが分る。しかして、本件考案は、この原告別件発明の特許出願に続いて出願されたものであり、原告別件発明と対比して、(三角形)折り返しパネル55、56、60、61が三角形であり、三角形折り込みパネル40、42の底辺が側パネル35、37の幅と一致するものであることを特徴とするものと解される。

したがつて、本件考案における三角形折り返しパネル及び三角形折り込みパネルは、厳密な意味での三角形であることを要すると解すべきである。

(3)  本件考案の構成要件の解釈

本件考案の構成要件は、右(1)、(2)のような観点から厳格に解釈すべきであり、左記の点は特に厳格に解釈すべきである。

(1) 本件考案の構成要件(3)(b)中の「三角形折り込みパネル40、42」は、折り線の中心から見て文字どおり正確に三角形になつているものを指し、多少でも三角形の角がとれているものは含まない。

なぜなら、三角形という用語自体から当然右のように解されるし、中心線を基準として形状を判断するのはこの種業界の常識でもある(乙第4、第5号証では、極めて小さな辺をも1辺として五角形等と表現している。特に原告自身を出願人とする原告別件発明の特許公報たる乙第5号証については前記(2)のとおり。)。

また、本件明細書の考案の詳細な説明の欄にも、「折り線58及び59は、垂直折り線29、30と横折り線28との交点から出発して、下向きに収斂し素材の切断下縁と交わるものである」(別添実用新案公報4欄12ないし14行)と記載されており、このように垂直折り線と横折り線(28b)の交点から斜め折り線が出て、これが切断下縁(自由切断縁)と交わつて三角形折り込みパネルを形成していることが本件考案の構成要件の1つであるというべきである。

(2) 右(1)と同様の趣旨で、本件考案の構成要件(3)(c)中の「三角形折り返しパネル56、55」も、垂直折り線29、30と横折り線28の交点、斜め折り線58、59が素材の切断下縁と交わる点、及び垂直折り線29、30が素材の切断下縁と交わる点を結んでできる三角形を意味するものであり、斜め折り線が素材の切断下縁と交わつていない場合は含まない(構成要件(3)(d)中の「三角形折り返しパネル61、60」についても同様である。)。

(3) 本件考案の構成要件(4)(ハ)中の主パネル111に備えられた折り込みフラツプ115の「テーパ部分118」は、本件明細書の図面第2図に示される斜めの切欠き状としたものに限定され、不規則な形状のものは含まない。

テーパとは、通常先端が順次細くなる構成を指すものであり、本件明細書の図面第2図によつても本件考案においては斜めの切欠き状としたものをテーパと称しているものと解される。

2 イ号物件と本件考案の対比

イ号物件は、これを本件考案と対比すると、次のとおり本件考案の構成要件を欠如するから、本件考案の技術的範囲に属しない。

(1)  イ号物件は、本件考案の構成要件(3)(b)中の「三角形折り込みパネル40、42」を欠如する。

(1) すなわち、前記1(3)(1)のとおり本件考案の構成要件(3)(b)中の「三角形折り込みパネル40、42」は、折り線の中心から見て文字どおり正確に三角形になつているものを指し、多少でも三角形の角がとれているものは含まないところ、イ号物件の折り込みパネルは、垂直折り線と横折り線及び斜め折り線との交点部分が僅かではあるが1辺をなし、全体として五角形状をなしており、しかも、斜め折り線は素材の切断下縁と交わつていない。

そして、イ号物件は、このように折り込みパネルを五角形状とすることにより、折りたたんだ場合に折り込まれる紙の厚さを吸収して無理な力が折り部に生じないようにしてあるのであつて、本件考案の三角形折り込みパネルとは作用効果も異にする(乙第4号証)。

(2) 原告は、イ号物件の構成(4)の(ホ)に関連して「実際には、スコア56b'は、スコア28a'の下側線との交点から折れている」とし(第2、第4 4(2)第4段)、パネルの形状についてはスコアを除いたパネルの形状をいうと主張する(第2、4 3第3段)。

しかし、実際に折つてみれば分るとおり、主パネル111'はスコア28a'(第1特件目録。以下同様。)の下側線の位置で直角に折れるのではなくスコア28a'の中心すなわち折り線28a'(第2物件目録。以下同様。)から折れるものであるし、また、折り込みパネル40'はスコア28b'の中心すなわち折り線28b'から折れるものであり、更に、折り返しパネル56'の上端はスコア56c'の中心すなわち折り線56c'とスコア56b'の中心すなわち折り線56b'の交点で折れるものである。したがつて、右(1)のように垂直折り線と横折り線及び斜め折り線との交点部分が僅かではあるが1辺をなしているのである(仮に、別紙第1物件目録(1)ないし(3)の第8図において、スコア28a'の下側線とスコア56b'の右側線の交点(01とする。)から自由切断縁56a'までの長さa1を有する辺a1と、スコア28c'の下側線とスコア55b'の左側線の交点(02とする。)から自由切断縁55a'までの長さa2を有する辺a2を、それぞれ01、02を中心として折り曲げた場合、自由切断縁55a'と56a'とは衝合することなく図において9ミリメートルの間隙を生ずる。このような不都合な結果を生ずるのは、原告が実際に折れ曲る線を無視したためである。)。

原告は、イ号物件の折り込みパネル40'、42'、折り返しパネル55'、56'、60'、61'が組み立て後はいずれも三角形であることは明らかであると主張する。しかし、例えば、原告別件発明の実施品である検乙第4号証においても、五角形に設計されているパネルが1度折り立てられるとほぼ三角形となつてしまうが、このようなパネルも、折り立てられる前の形状が五角形に形成されている限り、三角形ではなく五角形と見るのが当業界の常識である。これは、その極めて短い1辺が容器を組み立てる際に紙の厚みを吸収するように意識的に設けられたものであり、組み立てた後は辺としての存在が認識できなくても機能的に重要で、無視することができないからである。

(2)  イ号物件は、本件考案の構成要件(3)(c)中の「三角形折り返しパネル56、55」、構成要件(3)(d)中の「三角形折り返しパネル61、60」を欠如する。

すなわち、前記1(3)(2)のとおり本件考案の構成要件(3)(c)中の「三角形折り返しパネル56、55」は、垂直折り線29、30と横折り線28の交点、斜め折り線58、59が切断下縁と交わる点、及び垂直折り線29、30が素材の切断下縁と交わる点を結んでできる三角形を意味するものであり、斜め折り線が素材の切断下縁と交わつていない場合は含まない(三角形折り返しパネル61、60についても同様。)ところ、イ号物件では、2本の斜め折り線が切断下縁の内側で交わり、素材の切断下縁とは交わつていない。したがつて、イ号物件の折り返しパネル55'、56'、60'、61'は、独立した閉鎖形状をなしておらず、強いていえば梯形状というべきであつて、三角形ではない。

イ号物件の右のような構成も、容器を組み立てる際に紙の厚みを吸収するためのものであつて、イ号物件は本件考案の有しない作用効果を有するものである(なお、(1)(2)後段参照。)。

(3)  イ号物件は、本件考案の構成要件(4)(ハ)中の主パネル111に備えられた折り込みフラツプ115の「テーパ部分118」を欠如する。

すなわち、前記1(3)(3)のとおり本件考案の構成要件(4)(ハ)中の主パネル111に備えられた折り込みフラツプ115の「テーパ部分118」は、本件明細書の図面第2図に示される斜めの切欠き状としたものに限定され、不規則な形状のものは含まないところ、イ号物件の主パネル111'の折り込みフラツプ115'の両側は角が丸くなつた特殊な形状となつており、本件明細書の図面第2図に示される如き先細の斜め切欠き状のものではない。

イ号物件は、このように主パネル111'の折り込みフラツプ115'に丸味を付けることにより組み立てがスムーズに行えるようにしたものであり、本件考案と相違する。

(4)  仮に、原告の主張に従い、パネルの形状をスコアを除いて判断するとすれば、イ号物件は本件考案の構成要件(4)(ホ)を欠如する。

すなわち、本件考案の構成要件(4)(ホ)は、折り返しパネル55、56(又は60、61)が主パネル112、111(又は側部継手フラツプの延長部114及び主パネル112)と連接する辺55b、56b(又は60b、61b)の長さの和が折り込みパネル40(又は42)の底辺28b(又は28d)の長さよりも僅かに大きくなつていることであるが、仮にイ号物件のパネルの形状をスコアを除いて判断するとすれば、そのパネルの辺の長さもスコアを除いて測定すべきことになり、そうすると、イ号物件では、逆に、折り込みパネル40'(又は42')の底辺の長さが、折り返しパネル55'、56'(又は60'、61')が主パネル112'、111'(又は側部継手フラツプの延長部114'及び主パネル112')と連接する各辺の長さの和よりも大きいか、少なくとも同じである(乙第6、第7、第24号証)から、右構成要件(4)(ホ)を充足しない。

この点について、原告は、イ号物件において、本件考案にいう「折り返しパネル55、56が主パネル112、111と連接する辺55b、56bの長さ」及び「折り返しパネル60、61が延長部114及び主パネル112と連接する辺60b、61bの長さ」に相当するのは、それぞれ別紙参考図のX2、X1、X4、X3の長さであると主張する(第2、4 4(2)第4段)が、本件登録請求の範囲の記載では「折り返しパネル55、56が主パネル112、111と連接する辺55b、56bの長さ」となつており、折り返しパネル55、56側から辺の長さが規定されるのであつて、主パネル112、111側の辺の長さが規定されているわけではない(三角形折り返しパネル56の上端位置と折り線28aとは一致せず、段差がある。)から、イ号物件について、別紙参考図のX2、X1、第1物件目録(1)ないし(3)の第8図のa2、a1のように主パネル112'、111'側でスコア28c'、28a'の下側線から本件考案にいう右「辺55b、56bの長さ」を測定しても、本件考案との対比には役立たない(X4、X3すなわちa4、a3及びb1、b2についても同様。)。また、パネルの形状をスコアを除いて判断するのであれば、パネルの辺の長さも当然スコアを除いた当該パネル自体の辺の長さX2'、X1'、X4'、X3'(別紙参考図)を測定するべきであつて、1つの考案に基づく権利の主張に当たつて、三角形パネルであるか否かについてはスコアを除いた形状で判断し、他方、その辺の長さについては当該パネル自体の辺の長さを測定せず、当該パネルとスコアを挾んで隣接するパネルの辺の長さを測定するというような主張は、一貫性を欠き、許されない。

(5)  仮に、被告が製造、販売した製品の中に原告主張のような寸法のものがあり、かつ、それが本件考案の技術的範囲に属するものであつたとしても、被告の製品のすべてが右のようなものであつたとの立証がないから、原告は、このような立証のできた数の製品についてのみ損害賠償を請求しうるにすぎない。

3 先使用による通常実施権の抗弁

仮にイ号物件が本件考案の技術的範囲に属するとしても、被告は、以下のとおり本件実用新案権について先使用による通常実施権を有していたものである。

1 訴外東栄紙業株式会社(昭和39年4月1日商号を「株式会社東栄」に変更。以下、商号変更の前後を通じ、「東栄」という。)は、以下のとおり、本件考案の実用新案登録出願前、本件考案とほぼ同一の形状をした容器の製造、販売の事業ないしは少なくともその準備をしていたから、本件実用新案権につき先使用による通常実施権者たる地位を有していた。

(1)  東栄は、従前から紙容器の研究開発をしていたが、昭和34年頃には、本件考案と同等の柱状屋根形紙容器(ゲーブルトツプタイプ)を開発した。

この容器は、接着部分に合成樹脂を塗被し熱接着させた後にワツクス加工するもの(ワツクス自体にも熱可塑性のプラスチツク(ポリエチレン)が含まれているので、熱可塑性のプラスチツクを塗被したものということができる。)で、東栄において屋根部を除く部分を組み立てて出荷し、需要者である乳業メーカーにおいて牛乳充填後密封するものであつた。これは、乙第16号証の1ないし3(昭和34年当時の右容器の組立装置を図解したものの写真)から明らかなように、三角形状の折り込み部(折り込みパネル)は容器内側に折り込まれていて、外側には出ていない形状となつていた(このことは、製作上及び外観上当然の技術である。)。そして、この容器を販売するについて昭和34年12月2日に東京都立衛生研究所に依頼した衛生試験の試験成績書が乙第17号証である。

このように、東栄は、三角形状の折り込み部が容器内側にあるものを開発し製造していたが、その後、1時期、検品の便宜のため、三角形状の折り込み部を容器外側に出したものも製造した。

(2)  一方、ワツクスカートンは、強度的に多少問題があり、またワツクスが牛乳に入る危険性も考えられるので、昭和35年頃より、容器全面に合成樹脂を塗被した容器の開発が行われた。乙第20号証は、昭和36年5月3日に作成された変性酢酸ビニル(ゴーセラン)加工テスト用の展開図であるが、これは、本件考案とほぼ同等の形状の容器を示している。この展開図は、折り返しパネルが主パネルと連接する辺(本件考案における55b、55b又は60b、61b)の長さの和が折り込みパネルの底辺(同じく28b又は28d)の長さと等しく表わされている点で本件考案と相違するが、証人平田勲の証言から明らかなように、実際の型の製造に当たつては、工作上の誤差を考慮し、右折り返しパネルの辺の長さの和が右折り込みパネルの底辺の長さより僅かながら大きくなるようにし、本件考案と同等の考慮をしていたものである。そして、組み立て順についても、三角形状の折り込み部(折り込みパネル)を容器内側に入れたものであり、本件考案と同じであつたことは同人の証言により明らかである。

この合成樹脂ゴーセランは、昭和36年末までには製造、販売とも中止されたため、東栄は、昭和36年後半から、ホツトメルト樹脂(ポリオレフイン系樹脂、例えばポリエチレン)を同様な形状の容器に塗被したものを開発し(乙第3号証)、商品化した。

(3)  先使用による通常実施権は、その実施内容において客観的に表現された考案の範囲まで及ぶと解すべきであり、このような見解からすると、東栄の製造、販売していた容器とイ号物件とは同一性を有するものということができる。

2 被告は、昭和46年に設立された株式会社であるが、設立にあたり、東栄の各取引先に了解を求めて、東栄から牛乳容器の製造、販売に関する一切の業務(プレーンヨーグルトカートンの業務に限らない。)を引継ぎ(このことは、証人平田勲の証言により明らかである。なお、乙第15号証は、業務の引継ぎに際し、明治乳業株式会社に差出した「業務引継ぎお願い書」の控えである。)、東栄の取引先に対して以後被告が製造した牛乳容器を継続して納入し、現在に至つている。

したがつて、被告は、東栄の実施していた事業とともに本件実用新案権についての先使用に通常実施権者たる地位を承継したものであるから、先使用による通常実施権を有していたものである。

4 権利の濫用

仮に右主張が認められないとしても、前記2 1(1)(2)のとおり、本件考案についての実用新案登録は被告がなした無効審判請求に基づきなされた無効審決の確定により将来無効となるべきものであり、しかも、無効原因は、原告の出願に係る外国特許の公報(本件フランス特許明細書)や広告的な雑誌記事(ミルクデイーラー)において原告自ら公知にしたことにあるから、このような実用新案権が一応有効に存在していた(ものとして扱わざるをえない)からといつて、これに基づく損害賠償請求をすることは権利の濫用として許されないと解すべきである。

5 時効の抗弁

仮に被告が不法行為に基づく損害賠償義務を負つていたとしても、原告は、被告がイ号物件を製造、販売していることを遅くとも昭和49年6月より前に承知していたから、本件実用新案権の侵害についての損害及び加害者を知つていたということができ、したがつて、本訴請求のうち、本訴が提起された昭和52年6月24日までに既に3年を経過した分の損害賠償請求権は時効により消滅したものである。

被告は、本訴において右時効を援用する。

第4被告の主張に対する原告の答弁及び反論

1  イ号物件と本件考案の対比について

1 本件考案の技術的範囲

(1)  公知技術と本件考案の対比

(1)(ⅰ) 被告は本件考案の新規性を云云するが、本件考案は、被告主張の本件フランス特許発明及び本件オーストラリア特許発明を発展させ改良し、その問題点を解決した新規な考案であつて、このことは、本件フランス特許明細書(乙第1号証)か本件考案についての審判手続(昭和41年審判第8688号)において提出されたにかかわらず、なお本件考案の実用新案登録がなされたことからも明らかである。

本件考案と右両特許発明の相違点は、本件考案では、主パネル112が折り込みフラツプ115を有する主パネル111を覆つて位置し、その結果、相補形状にある斜めの切欠き120と119は折り込みフラツプ115を介在させて互に整列する(甲第2号証の1、第3、第4図)のに対し、右両特許発明では、パネル41(本件考案の主パネル112に該当する。)かパネル39(本件考案の主パネル111に該当する。)に覆われるという逆の関係にある(乙第1、第2号証の各図7、8)ことである。

本件考案が右のような底部構造を有する目的は、右両特許発明の切欠きの形状では、切欠き52とフラツプ53の精度が十分でないと、底部の組み立てに際し切欠き52の角とフラツプ53の角がひつかかつて持ち上がるなどして組み立てに支障を来したり、重なつて段差ができて完全な密封が阻害されるなどという問題点があつたのでこの点を改良し、一方では、切欠き52を斜めのものとし、これと相補形状にフラツプ53にも斜めに切欠きを設け、他方では、この相補形状にある切欠きを折り込みフラツプ115を介在させて衝合させることによつて、切欠きの精度が十分でなく右両特許発明の容器では底部組み立てに際し問題が生じるような程度のものでも、自動生産によつて支障なく完全に密封されたものとして組み立てることを可能にし、不良品としないことにある。

(ⅱ) 被告は、ミルクデイーラー(乙第8号証)には、本件考案の底部の構成と全く同一構成の底部を有するポリコートした牛乳容器が示されていると主張する。

しかし、右ミルクデイーラーの記事には、容器の構成、組み立てに関する記述は一切なく、単に容器の1部の写真が示されているのみであり、しかもその写真は、焦痕や剥離痕のため容器本来の形状が極めて分りにくい状態にあるのみならず、本件考案に係る容器を同じ方向から撮影したという前提では矛盾し、説明不可能な点が多々ある。したがつて、この写真から容器の底部構造を知ることは不可能である。

本件考案とミルクデイーラー記載の容器の対比についての被告の主張は、単にミルクデイーラー記載の容器は本件考案に係る容器であるという前提に立つてなされたものであつて、結論を前提とし矛盾をおし曲げてなされた議論にすぎない。

(2) 右(1)のとおり、本件考案は新規性を有するものであるから、本件考案の技術的範囲は本件明細書の考案の詳細な説明の欄記載の実施例に一致するものに限定される旨の被告の主張は失当である。なお、「単なる寄せ集め」の考案の問題は、進歩性の問題であつて、新規性の問題ではない。

ただし、特許庁が昭和55年5月7日、被告のなした無効審判請求に基づき本件考案についての実用新案登録を無効とする旨の審決をしたこと、右審決に対して原告が東京高等裁判所に取消訴訟を提起し、同訴訟が現に係属中であることは認める。

(2)  原告別件発明と本件考案の対比

原告別件発明についての第3、2 1(2)の被告主張のうち、前段は認めるが、中段、後段は争う。

0.31センチメートルあるいは0.47センチメートルは決して「僅か」ではない。

(3)  本件考案の構成要件の解釈

被告は、本件考案の構成要件は厳格に解釈すべきであるとして種々主張するが、この主張は、本件明細書の記載の文理解釈から到底認めうるものではなく、本件考案を全く別の考案にする試みともいうべきものであつて、許されるはずがない。

2  イ号物件と本件考案の対比

第3、2 1の本件考案の技術的範囲についての被告の主張が右1のとおり失当である以上、これを前提とするイ号物件と本件考案の対比についての被告の主張も失当である。イ号物件が本件考案の技術的範囲に属することは、前記第2、4のとおりである。

2 先使用による通常実施権の抗弁について

先使用による通常実施権の抗弁は争う。

1  実用新案権について先使用による通常実施権を有するためには、その実用新案登録出願の際、その「考案の実施」である事業をし、又はその事業の準備をしていることを要する(実用新案法第26条、特許法第79条)が、この「考案の実施」とは、考案の1部の実施では足らず、各構成要素が有機的に結びついていて1つの技術思想として結実したところの考案全体の実施であることを要する。すなわち、実施されている技術は、考案の構成要件をすべて具備するものでなければならない。

しかるに、被告の提出、援用する乙第3、第20号証は、いずれも単に容器の展開図を示したものにすぎず、この容器の完成後の構造やパネルの折り込み方法を何ら示すものではなく、したがつて、被告の主張も、右容器は「本件考案とほぼ同等の形状」というにとどまり、これがどのように本件考案の構成要件を充足するものであるかとの点についての具体的主張を欠くものであるし、「本件考案とほぼ同等の形状」という主張自体、東栄の製造、販売していた容器が本件考案と異なる部分を有することを自認するものであつて、いずれにしても、「本件考案の実施」なる要件を欠如していることは明らかである。

右乙第3号証(昭和37年東栄出願に係る昭51―41528号実用新案公報)について若干詳述するに、同号証は、右のとおり容器の展開図を示したものにすぎず、容器の完成後の構造やパネルの折り込み方法を何ら示すものではないが、その底部の構造について、考案の詳細な説明の欄に、わずかに「この折線構造は、我が国においては佃煮用袋とか、タバコのキザミ袋の容器底部構造と同じ折紙構造であるから、本考案の主要な要件ではない。」(7欄14ないし17行)との記載があるところ、右出願当時の佃煮用袋ないしタバコのキザミ袋の容器の折り込み方法は、三角形状の折り込み部(本件考案にいう三角形折り込みパネル)を容器外側に出すのが一般であつたから、右考案においても、右折り込み部を外側に出す折り込み方法を念頭においたものと考えられる。また、被告がかつて製造、販売したとする、三角形状の折り込み部を容器外側に出す折り込み方法の容器の底部展開図と、その後ホツトメルト樹脂を塗被した容器として開発し商品化したとする乙第3号証の容器の底部展開図とは、表裏を別として相似であり、東栄が右折り込み部を外側に出す折り込み方法をやめ、これを内側に入れる折り込み方法を採用したという必然性も一切ないことを考慮すれば、乙第3号証の容器は、三角形状の折り込み部を外側に出したものであつたと考えるのが自然である。してみれば、東栄の製造、販売していた容器は本件考案とは全く別のものであつたことになる。

2  また、被告が東栄から牛乳容器の製造、販売に関する一切の業務を引継いだことの証拠として提出、援用する乙第15号証によれば、東栄から被告に引継がれたのは「プレーンヨーグルト500mlカートン」なるものに関する事業に限られるし、しかも、この「プレーンヨーグルト500mlカートン」が本件考案の構成要件を具備する容器であることを示す資料は全くない。

3  被告の援用する証人平田勲の証言からも、東栄から被告に対し、ワツクスコートされた容器の製造、販売業務はもとより、熱可塑性樹脂で被覆された牛乳容器の製造、販売業務が譲渡された事実のないことが明らかである。

なお、ワツクスコートの容器はもちろん、熱可塑性樹脂で被覆された容器であつても、その被覆が容器を組み立てた後に行われるものは、本件考案とは何の関係もない。本件考案では、容器の素材自体が予め熱可塑性樹脂で被覆されたものであることが当然の前提となつているからである。

3 権利の濫用の主張について

本件損害賠償の請求は権利の濫用として許されない旨の被告の主張は争う。

4  時効の抗弁について

原告は被告がイ号物件を製造、販売していることを遅くとも昭和49年6月もり前に承知していたとの点は否認し、その余の主張は争う。

第5証拠関係

1  原告

1 甲第1号証、第2号証の1、2、第3ないし第5号証、第6号証の1、2、第7、第8号証を提出。

2  検甲第1ないし第10号証(イ号物件、すなわち甲第3号証添附写真T―1ないしT―10の被写体たる容器)を提出。

3  乙第6号証、第10号証の3、4、第13、第15号証、第16号証の1ないし3、第17ないし第21号証の成立は不知。その余の乙号各証の成立は認める。検乙第4号証が被告主張のものであることは不知。その余の検乙号各証が被告主張のものであることは認める。

2  被告

1 乙第1ないし第9号証、第10号証の1ないし7、第11ないし第15号証、第16号証の1ないし3、第17ないし第24号証を提出。

2 検乙第1、第2号証(いずれもイ号物件)、第3号証(解体したイ号物件の底部)、第4号証(原告別件発明の実施品)を提出。

3  証人平田勲の証言を援用。

4  甲第3、第5号証の成立は不知。その余の甲号各証の成立は認める。検甲号各証が原告主張のものであることは認める。

理由

1  原告が本件実用新案権について、出願公告から登録までいわゆる仮保護の権利を、登録から存続期間満了の日である昭和53年6月14日まで実用新案権を有していたこと、本件登録請求の範囲の記載が原告主張のとおりであることは当事者間に争いがない。

2  右1に確定した本件登録請求の範囲の記載、成立に争いのない甲第2号証の1、2(本件実用新案公報及びその訂正公報。別添実用新案公報及び訂正公報に同じ。)及び本件口頭弁論の全趣旨によれば、本件考案は、加熱により接着性となる熱可塑性プラスチツク表面を有するシートないし板紙から容易に折り立てかつ密封される、ミルクその他の食品の包装に適した強靱な包装容器において、すぐれた防漏性を有し、底のかどが衝撃を受けるような苛酷な使用条件下でさえも液密状態を維持することができ、容器の内部及び容器内容物に対して露出する未処理縁、すなわち被覆を持たない切断縁を最少ならしめ、更に重なるパネルの枚数が局部的に多くなつてより厚くなることのない容器底部閉鎖部の改良構造を提供するものであつて(別添実用新案公報2欄22ないし32行)、その構成要件は、次の(1)ないし(4)のとおりであることが認められる。

(1)  (容器の素材)

加熱された時に活性化されて接着性になる熱塑性プラスチツク表面を有する板紙ないし同等物から形成された容器であること。

(2)  (容器の構成)

この容器は、4つの側パネル34、35、36、37及びパネル37と一体でパネル34の内表面に接着された細い側部継手フラツプ38より成る断面方形の本体21、右本体の頂部にある頂部閉鎖部23、右本体の底部にある底部閉鎖部22を有していること。

(3)  (容器の底部閉鎖部の構成)

前記底部閉鎖部22は、

(a)  本体パネル(側パネル)34、36の下端に連接しそして底部閉鎖部の最も外側の層を形成する対置せる1対の主パネル111、112、

(b)  底辺28b、28dにおいて本体パネル(側パネル)35、37の下端に連接しそして最初に折り込まれて底部閉鎖部の最も内側の部分を形成する対置せる1対の三角形折り込みパネル40、42、

(c)  前記主パネル111、112と折り込みパネル40との間にあつてこれらに連接しそして自由切断縁56a、55aをそれぞれ有する1対の三角形折り返しパネル56、55、

(d)  前記主パネル112と前記折り込みパネル42との間及び前記側部継手フラツプの延長部114と折り込みパネル42との間にあつてこれらに連接しそして自由切断縁61a、60aをそれぞれ有する1対の三角形折り返しパネル61、60

から構成されていること。

(4)  (底部閉鎖部の構成要素の形状、相互関係)

(イ)  前記側部継手フラツプの延長部114は端部に斜めの切欠き119を有していること。

(ロ)  前記2対の折り返しパネル55、56、60、61は、折り込みパネル40、42の折り込みとともに折り返されて該折り込みパネルと主パネル111、112との間に位置していること。

(ハ)  前記主パネル111は両側にテーパ部分118を有しそして他方の主パネル112と折り返しパネル55、61との間に挿入される折り込みフラツプ115を備えていること。

(ニ)  前記主パネル112は折り込みフラツプ115を覆つて位置せしめられそして前記側部継手フラツプ延長部の斜めの切欠き119と実質的に相補形状の斜めの切欠き120を有する重ねフラツプ116を備えており、これによりこの底部閉鎖部完成時に該切欠き120と前記側部継手フラツプ延長部の切欠き119の自由縁が折り込みフラツプ115を介在させて互に整列していること。

(ホ)(ⅰ) 前記折り返しパネル55、56の自由切断縁55a、56aがこの底部閉鎖部の折り込み及び封着に際して互に緊密に衝合するように、折り返しパネル55、56が主パネル112、111と連接する辺55b、56bの長さの和を、折り込みパネル40の底辺28bの長さよりも僅かに大きくしてあること。

(ⅱ) 同様に、折り返しパネル60、61が側部継手フラツプ延長部114及び主パネル112と連接する辺60b、61bの長さの和を、折り込みパネル42の底辺28dの長さよりも僅かに大きくしてあること。

そして、本件登録請求の記載中には、「この容器は4つの側パネル34、35、36、37及びパネル37と一体でパネル34の内表面に接着された細い側部継手フラツプ38より成る断面方形の本体21……を有し」との部分があり、前顕甲第2号証の1、2によれば、本件明細書の考案の詳細な説明の欄に、「本考案を実施した密封容器の斜視図である」(図面の簡単な説明の欄)第1図について、「図示の容器20(第1図)は、本件考案の具体例である。」(別添実用新案公報第2欄35、36行)、「容器20は、管状の本体21を有する。この本体は本例にあつては、実質的に正方形の横断面を有する。」(同3欄5ないし7行)との記載があることが認められ、これらの記載と本件口頭弁論の全趣旨を併せ考えれば、本件考案が完成した容器を対象とするものであることは明らかというべきであるが、一方、本件登録請求の範囲の記載中には、「前記折り返しパネル55、56の自由切断縁55a、56aがこの底部閉鎖部の折り込み及び封着に際して互に緊密に衝合するように、折り返しパネル55、56が主パネル112、111と連接する辺55b、56bの長さよりも僅かに大きくしており」との部分があり、同号証によれば、本件明細書の考案の詳細な説明の欄に、「第1図の容器を折り立てる展開図であり該素材の内側を示す」(図面の簡単な説明の欄)第2図について、「最終的に完成された場合に底部閉鎖部22に極めて堅固な密封を得るという本考案の目的を達成するため」「完成した底部閉鎖部において相互に衝合する三角形折り返しパネル55と56、60と61の自由切断縁即ち55aと56a、60aと61aが、底部閉鎖部の完成に先だつて相互に極めて緊密で確実に衝合するように構成される」(別添実用新案公報5欄33ないし40行)こと「を表現するための具体的な構成として、折り線28に対して垂直な、三角形折り返しパネル55、56の辺55bと56bの長さの和は、折り込みパネル40の折り線28に沿つた底辺28bの長さよりも僅かに長くなるように、パネル40は寸法どられている(第2図参照)。同様に60a+61b>28dとなるようなパネル42は寸法どられている。言い換えるならば、三角形の折り返しパネル55、56、60、61の各々の辺55b、56b、60b、61bを形成している垂直折り線29、30、31及び32の長さが各々の折り込みパネル40、42の折り線28に沿つた辺28b及び28dの長さの1/2よりも僅かに長いようにこれらのパネルは寸法取られているのである。こうして底部閉鎖パネルが係合位置へと折られて、第5図に示す位置へ接近する際には、三角形折り返しパネル55、56、60及び61の切断縁は相互に緊密な衝合関係へと入るのである。底閉鎖パネルを、第5図の位置から第6図に示す充分に下向きに折りたたまれた位置へと更に下方に折り曲げて第6図の位置で封接圧力を加えると、板紙は上、下及び横方向の相当の圧縮力を受けて、集着し合い、上記の如き自由切断縁間の溝乃至隙間の生成が効果的に阻止され、こうして完成底部閉鎖部の堅固な密封が得られるのである。」(同6欄4ないし29行)との記載があることが認められ、これらの記載は、組み立てる前の容器の素材によつて各パネルの寸法関係を特定するものであることが明らかである。けだし、右記載によれば、本件考案の対象たる完成した容器においては、三角形折り返しパネル55と56、60と61の各自由切断縁が相互に緊密に衝合しているのであり、このような緊密な衝合を実現するために、組み立てる前の容器の素材において各パネルの寸法が55b+56b>28b、60b+61b>28dとなるように設計する構成が採用され、かかる寸法の各パネルが、組み立てに際し封接圧力を加えられることにより、上、下及び横方向の圧縮力を受けて集着し合い、自由切断縁間の溝ないし隙間の生成が効果的に阻止されるものと認められる(したがつて、完成した容器においては、各パネルは圧縮力により変形し、もはや前記のような寸法関係にはないものと考えられる。)からである。

してみれば、本件考案は、前記のとおり完成した容器を対象とするものではあるが、各パネル等の形状、寸法を組み立てる前の容器の素材によつて特定したものであつて、本件考案は、こうして特定された素材を組み立てて完成した容器であることを構成要件としているものといわたければならない(したがつて、本件明細書の第2図は、「完成した容器を展開した図」ではなく、「組み立てる前の容器の素材の展開図」である。)。前認定の本件考案の構成要件(1)ないし(4)も、この意味において理解すべきものである。

3  1 しかして、成立に争いのない乙第1号証及び第10号証の2(いずれも本件フランス特許明細書)及び本件口頭弁論の全趣旨によれば、本件考案の実用新案登録出願(昭和38年6月14日)前の昭和36年5月25日に特許庁資料館に受入れられた本件フランス特許明細書には、本件考案の構成要件に対応させて分説すると、

(1)' (容器の素材)

加熱すると接着剤となる熱プラスチツク剤を内表面及び外表面に塗布された厚紙ないし類似の材質から形成された容器であること。

(2)' (容器の構成)

この容器は、4つの側面34、35、36、37及び側面37と一体で側面34の内面に接着された幅の狭い端部の横蓋38より成る断面方形の管形体21、右管形体の上端にある蓋23、右管形体の基部にある底22を有していること、

(3)' (容器の底の構成)

前記底22は、

(a)  側面34、36の下端に結合しそして底22の最も外側の層を形成する(容器の作り方の諸段階を示す図6ないし9及び訳文17頁8ないし15行参照。)対置せる(隣り合つていない)一対の下部密封蓋39、41、

(b)  底辺において側面35、37の下端に結合しそして最初に折り込まれて底22の最も内側の部分を形成する(図6ないし9及び訳文17頁8ないし15行参照。)対置せる(隣り合つていない)一対の三角形の蓋40、42、

(c)  前記下部密封蓋39、41と三角形の蓋40との間にあつてこれらに結合しそして自由切断縁(切端)をそれぞれ有する(図2参照。)一対の三角形の折り曲り部56、55、

(d)  前記下部密封蓋41と前記三角形の蓋42との間及び前記横蓋38の延長部と三角形の蓋42との間にあつてこれらに結合しそして自由切断縁(切端)をそれぞれ有する(図2参照。)一対の三角形の折り曲り部61、60から構成されていること。

(4)' (底の構成要素の形状、相互関係)

(イ)  前記横蓋38の延長部は端53を有していること。

(ロ)  前記二対の折り曲り部55、56、60、61は、三角形の蓋40、42の折り込みとともに折り返されて該三角形の蓋40、42と下部密封蓋39、41との間に位置している(図6、7参照。)こと。

(ハ)  前記下部密封蓋39は両側にテーパ部分を有し(図2参照。)そして他方の下部密封蓋41の外側に重ねられる(図6ないし9参照。)ツメ51を備えていること。

(ニ)  前記下部密封蓋41はツメ51の内側に位置せしめられそして前記横蓋38の延長部の端53と実質的に相補形状の切込み52を有するツメ50を備えており(ツメ50は、下蓋を密封するとき端53を収容できるよう52で切り込みをつけられている。1訳文12頁末行ないし13頁参照。)、これによりこの底22完成時に該切込み52と前記横蓋38の延長部の端53の自由縁が互に直接整列していること。

(ホ)(ⅰ) 前記折り曲り部55、56の自由切断縁がこの底22の折り込み及び封着に際して互に緊密に衝合するように、折り曲り部55、56が下部密封蓋41、39と結合する辺の長さの和を、三角形の蓋40の底辺の長さよりも僅かに大きくしてある(三角形の折り曲り部55、56と60、61の切端が設けられ、蓋の完成前に突き合わされる。こうして、できあがつた蓋に厚紙が重ね合わされるので、シールドした継ぎ目の防水性が著大になる。そうなるのは、底の蓋39、40、41及び42を接合する縦の折り目部分29、30、31及び32の長さが、折り目28に沿つて測つたときの各蓋の幅の半分よりもやや長くしてあるからである。1訳文18頁12行ないし19頁1行参照。)こと。

(ⅱ) 同様に、折り曲り部60、61が横蓋38の延長部及び下部密封41と結合する辺の長さの和を、三角形の蓋42の底辺の長さよりも僅かに大きくしてある(右(ⅰ)同様訳文18頁12行ないし19頁1行参照。)こと。

という構成を有する、原告を出願人とする本件フランス特許発明に係る容器が示されていることが認められる。

本件フランス特許発明の右構成と本件考案の前示構成要件とを対比すると、本件フランス特許発明は、本件考案の構成要件中、

(4)(イ) 側部継手フラツプの延長部114は端部に斜めの切欠き119を有していること、

(ハ) 主パネル111は(両側にテーパ部分を有しそして)他方の主パネル112と折り返しパネル55、61との間に挿入される折り込みフラツプ115を備えていること、

(ニ) 主パネル112は折り込みフラツプ115を覆つて位置せしめられそして側部継手フラツプ延長部の斜めの切欠き119と実質的に相補形状の斜めの切欠き120を有する重ねフラツプ116を備えており、これによりこの底部閉鎖部完成時に該切欠き120と前記側部継手フラツプ延長部の切欠き119の自由縁が折り込みフラツプ115を介在させて互に整列していること。

を欠如する(すなわち、横蓋38の延長部の端53と、これと実質的に相補形状のツメ50の切込み52とは斜めの切欠きとはなつておらず、下部密封蓋39は両側にテーパ部分を有し他方の下部密封蓋41の外側に重ねられる(下部密封蓋41と折り曲り部55、61との間に挿入されるのではなく)ツメ51を備えており、下部密封蓋41のツメ50は、ツメ51の内側に位置せしめられ(ツメ51を覆うのではなく)、これにより底22の完成時に切込み52と端53の自由縁が互に直接(ツメ51を介在させることなく)整列している。)が、その他の構成要件はすべて具備することが明らかである。

2 また、成立に争いのない乙第8号証(ミルクデイーラー)、第9、第11号証によれば、本件考案の実用新案登録出願(昭和38年6月14日)前の昭和37年7月24日国立国会図書館に受入れられたミルクデイーラーには、ポリエチレンをコートしたミルク用紙容器について、これが補強部分、フラツプ、切口部分から成り、一定の正確な順序で熱せられ機械により作業がなされてミルクカートンとして仕上げられる旨記載され、そして、「品質チエツク項目」なる題の下に良品例(上段)及び不良品例(中段、下段)の容器の一部を撮影した3段3列(計9枚)の写真が掲載されていることが認められる。そして、前顕乙第1号証(本件フランス特許明細書)及び成立に争いのない乙第22号証(成立に争いのない乙第23号証により昭和37年1月29日に特許庁資料館に受入れられたものと認められる米国特許第3002328号明細書)によれば、ミルクデイーラーの右国立国会図書館受入れの時点において既にかかる紙容器の底部の構造として、接合部を内表面に接着することにより形成された断面方形の筒状体の4つの側面に、本件考案における一対の主パネル、一対の三角形折り込みパネル、二対の三角形折り返しパネルに相当する各パネルが連接しており、容器底部の組み立てに際しては、まず一対の三角形折り込みパネルを内側に折り込むとともに二対の三角形折り返し、パネルを折返し、次に一方の主パネルの先端を他方の主パネルと三角形折り返しパネルの間に挿入し、封着する構造のもの(本件フランス特許明細書ないし本件フランス特許発明については右1に詳細説示したとおり。)が公知のものとなつていたことが認められること、本件口頭弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第13号証及び本件口頭弁論の全趣旨によれば、同号証添附の写真は、イ号物件を側パネル下部で水平に切断したうえ、その底部を解体した(各側パネル間の垂直折り線に沿つて側パネルを切り開き、折り込みパネル及び折り返しパネルを主パネルの内表面から引き剥がした)状態を内側から撮影したものであることが認められ、この写真とミルクデイーラー掲載の写真を対比すると、ミルクデイーラー掲載の写真中、上段、右端列のものは、右乙第13号証添附の写真と同様の状態を撮影したものであると認められること、及び証人平田勲の証言を併せ考えれば、ミルクデイーラー掲載の写真中、中央列の上段及び中段のものは、完成した容器の底部を外側から撮影したものであり、右端列の上段、中段及び下段のもの並びに下段、中央列のものは、完成した容器を側パネル下部で水平に切断したうえ、その底部を解体した(各側パネル間の垂直折り線に沿つて側パネルを切り開き、折り込みパネル及び折り返しパネルを主パネルの内表面から引き剥がした)状態を内側から撮影したものであつて、そこには、二対の折り返しパネルが折り込みパネルの折り込みとともに折り返されて該折り込みパネルと主パネルとの間に位置している容器底部において、本件考案にいう側部継手フラツプの延長部の端部と、これと実質的に相補形状の、(後記他方の主パネルの)重ねフラツプに備えられた切欠きとが斜めの切欠きとなつており、一方の主パネルは両側にテーパ部分を有しそして他方の主パネルと折り返しパネルとの間に挿入される折り込みフラツプを備えており、他方の主パネルに備えられた重ねフラツプは折り込みフラツプを覆つて位置せしめられ、これにより重ねフラツプに備えられた切欠きと側部継手フラツプ延長部の切欠きの自由縁が折り込みフラツプを介在させて互に整列している構造が示されていることが認められる。

原告は、右ミルクデイーラー掲載の写真は、焦痕や剥離痕のため容器本来の形状が極めて分りにくい状態にあるのみならず、本件考案に係る容器を同じ方向から撮影したという前提では矛盾し、説明不可能な点が多々あるから、右写真から容器の底部構造を知ることは不可能である旨主張する(第4、1 1(1)(1)(ⅱ))。しかし、右写真中には下段、右端列のもののように、焦痕や剥離痕のために若干見にくくなつているものもあるが、その他の写真は鮮明であつて、被写体たる容器の底部構造は十分理解可能であり、まして、前記のとおり、本件フランス特許明細書(前顕乙第1号証)や米国特許第3002328号明細書(前顕乙第22号証)により本件考案における一対の主パネル、一対の三角形折り込みパネル、二対の三角形折り返しパネルに相当する各パネルから成る底部構造が公知のものとなつていた事実に照らせば、当業技術者にすれば、右写真の被写体たる容器の底部構造が前段認定のとおりであることは極めて容易に理解しえたものと認められる(このことは、証人平田勲の証言によつても認められる。)。また、原告主張の「同じ方向から撮影したという前提」自体が誤つている(かかる前提をしなければならないという根拠は全くない。)のであつて、例えば、右端列の上段のものと中段のものとは撮影の方向が180度相違している(カメラとの関係で被写体が180度回転した位置で撮影されている)ことが明らかである。したがつて、ミルクデイーラー掲載の写真から容器の底部構造を知ることは不可能である旨の原告の主張は到底採用しえない。

してみれば、ミルクデイーラー(乙第8号証)には、本件考案の構成要件中、(4)(底部閉鎖部の構成要素の形状、相互関係)の(ホ)を除く同(イ)ないし(ニ)の構成要件を具備する底部構造を有する容器が示されていることが明らかである。

3 右1、2によれば、本件考案の実用新案登録出願前、本件考案の構成要件中、(4)の(イ)、(ハ)、(ニ)を除く他のすべての構成要件を具備する本件フランス特許発明に係る容器が本件フランス特許明細書に記載されて公知のものとなつており、他方、(4)の(ホ)を除く同(イ)ないし(ニ)の構成要件を具備する底部構造を有する容器がミルクデイーラーに記載されて公知のものとなつていたということになる。

そして、本件フランス特許発明においてその底部閉鎖部の構成要素の形状、相互関係の構成をミルクデイーラー記載の容器の底部の構成とすること、すなわち、本件フランス特許発明の前記(4)'の(イ)、(ハ)、(ニ)を除くその余の構成とミルクデイーラー記載の容器の底部の構成とを組み合わせることによつて、両構成が本来有する作用効果の総和以上の予期しない新たな作用効果(組み合わせること自体による格別の作用効果)を生ずるものとは認められず、その点で何らの新しい技術思想を見出すことができないことが明らかであるから、本件フランス特許発明の構成とミルクデイーラー記載の容器の底部の構成とを組み合わせることは当業技術者であれば極めて容易になしうるものであることが極めて明白であるというべきである。すなわち、本件考案は、公知技術の単なる寄せ集めにすぎないことが極めて明白であるといわなければならない。

しからば、本件訴訟においては、本件実用新案権が一応有効に存在したものとして扱わなければならないとしても、本件考案の技術的範囲の確定に当たつては、本件考案の構成要件のすべてを同時に具備したものが実用新案登録出願前に公知のものとなつていて、その実用新案登録が実用新案法第3条第1項第3号の規定に違反してなされたものとして同法第37条第1項第1号所定の無効原因を有する場合に準じ(なお、特許庁が昭和55年5月7日、被告のなした無効審判請求に基づき本件案についての実用新案登録を無効とする旨の審決をしたこと、右審決に対して原告が東京高等裁判所に取消訴訟を提起し、同訴訟が現に係属中であることは当事者間に争いがない。)、本件登録請求の範囲の記載ないし本件考案の構成要件の文言を字義どおり価格に解釈し、このように限定されたものとして本件考案の技術的範囲を定めなければならないというべきである。

4  被告が昭和46年6月以降、イ号物件(「トーエーパツク」なる商品)を製造、販売したことは当事者間に争いがない。そして、イ号物件の特定のし方、すなわちイ号物件をいかに表示するべきかについて当事者間に争いがあるが、イ号物件であること当事者間に争いがない検甲第1ないし第10号証及び検乙第1、第2号証、本件口頭弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第3号証によれば、イ号物件は、被告主張の第2物件目録(1)ないし(3)のとおり(ただし、同物件目録(1)ないし(3)の説明書中、「2 本体21'の構成」冒頭に「折り線29'、30'、31'、32'」とあるのを「スコアの中心線(以下「折り線」という。)29'、30'、31'、32'」と訂正し、かつ、3(ⅱ)末尾の括弧書部分を削除する。)表示すべきものと認められる。

けだし、前記2後段説示のとおり本件考案が完成した容器を対象とするものの、各パネルの形状、寸法を組み立てる前の容器の素材によつて特定したものであつて、こうして特定された素材を組み立てて完成した容器であることを構成要件としているものである以上、イ号物件も、完成した容器そのものではあるが、被告主張のとおり、組み立てる前の容器の素材の形状、寸法によつて特定するべきであり、また、前顕甲第2号証の1、2によれば、前記のとおり僅かの寸法の大小関係が構成要件となつており((4)(ホ))、これが、三角形折り返しパネル55と56、60と61の各自由切断縁が相互に緊密に衝合し、自由切断縁間の溝ないし隙間の生成を阻止するために重要な意味を有する本件考案(前記2中段)について、本件明細書においては幅を有しない「折り線」の概念によつて各パネルの形状、寸法関係等が説明され、一定の幅を有する「スコア」の概念は全く用いられていないことが認められるから、イ号物件においては、スコアの中心線によつて各パネルの形状、寸法関係を特定するのが相当であると認められるからである。

原告は、本件考案が完成した容器を対象とするものであり、原告が本訴において本件実用新案権の侵害品として対象としているイ号物件も完成した容器である「トーエーパツク」という牛乳容器であるから、イ号物件特定のための説明書及び図面は、この完成した容器を表示するものでなければならないのであり、したがつて、その図面中の展開図は「完成した容器を展開した図」であることは当然であると主張する(第2、3中段)。本件考案の対象及びイ号物件が完成した容器であることは前示のとおりであるが、そのことから、当然、イ号物件を「完成した容器を展開した図」によつて特定すべきであるということにはならないのである(本件明細書の第2図が「完成した容器を展開した図」ではなく、「組み立てる前の容器の素材の展開図」であることは、前記2後段説示のとおりである。もちろん、イ号物件を表示するものとして認定した第2物件目録(1)ないし(3)(ただし、前示訂正及び削除を含む。)の第1図も、「組み立てる前の容器の素材の展開図」である。)。

5  そこで、イ号物件の構成を本件考案の構成要件と対比する。

1 イ号物件の構成は、本件考案の構成要件に対応させて分説すると、概ね別紙第2物件目録(1)ないし(3)(ただし、前示訂正及び削除を含む。)の1ないし4記載のとおりであることが認められる。

これによれば、イ号物件において本件考案の構成要件(3)(b)中の三角形折り込みパネル40、42、同(3)(c)中の三角形折り返しパネル56、55、同(3)(d)中の三角形折り返しパネル61、60に対応するものは、それぞれ、3(b)中の折り込みパネル40'、42'、3(c)中の折り返しパネル56'、55'、3(d)中の折り返しパネル61'、60'であると認められるところ、まず、イ号物件の折り込みパネル40'(又は42')についていえば、横折り線28b'(又は28d')と斜め折り線56c'及び55c'(又は61c'及び60c')とが垂直折り線29'及び30'(又は31'及び32')上において交わらず、僅かではあるが一切をなしていることが認められ(第8、第9図参照。)、前顕検甲第1ないし第10号証、検乙第1、第2号証、甲第3号証によれば、その1辺の長さはスコアの幅の2分の1程度であることが認められる。そして、右甲第3号証、成立に争いのない乙第7、第24号証及び本件口頭弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第6号証によれば、スコアの幅は1.8ないし2.0mm程度であることが認められるから、右1辺の長さは0.9ないし1.0mm程度であることが認められる。

次に、イ号物件の折り返しパネル56'、55'(又は61'、60')についていえば、斜め折り線56c'、55c'(又は61c'、60c')が自由切断縁56a'―55a'(又は61a'―60a')にまで達しないでその内側で交わつていることが認められ(第8、第9図参照。)、前顕検甲第1ないし第10号証、検乙第1、第2号証、甲第3号証によれば、その交点から自由切断縁までの長さはスコアの幅の2分の1程度であることが認められるから、やはり0.9ないし1.0mm程度ということになる。

2 しかして、前記3 3説示のとおり、本件考案の技術的範囲の確定に当たつては、本件登録請求の範囲の記載ないし本件考案の構成要件の文言を字義どおり厳格に解釈し、このように限定されたものとして本件考案の技術的範囲を定めなければならないというべきであり、したがつて、本件考案にいう三角形折り込みパネル、三角形折り返しパネルも字義どおり厳密な意味での三角形であるものをいうと解すべきところ、成立に争いがない乙第5号証によれば、原告が本件考案の実用新案登録出願(昭和38年6月14日)直前の昭和38年3月16日に特許出願をした原告別件発明の明細書には、本件考案における三角形折り返しパネルに相当する折り返しフラツプ33、34、37、38の形状が梯形であり、三角形折り込みパネルに相当する三角形小フラツプ26、28の底辺が側パネルに相当する壁パネルの幅よりも小さいという点を除いては本件考案の構成と同様の構成から成る容器が示され、その実施例について、折り返し部(折り返しフラツプ)33、34、37の斜め折り線35、36、41と垂直折り線21、22、23とが折り線12上において交わらず、右折り返し部33、34、37の上部が幅13.97cmの壁パネル14、16と0.125インチ(すなわち0.31cm。なお、明細書に3.30cmとあるのは計算違いによる誤記と認められる。)接し、折り返し部(折り返しフラツプ)38の斜め折り線42と垂直折り線24とが折り線12上において交わらず、右折り返し部38の上部が幅13.97cmの壁パネル16と0.187インチ(すならち0.47cm)接しているため、その折り返し部(折り返しフラツプ)の形状が右のとおり梯形であるとされ、このように折り返しフラツプの形状をその上部を短い1辺となして梯形に形成し、しかも、折し返しフラツプ38の右1辺の長さ(右実施例では0.47cm)を他の折り返しフラツプ33、34、37の右1辺の長さ(右実施例では0.32cm)より大きく(右実施例では0.15cmの差)することの作用効果が「このため第7図から第10図に示すごとくして底を形成する際、容器底の各隅に大量の紙材が押しやられることなく、フラツプ26及び28を容器底へと折込むことができる。そしてもしこれらの距離(注・折り返しフラツプ上部の前記短い1辺を指す。)が設けられていない場合には、容器の底隅に大量の紙材が集まることであろう。折り線42と12との交点と折り線24間の距離は他の折り線の交点の場合よりも大となつている。これはこの点に側部継ぎフラツプ(注・本件考案にいう側部継手フラツプに相当する。)17が、位置するために、より大きい余地を必要とするからであ」る(原告別件発明の特許公報2頁右欄34ないし43行)と記載され、また、本件考案における側パネル34に相当する「パネル13は0.1cm(0.04インチ)短くされる。この値は、側壁継ぎフラツプ17により補正されるものである。」(同3頁左欄12ないし14行)と記載されていることが認められ、また、成立に争いのない乙第4号証によれば、被告出願(昭和46年11月11日)に係る実用新案の明細書において、本件考案における折り込みパネルに相当する(五角形)底板の2本の斜め折り線と底辺とが垂直折り線上において交わらず、ごく短い(実施例では約2mm)2辺をなしていることを理由として、その底板の形状が五角形であると称されていることが認められ、これらによると、右各記載の程度のごく短い1辺でも、容器の組み立てに際し紙の厚みを吸収し、紙が局部的に集中することを阻止する効果があつて、機能的に重要であると認められることを併せ考えると、イ号物件における折り込みパネル40'、42'の前記1説示の短い1辺、折り返しパネル56'、55'、61'、60'の斜め折り線56c'及び55c'、61c'及び60c'の各交点から自由切断縁56a'―55a'、61a'―60a'までの部分は機能的に重要であつて、無視できないというべきであるから、右折り込みパネル40'、42'は五角形というべきであり、右折り返しパネル56'、55'、61'、60'は斜め折り線の各交点と自由切断縁とが離れていて折り線によつて区切られていない(強いていえば梯形に近い。)のであつて、いずれも、字義どおり厳密な意味での三角形であるとはいえないこと明らかである(原告は、イ号物件の折り込みパネル、折り返しパネルが組み立て後はいずれも三角形であることは明らかである旨主張する(第2、4 3第4段)が、イ号物件は容器を組み立てる前の容器の素材の形状、寸法によつて特定するべきであることを前記2中段説示のとおりであり、したがつて、本件考案の構成要件との対比についても、組み立てる前の容器の素材の形状、寸法によつてこれをなすべきであるから、原告の右主張の採用しえないこと明らかである。)。

よつて、イ号物件の折り込みパネル40'、42'、折り返しパネル56'、55'、折り返しパネル61'、60'は、本件考案の構成要件(3)(b)中の三角形折り込みパネル40、42、同(3)(c)中の三角形折り返しパネル56、55、同(3)(d)中の三角形折り返しパネル61、60の要件をそれぞれ充足せず、したがつて、イ号物件は、本件考案の構成要件(3)の(b)、(c)、(d)を欠如するから、本件考案の技術的範囲に属しないほのといわなければならない。

3 のみならず、仮に、原告の主張(第2、4 3第3段)に従いイ号物件の各パネルの形状をスコアを除いて判断するとしても、イ号物件は以下のとおり本件考案の技術的篇範囲に属しない。

(1)  イ号物件の各パネルの形状をスコアを除いて判断するとすれば、そのパネルの辺の長さもスコアを除いて測定するべきであるから、イ号物件において、本件考案の構成要件(4)(ホ)の(ⅰ)及び(ⅱ)にいう「折り返しパネル55、56(又は60、61)が主パネル112、111(又は側部継手フラツプ延長部114及び主パネル112)と連接する辺55b、56b(又は60b、61b)の長さ」に相当するのは、別紙参考図のX2'、X1'(又はX4'、X3')であり、「折り込みパネル40(又は42)の底辺28b(又は28d)の長さ」に相当するのは、同参考図Y1'(又はY2')であると解すべきである。

原告は、イ号物件において、本件考案にいう右「辺55b、56b(又は60b、61b)の長さ」に相当するのは同参考図のX2'、X1'(又はX4'、X3')ではなくX2、X1(又はX4、X2)であるとし、その理由として、イ号物件においては、実際にはスコア56b'(同参考図)は、スコイ28a'の下側線との交点から折れているのであつて、決してX1'の個所では折れていない(スコア55b'、60b'、61b'についても同様)と主張する(第2、4 4(2)第4段)が、スコア56b'がスコア28a'の下側線との交点から折れていると認めるに足る証拠がない(スコア55b'、60b'、61b'についても同様)のみならず、もし、右「辺55b、56b(又は60b、61b)の長さ」に相当するのがX2、X1(又はX4、X3)であるとすると、折り返しパネル55'、56'(又は60'、61')が主パネル112'、111'(又は側部継手フラツプ延長部114'及び主パネル112')と連接する辺の長さ」を測定するについてはスコア55b'、56b'(又は60b'、61b')をも折り返しパネル55'、56'(又は60'、61')の中に含める結果となり、されば、イ号物件の各パネルの形状についてはスコアを除いた形状で判断し、他方、折り返しパネルの辺の長さについては当該折り返しパネル自体の辺の長さを測定せず、当該折り返しパネルに接続するスコアを含めて測定することになつて、一貫しないから、かかる原告の主張は採用しえない。

(2)  しかして、前顕乙第6、第7、第24号証によれば、X2'とX1'(又はX4'とX3')の和は、ごく僅かの例外(両者が等しい場合)を除いてすべてY1'(又はY2')よりも僅かに小さいとの測定結果が得られていることが認められ、前顕甲第3号証によるも、X2'とX1'(又はX4'とX3')の和がY1'(又はY2')よりも僅かに大きい例と僅かに小さい例とが同数程度であるとの測定結果が得られていることが認められるにすぎず、しかも、右乙第6、第7、第24号証と甲第3号証を比較しても、後者の測定結果の方が前者の測定結果より特に信頼性が高いものと認めることはできず、他にこのことを認めるに足る証拠もないから、結局、本件全証拠によるも、イ号物件においてX2'とX1'(又はX4'とX3')の和をY1'(又はY2')よりも僅かに大きくしてあるとの事実は認められないといわざるをえない。

すてみると、仮に原告の主張(第2、4 3第3段)に従いイ号物件の各パネルの影形状をスコアを除いて判断するとしても、イ号物件は、本件考案の構成要件(4)(ホ)の(ⅰ)及び(ⅱ)を欠如し、本件考案の技術的範囲に属しないことになる。

6  以上のとおり、イ号物件は本件考案の技術的範囲に属しないから、イ号物件が本件考案の技術的範囲に属することを前提とする原告の請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないことが明らかである。

7  よつて、原品の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第89条の規定を適用して、主文のとおり判決する。

(設楽隆一 裁判長裁判官 秋吉稔弘 裁判官水野武は、転補のため署名押印することができない。設楽隆一)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例