大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和52年(ワ)1509号 判決 1981年5月20日

原告 甲野太郎

右訴訟代理人弁護士 甲野一郎

被告 中島静子

<ほか四名>

右被告五名訴訟代理人弁護士 谷川哲也

主文

一  被告中島静子は原告に対し金一〇三万三三三三円およびこれに対する昭和五二年三月八日から完済まで年五分の割合による金員を、被告中島信子、同中島興治、同中島米治郎、同中島隆子は原告に対し各金五一万六六六六円およびこれに対する前同日から各完済まで前同率の割合による金員を、各支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを五分し、その一を被告らの負担とし、その余は原告の負担とする。

四  この判決一項は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

(一)  被告らは原告に対し各自金一四三六万七二五〇円及びこれに対する昭和五二年三月八日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  訴訟費用は被告らの負担とする。

(三)  (一)項につき仮執行の宣言

二  被告ら

(一)  原告の請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

(一)  原告は、東京弁護士会に所属する弁護士であるが、被告ら先代亡中島芳治郎(以下亡芳治郎という)から、同人所有の別紙物件目録(一)ないし(四)の土地に関する左記四件の事件の委任を受けた。

1(1) 昭和四七年四月一七日委任、別紙物件目録(一)の土地に関する、申立人亡芳治郎から相手方占有者訴外鈴木正一郎に対する武蔵野簡易裁判所昭和四七年(ユ)第五六号土地明渡調停事件(以下「1(1)の事件」という)

(2) 昭和四八年六月九日受任、右(一)の土地に関する原告亡芳治郎から被告鈴木正一郎に対する東京地方裁判所昭和四八年(ワ)第四五三二号土地明渡請求事件(以下「1(2)の事件」という)

2 昭和四九年一月二二日受任、右目録(二)の土地に関する、原告自称買主訴外尾崎宗一から被告亡芳治郎に対する東京地方裁判所昭和四九年(ワ)第八六四号所有権移転登記請求事件(以下「2の事件」という)

3 昭和五〇年一一月中旬受任、右目録(三)の土地に関する、亡芳治郎と占有者訴外岩田正明間の示談契約締結事件(以下「3の事件」という)

4 昭和四八年四月初旬受任、右目録(四)の土地に関する亡芳治郎と耕作者訴外金子八郎、同田中国光、占有者訴外石黒信作、同桐山靖彬との間の示談契約締結事件(以下「4の事件」という)

(二)  原告は、次のとおり委任事務を処理した。

1(1) 「1(1)の事件」については、昭和四七年六月二三日申立、同年七月二四日から調停期日に九回出頭したが不調となる。

(2) 「1(2)の事件」については、昭和四八年六月一二日訴訟提起、以後、口頭弁論、和解期日に二九回出頭し、実質的には合意ができ、昭和五一年一月には和解調書作成の運びとなった。

2 「2の事件」については、昭和四九年三月中旬から昭和五一年五月中旬まで口頭弁論期日に一一回出頭、最終の本人尋問を残すのみとなり、結果は亡芳治郎の主張成立の見込みとなった。

3 「3の事件」については、亡芳治郎は岩田正明に前記(三)の土地を価格四三八万八四六円で売却することとし、これに対し岩田正明は右価格に付加して昭和四七年八月から五年間の延滞利息及び公租公課六三五万一八四六円を支払い、さらに亡芳治郎に示談金七〇〇万円を昭和五一年一月一〇日限り支払うことで妥結させ、それぞれ書面に調印も終了した。

4 「4の事件」については、受任後直ちに耕作者金子八郎、田中国光ら、占有者石黒信作、桐山靖彬らに対し、面接または書面により交渉し、契約締結は進捗し、金子八郎、田中国光については耕作権を消滅させる方向で処理し、石黒信作、桐山靖彬については、「1(2)の事件」において鈴木正一郎との和解成立次第時価相当額で売却することとした。

(三)  亡芳治郎は、昭和五一年一月八日死亡し、被告中島静子はその妻、その余の被告らはその子である。

(四)  原告は、被告らから、亡芳治郎死亡後間もない頃、亡芳治郎との従前の約定に従い、引続き各事件の処理をなすよう委任を受けた。

(五)  しかるに、原告は、昭和五一年一〇月五日、被告中島静子から、同人以外の被告らについてはその代理人として、委任契約を解除し原告を解任する旨の意思表示を受けた。

仮にそうでないとしても、被告らより、昭和五二年二月一八日、原告を解任する旨の意思表示がなされ、右意思表示は、同月二六日、原告に到達した。

(六)1  原告と亡芳治郎は、東京弁護士会報酬規定に従って報酬(手数料と謝金)を支払う、なお支払時期は、着手前に手数料は支払わず、委任の目的を達したときに、右規定により手数料と謝金を合算して支払う旨約した。(但し、「3の事件」については、後記のとおり別途報酬額を定めた。)

2 前記弁護士会報酬規定五条によれば、弁護士の責に帰することができない事由で弁護士を解任したとき、または、弁護士の同意なく依頼事件を終結させたときは、弁護士は報酬の全額を請求できると定めている。

右規定一五、一六、一八条においては、右報酬の算定方法が定められており、手数料はその事件の対象の経済的利益の価格を、謝金はその事件によって得た経済的利益の価格を、基準として算定する、経済的利益の価格とは、所有権においては対象たる物の時価、占有権においては対象たる物の時価の二分の一とすると定められ、右の価格を基準として訴訟事件の報酬算定率が定められ、なお、事件の内容により、それぞれ三〇パーセントの範囲内で増減額することができるとされている。

規定二〇、二一条によれば、調停事件の報酬も右訴訟事件の報酬金算定率、増減額率が準用され、ただし、それぞれの額を三分の二に減額することができ、調停の不調後引続いて訴訟事件を受任する場合の手数料は右算定額のさらに二分の一であり、示談折衝事件の報酬は右調停事件と同様に算定すると定められている。

3 被告らは、原告に対し、亡芳治郎との従前の約定に従い事件を処理するよう委任したのであるから、その報酬についても従前どおり東京弁護士会の報酬規定によるとの暗黙の合意が当事者間になされたものである。

4 被告らは原告を一方的に解任したので、弁護士会報酬規定五条の弁護士の責に帰することができない事由で弁護士を解任したときに該当し、また、「2の事件」については解任時期を昭和五二年二月二六日とした場合、後記の如くその前に被告らは弁護士の同意なく依頼事件を終結させたものであり、いずれにせよ、原告は規定五条により被告らに対し規定により算出された報酬額全額を請求できるものである。

5 別紙物件目録(一)ないし(四)の土地はいずれも宅地もしくは現況宅地であり、三・三平方メートルあたり三〇万円を下らない。

6 以上により、本件各事件の相当報酬額を検討すれば、次のとおりである。

(1) 「1(1)の事件」「1(2)の事件」は、占有権に関するものであり、別紙物件目録(一)の土地の合計面積一三二六・一三平方メートルに前記時価を乗じ、その二分の一の価格六〇一七万二五〇〇円につき、現定による謝金率の範囲内で六〇一万七二五〇円が相当な報酬額である。

なお、「1(1)の事件」は委任事務終了、「1(2)の事件」は委任事務の継続中であった。

(2) 「2の事件」は、所有権に関するものであり、同目録(二)の土地の面積八五九平方メートルに右時価を乗じた範囲内の七八〇〇万円につき、謝金率の範囲内で七〇〇万円が相当な報酬額である。なお「2の事件」は委任事務継続中であった。(但し、前記のとおり解任時期を昭和五二年二月二六日とした場合、委任事務は終了している。)

(3) 「3の事件」は、昭和五〇年一二月二三日、原告と亡芳治郎との間に、源泉徴収税額五万円を含め、報酬額を五五万円とする旨の約定がなされた。なお、「3の事件」は委任事務が終了したものである。

(4) 「4の事件」は、金子八郎、田中国光関係を合わせて一件、石黒信作関係を一件、桐山靖彬関係を一件とみなし、前同様土地の時価、弁護士会報酬規定から考えると、金子八郎、田中国光関係については二〇万円、石黒信作、桐山靖彬関係は各三〇万円、合計八〇万円が相当な報酬額である。なお、「4の事件」は委任事務継続中であった。

(七)  よって、原告は被告らに対し、各自報酬金一四三六万七二五〇円及びこれに対する訴状送達の日の翌日以降である昭和五二年三月八日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(八)  仮に、原告と被告らとの間の本件各事件の委任契約の成立が認められないとしても、被告らは亡芳治郎の死亡により、相続人として同人の権利義務を承継したところ、原告は亡芳治郎に対し、「3の事件」以外の事件については、原告の責によらざる事由(亡芳治郎の死亡)による中途終了により、「3の事件」については事務終了により、報酬請求権を有する。

しかして、原告が亡芳治郎の死亡までに履行した事務内容は既述のとおりであって、その報酬金は「3の事件」以外の事件については被告らが原告に新たに委任しかつ解任した場合の報酬金と差異はなく、「3の事件」については既述のとおり約定があった。

被告らは、これを相続分に従い分割して支払うべきものと解されるが、被告らの相続分は、被告中島静子が妻として三分の一、その余の被告らは子として各六分の一であり、これにより被告らの相続による報酬金債務を算出すれば、被告中島静子は四七八万九〇八三円、その余の被告らは各自二三九万四五四一円である。

(九)  したがって、原告は、少なくとも右各金員とこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和五二年三月八日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求めることができるというべきである。

二  請求原因に対する認否

(一)  請求原因(一)項の事実につき、原告が主張のとおりの弁護士であること、亡芳治郎から「4の事件」を除き委任を受けたことは認め、「4の事件」については不知。

(二)  同(二)項の事実については、以下のとおりである。

1(1) 「1(1)の事件」については明らかに争わない。

(2) 「1(2)の事件」については否認する、とても原告主張の如く進行しておらず、現在休止の状態である。

2 「2の事件」については否認する、とても亡芳治郎の主張成立の見込みの状態ではなかった。

3 「3の事件」については否認する、主張のようにはっきりした内容ではない。

4 「4の事件」については否認する、原告が消滅させたとする耕作料を金子八郎、田中国光は供託してきているし、石黒信作、桐山靖彬の各代理人弁護士は原告主張の如き約定をした覚えはないと述べている。

(三)  同(三)項の事実は認める。

(四)  同(四)項の事実は否認する。

(五)  同(五)項の事実につき、解任したのは「2の事件」についてのみであり、その余の事件については解任していない。

(六)  同(六)項の事実については、以下のとおりである。

1 1は否認する、弁護士報酬について、手数料と謝金を合算して支払うなどということは、訴訟費用等をすべて弁護士が負担し成功したら分け合うとの考え方に通ずるもので、常識的でない。

2 2は認める。

3 3は否認する。

4 4は否認する、仮に被告らが原告を解任したとしても、それは、原告が亡芳治郎の死亡後事情がわからず説明を求めている被告らに対し、怒鳴ったり威嚇したりするのみで、書類をみせず説明もせず、また、弁護士報酬請求に名をかりて被告ら資産に仮差押をなしたりしたので、被告らは原告を信頼できなくなったためであり、原告の責に帰することができない事由で解任したのではない。

5 5は否認する。

6 6は争う、「経済的利益の価格」とは、土地の時価ではなく、本件事件の如く、土地に占有者がいて所有権の全面的な行使が妨げられ、もしこれらの権利を消滅させるには被告らにおいて多額の出捐を予想される場合には、土地の時価から占有権の財産的価値あるいは予想される被告ら出捐額を控除して算出するべきものである。なお、「1(1)の事件」は調停が不調となったものであるから成功とはいえず、謝金の請求はできない。

(七)  同(七)項の主張は争う。

(八)  同(八)項の事実につき、被告らが亡芳治郎の権利義務を相続により承継した事実およびその相続分の割合は認めるが、その余の事実は否認する。

(九)  同(九)項の主張は争う。

第三証拠《省略》

理由

一  原告が東京弁護士会所属の弁護士であること、亡芳治郎から「4の事件」を除いて委任を受けたことは当事者間に争いがなく、これらの事件を受任するようになった事情及び「4の事件」を受任した事情は《証拠省略》により次のようなものであったことを認めることができる。

すなわち、原告は、亡芳治郎と、同人が死去する十数年前より、同人の所有する財産の管理、経営する病院、責任社員である神社等の問題について法律上の相談を受けていたものであるが、亡芳治郎より、昭和四六年ころから、自己が小金井市に以前所有していて国に買収され農林省の所有名義に登記されている土地(別紙物件目録(一)ないし(四)の土地を含む)が未だ小作人に払下げられていないので、旧地主として国より買受けることができるのではないか、但しこれらの土地には現に占有している第三者が居り、また、地元の不動産業者訴外野山喜一が亡芳治郎に無断で売買予約をしたのもあるから、これら第三者と話合い、亡芳治郎が所有権を回復する、あるいは相当の対価を得て第三者に所有権を譲渡するなど、権利関係を明確にしてもらいたい、というものであり、右依頼事項のなかには別紙物件目録(四)の土地を占有している金子八郎、田中国光、石黒信作、桐山靖彬との間の示談契約締結も含まれていた。

二  原告がこれらの事件につき、委任事務の処理にあたった状況について検討する。

(一)  「1(1)の事件」について

《証拠省略》によれば、次の事実を認めることができる。

1  原告は、亡芳治郎より、昭和四七年四月一七日、別紙物件目録(一)の土地を占有している鈴木正一郎に対し、土地明渡を求める調停事件の委任を受け、同年六月二四日、武蔵野簡易裁判所に調停申立をなし、該事件は同庁昭和四七年(ユ)第五六号として係属した。

2  右事件において、調停期日は昭和四七年七月二四日より昭和四八年五月三〇日まで九回開かれ、原告は申立人亡芳治郎の代理人として亡芳治郎と共にあるいは単独でこれに出頭し、亡芳治郎と鈴木正一郎先代鈴木辰五郎との間に昭和三八年六月二〇日土地明渡の合意がなされたことを理由に明渡を求め、明渡料の支払をなすことを提案したが、相手方鈴木正一郎は土地の一部の所有権取得を求め、結局双方合意に至らず、調停は昭和四八年五月三〇日不調となって終了した。

(二)  「1(2)の事件」について

1  《証拠省略》によれば、次の事実を認めることができる。

(1) 原告は、亡芳治郎より、昭和四八年六月九日、右(一)の土地を占有している鈴木正一郎に対し、土地明渡を求める訴訟事件の提起および処理の委任を受け、同月一二日東京地方裁判所に訴訟提起をなし、該事件は同庁昭和四八年(ワ)第四五三三号として係属した。

(2) 右事件において、昭和四八年七月二八日より昭和四九年七月五日まで一〇回の口頭弁論期日が開かれ、原告は亡芳治郎の代理人としてこれらの期日に出頭し、かつ、立証準備のため、小金井農業委員会において農地法運用の調査をなし、亡芳治郎が土地管理を依頼していた地元の不動産業者野山喜一と面談するなどした。

(3) 亡芳治郎は、別紙物件目録(一)1の土地については昭和一五年取得以後、地目が宅地であったため、国に買収されることなく所有権を有し、右(一)2、3の土地については昭和二二年一〇月二日自作農創設特別措置法により買収され農林省の所有名義に登記されていたが、訴訟提起前の昭和四七年九月一三日売払を受け所有権を取得しており、右(一)1の土地については所有権に基づき、右(一)2、3の土地については鈴木辰五郎との間に昭和三八年六月二〇日なされた土地明渡の合意に基づき、明渡料も支払ずみであるとして、明渡を求めたところ、被告たる鈴木正一郎は、右(一)1、2、3の土地について賃借権を有すること、明渡の合意(賃貸借の合意解除)は都知事の許可を得ていないから効力がないこと、明渡の合意は反対給付として別個の一〇筆の土地(同目録(四)2、3、4、5、6の土地を含む)が亡芳治郎より鈴木辰五郎に所有権移転されることを含んでいるので、被告の右(一)1、2、3の土地明渡は右一〇筆の土地の所有権移転登記と同時履行の関係にたつこと等を主張した。

(4) 右事件の第一〇回口頭弁論期日(昭和四九年七月五日)において裁判長より和解勧告がなされ、同日から昭和五一年一月二一日まで二〇回の和解期日が開かれ、原告はこれに出頭し、この間、昭和五〇年六月一九日の和解期日に、鈴木正一郎は同目録(一)1、2、3の土地および同じく鈴木辰五郎が旧耕作権者であった同目録(四)2、3、4、5、6の土地を明渡すこととし、そのかわり亡芳治郎は小金井市中町二丁目二一八四番五の土地の一部一六五平方メートルおよび同所二一八四番五の土地の一部一六五平方メートルおよび同所二一八四番四の土地の一部一六・五平方メートルを鈴木正一郎に譲渡する旨の基本線が定められ、同年七月二四日訴訟外で双方代理人立会のうえ現地の測量がなされ、同年九月二九日の和解期日において右基本的合意に沿った和解案のメモが担当裁判官より交付され、土地の分筆登記手続、賃貸借契約合意解約にあたっての農地法上の手続の準備等が進められていた。

(5) 右手続進行中、亡芳治郎は昭和五一年一月八日死亡し、同月二一日の和解期日において、次回期日は追って指定となった。

2  以上認定の事実によれば、「1(2)の事件」は、担当裁判官関与のもとに和解の基本線はほぼ定まるに至ったものの、その内容確定の段階で亡芳治郎が死亡し、その訴訟状態のまま現在に至っているということができる。

(三)  「2の事件」について

1  《証拠省略》によれば、次の事実を認めることができる。

(1) 原告は、昭和四六年一二月二九日、亡芳治郎より、同人が近く国(農林省)から売払を受ける別紙物件目録(二)の土地について、尾崎宗一が亡芳治郎代理人野山喜一との間で国から亡芳治郎が売払を受けることを条件として売買契約を締結したものとして権利を主張するので、右売買契約の無効を説明し、所有権移転登記請求を拒絶してほしい旨の委任を受け、約二年間にわたり交渉をしていたところ、亡芳治郎はその間の昭和四八年一月一四日売払を受けて所有権を取得したものであるが、同年一二月二五日頃尾崎宗一を債権者とする処分禁止の仮処分決定の送達を受け、これに対し昭和四九年一月二二日頃起訴命令の申立をなしたところ、尾崎宗一は、同年二月七日、亡芳治郎を被告として東京地方裁判所に右(二)の土地につき所有権移転登記請求の訴を提起し、該事件は同庁昭和四九年(ワ)第八六四号として係属したものであるが、原告は、同年一月二二日、亡芳治郎より右訴訟事件の委任を受けた。

(2) 右事件において、昭和四九年三月一四日より亡芳治郎が死亡する以前としては昭和五〇年一二月五日まで九回の口頭弁論期日が開かれ、原告は該事件の被告亡芳治郎の代理人としてこれらの期日に出頭し、訴訟活動をなした。

(3) 尾崎宗一の主張によれば、同人は、昭和四三年一一月一一日、亡芳治郎の代理人野山喜一から別紙物件目録(二)の土地を、国(農林省)から亡芳治郎が売払を受けることを停止条件として代金二〇八〇万円で買受け、昭和四四年四月一六日頃までに代金を完済したところ、亡芳治郎は昭和四八年一月一四日土地の売払を受け条件が成就したから所有権移転登記手続を求めるというにあり、亡芳治郎の主張は右売買契約を否認するというにあった。

(4) 裁判所は、原被告双方申請の証人野山喜一を採用し、昭和五〇年一月二四日、同年五月二三日、同年一二月五日の証拠調期日に右証人の尋問が行なわれた。

(5) 右最後の証拠調期日の約一ヶ月後の、昭和五一年一月八日亡芳治郎が死亡したため、同年二月二四日、三月一〇日の口頭弁論期日は延期となり、五月一九日の期日は亡芳治郎の主張立証準備の理由で続行となり(このうち原告は三月一〇日と五月一九日の期日に出頭した)、その後の五回目の期日たる同年一二月一五日の期日において、当事者双方不出頭のため訴訟は休止となった。

(6) その後、昭和五二年二月一八日、亡芳治郎の承継人として、本件訴訟の被告らが、本件訴訟でも被告らの代理人である弁護士谷川哲也を代理人として訴訟受継の申立をなし、同日、口頭弁論期日の指定がなされ、同日、尾崎宗一と亡芳治郎承継人被告らとの間に裁判上の和解が成立したが、右和解の内容は、亡芳治郎承継人被告らが尾崎宗一に対し、別紙物件目録(二)の土地のほか一筆(小金井市前原町五丁目八一一番一九宅地八一・六八平方メートル)を昭和五一年一月二〇日付をもって代金二一〇〇万円で売却する、尾崎宗一は同日手付金一〇〇〇万円を支払い、残金は農地法五条による地目変更手続が農地委員会で許可となり、所有権移転登記手続がなされるのと同時に支払う、右土地に関する耕作権等がある場合は亡芳治郎承継人被告らの責任において解決し、尾崎宗一は右解決に協力し、離作費用は尾崎宗一の負担とすること等を骨子とするものであった。

2  なお、原告は、「2の事件」につき、事件の進行は双方本人尋問を残すのみとなり、結果は亡芳治郎の主張成立の見込みとなった旨主張し、《証拠省略》中には右主張に副う記載が存するものの、本件全証拠によるも未だ右事件が亡芳治郎死亡当時双方本人尋問を残すのみの段階であるとも、また亡芳治郎の勝訴の見込みが確実であったとは認めるに至らず、右記載は採用することができない。

(四)  「3の事件」について

1  《証拠省略》によれば、次の事実を認めることができる。

(1) 原告は、亡芳治郎より、昭和五〇年一二月八日、亡芳治郎が国(農林省)より売払を受け所有する別紙物件目録(三)の土地を、その占有者岩田正明に対し売渡し所有権移転登記を経由する示談契約締結の委任を受けた。

(2) 右同日、原告事務所において、原告、亡芳治郎、岩田正明、野山喜一、旧耕作権者訴外渡辺悦男が話合をなし、同月一二日、同月一五日、同月一七日、さらに話合が続けられた。

(3) そして、同月二三日、亡芳治郎と岩田正明との間に、亡芳治郎は岩田正明に別紙物件目録(三)の土地を同月二七日付で売渡す、岩田正明の支払う金員は、(イ)亡芳治郎が負担した国(農林省)からの売払価格四三八万八四六円、(ロ)これに対する売払日たる昭和四七年八月から五ヶ年間の延納利息九八万五五〇〇円、(ハ)示談金七〇〇万円とする旨の合意ができ、これを内容とする約定書が作成された。

(4) 亡芳治郎は、同月二六日、次のような要望をだした。すなわち、(イ)岩田正明への売渡日は同月二六日とする、(ロ)岩田正明は亡芳治郎が右土地につき負担した公租公課(分離課税も含む)相当額を支払う、その額は後刻亡芳治郎が計算して計上する(その後の計算により五三六万六三四六円となった)、(ハ)示談金を除いた金員支払日および公正証書作成日を昭和五一年一月一〇日とし、示談金七〇〇万円の支払は同年一月末日までの所有権移転登記手続と同時とする、(二)岩田正明の連帯保証人に旧耕作権者渡辺悦男を加える、というものであった。これに対し、岩田正明、渡辺悦男はこれを了承し、同人らは原告に対し印鑑証明書を提出し、原告は新橋公証役場に赴き、公正証書の作成を依頼した。

(5) 第一回目の金員支払および公正証書作成が予定されていた昭和五一年一月一〇日の二日前に亡芳治郎が死亡したので、公正証書の作成は延期され、その後右示談契約締結はそのままとなった。

2  以上認定の事実によれば、「3の事件」は、亡芳治郎が死亡した時点において、当事者間に示談契約の内容が定まっており、公正証書の作成を残すのみとなっていたのであるから、原告の委任事務はほとんど完成していたものということができる。

(五)  「4の事件」について

(金子八郎、田中国光関係)

1  《証拠省略》によれば、次の事実を認めることができる。

(1) 亡芳治郎は、昭和四八年二月一日頃、別紙物件目録(四)1の土地につき、耕作権を有すると主張する亡金子敏行の相続人金子八郎ほか三名、亡田中喜大郎の相続人田中国光ほか五名につき、耕作権を消滅させる旨の示談契約の締結を委任した。

(2) 金子八郎ほか三名、田中国光ほか五名は右土地にそれぞれ四二九・七五平方メートルの耕作権を有すると主張し、原告が不動産管理を委任していた野山喜一は既に離作料を支払って耕作権は消滅ずみであると主張していた。

(3) 原告は、同年二月一〇日以降面接あるいは書面により金子八郎、田中国光らに耕作権の放棄、消滅に関して折衝し、東京都農地課、小金井市農業委員会において耕作権者公簿の調査、農地関係法規、通達等の調査を行なった。

(4) そのうち、亡芳治郎が死亡し、事件は示談締結に至らないままとなった。

(5) その後、前記の如く、昭和五二年二月一八日、亡芳治郎承継人被告らと尾崎宗一との間に別紙物件目録(二)の土地(同目録(四)1の土地と同じ)につき裁判上の和解がなされ、尾崎宗一が右土地を昭和五一年一月二〇日付で買受けることとなったが、同時に、耕作権を主張する者については亡芳治郎承継人被告らの責任において解決し、離作費用は尾崎宗一が負担する旨定められた。

2  なお、原告は、金子八郎、田中国光関係は耕作権を消滅させる方向で処理した旨主張し、前記甲第四四号証中には右主張に副う記載が存するものの、《証拠省略》によれば、金子八郎は耕作権の存在を主張して昭和四九年ないし昭和五一年度分の土地賃借料を供託していることが認められ、《証拠省略》によれば、田中国光も耕作権の存在を主張して昭和四九年、昭和五〇年の土地賃借料を供託し、昭和五三年になって小金井市農業委員会に和解仲介の申立をなしていることが認められるから、右甲第四四号証の記載は採用できず、他に原告主張事実を認めさせる証拠はない。

以上認定の事実によれば、「4の事件」中金子八郎、田中国光関係については、亡芳治郎が死亡した時点において、示談交渉は未だ未解決であったというべきである。

(石黒信作関係)

1  《証拠省略》によれば、次の事実を認めることができる。

(1) 原告は、昭和五〇年五月初め頃、亡芳治郎から別紙物件目録(四)2、3、4の土地につき、次の事件の委任を受けた。すなわち、亡芳治郎は、昭和四七年九月一三日、国(農林省)から右土地の売払を受け所有権を取得したが、右土地はもと鈴木辰五郎が耕作していたところ、同人が昭和四〇年頃離作すると同時に訴外上村忠春がうち四五坪につき国有農地転用借受の許可を得て借受をなし、上村忠春は昭和四二年一一月頃右権利を石黒信作に譲渡し、かつ、上村忠春が亡芳治郎に対し有する所有権移転の予約権を石黒信作に譲渡したとし、石黒信作から亡芳治郎に対し所有権移転の要求がなされているので、この権利関係を明確にしてほしいというものであった。

(2) 原告は右事件受任後昭和五二年一月までの間、数回、石黒信作および関係人野山喜一、小野芳松ほかと面接し、現地調査等をなした。

(3) しかし、右事件は旧耕作者鈴木辰五郎相続人鈴木正一郎との間の紛争に関係するため、前記「1(2)の事件」の鈴木正一郎と亡芳治郎間の訴訟事件(昭和四八年(ワ)第四五三三号)の結果を待つ必要があると思料されたので、原告は、石黒信作に対し、同人が別紙物件目録(四)2、3、4の土地上に建物を有している現状を考慮し、将来は同人に対し土地所有権を譲渡するあるいは賃借権を設定する方向等で解決したい旨伝えて、事件を延期している。

2  以上認定の事実によれば、「4の事件」中石黒信作関係については、当事者間で一応解決の方向は定められたというものの内容は判然としたものでなく、示談交渉は未解決であるということができる。

(桐山靖彬関係)

1  《証拠省略》によれば、次の事実を認めることができる。

(1) 原告は、昭和四八年四月二〇日、亡芳治郎から別紙物件目録(四)5、6の土地につき、次の事件の委任を受けた。すなわち、亡芳治郎は、昭和四三年一二月二五日、国(農林省)から右土地の売払を受け所有権を取得したが、桐山靖彬はそれ以前に亡芳治郎の代理人野山喜一との間で所有権移転の予約をなしたとして所有権移転の履行を求めるので、この権利関係を明確にしてほしいというものであった。

(2) 原告は、桐山靖彬に対し、書面で所有権移転の予約の法律上の無効、野山喜一の無権代理を主張したところ、桐山靖彬代理人弁護士より、昭和四九年五月二五日、提訴の用意ある旨、訴訟の結果によっては訴訟費用、謝金として少なくとも三〇〇万円の請求をなす旨の通告がなされた。

(3) しかし、右事件についても、石黒信作関係の事件と同様に、右土地の旧耕作権者鈴木辰五郎の相続人鈴木正一郎と亡芳治郎間の前記「1(2)の事件」の結果を待つ必要があると思料されたので、原告は、桐山靖彬代理人に対し事情を説明し、桐山靖彬が別紙物件目録(四)5、6の土地上に建物を有し保存登記を経由している現状を考慮し、将来は同人に対し土地所有権を譲渡するあるいは賃借権を設定する方向で解決したい旨伝えて、事件を延期している。

2  以上認定の事実によれば、「4の事件」中桐山靖彬関係についても、示談交渉の内容が具体的に定まったとはいい難く、未解決のままであるということができる。

三  亡芳治郎は、昭和五一年一月八日死亡し、被告中島静子はその妻、その余の被告らはその子であることは当事者間に争いがない。

四  《証拠省略》を総合すれば、原告は、亡芳治郎が死亡した昭和五一年一月八日、同人の相続人たる被告らより、亡芳治郎が原告に委任していた事件を従来どおり原告が遂行するよう委任を受け、その費用の一部として、被告らより、同年一月から一〇月分まで合計三三万七九九九円の支払を受け、これを受領したことが認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。

五  被告らが「2の事件」について原告を解任したことは当事者間に争いがなく、《証拠省略》と、前示認定の、被告らより原告に対する委任事務処理の費用が昭和五一年一月より一〇月分まで支払われていた事実ならびに弁論の全趣旨によれば、原告は、昭和五一年一〇月五日、原告事務所において、被告中島静子から、同人以外の被告らについてはその代理人として、解任する旨口頭で通知を受けたこと、その後、被告らは、昭和五二年二月一八日、文書において解任の意思を明確にし、右文書は同月二六日頃原告に到達したことを認めることができる。

六(一)  原告は、原告と亡芳治郎の間には東京弁護士会の報酬規定に従って報酬(手数料と謝金)を支払う約定があった旨主張し、前記甲第四四号証のなかには右主張に副う記載も存するのであるが、前示認定事実よりすれば、亡芳治郎は原告に対し数多くの訴訟事件、示談折衝事件を委任し、いろいろな法律問題を相談していたこと、このための費用として毎月一定の金額を支払っていたことが認められるので、亡芳治郎が常に事件毎に弁護士会報酬規定に従って報酬を支払っていたかについて疑問があり、前記記載をにわかに採用できず、当事者間において右規定が報酬を定める際の一つの参酌すべき資料となったとしても、それ以上に原告主張の如く当事者を拘束するものとまで認めることはできない。但し、原告は亡芳治郎より弁護士として業務上事務処理の委任を受けたものであるから、当然に、相当額の報酬請求権を有することは認められ、なお、前記甲第四四号証により事件着手の際は特に手数料をとることなく、事件終結時に報酬額が支払われていたものと認めることができる。

(二)  東京弁護士会報酬規定中に原告が請求原因(六)項2で主張する如き規定があることは当事者間に争いがない。

(三)  原告は、原告と被告らとの間の委任契約においても、従前どおり東京弁護士会報酬規定によるとの合意があったとするが、原告と亡芳治郎との間に右合意が認められないことは前判示のとおりであり、その他本件全証拠によるも右主張事実を認めるに至らない。

(四)  原告は、被告らは原告を一方的に解任したので、東京弁護士会報酬規定五条の弁護士の責に帰することができない事由で弁護士を解任したときに該当し報酬額全額を請求できる旨主張するが、前記のとおり、原告と亡芳治郎あるいは原告と被告らとの間に、右報酬規定によって報酬を定めるとの合意が認められないから、右主張は採用できない。

しかしながら、原告は委任契約に基づいて報酬請求権を有するから、これによる報酬について検討するに、原告と亡芳治郎との間の事件の委任は委任者亡芳治郎の死亡により終了したもので、これは民法六四八条三項の委任が受任者の責に帰すべからざる事由によりその履行の半途において終了したときに該当するから、原告は亡芳治郎死亡までになした履行の割合により報酬を請求できると解すべきである。

次に、原告と被告らとの間の委任終了の原因について考えるに、これは被告らが昭和五一年一〇月五日原告を解任したことによるものであることは前示認定のとおりであるが、ただし、この解任の事情について検討すると、《証拠省略》によれば、被告中島静子は、原告に事件を委任後、幾度か各事件の進行状況を尋ねたが、原告から理解し得るような説明を得られなかったこと、特に、昭和五一年一〇月五日、翌日「2の事件」の口頭弁論期日が指定されていたので、同被告がその打合せのため原告事務所を訪れた際、原告が留守であったため、同被告において原告の息子の弁護士訴外甲野一郎に説明を聞きはじめたところ、たまたま外出から帰って来た原告が、「素人に何が判るか、説明する必要はない。」と怒鳴って書類を取上げてしまい、この時にも納得できる説明を得られなかったこと、被告らとしては、亡芳治郎がこれまで原告に委任してなした訴訟あるいは示談折衝の進行状況を把握しその方針を定め、また財産の範囲を確定し相続税の申告をしなければならない等の事情があって原告の態度に非常に困惑していたこと、このため、同日、被告中島静子において、同被告以外の被告らについてはその代理人として、原告を解任したものであると認めることができ(る。)《証拠判断省略》被告らはさらに、原告が弁護士報酬請求に名をかりて被告ら資産に仮差押をした旨主張し、《証拠省略》によれば、原告より弁護士報酬債権の一部を譲受けた者が被告ら所有の小金井市中町二丁目二一八四番五の土地を仮差押したことは認められるが、このような事態が発生したのが前記昭和五一年一〇月五日の解任の前であるという証拠はないから、右仮差押の件が原告の解任する一事由になったものと認めることはできない。

そうすると、弁護士が事件の委任を受けた際には、依頼者の求めに応じ事件の進行状況を説明報告する義務があり、特に本件の如く、従前の委任者が死亡しており、相続人として引きつづいて委任した委任者らは、それまでの訴訟状態、示談折衝進行の状況を把握できない状態にある場合には、右義務の履行が要求されるというべきところ、本件においては、原告がその義務を果したと認めるに至らず、被告中島静子あるいはその余の被告らにおいて特に説明を受け入れないような態度を示したり、あるいはその能力を欠いていたと認めるような証拠はなく(《証拠省略》によれば被告中島静子は訴外アート金属工業株式会社の専務取締役として仕事をしていたものであることが認められるから原告から説明がなされれば理解できないことはなかったと判断される)、これらの点を考えると、被告らのなした解任には正当な理由があり、原告は右解任について自己の責に帰すべき事由がないとすることはできず、結局民法六四八条三項の委任が受任者の責に帰すべからざる事由によりその履行の半途において終了したときに該当せず、原告は被告らに対してはその履行の割合に応ずる報酬請求権を有しないものというべきである。

なお、着手金については、原告は亡芳治郎から引つづいて事件を受任したものであるため、被告らとして改めて支払わないとすることが当事者の意思であったと認めるのが相当である。

(五)  別紙物件目録(一)ないし(四)の土地の時価は、《証拠省略》を総合すると、亡芳治郎が死亡した昭和五一年一月八日当時、いずれも三・三平方メートルあたり三〇万円を下らないことを認めることができ、これにより別紙物件目録記載の各土地の時価を算出してみれば、(一)の土地は一億二〇五五万四四二〇円、(二)の土地は七八〇九万八三一円、(三)の土地は三二〇九万八七七円、(四)1の土地は(二)の土地に同じ、(四)2、3、4の土地は二七五四万五四二七円、(四)5、6の土地は二八八一万八一五三円を各下らないということができる。

(六)  そこで、原告が亡芳治郎死亡までの間になした委任事務の履行につき、その相当報酬額を検討することとする。

1  「1(1)の事件」「1(2)の事件」について

前記別紙物件目録(一)の土地の時価に、「1(1)の事件」は調停事件であり不調に終ったこと、「1(2)の事件」は訴訟事件であり、右事件は和解の基本線において合意ができ、分筆のための測量、農地法関係の調査等細部の内容確定に向けて作業がなされている段階であったこと、その他、右事件の処理期間、原告の費した労力、事件の難易度、原告は着手金の支払を受けていないが、毎月一定の費用の支払を受けていたこと等諸般の事情を考慮し、原告の受けるべき報酬額は両事件合せて一五〇万円をもって相当とする。

2  「2の事件」について

前記別紙物件目録(二)の土地の時価に、右事件は訴訟事件であるが、証人一名の証拠調が終了した段階で、未だ訴訟の結果の予想はできない状態であったこと、その他、右事件の処理期間、原告の費した労力、事件の難易度、前記着手金および費用の支払状況等諸搬の事情を考慮し、原告の受けるべき報酬額は七〇万円をもって相当とする。

3  「3の事件」について

右事件については、前記甲第四四号証により、原告と亡芳治郎との間に、昭和五〇年一二月二六日、源泉徴収税額五万円を含め報酬額を五五万円とする旨の合意がなされたことが認められ、なお、右事件は示談契約の内容も定まりほぼ終了していたものと認められるから、原告の受けるべき報酬額は五五万円が相当である。

4  「4の事件」について

前記別紙物件目録(四)記載の土地の時価に、右は示談契約締結事件であるが、金子八郎、田中国光関係、石黒信作関係、桐山靖彬関係のいずれにせよ交渉は中断していて解決するに至っていなかったこと、その他、右事件の処理期間、原告の費した労力、事件の難易度、前記着手金および費用の支払状況等諸搬の事情を考慮し、原告の受けるべき報酬額は合計三五万円をもって相当とする。

(七)  被告らは亡芳治郎の相続人としてその権利義務を承継したこと、およびその相続割合は、被告中島静子が三分の一、その余の被告らが各六分の一であることは当事者間に争いがない。そうすると、亡芳治郎が原告に対し有している報酬金債務合計三一〇万円は、相続により、被告中島静子において一〇三万三三三三円(円未満切捨)、その余の被告らにおいて各五一万六六六六円(円未満切捨)宛承継したものということができる。

(八)  一件記録によれば、被告らに対し本訴状は昭和五二年三月七日以前に送達されていることが明らかである。したがって、原告は、被告中島静子に対し報酬金一〇三万三三三三円およびこれに対する昭和五二年三月八日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求めることができ、その余の被告らに対し各報酬金五一万六六六六円およびこれに対する前同日から前同率の遅延損害金の支払を求めることができるというべきである。

(九)  よって、原告の本訴請求は、右限度で理由があるから認容し、その余は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 関野杜滋子)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例