大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和51年(行ウ)160号 判決 1986年3月25日

原告 斎藤博

被告 麻布税務署長

代理人 島村芳見 琵琶坂義勝 ほか三名

主文

1  被告が昭和四二年五月一六日付けで原告の昭和三八年分の所得税についてした更正のうち総所得金額九一三一万四二八五円を超える部分並びに過少申告加算税及び重加算税の賦課決定のうち右部分に対応する重加算税の賦課決定を取り消す。

2  被告が昭和四二年五月一六日付けで原告の昭和四〇年分の所得税についてした更正のうち総所得金額三九八二万五六七九円を超える部分及び重加算税の賦課決定のうち右部分に対応する賦課決定を取り消す。

3  原告のその余の請求を棄却する。

4  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告が昭和四二年五月一六日付けで原告の昭和三八年分の所得税についてした更正並びにこれに係る過少申告加算税及び重加算税の賦課決定を取り消す。

2  被告が昭和四二年五月一六日付けで原告の昭和四〇年分の所得税についてした更正のうち総所得金額七五六万一四六二円を超える部分及び重加算税の賦課決定を取り消す。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  原告の請求原因

1  原告の昭和三八年分及び同四〇年分の各所得税について、原告がした各確定申告(以下「本件各確定申告」という。)及び各修正申告(以下「本件各修正申告」という。)並びにこれらに対して被告がした各更正(以下「本件各更正」という。)、過少申告加算税(ただし、昭和三八年分についてのみ)及び重加算税の各賦課決定(以下「本件各賦課決定」という。)の経緯は、別表一の1及び2記載のとおりである。

2  本件各更正のうち、昭和三八年分はその全部、同四〇年分は総所得金額七五六万一四六二円を超える部分について原告は不服である。

したがつて、右各不服部分に対応する本件各賦課決定についても原告は不服である。

3  よつて、請求の趣旨記載のとおり、本件各更正及び本件各賦課決定の右各不服部分の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1の事実は認める。

三  抗弁

原告の昭和三八年分及び同四〇年分の各総所得金額及びその算出根拠は以下に述べるとおりである。

本件各更正に係る総所得金額はいずれも右算出された各総所得金額と同額であるから、本件各更正は適法であり、これを前提としてされた本件各賦課決定も後記5のとおりである。

1  総所得金額及びその内訳

原告の本件係争各年分の総所得金額及びその内訳は、別表二の被告主張額欄記載のとおりである。

2  事業所得について

原告の本件係争各年分の事業所得の算出根拠は、別表三の被告主張額欄記載のほか次に述べるとおりである。

(一) 手形割引収入

原告は、その肩書地において手形割引による金融業を営んでいたものである。

手形割引は、満期日に支払が為されるべき手形金債権を現在価値に引き直して取引するものであり、割引(売買)時点において割引(買受)人の取得する経済的価値は取得価額に相当する価値であつて、手形金額(額面額)ではない。すなわち、割引収入たる割引料に相当する価値(手形金額と取得価額との差額であり、満期日までの利息・費用等をその実質的内容とする。)は、手形の取得日から満期日まで日々の経過に対応して発生し、その額の総和を、満期日に手形金の支払を受けることによつて、割引料として現実に入手するものである。したがつて、右割引料収入の計上時期は、割引(売買)後、満期日までの期間の経過に対応するものというべきである(企業会計原則注解の注5)。

右のとおり、割引料は、日々発生すると観念されるから、満期日が翌年に到来する手形については、課税期間に対応する日数を基礎として同期間中の割引料収入を計算すべきこととなり、他方、当年中に経過しなかつた期間に対応する分の割引料は、期末前受収入として翌年に繰り延べられて、翌年の収入金額となる。観点を変えて言えば、前年において期間未経過として当年に繰り延べられた割引収入は、期首前受割引収入として、当年分の収入金額となるべきものである。

したがつて、原告の手形割引に係る収入金額は、各年中に手形を取得した際の割引収入金額に期首前受収入金額を加えた額から期末前受割引収入金額を控除した額であり、本件係争各年分については別表三の被告主張額欄記載のとおり算出される。

なお、割引債券についても、発行時の経済的価値は発行価格相当額であり、券面額に相当する価値は償還期限の到来によつて生ずるものであるから、券面額の発行価格との差額総額(償還差益)が収入金額として実現するのは償還時であつて、発行時ではない(もつとも、租税特別措置法四一条の一二は、債券の発行時において償還差益に対する所得税の源泉徴収を行うことを定めているが、これは、税の転稼が容易で適正な課税が期待でき、かつ、債券市場を阻害しないようにとの観点から、発行時に償還差益が確定したものとみなして源泉課税を行うこととしたものであつて、政策上の見地から採られた特別措置にほかならない。)。

(二) 保険代理収入

原告は、第百生命保険相互会社(以下「第百生命」という。)との間で保険代理店契約を締結し、東京特殊鋼株式会社(以下「東京特殊鋼」という。)の社員正木武夫ら第三者の保険契約の取次をするなど集金代理店業務を営み、別表三の被告主張額欄記載の代理店手数料(原告が集金した保険料金額に一〇〇分の三を乗じて算出された金額)を得ていた。

したがつて、右手数料収入は原告の事業所得の収入金額に算入されるべきものである。なお、右手数料の支払方法として、当該代理店が各保険契約者から集金した保険料から便宜その代理店手数料を差し引いた残余を第百生命に送金していたとしても、保険料は右差引前の金額であつて、代理店手数料とは区別されるべきものである。

(三) 手形割引料

原告が手形割引により取得した手形を銀行等で再割引を受けるに要した割引料は、その事業所得算出に当たつて必要経費となるが、その額は、前記(一)と同様の理由により、各年中の支払割引料に期首未経過割引料を加えた額から期末未経過割引料を控除したものであり、別表三の被告主張額欄記載のとおり算出される。

(四) 支払利息

別表三記載のとおり、原告が借り入れた手形割引資金に対する支払利息を必要経費としたものであるが、そのうち<1>博栄会に対する支払利息の算定は次のとおりである。

博栄会は会員の利殖を目的として原告が創設したものであり、その運用資金は原告の手形割引資金に用いられていたが、同会には規約がなく、その運営や資金運用は専ら原告の一存によつてなされ、原告が会員に支払う利息の利率や支払期間についても定めがなく、原告の一方的な計算に委ねられていたうえ、その利息の通知もなく、会員が実際に元利金を手にして初めて利息額が分かるという仕組みであつつた。

したがつて、会員が現実に元利金の支払を受けた時に、その利息の支払額が確定したものというべきであり、これによつて必要経費として認容される支払利息の額は、昭和三八年中に支払われた森田清勝に対する一万四八四五円、川上源次に対する四万六九一五円、川上日出子に対する一万二五〇〇円の合計七万四二六〇円である。

なお、原告と生計を一にする原告の配偶者及び親族である斎藤みつ子及び斎藤千代、徹、裕に対しても原告が利息を支払つたとしても、これは所得税法上は原告の事業所得の計算上必要経費として控除できないものである(旧所得税法(昭和二二年法律第二七号。以下同じ。)第一一条の二第一項、所税法五六条)。

(五) 昭和四〇年分事業税について

事業税は、当該金額を納付すべきことが具体的に確定した日の属する年分の必要経費に算入する(所得税法三七条一項)とされている。

別表三の原告主張額欄記載の昭和三九年分所得税の修正申告に係る事業税八七万七九九〇円が賦課され、具体的に確定したのは、原告に対して右事業税納税通知書が発付された昭和四二年四月三日であるから、同税額は原告の昭和四〇年分事業所得の必要経費には当たらない。

3  給与所得

(一) 昭和三八年分

修正申告に係る給与所得金額二三七万〇四四〇円に、原告が代表取締役社長として経営を主宰している東京特殊鋼から享受した次の認定賞与合計六〇七万六九三五円を加算したものである。

(1) 東京特殊鋼において架空仕入を計上し、その支払代金を原告が取得したことに基因する六〇〇万円

(2) 東京特殊鋼に帰属する定期預金から発生した利息を原告が取得したことに基因する五万七五〇〇円

(3) 東京特殊鋼が佐藤商事株式会社から仕入代金の値引きを受けたにもかかわらず、同値引額を東京特殊鋼が小切手で支払つた形にして、この小切手決済額を原告が取得したことに基因する一万九四三五円

(二) 昭和四〇年分

修正申告に係る給与所得金額二三二万〇六三〇円に、修正申告における違算分八〇円と原告が東京特殊鋼から享受した次の認定賞与合計四〇七万〇七一八円を加算したものである。

(1) 東京特殊鋼において架空仕入を計上し、その支払代金を原告が取得したことに基因する三〇〇万円

(2) 東京特殊鋼に帰属する定期預金から発生した利息を原告が取得したことに基因する二三万八九二五円

(3) 東京特殊鋼が特殊鋼販売株式会社から仕入代金の値引きを受けたにもかかわらず、同値引額を東京特殊鋼が小切手で支払つた形にして、この小切手決済額を原告が取得したことに基因する四〇万円

(4) 東京特殊鋼がその得意先である東京部品株式会社からの預かり金を返済していないのに、返済したように仮装して、右金員を原告が取得したことに基因する二三万一七九三円

(5) 東京特殊鋼が特殊鋼販売株式会社に差し入れていた仕入代金担保のための保証金について、約定により同社から東京特殊鋼に支払われる利息を原告が取得したことに基因する二〇万円

(三) 右(二)が認定賞与に当たる事情について

原告が東京特殊鋼から享受した右(二)の各金員(以下「本件各金員」という。)については、その当時同社と原告との間に金銭消費貸借契約があつたとは到底認めることができない。また、同社の会計処理においても、原告に対する貸付金として処理したことはなく、原告の個人元帳でも借入金勘定に記帳せず、<カ>利益勘定に記帳していた。

<カ>利益勘定は原告が東京特殊鋼から支払を受けた報酬等を記入するところの利益勘定であるから、本件各金員は右(二)のとおり、同社からの認定賞与とすべきものである。

4  昭和三八年分雑所得

原告は、後藤観光株式会社(以下「後藤観光」という。)の依頼により不動信用金庫に対していわゆる導入預金(定期預金)をしたことに基づいて、後藤観光から昭和三八年中に謝礼金として総額五八六七万一三〇〇円(以下「本件謝礼金」という。)を受領したものであり、右金員は、旧所得税法九条一項一〇号に規定する雑所得に該当するものである(同項一号から九号までに規定するいずれの所得にも該当しない。)。

なお、原告は金融業を営んでいたが、事業に関連して生ずる所得のすべてが事業所得となるものではなく、事業に関連していても事業と直接の結び付きがなく、事業の遂行上必然的に生じたものでないものは、事業所得以外の他の所得として区分されるべきものであるから、本件謝礼金が後藤観光の計算に基づくところの日歩七銭ないし八銭の割合で決せられていたことや、いわゆる導入預金に対する裏金利が預金等に係る不当契約の取締に関する法律に抵触することからしても、かかる利得が社会通念上事業の遂行上必然的に生じたものでないことは明らかである。

5  本件各賦課決定

(一) 原告は、昭和三八年分及び同四〇年分の所得税について、別表四及び五の各<1>欄記載のとおり本件各確定申告をしていたが、東京国税局査察部の査察官らが原告に対する所得税法違反の嫌疑により強制調査を行つたところ、原告が所得を隠蔽し又は仮装し、これに基づいて各年分の所得税について虚偽の確定申告書を提出し、所得税を免れていることが判明した。そこで、原告に対してこの事実を指摘して修正申告書の提出を促したところ、原告もこれを認め、ほ脱所得の一部を追加計上した本件各修正申告書を提出した。

しかし、別表四及び五の各<2>欄記載の本件各修正申告は右調査により確認した所得金額を下回るものであつたので、被告は、右確認されたところに基づき、別表四及び五の各<3>欄記載のとおり本件各更正をしたものである。

(二) 本件各修正申告及び本件各更正によりそれぞれ増加した別表四及び五の各<4>及び<5>欄記載の各種所得の金額は、右(一)のとおり、いずれもその全額が重加算税の賦課要件を定めた国税通則法六八条一項に該当するものである。

したがつて、右条項を適用して重加算税を賦課した本件各賦課決定は適法である。

なお、昭和三八年分の過少申告加算税は、国税通則法六五条一項により、給与所得の更正額と修正申告額との差額に係る税額(源泉徴収に係るものを除く。)について賦課したものである。

四  抗弁に対する否認

1  抗弁1のうち、別表二記載の各年分の配当所得及び不動産所得並びに昭和三八年分の譲渡所得及び昭和四〇年分の雑所得の各金額は認めるが、その余の各金額を否定する。

2  抗弁2冒頭のうち、別表三記載の各年分の期首前受割引収入、期中の取得時の割引収入、期末前受割引収入、期首未経過割引料、期中の支払割引料、期末未経過割引料、支払利息中「その他」の支払先に係る分及び雑費並びに昭和四〇年分の買戻し利息の各金額は認めるが、その余の各区分に係る金額は否認する。

同(一)のうち、原告がその肩書地において手形割引による金融業を営んでいたことは認めるが、その余の主張は争う。

同(二)のうち、原告が第百生命との間で保険代理店契約を締結していたこと、この代理店の手数料という名義で原告が別表三の被告主張額欄記載の金員を受け入れていたこと及び正木武夫が東京特殊鋼の社員であることは認めるが、その余の主張は争う。

同(三)のうち、原告が手形割引により取得した手形を銀行等で再割引うけていたことは認めるが、その余の主張は争う。

同(四)のうち、博栄会が会員の利殖を目的として原告により創設されたもので、その運用資金が原告の手形割引資金に用いられていたことは認めるが、その余の主張は争う。

同(五)のうち、別表三の原告主張額欄記載の原告の昭和三九年分所得税の修正申告に係る事業税八七万七九九〇円が、昭和四二年四月三日発付された事業税納税通知書により、原告に対して賦課されたことは認めるが、その余の主張は争う。

3  抗弁3(一)のうち、修正申告に係る給与所得金額二三七万〇四四〇円が昭和三八年分の給与所得であること、原告が代表取締役社長として東京特殊鋼の経営を主宰していること及び原告が(1)ないし(3)の各金員を東京特殊鋼から受け入れたことは認めるが、その余の主張は争う。

同(二)のうち、修正申告に係る給与所得金額二三二万〇六三〇円及び右修正申告における違算分八〇円が昭和四〇年分の給与所得であること並びに原告が(1)ないし(5)の各金員を東京特殊鋼から受け入れたことは認めるが、その余の主張は争う。

同(三)の主張は争う。

4  抗弁4の事実は否認し、主張部分は争う。

5  抗弁5(一)のうち、原告が昭和三八年分及び同四〇年分の各所得税について、別表四及び五の各<1>及び<2>欄記載のとおり本件各確定申告及び本件各修正申告をしたこと、被告が別表四及び五の各<3>欄記載のとおり本件各更正をしたことは認める。

五  原告の反論

1  原告の各年分の総所得金額及びその内訳は別表二の原告主張額欄記載のとおりであり、その事業所得の算出根拠は別表三の原告主張額欄記載のとおりである。

2  手形割引収入について

手形割引は、手形の期間に対応して日々利息が発生する手形貸付と異なり、手形の売買である。すなわち、手形売買価格は額面金額、手形の信用度、市中金利、金融情勢等の諸要素を総合して決定され、当該手形と代金との授受が行われることによつて取引は完結する。

したがつて、額面金額と右売買価格との差額が手形割引収入として確定する時期すなわち手形割引収入の発生時期は割引(売買)の時点である。

このことは、手形割引と法的性質を同じくする割引債券について、発行時において利息分(手形割引料と同視される。)が先取りされ、右収入が確定するものとされ、かつ、この際右収入に対する源泉課税及び納税がされていることからも明らかである。

更にまた、原告としては長年にわたり手形割引収入の計上時期を割引時点として経理上の処理をしてきたものであり、かつ、後記7(一)のとおり昭和四二年一二月に金融業を新規開業した後においても、右のとおり経理上の処理をすべき旨の行政指導を税務署の担当者から受け、これに従い税務申告をし、是認されてきたものである。そして、個人金融業においては、ほとんどすべて、かかる経理上の処理をしているものである。

そもそも、原告のような個人金融業者においては、各期首及び期末の前受割引収入を算出することは不可能である。

3  保険代理収入について

保険代理収入なるものは、形式的には保険代理店契約に基づく代理店の手数料であるが、その実質をみるならば、代理店の営業活動とみるべきものは全く存在せず、大口保険加入者に対するサービスとしての保険料減額のための便宜的措置に過ぎないものであり、これをもつて収入とみるべきではない。

4  手形割引について

前記2に述べたと同様の理由により、期中の支払割引料が必要経費とされるものである。

5  博栄会に対する支払利息について

博栄会については、毎年二回一月と七月を決算期と定め、右時期における運用実績に基づいて分配金(利息)の計算を行い、各会員ごとの支払金額を算定していたものである。その際、分配金(利息)の現金による支払を希望する者に対しては現金で支払い、分配金(利息)貸付元本への繰入を希望する者に対しては分配金を元本に加算して次期における投資金額としたものであつて、各会員ごとの分配金(利息)額は借入金明細書に記載していた。

右明細書によれば、昭和三八年及び同四〇年における各会員への支払利息は、別表六記載のとおりである。なお、後記7(一)のとおり原告が昭和四一年五月一九日に廃業した後においては、元利金とも全て支払い、清算済である。

6  昭和四〇年分事業税について

別表三の原告主張額欄記載の事業税は、原告の昭和三九年分所得税の修正申告に伴い、地方税法七二条の一六、同条の五〇によつて賦課されたものであり、昭和四〇年分の事業所得の必要経費となるべきものであることは、費用収益対応の原則からいつても当然のことである。

7  昭和四〇年分貸倒損失について

(一) 原告の事業(金融業)の廃止

原告は、昭和四一年五月一九日東京国税局による査察調査を受けたことによつて、銀行、取引先、同業者に対する信用を一挙に失い、また、帳簿書類を始め印鑑、通帳、住所録に至るまで押収され、事業(金融業)の継続は下可能となつた。しかも、右査察調査による原告の精神的打撃は甚大であり、原告は、もはや事業を行う意志を失い、同日限り廃業した。

したがつて、以後は、手形の買取など新規の取引は一切行わず、ただ、手持の手形の取り立て又は買戻し並びに決済不能な手形に限つての止むをえない書き替えと現金化などの後始末をしたに止まる。この事実は、原告の帳簿、伝票処理及び昭和四一年分所得税確定申告書の記載によつても明らかである。ちなみに、原告は、その後の昭和四二年二月一八日付けで被告に対して、廃業の旨の上申書を提出した。

そもそも、事業の廃止とは営業活動をしなくなつたことを指し、原告は右のとおり昭和四一年五月一九日をもつてその事業を廃止したものであつて、以後は全くの残務整理すなわち現務結了のための清算手続にとどまつていることは明らかである。

なお、原告は、右廃業後一年半たつてようやく立ち直り、昭和四二年一二月一九日に貸金業開始届を東京都経済局金融課に提出し、同日から金融業を開始したものである。

(二) 事業を廃止した場合の必要経費の特例

原告の取引先である株式会社東京大証(以下「東京大証」という。)が昭和四一年一一月に倒産し、これにより原告には五四六七万一〇〇〇円の貸倒損失を生じたが、このうち二四六四万八九九〇円については、昭和四一年分所得税の確定申告において、事業所得に係る必要経費として認められた。

右残額三〇〇二万二〇一〇円は、所得税法六三条、同法施行令一七九条により、昭和四〇年分の事業所得の必要経費に算入すべきものである。

8  給与所得(認定賞与)について

被告の主張する認定賞与なるものは、原告が営む金融業の資金に充てるための東京特殊鋼からの簿外の借入金である。簿外であるから、東京特殊鋼においては貸付金としての会計処理がないのであり、被告の主張する「<カ>利益勘定」は同社から原告への出金を示す言葉に過ぎない。

これを簿外としたのは、取引先や銀行に知られたくないなどの理由からであるが、借入の都度、利息年一割、期間一年の約定で東京特殊鋼専務取締役斎藤栄八郎の了解を得ており、昭和四一年三月二九日開催の同社の取締役会においても右借入金は確認され、その旨の議事録が作成されている。そして、原告は、右約定に従い、右借入金を所定の利息と共に東京特殊鋼に返済し、同社はこれを雑収入として受け入れている。

ちなみに、右議事録が綴り込まれていた庶務関係綴は、同年五月一九日の前記査察の際、査察官により差し押さえられ、他の差押物件と共に封印されていたから、その作成について疑念を生じる余地はない。

右のとおり、簿外の貸付金であるにもかかわらず、これが東京特殊鋼の架空仕入と認定されて課税され、次いで原告への認定賞与とされて重複課税され、更に同社の雑収入として課税されるという不当かつ不公平な結果を招来している。

なお、原告が昭和三三年から同三七年までの間に東京特殊鋼か受け入れた金員総額六〇一一万五九三六円は、原告が昭和三二年から同三五年にかけて個人の資格で買い入れ、同社に販売を委託した米軍払い下げ特殊鋼の販売代金の清算である。したがつて、東京特殊鋼の原告に対する貸付金ではなく、同社の取締役会における前述の貸付の確認の対象にもなつていないし、もちろん同社の架空仕入でもない。

9  昭和三八年分雑所得(本件謝礼金収入)について

(一) 原告は、後藤観光に対して昭和三八年一月以降金銭の貸付をし、同社から右貸付額に見合う約束手形を差し入れさせ、かつ、同社が不動信用金庫に預け入れた右差入手形と額面金額及び満期日が一致する定期預金(被告主張の定期預金)の証書を受け取つていたが、右貸付金が弁済期に至つた時あるいは後藤観光に債務不履行があつた時点で、原告に直ちに右定期預金払戻請求権を行使することによつて、右貸付金債権の弁済を受けることができるという取り決めであつた。

そして、原告は、同社から右貸付金の利息として被告主張の本件謝礼金を受け取つていたもので、右利息(謝礼金)は、当初は現金で支払われていたが、その後は貸付金の期限書き替えの際、元本額に利息額(日歩八銭ないし一〇銭、総額四五五九万〇四〇〇円)を繰り入れた約束手形の差し入れ及び定期預金証書の受領という形式をとり、単に計算上で支払われていたに過ぎなかつた。

(二) 原告の後藤観光に対する右貸付は、貸付回数が約三〇回、最終貸付残高が三億〇五〇〇万円に達したが、これは当時の原告の事業資金量の九割以上を占め、右貸付利息が原告の事業収入に占める割合は四分の三を超えていた。

右貸付は原告の営む金融業そのものとして行われたものであるから、これに基づく所得は事業所得に当たるものである。

(三) 後藤観光は、昭和三八年一一月二二日不動信用金庫からの融資の打切に遇つて手形不渡りを出し、倒産したが、同日ころ不動信用金庫も払戻資金の不足により預金の支払を停止し、事業を閉鎖した。そして、同信用金庫の残余財産は負債総額の一割前後に止まつたから、同信用金庫は完全に破産状態に陥つた。

なお、不動信用金庫の大口債権者(原告が取得した前記定期預金もこれに含まれる。)に対しては、昭和三九年に至つて、中央信用金庫から三割の預金払戻(現金で二割、一年定期預金で一割)がなされたが、これは大蔵省の要請による代位弁済であつて、不動信用金庫による弁済ではない。他方、城南信用金庫ほか一〇信用金庫は、昭和三八年一二月下旬に不動信用金庫の小口預金債権者に対する払戻資金を拠出したが、これについては税務上貸倒れとして損金計上が認められている。

(四) 右のとおり、本件謝礼金は雑所得ではなく事業所得とすべきものであるところ、後藤観光及び不動信用金庫がいずれも昭和三八年中に倒産し、本件謝礼金(前記のとおり預金となつていた。)を含む両者に対する債権はその回収不能(貸倒れ)が確定したことになるから、本件謝礼金は原告の事業所得に計上すべきではない。

(五) 仮に、本件謝礼金が雑所得に当たるとしても、旧所得税法一〇条の六第一項により、回収することができないこととなつた部分の金額に対応する所得の額は、雑所得の計算上なかつたものとみなすべきであるし、所得税法五一条四項によるならば、資産損失の金額として、雑所得の金額の計算上必要経費に算入すべきである。

したがつて、結局、右雑所得はないこととなる。

六  原告の反論に対する被告の主張

1  原告の反論2のうち、税務担当者が手形割引収入の計上時期について原告主張の指導をしたこと及び個人金融業のほとんどがしているという手形割引収入についての経理処理の内容は否認する。

仮に、原告主張のような指導があつたとすれば、それは誤つた指導であるし、その指導前の年分の手形割引収入の計上方法について右指導が影響を及ぼす理由がない。

2  原告の反論7について

(一) 同(一)のうち、東京国税局による査察調査及び帳簿書類等の押収の事実並びに、原告の貸金業開始届出の事実自体は認めるが、原告が昭和四一年五月一九日をもつて金融業を廃止し、同四二年一二月一九日付けで再開したことは否認する。

同(二)のうち、原告の取引先である東京大証の倒産日時、当時原告が東京大証に対して五四六七万一〇〇〇円の債権を有していた事実及び原告が右同額の貸倒損失が生じたとして内二四六四万八九九〇円を事業所得に係る必要経費の額に計上して昭和四一年分の確定申告をした事実は認めるが、その余の主張は争う。

(二) 原告は、昭和四一年五月一九日当時保有していた割引手形(合計金額二億五三二四万一七三八円)を、その後も原告自身で再割引に出し、又は取り立てていたほか、同日以降も従前と同様に手形の書き替え、買い取り等を行つていたものであるから、原告がその主張する時期に右金融業を廃止したということはありえない。

また、事業の廃止は、いわば清算のための後始末行為が終了した時点であり、原告は昭和四一年五月一九日以降も清算のための後始末と称する金融業務を行つていたことを自認するから、この点からも原告主張の事業廃止を認めることはできない。

右に加えて、原告が昭和四二年一二月一九日には貸金業開始届出をして正規に金融業を営むに至つている事実を併せ考えると、それまでの無届けの金融業をこの届出によつて適法化し、その継続及び拡大を意図したことが十分に窺える。

したがつて、原告の金融業について、事業を廃止した場合の必要経費の特例である所得税法六三条、同法施行令一七九条を適用する余地はない。

なお、原告の昭和四一年分の事業所得の計算上、東京大証に係る貸倒損失が必要経費として認容されているのは、右貸倒損失が同年中に発生したことを事由として、所得税法五一条二項を適用したことによるものであつて、同年中に原告の金融業の廃止があつたことを事由としたものではない。

3  原告の反論8について

(一) 被告主張の認定賞与相当額について、東京特殊鋼の昭和四一年三月二九日の取締役会において原告に対する貸付金と確認したことは否認する。ちなみに、原告主張の取締役会議事録は、貸付金と偽装するために後日作成されたものである。

もつとも、庶務関係綴の差押時期は原告主張のとおりであるが、右議事録がこれに綴り込まれていたこと及び同庶務関係綴が他の差押物件と共に封印されたことは否認する。右庶務関係綴を含む大部分の差押物件は、昭和四二年五月九日(東京国税局が最終的に差押物件を引き揚げた時期)まで東京特殊鋼(原告が支配している。)において保管を命じられ、その責任において使用することができたものである。

(二) 認定賞与について、原告は重複課税と主張するが、役員賞与は法人税法上損金不算入とされている(法人税法三五条一項)から、東京特殊鋼の架空仕入等から原告の認定賞与が発生した場合は、右架空仕入に見合う法人税を課すると共に、原告に対しては認定賞与に見合う所得を課することは当然であり、本件各更正等が重複課税の違法を冒したことにはならない。

なお、原告と東京特殊鋼との間には金銭消費貸借契約はなく、原告が同社から受け入れた金員は全て給与所得たる認定賞与として確定済みのものであるから、仮に、後日原告と東京特殊鋼とが合意によりこれを消費貸借の目的としたところで、右認定賞与の所得性が失われることはない。

(三) 原告が昭和三三年から同三七年までの間に東京特殊鋼から受け取つた金員が、原告主張のような米軍払い下げ特殊鋼の委託販売代金を清算したものであることは否認する。すなわち、米軍払い下げ特殊鋼の取得は昭和三三年四月で終了しており、昭和三六年及び同三七年を例にとつてみても、右委託販売を示す会計処理はない。また、実際に仕入があつたとすれば、架空仕入という経理操作を行つたり、架空の取引先名義を用いて経理をしなければならない理由はない。

4  原告の反論9について

(一) 同(三)のうち、不動信用金庫の支払停止とその日時及び原告を含む大口債権者に対する中央信用金庫による三割の預金払戻しの事実は認めるが、不動信用金庫が昭和三八年中に事業閉鎖、支払不能及び破産状態に陥つたことは否認する。

同(四)のうち、不動信用金庫が昭和三八年中に倒産し、同信用金庫に対する債権の回収不能(貸倒れ)が確定したことは否認する。

同(五)の主張は争う。

(二) 所得税法上、債務が貸倒れにより回収不能と認められるためには、債務者の行方不明、刑の執行、破産又は和議手続の開始、事業の閉鎖、債務超過の状態が相当期間継続し、事業再起の見通しがないこと、その他これらに準じる事情により、債権の回収の見込みがないことがその年中に確実になつた場合に限られるものである。

不動信用金庫の場合、昭和三八年一一月に支払停止したが、全国信用金庫連合会、全国信用金庫協会及び東京都信用協会が大蔵省と善後策を検討した結果、同年一二月ころ中央信用金庫理事長小野が不動信用金庫を単独管理し、同三九年に至り中央信用金庫が事実上その業務及び債権、債務を引き継ぐ形をとり、小口預金者に対しては全額が支払われ、大口債権者に対しては預金額の三割を支払い、預金残高照明書を交付した。更に、昭和四三年一二月二八日には不動信用金庫預金者団と中央信用金庫との間で右残債務の一部弁済が行われ、その後の昭和四九年九月二〇日付けをもつて残つた債務を免除することが確定したものである。

そうすると、原告の預金債権(三割払戻し後の残額)が回収不能として確定したのは昭和四三年一二月以降ということになる。

第三証拠関係<略>

理由

一  請求原因1の事実は、当事者間に争いがない。

二  原告の昭和三八年分及び同四〇年分の総所得金額について

1  原告の係争各年分の配当所得、昭和三八年分の譲渡所得及び昭和四〇年分の雑所得がそれぞれ別表二の被告主張額欄記載のとおりであることは、当事者間に争いがない。

2  事業所得について

(一)  手形割引収入について

(1) 原告がその肩書地において手形割引による金融業を営んでいたこと、原告の各年分の期首前受割引収入、期中の取得時の割引収入及び期末前受割引収入の各金額がそれぞれ別表三の被告主張額欄記載のとおりであることは、当事者間に争いがない。

(2) 手形割引は、通常、手形金額から満期までの利息その他の費用を割引料の名称のもとに控除した額を対価(代金)として満期未到来の手形を譲渡する行為であり、その法律的性質は手形の売買と解される。そして、手形割引により手形金額以下で手形を取得した場合は、手形金額と取得価額との差額が手形割引による収入を構成するが、右収入は、取得した当該手形が満期に支払われ又は再割引されたときに現実化(現金化)するものであつて、割引時においては未だ実現しておらず、前受収益にとどまつているものと考えられる。

一般に、企業会計上の発生主義の立場では、主たる営業活動による収益は、それが役務の対価であるときは、時の経過に対応して発生するものと認識されているが(企業会計原則のうち第二損益計算書原則一A、企業会計原則注解のうち〔注5〕(2)参照)、手形割引による前受収益についても期間対応分を当期の収益に計算することが原則とされなければならない。そして、この理は、法人税法上の収益計算について妥当するのはもちろん(同法二二条四項)、所得税法上の事業収入についても妥当するものと考えるべきである(所得税基本通達三六―八のうち(七)本文参照。なお、例外的取扱について、同但書参照)。

そうすると、手形割引による事業収入は、右原則にしたがつて、割引があつた時から時の経過とともに日々実現し、当初(所得年度)対応分が当該年分の収入金額となり、未経過分は繰り延べられて次期(翌所得年度)以降の対応する期間の収入金額となることになる。これと異なり、手形割引収入の計上時期を割引時とする原告の主張は失当であり、同主張に副う<証拠略>は採用できない。

なお、割引債の償還差益も、本来なら手形割引収入と同様に扱われるべきものであるが、租税特別措置法の一部改正(昭和四二年法律第二四号)によつて、課税の特例として発行時課税を認めたものであり、これがいわば所得発生前の所得税前払の性質を持つものであることは、同法四一条の一二の規定上明らかであつて、原告の前記主張を根拠づけるものではない。

また、原告は、従前の経理上の処理、昭和四二年一二月以降の税務署職員の指導による税務申告及び同業者の経理上の処理等を引き合いに出して、前記の自説の根拠づけを試みるが、手形割引料収入の計上時期については、右に判断したとおり、原則として当該期間に対応する経過分に限られるべきものであつて、単に従前の経理上の処理が右原則と異なつているとの理由だけで手形割引料収入の計上時期(帰属年分)を違えた経理を是認することは、課税上の不公平を招くことにつながり、許されない(前記基本通達三六―八のうち(七)が、個人の記帳能力等を考慮して認めた例外は、その者が継続して手形の満期日に割引収入金額を一括して計上している場合である。)。そして、右の期間対応分の収入が事実上算定不能ということも考えられない(そもそも、手形割引の際の割引利息は満期までの期間に一定の利率を乗じて算出するのが常態であり、この意味で手形割引に従事する者は、常時この種の計算を行つているものである。)。これと異なる<証拠略>は採用できない。なお、原告主張の税務職員による指導は、昭和四二年一二月以降のことであるから、仮にそのような事実があつたとしても、これが本件係争各年分(昭和三八年分及び同四〇年分)の手形割引収入の計上時期を違える理由となるものでないことは明らかである。

したがつて、原告の本件係争各年分の手形割引に係る収入金額は、前記(1)の各期中の取得時の割引収入金額に期首前受割引収入金額を加えた額から期末前受割引収入金額を控除した額であり、別表三の被告主張額欄記載のとおり算出される。

(二)  保険代理収入について

原告が第百生命との間で保険料代理店契約を締結し、代理店手数料名義で別表三の被告主張額欄記載の金員を受け取つていたことは、当事者間に争いがない。

<証拠略>によれば、原告は、第百生命との間で昭和三一年九月八日保険代理店(いわゆる集金代理店)契約を締結したものであり、その代理店手数料(報酬)は集金保険料合計額の三パーセントと定められていたこと、原告は、その代理店業務として東京特殊鋼の社員正木武夫、織田昭八ら第三者の生命保険契約締結申込の取次、保険料の集金等を行つたことの手数料として、別表三のうち昭和三八年分は同年一〇月二一日に現金で、同四〇年分は同年一一月一〇日に掛金相殺の方法(保険代理店が第百生命に集金した保険料を送金する際、右代理店手数料を差し引いた残額を送る方法)により、それぞれ支払を受けたことが認められる。<証拠略>のうち右認定に反する部分は信用できず、他に右認定を動かす証拠はない。なお、右掛金相殺が保険料の減額措置とは異なるものであることはいうまでもない。

右認定の事実によれば、原告は当時保険代理業を営んでいたもので、これが旧所得税法九条一項四号、同施行規則(昭和二二年勅令第一一〇号)七条の三、したがつて、所得税法二七条一項、同施行令六三条に規定する事業に当たることは明らかであるから、前記の名目で収入した本件係争各年分の代理店手数料は同年分の事業所得の収入金額に算入すべきものである。

(三)  手形割引料について

(1) 原告が手形割引により取得した手形を銀行等で再割引していたこと、原告の各年分の期首未経過割引料、期中の支払割引料及び期末未経過割引料の各金額が別表三の被告主張額欄記載のとおりであることは、当事者間に争いがない。

(2) 原告の事業所得算出に当たつて必要経費となる手形割引料(再割引に伴う支払割引料)についても、前記(一)(2)と同様の理由により、費用・収益対応の観点から、期間対応分が当該年分の必要経費となるものである。

したがつて、原告の各年分の必要経費となる手形割引料は、右(1)の各期中の支払割引料に期首未経過割引料を加えた額から期末未経過割引料を控除した額であり、別表三の被告主張額欄記載のとおり算出される。

(四)  支払利息について

(1) 博栄会に関する支払利息を除く「その他」の支払先に係る支払利息の金額が別表三の被告主張額欄(<2>)記載のとおりであることは、当事者間に争いがない。

(2) 博栄会に関する支払利息について

博栄会は会員の利殖を目的として原告により創設されたものであり、その運用資金が原告の手形割引資金に用いられていたことは、当事者間に争いがない。

<証拠略>によれば、博栄会は昭和三七年三月に組織され、主に原告の相続財産や原告の家族(妻子)、親族及び家事使用人から預かつた現金を運用し、その運用利益を支払利息として会員(預託者)に配分していたが、規約はなく、その運営や資産運用は専ら原告の一存に委ねられており、原告が会員に支払う利息についても予め利率及び支払期を定めておらず、原告の一方的計算で行われていたこと、原告は、毎年一月末ころと七月末ころの二回、その間の運用利益等を勘案してその都度一存で利率を決め、(したがつて、利率は一定していない。)、会員ごとの支払利息の額を算出し、これを各自の元本額に繰り入れるに止まり、右各計算期間ごとに利息を現実に支払う仕組みを採つていなかつたうえ、その利息額や計算内容について会員に右計算の都度通知することもなかつたこと、したがつて、会員は現実に支払を受ける時になつて初めて右の額を知ることになり、この意味では、右の利率の決定は原告の内部的決定に止まるも同然と言つて良い程度のものであつたこと、この元利金が支払われるのは、会員から原告に対して支払の請求(解約を含む。)があつたときであることが認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない。

右認定のように、利率、期間及び支払期を明定せず、借主側で一方的に貸主ごとの支払利息を適宜計算するに止まり、しかも右計算の結果も貸主に示されない等の特殊な借入金にあつては、単に一方的に借主が利息の計算をしたという時点では、未だ支払利息としての必要経費性が確定したと認めることはできず、これが必要経費として計上できる時期は、会員の請求を受けて支払がなされるなど、原告が現実に支払う利息債務額が外部に明確になつた時点と認めるのが相当であり、その額は当該支払金額もしくは支払義務が確定した金額と解すべきである。

そして、前掲<証拠略>によれば、原告は、次のとおり博栄会会員に対して元利金の支払をしたことが認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない。

ア 森田清勝に対して、昭和三八年二月一日解約により元利金一一万〇七五〇円を支払つたが、そのうち利息相当額は一万四八四五円である。

イ 川上源次に対して、右同日解約により元利金三四万六九一五円を支払つたが、そのうち利息相当額は四万六九一五円である。

ウ 西沢岳次郎に対して、右同日利息相当額一三万四三六五円を支払い、更に、昭和四〇年二月二八日、利息相当額六万八七六〇円を支払つた。

エ 大友京子に対して、昭和三八年二月一五日元利金一万一六〇二円を支払つたが、そのうち利息相当額は八三三七円であり、更に、同年八月三日元利金二万円を支払が、そのうち利息相当額は二五〇〇円である。

オ 川上日出子に対して、右同月六日解約により元利金三一万二五〇〇円を支払つたが、そのうち利息相当額は一万二五〇〇円である。

以上のほか、原告は、斎藤みつ子に対して、昭和四〇年二月二八日利息相当額二万九七七八円を支払つていることが、<証拠略>によつて認められる。しかし、<証拠略>によれば、斎藤みつ子は原告と生計を一にする配偶者であることが認められるから、右支払利息は、所得税法上、原告の事業所得の金額の計算に当たつて必要経費として算入することができないものである(同法五六条)。そして、本件係争各年度において原告が博栄会会員に対して支払をし、又は支払義務が外部的にも確定した利息は以上に尽きていることは、<証拠略>によつて明らかである。

右のとおりであるから、博栄会に関する支払利息については、昭和三八年分として二一万九四六二円が、同四〇年分として六万八七六〇円が、それぞれ必要経費に算入されるべき金額となる。

(3) したがつて、右(1)及び(2)を合わせた必要経費に算入すべき支払利息の額は、昭和三八年分が四〇万九九三七円、同四〇年分が四〇万七三七九円となるものである。

(五)  買戻し利息及び雑費

必要経費に算入すべき買戻し利息(但し、昭和四〇年分のみである。)及び雑費の金額がそれぞれ別表三の被告主張額欄記載のとおりであることは、当事者間に争いがない。

(六)  昭和四〇年分事業税について

別表三の原告主張額欄記載の昭和三九年所得税修正申告に係る事業税八七万七九九〇円が、原告に対する昭和四二年四月三日付け事業税納税通知書によつて賦課されたことは、当事者間に争いがない。

しかし、所得税法上、当該年分の事業所得の金額の計算に当たつて必要経費に算入すべき事業税の額は、当該年中において納付すべきことが確定した額と解すべきものである(同法三七条一項、四五条一項)から、昭和四二年に至つて確定をみた右事業税八七万七九九〇円は本件係争年分の事業所得に係る必要経費となる余地のないものであることは明らかである(これは昭和四二年分事業所得に係る必要経費として扱われるべきものである。)。

(七)  昭和四〇年分貸倒損失について

原告は、昭和四一年五月一九日限りその事業(金融業)を廃止したことを前提に、東京大証に係る貸倒損失について所得税法六三条、同法施行令一七九条の適用があると主張するので、まず、右前提事実について判断する。

(1) 原告が昭和四一年五月一九日東京国税局による査察調査を受け、帳簿書類等を押収されたこと及び原告が同四二年一二月一九日東京都経済局金融課に貸金業開始届をしたことは当事者間に争いがなく、<証拠略>によれば、右届出において、原告はその貸金業開始年月日を同日と記載していたことが認められる。そして、原告本人は、その主張に副つて、右査察調査を受けたのを契機として昭和四一年五月一九日限り金融業を廃止し、右届出日から新規に金融業を開始したと供述<証拠略>する。

(2) また、<証拠略>によれば、原告は、昭和四一年五月一九日現在で約二億四〇〇〇万円の割引手形を保有しており、その満期日は最も遅いもので昭和四二年三月五日であつたことが認められる。そして、原告本人は、昭和四一年五月一九日(金融業を廃止したと主張する日)以後は、右保有手形の取り立て(同手形のうち決済不能分について振出人の依頼による支払期日の延期、延期分の利息の収受及び延期した期日における取り立てを含む。)や買戻しなどの後始末のみをしていたが、右廃業期間中のこれらの処理については帳簿、伝票などへの記帳は一切していないと供述<証拠略>する。

(3) しかし、<証拠略>によれば、次の事実が認められ、この認定を動かす証拠はない。

ア 原告は、東京地方検察庁検事、東京国税局査察官及び被告に宛てた昭和四二年二月一八日付け上申書において、前記査察調査を受けた昭和四一年五月以後手控えていた手形取引行為を東京大証の倒産を機会に一切廃止したと陳述している。

イ 原告は、昭和四二年三月一四日被告に提出した昭和四一年分所得税確定申告書において、事業廃止に伴う所得計算明細として、

〔収入金額〕             合計二九二六万二二〇一円

〔右の内訳〕

<1> 一月一日から五月一八日まで  二六六六万七三三四円

<2> 同月一九日から一一月二一日まで 二五九万四八六七円

〔必要経費〕             合計三二一七万八八七二円

〔右の内訳〕

<1> 手形再割引の際の支払利息

(一月一日から五月一八日まで)       一五七万三九〇六円

<2> サンウエーブ工業貸倒金      三〇万八〇〇〇円

<3> 東京大証への戻し利息支払    六五二万六九六六円

<4> 東京大証貸倒金(債権放棄分) 五四六七万一〇〇〇円のうち昭和四一年分充当額 二三七七万〇〇〇〇円

<5> (なお、同四二年分充当額   三〇九〇万一〇〇〇円)

〔事業所得金額〕                 (なし)〇円

との申告をし、更に、昭和四二年四月一三日付けで、右所得計算明細の一部に誤りがあつたとして、右収入金額の内訳<2>を二三八万四五一七円に、右必要経費の内訳<4>を二四六四万八九九〇円に、同<5>を三〇〇二万二〇一〇円にそれぞれ訂正する旨の書面を提出した。

ウ 原告は、昭和四二年分所得税確定申告において、手形割引に係る収入金額を九七〇万〇一二八円、必要経費のうち事業税を一八五万七四三〇円、貸倒債権放棄六一〇万円、訴訟費用その他一三七万二五〇〇円、支払利息を五九万二〇七九円、事業所得損失額を二二万一八八一円とする申告書を提出した。

(4) 右イの東京大証に係る貸倒金の債権放棄分(<4>及び<5>)計五四六七万一〇〇〇円及び訂正された収入金額(五月一九日から一一月二一日までの期間分)二三八万四五一七円を根拠付けるものとして、原告は、甲第四号証を提出し、これは、原告が東京大証から買い入れた手形のうち決済不能となつたものを切り替えた分として受け取つた利息明細表であり、昭和四一年九月一三日に受け取つたとする。そして、原告が、右切り替え後の各手形金債権について、昭和四二年三月一四日付で各手形振出人に対して債権放棄の通知を行つていることは、<証拠略>よつて認められる。

ところが、原告は、他方、前記アの上申書(昭和四二年二月一八日付け)において、東京大証に係る貸倒金の債権放棄分を合計五四三八万一〇〇〇円と陳述しており、(<証拠略>により明らかである。)、右利息明細表という甲第四号証はこれと右合計金額及び以下の各手形において食い違いを見せている。すなわち、右利息表記載の鎌倉カンツリー振出七五万円、東京大証振出一五〇〇万円、昭和開発振出一〇〇万円、大安建設振出一〇〇万円と右上申書記載の平田虎雄振出七〇万円、和南振出三〇〇万円、東京大証振出一〇〇〇万円、和田安正振出三〇六万円、大新工業振出七〇万円とが相互に食い違つている。

このような大幅な食い違いは、いずれも当時原告の保有する手形を正確に全て記載したものではないことを示すものであり、他に原告が保有する手形があつて、右記載から洩れているのではないかとの疑念を拭い去ることができない。しかも、原告は、<証拠略>において、右利息明細表(甲第四号証)記載の手形は、振出人が従前振り出していた手形を支払期日に決済できなかつたために、振出人の依頼で期日の延期すなわち手形の書き替えに応じたものであり、その際、延期に伴う利息を収受したと供述するが、<証拠略>により認められる原告の昭和四一年五月一九日現在の保有手形中には、右利息明細表及び上申書記載の手形の書き替え前手形に該当する手形を見出すことができない。

(5) <証拠略>によれば、東京特殊鋼(原告が代表取締役社長としてその経営を主宰していることは当事者間に争いがない。)は、昭和四一年八月以降、原告から仮受金又は借入金として受け入れた金員を主たる資金源として、東京大証など原告の従前の金融業における取引先との間で手形割引を主体とする金融業を開始しているが、原告が同年五月一九日現在保有していた手形額面合計七七八万四四四五円は、原告が同年九月一七日同社に貸し渡している(これらは、同月二〇日銀行で割引を受けている。)こと、更に、同社は、翌四二年九月から同年一二月までの間に原告からその取引に係る手形額面合計九二八八万三九七六円を受け入れている(これは、帳簿上、仮受金又は借入金を相手方勘定として、預かり手形勘定を起こして処理している。そして、右手形も即日銀行で割引を受けている。)ことが認められる。<証拠略>のうち右認定に反する部分は前掲各証拠に照らして採用できず、他に右認定を動かす証拠はない。

右にみたとおり、原告は、昭和四一年分所得税確定申告を昭和四二年三月一四日にし、翌月一三日にその収入金額等の一部訂正を前記利息明細表(甲第四号証)に基づいてしていることになるが、同表を前年の九月一三日に東京大証から受け取つていた(前記(3)イ及び(4)参照)とすれば、甚だしく不自然な訂正行為であり、不可解というほかない。加えて、東京大証関係の貸倒金の債権放棄額及びその内訳についても、前記上申書(甲第一号証)と右利息明細表、したがつて同表に基づく前記訂正された確定申告内容との間で大きく食い違つており、その真偽は定まらない。このような矛盾もしくは疑問を抱かせる諸点を考慮に入れて、右に認定した事実を考察すれば、原告の昭和四一年分収入金額のうち同年五月一九日以降の収入金額(但し、原告が本訴で主張する見解に基づく割引時又は書き替え時における収入全額)が前記(3)イの訂正額である二三八万四五一七円に過ぎなかつたとみるのは甚だ疑問であり、右金額の算出根拠となつた手形取引以外にも、同期間中、原告には手形の切り替え(書き替え)はもとよりとして、新規の取得等の金融取引もあつた可能性は大きいと言わなければならない。また、前記(3)ウの昭和四二年分所得税確定申告にある貸倒債権放棄額六一〇万円及び訴訟費用その他一三七万二五〇〇円と言う金額が、同年一二月一九日(原告のいう新規開業日)以降の事業所得に係る必要経費のみであることを根拠付ける証拠は全くなく、その金額に鑑みれば、同日以前の事業に係る必要経費がこれに含まれている疑いを否定できない。

そして、昭和四一年五月一九日現在保有していた手形に関するかぎりでは、同日以降も手形の書き替え、利息の収受、買戻し等の行為をしていたことは、原告自身が肯定する(前記(2)参照)ところであり、前記上申書においても、単に同月以降は手形取引行為を「手控えていた」と言うだけで、廃業したとは陳述しておらず、かえつて、東京大証の倒産前すでに廃業していたことを否定する趣旨の陳述になつている(前記(3)ア参照。ちなみに、<証拠略>によれば、東京大証の倒産は昭和四一年一一月と認められる。)。

以上の次第で、原告が昭和四一年五月一九日限りその金融業を廃止した事実は到底これを認めることができない。なお、原告が、前記査察調査あるいは東京大証の倒産を契機に、その金融業の遂行を一時的に手控え又は中断したとしても、それだけでは所得税法六三条、同法施行令一七九条にいう事業の廃止に当たらないから、原告主張の東京大証に係る貸倒損失に右条項を適用する余地はない。

(八)  そこで、以上判示したところに基づいて原告の事業所得を算出すると、昭和三八年分が一九六二万六四八九円、同四〇年分が三〇八三万二一一六円となる(本件謝礼金が雑所得であり、事業所得ではないことについては、後記4(二)で判断する。)。

3  給与所得について

(一)  原告の昭和三八年分給与所得金額がその所得税修正申告に係る金額二三七万〇四四〇円である事実、同四〇年分給与所得金額がその所得税修正申告に係る金額二三二万〇六三〇円及び同修正申告における違算額八〇円の合計金額である事実、原告が東京特殊鋼から抗弁3(一)(1)ないし(3)、同(二)(1)ないし(5)の本件各金員を受け取つている事実及び原告が東京特殊鋼の代表取締役社長であり、同社の経営を主宰している事実は、当事者間に争いがない。

(二)  そこで、本件各金員が認定賞与であるか、借入金であるかについて次に判断する。

(1) <証拠略>によれば、東京特殊鋼は本件各金員を原告に対する貸付金として会計処理しておらず、原告もこれをその個人元帳の借入金勘定には記帳せず、<カ>利益勘定に記帳していたことが認められるところ、右個人元帳の借入金勘定に記帳しなかつたことについて合理的な理由があつたことを窺わせる証拠はない。

(2) <証拠略>によれば、原告は、査察調査及びその後の検察官の取り調べにおいて、本件各金員等について、東京特殊鋼の金員を個人的に流用したものであり、東京特殊鋼との間で金利や返済期等を約定したことはなく、また、同社の取締役斎藤栄八郎(原告の兄)及び斎藤みつ子(前記認定のとおり原告の配偶者)の了解も得ていない旨を一貫して供述する一方、同社の簿外貸付金であるとか原告に対する貸付として取締役会の承認を記した議事録(後記(3)の議事録)が作成されたとかの供述は全くしていないことが認められる。

(3) ところが、<証拠略>中には、本件各金員は原告が東京特殊鋼から利息年一割、期間一年の約定で借り入れたものであり、これについては斎藤栄八郎の了解もあつたし、原告作成の借用メモが同社に保管されていたが、昭和四一年三月二九日開催の同社取締役会において右借入(貸付)の事実を確認し、その旨の議事録を作成した際、同メモは廃棄されたとする部分がある。しかし、右各証拠は、いずれも具体的事実としてはあいまいかつ不自然で、たやすく信じ難く、右(2)で認定した事実及び次に指摘する事実に照らし、到底採用できない。

すなわち、右取締役会議事録であるという甲第一〇号証の二には、東京特殊鋼の帳簿書類及び原告の申立等に基づく詳細な調査の結果、本件各金員等の貸付の事実が判明した旨の記載があるだけで、その貸借が真実行われたことを証明する重要な資料であるはずの右借用メモについては全く触れられていない。この事実は、右メモの作成及び存在を強く疑わせるものである。また、右甲第一〇号証の二には、東京特殊鋼の原告に対する昭和三八年ないし同四〇年の貸付金と原告からの借入金とを相殺したとの記載があるが、<証拠略>によれば、東京特殊鋼の原告からの借入金と称する右金額には、実は、前記斎藤みつ子や大沢花子、織田昭八ら東京特殊鋼の社員からの借入金が含まれていることが認められる。したがつて、右相殺に関する前記取締役会議事録の記載は不合理なものであつて、この面からも本件各金員を貸付金とした前記記載の信用性は疑われるものである。なお、<証拠略>中には、右社員及びみつ子名義の貸付金は原告の貸付金であるとする供述があるが、到底措信できない。

更に、右議事録が綴り込まれていたという庶務関係綴であるが、<証拠略>によれば、原告において右議事録(甲第一〇号証の二)が綴り込まれていたと主張する庶務関係綴は、昭和四一年五月一九日に査察官によつて差し押さえられはしたが(この事実は当事者間に争いがない。)、封印されずに、そのまま東京特殊鋼代表取締役である原告が保管を命じられ、東京国税局に引き掲げられた昭和四二年五月九日まで同社に存在していたことが認められる。<証拠略>のうち右認定に反する部分は前掲各証拠に照らして措信できず、他に右認定を動かす証拠はない。そうであれば、右議事録が庶務関係綴の中に現在綴り込まれているということだけから、その作成日付が遡及させられたものではなく、右差押時において既に作成されていたと断定することができないのは明白である。

のみならず、右議事録に記載があるように、真実、昭和四一年三月二九日に前記相殺が取締役会で確認されたのであれば、同社において、これに沿つた会計上の処理及びこれに見合う法人税の申告あるいは修正申告等が遅滞なくされていなければならないのに、右の会計上及び税務上の処理がされたのは、昭和四一年一一月一〇日から同四二年五月九日迄の間であり、しかも数回に分けてなされている(この事実は、<証拠略>によつて認められる。)。

以上指摘した各事実を総合してみると、右議事録の貸付金に関する記載は、被告が本件各金員を原告に対する認定賞与として課税することに対処するため、本件各金員を貸付金と仮装しようとして、後日作成されたものに過ぎず、本件各金員は東京特殊鋼から原告に対して支払われた賞与の実質を有する金員、いわゆる認定賞与と認めるのが相当である。

もつとも、<証拠略>によれば、原告は、本件各金員を含む認定賞与とされた金員について、概算で二〇〇〇万円と見績り、これを昭和四一年八月に至つて東京特殊鋼に支払うなどして、利息相当分と共に返済した形を整えている事実が認められる。しかし、前記の各事実と対比すれば、この一事によつて本件各金員の実質をいわゆる認定賞与と認めることが妨げられるものでないことは明らかである。

なお、原告は、重複課税と非難するが、その主張が理由のないものであることは、原告の反論に対する被告の主張(事実欄の第二・六)3(二)のとおりである。

(三)  したがつて、原告の各年分の給与所得の金額は、別表二の被告主張額欄記載のとおりとなる。

4  雑所得について

(一)  昭和四〇年分雑所得

原告の昭和四〇年分の雑所得の金額が二一六万八八四二円であることは、当事者間に争いがない。

(二)  昭和三八年分雑所得

(1) <証拠略>によれば、原告は、後藤観光の依頼により、昭和三八年一月一六日以降不動信用金庫に対して、いわゆる導入預金(いずれも期間三ヵ月の定期預金である。)をし、同預金設定の際及びその満期払い戻しが遅延した都度、後藤観光から現金(但し、その一部は預金口座へ振込む方法)で同年一〇月八日までの間に合計五八六七万一三〇〇円の本件謝礼金を受領したこと、右導入預金の最終の取引高は同日の新規設定によつて三億〇五〇〇万円に達し、原告はこれについて、正規の利息とは別途の預金利息いわゆる裏利として、同年九月二八日までの間に合計三八三万七四一七円を受領したことが認められる。

<証拠略>のうち右認定に反する部分は信用できないし、<証拠略>も右認定を左右するに足りず、他に右認定を動かす証拠はない。

(2) 原告は、本件謝礼金は後藤観光に対する貸付金の利息であり、事業所得(旧所得税法九条一項四号所定)に当たると主張するが、原告が導入預金の設定自体をその事業の一つとしていたと認めるに足りる証拠はない。したがつて、本件謝礼金は事業所得には当たらず、また、旧所得税法九条一項一号ないし三号及び五号ないし九号に規定するいずれの所得にも該当しないから、結局、同項一〇号に規定する雑所得になるものである。<証拠略>も未だ右結論を左右するに至らない。

そうすると、昭和三八年中に不動信用金庫が倒産し、これに対する定期預金債権の回収不能(貸倒金)が確定したとしても、その回収不能額を貸倒損失として当該年分の事業所得の計算上必要経費に算入することはできない。

(3) 原告は、旧所得税法一〇条の六第一項の適用を主張するが、同項は収入金額の全部又は一部を回収することができないこととなつた場合についての規定であるところ、本件謝礼金が後藤観光から全て回収済みであることは、前記(1)認定のとおりである。したがつて、本件謝礼金の一部が導入預金設定の資金に充てられ、その預金債権が回収不能に陥つたとしても、同項の適用はないものである。

原告はまた、所得税法五一条四項の適用を主張するが、同項は昭和四〇年法律第三三号による所得税法の改正によつて創設された規定であつて、同年分以後の所得税について適用されるものであるから、仮に原告に昭和三八年中に資産損失が生じたとしても、同年分所得税について右条項を適用することはできない。

(4) したがつて、原告の昭和三八年分の雑所得の金額は、別表二の被告主張額欄記載のとおり五八六七万一三〇〇円となる。

5  総所得金額について

以上により、原告の総所得金額を算出すると、昭和三八年分が九一三一万四二八五円、昭和四〇年分が三九八二万五六七九円となり、右金額の範囲内において本件各更正は適法であるが、これを超える(被告主張の博栄会関係の支払利息額と前記二2(四)(2)の同認定額との差に由来する。)部分は違法である。

三  本件各賦課決定について

原告が昭和三八年分及び昭和四〇年分の所得税について別表四及び五の各<1>及び<2>欄記載のとおり本件各確定申告及び本件各修正申告をしたこと、被告が別表四及び五の各<3>欄記載のとおり本件各更正をしたことは、当事者に争いがない。

<証拠略>によれば、原告は、昭和三八年分及び昭和四〇年分の所得税について、別表四及び五の各<5>欄記載のとおり、各種所得の金額の計算の基礎となるべき事実の一部を隠蔽、仮装し、その隠蔽、仮装したところに基づいて本件各確定申告をしたことが認められるから、国税通則法六八条一項の要件に該当するものである。

もつとも、本件各更正は前記二5のとおり一部取消しを免れないから、本件各更正を前提としてされた本件各賦課決定のうち、右一部取消しに係る部分(事業所得の当該部分)について重加算税を賦課した部分は違法であり、取消しを免れない(なお、昭和三八年分の過少申告加算税賦課決定は、給与所得に関する修正申告額と更正額との増差額に係る税額(但し、源泉徴収税額を除いたもの)について賦課したものであることは、弁論の全趣旨から明らかである。)。

四  結論

よつて、原告の本訴請求は、昭和三八年分の更正のうち総所得金額九一三一万四二八五円を超える部分及び同年分の加算税賦課決定のうち右超える部分に対応して重加算税を賦課した部分につき、また、昭和四〇年分の更正のうち総所得金額三九八二万五六七九円を超える部分及び同年分の加算税賦課決定のうち右超える部分に対応して重加算税を賦課した部分につき、それぞれ取消しを求める限度で理由があるから、これを認容し、その余の請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について行訴法七条、民訴法八九条、九二条但書を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 山本和敏 太田幸夫 杉山正己)

別表<略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例