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東京地方裁判所 昭和50年(ワ)5912号 判決 1977年2月21日

原告

川島勲

ほか一名

被告

佐々木平一

ほか一名

主文

一  被告らは各自、原告川島勲に対し金二四七万六七五五円、原告川島に対し金二三一万七五〇五円およびこれらに対する昭和四八年八月一五日から各支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを五分し、その四を原告らの、その余を被告らの各負担とする。

四  この判決第一項はかりに執行することができる。

事実

第一当事者双方の求めた裁判

一  原告ら

(一)  被告らは各自、原告川島勲に対し金一三五三万五八〇〇円、原告川島に対し金一二一七万〇八〇〇円およびこれらに対する昭和四八年八月一五日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  訴訟費用は被告らの負担とする。

(三)  仮執行の宣言

二  被告ら

(一)  原告らの請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二請求原因

一  事故の発生

訴外亡川島道夫(以下単に亡道夫という。)は次の交通事故により脳挫傷等の傷害を受けて死亡した。

(一)  日時 昭和四八年八月一四日午前一時五〇分頃

(二)  場所 熊谷市石原三―二六五先交差点

(三)  加害車 普通乗用自動車(秋五ゆ六五九三)

右運転者 被告須田誠(以下単に被告須田という。)

(四)  被害者 亡道夫

(五)  態様 前記交差点の国道一七号線沿いの横断歩道を高崎方面から大宮方面に向つて横断歩行中の亡道夫に同方向に進行中の加害車が背後から衝突したもの。

二  責任原因

(一)  被告佐々木平一は加害車を保有し自己のために運行の用に供していたものであるから、自賠法三条本文により本件事故によつて生じた損害を賠償する責任がある。

(二)  被告須田は加害車を借り受けて自己のために運行の用に供していたものであり、また、自動車運転者として運転に当つては前方を注視して衝突事故の発生を未然に防止すべき注意義務があるのに、これを怠つて本件事故を発生させたものであるから、自賠法三条本文、民法七〇九条により本件事故によつて生じた損害を賠償する責任がある。

三  損害

(一)  葬儀関係費用 一三六万円

本件事故のため原告川島勲(以下単に原告勲という。)は亡道夫の葬儀関係費用として一三六万〇五五七円の支払を余儀なくされたが、うち一三六万円を請求する。

(二)  診断書料(原告勲負担) 五〇〇〇円

(三)  亡道夫の逸失利益 一九三四万一六〇〇円

亡道夫は昭和四八年二月六日から五月一九日まで関東船舶荷役株式会社横浜支店に勤務して一ケ月を通して働いた同年三月には一一万八四三二円、同年四月には八万七七六二円の収入を得ていたから、平均して一ケ月に九万円を下らない収入があつたものと考えられるが、本件事故当時については勤務先が明確でなく正確な収入額を把握することはできない。そこで、右収入と労働省統計情報による昭和四八年度の一ケ月平均賃金が企業規模三〇人以上の場合一二万二五四五円、五人ないし二九人の場合九万一二六六円であることを考慮すると、本件事故にあわなければ亡道夫は少くとも一ケ月に九万円の収入を得ることができたはずであり、また、昭和三八年以降の賃金上昇率が前年比九・六ないし二一・七パーセントであることからすると、亡道夫は今後少くとも毎年五パーセント程度の賃金の上昇が見込まれたはずである。

そこで、以上の数値を基礎にホフマン式計算法によつて亡道夫の得べかりし収入を計算すると別表記載のとおり三二二六万六〇〇〇円となり、これから亡道夫の生活費四割を控除して亡道夫の逸失利益を算出すると一九三四万一六〇〇円となるところ、原告らは亡道夫の両親として右亡道夫の逸失利益請求権を二分の一宛相続した。

(四)  慰藉料 六〇〇万円

本件事故によつて原告らが受けた精神的苦痛ははかりしれないものがあり、これを慰藉するためには原告らに対しそれぞれ三〇〇万円が相当である。

(五)  弁護士費用 四〇〇万円

原告らは原告訴訟代理人らに本訴の提起と追行を委任し着手金および報酬として各二〇〇万円の支払を約した。

四  損害の填補

原告らは右損害につき自賠責保険等から二五〇万円宛の弁済を受けた。

五  結論

よつて、被告らに対し原告勲は一三五三万五八〇〇円、原告は一二一七万〇八〇〇円およびこれらに対する本件事故発生の日の翌日である昭和四八年八月一五日から支払ずみに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第三請求原因に対する被告らの認否

一  認否

(一)  請求原因第一項のうち、事故の態様は争うが、その余の事実は認める。

(二)  請求原因第二項のうち、被告らが加害車を自己のために運行の用に供していたことは認めるが、被告須田の過失は否認する。

(三)  請求原因第三項については、亡道夫と原告らの身分関係は認めるが、その余の主張事実は不知、損害額は争う。

二  抗弁

本件事故は、深夜亡道夫が赤信号を無視し、かつ、横断歩道の外側約一〇メートルの地点から突然加害車進路前方にとび出したために、被告須田においてこれを避けることができずに衝突したものであるから、右道夫の右過失を斟酌し大幅な過失相殺がなされるべきである。

第四抗弁に対する原告らの認否

否認する。

第五証拠〔略〕

理由

一  事故の発生

請求原因第一項は事故の態様を除いて当事者間に争いがなく、本件事故の態様は後記認定のとおりである。

二  責任原因

被告らが加害車を自己のために運行の用に供していたことは当事者間に争いがないから、被告らはそれぞれ自賠法三条に基づき本件事故によつて生じた損害を賠償する責任がある。

三  損害

(一)  葬儀関係費用 四五万円

原告本人尋問の結果によつて成立を認め得る甲第七号証の一ないし三二および同尋問結果によると、原告勲は亡道夫の死亡に伴つてその葬儀をとり行い、葬儀当日の費用のほか法要費用、仏壇購入費用等として四五万円以上の支出をしたことが認められるが、亡道夫の年齢、社会的地位等に鑑みると本件事故と相当因果関係のある葬儀費用の額は四五万円と認めるのが相当である。

(二)  診断書料 五〇〇〇円

成立に争いのない甲第八号証の一ないし三によれば、原告勲は亡道夫の死亡診断書等の文書料として五〇〇〇円を支出し同額の損害を蒙つたことが認められる。

(三)  亡道夫の逸失利益 一九三八万五七四八円

成立に争いのない甲第一号証、乙第一号証の一〇、原告勲本人尋問の結果によつて成立を認め得る甲第五号証ならびに原告らの各本人尋問の結果を総合すると、亡道夫は昭和二四年四月二〇日生れ、事故当時二四歳の健康な独身男子であり、高校卒業後すぐ郵便局に入つて窓口および集配の職員として約六年間勤務していたが、昭和四八年二月頃郵便局を止め東京、横浜方面に出て同年二月頃から同年五月頃まで関東船舶荷役株式会社横浜支店に勤務した後、本件事故当時は東京都内の牛乳店で働いていたが、一時盆休みで帰郷していたものであること、亡道夫は右関東船舶荷役株式会社勤務中の三月には各種手当を含めて一一万八四三二円の収入を得ていたことが認められ、右認定に反する証拠はない。そして、労働省発表の昭和四八年度賃金構造基本統計調査報告第一巻第二表によると、同年度の旧中・新高卒二〇ないし二四歳の男子労働者の平均賃金は月額七万四九〇〇円であることが認められるから、これらの事実によると亡道夫は本件事故にあわなければ平均余命の範囲内で六七歳まで四三年間稼動し、その間高卒男子労働者の平均賃金程度の収入をあげることができたはずであると推認される。

そこで、本件事故後二年間については昭和四八年度および昭和四九年度の各賃金構造基本統計調査報告の旧中・新高卒男子労働者の平均賃金、右以降については昭和五〇年度の平均賃金(いずれも企業規模計)を基礎とし、生活費として収入の二分の一を控除し、ライプニツツ式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して亡道夫の逸失利益の現価を計算すると別紙計算書のとおり一九三八万五七四八円となる。

そして、前顕甲第一号証および弁論の全趣旨によると、原告らは亡道夫の両親であり(この点は当事者間に争いがない。)、亡道夫には他に相続人がいないことが認められるから、原告らは右逸失利益請求権を二分の一宛相続したものと認められる。

(四)  慰藉料 七〇〇万円

前認定の亡道夫の年齢、原告らとの身分関係その他本件に顕れた諸般の事情(亡道夫の過失の点を除く。)を考慮すると、本件事故によつて原告らが受けた精神的苦痛を慰藉するためには原告らに対し各三五〇万円が相当である。

四  過失相殺

成立に争いのない甲第四号証、乙第一号証の六ないし二二本件事故現場を撮影した写真であることに争いのない甲第三号証の一ないし三、証人須田柳子、同坂口正の各証言、ならびに原告らおよび被告須田の各本人尋問の結果を総合すると、

(一)  本件事故現場は国道一七号線と三本の一般道路が交差する信号機のある変形交差点であり、附近の道路状況は概略別紙見取図記載のとおりであること、右国道一七号線は見とおしのよい平坦な直線道路で、車両の最高速度は五〇キロメートルに規制されており、また、右交差点附近は街路灯の設備があつて交差点内は比較的明るく、事故当時、高崎方面行車線は車両の通行が多く車両は渋滞して停止発進をくり返していたが、大宮市方面行車線は比較的閑散としており、路面は乾燥していたこと。

(二)  被告須田は加害車を運転して静岡県内に向う途中、右国道一七号線の大宮方面行第一通行帯を時速五〇キロメートル位の速度で進行して本件事故現場にさしかかり本件交差点の手前約四〇メートルの地点で対面の信号が青信号を表示しているのを確認し、ほぼ同時に左前方の路地(別紙見取図記載の原告方方向に通ずる幅員五メートルの道路)から交差点に向つて駆け出してくる亡道夫を白つぽいシヤツを着た男の人影として別紙見取図記載の国道一七号線沿いの東西の横断歩道附近に認めたが、亡道夫は横断歩道内で立ち歩まり車道までは出てこないであろうと考えてそのまま進行したところ、亡道夫が立ち止まらないで自車の進路前方の交差点内に向つて進んでくるのを約二〇メートル手前まで接近したとき気づき危険を感じて急ブレーキをかけるとともにハンドルを右に切つて衝突を避けようとしたが間に合わず、自車前部を亡道夫の腰部附近に衝突させて同人を前方にはねとばし、自車は衝突後一、二メートル程進行して停止したこと。

(三)  亡道夫は当夜非常に暑かつたので原告らに涼みに行つてくるといい残して家を出て前記路地を通つて本件交差点まできて高崎市寄りにある横断歩道を利用しないで路地から直接国道一七号線を横断しようとして本件事故にあつたものであること。

(四)  事故後、交差点内には事故車のものと認められる二条のスリツプ痕が残つており、左側車輪のスリツプ痕は水戸屋ドライブイン前横断歩道の東端から一、二メートル大宮寄りで北側歩道の縁石から二メートルの地点を終点としやや右寄りに大宮方向に約一〇メートル続き、右側車輪のスリツプ痕はこれと平行に長さ一〇・三メートル続いていたこと。

以上の事実が認められる。

なお、原告らは亡道夫は国道一七号線沿いの横断歩道を高崎方面から大宮方面に向つて横断中に後方から加害車に衝突されたものであると主張し、証人小林みねの証言および原告らの各本人尋問の結果によると、事故現場附近で一番適当な涼み場所は別紙見取図記載の銀座方面に通ずる広い道路の中央にある水路附近であること、原告らが事故現場にかけつけた時亡道夫は右国道一七号線沿いの横断歩道附近に仰向けになつていたこと、亡道夫には腰部の真中辺りに打撲傷があつたことの各事実が認められるが、亡道夫が横断しようとした方向が涼み場所として最適の場所ではなかつたとしても、それだけでは前認定を覆し得るものではなく、また、被告須田本人尋問の結果によると、被告須田は事故直後に亡道夫が他の自動車に轢過される危険があると考えて同人を右横断歩道附近に移動していることが認められ、さらに、亡道夫の腰部の打撲傷については、同人が加害車に気がついて身体を大宮方面に向けて避けようとしたならば前認定のように国道一七号線を横断中であつても腰部の真中に加害車が衝突する可能性があると考えられるので、いずれも前示認定の妨げとなるものではなく、他に前認定を覆すにたる証拠はない。

以上認定の事実によると、本件事故発生については、被告須田にも、交差点に向つて走つてくる亡道夫の人影を認めたとき同人がそのまま横断することを予想し、直ちに警笛を鳴らして同人の横断を制止するか減速徐行等の措置をとるべきであつたのに、これを怠つた過失が認められるが、亡道夫にも当時国道一七号線は高崎方面行車線は車両が渋滞して停止徐行をくり返している状態であつたが、大宮方面行車線は閑散としていたのでこれに気を許して近くの横断歩道を利用せず信号および左右の安全を確認しないで路地からそのまま駆け足で横断した過失があつたものと認められる。

したがつて、損害賠償額の算定に当つては亡道夫の右過失を斟酌すべきであるが、前記被告須田の過失等諸般の事情を考慮すると被告らが賠償すべき額は前認定の損害額から六割五分を減じた額とするのが相当である。

五  損害の填補

原告らが自賠責保険から二五〇万円宛受領したことは原告らにおいて自認するところであるから、これを被告らの賠償すべき額から控除すべきである。

六  弁護士費用 四〇万円

弁論の全趣旨によると原告らは原告訴訟代理人に本訴の提起と追行を委任し相当額の費用を支払い、また報酬の支払いをも約しているものと認められるところ、本件事案の内容、審理の経過、認容額に照らすと原告らが被告らに対して本件事故による損害として賠償を求め得る弁護士費用の額は原告らに対し各二〇万円と認めるのが相当である。

七  結論

そうすると、原告らの本訴請求は被告ら各自に対し原告勲において二四七万六七五五円、原告において二三一万七五〇五円およびこれらに対する本件事故発生の日の翌日である昭和四八年八月一五日から支払ずみに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言について同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 笠井昇)

別表

<省略>

計算書(1円未満切捨)

(101,200円×12+327,800円)×0.5×0.9523=734,318円…………………………<1>

(126,700円×12+432,600円)×0.5×0.9070=885,685円…………………………<2>

(143,100円×12+547,900円)×0.5×(17.5459-1.8594)=17,765,745円…………………………<3>

<1>+<2>+<3>=19,385,748円

別紙 見取図

<省略>

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