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東京地方裁判所 昭和49年(行ウ)32号 判決 1979年11月12日

東京都杉並区荻窪一丁目二八番七号

原告

上月一男

右訴訟代理人弁護士

谷口茂栄

東京都杉並区天沼三丁目一九番一四号

被告

荻窪税務署長

矢淵俊郎

右指定代理人

竹内康尋

鳥居康弘

中村政雄

長谷川藤吉

金田晃

主文

本件訴えをいずれも却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた判決

一  原告

被告が原告の昭和四三年分所得税につき昭和四六年九月二九日付でした更正処分が無効であることを確認する。

被告が原告の昭和四三年分所得税につき昭和四六年一一月二日付でした再更正処分及び過少申告加算税賦課決定が無効であることを確認する。

訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

(本案前の申立て)

主文同旨

(本案の申立て)

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  原告の請求原因

1  原告は、その昭和四三年分所得税につき、次の表の確定申告の項及び修正申告の項記載のとおり申告をしたところ、被告から同表更正の項記載のとおり更正処分(以下「本件更正処分」という。)を受け、更に、同表再更正の項記載のとおり税額を増額する旨の再更正処分及び過少申告加算税賦課決定(以下一括して「本件再更正処分」という。)を受けたので、本件更正処分及び本件再更正処分(以下一括して「本件各課税処分」という。)に対してそれぞれ異議申立てに及んだが、前者については却下され、後者については一部取消しを得たにとどまり、審査請求は棄却された。

<省略>

(単位円。△印は損失額又は減額を示す。)

2  しかしながら、本件各課税処分は、次の(一)ないし(四)のとおり、重大かつ明白な瑕疵があるので、無効である。

(一) 理由附記についての瑕疵

原告は、弁護士であり、青色申告の承認を受けている者であるから、本件各課税処分通知書には、所得税法一五五条二項の規定により理由の附記を要するところ、本件更正処分の通知書には全く理由の記載がなく、また、本件再更正処分の通知書には「減価償却の計算誤り」と記載されているだけであつて、極めて不充分なものであるから、適正な理由附記がなされたとはいえない。

(二) 取得費についての瑕疵

原告は、昭和四二年から同四三年にかけて東京都杉並区西田町一丁目五八八番所在の宅地三一〇・五九坪(以下「本件譲渡資産」という。)を訴外木村英明外六名に対して譲渡したが、右譲渡による収入金額から控除すべき取得費として本件各課税処分において認められたもののほかに、次のものがある。

(1) 借入金利子

原告は、昭和三四年一二月二五日訴外八木昌徳から本件譲渡資産を買い受けるに際し、その売買代金として日本不動産銀行及び日本勧業銀行から金員を借り受け、右両銀行に対し合計五〇〇万円以上の利子債務を負つた。たとえ右借入金利子が本来は取得費として認められないものであつたとしても、借入金により資産を取得した場合、使用開始に至るまでの期間に対応する借入金利子を取得費に算入するのが税務執行上の取扱いである。

(2) 労務費相当額

本件譲渡資産の権利関係について次の(ア)ないし(エ)のとおり困難な紛争があつた。

(ア) 八木昌徳は、農林省から当時国有農地であつた本件譲渡資産を他人名義で借り受けていたところ、原告は右八木からその権利を譲り受けたのであるが、その後、右名義人が八木の権利を否定するに至つた。

(イ) 本件譲渡資産は、農林省が訴外山下某らから買収したものであるが、その真正なる所有権者は訴外服部茂樹であつたため、右服部は、農林省に対して買収取消しを求めるに至つた。

(ウ) 本件譲渡資産は袋地であつて住宅を建設することができなかつたため、農林省から貸付けを解除される可能性があつた。

(エ) 訴外三森連象は、本件譲渡資産から公道に通じる畦道を所有していたところ、原告が本件譲渡資産に住宅を建設することができないのに乗じて、農林省に対し、原告に対する貸付けを解除し自己に貸し付けるよう働きかけた。

原告は、自ら以上の紛争を訴訟上又は訴訟外で解決し、本件譲渡資産に対する自己の権利を完全な所有権とし、かつ公道に面する宅地としてその価値を数倍に増加させた。本来なら右紛争解決の労務を弁護士に依頼して弁護士会の規約に従い譲渡価額の約二割、すなわち少なくとも七〇〇万円を報酬金として支払わなければならないところ、自己の努力により前記紛争を解決したのであるから、右七〇〇万円は取得費(所得税法三八条一項の改良費)と認めるべきである。本件各課税処分には、右(1)(2)の取得費を認めない点において法律の定めによらず課税した憲法三〇条違反の重大かつ明白な瑕疵がある。

(三) 買換資産についての瑕疵

原告は、前記のとおり昭和四二年から同四三年にかけて本件譲渡資産を譲渡したところ、同四四年一月二四日訴外歳川満雄からその住居の用に供するため神奈川県川崎市百合丘一丁目一八番二号所在の宅地四〇八・二三平方メートル及び同建物九七・五四平方メートル(以下一括して「本件買換資産」という。)を取得し、一時的に空き家としたことがあつたものの、右取得の日から一年以内には長女まみ子及び三女洋子を居住させたので、同年三月一四日被告に対し本件譲渡資産にかかる譲渡所得について租税特別措置法(昭和四四年法律第一五号による改正前のもの。以下「旧措置法」という。)三五条二項の課税の特例の適用を申請したところ、被告は、本件各課税処分において、本件買換資産を原告の家族の居住の用に供したものとは認められない、仮に一時的に居住の用に供したとしても、その取得の日から一年以内に居住の用に供さなくなつたものであるとして、前記課税の特例の適用を認めなかつた。

(四) 信義則違反についての瑕疵

原告は、荻窪税務署の滝沢係官に対し前記(二)の借入金利子及び労務費相当額を本件譲渡資産の取得費と認めるように申し出たところ、その明細を明らかにするよう求められたので上申書を提出したが、右滝沢係官は、右借入金利子等を取得費として認めると計算も複雑となるので、その申請を撤回すれば代償として本人又は家族が本件買換資産に居住している旨の住民票を提出するだけで本件買換資産を買換資産として認める、そうすれば借入金利子等を取得費と認めた場合と税額はほとんど異ならないと勧告したので、原告は、これに従い借入金利子等を取得費として申告することを断念し、本件買換資産を本件譲渡資産の買換資産として申告したにもかかわらず、被告は、本件各課税処分においてこれを買換資産と認めなかつた。

したがつて、本件課税処分には、右のとおり信義則違反という重大かつ明白な瑕疵がある。

3  よつて、本件各課税処分がいずれも無効であることの確認を求める。

二  被告の本案前の主張

1  原告は、昭和五四年二月二六日に本件各課税処分により確定した税額全額を納付した。それゆえ、原告は、右既払金返還請求の訴えによりその目的を達することができるのであるから、本件訴えは原告適格を欠く不適法なものである。

2  また、本件更正処分は、その更正に係る税額を増加させる本件再更正処分に吸収されて一体となり独立の存在を失つたのであるから、本件更正処分の無効確認を求める訴えは、この点からも不適法である。

なお、本件再更正処分があつても、本件更正処分により確定した租税債務には影響がない。

三  請求原因に対する被告の認否及び主張

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2冒頭の主張は争う。

3  同2(一)の事実中、原告が弁護士であり、青色申告の承認を受けている者であること、本件更正処分の通知書には全く理由の記載がなく、また、本件再更正処分の通知書には理由附記として「減価償却の計算誤り」と記載されているだけであることは認める。

原告は、本件各課税処分につき、理由不備の無効事由があると主張する。しかしながら、青色申告書の提出は、不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき業務を行う納税者について認められるものであり、青色申告の承認を受けている納税者であつても、不動産所得、事業所得又は山林所得の金額に基因する更正について理由附記を要するのであつて、それ以外の各種所得の金額のみに基因する更正については、更正の理由を附記する必要がないことは所得税法一五五条二項かつこ書の規定により明らかである。ところで、本件更正処分は、譲渡所得の金額のみを増額する更正であるから、理由の附記がなくても何ら違法な処分とはならない。

また、所得税法一五五条二項に該当する場合における更正に係る更正通知書に、更正の理由附記の不備があつたとしても、かかる瑕疵は、重大かつ明白なものということはできないから、当該更正処分の無効原因となることはないというべきであるところ、本件再更正通知書には、処分の理由として「減価償却の計算誤り」と記載されているのであるから、本件再更正処分は、重大かつ明白な瑕疵の存する処分でないことは明らかである。

4  同2(二)冒頭の事実中、原告が本件譲渡資産を木村英明外六名に対して譲渡したことは認めるが、本件各課税処分において認められた取得費以外に取得費があるとの主張は争う。

(一) 借入金利子について

譲渡所得の金額は、総収入金額から取得費及び譲渡に要した費用の合計額を控除し、その残額から特別控除額を控除した金額である。そして、原告が主張する借入金利子が譲渡に要した費用に該当しないことは明らかである。また、取得費にも該当しないこと、次のとおりである。譲渡所得の金額の計算に当たつて資産の譲渡による収入金額から控除する取得費は、資産の取得に要した金額と設備費及び改良費に限定されている(所得税法三八条一項)が、これは譲渡所得が不動産所得、事業所得又は雑所得とは異なり、期間計算に親しまないものであるということに立脚するものである。したがつて、取得費たる資産の取得に要した費用とは、資産取得のために直接必要とした費用をいい、しからざる支出は、たとえ資産を取得するための借入金に対する支払利息であつても、これに含まれない。それゆえ、借入金利子は取得費を構成しない。換言すれば、土地の取得が借入金により行われたか否かは、当該土地の取得費に影響を及ぼさないというべきである。

ところで、不動産所得、事業所得又は雑所得を生ずべき業務の用に供される土地の取得のための借入金利子は、期間費用として認識すべきものであるから、その年分の当該業務に係る各種所得の金額の計算上必要経費に算入されるが、これに対して、非業務用土地の取得のための借入金利子は、必要経費とはならず、家事関連費ないしこれに類するものとして各種所得の金額の計算上控除されないものである。しかしながら、税務執行上の取扱いは、原告が後記で指摘のように、借入金により資産を取得した場合、使用開始に至るまでの期間に対応する借入金利子については、資産取得の実情に照らしこれを取得費に算入することを認めているところであるが、本件譲渡資産の場合は、その資産が単なる保有のみで何ら具体的に使用されていないので、借入金利子については、右取扱いの適用がないものである。

(二) 労務費相当額について

原告が主張する労務費相当額は、原告が取得のために要した費用でなく、まして実際に支出した費用でもないから、収得費と認められる余地はなく、また、これが譲渡に要した費用でないことは明白であるから、譲渡所得の金額の計算上控除項目とはならない。

5  同2(三)の事実中、原告が訴外歳川から本件買換資産を取得したこと、被告に対し旧措置法三五条二項の課税の特例の適用を申請したこと及び本件各課税処分において原告主張のとおりの理由により右適用を認めなかつたことは認めるが、原告の長女及び三女が本件買換資産に居住したとの点は否認する。

(一) 原告は、次の(1)ないし(6)の事情からみて、本件買換資産を居住の用に供さなかつたか、仮に一時居住の用に供したとしても本件買換資産取得の日から一年以内(以下「居住期限」という。)に居住の用に供さなくなつたものと認められる。

(1) 原告は、本件買換資産の取得の日から一年未満の期間中に訴外株式会社大蔵屋(以下「大蔵屋」という。)に当該資産の売却方を依頼し、大蔵屋は、その関係書類に当該資産が空き家である旨の記載をしており、また、昭和四四年一一月九日付の朝日新聞に「即住可」として当該資産の売却広告を出した。

(2) 右新聞広告により本件買換資産が売りに出されていることを知つた訴外佐藤勤の妻が、大蔵屋の案内で昭和四四年一一月九日同資産の下見に行つたが、同人は、当時の同資産の状況について係官に「家屋にはくもの巣が張つており下見ができぬほどに埃がたまつていて人が住んでいるような状況ではなかつた。」と申述した。

(3) 川崎市水道局の本件買換資産の家屋に対する水道給水は、昭和四四年一二月二日中止された。

(4) 東京電力株式会社が供給する家庭用電力は、昭和四四年五月七日供給が開始され、同四五年一月一五日停止されているが、この間の電気料金は各月基本料金のみが支払われ、電力消費量は零である。

(5) 東京瓦斯株式会社が供給するガスについては、昭和四四年四月以後のガス料金の支払が基本料金のみであり、ガス使用量は最低責任使用量以下であつたと推定される。

(6) 登戸電報電話局所管の電話料については、昭和四四年四月以後同四五年三月までの料金は、基本料及び付加使用料のみが支払われ、この間の度数料及び市外通話料はいずれも零となつている。

したがつて、被告は、旧措置法三六条三項及び四項の規定により本件買換資産の価額がなくなり、その結果、同法三六条の規定の適用がないものとして譲渡所得の金額を計算して本件更正処分をし、これは本件再更正処分においても維持された。

(二) 原告が援用する後記通達は、昭和四四年法律第一五号による改正後の租税特別措置法(以下「新措置法」という。)が適用される昭和四四年一月一日以後の資産譲渡についての取扱いを定めたものである。したがつて、本件買換資産のごとき旧措置法三五条の居住用財産の買換えの規定に関する取扱いを定めたものではない。

ところで、新措置法三五条の譲渡資産たる居住用財産と旧措置法三五条の買換資産たる居住用財産とがその取扱いを異にしているのは、次の理由に基づくものである。すなわち、新措置法三五条の規定は、居住用の家屋を譲渡した場合に再び居住用家屋の買換えが行われること等を考慮し、譲渡所得の金額の計算上多額の特別控除をして税負担の軽減をはかつたものである。そして、右通達は、既に居住の用に供されている家屋が空き家となつている場合の取扱いである。一方、旧措置法三五条の規定は、居住用財産を、譲渡の日前後一年以内に取得し、取得後一年以内に居住の用に供したものに限ることとし、しかも、当該一年以内に居住の用に供さなくなつたものを対象から除外する旨規定している。これは、真に自己の住宅を必要とする者が、自力で取得した住宅についてその取得資金を調達するため土地等又は家屋を譲渡したとみられる場合、当該譲渡所得について国の住宅取得促進の政策に沿うものとして課税を繰り延べる特例措置と解される。

そうすると、新措置法三五条の譲渡資産についての通達が旧措置法三五条の買換資産に適用されないことは明らかであり、原告の主張は失当といわなければならない。

6  同2(四)の事実中、原告が滝沢係官に対し借入金利子等を取得費と認めるように申し出たが、結局、取得費として申告しなかつたこと、本件買換資産を買換資産として申告したこと、被告が本件各課税処分において本件買換資産を買換資産と認めなかつたことは認めるが、被告の係官が、借入金利子等を取得費として申告しなければその代償として住民票を提出するだけで買換資産として認めると言つたとの点は否認する。

被告の係官は、「居住を証するために住民票を提出されたい。」と述べたのであり、買換えを認めると言つたことはない。

一般に住民票に記載された住所と実際の住所とは一致するのが通常であるから、被告の係官は、買換資産に居住していることが推定できる住民票を提出するように要請したものである。

なお、仮に原告主張の事実があつたとしても、租税法律関係において信義則が適用されるためには、租税法律主義及び租税負担公平の原則の観点から考えて、少なくとも(1)課税庁が納税者に対して信頼の対象となる公の見解を表示したこと、(2)納税者の信頼が保護に値する場合であること、(3)納税者が誤つた表示を信頼しそれに基づいて何らかの行為をしたことによつて右信頼が保護されなければ税法上不利益を受ける場合であることの三要件を具備していなければならないものというべきであるが、本件においては右の要件をいずれも満たしていないので、本件に信義則を適用する余地はない。

四  被告の本案前の主張に対する原告の反論

1  原告が昭和五四年二月二六日に本件各課税処分により確定した税額全額を納付したことは認める。しかし、本訴において本件各課税処分が無効であることを確認する旨の確定判決を得なければ既払金返還請求をなしえない関係にあるから、原告適格が失われるものではない。

2  被告は、本件更正処分は本件再更正処分により独立の存在を失つたが、右更正処分により確定した租税債務はなお存続すると主張するので、本件更正処分につきその無効確認を求める利益がある。

五  原告の反論

1  被告の主張3について

被告は、所得税法一五五条二項かつこ書により、譲渡所得の金額に基因する更正処分については更正の理由を附記する必要がないと主張するが、右規定は、金額の計算関係については理由附記を必要としないというだけであつて、更正の基本的事実についての理由附記まで必要としないという趣旨ではない。もし被告主張のとおりであるとすると、譲渡所得の金額に基因する更正処分については、納税者は、一切の資料を課税庁に提示して申告したにもかかわらず、更正処分の理由を知ることができないため課税庁の処分に盲従しなければならず、また、課税庁としては、何らの理由も説明しないで国民に重大な義務を課すことになる。したがつて、被告の前記主張は失当である。

2  同4について

借入金利子相当額は譲渡による収益を構成しないものであるから、これに対して課税することはできない。それゆえ右借入金利子は取得費とみるべきである。譲渡所得は期間計算に親しまないものであるからといつて、取得費の範囲を資産取得のために直接必要とした費用に限ると限定的に解釈し、右借入金利子が取得費に当たらないとする理由はない。

また、借入金により資産を取得した場合には、使用開始に至るまでの期間に対応する借入金利子を取得費に算入するのが税務執行上の取扱いであるが、当該資産が単に保有されていたのみで実際に使用されていないときは右取扱の適用がない旨の被告の主張は何ら理由がない。なお、原告は、本件譲渡資産につき前記請求原因2(二)(2)のとおり権利関係上の紛争があつたため住宅を建設することができなかつたので、やむなく使用しなかつたのであつて、単なる保有を目的として取得したものではない。

3  同5について

(一) 買換資産としての課税の特例が認められるためには居住期間を経過するまで現実に居住していなくてはならないとするのは理由がない。たとえ一日だけ居住したとしても右課税の特例を認めるべきである。

原告は、昭和四五年一月二七日本件買換資産を大蔵屋に売却したのであつて、売却方を依頼したわけではない。したがつて、右大蔵屋が売却広告を出したのは原告の関知しないことである。本件買換資産の家屋において水道、電気、ガス、電話が使用されなかつたとの点は否認する。

仮に、同5(一)(1)ないし(6)の事実があつたとしても、本件買換資産を空き家としていたといえても、居住の用に供さなくなつたとはいえない。居住の用に供さなくなつたというのは、売却又は賃貸して所有権又は占有権を失うことをいうのであつて、単に空き家とすることをいうのではない。

(二) また、原告が、本件買換資産を居住期間内に空き家としたとしても、国税庁長官通達(昭和四四年直審(所)25)によれば、「その居住の用に供している家屋を空き家とした場合において、その後その家屋を貸付けその他業務の用に供することなく、その空き家とした日から一年以内に譲渡したときは、現に居住の用に供していない家屋であつても第三五条第一項の規定の適用ある家屋として取扱う。」こととされているのであるから、本件買換資産は居住用財産にあたるというべきである。

被告は、右通達は新措置法三五条の取扱いを定めたもので、旧措置法三五条の取扱いを定めたものではないと主張するが、双方とも居住用財産の譲渡所得の課税の特例を規定したものであるから、各規定にいう「居住の用に供した場合」という文言も同一の意味に理解すべきである。

第三証拠

一  原告

1  甲第一ないし第一二号証、第一三号証の一、二、第一四ないし第一六号証、第一七号証の一、二、第一八ないし第二〇号証、第二一号証の一、二、第二二号証の一ないし三、第二三ないし第三一号証、第三二号証の一、二、第三三、第三四号証、第三五、第三六号証の各一、二、第三七号証の一ないし四

2  乙第一号証、第二号証の一、第四号証の一、第五号証の一、二、第六号証、第一一号証の成立(第六号証、第一一号証については原本の存在及び成立)は認め、その余の乙号各証の成立は不知。

二  被告

1  乙第一号証、第二号証の一、二、第三号証、第四、第五号証の各一、二、第六ないし第一一号証

2  甲第一ないし第一一号証、第一三号証の一、二、第一四号証、第一八号証、第二一号証の二、第三一号証、第三二号証の一、二、第三三、三四号証、第三五、第三六号証の各一、二、第三七号証の一ないし四の成立(第三三、第三四号証、第三五、第三六号証の各一、二、第三七号証の一ないし四については原本の存在及び成立)は認める。甲第一五号証、第一七号証の二、第二一号証の一のうち、官署作成部分の成立は認め、その余の部分の成立は不知。その余の甲号各証の成立は不知。

理由

一  請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二  そこで、本件訴えの適否について判断する。

原告は本件各課税処分の無効確認を求めているが、原告が昭和五四年二月二六日に本件各課税処分によつて確定した税金全額を納付したことについては当事者間に争いがない。そうすると、原告が本件課税処分に続く処分により損害を受けるおそれがないことは明らかである。また、原告としては、本件各課税処分が無効であることを前提として、直ちに、右納付済税金の不当利得返還訴訟を提起することができ、この訴訟において、その前提問題として本件各課税処分の無効原因たる一切の瑕疵を主張して審理を受けることができるのであり、かつ、これによつて目的を達することができるのであつて、原告主張のように本件各課税処分の無効確認訴訟によつてあらかじめ本件各課税処分の無効を確認する確定判決を得ておかなければ右不当利得の返還を請求することができない関係にあるわけではない。

そうすると、本件更正処分と本件再更正処分の関係をどのようにみるかはともかくとして、その無効確認を求める本件訴えは、いずれも行政事件訴訟法三六条の定める原告適格を欠く不適法なものとして却下を免れない。

三  右の次第で、本件訴えはいずれも不適法であるからこれを却下し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佐藤繁 裁判官 泉徳治 裁判官 菊池洋一)

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