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東京地方裁判所 昭和49年(行ウ)172号 判決 1982年7月15日

東京都港区赤坂三丁目二一番五号

三銀ビル

原告

重本アサコこと

三根谷アサコ

右訴訟代理人弁護士

片山和英

木宮高彦

東京都港区六本木六丁目五番二〇号

被告

麻布税務署長

北川烈

右訴訟代理人弁護士

島村芳見

右指定代理人

佐藤恭一

須藤勉

金田哲夫

大原満

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた判決

一  原告

1  被告が原告に対し、昭和四五年九月三〇日付けでなした原告の昭和四二年分所得税の再更正及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。

2  被告が原告に対し、昭和四六年七月五日付けでなした原告の昭和四三年分所得税の再更正及び過少申告加算税賦課決定(但し、審査裁決により一部取り消された後のもの。)を取り消す。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文同旨。

第二原告の請求原因

一  原告は、肩書地において鉄筋コンクリート造陸屋根地下一階地上八階建の共同住宅兼事務所(以下「三銀ビル」という。)を所有して、貸室業を営む者(昭和四二年分白色申告者、昭和四三年分青色申告者)であるが、その昭和四二年分及び昭和四三年分の各所得税の課税経過は、別表一、二のとおりである。

二  しかし、被告がなした右各所得税の前記第一の一の再更正及び過少申告加算税賦課決定の処分(但し、昭和四三年分は審査裁決により一部取り消された後のもの。以下「本件処分」という。)には、原告の所得金額を過大に認定した違法があるから、取り消されるべきである。

第三原告の請求原因に対する被告の認否

一  請求原因一は認める。

二  同二は争う。

第四被告の主張

一  昭和四二年分総所得金額

1  原告の昭和四二年分の総所得金額は、三銀ビルの貸室による不動産所得からなり、その額は別表三(被告主張額欄)のとおり一六三二万七七六三円であり、その範囲内でされた本件処分は適法である。

2  賃貸料及び共益費

別表三の賃貸料及び共益費の明細は別表四(被告主張額欄)のとおりである。

3  保証金(敷金)償却

別表三の保証金(敷金)償却の明細は別表五(被告主張額欄)のとおりである。

三銀ビルの貸室の賃貸借契約によれば、賃借人は賃貸借契約の成立と同時に保証金又は敷金を支払い、期間満了又は契約解除の場合は償却費として保証金若しくは敷金の二割又は賃貸料の二か月分(六〇四号室中外貴金属については例外的に〇・五か月分)を支払うものとされている。したがって、保証金又は敷金のうち右償却費に相当する金額は、賃貸借期間の満了又は契約解除のいずれの場合においても返還を要しないものである。このように、賃貸借契約を締結して保証金又は敷金の交付請求権が確定し、契約上右金員中に賃借人に返還を要しない部分があるときは、その契約締結時(契約更新の場合は、その更新時)に、当該返還を要しない保証金又は敷金について収入すべき権利が確定したものとして収入金額に算入すべきである。そこで、右に述べたところに従い各室ごとに保証金又は敷金の償却による収入金額を計算すると、別表五のとおりになる。

4  無予告解約金

別表三の無予告解約金の算定根拠は次のとおりである。原告は、昭和四二年七月二〇日株式会社図書月販との間で、三銀ビル六〇四号室の賃貸借契約を締結し、敷金三九万二〇〇〇円の差入れを受けたが、その際特約として、賃借人が契約を解除しようとするときは六か月以前に書面をもって原告に予告すること、但し、右予告に代え六か月分の賃貸料相当額(無予告解約金)を原告に支払うときは即日解除することができる旨を約した。そして、同会社が同年一二月下旬六か月前の予告なしに右契約を解除したため、原告は、右特約に基づいて右敷金から六か月分の賃貸料相当額の無予告解約金二三万五二〇〇円を収受した。

5  雑収入

別表三の雑収入の明細は別表六のとおりである。

三銀ビルの地階、一階及び二階の各室には、電気及び上下水道の使用量メーターが取り付けられていなかったため、原告は、右各室の賃借人から別表六のとおり電気料金及び水道料金を徴収したが、東京電力株式会社及び東京都水道局への支払金額は、三銀ビルの水道光熱費として必要経費に算入しているので、右徴収金額は収入金額に算入すべきものである。なお、昭和四二年一月及び二月の徴収金額は不明であるので、別表六の欄外に記載したとおりの推計方法によって算定した。

6  修繕費等の経費九科目

別表三の修繕費から雑費等までの経費九科目の算定根拠は次のとおりである。

原告が修繕費等の経費九科目の金額について記載した帳簿には、支出年分を故意に偽る等虚偽の記載事項があって、その記載全体を信用することができなかったので、これらを実額により算定することは不可能であった。そこで、被告は、次の推計方法によって左金額を算定した。すなわち、原告の貸室業の規模、形態等は、昭和四三年においても同様と推定される。したがって、昭和四二年分の修繕費等の経費九科目の合計額は、原告の昭和四二年分の不動産所得に係る総収入金額二二六〇万七五一五円に、原告の昭和四三年分の不動産所得に係る総収入金額二一九三万八四一五円に対する同年分の修理費等の経費九科目の合計額二二七万四〇八三円の割合一〇・三七%を乗じて算定するのが相当であり、その金額は二三四万四四〇〇円となる。

7  減価償却費

(一) 別表三の減価償却費の算定根拠は次のとおりである。減価償却費算定の基礎となる減価償却資産は、三銀ビル及びその附属設備の昇降機であり、その減価償却費は、三銀ビルに係る減価償却費一〇八万三〇六二円に昇降機に係る減価償却費一九万八三六〇円を加算した一二八万一四二二円とすべきである。

三銀ビルに係る所得税法所定の減価償却費は、三銀ビルの取得価額七五二一万二六五九円から残存価額七五二万一二六五円を控除した六七六九万一三九四円に、耐用年数六五年の定額法による償却率〇・〇一六を乗じた一〇八万三〇六二円とすべきである。

(二) 三銀ビル(昭和三九年一一月二〇日新築)は、本件各係争年度について租税特別措置法(昭和四四年法律第一五号による改正前のもの。以下「措置法」という。)一四条二項、租税特別措置法施行令(昭和四四年政令第八六号による改正前のもの。以下「施行令」という。)七条二項の新築貸家住宅の割増償却の規定の適用がないものである。

施行令七条二項二号の規定によると、新築貸家住宅の割増償却の適用が認められる貸家住宅とは、「新築後使用されたことのないもので、その床面積の二分の一以上に相当する部分がもっぱら住宅として貸家の用に供されているものの当該住宅として貸家の用に供されている部分」とされている。しかし、三銀ビル(総床面積五四六・一九坪)のうちもっぱら住宅の用に供されている部分の床面積の合計は、本件各係争年度を通じ別表七のとおり九三・四二坪であり(その余の床面積の合計は四五二・七七坪)、総床面積に対する割合は一七・一〇%にすぎない。したがって、三銀ビルについては、本件各係争年度を通じて割増償却の適用がないものといわなければならない。

二  昭和四三年分総所得金額

1  原告の昭和四三年分の総所得金額は、三銀ビルの貸室による不動産所得であり、その額は別表九(被告主張額欄)のとおり一三七四万一八九六円(被告は一三七四万一八九五円と主張しているが、明らかな誤記と認められる。)であり、その範囲内でされた本件処分は適法である。

2  賃貸料及び共益費

別表九の賃貸料及び共益費の明細は別表一〇(被告主張欄)のとおりである。

3  保証金(敷金)償却

別表九の保証金(敷金)償却の明細は別表一一(被告主張額欄)のとおりであり、その性格は前記一3と同じである(なお、二〇一A号室の償却割合は例外的に保証金の一〇%である。)。

4  無予告解約金

別表九の無予告解約金の算定根拠は次のとおりである。原告は、株式会社デザイン・オフイス・ナークとの間で、三銀ビルの五〇一号室及び六〇六号室の賃貸借契約を締結し、敷金一〇〇万円を受領したが、その際前記一4と同じ内容の無予告解約金の約定をした。そして、同会社が昭和四三年五月初め予告なしに右契約を解除したため、原告は、右特約に基づいて右敷金から六か月分の賃貸料相当額の無予告解約金六〇万円を収受した。

5  雑収入

別表九の雑収入の明細は別表一二のとおりである。算定根拠は前記一5と同一である。

6  租税公課

別表九の租税公課の明細は別表一三(被告主張欄)のとおりである。

原告の総勘定元帳の租税公課の記帳額は、別表一三(原告主張欄)のとおりである。

しかし、固定資産税は三銀ビルに係るものであるところ、昭和四三年度の固定資産税の金額は、三銀ビルの同年度の家屋課税台帳価格四一八六万九〇〇〇円(一〇〇〇円未満切捨て)に税率一〇〇分の一・六を乗じた六六万九九〇〇円(一〇円未満切捨て)である。

延滞税及び延滞金は、所得税法(昭和四四年法律第一四号による改正前のもの。以下同じ。)四五条一項三号及び五号の規定により、不動産所得の金額の計算上必要経費に算入されないこととされている。

印紙税は、昭和四三年中に作成した賃貸借契約書に貼付したと推認される印紙の金額六四〇円(二〇円(印紙の金額)×一六(契約件数。別表一一の一五件に二〇七号室の国枝秀夫を加えたもの。)×二=六四〇円)、同年中に作成した家賃通帳に貼付したと推認される印紙の金額一六〇〇円(四〇円(印紙の金額)×四〇(通帳数。別表一〇の賃借人の数。)=一六〇〇円)、電気水道料の領収証に貼付したと推認される印紙の金額四六〇円(二〇円(印紙の金額)×二三(別表一二のうち各月の支払金額が一万円以上であるものの月数)=四六〇円)及び大和銀行虎ノ門支店から資金の借入れをするために振り出した手形に貼付したと推認される印紙の金額七七〇円(七〇円(五〇万円の手形に貼付した印紙の金額)+一〇〇円(一〇〇万円の手形に貼付した印紙の金額)×五(手形の通数。乙第四七号証。)+二〇〇円(五〇万円の手形に貼付した印紙の金額)=七七〇円)、以上合計三四七〇円である。

7  借入金利子

別表九の借入金利子は大和銀行虎ノ門支店に対するものである。

原告の総勘定元帳の借入金利子の記帳額は、大和銀行虎ノ門支店に対する一三万八九九〇円であるが、同支店に対する実際の支払額は八万六六七五円である。

8  修繕費

別表九の修繕費の明細は別表一四(被告主張欄)のとおりである。

原告の総勘定元帳の修繕費の記帳額は九一万五六〇四円である。しかし、その中には家事費八万三〇〇〇円(六月一〇日の一〇万円のうち八万三〇〇〇円)、保守清掃費一万三〇〇〇円(九月三〇日三興に対する支払)及び支払があったとは認められない金額五〇万円(一二月二一日二〇万円、同月二七日一五万円、同月三〇日一五万円)があり、これらはいずれも修繕費とは認められないから、控除すべきである。

9  旅費通信費

別表九の旅費通信費の明細は別表一五(被告主張欄)のとおりである。

原告の総勘定元帳の交通費及び通信費の記帳額は、別表一五(原告主張欄)のとおりである。

しかし、右交通費記帳額のすべてが三銀ビルの貸室業の遂行上支出されたものとは認められず、そのうち銀行関係交通費六万四一七〇円について原告の預金の入出金状況等を基に検討したところ、事業の遂行上支出されたものと推定されるのは三万一九四〇円であり、銀行関係交通費記帳額の約五〇%に相当する。銀行関係以外の交通費記帳額八万六二一〇円についても、右と同様その五〇%相当分が事業の遂行上支出されたものと推認されるから、その金額は四万三一〇五円となる。したがって、交通費の金額は、三万一九四〇円に四万三一〇五円を加算した七万五〇四五円とすべきである。

通信費記帳額六万六〇〇八円のうち電話料五万〇七九八円については、二万〇一一六円は東京都港区赤坂四丁目二番二八号の原告の私宅に設置された電話五八三-二六六五に係るものであって、三銀ビルの貸室業とは関係がないから控除すべきであり、三銀ビルに設置された電話五八三-一六六五に係る電話料一万三六三一円が記帳漏れとなっているのでこれを加算すべきであるから、その金額は四万四三一三円となる。年賀はがき代の記帳額二四〇〇円は、家事用の費用であり必要経費とは認められない。切手代等の記帳額一万二八一〇円は、交通費と同様の理由によりその金額に五〇%を乗じた六四〇五円を必要経費とすべきである。したがって、通信費の金額は、電話料四万四三一三円に切手代等六四〇五円を加算した五万〇七一八円とすべきである。

以上によれば、旅費通信費の金額は交通費七万五〇四五円に通信費五万〇七一八円を加算した一二万五七六三円となる。

10  広告宣伝費

別表九の広告宣伝費の明細は別表一六(被告主張欄)のとおりである。

原告の総勘定元帳の広告宣伝費の記帳額は四万八五七〇円である。

しかし、そのうち二八〇〇円(一二月二八日)は年賀はがき代であり、一五〇〇円(二月二日)は防長クラブ(山口県人会)会費であって、いずれも家事用の費用であるから、必要経費とは認められない。また、三万八〇七〇円は、来訪者に対する茶菓子昼食代等であるから、交際費として処理すべきである。

したがって、広告宣伝費の金額は、四万八五七〇円の記帳額から右の二八〇〇円、一五〇〇円及び三万八〇七〇円を控除した六二〇〇円とすべきである。

11  交際費

別表九の交際費の明細は別表一七(被告主張欄)のとおりである。

原告の総勘定元帳の交際費の記帳額は七五万一五九八円であり、これに広告宣伝費からの振替分三万八〇七〇円を加算すると、七八万九六六八円となる。

しかし、右記帳額のうち領収証のあるもの二八万一三七一円について検討したところ、交際費と認められるのは六万四一八〇円であって、残余の二一万七一九一円は家事費とすべき町内会費、贈答品等であり、右領収証のあるもののうち交際費と認められる金額の比率は約三〇%である。このことは、領収証のない記帳額五〇万八二九七円についても同様であると推認されるから、その金額に三〇%を乗じた一五万二四八九円を交際費とすべきである。

したがって、交際費の金額は六万四一八〇円に一五万二四八九円を加算した二一万六六六九円となる。

12  保守清掃費

別表九の保守清掃費の明細は別表一八(被告主張欄)のとおりである。

原告の総勘定元帳の保守料の記帳額は一二万円、清掃費の記帳額は二九万四〇四〇円、合計四一万四〇四〇円である。

しかし、清掃費の金額は三興に対する支払一四万四八〇〇円に、三興に対する支払を誤って修繕費とした一万三〇〇〇円及び三興に対する支払で計上漏れとなっている一八〇〇円を加算した一五万九六〇〇円とすべきであって、元帳記載のその余のものは、家事費と認められるものあるいは支出事実の認められないものであるから、必要経費とは認められない。

したがって、保守清掃費の金額一五万九六〇〇円に保守料の金額一二万円を加算した二七万九六〇〇円とすべきである。

13  消耗品費

別表九の消耗品費の明細は別表一九(被告主張欄)のとおりである。

原告の総勘定元帳の消耗品費の記帳額は、別表一九(原告主張欄)のとおりである。

しかし、右記帳額のうち事業の遂行上必要な経費と認められるのは、消耗品費のうち八万九〇四三円(一月一〇日四〇円、同月二七日三〇〇円、二月二九日一三二〇円、三月一一日一五五円、同日七万五九八七円、同月一二日四八〇円、同月一九日一〇〇円、同月二九日三〇〇円、同日三八〇円、同日四七〇円、四月五日三〇〇円、同月一一日三〇〇円、同月一九日四一〇円、同月二六日一七〇円、五月八日一五〇円、同月九日五〇円、同月二二日三二五円、同月二五日一七〇円、六月四日一五〇円、同月八日一八〇円、同月一三日八〇円、同月一八日八〇円、同日二五〇円、七月一日一七三〇円のうち八一〇円、同月二日八四六円のうち五二六円、同月一〇日二五〇円、同月二二日三〇〇円、八月二日二四〇円、同月一〇日七〇円、同月二一日二二〇円、同月三一日四八〇円、同日二五〇円、一〇月三日二五〇円、同月一〇日四〇〇円、一一月六日三〇〇円、一二月二三日七二〇円、同月三〇日二〇八〇円)、消耗器具備品費のうち七万五二〇〇円(二月二〇日二万円、同日二万円、同月二三日七〇〇円、同月二六日一万三七五〇円のうち一万二九〇〇円、三月二六日三〇〇円、七月二二日一三〇〇円、八月九日二万円)及び事務用消耗品費のうちの一万七二〇〇円(一月一〇日一五〇円、二月一七日五〇円、三月一九日六〇円、五月一五日四八五円、同月二七日一六五円、六月一日一〇〇円、同月一〇日五〇円、同日五〇円、七月一一日一五円、八月二六日九五〇円、九月二日一万四一〇〇円、同月四日一七〇円、同月一〇日二六〇円のうち五〇円、同月一八日一〇〇円、同月二七日五〇円、一〇月一一日五〇円、同月二二日四二五円、同月三一日三〇円、一二月二日一〇〇円、同月三〇日五〇円)であって、その余のものは、消耗品とは認め難い物品、家事用と認められる物品及び購入先が販売した事実のない物品等の金額であるから、必要経費とは認められない。

したがって、消耗品費の金額は、八万九〇四三円、七万五二〇〇円及び一万七二〇〇円の合計一八万一四四三円とすべきである。

14  福利厚生費

別表九の福利厚生費の明細は別表二〇(被告主張欄)のとおりである。

原告の総勘定元帳の福利厚生費の記帳額は五七万一一二八円である。

しかし、右記帳額のうち事業の遂行上必要な経費と認められるのは、五万七六六五円(二月二四日六四〇〇円、五月八日三三三〇円、同月一五日二八四五円、七月一三日四四〇〇円、同月三〇日二〇〇〇円、一〇月三一日三〇〇〇円、一二月一四日二万八六七〇円、同月二五日六五〇〇円、同月三〇日五二〇円)であって、その余のものは、その事実の認め難いもの(内訳は従業員慰安旅行費四六万〇三九八円、従業員医療費一万八四〇〇円)及び家事関連費と認められるもの(三万四六六五円)であり、必要経費とは認められない。

したがって、福利厚生費の金額は五万七六六五円とすべきである。

15  雑費等

別表九の雑費等の明細は別表二一(被告主張欄)のとおりである。

原告の総勘定元帳の雑費等の記帳額は、別表二一(原告主張欄)のとおりである。

しかし、右記帳額の会費組合費のうち、事業の遂行上必要と認められるものは、五〇〇〇円(一月三一日、五月二日、九月二日、一二月二六日各一二五〇円)であって、その余のものは、(1)事業の遂行と関係のない弁護士夫人会費一八〇〇円(五月二五日)、防長クラブ会費二〇〇〇円(六月二九日)及び一ツ木町会費五四〇〇円(三月一日四〇〇〇円、六月六日一二〇〇円、七月五日二〇〇円、九月七日一四〇〇円、一〇月二三日二〇〇〇円、一二月七日二〇〇〇円)、(2)既に交際費に計上されている消防会費三六〇〇円(三月二二日)及び防火管理研究会費七〇〇円(一二月二日)、(3)支払事実の認められないもの五八八〇円(二月二四日六〇〇円、四月一九日四八〇円、五月一三日一二〇〇円、同月三一日一二〇〇円、一〇月三〇日一二〇〇円、一一月三〇日一二〇〇円)であって、いずれも必要経費とは認められない。なお、会費組合費に一万円の計上漏れがあるので、これを加算する。

また、雑費の記帳額中の職人食事代及び花代を除いた一六万二五五三円のうち、事業の遂行上必要と認められるものは、クリーニング代一七一〇円(五月二日七六〇円、九月三日九五〇円)、茶代等九五三五円、新聞代八四四〇円(四月二二日一一六〇円、五月三〇目五八〇円、六月三〇日五八〇円、七月三一日一一六〇円、八月三一日五八〇円、九月五日五八〇円、一〇月四日一一六〇円、一一月二七日一三二〇円、一二月二三日六六〇円、同月二八日六六〇円)、その他一万二四〇〇円(三月一八日四〇円、五月三一日五〇〇〇円、六月六日四〇円、同月一二日三四〇円、同月一八日三〇〇〇円、八月一七日四八〇円、九月一〇日五〇〇円、一〇月三一日三〇〇〇円)の合計三万二〇八五円であって、これは記帳額一六万二五五三円の約二〇%に相当し、その余のものは、家事費等と認められるもので必要経費とは認められない。右比率は花代及び職人食事代についても同様と推認されるので、花代五万九四九五円に二〇%を乗じた一万一八九九円及び職人食事代八万三〇四〇円に二〇%を乗じた一万六六〇八円を事業の遂行上必要な経費とすべきである。したがって、雑費は、三万二〇八五円に一万一八九九円及び一万六六〇八円を加算した六 〇五九二円とすべきである。

以上によれば、雑費等の金額は、会費組合費一万五〇〇〇円、事務費一三万円及び雑費六万〇五九二円の合計額二〇万五五九二円となる。

16  減価償却費

別表九の減価償却費の算定根拠は次のとおりである。

(一) 減価償却費算定の基礎となる減価償却資産は、三銀ビル並びにその附属設備である昇降機及びクーラーであり、その減価償却費は、三銀ビルに係る減価償却費二四六万三〇一七円に、昇降機に係る減価償却費四〇万七〇二四円及びクーラーに係る減価償却費一万三四五一円を加算した二八八万三四九二円とすべきである。三銀ビルに係る所得税法所定の減価償却費は、三銀ビルの取得価額七五二一万二六五九円から昭和四二年までの減価償却費の合計額四八四万〇七二五円を控除した七〇三七万一九三四円に耐用年数六五年の定率法による償却率〇・〇三五を乗じて算定した二四六万三〇一七円とすべきである。

(二) 三銀ビルについて、措置法、施行令の新築貸家住宅の割増償却の規定の適用がないことは、前記一7(二)のとおりである。

第五被告の主張に対する原告の認否及び反論

一  昭和四二年分総所得金額

1  被告の主張一1のうち、原告の総所得金額が三銀ビルの貸室による不動産所得からなること、別表三の租税公課、火災保険料、借入金利子及び雇人費の金額が被告主張のとおりであることは認めるが、その余は否認する。

原告の昭和四二年分不動産所得は、別表三(原告主張額欄)のとおり八八六万八二三二円であるから、本件処分のうち右金額を超える部分は違法である。

2  賃貸料及び共益費

被告の主張一2に対する認否は、別表四(原告主張額欄)のとおりである。

なお、被告が本件再更正に際して重要な認定資料とした乙第一号証の一ないし二三は、原告の作成に係る原始記録ではなく、原告が雇用していた鈴木与一の作成に係る単なる手控えにすぎず、その作成の経過及び被告の入手経緯が不明確であるから、その信用性には疑義がある。

3  保証金(敷金)償却

被告の主張一3のような保証金又は敷金の償却による収入が存したことは認めるが、その額は別表五(原告主張欄)のとおりである。

4  無予告解約金

被告の主張一4のうち、原告が三銀ビルの賃貸借契約に際して無予告解約金の特約をしたことは認めるが、賃借人から実際に右解約金を受領したことはほとんどなく、本件の株式会社図書月販も、特約に従って解除予告をしたと主張して解約金の支払をしなかったものである。

5  雑収入

被告の主張一5は否認する。

仮に、本件各係争年度当時、原告に被告主張のとおりの雑収入が認められるとしても、原告には右雑収入金額を超える金額の経費支出がありながら、領収証を取れなかったために経費に計上しなかったものがあるから、右雑収入を所得金額に加算すべきではない。右経費の一例として、昭和四三年一二月一〇日に支出した池野利弘税理士に対する事務所開設祝金二〇万円がある。

6  修繕費等の経費九科目

被告の主張一6は否認する。

修繕費等の経費九科目の金額は別表三(原告主張額欄)のとおりである。被告は、原告の帳簿には虚偽の記載事項があり、記載全体を信用することができないと主張するが、税務上の正規の記載方法と比較した場合不明確さがあることは否定できないとしても、経費一切を記載しているのであり、これに基づく原告主張額に誤りはない。被告は昭和四三年分の総収入金額に対する修繕費等経費九科目の合計額の割合から昭和四二年分の右修繕費等経費九科目の合計額を算定しているが、たとえ原告の営業規模、形態等に大差がないとしても、支出した修繕費等が同じ割合であると一概にいえないことは当然である。したがって、被告の推計にはその必要性及び合理性がないのである。

7  減価償却費

被告の主張一7のうち、原告の減価償却資産が三銀ビル及び附属設備の昇降機であること、三銀ビルの新築年月日、総床面積及び取得価額が被告主張のとおりであること、三銀ビルについて選定された償却方法が定額法であること、昇降機の償却費が被告主張のとおりであることは認める。

三銀ビルには措置法、施行令の割増償却の規定の適用があるから、減価償却費は三四四万六〇九二円となる。

被告は割増償却の適用を否定するが、これは次のとおり許されない。すなわち、昭和四二年に原告の昭和四一年分所得税の調査をした被告所部係官松井吉明は、三銀ビルの利用状況を逐一調査した上、割増償却の適用があることを言明した。そこで、原告は、昭和四一年分から割増償却を適用して申告した。更に、その後昭和四三年までの間に被告所部係官が何回かにわたって利用状況を調査し、賃借人の居住使用証明書を確認し、割増償却の適用があることを是認していた。しかるに、本訴において割増償却の適用を否定することは禁反言の法理あるいは一事不再理の原則に反し許されないものというべきである。

施行令七条二項三号に規定する「もっぱら住宅として」とは、被告主張のように一〇〇%ないしそれに近い割合をいうのではなく、主体が生活の本拠として利用されているものを指すと解すべきであり、別表七の「もっぱら住宅の用以外の用に供するもの」とされているもののうち、別表八にあげた各室は、いずれももっぱら住宅の用に供されていたものである。三銀ビルの新築当初から昭和四四、五年ころまでは、周辺は料亭街であって事務所はほとんどなく、事務所用貸室の需要も少ない状況であった。原告も、三銀ビルの新築に際しては居住用貸室として設計し、風呂、和室を備えた。現に、昭和四四年ころまで賃借人のほとんどは居住用として利用しており、賃借人が会社の場合であっても、従業員あるいは社長個人の居住用として利用していた。一階一〇二号室は、レストラン・ド・ヤチヨの経営者が家族全員と居住しており、住民登録もしていた。また、一〇六号室は、原告の従業員井村英輝が居住していた。右以外の別表八の各室は、いずれも自由業的業種の賃借人であって、自宅で写真、デザイン等の仕事も行い居住用に利用していた。このようにして、もっぱら居住の用に供されているものの床面積の合計は、別表七で被告の認める九三・四二坪と別表八の二〇三・九七四坪の合計二九七・三九四坪であり、事業の用に供されているものの床面積は合計二四八・七九六坪であり、その比率は居住用が五四・四五%、事業用が四五・五五%である。そうすると、床面積の二分の一以上が住宅として貸家の用に供されていることになるから、割増償却の規定が適用されることは明らかである。

二  昭和四三年分総所得金額

1  被告の主張二1のうち、原告の総所得金額が三銀ビルの貸室による不動産所得であること、別表九の火災保険料、水道光熱費及び雇人費の金額が被告主張のとおりであることは認めるが、その余は否認する。

原告の昭和四三年分不動産所得は、別表九(原告主張額欄)のとおり二八六万二二四七円であるから、本件処分のうち右金額を超える部分は違法である。

2  賃貸料及び共益費

被告の主張二2に対する認否は、別表一〇(原告主張額欄)のとおりである。

3  保証金(敷金)償却

被告の主張二3に対する認否は、別表一一(原告主張額欄)のとおりである。

4  無予告解約金

被告の主張二4のうち、原告が無予告解約金の特約をしたことは認めるが、株式会社デザイン・オフィス・ナークは、解除予告をしたと主張して無予告解約金の支払をしなかったものである。

5  雑収入

被告の主張二5は否認する。

6  必要経費全般

被告の主張二6ないし15のうち、原告の総勘定元張の記帳内容が被告主張のとおりであることは認める。右経費のうち、借入金利子は総勘定元帳記載のとおりであり、その余の経費に対する原告の主張は別表一三ないし二一(原告主張欄)のとおりである。

その他、被告の右主張に対する個別的認否及び反論は次のとおりである。

7  租税公課

昭和四三年度の固定資産税が被告主張のとおりであることは認めるが、前年度の未払分を含めると九二万四六〇〇円となる。

印紙税についての被告の主張は、単なる推認にすぎず、賃貸料の領収に際しても、通帳紛失、持参せず等の場合があり、賃借人の中には必ず領収証の発行を要求するものもあって、被告主張の枚数では足りない。保証金、償却費、電気料及び水道料等についても貼用する場合が多く、原告の記帳額が正しい。印紙については、購入時に領収証を取るのが困難である。

8  修繕費

修繕費中被告否認の八万三〇〇〇円は、成田商会に注文した三銀ビルの三階から六階までの二六室分のカーテン据えつけ経費一三万円の一部であって、昭和三九年度の必要経費に計上しないで経過した未処理分について、当初の予定どおり昭和四三年度に処理したものである。また、被告否認の五〇万円は、三銀ビルの一階廊下のタイル張替え、ペンキ塗替え及び排煙装置設置の費用と、一階廊下わきを物置(ごみ入れ場)用に改造修理した費用である。原告は、三銀ビル完成直後の昭和三九年一〇月末ころ吹抜け状態であった一階通路の右側に璧面を設置して、これを廊下とし、ドアを付設した。そのため、株式会社レストラン・ド・ヤチヨが右廊下に排出していた排煙臭気が廊下にこもり、翌年初めころから漸次入居した賃借人から苦情が出た。そこで、原告は、昭和四三年一二月右廊下に排煙装置を設置するとともに、タイル張替え、ペンキ塗替え及び物置設置の廊下修繕を行ったものである。

9  旅費通信費

交通費は、原告の取引銀行が大和銀行虎ノ門支店で、賃貸料その他の入出金、借入融資等の交渉、小切手帳の受領等にタクシーを利用したほか、税務署、消防署等官公署への往復、他の場所に本店等を有する賃借人の集金や不動産仲介業者への車代等であって、領収証がなくても必要経費として認められるべきである。電話五八三-二六六五番が自宅に架設された電話であることは認めるが、半分以上は業務のために使用していたから、その電話料も必要経費として認められるべきである。年賀はがきは、不動産仲介業者、賃借人及び消防署、警察署等ビル管理について平素世話になっているところへの挨拶状であり、広告宣伝の一助にもなるから、必要経費として認められるべきである。

10  広告宣伝費

年賀はがき代は、前記9と同様の理由により広告宣伝費とすべきである。また、防長クラブ会費は、同クラブの紹介で入居した賃借人がいたので、謝礼の意味で一万円寄附したものである。

11  交際費

被告が否認する額の中には、原告の女子従業員に贈与した歳暮用のウール反物三反分七万五〇〇〇円があり、必要経費として認められるべきである。そのほかにも、町内会婦人会の新年会の会費二〇〇〇円、寄附二〇〇〇円及び祝儀等四〇〇〇円がある。

12  保守清掃費

被告が否認する額の中には、女子従業員が清掃の際に着用する衣服を鈴屋から購入した代金及び清掃会社によるごみの搬出処理の費用、清掃の補充として臨時に人夫を雇った労賃があり、必要経費として認められるべきである。

13  消耗品費

被告が否認する額の中には、不動産仲介業者に対する謝礼として贈与した医薬品的食品(無量寿)、茶道用具、洋菓子、ショール、セーター、ハンドバッグの代金があり、必要経費として認められるべきである。

14  福利厚生費

被告が否認するもののうち、従業員旅行費の中には、原告が従業員の保養所を購入するため、昭和四三年ころから山口県湯田温泉へ調査のため出張し、売主らと実際に買取交渉をした際の旅費、飲食代等の諸経費が含まれており、その後原告の不動産賃貸業を法人組識とした昭和四六年に右土地の売買予約契約を締結している。従業員医療費一万八四〇〇円については、仮にその支出事実がなかったとしても、原告はこれを上回る原告自身の医療費を支出しながら医療費控除を受けていないので、その代わりとして右一万八四〇〇円の経費控除を認めるべきである。また、被告が家事関連費と主張する部分は、当時従業員の井村英輝が三銀ビルに住込んでいたので、その家事費支出の一部を給料の他に援助していたものである。

15  減価償却費

被告の主張16のうち、原告の減価償却資産が三銀ビル並びにその附属設備である昇降機及びクーラーであること、三銀ビルの取得価額並びに昇降機及びクーラーの減価償却費が被告主張のとおりであること、三銀ビルについて選定された償却方法が定率法であることは認めるが、三銀ビルについては前記一7のとおり割増償却を適用すべきである。

第六証拠

一  原告

1  甲第一ないし第三号証、第四号証の一ないし一二、第五号証、第六号証の一ないし三(西松建設株式会社の社員が昭和三九年末ころ三銀ビルを撮影した写真である。)、第七号証の一ないし一五、第八ないし第一一号証、第一二号証の一ないし四(原告訴訟代理人片山和英が昭和四九年三月一二日、被告から原告あてに送付されてきた小包(同号証の三、四)及びそれを展示した状態(同号証の一、二)を撮影した写真である。)、第一三ないし第一七号証、第一八号証の一ないし九(原告訴訟代理人片山和英が昭和五五年二月七日三銀ビルを撮影した写真である。)、第一九号証の一ないし六、第二〇号証の一ないし三(原告の作成)、第二一号証、第二二号証の一ないし四、第二三、第二四号証の各一、二、第二五ないし第二九号証、第三〇号証の一、二、第三一号証の一ないし三、第三二、第三三号証の各一、二、第三四号証の一ないし四(原告訴訟代理人片山和英が昭和五六年三月一日三銀ビルを撮影した写真である。)、第三五号証の一、二、第三六号証の一ないし三、第三七、第三八号証、第三九号証の一、二

2  証人池野利弘(第一、二回)、同山根勇作、同吉田宗敏、同片山和英(第一、二回)の各証言、原告本人尋問の結果(第一、二回)

3  乙第三、第六号証、第一四号証の一ないし四、第一五号証の一ないし八、第一六号証の一ないし四、第四六、第五七、第五八号証、第六四号証の二、三の原本の存在及び成立は認める。乙第四、第五、第七、第一九、第二〇、第三〇、第三四、第三五、第三八、第四一、第四三ないし第四五、第四七号証、第四八号証の一ないし四、第四九号証、第六二号証の一ないし三、第六九ないし第七一、第七四ないし第七六、第八二、第八三号証の成立は認める。乙第六六号証の一ないし一二が被告主張の写真であることは認める。乙第七二号証の一ないし三が三銀ビルを撮影した写真であることは認めるが、撮影者、撮影年月日は不知。乙第一号証の一ないし二三、第二二、第五四ないし第五六号証、第六三号証の二ないし二二、第六四号証の一、第七九号証の三、四、第八一号証の原本の存在及び成立は不知。乙第七七号証の成立は不知(但し、別添の写真が三銀ビルを撮影したものであることは認める。)。その余の乙号各証の成立は不知。

二  被告

1  乙第一号証の一ないし二三、第二号証の一、二、第三ないし第一三号証、第一四号証の一ないし四、第一五号証の一ないし八、第一六号証の一ないし四、第一七ないし第四七号証、第四八号証の一ないし四、第四九ないし第六〇号証、第六一号証の一、二、第六二号証の一ないし三、第六三号証の一ないし二二、第六四号証の一ないし三、第六五号証、第六六号証の一ないし一二(高津吉忠か昭和五五年二月一日三銀ビルを撮影した写真である。)、第六七号証の一、二、第六八ないし第七一号証、第七二号証の一ないし三(小川尚が昭和三九年一二月三銀ビルを撮影した写真である。)、第七三ないし第七八号証(第七七号証別添の写真は三銀ビルを撮影したものである。)、第七九号証の一ないし四、第八〇ないし第八三号証

2  証人谷口昭司、同安達栄、同鳥栖明、同池本征男、同藤原修志、同高津吉忠の各証言

3  甲第三号証の原本の存在及び成立は認める。甲第一、第二号証、第七号証の一ないし三、五、第一一、第一三号証の成立は認める。甲第三二、第三二号証の各一、第三八号証の官公暑作成部分の成立は認めるが、その余の部分の成立は不知。甲第一二号証の一ないし四が原告主張の写真であることは不知。甲第一八号証の一ないし九が原告主張の写真であることは認める。甲第三四号証の一ないし四が三銀ビルを撮影した写真であることは認めるが、撮影者、撮影年月日は不知。その余の甲号各証の成立は不知。

理由

一  請求原因一は、当事者間に争いがない。

二  昭和四二年分総所得金額について

1  原告の総所得金額が三銀ビルの貸室による不動産所得からなること、その算定基礎となる別表三の項目のうち租税公課、火災保険料、借入金利子及び雇人数の金額が被告主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。そこで別表三のその他の項目について検討する。

2  賃貸料及び共益費

(一)  三銀ビルの別表四の貸室のうち、二〇七号室、四〇一号室、四〇三号室、四〇五号室(新菱冷熱工業)、四〇八号室(斉久工業)、四一〇号室、五〇一号室(イースタンエレクトロニクス)及び五〇六号室を除く貸室につき、少なくとも被告主張額の賃貸料及び共益費収入が存したことは、当事者間に争いがない。

(二)  乙第一号証の一ないし二三について

被告は、賃貸料、共益費及び償却費の収入金額を立証する主要な証拠として乙第一号証の一ないし二三(貸室料台帳)を提出しているので、その原本の存在及び成立並びに信用性について判断する。

証人池本征男の証言により成立の認められる乙第六一号証の一、証人谷口昭司、同安達栄の各証言によると、被告は、本件各係争年度当時原告の従業員で賃貸料、共益費等の記帳事務を担当していた鈴木与一(以下「鈴木」という。)から、直接乙第一号証の一ないし二三の原本の提出を受け、被告所部係官の谷口昭司が複写機でその写である乙第一号証の一ないし二三を作成したこと、証人片山和英の証言(第一回)及び原告本人尋問の結果(第一回)によると、右の原本は鈴木が作成したものであることが認められ、右の認定に反する証拠はない。したがって、乙第一号証の一ないし二三の原本の存在及び成立が認められる。

ところで、証人片山和英(第一回)及び原告本人(第一回)は、右の原本は鈴木が個人的に手控えとして作成したものであり、原告はこれまで右の原本を見たことがない、正規の帳簿は別に存在していた旨供述している。しかし、鈴木が正規の帳簿とは別に貸室料台帳の手控えを作成しなければならない事情は認められないこと、原告から正規の帳簿の提出はないこと、乙第一号証の一ないし二三は、記載内容から見て、賃借人ごとに賃貸料、共益費、保証金、敷金等の支払があった都度記載したものであることが推認されること、原告本人尋問の結果(第一回)により成立の認められる甲第一〇号証、原本の存在及び成立に争いのない乙第三号証、証人谷口昭司の証言により成立の認められる乙第一七、第二三、第三二、第三六、第三七、第四〇号証によると、乙第一号証の一ないし二三の記載内容は、原告の小切手金銭出納帳、賃貸料及び共益費の領収証並びに賃借人の不動産の使用料等の支払調書の記載内容と符合していることが認められること、成立に争いのない乙第八二号証及びそれにより原本の存在及び成立の認められる乙第八一号証によると、鈴木は乙第一号証の一ないし二三と同一形式で昭和四〇年七月一五日からの貸室料収入を記載した帳簿を作成し、それには原告の訂正印も押捺されていることが認められること、以上の事実を総合すれば、乙第一号証の一ないし二三は原告と賃借人との間の賃貸借契約の内容及び賃貸料、共益費、償却費等の支払状況を正確に記載したものということができる。

原告は、賃貸料、共益費等の収入金額を立証する証拠として、甲第七号証の七、九、一〇、一五を提出している。しかし、これらはいずれも原告の賃貸料、共益費等の収入状況を日々記載した原始記録ではなく、後で一括作成した集計表にすぎず、基となった原始記録の種類内容も不明である上、記帳が粗雑であって、その証明力において乙第一号証の一ないし二三に勝るものとはいえない。したがって、両者の記載に不一致がある場合は、乙第一号証の一ないし二三の記載を採用すべきものと認められる。

(三)  そこで、前掲の争いのある貸室について判断するに、次に掲げる証拠により、いずれも別表四(被告主張額欄)どおりの賃貸料及び共益費の収入が存したことを認めることができる。

(1) 二〇七号室

前顕乙第一号証の七、証人谷口昭司の証言により成立の認められる乙第二号証の一、二。

(2) 四〇一号室

前顕甲第一〇号証、乙第一号証の一二、第三号証。

(3) 四〇三号室

前顕乙第一号室の一三。

(4) 四〇五号室(新菱冷熱工業)

前顕甲第一〇号証、証人安達栄の証言により原本の存在及び成立の認められる乙第五四号証。

(5) 四〇八号室(斉久工業)

前顕甲第一〇号証、証人安達栄の証言により原本の存在及び成立の認められる乙第五五号証。

(6) 四一〇号室

前顕乙第一号証の一七。

(7) 五〇一号室(イースタンエレクトロニクス)

証人安達栄の証言により原本の存在及び成立の認められる乙第五六号証。

(8) 五〇六号室

前顕乙第一号証の二二。

(四)  以上のとおりであるから、結局、被告主張のとおり、一八七四万六〇六〇円の賃貸料収入及び一二三万七一〇〇円の共益費収入が存したものと認めることができる。

3  保証金(敷金)償却

(一)  前顕乙第一号証の一ないし二三、第六一号証の一、原本の存在及び成立に争いのない乙第六、第五七、第五八号証、証人鳥栖明の証言により成立の認められる乙第五三号証、証人池本征男の証言により成立の認められる乙第六一号証の二、証人池野利弘の証言及び弁論の全趣旨によると、本件各係争年度当時、三銀ビルの貸室賃貸借契約の締結又は更新に際し、地階、一階及び二階の賃借人は原告に対し保証金を差し入れ、期間満了又は契約解除の場合は償却費として保証金の二〇%に相当する金額を支払うこと、三階以上の賃借人は原告に対し敷金を差し入れ、期間満了又は契約解除の場合は償却費として賃貸料の二か月分に相当する金額を支払うこと、右償却費は保証金又は敷金の中から充当することが約されていたことが認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。このように、賃貸借契約を締結又は更新して保証金又は敷金の差入れを受け、特約により右金員のうち一定額は償却費として賃借人に返還することを要しないものと定めたときは、特段の事情がない限り原告は右契約締結又は更新の時に償却分についてこれを自由に使用収益することができるようになったのであるから、この時点で収入すべき権利が確定し、右償却分を収入金額に算入すべきものというべきである。

(二)  そして、三銀ビルの別表五の貸室のうち、二〇二号室、二〇五号室、二〇六号室、三〇二号室、三〇五号室、三〇六号室、四〇一号室、四〇三号室、四〇六号室(美興)、四〇七号室、五〇一号室、五〇六号室、六〇四号室(図書月販)及び六〇五号室を除く貸室につき、少なくとも被告主張額の保証金又は敷金の償却による収入が存したことは、当事者間に争いがない。

(三)  そこで、以下、右の争いのある貸室について判断する。

(1) 二〇二号室

証人池野利弘(第一回)及び同山根勇作の各証言により成立の認められる甲第八号証、成立に争いのない甲第一一三号証、前顕乙第一号証の六によると、原告は、昭和四二年二月、株式会社富士屋石油との間で二〇二号室の賃貸借契約を締結し、少なくとも五〇万円(甲第八号証には七〇万円と記載されている。)の保証金の差入れを受けたことが認められるから、少なくともその二〇%に相当する一〇万円(甲第一三号証には年度を異にするものの一七万円と記載されている。)の保証金償却による収入が存したものと認むべきである。

(2) 二〇五号室・二〇六号室

前顕甲第八号証、乙第一号証の七によると、原告は、昭和四二年二月、株式会社パールとの間で二〇五号室・二〇六号室の賃貸借契約を締結し、同年五月までに保証金八〇万円の差入れを受けたことが認められるから、その二〇%に相当する一六万円の保証金償却による収入が存したものと認むべきである。

(3) 三〇二号室

前顕甲第八号証、乙第一号証の九によると、原告は、昭和四二年六月、株式会社ピー・アール・・セブンとの間で三〇二号室の賃貸借契約を更新し、賃貸料を一か月三万九二〇〇円と定め、少なくとも三一万〇八〇〇円の敷金の差入れを受けていたことが認められるから、三万九二〇〇円に二を乗じた七万八四〇〇円の敷金償却による収入が存したものと認むべきである。

(4) 三〇五号室

前顕甲第八号証、乙第一号証の一一によると、原告は、昭和四二年一一月、株式会社ゼネラル・コンストラクションとの間で三〇五号室の賃貸借契約を締結し、賃貸料を一か月四万円と定め、敷金四〇万円の差入れを受けたことが認められるから、四万円に二を乗じた八万円の敷金償却による収入が存したものと認むべきである。

(5) 三〇六号室

前顕甲第八号証、乙第一号証の一一によると、原告は、昭和四二年三月、ファンデーション株式会社との間で三〇六号室の賃貸借契約を締結し、賃貸料を一か月三万九二〇〇円と定め、同年七月までに敷金三九万二〇〇〇円の差入れを受けたことが認められるから、三万九二〇〇円に二を乗じた七万八四〇〇円の敷金償却による収入が存したものと認むべきである。

(6) 四〇一号室

前顕乙第一号証の一二によると、原告は、昭和四二年五月、日本アートセンターとの間で四〇一号室の賃貸借契約を締結し、賃貸料を一か月三万九二〇〇円と定め、敷金三九万二〇〇〇円の差入れを受けたことが認められるから、三万九二〇〇円に二を乗じた七万八四〇〇円の敷金償却による収入が存したものと認むべきである。

(7) 四〇三号室

前顕乙第一号証の一三によると、原告は、昭和四二年三月、昭和産業・昭和建設との間で四〇三号室の賃貸借契約を締結し、賃貸料を一か月三万九二〇〇円と定め、同年六月ころまでに敷金三九万二〇〇〇円の差入れを受けたことが認められるから、三万九二〇〇円に二を乗じた七万八四〇〇円の敷金償却による収入が存したものと認むべきである。

(8) 四〇六号室(美興)

前顕甲第八号証、乙第一号証の二一によると、原告は、昭和四二年七月、株式会社美興との間で四〇六号室の賃貸借契約を締結し、賃貸料を一か月三万九二〇〇円と定め、同年八月ころまでに敷金三九万二〇〇〇円の差入れを受けたことが認められるから、三万九二〇〇円に二を乗じた七万八四〇〇円の敷金償却による収入が存したものと認むべきである。

(9) 四〇七号室

前顕甲第八号証、乙第一号証の二一によると、原告は、昭和四二年二月、大宝産業株式会社との間で四〇七号室の賃貸借契約を更新し、賃貸料を一か月三万九二〇〇円と定め、敷金三九万二〇〇〇円の差入れを受けていたことが認められるから、三万九二〇〇円に二を乗じた七万八四〇〇円の敷金償却による収入が存したものと認むべきである。

(10) 五〇一号室

前顕甲第八号証、乙第一号証の一四、第五三号証によると、原告は、昭和四二年四月、株式会社デザイン・オフィス・ナークとの間で五〇一号室の賃貸借契約を締結し、賃貸料を一か月五万四〇〇〇円と定め、敷金五四万円の差入れを受けたことが認められるから、五万四〇〇〇円に二を乗じた一〇万八〇〇〇円の敷金償却による収入が存したものと認むべきである。

(11) 五〇六号室

前顕乙第一号証の二二によると、原告は、昭和四二年一〇月、佐藤いさ子との間で五〇六号室の賃貸借契約を更新し、賃貸料を一か月四万円と定め、敷金二二万円の差入れを受けていたこと 認められるから、四万円に二を乗じた八万円の敷金償却による収入が存したものと認むべきである。

(12) 六〇四号室(図書月販)

前顕乙第一号証の二〇によると、原告は、昭和四二年七月、株式会社図書月販との間で六〇四号室の賃貸借契約を締結し、賃貸料を一か月三万九二〇〇円と定め、敷金三九万二〇〇〇円の差入れを受けたことが認められるから、三万九二〇〇円に二を乗じた七万八四〇〇円の敷金償却による収入が存したものと認むべきである。

(13) 六〇五号室

前顕乙第一号証の一九によると、原告は、昭和四二年四月、樹建築設計との間で六〇五号室の賃貸借契約を締結し、賃貸料を一か月三万九二〇〇円と定め、同年七月ころまでに敷金三九万二〇〇〇円の差入れを受けたことが認められるから、三万九二〇〇円に二を乗じた七万八四〇〇円の敷金償却による収入が存したものと認むべきである。

(四)  以上のとおりであるから、結局、被告主張のとおり合計一八三万六八〇〇円の保証金又は敷金償却による収入が存したものと認めることができる。

4  無予告解約金

原告が三銀ビルの貸室賃貸借契約に際し、賃借人との間で、賃借人が契約を解除しようとするときは、六か月以前に書面をもって原告に予告すること、但し、右予告に代え六か月分の賃貸料相当額(無予告解約金)を原告に支払うときは即時解除することができる旨の特約をしたことは、当事者間に争いがない。

前顕乙第一号証の二〇、証人鳥栖明の証言、同証言により成立の認められる乙第五二号証によると、原告は、昭和四二年七月二〇日株式会社図書月販との間で六〇四号室の賃貸借契約を締結した際、右の無予告解約金の特約をし、同社から敷金三九万二〇〇〇円の交付を受けたこと、同社は、同年一二月下旬契約を解除したが、原告に対し右の特約に基づく解約予告をしなかったため、昭和四三年四月一六日に右敷金から、賃貸料(一か月三万九二〇〇円)の六か月分に相当する無予告解約金二三万五二〇〇円、償却分七万八四〇〇円及び修理費八〇〇円を控除し、賃貸料の日割計算戻し金九四二九円を加算した精算金八万七〇二九円の返還を受けたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

原告は、無予告解約金の特約に基づいて賃借人から解約金を受領したことはほとんどなく、本件についても、当賃借人が解約予告をしたと主張して支払わなかった旨主張するが、右各証拠に照らして採用できない。

右事実によると、原告は、右契約解除の際、無予告解約金二三万五二〇〇円を収受したものというべきである。

5  雑収入

前顕乙第六一号証の一、二、証人池本征男の証言、原告本人尋問の結果(第一回、但し、一部)及び弁論の全趣旨によると、本件各係争年度当時、三銀ビルの三階以上の各室には、電気及び水道の使用量メーターが取り付けられていたので、賃借人は右の料金を直接東京電力株式会社と東京都水道局へ支払っていたこと、しかし、地階、一階及び二階の各室には、使用量メーターが取り付けられていなかったため、原告は、賃借人から電気料金及び水道料金を徴収し、東京電力株式会社と東京都水道局へ一括して支払っていたこと、原告が徴収した毎月の料金のうち帳簿上金額の明確なものは、別表六(昭和四二年分)及び別表一二(昭和四三年分)のとおりであり、昭和四二年の一月、二月分は徴収金額が不明であること、原告は、右の電気料金及び水道料金を三銀ビルの水道光熱費として必要経費に算入しながら、徴収金額を収入金額に計上していなかったことが認められる。したがって、右の電気料金及び水道料金は、雑収入として収入金額に算入すべきである。

原告本人(第一回)は、実際には電気料金及び水道料金を徴収していないところもあり、被告が主張する金額にはならない旨供述しているが、供述自体不明確であり、右各証拠に照らして採用できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。なお、原告は、仮に右の雑収入が認められるとしても、それを上回る経費支出がありながら、経費計上していないものがあるから、最終的な所得金額には消長をきたさない旨主張し、一例として税理士池野利弘に対する事務所開設祝金をあげ、証人池野利弘(第二回)は、昭和四三年暮れに右の祝金として約二〇万円を受領した旨供述するが、原告の総勘定元帳(甲第八号証)や経費明細帳(甲第一四号証)にはそのような記載は全くなく、その他原告の主張を認めるに足りる証拠はないから、右主張は前提を欠き採用できない。

ところで、昭和四二年一月及び二月分の徴収金額は、他にこれを認定すべき的確な資料がないので、別表六記載の計算により推計するのが相当である。

したがって、昭和四二年分の電気料金及び水道料金徴収による雑収入金額は五五万二三五五円となる。

6  修繕費等の経費九科目

原告本人尋問(第一回)により成立の認められる甲第九号証、成立に争いのない乙第四九号証、第六二号証の一、二、前顕乙第六一号証の一、証人安達栄の証言により原本の存在及び成立の認められる乙第六三号証の二二、証人安達栄及び同山根勇作(一部)の各証言によると、次の事実が認められる。

原告は、昭和四二年分の不動産所得に係る必要経費の金額、内容を証する資料として経費明細帳(甲第九号証)と領収証等とを備え付けているが、領収証等の保存状況は極めて悪く、保存されている領収証等にも、あて名、日付又は金額を改ざんしたものが多数含まれている。そして、経費明細帳には、改ざんされた領収証等による経費、家事費、家事関連費、原告の夫の三根谷実蔵弁護士関係の経費、支出事実のない経費が多数記載されている。原告の不動産所得について決算作業を行った税理士も、経費明細帳記載の経費について、その真偽及び業務関連性を検討することなく、記載経費のすべてを不動産所得に係る経費として決算した。

右の認定事実によると、原告の経費支出に関する帳簿書類はその記載全体が極めて不正確であって、これに基づいて必要経費の金額及び内容を認定することは不可能であるといわなければならない。そして、他にこれを的確に認定し得る資料はないから、推計によって算定する以外に方法はないところ、原告の不動産賃貸業の営業規模、形態等は本件各係争年度を通じてほぼ同様であり、その間に特別の差異は認められないから、昭和四三年分の不動産所得に係る総収入金額に対する修繕費等の経費九科目(別表九の修繕費から雑費等までの九科目)の割合を、昭和四二年分の総収入金額に乗じて、昭和四二年分の修繕費等の経費九科目の金額を推計するのが合理的である。原告は、右の推計には必要性及び合理性がないと主張するが、その理由のないことは右の説示から明らかである。

そして、原告の昭和四三年分の不動産所得に係る後記総収入金額二一七六万〇七二六円に対する同年分の後記修繕費等の経費九科目の合計額二七七万四〇八三円の割合を原告の昭和四二年分の不動産所得に係る総収入金額二二六〇万七五一五円に乗じると二八八万二〇三三円となる。

したがって、原告の昭和四二年分の修繕費等の経費九科目の合計額は二八八万二〇三三円と認むべきである。

7  減価償却費

(一)  原告所有の減価償却資産が三銀ビル及びその附属設備の昇降機であること、三銀ビルの取得価額が七五二一万二六五九円であり、選定された償却方法が定額法であること、昇降機の減価償却費が一九万八三六〇円であることは、当事者間に争いがない。そして、後記(二)の認定事実及び弁論の全趣旨により、三銀ビルは主に事務所用の建物と認められるから、耐用年数六五年を適用するのが相当である。そうだとすれば、三銀ビルに係る減価償却費は、取得価額七五二一万二六五九円から残額七五二万一二六五円を控除した六七六九万一三九四円に、耐用年数六五年の定額法による償却率〇・〇一六を乗じた一〇八万三〇六二円となる。

したがって、昭和四二年分の減価償却費は合計一二八万一四二二円となる。

(二)  三銀ビルに割増償却の適用があるか否かについて判断するに、原告は、被告所部係官が三銀ビルについて割増償却の適用があることを是認していたから、被告がその適用を否定することは禁反言の法理等により許されないと主張し、原告本人(第一回)も右主張に副う供述をするが、右の供述はあいまいであってにわかに採用できず、他に右事実を認めるに足りる証拠はないから、原告の主張は理由がない。

そこで、三銀ビルが本件各係争年度当時措置法及び施行令所定の割増償却の要件を具備していたか否かについて検討するに、三銀ビルが昭和三九年一一月二〇日に新築され、その総床面積は五四六・一九坪であることは、当事者間に争いがない。被告は、三銀ビルの貸室について、もっぱら住宅の用に供されているものとそれ以外の用に供されているものの区分は別表七のとおりであると主張するのに対し、原告は、被告が自認するもののほか、別表八のものはもっぱら住宅の用に供されていたと主張する。施行令七条二項二号は、割増償却の対象として、「耐火構造又は簡易耐火構造を有する地上階数三以上の家屋でその床面積の二分の一以上に相当する部分がもっぱら住宅として貸家の用に供されているものの当該住宅として貸家の用に供されている部分」を掲げているが、貸室の場合、「もっぱら住宅として貸家の用に供されているもの」に該当するためには、当該貸室が一〇〇%又はそれに近い割合で住宅の用に供されていることを要し、一室の大部分を店舗の用に供し、その極一部を住いに用いているものや、昼間は事務所の用に供し、夜間従業員が寝泊まりするだけのものは、右に該当しないと解すべきである。

前顕乙第一七号証、証人谷口照司の証言、同証言により成立の認められる乙第一八号証、成立に争いのない乙第一九、第四四号証、証人高津吉忠の証言により成立の認められる乙第七七号証(但し、別添の写真が三銀ビルを撮影したものであることは争いがない。)によると、一〇一号室及び一〇二号室(約二四坪)は、株式会社レストラン・ド・ヤチヨがその大部分を飲食店として使用し、奥の二・五坪の部分に代表者の家族が居住していたにすぎなかったことが認められる。

前顕乙第七七号証、証人谷口照司の証言、原告本人尋問の結果(第一回)によると、一〇六号室は、三銀ビルの管理事務所及び三根谷法律事務所であって、原告と原告の夫三根谷実蔵が事務所として共同で使用し、その一画にベッドを置き原告の従業員を寝泊まりさせていたにすぎなかったことが認められる。

前顕乙第五七、第五八号証、原告本人尋問の結果(第一回)によると、二〇一号室は、安藤商事株式会社及び昭栄物産株式会社が事務所として使用していたことが認められる。

原立に争いのない乙第二〇、第四五号証、証人谷口照司の証言、原告本人尋問の結果(第一回)によると、二〇五号室及び二〇六号室は、株式会社パールが飲食店(二〇五号室)及び麻雀店(二〇六号室)として使用していたことが認められる。

原本の存在及び成立の認められる乙一五号証の六、証人谷口照司の証言により成立の認められる乙第一二、第二一ないし第二四号証(第二二号証は原本の存在も認められる。)によると、三〇一号室は、株式会社ピー・アール・セブン及び株式会社ジェー・ピー・ピーがそれぞれ広報コンサルタント、出版業の事務所として使用し、従業員が仕事の都合で時たま泊まる程度であったことが認められる。

原本の存在及び成立に争いのない乙第一五号証の五、前顕乙第二一号証、証人谷口照司の証言により成立の認められる乙第二五、第二六号証によると、三〇三号室は、株式会社ハル・アドが商業デザイン業の事務所として使用していたことが認められる。

原本の存在及び成立に争いのない乙第一四号証の二、証人谷口照司の証言により成立の認められる乙第二七号証によると、三〇四号室は、有限会社アド・エージ・プロが美術広告業の事務所として使用し、ほとんど寝泊まりすることはなかったことが認められる。

原本の存在及び成立に争いのない乙第一五号証の四、証人谷口照司の証言、同証言により成立の認められる乙第二八号証、成立に争いのない乙第三五号証によると、四〇五号室は、当初新菱冷熱工業株式会社が冷暖房工事の現場事務所として使用し、従業員が仕事の都合で泊まることがあったこと、その後入居した有限会社ニシヤマクリエイトも商業写真業の事務所として使用していたことが認められる。

原本の存在及び成立に争いのない乙第一五号証の三、第一六号証の二、証人谷口照司の証言により成立の認められる乙第八、第一三、第二九号証、成立に争いのない乙第三〇号証、前顕乙第五三号証によると、五〇一号室は、イースタンエレクトロニクス株式会社が使用していた当時は主に会社の事務所として使用され、代表者が上京中の宿泊に利用していたこと、その後入居した株式会社デザイン・オフィス・ナークは商業写真業の有限会社家庭通信社は出版業の事務所としてそれぞれ使用していたことが認められる。

原本の存在及び成立に争いのない乙第一四号証の四、証人谷口照司の証言により成立の認められる乙第三一ないし第三三号証、成立に争いのない乙第三四号証によると、五〇二号室及び五〇三号室は、株式会社スタジオ・エフが広告写真業の事務所兼スタジオとして使用していたことが認められる。

前顕乙第一五号証の四、第三五、三六号証、証人谷口照司の証言によると、五〇四号室は、有限会社ニシミヤクリエイトが商業写真業の事務所として使用していたことが認められる。

前顕乙第三七号証によると、五〇五号室は、フォルテ商事株式会社が事務所として使用していたことが認められる。

成立に争いのない乙第三八号証によると、六〇一号室は、株式会社ルーム・エヌ・ワイが商業写真業の事務所として使用していたことが認められる。

原本の存在及び成立に争いのない乙第一五号証の八、証人谷口照司の証言により成立の認められる乙第三九号証によると、六〇二号室は、防除機械協会が事務所として使用していたことが認められる。

前顕乙第一五号証の三、第五三号証、原本の存在及び成立に争いのない乙第一六号証の三、証人谷口照司の証言により成立の認められる乙第一〇、第四〇、第四二号証、成立に争いのない乙第四一、第四三号証によると、六〇六号室は、当初入居した株式会社デザイン・オフイス・ナークが商業写真業の事務所として使用し、その後入居した株式会社サンブレイズがプラスチックカードの製造販売業の事務所として使用し、当初の一、二か月間従業員が宿直したことがあったにすぎないことが認められる。

甲第四号証の一ないし一二の記載及び原告本人の供述(第一回)の中には、以上の各室をもっぱらあるいは一部住宅として使用していた旨の部分があるが、右に掲げた証拠に照らし措信できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

以上の事実によると原告が「もっぱら住宅の用に供するもの」に当ると主張する別表八の各室は、いずれも主に店舗、事務所として使用されていたものであることが認められるから、別表七の被告の区分は正当であるというべきである。

そうだとすれば、三銀ビルの総床面積五四六・一九坪のうち、もっぱら住宅の用に供されている部分は合計九三・四二坪で、その割合は一七・一〇%となるから、三銀ビルは、その床面積の二分の一以上に相当する部分がもっぱら住宅として貸家の用に供されているものとはいえず、割増償却の適用はないものというべきである。

8  総所得金額

以上のとおりであるから、原告の昭和四二年分の総所得金額は、別表三(認定額)のとおり一五七九万〇一三〇円となる。本件処分による総所得金額は一五六四万八一八六円で右金額の範囲内にあるから、本件処分には所得金額を過大に認定した違法はない。

三  昭和四三年分総所得金額について

1  原告の総所得金額が三銀ビルの貸室による不動産所得からなること、その算定基礎となる別表九の項目のうち火災保険料、水道光熱費及び雇人費の金額が被告主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。そこで、別表九のその他の項目について検討する。

2  賃貸料及び共益費

(一)  三銀ビルの別表一〇の貸室のうち、二〇七号室(国枝秀夫)、二〇七号室(寺田商事)、三〇七号室、四〇一号室、四〇三号室(ピー・アール・セブン)、四〇八号室、五〇一号室(デザイン・オフィス・ナーク)、五〇一号室(家庭通信社)、六〇四号室、六〇六号室(デザイン・オフィス・ナーク)及び六〇六号室(サンブレイズ)を除く貸室につき、被告主張額の賃貸料及び共益費収入が存したことは、当事者間に争いがない。

(二)  そこで、右争いのある貸室について判断するに、次に掲げる証拠により、いずれも別表一〇(被告主張額欄)どおりの賃貸料及び共益費(但し、三〇七号室については賃貸料三四万五〇〇〇円及び共益費三万八〇〇〇円、四〇一号室については賃貸料三八万三九九四円及び共益費二万八八〇〇円、六〇六号室・サンブレイズについては賃貸料三三万三八五〇円及び共益費二万二二〇〇円)の収入が存したことが認められる。

(1) 二〇七号室(国枝秀夫)

前顕乙第一号証の二三。

(2) 二〇七号室(寺田商事)

証人安達栄の証言により成立の認められる乙第一一号証。

(3) 三〇七号室

成立に争いのない乙第五号証。

(4) 四〇一号室

前顕乙第五号証。

(5) 四〇三号室(ピー・アール・セブン)

前顕乙第一二号証。

(6) 四〇八号室

前顕乙第五、第六、第二五、第二六号証、成立に争いのない乙第七号証。

(7) 五〇一号室(デザイン・オフイス・ナーク)

前顕乙第四二、五三号証。

(8) 五〇一号室(家庭通信社)

前顕乙第八、第一三号証。

(9) 六〇四号室

前顕乙第五号証及び証人谷口照司の証言により成立の認められる乙第九号証。

(10) 六〇六号室(デザイン・オフィス・ナーク)

前顕乙第四二、第五三号証。

(11) 六〇六号室(サンブレイズ)

前顕乙第五、第一〇号証。

(三)  なお、甲第八号証(総勘定元帳)及び甲第一五号証(金銭出納帳)には、前記(二)の賃貸料及び共益費の全部又は一部の記載がないが、前記(二)掲記の証拠に照らし、記帳漏れと認めるほかなく、他に前記(二)の認定を覆すに足りる証拠はない。

(四)  以上のとおりであるから、昭和四三年分の賃貸料収入金額は一八〇八万〇〇三三円、共益費収入金額は一二二万六六六三円である。

3  保証金(敷金)償却

被告は、三銀ビルの別表一一の貸室について被告主張額欄記載の保証金又は敷金の償却による収入が存したと主張するところ、原告はこれを争うので、前記二3(一)の認定を前提として、以下各貸室ごとに検討する。

(一)  一〇三号室

前顕甲第八号証、乙第一号証の五、証人山根勇作の証言により成立の認められる甲第一五号証によると、原告は、昭和四三年二月、小島悦子との間で一〇三号室の賃貸借契約を締結し、保証金八〇万円の差入れを受けたことが認められるから、その二〇%に相当する一六万円の保証金償却による収入が存したものと認むべきである。

(二)  二〇一A号室及び二〇一B号室

前顕甲第八、第一五号証、乙第一号証の五、第五七、第五八号証によると、原告は、安藤商事株式会社との間で、二〇一号室(約二〇坪)につき期間を昭和四一年二月一日から昭和四六年一月三一日までとする賃貸借契約を締結し、昭和四一年三月までに保証金一二〇万円の差入れを受けたこと、ところが、二〇一号室は同社と昭栄物産株式会社の二社で使用するようになり、原告は、昭和四三年一〇月一日に至り、二〇一号室を二〇一A号室(約一〇坪)と二〇一B号室(約一〇坪)とに区分し、安藤商事株式会社との間で二〇一A号室につき期間を同年二月一日から昭和四六年一月三一日までとし保証金を七〇万円(償却分一〇%)とする賃貸借契約を締結するとともに、昭栄物産株式会社との間で二〇一B号室につき期間を昭和四三年二月一日から昭和四六年一月三一日までとし保証金を五〇万円(償却分二〇%)とする賃貸借契約を締結したことが認められる。昭和四三年一〇月一日の契約は、当初契約と対象物件を同じくするのみならず、期間も当初の契約期間内のものであって、保証金についても、当初差し入れられた一二〇万円を単に安藤商事株式会社分の七〇万円と昭栄物産株式会社分の五〇万円に区分したにすぎず、新たな保証金の差入れを受けたものではないとの疑いが極めて強い。そうだとすれば、当初の一二〇万円の保証金差入れに伴う収入とは別個に、昭和四三年一〇月一日の契約に伴う保証金償却の収入が発生したか否かは明らかでないといわざるを得ない。したがって、二〇一A号室についての七万円、二〇一B号室についての一〇万円の保証金償却による収入については、証明がないというべきである。

(三)  二〇七号室

前顕甲第八号証、乙第一一号証によると、原告は、昭和四三年一〇月、寺田商事株式会社との間で二〇七号室の賃貸借契約を締結し、賃貸料を一か月四万円と定め、保証金七〇万円の差入れを受けたことが認められるから、被告主張のように、少なくとも五万円に二を乗じた一〇万円の保証金償却による収入が存したものと認むべきである。

(四)  三〇一号室

前顕甲第八、第一五号証、乙第一号証の八によると、原告は、昭和四三年一二月二四日、株式会社ジェー・ピー・ピーとの間で三〇一号室の賃貸借契約を更新し、賃貸料を一か月四万五〇〇〇円と定め、敷金三五万五〇〇〇円の差入れを受けていたことが認められるから、四万五〇〇〇円に二を乗じた九万円の敷金償却による収入が存したものと認むべきである。

(五)  三〇四号室

前顕甲第八、第一五号証、乙第一号証の一〇によると、原告は、昭和四三年一月、株式会社アド・エージ・プロとの間で三〇四号室の賃貸借契約を更新し、賃貸料を一か月三万九二〇〇円と定め、敷金四〇万円の差入れを受けていたことが認められるから、三万九二〇〇円に二を乗じた七万八四〇〇円の敷金償却による収入が存したものと認むべきである。

(六)  三〇七号室

前顕乙第五号証と、これまで述べてきたように原告が三銀ビル貸室の賃貸借契約締結に際し賃貸料のほぼ一〇か月分に相当する保証金又は敷金の差入れを受けている事実に照らせば、原告は、昭和四三年六月、牧圭二との間で三〇七号室の賃貸借契約を締結し、賃貸料を一か月四万五〇〇〇円と定め、ほぼその一〇か月分の敷金の差入れを受けたものと認めることができるから、四万五〇〇〇円に二を乗じた九万円の敷金償却による収入が存したものと認むべきである。

(七)  四〇一号室

前顕甲第八、第一五号証、乙第五号証によると、原告は、昭和四三年三月、幸田嘉誉との間で四〇一号室の賃貸借契約を締結し、賃貸料を一か月四万円と定め、敷金三二万円の差入れを受けたことが認められるから、四万円に二を乗じた八万円の敷金償却による収入が存したものと認むべきである。

(八)  四〇三号室

前顕甲第八、第一五号証によると、原告は、昭和四三年一〇月、平岡高志との間で四〇三号室の賃貸借契約を締結し、賃貸料を一か月四万円と定め敷金四〇万円の差入れを受けたことが認められるから、四万円に二を乗じた八万円の敷金償却による収入が存したものと認むべきである。

(九)  五〇一号室(家庭通信社)

前顕甲第八号証、乙第八、第一三号証によると、原告は、昭和四三年一〇月、有限会社家庭通信社との間で五〇一号室の賃貸借契約を締結し、賃貸料を一か月五万三〇〇〇円と定め、敷金五三万円の差入れを受けたことが認められるから、五万三〇〇〇円に二を乗じた一〇万六〇〇〇円の敷金償却による収入が存したものと認むべきである。

(一〇)  五〇五号室

前顕甲第八、第一五号証によると、原告は、昭和四三年四月、野田美佐子との間で五〇五号室の賃貸借契約を締結し、賃貸料を一か月三万九二〇〇円と定め、敷金三五万円の差入れを受けたことが認められるから、三万九二〇〇円に二を乗じた七万八四〇〇円の敷金償却による収入が存したものと認むべきである。

(一一)  六〇一号室

前顕甲第八、第一五号証、乙第一号証の一七によると、原告は、昭和四三年一〇月、株式会社ルーム・エヌ・ワイとの間で六〇一号室の賃貸借契約を更新し、賃貸料を一か月四万五六〇〇円と定め、敷金四五万六〇〇〇円の差入れを受けていたことが認められるから、四万五六〇〇円に二を乗じた九万一二〇〇円の敷金償却による収入が存したものと認むべきである。

(一二)  六〇三号室

前顕甲第八、第一五号証、乙第一号証の一八によると、原告は、昭和四三年一〇月、株式会社セントラル・スタジオとの間で六〇三号室の賃貸借契約を更新し、賃貸料を一か月三万九二〇〇円と定め敷金三五万二八〇〇円の差入れを受けていたことが認められるから、三万九二〇〇円に二を乗じた七万八四〇〇円の敷金償却による収入が存したものと認むべきである。

(一三)  六〇四号室

前顕甲第八、第一五号証、乙第五、第九号証によると、原告は、昭和四三年四月、高橋章泰との間で六〇四号室の賃貸借契約を締結し、賃貸料を一か月四万円と定め、敷金四〇万円の差入れを受けたことが認められるから、四万円に二を乗じた八万円の敷金償却による収入が存したものと認むべきである。

(一四)  六〇六号室(サンブレイズ)

前顕甲第一五号証、乙第一〇号証と、これまで述べてきたように原告が三銀ビル貸室の賃貸借契約締結に際し賃貸料のほぼ一〇か月分に相当する敷金の差入れを受けている事実に照らせば、原告は、昭和四三年五月、株式会社サンブレイズとの間で六〇六号室の賃貸借契約を締結し、賃貸料を一か月四万五〇〇〇円と定め、ほぼその一〇か月分の敷金の差入れを受けたものと認めることができるから、四万五〇〇〇円に二を乗じた九万円の敷金償却による収入が存したものと認むべきである。

以上のとおりであるから、合計一二〇万二四〇〇円の保証金又は敷金償却による収入が存したものと認めることができる。

4  無予告解約金

原告が三銀ビルの貸室賃貸借契約に際し、賃借人との間で前記二4の無予告解約金の特約をしたことは、当事者間に争いがない。

前顕甲第八、第一五号証、乙第一号証の一四、二〇、第五三号証によると、原告は、昭和四二年四月及び五月、株式会社デザイン・オフィス・ナークとの間で五〇一号室及び六〇六号室の賃貸借契約を締結し、無予告解約金の特約をし、同社から敷金合計一〇〇万円(五〇一号室五四万円、六〇六号室四六万円)の交付を受けたこと、同社は、昭和四三年五月初め契約を解除したが、右の特約に基づく解約予告をしなかったため、右敷金から、賃貸料(一か月分五〇一号室五万四〇〇〇円、六〇六号室四万六〇〇〇円)の六か月分に相当する無予告解約金合計六〇万円を控除した残額の返還を受けたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

原告は、当賃借人が特約により解約予告をしたと主張して無予告解約金を支払わなかった旨主張するが、右各証拠に照らして採用できない。

右事実によると、原告は、右契約解除の際、無予告解約金六〇万円を収受したものというべきである。

5  雑収入

前記二5認定のとおり、原告の昭和四三年分の雑収入は、別表一二のとおり六五万一六三〇円である。

6  租税公課

(一)  原告の総勘定元帳の租税公課の記帳額が別表一三(原告主張欄)のとおりであることは、当事者間に争いがない。

(二)  原告の昭和四三年分の固定資産税が六六万九九〇〇円であることは、当事者間に争いがない。

また、昭和四二年分の必要経費に算入されるべき租税公課が七〇万七一九〇円であることは、当事者間に争いがないところ、前顕甲第八、第一〇号証、証人山根勇作の証言により成立の認められる甲第七号証の六、一三、一四によると、原告は、昭和四三年三月二八日に昭和四二年分固定資産税のうち第四納期分一四万三四〇〇円を納付したこと、この一四万三四〇〇円は右七〇万七一九〇円に含まれていないことが認められる。昭和四二年分の固定資産税であっても、実際に納付した日が昭和四三年中であれば、昭和四三年分の必要経費に算入することを否定すべき理由はない。

したがって、昭和四三年分の必要経費に算入すべき固定資産税は合計八一万三三〇〇円となる。

なお、固定資産税の記帳額九二万四六〇〇円は、第三納期分を二重記帳したもので、採用できない。

(三)  租税公課の記帳額のうち延滞税及び延滞金は、所得税法四五条一項三号、五号の規定により不動産所得の金額の計算上必要経費に算入することができない。

(四)  次に、印紙税について検討するに、前記2、3によると、原告が昭和四三年中に三銀ビル貸室の賃貸借契約を締結ないし更新した件数は、別表一一のうち一五件と別表一〇のうち二件(二〇七号室国枝秀夫と四〇三号室ピー・アール・セブン)の合計一七件であるから、全部の契約者に各二通あて印紙を貼付したとすると、印紙の金額は六八〇円(二〇円(印紙の金額)×一七×二=六八〇円)となる。また、前記2によると、原告が昭和四三年中に受領した賃貸料及び共益費は別表一〇のとおり延三七八月(一月未満は一月として計算する。)であるから、その領収証に印紙を貼付したとすると、印紙の金額は七五六〇円(二〇円(印紙の金額)×三七八=七五六〇円)となる。原告が昭和四三年中の前記一七件の賃貸借契約の締結又は更新の際に賃借人から保証金又は敷金の差入れを受け、その領収証に印紙を貼付したとすると三四〇円(二〇円×一七=三四〇円)となる。更に、前記5によると、原告が地階、一階、二階の賃借人から徴収する電気料金及び水道料金の領収証は二三枚(一万円以上のものに限る。)であるから、これに印紙を貼付したとすれば、四六〇円(二〇円×二三=四六〇円)となる。成立に争いのない乙第四七号証によると、原告は、取引先である大和銀行虎ノ門支店から、昭和四三年二月から同年一一月までの間に一〇〇万円(五口)、二〇〇万円、五〇万円の合計七五〇万円を借り受けたことが認められるから、原告がその支払のため約束手形を振り出し印紙を貼付したとすれば、七七〇円(一〇〇円(一〇〇万円分の印紙の金額)×五+二〇〇円(二〇〇万円分の印紙の金額)+七〇円(五〇万円分の印紙の金額)=七七〇円)となる。よって、印紙税は、以上を合計した九八一〇円と認めるのが相当である。

印紙税の記帳額は一万九八〇〇円であるが、右認定額は、三銀ビル貸室業の遂行上で作成が一応考えられる書類の枚数を原告にできるだけ有利にとらえて計算したものであるから、これを超える記帳額は、三銀ビル貸室業以外の用の印紙に係るものというほかない。

(五)  したがって、昭和四三年分の租税公課は、固定資産税八一万三三〇〇円に印紙税九八一〇円を加算した八二万三一一〇円となる。

7  借入金利子

原告の総勘定元帳の借入金利子の記帳額が大和銀行虎ノ門支店に対する支払利息一三万八九九〇円であることは、当事者間に争いがない。しかし、前顕乙第四七号証によると、大和銀行虎ノ門支店に対する実際の支払利息の額は八万六六七五円であることが認められる。原告本人(第一回)は、右の支払利息以外に、日本不動産銀行から、大和銀行虎ノ門支店の保証の下に三銀ビルの建築資金を借り受け、同支店を通じ利息を支払っており、その合計額は記帳額のとおり一三万八九九〇円である旨供述しているが、裏付けを欠き、たやすく措信できない。

したがって、昭和四三年分の借入金利子は八万六六七五円と認むべきである。

8  修繕費

(一)  原告の総勘定元帳の修繕費の記帳額が九一万五六〇四円であること、このうち一万三〇〇〇円は保守清掃費(後記12)へ振り替えるべきことは、当事者間に争いがない。

(二)  前顕甲第八号証によると、原告の総勘定元帳の修繕費勘定には、昭和四三年六月三〇日に窓枠修理代金一〇万円を当座預金から支払った旨の記載があるが、証人安達栄の証言により原本の存在及び成立の認められる乙第六三号証の一五、一八によると、そのうち三銀ビルの修繕費は一万七〇〇〇円で、残りの八万三〇〇〇円は自宅のカーテン、じゅうたん及び椅子カバーの代金であることが認められる。したがって、右八万三〇〇〇円は必要経費に算入できない。

原告は、右の八万三〇〇〇円は、原告が昭和三九年に成田商店へ発注したカーテン取付け代金の一部であり、同年分の経費として計上しなかったため昭和四三年分の経費として処理したものである旨主張する。しかしながら、所得税法三七条一項の規定によれば、その年分の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額は、当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額と定められているのであって、原告主張の経費は昭和四三年分の必要経費となる余地は全くないから、主張自体失当であるといわなければならない。

(三)  前顕甲第八号証によると、原告の総勘定元帳の修繕費勘定には、三銀ビル入口修理代金として昭和四三年一二月二一日に二〇万円、同月二七日及び同月三〇日に各一五万円、合計五〇万円を当座預金から支払った旨の記載がある。被告は、右五〇万円は支払事実がないため否認すべきであると主張する。

前顕甲第八号証、昭和五五年二月七日原告訴訟代理人が三銀ビルを撮影した写真であることに争いのない甲第一八号証の一ないし九 原告本人尋問の結果(第一回)により成立の認められる甲第一九号証の一ないし六、原告本人尋問の結果(第二回)により成立の認められる甲第三一号証の一ないし三、第三八号証(官公署作成部分の成立については争いがない。)証人吉田宗敏の証言、同証言により成立の認められる乙第六五号証、前顕乙第七七号証、証人池野利弘(第一、二回)の証言、原告本人尋問の結果(第一、二回)によると、次の事実が認められる。

原告は、昭和三九年一〇月ころ株式会社レストラン・ド・ヤチヨ(代表者小川尚)との間で、三銀ビル一階一〇一号室と一〇二号室の賃貸借契約を締結したこと、原告は、昭和四三年一二月、同社のレストランから出る排煙が廊下に漏れて賃借人から種々苦情が出ていたことや廊下の床、壁、天井が著しく汚損したことから、インテリアデザイナーの吉田宗敏に排煙装置の付設と汚損個所の補修を依頼したこと、そこで、吉田宗敏は、そのころ左官、大工職人数人を伴って一階廊下の床、向って右側の壁・天井の塗替え、床・右側の壁のタイルの張替えをしたうえ、天井に簡単な排煙装置を設け、廊下わきの物置の屋根等を補修したこと、原告は、右の工事代金として吉田宗敏に対し、四月二一日二〇万円、同月二七日一五万円、同月三〇日一五万円の合計五〇万円を支払ったことが認められる。右認定に反する前顕乙第六五、第七七号証の各一部は、右各証拠に照らして採用できない。

被告は、三銀ビルの一階廊下の右側壁は昭和四三年当時存在せず、吹抜状態で、排煙装置の設置も昭和四四年中ころのことである旨主張し、証人高津吉忠の証言により成立の認められる乙第七三号証、第七八号証によると、三銀ビルの新築工事を行った西松建設株式会社は、一階廊下の右側壁を設置しなかったこと、同社は、新築後一年以内に追加工事を実施したが、その際も右側壁は設置しなかったことが認められるが、右事実は昭和四三年当時右側壁が存在したことの認定の妨げとなるものではないし、また、前顕乙第七七号証には、小川尚の陳述として被告の主張に副う部分があるが、前顕各証拠、特に甲第三八号証に照らして採用できない。他に前記認定を覆すに足りる証拠はない。よって、被告の主張は理由がない。

(四)  したがって、修繕費は、記帳額の九一万五六〇四円から一万三〇〇〇円と八万三〇〇〇円を控除した八一万九六〇四円と認むべきである。

9  旅費交通費

(一)  原告の総勘定元帳の交通費及び通信費の記帳額が別表一五(原告主張欄)のとおりであること、右記帳通信費のうち電話料二万〇一一六円が原告の自宅に架設された電話に係るものであり、一方、三銀ビルに架設された電話に係る電話料一万三六三一円が記帳漏れとなっていたことは、当事者間に争いがない。

(二)  証人安達栄の証言、同証言により原本の存在及び成立の認められる乙第六三号証の二、弁論の全趣旨によると、銀行関係交通費記帳額六万四一七〇円のうち、実際の支出額は、取引銀行における入出金状況及び往復タクシー代からして多くても三万一九四〇円と認められる。また、右証拠によると、銀行関係以外の交通費記帳額八万六二一〇円も、ほとんどが使途不明で、領収書等の証拠資料が存しないことが認められるから、実際の支出額は記帳額の五〇%(銀行関係交通費記帳額に対する認定額の割合)に相当する四万三一〇五円と認めるのが相当である。この点に関する原告本人の供述(第一回)は採用できない。そうすると、交通費は三万一九四〇円に四万三一〇五円を加算した七万五〇四五円となる。

(三)  通信費記帳額のうち原告の自宅に架設された電話に係る電話料二万〇一一六円は家事費として経費算入を否認すべきであり、右電話料に業務関連性がある旨の原告本人の供述(第一回)は採用できない。一方、三銀ビルに架設された電話に係る電話料が一万三六三一円の記帳漏れを加算した四万四三一三円となることは、被告の自認するところである。

前顕乙第四九号証、証人安達栄の証言、同証言により原本の存在及び成立の認められる乙第六四号証の一、原本の存在及び成立に争いのない乙第六四号証の二、三によると、年賀はがき代の記帳額二四〇〇円は三根谷法律事務所のための出費である可能性が強く、仮にそうではないとしても、原告の家事費あるいは家事関連費であって、原告の業務の遂行上の必要経費とは認められない。

切手代等の記帳額一万二八一〇円についても、その使途を裏付ける資料はないから、前記交通費の認定割合を基準として推認するのが合理的であり、経費に算入できる額は六四〇五円(一万二八一〇円に五〇%を乗じたもの)と認むべきである。そうすると、通信費は、四万四三一三円に六四〇五円を加算した五万〇七一八円である。

(四)  したがって、旅費通信費は、七万五〇四五円に五万〇七一八円を加算した一二万五七六三円と認むべきである。

10  広告宣伝費

(一)  原告の総勘定元帳の広告宣伝費の記帳額が四万八五七〇円であること、そのうち三万八〇七〇円は交際費に振り替えるべきことは、当事者間に争いがない。

(二)  前顕乙第四九号証、第六四号証の一ないし三、証人安達栄の証言、同証言により原本の存在及び成立の認められる乙第六三号証の三によると、右記帳額のうち年賀はがき代の記帳額二八〇〇円は、前記9(三)と同様の理由により、必要経費とは認められない。

成立に争いのない乙第四八号証の四、前顕乙第六三号証の三、一五、証人安達栄の証言によると、右記帳額のうち、財団法人防長クラブ会費の記帳額一五〇〇円は、三銀ビルの広告宣伝には関係のないことが認められる。

(三)  したがって、広告宣伝費は、記帳額四万八五七〇円から右の三万八〇七〇円、二八〇〇円及び一五〇〇円を控除した六二〇〇円と認むべきである。

11  交際費

(一)  原告の総勘定元帳の交際費の記帳額が七五万一五九八円であること、広告宣伝費の記帳額のうち三万八〇七〇円は交際費に振り替えるべきものであることは、当事者間に争いがない。

(二)  証人安達栄の証言、同証書により原本の存在及び成立の認められる乙第六三号証の四、五、一七、一九、前顕乙第六三号証の一五によると、交際費記帳額中領収証のあるもの二八万一三七一円のうち交際費に該当するものは六万四一八〇円であること、領収証のないもの五〇万八二九七円のほとんどは、記帳の内容が不明確で使途不明であることが認められる。そうすると、交際費として認められるのは、領収証のあるものについては六万四一八〇円、領収証のないものについては六万四一八〇円、領収証のないものについては領収証のあるものの認定割合二二・八%(六万四一八〇円÷二八万一三七一円)を考慮し五〇万八二九七円の三〇%である一五万二四八九円と認めるのが相当である。

(三)  原告は、被告が交際費であることを否認する額の中には、原告の女子従業員に贈与した歳暮用のウール反物三反分七万五〇〇〇円が含まれている旨主張するが、女子従業員にのみ歳暮として反物を贈るということ自体不自然であり、証人安達栄の証言によると、原告は審査請求の段階では右金額につき歳暮用に配った風呂敷代と主張していたことが認められ、原告の右主張は七万五〇〇〇円が国税不服審判所の調査の結果ウール反物代と判明したことによる場当たり的な主張というほかなく、到底採用できない。また、原告は、右のほかにも町内会婦人会の新年会の会費等が存する旨主張するが、支出を裏付ける証拠がない上、業務遂行上の必要性も明らかでなく、採用の限りではない。

(四)  したがって、交際費は、前記の六万四一八〇円と一五万二四八九円の合計額である二一万六六六九円と認むべきである。

12  保守清掃費

(一)  原告の総勘定元帳の保守料の記帳額が一二万円、清掃費の記帳額が二九万四〇四〇円、合計四一万四〇四〇円であること、修繕費の記帳額のうち一万三〇〇〇円は清掃費に振り替えるべきこと、清掃費に一八〇〇円の記帳漏れがあることは、当事者間に争いがない。

(二)  証人安達栄の証言、同証言により原本の存在及び成立の認められる乙第六三号証の六、前顕乙第六三号証の一五、原告本人尋問の結果(第一回、但し、一部)によると、清掃費の記帳額のうち三興に対する支払分として領収証があるものの合計額は一四万四八〇〇円であり、その余の一四万九二四〇円のうち、鈴屋から購入したとする清掃用服の記帳額三二〇〇円については、同店は婦人子供服の販売専門であって清掃用服を取り扱っていないこと、清掃用品の記帳額六四〇円については、領収証がなく購入先、品名が不明であること、人夫代の記帳額一四万五四〇〇円については、領収証がなく、三興が定期的に三銀ビルの清掃業務に当たっていたほか、原告には事務員とは別に清掃専門の従業員もいたことが認められ、右認定に反する証人池野利弘の証言(第一回)及び原告本人尋問の結果(第一回)は右各証言に照らして採用できない。右事実によると、清掃費と認められるのは三興に対する支払分一四万四八〇〇円のみであり、清掃用服三二〇〇円及び人夫代一四万五四〇〇円については支出の事実を否定すべきであり、清掃用品六四〇円については支出の事実に疑問があるほか、仮に支出があっても使途不明で、家事費との区別も明らかでなく、いずれも必要経費と認めることはできない。

(三)  したがって、保守清掃費は、保守費一二万円、三興に対する支払分一四万四八〇〇円、修繕費からの振替分一万三〇〇〇円及び清掃費記帳漏れ一八〇〇円の合計である二七万九六〇〇円と認むべきである。

13  消耗品費

(一)  原告の総勘定元帳の消耗品費の記帳額が別表一九(原告主張欄)のとおりであることは、当事者間に争いがない。

(二)  成立に争いのない乙第四八号証の一ないし三、前顕乙第六三号証の一五、証人安達栄の証言、同証言により原本の存在及び成立の認められる乙第六三号証の七ないし一〇、一六によると、消耗品費に関する記帳額のうち、領収証がありその使途が明確であること、又は、領収証はないが使途が明確であることにより、消耗品費として必要経費に該当する金額は、消耗品費八万九〇四三円、消耗器具備品費七万五二〇〇円及び事務用消耗品費一万七二〇〇円の合計一八万一四四三円であることが認められる。そして、その余の記帳額は、茶道具、医薬品的食品(無量寿)、ショール、ハンドバック、女児セーター、洋菓子、台所用品、食品等の購入代金を応接セット、油、エレベーター敷物、マット等の消耗品の購入代金として虚偽記載したもの、購入先が販売した事実のない物品の代金を記載したもの、その他領収証がなく、領収証があっても使途の不明なものであって、必要経費に該当しないものであることが認められる。

原告は、右茶道具等は不動産仲介業者に対する謝礼として贈与したものである旨主張するが、消耗品として虚偽記載したことが判明したことによる場当たり的主張として到底採用の限りでない。

(三)  したがって、消耗品費は一八万一四四三円と読むべきである。

14  福利厚生費

(一)  原告の総勘定元帳の福利厚生費の記帳額が五七万一一二八円であることは、当事者間に争いがない。

(二)  前顕甲第八号証によると、原告の総勘定元帳の福利厚生費勘定には、従業員の慰安旅行費として昭和四三年八月一〇日二五万円、同月一一日五万一五〇〇円、同月二八日六〇〇〇円、九月二〇日一三万九二九八円、一〇月一日一万三六〇〇円の合計四六万〇三九八円が記載されているが、証人鳥栖明の証言により成立の認められる乙第五〇号証、前顕乙第六一号証の一、証人安達栄の証言、同証言により原本の存在及び成立の認められる乙第六三号証の一一、一二によると、右記帳額に対応する領収証としては京都白河院の昭和四三年九月一三日付け作成の一万八六一六円の領収証のみが保存されているにすぎず、しかも右領収証は弁護士の夫人で構成する親睦会の旅行に係るものであり、右記帳額については支出の事実がないか、仮に支出の事実があっても使途が不明で必要経費に該当しないものであることが認められる。

原告は、右の従業員の慰安旅行費には、原告が従業員の保養所を購入するため山口県湯田温泉へ出張した際の旅費が含まれている旨主張し、甲第一七号証、第三二、第三三号証の各一、二、原告本人の供述(第一回)には右主張に副うところがあるが、証人藤原修志の証言により成立の認められる乙第六七号証の一、二、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第六八号証、成立に争いのない乙第六九ないし第七一号証、第八三号証によると、原告主張の出張がなされたか極めて疑わしい上、そもそも右の保養所の土地は有限会社三銀ビルが昭和四七年に購入したものであって、出張の事実があったとしても原告の業務とは関係がないものであることが認められる。したがって、原告の右主張は採用できない。

(三)  前顕乙第六三号証の一一、一二証人安達栄の証言、同証言により原本の存在及び成立の認められる乙第六三号証の二〇によると、原告が従業員医療費として記帳した一万八四〇〇円のうち領収証のある八八〇〇円と五三〇〇円は、原告及び夫の三根谷実蔵に係る医療費であることが認められ、必要経費に算入できないことが明らかである。原告は、医療費控除を受けていないから、その代わりとして右金額を必要経費に算入すべきであると主張するが、医療費控除を受けるためには所定の実体的及び手続的適用要件(所得税法七三条、一二〇条三項)に従わなければならないから、右主張は失当である。また、従業員医療費のうち領収証のない四三〇〇円は、支出の事実を認めることができず、必要経費に算入できない。

(四)  前顕甲第八号証、乙第六三号証の一一、一二によると、原告の記帳額五七万一一二八円から被告が経費として自認する五万七六六五円、右の四六万〇三九八円及び一万八四〇〇円を控除した残額三万四六六五円は、食料品の購入代金であって家事費又は家事関連費と認められ、業務遂行上の必要性が明らかでないから必要経費と認めることはできない。原告は、右費用は住込み従業員井村英輝に対する生活援助であると主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。

(五)  したがって、福利厚生費は被告の自認する五万七六六五円と認むべきである。

15  雑費等

(一)  原告の総勘定元帳の雑費等の記帳額が別表二一(原告主張欄)のとおりであることは、当事者間に争いがない。

(二)  証人鳥栖明の証言により成立の認められる乙第五一号証、証人藤原修志の証言により成立の認められる乙第五九、第六〇号証、証人安達栄の証言、同証言により原本の存在及び成立の認められる乙第六三号証の一三によると、会費、組合費の記帳額二万四三八〇円のうち、三銀ビル所在地の町内会費五〇〇〇円を除くその余の記帳額は、原告の業務とは関係のない弁護士夫人会、他町内会及び防長クラブの会費、交際費に計上済みのもの並びに支出事実のないもので、必要経費に該当しないものであることが認められる。したがって、会費組合費は、右五〇〇〇円に、記帳漏れと被告の自認する一万円を加算した一万五〇〇〇円とすべきである。

(三)  前顕乙第六三号証の一三、一五、証人安達栄の証言、同証言により原本の存在及び成立の認められる乙第六三号証の一四によると、クリーニング代の記帳額二六六〇円のうち九五〇円は背広及びワイシャツのクリーニング代で家事費であること、新聞代の記帳額一万七二〇〇円のうち八七六〇円は二重記帳又は支出事実のないものであること、放送受信料の記帳額三二一〇円は原告の自宅に設置されているテレビの受信料であって家事費であることが認められる。また、その他の記帳額一二万九九四八円のうち一一万七五四八円は、他の領収証を流用等したもので支出事実のないもの、食品代で家事費又は家事関連費であるもの、及び使途が不明であるものであることが認められる。したがって、以上の記帳額はいずれも必要経費に算入することができない。そうだとすれば、雑費のうち花代及び職人食事代を除く記帳額一六万二五五三円のうちその約八〇%に相当する一三万〇四六八円を否認すべきことになるが、右の証拠及び前顕乙第六一号証の一によると、花代の記帳額五万九四九五円及び職人食事代八万三〇四〇円についても、実際の支出の有無及び使途について裏付けとなるべき資料の存しないことが認められるから、その八〇%に相当する一一万四〇二八円の必要経費算入を否認するのが相当である。よって、雑費は、記帳額三〇万五〇八八円から以上の二四万四四九六円を控除した六万〇五九二円とすべきである。

(四)  したがって、雑費等は、右の会費組合費一万五〇〇〇円に、被告の自認する事務費一三万円及び右の雑費六万〇五九二円を加算した二〇万五五九二円と認むべきである。

16  減価償却費

(一)  原告所有の減価償却資産が三銀ビル並びにその附属設備の昇降機及びクーラーであること、三銀ビルの取得価額が七五二一万二六五九円であり選定された償却方法が定額法であること、昇降機及びクーラーの減価償却費が四〇万七〇二四円及び一万三四五一円であることは、当事者間に争いがない。

(二)  よって、三銀ビルの減価償却費について検討するに、弁論の全趣旨により昭和四二年までの減価償却費の合計額は四八四万〇七二五円であることが認められ、更に、三銀ビルについては前記二7のとおり耐用年数六五年を適用するのが相当であるから、前記取得価額から四八四万〇七二五円を控除した七〇三七万一九三四円に、耐用年数六五年の定率法による償却率〇・〇三五を乗じた二四六万三〇一七円が三銀ビルの減価償却費となる。

三銀ビルについて、割増償却の適用がないことは、前記二7のとおりである。

(三)  したがって、減価償却費は、合計二八八万三四九二円となる。

17  総所得金額

以上のとおりであるから、原告の昭和四三年分の総所得金額は、別表九(認定額欄)のとおり一二九一万四四六七円となる。本件処分による総所得金額(審査裁決による一部取消し後のもの)は一二四六万八七〇七円で右金額の範囲内にあるから、本件処分には所得金額を過大に認定した違法はない。

四  結語

よって、原告の本訴請求は、いずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 泉徳治 裁判官 大藤敏 裁判官岡光民雄は転官のため署名押印することができない。裁判長裁判官 泉徳治)

別表一 昭和四二年分課税経過

<省略>

別表二 昭和四三年分課税経過

<省略>

別表三 昭和四十二年分不動産所得金額の内訳

<省略>

別表四

昭和42年分賃貸料・共益費の収入金額明細

<省略>

<省略>

別表五

昭和42年分保証金及び敷金の償却による収入金額明細

<省略>

<省略>

別表六

昭和42年分雑収入(電気料金及び水道料金の実費徴収分)明細

<省略>

(注) 3月から12月までの10か月分合計460,297円を基とし、1月分及び2月分を推計し、これを加算すると1年間分は次のとおりとなる。

(3月~12月間の計) (1月分) (2月分) (1年間分)

460,297円+(46,029円+46,029円)=552,355円

別表七

貸室用途区分

<省略>

<省略>

<省略>

注1. 三銀ビルの地下1階、1階及び2階の各室は、構造上店舗、倉庫及び事務所として建築されており、また、賃借人も店舗又は事務所として利用している。

2. 「もっぱら住宅の用に供するもの」欄には事業等の用に供されているかどうかが判明しないものも含めている。

3. 各階の共通部分及び屋上塔屋部分は占有面積の比によって各階各室に配分している。

別表八 原告が「もっぱら住宅の用に供するもの」に当たると主張するもの

<省略>

別表九 昭和四十三年分不動産所得金額の内訳

<省略>

別表十

昭和43年分賃貸料・共益費の収入金額明細

<省略>

<省略>

別表十一

昭和43年分保証金及び敷金の償却による収入金額明細

<省略>

別表十二

昭和43年分雑収入(電気料金及び水道料金の実費徴収分)明細

<省略>

別表一三 租税公課

<省略>

別表一四 修繕費

<省略>

別表一五 旅費通信費

<省略>

別表一六 広告宣伝費

<省略>

別表一七 交際費

<省略>

別表一八 保守清掃費

<省略>

別表一九 消耗品費

<省略>

別表二〇 福利厚生費

<省略>

別表二一 雑費等

<省略>

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