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東京地方裁判所 昭和49年(ワ)8647号 判決 1976年9月13日

原告

阪神興業株式会社

右代表者

石井保治

右訴訟代理人弁護士

井波理朗

被告

ボンタイル株式会社

右代表者

田中文二

右訴訟代理人弁護士

久保田穣

外一名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判<略>

第二  請求原因

一、原告は、次の特許権の特許権者である。

発明の名称 表面に蝕刻模様を形成した化粧板の製造方法

出願日 昭和四五年一〇月二七日(特許願昭四五―九三九五九号)

公告日 昭和四八年二月一四日

(特許出願公告昭四八―五〇九二号)

登録日 昭和四八年八月二〇日

特許番号 第七〇〇二一一号

<後略>

理由

一原告が本件特許権の特許権者であること、本件明細書の特許請求の範囲の項の記載が請求原因二の項のとおりであること及び被告が同五、(一)の項のとおり塗装方法(被告方法)で塗装仕上げ工事を行つたことは当事者間に争いがない。

二右争いがない特許請求の範囲の項の記載によれば、本件特許発明は次の構成要件に区分説明することができる。

(A)  基板の表面に、エポキシ樹脂と石粉を混合しこれに樹脂硬化剤を添加してなるペースト状の塗装剤を薄膜状にスプレイして微細な凸凹を伴つた粗面を形成し、

(B)  右粗面を乾燥させたのち右塗装剤と同材質の塗装剤を点々と吹付けて凸凹の激しい点模様を形成せしめ、

(C)右点模様を形成したのち点模様の頂部を平坦にカツトし、

(D)  これに反射金属粉を加えた無色透明のアクリルウレタンラツカーで全体を薄く被膜し、

(E)  次いで、前記点模様のカツト平坦面にのみ異色のアクリルウレタンラツカーでコーテングして仕上げた、

(F)  表面に蝕刻模様を形成した化粧板の製造方法。

三前認定の本件特許発明の構成要件及び被告方法の工程に基づき、本件特許発明と被告方法とを対比する。

(一)  本件特許発明では、基板の表面に塗装剤で形成された粗面に、これを乾燥させたのち塗装剤と同材質の塗装剤を点々と吹付け凸凹の激しい点模様を形成しめる(構成要件(B))のに対し、被告方法では基板の表面に塗装剤で形成された粗面に、これが全然乾燥してしまわない時点で塗装剤と同材質の塗装剤を点々と吹付けて凸凹の激しい点模様を形成せしめる(被告方法の工程(B)')のであるから、被告方法は、本件特許発明の構成要件(B)を充足しない。

原告は、本件特許発明の構成要件(B)の「乾燥させたのち」というのはごく通常の工程について述べたものであり、この乾燥という言葉に特別の意味はなく、完全に乾燥していなくとも、構成要件(B)の工程の作業を行うについて支障のない程度に乾燥していれば足りることを示したものであるところ、被告方法の工程(B)'も右程度に乾燥している状態で行われるのであるから、被告方法の工程(B)'は本件特許発明の構成要件(B)に該当すると主張する。しかしながら、前認定のとおり、本件特許発明の特許請求の範囲には、「これを乾燥させたのち」と明示されており、また本件明細書の発明の詳細な説明の項に、実施例として、粗面が乾燥したのちに点模様を形成することが記載されており、反面被告方法のように粗面が全然乾燥してしまわない時点で点模様を形成することが本件特許発明の構成要件(B)に包含されることを示唆するような記載は全く存しないことが認められ、右事実によれば、同構成要件の「乾燥させたのち」という言葉を原告主張の意味に解することはできない。原告の主張は理由がない。

(二)  次に、本件特許発明では、点模様の頂部を平坦にカツトする(構成要件(C))のに対し、被告方法では、点模様が生乾きの状態でその頂部をローラーで押しつぶして平坦にする(被告方法の工程(C)')のであるから、被告方法は、本件特許発明の構成要件(C)も充足しない。

原告は、本件特許発明にいう(平坦にカツトする」というのは頂部を無くしてその部分を平坦にするとの意味であるから、被告方法の「ローラーで押しつぶして平坦にする」のも、本件特許発明にいう「平坦にカツトする」に該当すると主張する。しかしながら、「カツトする」という言葉は普通には切り取ることを意味するものであり、また、本件明細書の発明の詳細な説明の項及び図面には、実施例として、「カツトする」というのがドクターナイフ又はサンダーで点模様の頂部を切り取ることを意味することが記載されているに止まり、「平坦にカツトする」という言葉が切り取るという普通の意味でない特別の意味で使われていること、すなわち被告方法のように点模様が生乾きの状態でその頂部をローラーで押しつぶして平坦にすることまでも含む言葉として使用されていることを示すような記載は全くないことが認められ、右事実によれば、被告方法の工程(C)'が本件特許発明の構成要件(C)に該当しないことは明らかである。

なお原告は、本件明細書の発明の詳細な説明の項には第二工程と第三工程の間で一旦乾燥させることが記載されているが、右記載はあくまで一実施例であつて、特許請求の範囲の項には第二工程と第三工程との間で一旦乾燥させるとは記載されておらず、本件特許発明は第二工程と第三工程との間で一旦乾燥させることを要件としていないと主張するが、カツトするという意味が前説明のような切り取るということである以上、特許請求の範囲中に記載されてこそいないが、カツトするという言葉自体の中に本件特許発明においては第二工程と第三工程との間で一旦乾燥させることを要件とする旨が表示されているものと解すべきである。被告方法(C)'ではこのような乾燥は行われないのであるから、この点からしても被告方法(C)'は本件特許発明の構成要件(C)を充足しないことになる。

(三)  右のとおりであつて、被告方法は、本件特許発明の構成要件(B)及び(C)を充足せず、ひいて本件特許発明とはその作用効果をも異にするものと認められるから、その余の点について検討を加えるまでもなく、本件特許発明の技術的範囲に属しないというべきである。

四よつて、原告の本訴請求は、その余の争点について判断するまでもなく理由がないので、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(高林克己 清永利亮 木原幹郎)

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