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東京地方裁判所 昭和49年(ワ)10977号 判決 1977年6月30日

原告 服部敬吾

右訴訟代理人弁護士 中田長四郎

被告 徳竹清吉

右訴訟代理人弁護士 土谷英和

主文

一  原告が被告に賃貸している別紙物件目録記載の土地の地代は、昭和四六年九月一日から同四七年一二月三一日までは一か月金六八八〇円、昭和四八年一月一日以降は一か月金八六〇〇円であることを確認する。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  原告が被告に賃貸している別紙物件目録記載の土地(以下、本件土地という。)の地代は、昭和四六年九月一日から同五〇年一月三一日までは月額金七九四九円、昭和五〇年月二月一日以降は月額金一万三〇四五円であることを確認する。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、昭和三七年五月二七日、被告に対し、本件土地を、建物所有の目的で、期間は二〇年の定めで賃貸した。

2  本件土地の旧来の地代は月額六二八一円であったが、累年の物価騰貴に伴い、本件土地の価格は左のとおり高騰し、その公租公課及び比隣地代も増額をみた。

固定資産税課税標準価格  固定資産税調整額

昭和四四年度   二二七万二三三〇円   八八万七三六〇円

昭和四五年度   四七六万九五二〇円 一一五万三五六八円

昭和四九年度   八六九万七三六〇円 二一七万四三四〇円

3  このように旧来の地代は不相当となったので、原告は被告に対し、昭和四六年八月ころ、同年九月一日以降の地代を月額七九四九円に増額する旨の意思表示をした。

更に、昭和五〇年一月一四日に被告に送達された本件訴状によって同年一月一日以降の地代を月額一万三〇四五円に増額する旨の意思表示をした。

4  しかるに被告は右増額請求の相当性を争い、昭和四六年九月一日以降の地代として月額六八八〇円を供託しているので、本件賃貸借契約における地代は昭和四六年九月一日から同五〇年一月三一日までは月額七九四九円、昭和五〇年二月一日以降は月額一万三〇四五円であることの確認を求める。

二  答弁

1  請求原因1項は認める。ただし、被告は、昭和二三年一二月一一日、原告の先代亡服部吉太郎から本件土地を賃借し、その後これを継続して使用していたものである。

2  同2項のうち、旧来の地代が月額六二八一円であったことは認める。その余は知らない。

3  昭和四六年八月ころ、原告主張のような地代増額の意思表示があったことは認める。

4  被告が昭和四六年九月一日以降、月額六八八〇円の地代(なお、昭和四八年一月以降は八六〇〇円である。)を供託していることは認める。被告は、原告の増額請求が右供託金額の限度において相当であることを認める。

三  抗弁

1  被告は、昭和二三年以来、別紙図面②、④、⑤の部分を通路として使用しており、訴外田中せい、同遠藤もまた右部分を通路として使用していた。そして、②の部分は被告が、④の部分は田中が、⑤の部分は遠藤が原告にそれぞれ賃料を支払っていた。

2  ところが原告は、昭和二八年一二月二五日、右④の部分を、使用目的を被告、田中共同の通路とする条件で、別紙図面③の部分とともに田中に譲渡してしまった(④の部分は無償であった。)。

3  その後遠藤は⑤の部分を通路として使用しなくなり、賃料を支払わなくなったので、原告は被告に対し、右⑤の部分を賃借するよう要求し、被告は、④の部分の通行と被告所有建物の増改築を条件に、昭和三七年五月二七日、権利金一七一万円を支払うこととして新たに⑤の部分をも借り受けた。

4  そこで被告は昭和四一年になって本件土地上の建物が老朽化したので建替えようとしたところ、田中が右④の部分は原告から建物敷地として譲り受けたものであり、私道ではない旨主張するので、道路幅不足で建築確認がとれなかった。

5  その後被告は田中に対し、④の部分につき私道としての使用を認めるように交渉してきたが、現在まで認められていない状態である。

原告は被告の質問に対しては、④の部分は田中と被告の共同通路である旨説明しているが、この部分について田中に被告の通行を認めさせるように努力することもなく、現在に至るまで被告の建物改築を不可能な状態にしたままである。

6  このように、本件土地は、原告が通路部分まで他に譲渡してしまったため、現在の地上建物を改築することもできない袋地となり、価値のない土地となってしまったのであるから、被告は供託額を超える原告の地代増額請求には応じられない。

四  抗弁に対する答弁

1  抗弁1項のうち、被告が昭和二三年以来②、④、⑤の部分を通路として使用していたことは認める。

2  同2項は認める。

3  同3項のうち、被告が⑤の部分を賃借していることは認める。

4  同4項は知らない。

5  同5項のうち、被告と田中との交渉は知らない。

6  仮に④の部分に関し被告主張のような事実が存するとしても、④の部分が田中に譲渡されたのは昭和二八年一二月二五日であり、原告はその後である昭和三七年五月二七日に被告に本件土地を賃貸(更新)したものであって、右契約時又はその後に、賃貸借契約の条件として④の通路の通行権を供与することを被告に約したことはないから、原告の債務不履行ではない。また被告主張の事実は、契約後の事情変更にも当らない。

第三証拠《省略》

理由

一  原告が昭和三七年五月二七日、被告に対し、本件土地を、建物所有の目的で、期間二〇年の定めで賃貸したこと、原告が被告に対し、昭和四六年八月ころ、同年九月一日以降の地代を月額六二八一円から七九四九円に増額する旨の意思表示をしたことは当事者間に争いがない。

また、更に原告が本件訴状において右地代を昭和五〇年一月一日から月額一万三〇四五円に増額する旨の意思表示をしたことは記録上明らかである。

二  そこで右増額請求の当否について判断する。

1  被告が昭和二三年以来本件土地の一部を賃借し、別紙図面表示の②、④、⑤の部分を通路として使用していたが、原告は、昭和二八年一二月二五日、右④の部分を同図面表示③の部分とともに訴外田中せいに譲渡してしまったことは当事者間に争いがない。

そして、《証拠省略》によれば、本件賃貸借契約が更新された昭和三七年当時も、右④部分には何ら通行の妨げとなる障害物はなく、被告はここを公道から賃借土地に至る唯一の通路として使用していたが、田中は昭和四一年に至り、右④の部分に③部分に所有しているアパートの階段を設置したこと、そこで被告は田中に対し、④部分は通路であるから建築物を設置しては困る旨申し入れたが、同人はこれに応じなかったこと、そこで被告は同年、田中を被告として④部分についての通行権を主張して訴訟を提起したが、田中は④部分を被告の通行権を負担したものとして譲り受けたものではないとの理由で敗訴したこと、本件土地上に被告が所有している建物は昭和二四年に建築したものであり、既に土台が腐朽し、雨もりもするなど、相当老朽化しているので、被告は昭和四〇年ごろからその建替えを計画しているが、④部分を通路として使用できないとすると、本件土地が通路に接する路地状部分(長さ約一〇間)は一間足らずの幅員しかないこととなり、右建替えについての建築確認を受けることが法律上できず(東京都建築安全条例三条二号によれば、建築敷地が路地状部分のみによって道路に接する場合には、右路地状部分の長さが一〇メートル以上二〇メートルまでのときは、その路地状部分の幅員は三メートル以上でなければならないと定められている。)、建替えが不可能な状態にあることが認められる。

2  原告は、本件賃貸借契約においては、④部分を通路として被告に供与することは約していない旨主張する。

しかし、もしも原告主張のとおり、④の部分の通行は賃貸借契約の内容になっていた訳ではなく被告が事実上通行し得たに過ぎず、元来通路として予定されていたのは⑤部分だけであったとすれば、本件土地の経済的価値、効用はもともと少なかったものというべきである。もっとも、地上建物の建替えの必要が生ずる以前は、通路の狭いことは被告にとってそれ程重大な問題ではなかったであろうから、本件土地の経済的価値、効用の少ないことは現実的に被告に不利益を及ぼすものではなく、適正地代の算定に当たって通路の狭いことを考慮にいれる必要はないといえようが、本件土地上の建物が老朽化してその建替えの必要が生じたのに通路が狭いためにそれが法律上不可能であるとするならば、被告はこのような建物に引続き居住することを余儀なくされるのであって、この時点に至って本件土地の経済的価値、効用が乏しいことが現実化したものというべきである。したがって、地上建物の建替えができないという事情は、④部分についての合意の内容のいかんにかかわりなく、適正地代の算定に当たって当然考慮されなければならない。

3  したがって本件においては、原告の地代の増額請求は相当とは認められない。本件土地の価格、その公租公課は逐年上昇しているであろうが、他方、地上建物も逐年老朽化していくのであって、被告の生活上の不便、不快さも順次増大してゆくのである。

もっとも被告は、供託額(昭和四六年九月から四七年一二月までは一か月六八八〇円、昭和四八年一月以降は一か月八六〇〇円)の限度において原告の増額請求の相当性を認めているので、原告の増額請求は右の限度において効力を生じたものというべきである。

三  よって本件土地の地代は、昭和四六年九月一日から同四七年一二月三一日までは一か月六八八〇円、昭和四八年一月一日以降は一か月八六〇〇円であることを確認することとし、原告の本訴請求は右の限度で理由があり、その余は失当であるからこれを棄却すべく、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条ただし書を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 矢崎秀一)

<以下省略>

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