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東京地方裁判所 昭和49年(ヨ)2298号 決定 1974年10月04日

申請人

内藤幸子

右訴訟代理人

小池通雄

外一二名

被申請人

株式会社日本メール・オーダー

右代表者

石井錬一

右訴訟代理人

成富安信

外二名

主文

一  申請人は、被申請人に対し、その従業員としての労働契約上の地位を有することを仮に定める。

二  被申請人は、申請人に対し、昭和四九年六月以降本案判決の確定まで、毎月二五日限り、一ケ月各金八〇、九〇〇円を仮に支払え。

三  申請費用は被申請人の負担とする。

理由

(当事者の求めた裁判)

一申請人は主文同旨の裁判を求め、被申請人は申請却下の裁判を求めた。

(当事者の経歴、雇傭関係)

二1  被申請人はレコード、図書等の委託製造ならびに通信販売を主な目的とする株式会社である。被申請人の前身は昭和三七年五月に設立されたヴンチレックス・エヌ・ヴィー日本支社であり、これが同四三年六月に有限会社日本メール・オーダーに営業譲渡され、同時に従業員も全員引きつがれ、さらに同四六年一二月株式会社に組織変更して今日に至つた。

2  申請人は同三七年五月二三日、右ヴンチレックス・エヌ・ヴィー日本支社にタイピストとして雇傭され、会社組織の変更の前後を通じてずつとタイプ係に勤務し、昭和四八年八月当時、給与支給日の毎月二五日に、基本給七七、九〇〇円、住宅手当三、〇〇〇円合計八〇、九〇〇円の給与を得ていた。

3  申請人は、同四八年八月三一日から、右母指腱鞘炎及び頸肩腕障害のため病気欠勤中のところ、被申請人は申請人に対し、同年一〇月一日、業務外の傷病で引続き欠勤一ケ月以上に及んだことを理由に被申請人就業規則二五条三号により休職を命じ(以下本件休職処分という)、さらに同四九年三月一四日、右休職期間が満了したことを理由に同就業規則二九条二号により解雇する旨の意思表示をなし(以下本件解雇処分という)、それ以来申請人を従業員として取扱わない。

以上の事実は、いずれも当事者間に争いはない。

(申請人の作業内容と病気)

三1 申請人は昭和三七年六月から同四一年五月頃までステンシルカードと呼ぶ騰写用原紙のタイプ打ちに、同四一年六月頃から同四二年一二月まで文書のタイプ打ちに従事した。

その期間特に身体に異常は感じなかつた。

2 同四三年一月頃から同四五年初まで主として前記ステンシルカードのタイプ打ちに従事し、他に宛名を騰写する原紙であるIBMカードのタイプ打ちも行つた、これはタイプの活字が裏返しになつている機種のタイプを使用するため目や神経が疲労し易いものであつた。

申請人はこの頃肩の凝り、頭痛や夕方目のかすみを覚えるようになり視力も若干低下した。

3 同四五年初から同四七年一月頃まで校正に従事した。これはステンシルカードやIBMカードにタイプや手書きで記載された会員の宛名に誤りがないかをチェックする仕事である。そして校正の仕事のあい間にIBMカードの手書き作業を行つた。これはIBMカードというノート帳の表紙位の厚さの紙の下にデユブロカーボン紙を敷き、カードの上からボールペンで文字を書き、デュブロカーボンの粉をカードに付着させる仕事で手首に直接大きな負担のかかる作業である。しかしこの期間には前記症状は現われなかつた。

4 同四七年二月から同年五月頃までIBMカードの手書き作業に従事し、六月頃から一一月まではその他にラベル宛名書作業も行ない、両時期を通じて校正の仕事も行つた。

この期間の同四七年三月頃から手首の痛みや肩の凝りを感ずるようになつた。

5 同四七年一一月一三日から同四八年三月末日まで出産のため産前産後の休暇をとつた。

この期間に前記症状は消えた。

6 同四八年四月から同年八月末までIBMカードの手書き作業を中心に、その他ラベル書き、校正の作業に従事した。

この期間の五月半ばから再び手首が痛むようになり、六月には夕方手首の中でも特に右母指のつけ根に激しい痛みを感じるようになり、さらに八月頃からは母指の痛みはなお激しくなり、肩や背中の痛みも感じるようになつた。

7 申請人はこのようにして右母指、手首、肩などの痛みが激しくなつたので同四八年八月三一日から被申請人に届け出て欠勤し、同日慶応病院で右母指腱鞘炎の診断を受け、九月五日大田病院で右母指腱鞘炎及び頸肩腕障害の診断を受け、九月八日診断書を被申請人に提出して療養を続けていたところ、同年一〇月一日本件休職処分がなされ、さらに同四九年三月一四日本件解雇処分がなされた。

以上は当事者間に争いがない事実および疎明資料を総合して一応認められる事実である。

(本件各処分の違法性)

四申請人は、本件休職及び解雇処分は申請人の病気の業務起因性の判断を誤つてなされたものであるから被申請人就業規則及び労働基準法にそれぞれ違反して無効であると主張し、被申請人はこれを争うので、この点について検討する。

疎明資料によれば、申請人の病気は右母指腱鞘炎及び頸肩腕障害であることが一応認められるが、これが果して申請人の従事した前項記載の作業に起因するものであろうか。

一般に業務に伴う有害な長期作業の結果発病するいわゆる職業性疾病といわれるものは、長期間にわたる有害な作業条件の下での労働の悪影響が蓄積して徐々に発病するものであるだけに業務起因性を直接明らかならしめるものはない。

しかし、本件においては、申請人の業務が手指を過度に使用する作業であつて、申請人がこれに途中中断した期間があるとはいえ長期間従事してきた経過及び発病の模様は前記認定のとおりであり、疎明資料中の上畑医師の診断書及び同医師の診断意見書によれば、申請人の病気については、自覚症状の外、他覚的症状として両肩筋硬結が認められ、頸椎可動性良好、リウマチ反応陰性、血沈正常で炎症所見なし、血液検査尿検査では貧血及び腎障害の所見なし、頸椎レントゲンで頸椎の骨変化及び伸展異常を認めず、というのであり、要するに申請人の作業以外で右症状を発する可能性のある疾患は諸検査の結果認められないということである。

さらに、疎明資料によれば、申請人が出産のため約四ケ月業務から離れた間に前記症状は一時消えたこと、申請人が欠勤をはじめた昭利四八年八月三一日当時申請人の所属していたタイプ係で略同種の作業に従事していた五人のうち三人までが頸肩腕障害に罹患していたことが一応認められる。

その上、全疎明資料によつても、申請人の病気がその作業以外の原因や他の疾患に起因する可能性は全くうかがうことはできない。

これらの各事実を総合すれば、申請人の病気は申請人の前記作業に起因するか、或は少くともそれが強い原因の一つになつているものと推認するに難くない。すなわち申請人の病気はその業務との間に相当因果関係がある業務上の病気であると認めるのが相当である。

そうであれば、本件休職処分は前記病気の業務起因性の判断を誤つているので被申請人就業規則二五条三号に違反し、本件解雇処分は業務上の病気の療養期間中になされたこととなるので労働基準法一九条一項に違反し、いずれも無効であるといわなければならない。

(被保全権利)

五以上の次第により、申請人は、本件解雇処分のなされた昭和四九年三月一四日以降も、被申請人の従業員としての労働契約上の地位を有し、毎月二五日限り各金八〇、九〇〇円の給与の支払を受けるべき権利を有している。

(保全の必要性)

六疎明資料によれば、申請人は夫の申請外内藤実と長女ちひろ(一年半)次女ちなつ(二月)との四人暮しであり、夫の月収は約一〇万円であるが住居費のみで三万五千円位を必要とするところ、申請人も夫も労働者であつて他に見るべき資産はなく、本件解雇処分後生活に困窮していることが一応認められるので、保全の必要性がある。

(結論)

七よつて、本件申請は理由があるので、保証を立てさせないでこれを認容することとし、申請費用の負担については民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり決定する。 (光広龍夫)

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