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東京地方裁判所 昭和47年(行ウ)6号 判決 1973年6月28日

原告

株式会社東京書院

右代表者清算人

橋口景二

右訴訟代理人

植田八郎

被告

中央労働委員会

右代表者会長

石井照久

右指定代理人

日沖憲郎

外二名

補助参加人

東京書院労働組合

外五名

右六名訴訟代理人

栂野泰二

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  請求の趣旨

被告の中労委昭和四三年不再第七九号事件について、昭和四六年一一月一七日附でなした命令を取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

との判決を求める。

第二  請求の原因

一  原告は、従業員九名を雇用し、図書の出版販売を業としていたが、昭和四三年七月三〇日解散し現在清算中である。

二  原告は昭和四三年六月一九日、従業員である補助参加人萩原猛、同中島秀樹、同石田芳枝、同千葉和子、同木村行男をそれぞれ解雇したところ、右補助参加人五名及び同東京書院労働組合は、右解雇等を労働組合法第七条に違反する不当労働行為であると主張し、原告を被申立人として訴外東京都地方労働委員会に救済を申立てた。

三  同委員会は、同年一二月一〇日、原告に対し、

原告は、申立人補助参加人萩原猛、同中島秀樹、同石田芳枝、同千葉和子、同木村行男に対しなした解雇を徹回し、同人らを原職もしくは原職相当職に復帰させ、同人らが解雇された日の翌日から原職もしくは原職相当職に復帰するまでの間に受ける筈であつた賃金相当額を支払わなければならない。

原告は、申立人補助参加人東京書院労働組合から昭和四三年六月二五日に要求のあつた交渉事項につき、誠意をもつて団体交渉に応じなければならない。

との命令を発した。

四  そこで原告は、右命令に対し、被告に再審査の申立をなしたところ、被告は昭和四六年一一月一七日附で

本件再審査申立を棄却する。

との命令を発し、右命令書は同年一二月二二日原告に交付された。

五  原告は被告の本件命令につき、その認定した事実については争わない。しかし不当労働行為でないものを不当労働行為であると判断した違法がある。

即ち命令は本件解雇が補助参加人等の活発な組合活動をきらつて、組合結成運動を阻止せんとするためになされたものであると判断しているが、本件解雇は原告の経営不振を直接の原因とするものであつて、右被解雇者も、一旦は解雇を承認し、原告所有の印刷機械を借用し印刷事業を経営したい旨申入れがあつたが右機械は既に訴外欧文社に貸与してあつたため、その要求を拒否したところ「解雇は承認しない、団体交渉に応じろ」と要求したものであり、原告には何ら不当労働行為の意思はなかつた。

更に右命令は、労働委員会規則第三四条第六項に違反する。即ち原告は既に解散し、清算中であり積極財産は皆無で、事業は休止状態であるにも拘らず本件命令を発したものであり、原告が右原職復帰等の命令に従うことは事実上不可能であることは明らかであると云うべきである。

六  よつてこの違法な命令の取消を求める。

第三  被告並に補助参加人らの答弁と主張

一  請求原因事実一、乃至四、認める。同五、は争う。

二  被告並びに補助参加人の主張は別紙命令書理由に記載してあるとおりであり、何等違法な点はない。

第四  証拠関係<略>

理由

一原告主張の請求原因事実一、二、三、四は、当事者、補助参加人間に争がない。

二被告、補助参加人主張の別紙命令書理由第一記載の各事実については、当事者間に争がない。

三以上の各事実を綜合すれば、

1本件解雇問題が起つた昭和四三年五、六月頃の原告の経営が不振であつたことは窺われるところであるが、原告が同年六月一九日、補助参加人萩原外四名を含む従業員全員に解雇を通告した時点で、急に原告がその事業を中止するのやむなきに至つた必然性については、その裏づけに乏しく、結局右原告の解雇通告は、同日補助参加人五名を含む従業員六名が、一三項目の建議書を原告会長に手交し、労働組合結成の意思を明示したことに反発し、原告内での右労働組合の結成を阻止するために、経営不振に藉口してなされたものと推認するほかはない。従つて右解雇は労働組合法第七条第一号、第三号違反の不当労働行為に該当するものである。なお右解雇通告後、補助参加人萩原、同木村、同中島の三名が、原告所有の印刷機械を借用し印刷事業を経営したい旨原告に申入れた事実をもつて、原告は右三名が本件解雇を承諾したものであると主張するが、右印刷機械の借用は、原告の拒否により結局実現しなかつたのであるから、右申入の事実のみをもつて、右三名が前記解雇を承諾したものとは速断できず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。

2原告が組合からの一連の団体交渉の申入を拒否したことについては、「組合員の言動からみて、正常な話し合いが期待できないから、」とする原告の云い分にも或る程度首肯し得るところがあるが、それとても、前示のごとく原告の理由のない突然の休業と解雇という措置がそもそもの発端となつて惹起されたという事情、更に「被解雇者を相手に団体交渉はできない」とする原告の云い分も、右解雇そのものが当該団体交渉の項目となつているという事情等を考えれば、原告の右団体交渉拒否には、正当な理由がないと認めざるを得ず、右は不当労働行為に該当する。

3原告は本件解雇がたとえ不当解雇であつたとしても、事後において事業廃止、解散の方針を決定(昭和四三年七月一五日解散決議)し、清算手続に入つたもので、積極財産もない以上、被解雇者の被救済利益は失われたものであると主張するので判断するに、不当労働行為たる解雇に対して与えられる労働委員会の救済命令は、その不当労働行為によつて生じた結果を排除し、当該解雇がなかつたのと同一の状態を回復させること(事実状態の原状回復)を本来の使命とするものであるとともに、その限度にとどまるべきものであるから、不当解雇がなされた後に被解雇者の従業員たる地位(その解雇がなかつたとしての)に何等か変動を及ぼすような事実、たとえば適法な解雇或は雇用契約の合意解約等の事実が生じているときは、その救済命令の内容は、被解雇者が後の解雇或は雇用契約の合意解約の日まで従業員たる地位にあつたものとして取扱うべきことを使用者に命ずるをもつて足り、且つその限度にとどまるべきものと解するのが相当である。

しかるに原告は、被告が本件命令を発した時点において前示のごとく原告が清算手続中であり、積極財産は皆無であるということのみを主張するにとどまり、被解雇者たる補助参加人らに対し、その地位の変動を生ぜしめる何等かの措置をとつたということにつき、何等主張立証しないのであるから、本件命令(原職復帰等)の履行は、法律上は勿論事実上も未だ不能であるとは称し得ず、本件命令につき被救済利益が喪失したものとは認められない。

四以上に判断したとおり、原告のなした本件解雇、団体交渉拒否は、いずれも不当労働行為と認定すべきであり、しかも原告はその後解散し、清算手続中であるとはいうものの、未だ被解雇者に対し何等の措置もとつていないのであるから、被告が原告に対し右結果を排除するため、本件命令を発したのは相当であつて、右命令に違法があるとはなし難く右命令の取消を求める原告の本訴請求は失当である。

よつて原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(根本久)

別紙  命令書

再審査申立入 株会社東京書院

右代表者清算人 橋口景二

再審査被申立人 東京書院労働組合

外五名

主文

本件再審査申立てを棄却する。

理由

第一 当委員会の認定した事実

一 当事者

(一) 再審査申立人株式会社東京書院(以下「会社」という。)は、従業員九名を雇用し、図書の出版、販売を業としていたが、昭和四三年七月一五日解散を決議し、同月三〇日解散登記を行ない、代表取締役会長橋口景二(以下「会長」という。)が清算人となり、目下清算中である。

(二) 再審査被申立人東京書院労働組合(以下「組合」という。)は、後記のように会長から事業をやめるといわれた直後の昭和四三年六月二四日に会社の従業員である再審査被申立人萩原猛ら五名をもつて結成された労働組合である。

二 本件解雇に至るまでの経緯と労使事情

(一) 昭和四三年六月一九日、かねて会社の経営方針や従業員の待遇等について疑問をもつていた萩原ら従業員六名は、会長に会い、会社運営の刷新と従業員の待遇改善を内容とする連名の建議書を提出した。

同建議書には「①会長及び社長と社員一同の合議制によつて方針を決定・実行する。②合議制によつて社員との定例会(一週間に一回)を開催する。③経営の短期・長期の計画を具体的に明示する。④営業の販売体制を確立する。⑤就業規則をつくる。⑥国民健康保険は少くとも入社3カ月経たら自動的に加入させる。⑦倉庫要員を補充する。⑧採用時に雇用条件を明記する。⑨給与は物価上昇率+アルファの定期昇給制度を実施し、公務員並みの給与ベースを最低限確保する。⑩交通費は全額支給する。⑪土曜日の就業時間は午前九時から一二時までとする。⑫有給休暇制を明確にする。⑬夏期・冬期の賞与は年間最低、給与の三カ月分支給する。」との一三項目にわたる要求事項が記載されており、さらに「これを期に労働組合を結成します。」という文言が付記されていた。

建議書を読み終つた会長は、その内容について話し合おうとはせず、会社はもうもうからないやつて行けない、こんなものを出されたのでは辞めてもらうほかない、と言い、その場で従業員全員を解雇する旨口頭で申し渡した。

なお、会長は、ここ二、三年来、経営が困難であり、もうからないから会社をやめたい、と口癖のように言つてはいたが、当時の会社の営業状況をみると、四月から五月にかけて数種類の図書を大量に印刷あるいは製本し六月一〇日には秋の大市を見込んで「麻雀の習い方」五〇〇〇部を印刷し、さらに一七日には表紙に使用する約八、〇〇〇枚のクロスを購入し、翌昭和四四年のことまで企画していた。

(二) 萩原らは、その後協議の結果、会社主張の如く経営が苦しいならば、会社建て直しに協力すべく「全員毎日残業を二時間やり、その時間外手当はいらない、夏期手当もいらない。」との協力方を決定し、その旨会長に伝え、会社の経営、従業員の解雇について再考を促したが、受け入れられなかつた。

(三) そこで萩原、木村行男および中島秀樹の三名は、会社が印刷機械を貸してくれるなら退職して自分らで印刷業を始めてもよい、そうすれば勤務年数の長い他の三名は首を切らずに済むであろう、と考えて、同月二二日会社に、自主退職の条件として、従来あまり使用されていなかつた印刷機械の貸与を申し入れたが断わられた。

なお、永田豊彦は同日退職した。

(四) 同二四日夜、萩原ら五名は組合を結成し、委員長に萩原、副委員長に木村、書記長に中島を選び、翌二五日朝会長に面会し、組合結成の通知書と解雇徹回等を交渉事項とする団体交渉の要求書をそれぞれ読みあげたうえ、手交した。

萩原らは、直ちにその場で団体交渉を始めるよう要求したところ、会長とそこに同席していた橋口博二社長は突然小原節を歌い踊りだし、団交に応じようとせず、その場から退席した。

(五) 翌二六日朝、萩原らが会社に出勤したところ、会社の正面玄関に掛けてあつた会社の看板が取りはずされ、休業の貼紙がしてあり、従業員が日頃出入りしていた通用口にも同様の貼紙が出され、戸には鍵が掛けてあつた。

萩原ら組合員は、事態の説明を求めるため、玄関から入つて会長に会い、団体交渉を申し入れたところ、会長は、このことについては、みんなに文書を郵送してあるから、それを見たらわかる、話し合う必要はない、と言つてその場から立ち去つた。

その後、会社から組合員各人に六月二三日付の解雇通告書が郵送されてきたが、それには「株式会社東京書院は四・五年来赤字経営の為これ以上営業を続けると社員の賃金支払不能になりますので、昭和四三年六月一九日当社代表取締役橋口景二氏より口頭を以て貴殿に申渡しました通り編集出版を休業致す事になり、同日付を以て貴殿は社員を解雇する事になりました。」とあり、一カ月分の解雇予告手当を送付するから受け取れということと、六月分の給料は月末に精算して渡す旨が書き添えられていた。

(六) 組合は、同日より会社倉庫を占拠するとともに、同月二九日から七月一〇日までの間、連日のように会長および社長に対して団体交渉の開催を申し入れた。この間組合は、六月三〇日夜には支援団体の応援を得て会長宅周辺で会長に面会を求めてシュプレヒコールなどの行為を行なつた。また、七月一〇日、路上で会長と社長を認めたので、団体交渉の申し入れ書を渡したところ、社長はその場で同書面をまるめて踏みつぶしてしまい、両名は巡査派出所に逃げ込んだ。しばらくして両名はそこから出てきたので、様子を見ていた組合員が再び団体交渉を行なうよう申し入れたところ、今度は本富士警察署に駆け込むなどのことがあつた。

会社は、組合のこれらの団体交渉申し入れに対し、すでに経営不振による解雇を通告し、解雇予告手当も送付してあるので、萩原らとの間の雇用関係はすでに存在せず団体交渉に応ずる義務はないこと、よしんばその他の折衝ないし協議であつても、組合員の言動が極めて破壊的かつ暴力的であつて、到底正常な話合いができる状態ではない等の理由をあげて団体交渉を拒否した。

(七) 組合は、七月一二日東京都地方労働委員会(以下「東京都労委」という。)に解雇徹回、団体交渉応諾等を求める救済申立てを行なつた。他方、会社は同月一五日株主総会を開き、会社解散を決議し、同月三〇日解散登記を行なつた。

なお、東京都労委での審査過程において、同委員会の勧めで、八月五日および二〇日の二回にわたり、立会団交が行なわれたが、なんらの進展をみなかつた。以上の事実が認められる。

第二 当委員会の判断

一 萩原ら五名の解雇と不当労働行為の成否について

会社は、萩原ら五名の解雇は不当労働行為に該当するとした初審判断を争い、①萩原ら五名を解雇したのは、ここ数年来経営が悪化し、事業閉鎖のやむなきにいたつたためであり、種々の書籍の印刷或いはその計画をしたのは、いずれも昭和四三年四、五月のことで、六月にはいよいよ営業が行き詰まり、休業のやむなき状態にあつたのである、②従業員のうち萩原、木村、中島の三名については、一たん解雇を承認し、会社所有の印刷機械を借用して印刷事業を経営したい旨の申入れがあつた、③建議書が提出されたときに解雇を申し渡したのは偶然の一致であると主張するので、以下判断する。

(一) 会社の経営内容について

① 近年会社の経営が不振におちいつていたことは推認できる。しかし、前記第一の二の(一)認定のとおり、会社は、萩原ら五名を解雇した六月にも、一〇日には「麻雀の習い方」五、〇〇〇部を印刷し、解雇を通告した一九日の前々日である一七日にも表紙に使用する約八、〇〇〇枚のクロスを購入しているのみならず、翌昭和四四年のことまで企画しており、また不渡り手形を最初に振り出したのは会社解散後の八月はじめのことであること、

② 前記第一の二の(一)認定のとおり、会長がもうからないからやめたいといつていたことは認められるが、それはここ二、三年来言い続けられてきた同人の口癖のようなものであつたこと

等の諸事情からみて、会社が六月一九日の時点で、突如として従業員の解雇を通告せざるを得なかつたとする程会社の経営が不振であつたとは認められず、会社の主張は採用できない。

(二) 本件解雇と不当労働行為の成否について

前記(一)判断のとおりの会社の経営内容と会社の萩原ら五名に対する解雇通告は、同人ら五名を含む従業員六名が会長に一三項目の建議書を手交し、労働組合の結成を予告したその場でなされていること等の諸事情を併せ考えると、会社の同人ら五名に対する解雇は、会社が同人ら五名が一三項目の建議書を手交するとともに、労働組合を結成する意思があるとの通告をしたことを嫌悪し、同人ら五名の労働組合の結成を阻害するため、同人ら五名を一挙に企業外に排除しようとした労働組合法第七条第一号および第三号に該当する不当労働行為と認めざるを得ないので、これを不当労働行為に該当するとした初審判断は相当である。

なお、会社は、萩原、木村、中島の三名については、一たん解雇を承認し、会社所有の印刷機械を借用して印刷事業を経営したい旨の申入れがあつたと主張するのであるが、前記第一の二の(三)認定のとおり、萩原ら三名の会社に対する印刷機械の貸与の申入れは、勤務年数の長い他の三名の従業員の解雇を免れるための自主退職の条件であつて、解雇を前提とするものではなかつたし、また会社は萩原ら三名の印刷機械の貸与の申入れに応じなかつたのであるから、会社の主張は採用できない。

二 団体交渉の拒否および不当労働行為の成否について

会社は、一連の団体交渉を拒否した理由として、①組合員の言勤が暴力的で正常な話合いのできる状態でなかつた②会社は、既に経営不振による解雇を通告し、萩原ら五名との間に雇用関係が存在しないので、団体交渉に応ずる義務がないと主張する。

しかしながら、組合員の言動に多少行き過ぎの点があつたことは認められるが、それは会社の理由のない休業および解雇の措置とその後の団体交渉拒否に起因することが認められるし、また団体交渉の最も主要な事項が解雇をめぐる問題であつて、雇用関係が争点となつている以上、解雇の通告がなされているということがただちに団体交渉を拒否する正当な理由とはなり得ない。

したがつて、会社の主張には理由がないので、会社の一連の団体交渉の拒否は、不当労働行為に該当するとした初審判断は相当である。

三 本件不当労働行為の救済について

会社は、本件不当労働行為が仮りに認められたとしても会社は既に解散して目下清算中であつて、事業を全然行なつていないのみならず、積極財産は皆無であるから、萩原ら五名の原職もしくは原職相当職への復帰および解雇の日の翌日から原職もしくは原職相当職への復帰までの間の諸給与相当額の支払いを命ぜられても、その実現は不可能であると主張するので、以下判断する。

たしかに、前記第一の一の(一)認定のとおり、会社は、昭和四三年七月一五日解散を決議して清算に入り、三年有余の間そのまま現在に至つているのであるが、なお会社は存続しており、萩原ら五名に対して会社解散に伴う措置をとつていないのであるから、会社の主張は採用できない。

以上のとおり本件再審査申立てについては理由がない。

よつて、労働組合法第二五条、同第二七条および労働委員会規則第五五条を適用して、主文のとおり命令する。

昭和四六年一一月一七日

中央労働委員会

会長 石井照久

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