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東京地方裁判所 昭和47年(ヲ)11号 決定 1972年2月17日

申立人 猿山さつ

被申立人 小川つね

主文

本件申立を却下する。

申立費用は、申立人の負担とする。

理由

一  申立人は、「被申立人と申立人間の当庁昭和四五年(ヨ)第四二〇九号不動産仮処分申請事件について、当裁判所が昭和四五年六月一一日になした仮処分決定にもとづく執行は、これを取消す」との裁判を求め、その理由とするところはつぎのとおりである。

(一)  被申立人を債権者、申立人を債務者とする当庁昭和四六年(モ)第五一四五号不動産仮処分異議事件につき、当裁判所は、昭和四六年一二月一七日、つぎのとおりの判決を言渡した。

「右当事者間の当庁昭和四五年(ヨ)第四二〇九号不動産仮処分申請事件について当裁判所が昭和四五年六月一一日にした仮処分決定は、債権者が新たに金百万円の保証を立てることを条件に認可する。

訴訟費用は、これを四分し、その一を債権者の、その余を債務者の負担とする。

この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。」

(二)  しかるに、被申立人は、右判決において命ぜられた保証金の供託をしてその執行に及ぶことなく現在に至つており前記仮処分決定にもとづく執行は違法であるから、その取消を求める。

二  当裁判所の判断

(一)  審理の結果によれば、申立人と被申立人間の当庁昭和四六年(モ)第五一四五号不動産仮処分異議事件について、昭和四六年一二月一七日、申立人主張のとおりの判決が言渡され、右判決は昭和四七年一月一一日の経過によつて確定したこと、そして、本件の申立がなされた同月一二日に被申立人は右判決で命ぜられた金一〇〇万円の供託をし、翌一三日付で裁判所の供託証明を得たこと、ところが、右供託がなされたのは判決の送達後一四日の期間を経過したのちであることが、それぞれ認められる。

(二)  そこで、仮処分異議訴訟において保証を条件に原仮処分決定(以下、原決定と略称する)を認可する判決がなされたがこれを提供すべき期間が定められていない場合、はたしていつまでに保証金を供託しなければならないとみるべきかについて検討する。

(1)  まず、仮処分異議訴訟における審判の対象は仮処分申請そのものの当否を口頭弁論を経て再審査することであると解し、認可判決をもつて新仮処分の発令あるいは原決定の再宣言であるとみるときは、認可判決そのものについて執行および執行期間というものを観念しうる余地がないではない。そして、保証を条件とするときは、とくに供託期間が定められていない場合でも、判決の言渡または送達後一四日の執行期間内にこれを供託したうえ執行に着手しなければ原決定は当然に失効するとかあるいはこれにもとづいてなされている執行は違法になると解することも不可能ではないであろう。

しかしながら、当裁判所は、保証を条件とすると否とを問わず、原決定を認可する判決には本来の意味での執行の観念を容れる余地がなく、したがつて、判決において保証を提供すべき期間が定められていない場合には、結局、保証の不提供を理由として原決定を取消す裁判がなされるまでの間に保証金を供託すれば足り、一四日の執行期間内にこれをなされなければならないとの法理はないと解するものである。

(2)  仮処分異議訴訟における審判の対象については見解がわかれているが、これを仮処分申請そのものの再審査であるとし異議の裁判を右申請についてはじめて、裁判がなされる場合と同視することは妥当でない。申請についてすでに原決定がなされていることを無視する危険があるだけでなく、異議においては、債務者は原決定の取消または変更の理由を開示すべきものとし、かつ、異議の裁判は、原決定の全部または一部の認可、変更、取消をもつてなすべしとしている規定の趣旨ともあいいれないからである(民訴法七四四条二項、七四五条二項の規定を総合的にみれば、解釈論としては、むしろ、異議における審判の対象は、原決定そのものの当否であつて、仮処分申請の審査はその前提として意味をもつにすぎないと解しえないではない。申請そのものの再審査であるならば、債務者としては、たんに申請の失当なことを主張すれば足り、原決定の取消または変更を申立てる理由を開示する必要はないであろう。)

ゆえに、認可判決をあらたな仮処分の発令であるとか原決定の繰り返しあるいは再宣言であるとみるのは、たんなる比喩もしくは実質論にすぎないのであつて、法律的には、保証を条件とすると否とを問わず、原決定を事後的に是認する確認的性質をもつものとみるべきであり、これについてのあらたな執行したがつて執行期間の観念を容れる余地はないといわなければならない。

(3)  このことは、保証を条件とする認可判決の主文に即してみれば容易に理解しうるであろう。すなわち、かかる判決は、本件で問題となつているそれのように、たとえば、「……仮処分決定は、債権者が……あらたに金一〇〇万円の保証を立てることを条件に認可する」というような主文をもつてなされるのが普通であるが、この判決にもとづいては保証を命ぜられた債権者が所定の保証金を供託するという関係が生ずるだけであつて、これのほかに、債権者あるいは債務者に対して何らかの義務を課しているとみる余地はないといわなければならない(訴訟費用の負担は別問題である。)たとえ、仮処分異議の目的が申請そのものの再審査であるとみることができたとしても、認可判決自体が原決定と同じ意味での債務名義を含むとはとうてい解しえないといえよう。そして、このかぎりでは、認可判決は本案訴訟における控訴棄却判決と類似の性質をもつといつてよいとおもわれる。

(4)  かりに、認可判決が原決定と同じ内容の債務名義を含むとみた場合には、これにもとづく執行を当然に肯定することとなろう。しかし、認可判決にもとづいてあらたな執行を認めることは、原決定にもとづく執行が異議申立の際の仮の処分によつて取消されていないかぎり、二重の執行を肯定することになり、その不当なことはいうまでもあるまい、あるいは、認可判決にもとづいては保証金の供託証明書を執行機関に提出すれば足りると解する余地もないではないが、これをもつて保全執行とみることはできないことはいうまでもない。また、仮処分においては、対抗力の関係で執行の時期が重要な意味をもつから、仮執行宣言付支払命令におけるように、認可判決によつて原決定は当然に失効するというような解釈もとりえないであろう。

かようにして、認可判決には執行の観念を容れる余地がなく、したがつて執行期間の適用もないから、保証を条件とする場合においては、供託期間が定められていないかぎり、判決言渡または送達後一四日以内に供託をしなければ原決定が失効するとかこれにもとづく執行は違法になるなどとみることはできないというべきである。

(5)  もつとも、このように解するときは、条件成否未定の状態が長期化することは避けられず、仮処分の浮動状態がいつそう不安定なものとして存続することになりかねない。したがつて、保証を条件とする認可判決にはこれを提供すべき期間を定めることが不可欠であると解されるが、たまたまこれが定められない場合には、その不利益はむしろ債務者に帰せしめる趣旨と解するほかにないであろう。すなわち、債務者としては、保証不提供を理由として原決定取消の裁判を求めることによつてできるだけすみやかにかような浮動状態からのがれる以外に方法がなく、逆に債権者としては、取消の裁判があるまでに保証金を供託すれば結局取消をまぬかれることができると解されるのである(もつとも、供託の期間が定められている場合でも、前記のような主文の認可判決にかんがみれば期間徒過の一事をもつて原決定は当然に失効したものとはとうていみることができないから、これを民訴法五五〇条の書面とみて原決定にもとづく執行の取消をするのは困難であつて、やはり、取消の裁判を必要とみるべきであろう。)。

(6)  そうだとすれば、本件では、取消の申立がなされた日と同じ日に所定の保証金の供託がなされたことは前認定のとおりであるから、その余の点につき判断するまでもなく(付言すれば、取消申立の態様も、事情変更による原決定自体の取消の方法によるべきであつて、執行方法の異議によるべきではないと解される。)、本件申立は失当であつて排斥をまぬかれないことになる。

よつて、申立費用の負担につき、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 太田豊)

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