大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和47年(ワ)7425号 判決 1974年8月08日

原告 細谷哲夫

被告 都民信用組合

右代表者代表理事 治山孟

右訴訟代理人弁護士 本渡乾夫

同 田賀秀一

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

「被告は原告に対し金三九万円及びこれに対する昭和四七年九月一四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決及び仮執行の宣言

二  被告

主文同旨の判決

第二当事者の主張

一  原告の請求原因

1  民法五六八条に基づく保証金返還請求

(一) 被告は、別紙目録記載の土地・建物(以下本件不動産という。)について訴外破産者鄭仲碩(破産管財人森本明信)(以下破産者という。)を債務者兼所有者とする根抵当権を有する者として、本件不動産につき任意競売(東京地方裁判所昭和四三年(ケ)第八八二号不動産任意競売事件、以下本件競売事件という。)を申し立てた者である。

(二) 原告は、昭和四四年一二月一日本件競売事件の競売期日において本件不動産を代金三九〇万円で競買する旨の申出をし、保証として現金三九万円を執行官に預け、最高価競買人となったので、東京地方裁判所は同月四日その競落を許可する旨の競落許可決定を言い渡した(以下本件競落という。)。

(三) 東京地方裁判所は、右競落許可決定が確定したので、昭和四五年三月二七日代金支払期日を同年四月九日と定めたが原告がその支払をしなかったので、同裁判所は、同年五月一一日再競売を命じた。

(四) しかし、原告が右代金を支払わなかったのは、本件不動産につぎのような瑕疵があったためである。

(1) 前記破産管財人を原告、訴外上村ハツノ(以下訴外上村という。)を被告とする東京簡易裁判所昭和四一年(ハ)第三七四号家屋明渡請求事件につき本件不動産中建物の所有権に基づき明渡を求める破産管財人の請求を棄却する判決が言い渡され、すでに確定していたこと

(2) 訴外上村を原告、訴外山口秀(破産者の前所有名義人)、破産管財人森本明信らを共同被告とする東京地方裁判所昭和四四年(ワ)第二二三号土地建物所有権移転登記抹消登記等請求事件につき、(イ)訴外上村が訴外山口秀に対して本件不動産についての所有権移転登記抹消登記手続を請求した部分が分離されてこれを認容する判決が昭和四四年八月二七日言い渡され、昭和四五年三月一日訴外山口秀の控訴取下により確定したこと、(ロ)訴外上村が破産管財人に対して訴外山口秀から破産者に対してなされている本件不動産についての所有権移転登記の抹消登記手続を請求した部分、被告に対して右抹消登記手続につき承諾を請求した部分は、いずれも係属審理中であったこと

(五) そこで、原告は、破産者が本件不動産の所有権を結局有しないこととなり、本件競売手続による売買は他人の権利の売買という結果になり、そのため原告が本件不動産の所有権を取得しえないことになると考えたので、破産管財人に対し昭和四五年六月一日前記競落による売買契約を解除する旨の意思表示をし、前記保証金三九万円の返還を求めたが、破産者は無資力であるためその返還を得られなかった。

(六) ところが、再競売手続が進行し、競売期日が昭和四五年六月八日と定められたが、当日は競買申出人はなく、その後の競売期日である同年九月二一日訴外斯波俊夫が代金二八四万円で本件不動産を競落し、同年一一月一九日右代金を納付した。訴外斯波は現在まで民法五六八条による解除権を行使していない。

(七) 東京地方裁判所は、その後右競落代金二八四万円と原告がさきに保証として納付した三九万円の合計三二三万円を売却代金として、売却代金交付計算書を作成したうえ、配当期日である昭和四六年四月一三日被告に対し競売手続費用一一万八五一〇円、利息損害金七〇万二一一四円、元金九六万五二〇六円、以上合計一七八万五八三〇円を交付した。

(八) 原告のなした前記契約の解除は、民法五六八条一項に基づくものであるから、同条二項により、原告は被告に対し保証として納付した三九万円の返還を請求することができるものである。

(九) よって、原告は被告に対し三九万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和四七年九月一四日から支払ずみまで民事法定利率の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

2  不当利得返還請求

(一) 請求原因1(一)ないし(四)、(六)及び(七)を引用する。

(二) ところが、昭和四六年一二月二四日請求原因1(四)(2)(ロ)記載の事件について、訴外上村の請求を全部認容する判決が言渡され、破産管財人に関する部分は昭和四七年一月一一日確定し被告に関する部分は被告の控訴が同年六月二七日取下げとなって右判決が確定し、これにより被告が本件不動産について有していた根抵当権は無効であったことになり、結局、無効な根抵当権に基づいてなされた本件競売手続もまた無効に帰したものである。

(三) したがって、被告は、原告の損失において法律上の原因なく三九万円を利得したものということができるので、原告は被告に対し請求原因1(九)のとおりの金員の支払を求める。

二  被告の認否

請求原因1(一)ないし(三)の事実は認める。同(四)(1)の事実は認めるが、原告は競買の申出をする際にこの事実はすでに知っていたものである。同(五)は争う。同(六)(七)の事実は認める。同(八)(九)は争う。

請求原因2(一)に対する認否は、右を引用する。同(二)のうち原告主張のような判決が確定したことは認めるが、その余の主張は否認する。同(三)は争う。

第三証拠≪省略≫

理由

一  請求原因1(一)ないし(三)、(六)及び(七)の各事実は当事者間に争いがない。

二  つぎに、訴外上村ハツノを原告、訴外山口秀(破産者の前所有名義人)、破産者鄭仲碩破産管財人森本明信らを共同被告とする東京地方裁判所昭和四四年(ワ)第二二三号土地建物所有権移転登記抹消登記等請求事件につき、(イ)訴外上村が訴外山口秀に対して本件不動産についての所有権移転登記抹消登記手続を請求した部分が分離されてこれを認容する判決が昭和四四年八月二七日言い渡され、昭和四五年三月一日訴外山口秀の控訴取下により確定したこと、(ロ)訴外上村が破産管財人に対して訴外山口秀から破産者に対してなされている本件不動産についての所有権移転登記の抹消登記手続を請求した部分、被告に対して右抹消登記手続につき承諾を請求した部分は、昭和四五年四月九日当時いずれも係属審理中であったことは当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫によれば、破産管財人森本明信を原告、訴外上村を被告とする東京簡易裁判所昭和四一年(ハ)第三七四号家屋明渡請求事件につき本件不動産のうち建物の明渡を求める破産管財人の請求を棄却する判決が言い渡され、昭和四五年四月九日当時すでに確定していたことが認められ、この認定に反する証拠はない。

そして、≪証拠省略≫によれば、原告は、昭和四五年六月一日破産管財人に対し本件競落による売買を解除する旨の意思表示をしたことが認められる。

原告は、右解除は、民法五六八条一項に基づく解除であると主張するので、この点について判断する。

まず、前記認定の事実関係(訴外上村ハツノと訴外山口秀破産管財人間の各訴訟の経緯)のもとにおいては、昭和四五年四月九日の代金支払期日当時、訴外上村が本件不動産について所有権を主張し、しかも容易ならざる事態にあったことが明らかであるから、原告が競落代金を完納しても原告が本件不動産の所有権を有効に取得しえないおそれがあったものということができる。このような場合には、競落人は民法五七六条により競落代金の支払を拒むことができるものと解するのが相当であり、競落人が、右理由により競落代金の支払を拒絶しているにもかかわらず、裁判所が、競落人が代金支払期日にその義務の履行を怠ったものとして再競売を命じた場合には、民訴法上の不服申立をすることによってその取消を求め、以後の競売手続の進行を阻止することができるものと解すべきである。そして、その不服申立をなしうる期間は民訴法六八八条四項の規定によって考えると再競売期日の三日前までとみることができる。しかるに、本件においては、原告は、再競売が命じられた後である昭和四五年六月一日に破産管財人に対して競落による契約の解除の意思表示をし、同日その旨を裁判所に上申したにとどまり、再競売期日の三日前までに右支払拒絶権の行使及びこれに基づく不服申立をしたことは全立証によってもこれを認めることができないから、その後の再競売の結果、原告は民訴法六八八条五項により本件競買申出にあたって執行官に預けた保証金はもはや返還を求めることができなくなったものというほかはない。ところで、原告は、民法五六八条一項による解除を主張するのであるが、前記認定事実のもとでは、その解除の意思表示をした当時、同法五六一条にいう「売主カ其売却シタル権利ヲ取得シテ之ヲ買主ニ移転スルコト能ハサルトキ」であったとはいえず、したがって、原告は同法五六八条による契約解除権を有しておらず、前示のとおり同法五七六条の代金支払拒絶権を有していたにとどまるものと解されるから、この点において原告の主張は理由がない。

なお、民法五六八条の解除権を有する場合であっても、競売法による不動産の競売は、担保権の内容を実現するためその目的不動産を国家機関によって換価する手続であって、私法上の売買としての性質を有することも否定できないとしても、公法上の処分としての性質をも併有するものであるから、手続の安定性の要請からみて、本件のように競売手続の進行中にその解除権を行使した場合でも、これを理由としてないしは目的不動産が債務者の所有でないことを理由として、民訴法上の不服申立によって競売手続の進行を阻止すべきであり、これをすることなく、代金支払期日を徒過し、再競売手続が進行し完結した場合には、その再競売の競落人が同法五六八条一項に基づいて契約の解除をするまでは、最初の競落人は保証金の返還を求めることができず、その解除があってはじめて民訴法六八八条五項の不利益を免れ、民法五六八条二項の類推適用によってその返還を求めることが可能になるものというべきである(本件においては再競売による競落人である斯波俊夫が現在まで民法五六八条による解除権を行使していないことは当事者間に争いがない。)。

以上の判示によれば、民法五六八条に基づき保証金の返還を求める原告の請求は、その理由がないものといわなければならない。

三  つぎに、原告は、被告が本件不動産について有していた根抵当権が無効であったことを理由に、不当利得として保証金の返還を求めるというのであるが、本件再競売による競落人斯波俊夫が民法五六八条一項による解除権を行使していない以上、右根抵当権が無効であるとの理由だけで、配当金を受領した被告が法律上の原因なくしてこれを利得しているとはいえないから、原告のこの点の主張も理由がない。

四  叙上の判示によれば、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条の規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 小倉顕)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例