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東京地方裁判所 昭和46年(合わ)165号 判決 1972年10月28日

主文

被告人を禁錮四年に処する。

未決勾留日数中三〇〇日を右刑に算入する。

訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、川島陽子と共謀のうえ、治安を妨げ、かつ人の身体財産を害しようとする目的をもつて、昭和四六年四月一五日大阪府門真市栄町四番一二号山陽荘アパート二階七号室の自室において、爆発物であるコーズマイト二号一二五本を所持した。

(証拠の標目等)

一、証拠(省略)

二、弁護人は、本件コーズマイトは「爆発物」に該当しない旨主張している。けれども、当公判廷で取り調べた証人および鑑定人内田彰、証人桜井武尚、同宮野豊、同萩原嘉光の当公判廷における各供述、桜井武尚の鑑定書謄本および警視庁科学検査所長の昭和四六年六月一日付「鑑定結果回答について」(鑑定書添付)と題する書面等によると、本件コーズマイト二号は、ダイナマイトとほぼ成分を同じくし、これと同様土地造成現場、採石現場等において発破に使われる爆薬で、電管を使用して完全爆発させた場合の爆速は一秒間に五千乃至五千四、五百メートルにおよび、ダイナマイトとほぼ同等の威力を持ち充分爆轟性を有しており、又電管を使用しない場合でも完全に密封した鉄パイプに詰め、これを二〇〇度以上で熱するか、あるいはこれにライフルを射ち込む等の方法によつて不完全ではあるが爆発するものであることと、爆発物取締罰則三条が「爆発物」の所持のほか「其使用ニ供ス可キ器具」の所持をも独立して処罰の対象としていることを併せて考えると、本件コーズマイト二号が、本罰則三条にいう爆発物であることは明らかである。

三、また、弁護人は、本件コーズマイト所持の目的は立証されていない旨力説しているから、この点につき更に説明を加える。前掲証拠によれば、本件コーズマイト所持の目的が治安を妨げ人の身体財産を害しようとするにあることを確定するに足る多数の間接事実を認めることができる。その一例を示せば次のとおりである。即ち、(一)被告人が稲垣弥栄子の名で借りていた山陽荘アパートの居室で発見押収された多数の文書(昭和四六年押第一七四一号の1から18。特に解放の旗および鉄砲からの国家権力が生れると題する本)の存在とその内容、被告人の当公判廷の供述、証人川島豪の証言によると、日本共産党革命左派の指導の下に日本国内で軍事組織によつて行なわれる日本国革命のための武装闘争の遂行につき、被告人は自ら武器をとることはしないまでも、力を尽して支援協力する行動をとつていたことが認められる。(二)太田直己の昭和四六年五月三日付検察官に対する供述調書の記載特に同人が本件コーズマイトを含む二二五本のコーズマイトを窃取して直ちに被告人方に至り、その処分方法を被告人と相談している状況の記載(当初東京に運ぶ数量につき、東京の方に雷管がいくらあるかによるか、前に手に入れた雷管は基地爆発などに使用したとしてもいくらかは残つているであろうから差当り五〇本を運ぶという相談をし、結局は一〇〇本を運ぶ使命を受けた太田直己に対して、被告人が「X殿・・・・贈物手に入れました、ただしカミナリがありませんのでよろしく。・・」という手紙を添えて持たせた旨の記載)によると、本件コーズマイトは太田直己が前記(一)の武装闘争の用に供するため窃取した二二五本のうち一二五本であり、被告人がこれを所持していたのはこれを爆発物として右武装闘争の用に供する意図によるものであつたと認められる。

以上の事実によれば、被告人が治安を妨げかつ人の身体財産を害しようとする目的の下に本件コーズマイトを所持していたことは明白である。

(法令の適用)

罰条 爆発物取締罰則三条、刑法六〇条(禁錮刑選択)

なお、弁護人は、爆発物取締罰則が憲法に違反し無効であるとして種々主張している。けれども、右罰則は、日本国憲法施行前において法律を以て改正手続がなされたもので、昭和二二年法律七二号第一条にいう「命令の規定」に該当せず、日本国憲法の下に現に法律としての効力を有するものであることは最高裁判所の判例が示しているとおりである。従つて右罰則が憲法三一条、七三条六号但書に違反し無効であるとの主張は採用できない。その余の点につき憲法違反の理由として弁護人の主張するところも、いずれも弁護人独自の見解に基くもので、当裁判所では採用しない。

未決勾留日数の算入

刑法二一条

訴訟費用の負担

刑事訴訟法一八一条一項本文

(情状)

本件コーズマイト二号の量、威力、被告人の背後にある組織の活動から考えて、本件犯行の危険性は相当高いこと、被告人の当公判廷における言動に鑑み、同人には同種犯行を累行する虞れが多いこと等の事情を考慮に入れて主文の刑を定めた。

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