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東京地方裁判所 昭和45年(行ク)57号 決定 1971年4月14日

申立人

中央労働委員会

右代表者

石井照久

右指定代理人

千種達夫

外三名

被申立人

門司信用金庫

右代表者

三浦実次

右訴訟代理人

和田良一

外三名

主文

1  東京地方裁判所昭和四四年(行ク)第一七四号行政処分取消請求事件の判決が確定するまで、申立人が昭和四四年七月二七日被申立人に交付した中労委昭和四二年(不)再第三〇号および第三一号事件命令を左記の限度で履行しなければならない。

(1)  被申立人は、申立外門司信用金庫労働組合に属する別紙目録記載の組合員に対し、預金増強運動協力手当金として一人あたり一万円を支給しなければならない。

(2)(イ)被申立人は、氏家豊成、丸山修、近藤伊都子に対する昭和三九年一一月四日付出勤停止処分および小橋紀一、村田順治、宇津井裕、広木行夫に対する同日付減給処分がそれぞれなかつたものとして取扱い右各処分がなかつたならば同人らが受けえた筈の諸給与相当額を支払わなければならない。

(ロ)日野三千人、木村昌稔に対する昭和四〇年二月二日付各懲戒解雇処分がそれぞれなかつたものとして取扱い右解雇の日から昭和四四年八月三一日までの諸給与相当額から福岡地方裁判所小倉支部昭和四〇年(ヨ)第一五二号地位保全仮処分申請事件についての同裁判所の仮処分命令に従い右期間中の賃金相当額として支払つた金額を控除した金額を支払わなければならない。

2  申立人のその余の申立てを棄却する。

理由

第一当事者双方の申立てと申立て理由の要旨

一申立人の申立てと申立て理由の要旨は別紙(一)12のとおりである。

二被申立人の申立てと申立て理由の要旨は別紙(二)123のとおりである。

第二当裁判所の判断

一申立人の本件申立ての理由一ないし三については当事者間に争いがない。

二そこで、以下順次検討する。

(一)  中労委命令中、預金増強運動協力手当金一万円の支払いを命ずる部分についての緊急命令申立てについて中労委命令中預金増強運動協力手当金として申立外門司信用金庫労働組合に属する組合員各自に対し各一万円の支払いを命じた部分を被申立人が履行したという被申立人の主張立証はなく、本件審理の結果によればいまだ履行されていないことが一応認められる。

しかし、被申立人が本件中労委命令の交付を受けたのは昭和四四年七月二七日である(このことは当事者間に争いがない)が、疎明資料によれば、同日現在門司信用金庫労働組合に所属していた者のうち、久保樛子が同年七月二九日、今城悦子が昭和四五年一月三一日、田中信治が同年七月一五日それぞれ自己都合で退職し、服部マツ子が同年八月一五日定年退職したので、結局現在右組合に所属しているのは別紙目録記載の一八名であることが一応認められる。

したがつて、右一八名に対し前記預金増強運動協力手当金の支払いを命ずる中労委命令を履行すべき旨の緊急命令申立ては理由があるが、右一八名を除くその余の者らに対し右手当金を支払うべき旨の中労委命令を履行すべき旨の緊急命令申立ては、特段の事情について主張立証がない本件の場合、緊急命令の必要性を欠くものとして棄却を免れない。

(二)  氏家豊成、丸山修、近藤伊都子、中川紀美子、富士孝子に対する昭和三九年一一月四日付出勤停止処分および小橋紀一、山本達也、村田順治、宇津井裕、広木行夫に対する同日付減給処分の取消しと右各処分がなかつたならば同人らが受けえた筈の諸給与相当額の支払いを命ずる部分についての緊急命令申立てについて

1 処分の取消しを命ずる救済命令の緊急命令申立て

本件申立ては、前記各処分の取消しを命ずる救済命令を履行すべきことを求めているが、救済命令取消請求事件の判決が確定するまでの暫定的措置である緊急命令により処分の取消しまでを命ずるのは相当でなく、処分がなかつたと同様の取扱いをすべき旨を命ずれば十分である(なお、右救済命令には処分がなかつたと同様の取扱いをすべき旨の趣旨が含まれれていると解するのが相当である)。

ところで、山本達也は昭和四一年二月一四日、中川紀美子は同年一〇月三一日、富士孝子は昭和四二年三月、それぞれ自己都合を理由に退職していることは、疎明資料により一応認められる。

そうであるとすれば、救済命令中右の者らについての部分は、特段の事情についての主張立証がない限り、少なくとも緊急命令の必要性があるとはいえない。

2 前記出勤停止処分ないし減給処分がなかつたならば受けえた筈の諸給与相当額の支払いを命ずる部分についての緊急命令の申立て

救済命令は「処分がなかつたならば受けえた筈の諸給与相当額」を支払うべき旨命じでいるが、支払われるべき金額を明示しない右のような表現で行政処分(救済命令が行政処分であることは多言を要しない)の内容が十分特定されているかどうか問題がないわけでないので、まずこの点について考えてみよう。

おもうに、例えば課税処分のようにそれ自体自力執行力を有するような行政処分の場合には、課税額が明示されていないときは執行不能となる結果を招くので、処分の内容の特定について厳格に考え、右のような執行不能の結果を招来する表現では行政処分の内容は特定されていないと考えることが相当であろう。また、例えば土地収用の裁決のように行政処分の発効とともに即時物権の移転という形成の効力が生じその処分の内容の具体化の措置を必要としないいわゆる形成的行政処分の場合もその内容の特定については厳格に考えることが合理的であろう。

しかしながら、本件の救済命令のようにそれ自体執行力を有するわけでも形成力を有するわけでもなく、その処分の内容は名宛人たる使用者の行為により実現され、名宛人が命令に従い履行しないときにはじめて過料等の制裁をなしうるに過ぎない場合は、救済命令により使用者に課された義務の内容が一義的に明白とはいえなくとも必ずしもこれを内容不特定のものとして無効とみることは相当でない。

けだし、本件救済命令のように「処分がなかつたならば受けえた筈の諸給与相当額」を支払うべき旨の命令は、名宛人が誠実に「処分がなかつたならば受けえた筈の諸給与相当額」と考える額の支払いを命じたものと解することが可能であり、名宛人が誠実に「処分がなかつたならば受けえた筈の諸給与相当額」であると考えたものを支払いさえすればその額が客観的に確定さるべき「処分がなかつたならば受けえた筈の諸給与相当額」と合致しなくとも過料等の制裁をうける危険を負わない反面、名宛人としては全く支払わないか、あるいは支払つたとしてもその額がとうてい誠実に「処分がなかつたならば受けえた筈の諸給与相当額」と判断したところに基づくとはみられないような場合は過料等の制裁を免れないとすれば救済命令の目的は達せられると考えられるからである。

なお、被申立人は、もし本件について緊急命令が発せられる場合は「処分がなかつたならば受けえた筈の諸給与相当額」を具体的金額をもつて明示すべきである旨主張するが、救済命令の内容はあくまで行政庁たる労働委員会の発令当時における判断内容であり、その履行を求める緊急命令において裁判所が「処分がなかつたならば受けえた筈の諸給与相当額」を具体的数字で示すことは、裁判所の判断内容をもつて前記のような行政庁たる労働委員会の判断内容に代置させることになり正しくないと考える。(なお、申立人は、別紙(一)2において具体的金額を示して主張しているが、これは発令時の具体的判断内容ではないと解するのが相当である。)

したがつて、右に述べたような趣旨のもとに、出勤停止処分、減給処分がなかつたならば氏家豊成、丸山修、近藤伊都子、小橋紀一、村田順治、宇津井裕、広木行夫がそれぞれ受けえた筈の諸給与相当額の支払を命ずる救済命令の履行を命ずることが相当であるが、山本達也、中川紀美子、富士孝子についての部分は、前述した(二(二)1)と同様の理由により少なくとも緊急命令の必要性があるとはいえない。

(三)  日野三千人、木村昌稔に対する懲戒解雇処分をそれぞれ取消し、原職に復帰させるとともに右処分がなかつたならば同人らが受けえた筈の諸給与相当額の支払いを命ずる部分について緊急命令の申立て処分の取消しを命ずる救済命令の緊急命令申立てについては前述した(二(二)1)と同様の理由により処分がなかつたと同様の取扱いをすべき旨を命ずれば十分と考える。ところで、疎明資料によれば、被申立人は前記中労委命令に従い昭和四四年八月二三日、同年九月一日から日野三千人をその原職たる小森江支店出納係として木村昌稔をその原職たる葛葉支店出納係としてそれぞれ復帰させ客観的に確定さるべき「処分がなかつたならば同人らが受けえた筈の諸給与相当額といえるかどうかはとも角として少なくとも不誠実に算出したとはいえない賃金等を支払う旨通知したこと、しかるに同人らは賃金その余の労働条件、慰藉料、訴訟費用等を含めた諸点につき合意ができなければ就労することができないとして就労を拒否していることが一応認められる。

そうすれば、前記救済命令中懲戒解雇がなかつたものとして取扱い原職復帰を命ずる部分および昭和四四年九月一日以降の諸給与相当額の支払いを命ずる部分については、被申立人において救済命令の不履行があるという疎明がないとみるほかなく、右部分については緊急命令申立ては理由がない。

しかしながら、疎明資料によれば、被申立人は日野、木村に対し、同人らに対する懲戒解雇処分がなかつたならば同人らが受けえた筈の諸給与相当額について被申立人が算出した基礎と算出額について検討を求めたが、折合いがつかないまま昭和四四年八月三一日までの分についても支払つていないことが一応認められる。

ところで、日野、木村は被申立人を債務者として右解雇の無効なことを主張して福岡地方裁判所小倉支部に地位保全仮処分申請をし(昭和四〇年(ヨ)第一五二号)同裁判所により昭和四二年五月二九日「申請人両名がいずれも被申請人の従業員たる地位を有することを仮に定める。被申請人は、昭和四〇年二月二日以降本案判決確定に至るまで毎月二〇日限り、申請人日野三千人に対し一カ月金三万六、四四八円、申請人木村昌稔に対し一カ月金三万六、四五六円の割合による金員を支払うこと」との仮処分命令が発せられていること、そしてその後右仮処分命令に従い支払いがなされていることは本件審理の結果明らかである。

そうすれば、救済命令中諸給与相当額の支払いを命ずる部分の履行を求める緊急命令申立ては、右解雇の日より昭和四四年八月三一日までの諸給与相当額から右期間中の賃金相当額として支払つた金額を控除した金額の支払いを命ずる限度で必要性が認められる。

結局、救済命令中日野、木村についての各部分の履行を求める緊急命令申立ては、主文1(2)(ロ)記載の限度で理由があるがその余は理由がない。

三むすび

よつて、主文のとおり決定する。(小笠原昭夫)

目録省略

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