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東京地方裁判所 昭和45年(行ウ)86号 判決 1977年6月22日

東京都北区王子四丁目二六番一六号

原告

西芳永

右訴訟代理人弁護士

奥野彦六

奥野善彦

大竹由紀子

須藤正彦

岸憲治

黒沢敦

相田利隆

下河辺和彦

東京都北区王子三丁目二二番一五

被告

王子税務署長

飯田庄左衛門

東京都千代田区大手町一丁目三番二号

被告

東京国税局長

磯辺律男

被告両名指定代理人

篠原一幸

島尻寛光

篠田学

中川精二

佐伯秀之

右当事者間の標記事件について当裁判所は次のとおり判決する。

主文

一  原告の被告らに対する請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

(原告)

一  被告王子税務署長が原告に対し、昭和四三年三月一五日付をもつてなした昭和三九年分ならびに同年八月一六日付をもつてなした昭和四〇年分の各所得税課税更正処分および過少申告加算税賦課決定処分(いずれも裁決により一部取消された後の額)はこれを取消す。

二  被告東京国税局長が原告に対し、昭和四五年一月二六日付をもつてなした裁決(所四四第四五九号ならびに所四四第四六〇号)はいずれもこれを取消す。

三  訴訟費用は被告らの負担とする。

(被告両名)

主文同旨。

第二当事者の主張

(原告の請求原因)

一  原告はビルデイングの管理、分譲等を業とする者であるが、被告王子税務署長(以下「被告署長」という。)に対し昭和三九年分および昭和四〇年分の所得税について次表のとおり確定申告あるいは修正申告をしたところ、同表記載の増額更正および過少申告加算税賦課決定の各処分(以下右各処分を一括して「本件各更正処分」、または「本件更正処分」という。)を受け、同表記載の経緯でこれに対する行政不服申立手続を経由した。

(昭和三九年分)

<省略>

(昭和四〇年分)

<省略>

二 しかしながら、本件更正処分は違法であるからその取消を求める。

三 被告東京国税局長(以下「被告局長」という。)が原告に対し、昭和四五年一月二六日付をもつてなした各裁決(所四四第四五九号ならびに所四四第四六〇号-以下右各裁決を一括して「本件各裁決」または「本件裁決」という。)には左記のような固有の瑕疵があるから違法である。

(一)  被告局長のなした本件裁決の理由によれば、「請求人の計算による必要経費については<1>分譲部分に対応する建築原価<2>取りこわした木造家屋の価額<3>借地権の価額が妥当なものとは認められない。」というのであるが、その建築原価、取りこわした木造家屋の価額、借地権価額の数字を示すだけで、その数字を得るに至つた具体的な根拠についてはなんらの説明がない。

(二)  被告局長が本件裁決において示した本件ビルの分譲部分に対応する建築原価、取りこわし家屋の価額、借地権の取得価額の必要経費については、その価額を不当に低廉に失して認定した違法がある。

(被告らの認否)

請求原因一は認める。

同二は争う。

同三のうち本件裁決の理由は認めるが、その余は争う。

(被告署長の主張その一-本件各更正処分の根拠)

一  原告の係争各年分における総所得金額の内訳は次表のとおりであり、所得金額算出の根拠は順次以下に述べるとおりであつて、本件各更正処分はいずれもその範囲内であるから適法である。

(昭和三九年分)

<省略>

(昭和四〇年分)

<省略>

二 本件各更正処分に至るまでの経緯および所得算出根拠の概要

1  本件更正処分は、前記のとおり雑所得および譲渡所得の計算にのみ基因するので次のとおりその額を明らかにする。

原告は、いわゆるビルの管理および分譲等を業とするものであるが、昭和三九年に東京都北区王子四丁目一番地二九および同番地三一所在の原告所有の土地(一八七・三二坪、以下「本件土地」という)に別表一のとおりの鉄筋コンクリート造五階建建物(以下「本件ビル」という。)を建築し、本件ビルのうち、一階および二階の一部を除いた部分を本件土地の借地権(以下「本件借地権」ともいう。)とともに、昭和三九年および同四〇年中に分譲したほか、昭和三九年に東京都北区王子三丁目三〇番地一五所在の原告所有の宅地(三一・九八坪)および家屋(二二・七五坪。以下「三丁目所在の物件」ともいう。)を訴外阿部一郎に譲渡した。

2  ところで、原告の昭和三九年中の本件ビルの分譲にかかる収入金額は、営利を目的とする継続的行為より生じたものであり、所得税法(昭和四〇年法律第三三号による改正前のもの、以下「旧所得税法」という。)九条一項八号本文かつこ書および同条同項一〇号の規定より雑所得の収入金額であることは明らかである。

よつて、右収入金額三一、七三五、〇八〇円から必要経費二八、九一九、八一四円を控除すると雑所得の金額は二、八一五、二六六円となる。

また、原告の昭和三九年中の本件土地の借地権の分譲にかかる収入金額および東京都北区王子三丁目三〇番地所在の宅地および建物の譲渡による収入金額は、旧所得税法九条一項八号に規定する譲渡所得の収入金額であることは明らかである。

よつて、右借地権の分譲にかかる収入金額三、四六四、九二〇円から分譲部分にかかる借地権の取得価額および分譲に要した費用の合計額四四四、六二五円を控除すると譲渡所得の金額は三、〇二〇、二九五円となる。

次に、三丁目三〇番地一五所在の宅地および建物の譲渡による収入金額四、六四五、八〇〇円から租税特別措置法三五条一項および同法施行令二四条四項の規定により買換資産(本件ビル二階の自用住宅部分)の取得価額二、六九七、九二〇円を控除した一、九四七、八八〇円を譲渡があつたものとする金額とし、同金額から右譲渡した宅地および建物の取得価額三二一、五九九円に租税特別措置法施行令二四条四項の規定による割合を乗じて得た金額一三四、八三九円を控除すると譲渡所得の金額は、一、八一三、〇四一円となる。したがつて課税譲渡所得金額は、旧所得税法九条一項の規定により、右借地権の分譲による譲渡所得の金額三、〇二〇、二九五円と右宅地および建物の譲渡による譲渡所得の金額一、八一三、〇四一円との合計額四、八三三、三三六円から一五〇、〇〇〇円を控除した額の二分の一に相当する額の二、三四一、六六八円となる。

以上により、被告署長が原告の昭和三九年分の雑所得を二、八一五、二六六円、課税譲渡所得を二、三四一、六六八円として更正した本件更正処分は適法である。

3  次に、原告の昭和四〇年中の本件ビルの分譲にかかる収入金額は所得税法三三条一一項一号および同法三五条の規定により雑所得の収入金額であることは明らかである。

よつて、右収入金額二九、二八〇、五一五円から必要経費二三、八六三、六六七円を控除すると雑所得の金額は五、四一六、八四八円となる。

また、原告の昭和四〇年中の本件土地の借地権の分譲にかかる収入金額は所得税法三三条に規定する譲渡所得の収入金額であることは明らかである。

よつて、右借地権の分譲にかかる収入金額二、八六九、四八五円から分譲部分にかかる借地権の取得価額および分譲に要した費用の合計額三三一、〇五六円を控除すると譲渡益は二、五三八、四二九円となる。したがつて、課税譲渡所得の金額は、所得税法二二条および三三条の規定より右譲渡益二、五三八、四二九円から一五〇、〇〇〇円を控除した額の二分の一に相当する額の一、一九四、二一四円となる。

以上により被告署長が原告の昭和四〇年分の雑所得を五、四一六、八四八円、課税譲渡所得を一、一九四、二一四円として更正した本件更正処分は適法である。

(被告署長の主張その二-各係争年分における所得金額算出の根拠)

本件更正処分は、原告が本件ビルのうち一階全部と二階の二室を除いて昭和三九年と昭和四〇年に本件土地の借地権とともに分譲したほか、昭和三九年に原告所有の三丁目所在の物件(宅地および家屋)を譲渡したことによる雑所得および譲渡所得にかかる処分であるが、その所得金額算出の根拠を詳述すると以下のとおりである。

一 本件更正処分にかかる所得の種類

本件ビル分譲および本件土地の借地権分譲による所得は、次に述べるとおり雑所得および譲渡所得である。(昭和三九年分は旧所得税法九条一項・四号・八号および一〇号、昭和四〇年分は所得税法二七条・三三条一項・二項および三五条)

1  本件ビル分譲による所得

原告は、本件ビル分譲前から不動産賃貸業を営んでいた者であつて、不動産売買業を業としている者ではないから、原告の本件ビル分譲による所得が事業所得でないことは明らかである。

次に、本件ビルの分譲が「資産の譲渡」であることから、右分譲による所得が譲渡所得に該当するかどうかであるが、原告は本件ビルを昭和三九年一〇月ころに建築し、これを昭和四〇年五月ころまでの約八か月間に順次譲渡したものであること、および本件ビルが一階全部を除き分譲する目的で建築されたものであることから、本件ビルの分譲が、営利を目的として継続的に行なわれたことは明らかであるから譲渡所得には当らない。

したがつて、原告が本件ビルを分譲して得た所得は、雑所得であるといわなければならない。

2  本件土地の借地権分譲による所得

原告は、本件ビル分譲に伴い本件土地上に借地権を設定し、借地権設定の対価を本件ビルの分譲価額に含めて収入したのであるから、譲渡所得の基因となる「資産の譲渡」に当ることは明らかである。

すなわち、原告は本件土地を昭和二二年八月七日から長期間引き続き所有していたこと、本件土地が本件ビル建築まで原告所有の倉庫およびアパートの敷地として利用されていて販売を目的として取得したものでないことからして、本件土地が事業所得の基因となる「たな卸資産」に該当しないうえ営利を目的として所有されていたものでないことは明らかである。

したがつて、本件土地上に借地権を設定することにより得た所得は譲渡所得に該当するといわなければならない。

3  三丁目所在の物件の譲渡による所得

原告は、三丁目所在の物件を昭和三九年一月に譲渡するまでは、原告の住宅用として利用していたものであるから、右物件を譲渡して得た所得は譲渡所得であることは明らかである。

二 本件ビルの分譲に伴う雑所得および譲渡所得の計算

1  所得の算出式の概要

(一) ビル分譲による雑所得

ビル分譲収入金額-(ビル分譲部分の建築費+必要経費)

(二) 借地権分譲による譲渡所得

譲渡所得=譲渡益-特別控除額

譲渡益=借地権分譲収入金額-(分譲借地権の取得費+必要経費)

2  当事者間に争いのない事実

次の各事実については、原告および被告署長において争いがない。

(一) 本件ビルの建築総面積が一、六四五・二七平方メートルであり、このうち一階の床面積が三二七・七七平方メートルであること(したがつて、二階以上部分の床面積は一、三一七・五平方メートルであること)。

(二) 本件ビルの敷地面積が一八七・三二坪であること。

(三) 本件ビル建築費の総額が五八、一一四、四八〇円であること。

(四) 本件ビルの一階全部と二階のうちの二室を除いた二階以上の三八室(一、二四六・二〇平方メートル)について原告が昭和三九年(六八一・六九平方メートル)と昭和四〇年(五六四・五一平方メートル)に分譲したこと。

(五) 分譲収入金額の総額は、六七、三五〇、〇〇〇円であり、このうち昭和三九年分の分譲収入金額の合計は三五、二〇〇、〇〇〇円であり、昭和四〇年分の分譲収入金額の合計は三二、一五〇、〇〇〇円であること。

(六) 分譲にかかる必要経費のうち、本件ビル建築のために取りこわした建物の取りこわし費用の額は七〇、〇〇〇円であり、雑費の合計額は四、四二六、〇〇〇円であること。

なお、雑費の額は、公正証書作成料四〇、〇〇〇円、収入印紙購入代三六、〇〇〇円(昭和三九年分一八、六〇〇円、昭和四〇年分一七、四〇〇円)および不動産仲介手数料四、三五〇、〇〇〇円(昭和三九年分二、四三〇、〇〇〇円、昭和四〇年分一、九二〇、〇〇〇円)であること。

3  本件ビルの分譲比および年分比

(一) 分譲比(本件ビルの総床面積に対する分譲部分の床面積の割合)

分譲費は、総床面積および分譲部分の床面積のいずれにも争いがないので七五・七四パーセントである〔別表二の「計算方法」欄の算式(以下「算式」という。)<1>〕。

(二) 年分比〔本件ビルの分譲部分の床面積に対する昭和三九年の分譲床面積の割合(以下「三九年分比」という。)および昭和四〇年の分譲部分床面積の割合(以下「四〇年分比」という。)〕。

昭和三九年および昭和四〇年の分譲部分床面積のいずれにも争いがないので、三九年分比は五四・七パーセント、四〇年分比は四五・三パーセントである(算式<2>、<3>)。

4  借地権の分譲収入金額およびビルの分譲収入金額

(一) 借地権の分譲収入金額

原告は、本件ビルの分譲にあたつて本件ビルを借地権付で分譲したのであるが、ビル分譲収入金額と借地権分譲収入金額とが区分されていないため、それぞれの収入金額が明らかでないので、被告署長は次のとおり借地権分譲収入金額を六、四五五、三六五円と計算した。

すなわち、まず、本件土地の坪当り価額について本件土地附近の土地の売買実例二件の坪当り平均売買価額をもとに計算した価額六九、八六七円と、宅地の相続税評価額を算定する場合に基となる本件土地の路線価を基に計算した価額七〇、〇〇〇円を合せ考慮して本件土地の坪当り価額を七〇、〇〇〇円とし、これに相続税評価基準による借地権割合(六五パーセント)を乗じて得た金額四五、五〇〇円を借地権の坪当り分譲価額とした。

したがつて、借地権の分譲収入金額は右四五、五〇〇円に本件土地の面積および分譲比を乗じて得た金額の六、四五五、三六六円であり、このうち、昭和三九年分は右金額に三九年分比を乗じて得た金額の三、五三一、〇八五円であり、昭和四〇年分は右金額に四〇年分比を乗じて得た金額の二、九二四、二八〇円である(算式<4>、<5>)。

(二) ビルの分譲収入金額

本件ビル分譲による昭和三九年分の分譲収入金額は、昭和三九年分の分譲収入金額三五、二〇〇、〇〇〇円から右昭和三九年分の借地権分譲収入金額の三、五三一、〇八五円を控除した金額の三一、六六八、九一五円であり、昭和四〇年分の分譲収入金額は、昭和四〇年分の分譲収入金額三二、一五〇、〇〇〇円から右昭和四〇年分の借地権分譲収入金額の二、九二四、二八〇円を控除した金額の二九、二二五、七二〇円であり、その合計金額は、六〇、八九四、六三五円である(算式<6>、<7>)。

5  ビル分譲部分の建築費

本件ビルの総建築費の額は争いのない五八、一一四、四八〇円であるから、総建築費の額から二階以上の住宅部分に専属する工事費の額(風呂場工事・物干工事等の合計額七八二、二五五円)を控除した建築費の金額五七、三三二、二二五円(以下「基本金額」という。)を基として次のとおり分譲部分の建築費の額を計算した。

(一) 一階部分の建築費

一階部分の建築費の額は、右基本金額に、本件ビルの工事見積書による総建築費の額(五二、九五五、五〇九円)から一般経費の額(現場経費、一般経費等の合計額五、九一六、〇〇〇円)を控除した直接工事費の額(四七、〇三九、五〇九円)に対する一階部分の直接工事費の額(別表四の合計額六、七七七、六四五円)の割合(一四・四一パーセント)を乗じて得た金額の八、二六一、五七四円である(算式<8>、<9>、<11>)。

(二) 二階以上部分の建築費

二階以上部分の建築費の額は、基本金額(五七、三三二、二二五円)から(一)により計算した一階部分の建築費の額(八、二六一、五七四円)を控除した額(四九、〇七〇、六五一円)に基本金額を求めるために控除した二階以上の住宅部分に専属する工事費の額(七八二、二五五円)を加算した額の四九、八五二、九〇六円である(算式<10>、<12>、<13>)。

(三) 自用住宅部分の建築費

二階二室の自用住宅部分の建築費の額は、二階以上部分の一平方メートル当りの建築費の額に自用住宅部分の床面積を乗じて得た金額の二、六九七、九二〇円である(算式<14>)。

(四) 分譲部分の建築費

分譲部分の建築費の額は、(二)の二階以上部分の建築費の額から自用住宅部分の建築費の額を控除した金額の四七、一五四、九八六円である。

また、分譲部分の建築費の額のうち、昭和三九年分は、右金額に三九年分比を乗じて得た金額の二五、七九三、七七七円であり、昭和四〇年分は、右金額に四〇年分比を乗じて得た金額の二一、三六一、二〇九円である(算式<15>、<16>、<17>)。

6  分譲借地権の取得費

本件土地は、原告が昭和二七年一二月三一日以前から所有しているので、分譲した部分の借地権の取得費は、借地権の昭和二八年一月一日における価額の二五四、四七四円(旧所得税法一〇条の五第三項および同法施行規則一二条の一九第四項ならびに所得税法六一条二項および同法施行令一七二条一項の規定により計算した金額)に、昭和三九年分は分譲比および三九年分比を乗じて得た金額の一〇五、四二八円であり、昭和四〇年分は分譲比および四〇年分比を乗じて得た金額の八七、三一〇円であり、その合計額は一九二、七三八円で所得税法の規定に従い適法に計算した金額である(算式<18>、<19>)。

7  分譲にかかる必要経費

(一) 本件ビルを建築するために取こわした建物の損失金額(取こわし時の取得価額)

(1) 倉庫

取こわしによる金額は、倉庫を原告が昭和二七年一二月三一日以前から所有しているので、倉庫の昭和二八年一月一日における価額の一、四二一、〇〇〇円から取こわした日までの減価償却費の額の累計額を控除した金額の七〇六、九四八円(旧所得税法一〇条二項および同法施行規則一二条二項ならびに所得税法五一条四項および同法施行令一四三条の規定により計算した金額)である(算式<20>、<21>)。

(2) アパート

取こわしによる損失金額は一、三六二、八七五円である。

すなわち、原告は、アパート(独身寮ほまれ荘)の取得時期、取得価額について被告署長所部係官に対してなんらの申立をしないうえ、未登記であり、アパートとしての固定資産税評価額も付されていないため取得時期、取得価額が不明であるので、被告署長はやむなく取こわしたアパートと類似する隣接地の王子四丁目一一番一所在のアパートの固定資産税評価額をもととし、同評価額は時価の八〇パーセント相当額で付されているものと認定されるので同評価額を八〇パーセントで還元した価額の坪当り価額(二三、一〇〇円)に取こわしたアパートの床面積(原告主張の五九坪)を乗じて求めたものである(算式<22>)。

(3) 事務所

取こわしによる損失金額は一二一、二七五円である。

すなわち、事務所の取得時期、取得価額は、アパートと同様に不明であるので、事務所用建物の価額は、アパート等住宅用建物の価額の七五パーセント相当額と認定されるので、右アパートの坪当り価額に七五パーセントを乗じて得た額を事務所の坪当り価額(一七、三二五円)とし、同価額に取こわした事務所の床面積(原告主張の七坪)を乗じて求めたものである(算式<23>)。

(二) 取こわした倉庫、アパートおよび事務所の取こわし費用の額は七〇、〇〇〇円(原告の申立額)である(算式<24>)。

(三) 本件ビル建築のために取こわした倉庫、アパート、事務所の取こわしによる損失金額および取こわし費用の合計金額は、二、二六一、〇九八円である。右合計金額のうちには、分譲しない部分の必要経費の額が含まれているので、分譲にかかる昭和三九年分の必要経費の額は、右合計金額に分譲比および三九年分比を乗じて得た金額の九三六、七七八円であり、昭和四〇年分の必要経費の額は、右合計金額に分譲比および四〇年分比を乗じて得た金額の七七五、七八七円で、その合計金額は一、七一二、五五五円である(算式<25>、<26>)。

なお、原告は取こわした建物の取こわし時の価額はすべて坪当り六〇、〇〇〇円であると主張するが、原告が主張する価額は、原告の主観による取こわし時の価額であつて、かかる価額が建物の取こわしによる損失金額として認められるべきものでないことは旧所得税法一〇条二項および同法施行規則一二条二項ならびに所得税法五一条四項および同法施行令一四三条の規定上明らかであるから、原告の主張は失当というべきである。

(四) 分譲にかかる雑費

雑費の合計額は四、四二六、〇〇〇円で争いがない。右金額のうち昭和三九年分は二、四八八、六〇〇円であり、昭和四〇年分は一、九三七、四〇〇円である(算式<27>、<28>)。

(五) 分譲にかかる必要経費のビル分譲にかかる部分と借地権分譲にかかる部分への配分

A 昭和三九年分

(1) 昭和三九年分の分譲にかかる必要経費の合計金額は、前記(三)の建物の取こわしによる昭和三九年分損失金額の九三六、七六八円と(四)の分譲にかかる雑費の昭和三九年分金額の二、四八八、六〇〇円との合計金額の三、四二五、三六八円である(算式<29>)。

(2) ビル分譲にかかる必要経費の額は、右合計金額に昭和三九年分の分譲収入金額(三五、二〇〇、〇〇〇円)に対する昭和三九年分のビル分譲収入金額(三一、六六八、九一五円)の割合(八九・九七パーセント)を乗じて得た金額の三、〇八一、八〇四円である(算式<31>)。

(3) 借地権分譲にかかる必要経費の額は、(1)の金額から(2)の金額を控除した金額の三四三、五六四円である(算式<32>)。

B 昭和四〇年分

(1) 昭和四〇年分の分譲にかかる必要経費の合計金額は、前記(三)で述べた昭和四〇年分損失金額の七七五、七八七円と(四)で述べた昭和四〇年分雑費の金額の一、九三七、四〇〇円との合計金額の二、七一三、一八七円である(算式<30>)。

(2) 右合計金額のうち、ビル分譲にかかる必要経費の額と借地権分譲による必要経費の額との配分は、1と同様の方法によりビル分譲にかかる必要経費の金額は二、四六六、二八七円であり、借地権分譲にかかる必要経費の金額は二四六、九〇〇円である(算式<33>、<34>)。

8  ビル分譲による雑所得および借地権分譲による譲渡益

本件ビルおよび借地権の分譲による雑所得の金額および譲渡益の金額は次のとおりである。

(一) 昭和三九年分

ビル分譲による雑所得の金額 二、七九三、三三四円

借地権分譲による譲渡益の金額 三、〇八二、〇九三円

すなわち、雑所得の金額は、ビル分譲収入金額三一、六六八、九一五円(4の(二)の金額)からビル分譲部分の建築費の金額二五、七九三、七七七円(5の(四)の金額)およびビル分譲にかかる必要経費の金額三、〇八一、八〇四円(7の(五)のAの(2)の金額)を控除した金額の二、七九三、三三四円である。

また、譲渡益の金額は、借地権分譲収入金額三、五三一、〇八五円(4の(一)の金額)から分譲借地権の取得費の金額一〇五、四二八円(6の金額)および借地権分譲にかかる必要経費の金額三四三、五六四円(7の(五)のAの(3)の金額)を控除した金額の三、〇八二、〇九三円である。

(二) 昭和四〇年分

ビル分譲による雑所得の金額 五、三九八、二二四円

借地権分譲による譲渡益の金額 二、五九〇、〇七〇円

すなわち、雑所得の金額は、ビル分譲収入金額二九、二二五、七二〇円(4の(二)の金額)からビル分譲部分の建築費の金額二一、三六一、二〇九円(5の(四)の金額)およびビル分譲にかかる必要経費の金額二、四六六、二八七円(7の(五)のBの(2)の金額)を控除した金額の五、三九八、二二四円である。

また、譲渡益の金額は、借地権分譲収入金額二、九二四、二八〇円(4の(一)の金額)から分譲借地権の取得費の金額八七、三一〇円(6の金額)および借地権分譲にかかる必要経費の金額二四六、九〇〇円(7の(五)のBの(2)の金額)を控除した金額の二、五九〇、〇七〇円である。

三 三丁目所在の物件の譲渡による譲渡益

1  譲渡があつたものとみなされる収入金額

原告は、右宅地および建物の譲渡による譲渡所得の申告において、租税特別措置法(以下「措置法」という。)三五条一項の規定を適用しているので、譲渡があつたものとみなされる収入金額は、同法施行令二四条四項の規定により、原告が申告した右譲渡による収入金額四、六四五、八〇〇円から買換資産として取得した本件ビル二階の自用住宅部分の建築費の二、六九七、九二〇円を控除した金額の一、九四七、八八〇円である。

2  譲渡にかかる必要経費

右譲渡にかかる必要経費は、原告が申告した必要経費の金額三二一、五九九円に租税特別措置法施行令二四条四項に規定する割合(四一・九二七八パーセント)を乗じて得た金額の一三四、八三九円である(算式<42>)。

3  譲渡益

右譲渡による譲渡益の金額は、右1の金額から2の金額を控除した金額の一、八一三、〇四一円である。

四 結論(本件更正処分にかかる雑所得および譲渡所得)

1  昭和三九年分

ビル分譲による雑所得の金額 二、七九三、三三四円

借地権分譲ならびに三丁目所在の物件の譲渡による譲渡所得 二、三七二、五六七円

すなわち、ビル分譲による雑所得の金額は二の8の(一)の金額と同額であり、借地権分譲および三丁目所在の譲渡による譲渡所得の金額は借地権分譲による譲渡益の金額(二の8の(一))と三丁目所在の物件の譲渡益の金額(三の3)との合計額から譲渡所得の特別控除額の一五〇、〇〇〇円を控除した金額の二分の一に相当する金額の二、三七二、五六七円である。

2  昭和四〇年分

ビル分譲による雑所得の金額 五、三九八、二二四円

借地権分譲による譲渡所得 一、二二〇、〇三五円 (二の8の(二)参照)

なお、譲渡所得の金額は、二の8の(二)の譲渡益の金額から譲渡所得の特別控除額の一五〇、〇〇〇円を控除した金額の二分の一に相当する金額の一、二二〇、〇三五円である。

3  右所得金額は、昭和三九年分、昭和四〇年分のいずれについても、本件更正処分の金額を上廻つているので、本件更正処分は正当である。

(被告東京国税局長の主張)

原告は、被告局長に対し、同局長がなした裁決の取消を求め、その理由として原処分の違法を主張しているが、これは行訴法一〇条二項により許されないものであるから、原告の右請求には理由がなく、棄却せられるべきである。

(被告らの主張に対する原告の認否)

一  本件更正処分の根拠についての被告署長の主張その一の一のうち、本件各更正処分が適法であるとの点は争い、その余は認める。

同主張二の1の事実中、本件土地の借地権が譲渡されたとの点は争い、その余は認め、同二の2、3は争う。

二  各係争年分における所得金額算出の根拠についての被告署長の主張その二のうち、

1 一の1、3の主張は認め、一の2の主張は争う。

2 二の1、2の主張は認め、その余は争う。

3 三の主張のうち、三丁目所在物件の譲渡により原告の得た収入金額が四、六四五、八〇〇円、原告の申告した必要経費の金額が三二一、五九九円であることは認め、その余は争う。

4 四の主張は争う。

(原告の主張)

一  本件更正処分にかかる所得の種類

本件ビル分譲による所得は全部雑所得である。原告は本件ビルの分譲にあたつては、借地権価額ぬきの安い分譲価額で処理せざるをえなかつたものである。すなわち、本件各係争年当時は、経済的に不況であり、しかも、原告と工事施行者との間に工事請負契約に関し紛争が生じ、工事代金支払時期を早めるよう督促されたので、やむなく原告は工事代金を調達するために、工事施行者の側において分譲が促進されるようにときめた借地権価額ぬきの分譲価額で本件ビルの分譲を行なわざるをえない事情にあつたものである。

したがつて、本件ビル分譲による原告の所得には、借地権譲渡による所得は含まれていないのであるから、これと異なる前提に立つて、原告の借地権分譲による収入を譲渡所得とする被告署長の主張は失当である。

二  本件ビルの分譲に伴う雑所得の計算

1 ビルの分譲比

本件ビルの総床面積に対する分譲部分の床面積の割合すなわち分譲比は七六・三五パーセントである。

被告署長の主張は、分譲部分の床面積に一階にあるポンプ室の面積一〇・〇二平方メートルを含めていないので失当である。

本件ビルの三階以上は、東京都水道局の指導方針上、水道管よりの直接給水が禁じられているので、二階以上の住宅給水のために作つたのが右ポンプ室である。したがつて、ポンプ室は一階分には必要がないのであるから、その面積は二階分以上の面積に加算したうえ、分譲比を計算すべきである。

また、このことは、原告においてポンプ室を現実に分譲したかどうかとは直接のかかわりはない。すなわち、本件における主たる問題点は総建築費のうち一階部分に相当する建築費が建築当時いくらであるかを最も合理的に算出し、総建築費を一階と二階以上の部分に配分することにあるのであるから、本件ポンプ室がビルのどの部分の効用のために造られたものかという観点から判断されるべきだからである。もしあくまでも分譲されたかどうかという点を問題にするのであれば、本件ポンプ室は潜在的に分譲の対象となつたと考えることができよう。

以上の観点に基づき別表五の算式<1>ないし<3>によるビル分譲比を求めた。

2 ビル分譲の年分比

昭和三九年分比は五四・七パーセント、昭和四〇年分比は四五・三パーセントである。

前記のとおり、原告主張の分譲床面積は、被告署長主張の分譲床面積よりポンプ室の床面積だけ大きいから、昭和三九年および四〇年の分譲床面積も当然ポンプ室の床面積を昭和三九年の分譲面積と昭和四〇年のそれとで按分した分だけ被告署長主張の昭和三九年および四〇年の分譲床面積より大きくなる(算式<4>、<5>)。このようにしてできた昭和三九年および四〇年の分譲床面積を、分譲床面積で割ると各年分比がでる(算式<6>、<7>)。この数値は被告署長主張の数値と同じであるが、ポンプ室の面積が小さいためたまたま数値に変動がなかつたに過ぎない点に注意すべきである。

3 各係争年分におけるビル分譲による収入金額

本件ビルの分譲による収入金額の総額は、六七、三五〇、〇〇〇円であるから、これを年分比により各係争年分におけるビル分譲による収入金額を求めると、昭和三九年分は三六、八四〇、四五〇円であり、昭和四〇年分は三〇、五〇九、五五〇円である(算式<8>、<9>)。

4 本件ビル分譲部分の建築費

(一) 本件ビルの総建築費は、被告署長主張のとおり、五八、一一四、四八〇円であるから、分譲部分の建築費は、右総建築費から一階部分の建築費および自用住宅部分である二階の二室の建築費を控除した額である五二、三五三、五二九円である(算式<10>ないし<12>)。そして、これの各年分比を求めると、昭和三九年分は二八、六三七、三八〇円、昭和四〇年分は二三、七一六、一四八円である(算式<13>、<14>)。

(二) 一階部分の建築費二、七六五、七〇〇円は、本件土地において仮りに一階部分のみのビルを造るとした場合の建築費である。

被告署長主張のような外形的、形式的な計算方法だと一階部分の犠牲において二階以上の部分が建築された結果になる。

すなわち、被告署長の主張する建築費の算式は、本件土地上に一階のみのビルを造る場合と、五階のビルを造る場合との間に、基礎、地下杭、柱、壁、階段等においてその建築構造上の比重、建設経費およびその金利等の割合につき重大な差異のあることを見逃している。

本件ビル建築に使用した地下杭、大きな基礎、数多い大きい柱、厚壁等はいずれも二階ないし五階のビルを建築するにあたり、その加重を耐久化するための必要から施工されたものであつて、一階のみの建築ならこのようなことは不必要である。

また、建築費用においても格段の差があるから、金利およびその他諸費用もこれに応じて一階のみの建築と五階のビル建築とを同視して、単位面積当りの金額を割出すことは不合理である。

(三) なお被告署長は不動産鑑定評価基準のなかの「対象資産が建設直後のものである場合には、その建設費の内容を構成部分別または工事種別ごとに検討し、所要の修正を加える方法によることができる」とある部分を本件の場合にも準用しようとしているが、これは機能的に一体となつた建物全体を評価する場合の計算方法であつて、本件のように一階と二階以上の建築費の配分を行なうという場合には妥当しないものである。

(四) なお、ポンプによる送水は、現在においては一階と二階以上の住宅部分とを切り離してはいるが、本件ビル建築以降の八年間は同じ給水設備の水を一階でも使用していたものである。したがつて、排水設備工事費、給水設備工事費、水揚ポンプ、屋上タンク、その他の水に関する一階の工事費は、右各工事見積額のうち一階部分に相当する額の八年間分の減価償却費に相当する額であると解すべきである。

5 ビル分譲にかかる必要経費

(一) 建物取こわしによる損失金額等

(1) 倉庫の取こわし時の価額は二、二八六、六七二円(算式<15>)、アパートの取こわし時の価額は三、〇九七、五〇〇円(算式<16>)、事務所の取こわし時の価額は三六七、五〇〇円(算式<17>)であり、この合計額は五、七五一、六七二円である。

(2) 右各物件の取こわし費用の合計額は被告署長も承認しているとおり七〇、〇〇〇円である(算式<18>)。

(3) 右1、2の合計額は五、八二一、六七二円であるが、このなかには被告署長の主張するとおり分譲しない部分の必要経費の額が含まれているので、分譲にかかる昭和三九年分の必要経費の額は、右合計金額に分譲比および三九年分比を乗じて得た二、四三一、三三一円であり、昭和四〇年分の必要経費の額は、分譲比および三九年分比を乗じて得た二、〇一三、五一五円である(算式<19>、<20>)。

(4) 被告署長は旧所得税法施行規則一二条二項ならびに所得税法施行令一四三条の規定により、本件各物件の取こわし時の価額を計算しているが、右各法令が規定する計算方法では取こわし物件の価額が余りに低額となつて現実に適合せず、納税者に必要以上の重税を強いる結果となる。右各法令は適正に定められていないので、それぞれ旧所得税法一〇条三項、所得税法五一条五項に違反し無効といわなければならない。

(二) ビル分譲にかかる雑費

昭和三九年ビル分譲にかかる雑費は被告署長も承認しているとおり二、四八八、六〇〇円であり、昭和四〇年ビル分譲にかかる雑費は同様に一、九三七、四〇〇円である。

(三) ビル建築による土地の値下り損

(1) 原告はすでに述べたような事情により借地権価額ぬきの安い分譲代金で本件ビルの分譲を行なつたため、普通であれば当然原告の手元に入るべきであつた借地権相当額が入らず、反面ビル敷地の価額はビルが建つたため大幅に低下した。この土地価額値下り損は所得税法五一条四項にいわゆる「雑所得の基因となる資産の損失」に該当するから右値下り損の額は本件ビル分譲にともなう必要経費に算入されるべきである。

(2) 右値下り損は、ビル建築前の土地価額からビル建築後の土地価額を差引いて得た一九、〇六三、七〇〇円である(算式<23>ないし<25>)。

(3) 右一九、〇六三、七〇〇円のなかには分譲しない部分の負担すべき値下り損が含まれているので、昭和三九年ビル分譲にかかる土地値下り損は右金額に分譲比および三九年分比を乗じて得た七、九六一、六五八円であり、昭和四〇年ビル分譲にかかる土地値下り損は分譲比および四〇年分比を乗じて得た六、五九三、四七六円である(算式<26>、<27>)。

6 ビル分譲による雑所得

(一) 昭和三九年分

昭和三九年ビル分譲による雑所得は、昭和三九年ビル分譲収入金額三六、八四〇、四五〇円から昭和三九年ビル分譲部分の建築費の金額二八、六三七、三八〇円および昭和三九年ビル分譲にかかる各必要経費の金額を控除した金額であるが、この金額はマイナス四、六七八、五一九円となり結局四、六七八、四七五円の損失となる(算式<28>)。

(二) 昭和四〇年分

昭和四〇年ビル分譲による雑所得は、右と同様にして算出した金額であるが、この金額もマイナス三、七五〇、九五三円となり、結局三、七五〇、九八九円の損失となる(算式<29>)。

三  三丁目所在物件の譲渡による譲渡所得

1 譲渡による収入金額

譲渡による収入金額は、四、六四五、八〇〇円である。

2 譲渡にかかる必要経費

売却までの経費申告分三二一、五九九円、納税申告時の課税額三七五、〇〇〇円、売却住宅家屋の第二次工事費未申告分二五五、〇〇〇円、土地家屋の固定資産税三九年度分八、四〇〇円の合計九五九、九九九円である。

3 譲渡益

譲渡による譲渡益の金額は、右1の金額から2の金額を控除した金額の三、六八五、八〇一円である。

4 譲渡所得の金額

譲渡所得の金額は、右3の譲渡益の金額の二分の一に相当する金額の一、八四二、九〇〇円である。

四  結論(本件更正処分にかかる雑所得および譲渡所得)

昭和三九年分

雑所得の金額計算上生じた損失 四、六七八、五一九円

譲渡所得 四二九、〇六九円

昭和四〇年分

雑所得の金額計算上生じた損失 三、七五〇、九八九円

譲渡所得 〇円

(原告の主張に対する被告署長の反論)

一  一階ポンプ室関係について

原告は、ポンプ室は二階以上の住宅面の給水のためのものであるから一階の床面積からこれを除き、二階以上の床面積に加えて分譲比を計算すべきであると主張する。

しかしながら、原告が右ポンプ室を分譲したという事実はなんらないうえ、一階は水道管から直接給水し、二階以上の住宅のみにポンプによる給水をしているという事実も東京都水道局による水道の付設状況からみてなく、本件ビル全体の給水施設として利用していることは原告も認めていることであつて、ポンプ室は二階以上の住宅給水のためのもので一階には不必要なものであるとする原告の主張は矛盾しており当らない。

原告は、さらに、一階へのポンプによる送水は現在二階以上の住宅部分と切り離し無関係となつているが、本件ビル建築から現在までの八年間同じ給水設備の水を一階でも使用していたので、排水設備工事費、給水設備工事費、水揚ポンプ、屋上タンク、その他の水に関する一階の工事費は、右各工事見積額のうち一階部分に相当する額の八年間分の減価償却費相当額でなければならないと主張する。

しかしながら、本件における問題点は、総建築費のうち一階部分に相当する建築費が建築当時いくらであるかを最も合理的に算出し、総建築費を一階と二階以上の部分に配分することにあるのであるから、仮りに原告が主張するように一階へのポンプによる給水が切り離されたとしても、建築時における右各工事は一階にも施されているのであるから、右各工事費は当然一階においても負担すべきであり、その負担額は全体の工事費に対する一階の工事費相当額とすべきが相当であつて、現在の状況から判断して八年間の減価償却費相当額であるという原告の主張計算は失当といわなければならない。

二  借地権の分譲について

1 原告は、本件ビルを借地権付で譲渡していないと主張する。

しかしながら、

<1>原告はその提出にかかる審査請求書において「本件ビルは(中略)そのうち一階部分および二階の二ブロツクを申立人が保有し、その他のプロツクを第三者に借地権付で譲渡したものである。」と記載し、原告が本件分譲住宅を借地権付で譲渡した事実を認めている。

<2>原告と本件分譲住宅の買主との間で作成された不動産売買契約書には、「買主は売主に対し毎月六百四拾円也の借地代を月末に支払うものとする。右借地期間は満六拾年とし期間満了時に於て、売主、買主双方合意の上契約更新をなすものとする。」と附記されており、右記載事実からも原告が本件ビルの敷地を買主に対して賃貸した事実は明らかである。

<3>ちなみに原告主張のとおりビルの分譲による収入金額には借地権の分譲対価が含まれておらず、分譲収入金額の金額が分譲住宅そのものの分譲による収入金額であるとしたら、本件分譲による所得は雑所得として課税されるべきことになつて、譲渡所得の特別控除および譲渡所得のいわゆる二分の一課税の特例(旧所得税法九条一項本文かつこ内および所得税法二二条二項ならびに同法三三条四項)も適用されないことになるから原告の課税所得金は本件更正処分にかかる課税所得金額を次表のとおり昭和三九年分は一、七二一、四七五円、昭和四〇年分は一、四五七、三四五円上廻ることとなる。

昭和三九年分(本件ビル分譲にかかるもの)

<省略>

昭和四〇年分

<省略>

(注) 計算の明細は、別表三のとおりである。

2 原告は、被告署長が認定した借地権分譲収入金額(六、四五五、三六六円)は、本件ビル敷地の全域に亘る価額となつて原告の使用権は喪失することになるから不当である旨主張する。

しかしながら、被告署長が認定した右借地権の分譲収入金額は、本件ビル敷地の借地権価額にビル分譲比(七五・七四パーセント)を乗じて得た金額としているのであつて、分譲されていない原告所有の一階全部と二階二戸分に相当する部分(二四・二六パーセント)の借地権価額は、右収入金額に含まれていないのであるから、借地権の分譲面積を本件ビル敷地の全部について認定したものとの前提に立つ原告の主張は理由がない。

三  本件ビルの建築費の配分について

1 本件ビルの総建築費を、分譲部分と原告取得部分とに配分するにあたり、原告は次のように主張する。

すなわち、地下杭・基礎・柱・壁・足場設計料等(以下「基礎等」という。)は、一階のみの建築の場合は不要であるか、または縮小されるから、それを面積比により一階に負担させることは不合理であるとし、一階部分のみを建築することを想定してその建築費を算定したうえ、その額を総建築費から控除し、この額をもつて二階以上の部分の建築費であるとする。

しかしながら、問題は、現実に存在する五階建ビル一棟の建物の総建築費を、そのビルの一部である一階部分と二階以上の部分とにいかに合理的に配分するかということである。

元来、ビルの各階部分は、独立して存在するものではなく、一体となつて一つの建築物を構成しているものである。すなわち、ビルの基礎等はビル全体の保全・存立に寄与しているものであり、また、各階は相互に関連して一体となつてビルの強度を保つているのである。

原告は、一階の主体工事費について力算力により算定(原告の力算力の計算が、構造力学的に正しいかどうかは知らない。)しているが、それは、建物を設計する場合の構造計算について参考にこそなれ、建築費の配分の係数とすることは適当ではない。

ちなみに、原告の主張に従えば、二階以上の各階についても建築費の配分は面積比によりえないことになるから、原告が二階の分譲しなかつた部分について、面積比により配分したことは自己の主張と矛盾することになる。

2 さらに、不動産の鑑定評価基準(昭和三九年三月二五日宅地制度審議会答申)の建物だけの鑑定評価(同基準第七の三)によれば、「固定資産の評価替等に当つて建物だけの鑑定評価を、求められる場合がある。この場合における建物の鑑定評価額は、復成現価を標準として決定するものとする。」と規定しており、鑑定評価方式の一として復成式評価法がある。この復成式評価法により復成価格を求める方法として「対象資産が建設直後のものである場合には、その建設費の内容を構成部分別または工事種別ごとに検討し、所要の修正を加える方法によることができる。」とされており、通常このような方法によつて評価されている。しかして、本件ビルの場合も、建築直後に分譲されたものであるから、右方法に準じて一階と二階以上の建築費の配分を行なうことが最も合理的な方法である。

しかしながら、本件ビルは追加工事がなされているが、右追加工事分の工事明細の確認ができないため、総建築費の工事別明細が明らかでないので、被告署長はやむなく一階と二階以上の工事費の配分計算を、原告と工事請負業者である株式会社小林工務店との間において作成された本件ビル建築見積書による見積額を基とし、見積額の合計額五二、九五九、五〇九円のうちの直接工事費四七、〇三九、五〇九円を一階部分と二階以上の部分に区分(別表四)して直接工事費に対する一階部分と二階以上、上部分との割合を求め、求めた割合を基本金額に乗ずる方法によつて、一階と二階以上の建築費の配分を行なつたものであり、被告署長の計算には合理性があるというべきである。

3 ところで、建物の区分所有に関する法律(昭和三七・四・四法律第六九号)三条一項によれば、「数個の専有部分に通ずる廊下又は階段室その他構造上区分所有者の全員又はその一部の共用に供されるべき建物の部分は、区分所有権の目的とならないものとする。」とあり、また一〇条一項では共用部分の持分について、「各共有者の持分は、その有する専有部分の床面積の割合による。」とされている。

そして、基礎・外壁・屋上・界壁等は、構造上不可分であるため、右三条にいう法定共用部分にあたるものとされているから、本件ビルの各区分所有者は、右基礎等の部分についてそれぞれ床面積の割合により持分を有することになる。

したがつて、基礎等に対する区分所有者間の右のような権利関係からみても、本件ビルの基礎等について、面積比により按分計算して配分した被告の計算は合理的である。

四  分譲借地権の取得費について

旧所得税法一〇条の五第三項(現行所得税法六一条二項同旨)によれば、「譲渡所得の基因となる資産が昭和二七年一二月三一日以前から引き続き所有していた資産である場合には、その資産に係る譲渡所得の金額の計算上控除する取得費は、その資産の昭和二八年一月一日における価額として政令で定めるところにより計算した金額(当該金額がその資産の取得に要した金額と同日前に支出した設備費及び改良費の額との合計額に満たないことが証明された場合には、当該合計額)とその資産につき同日以後に支出した設備費及び改良費の額との合計額とする。」とされている。

右の規定から明らかなように、昭和二七年一二月三一日以前に取得した資産についての取得費は、原則として、政令で定める金額によることとされ、政令で定める金額がその資産の実際の取得費等に満たないことが証明された場合にはじめて後者の金額によることができることとされている。

ところで、原告の取得費についての主張は、取引例に基づいて昭和二八年一月一日当時における本件ビルの敷地の評価額を求めると、三・三平方メートル当り二〇、〇〇〇円になるというのであるが、右金額は譲渡資産である右敷地そのものの実際の取得に要した費用ではないのであるから、右金額を譲渡所得の計算の上で取得費として控除することは許されない。

五  本件ビル分譲に伴う土地の値下り損について

1 原告は、本件ビルの大半を分譲したことによりその敷地価額が低下したからその低下したことによる値下り損の額は、本件ビル分譲による雑所得の基因となる資産の損失(所得税法五一条四項)に該当し、雑所得の金額の計算上必要経費に算入されるべきものであると主張する。

しかしながら、原告の主張する敷地価額の低下は本件ビルを借地権付で譲渡したことによるものであり、当該借地権の譲渡にかかる譲渡所得の金額の計算上当該借地権の取得費を控除しているのであるから、借地権の譲渡によりその土地価額が減少したからといつてその減少した額をさらに本件ビル分譲による雑所得の基因となる資産の損失として所得計算上控除する理由は全くないのである。したがつて、原告主張の損失が必要経費に算入されるべきでないことはいうまでもないところである。

2 また、原告はビル建築前の土地価額は坪当り一五〇、〇〇〇円であると主張しているが、本件ビル建築当時における土地価額はすでに被告署長が主張したとおり坪当り七〇、〇〇〇円が適正であつて、原告主張の額が不当に高額であることは次のことからも明らかである。

すなわち、原告が所有していた三丁目所在の物件は原告によつて昭和三九年一月に訴外阿部一郎に代金四、六四五、八〇〇円で売却されたことは当事者間に争いのないところであるが、右宅地は坪当り一〇〇、〇〇〇円で売買されている。

ところで、右売却された宅地は公道に面する土地であるのに対して本件ビルが所在する宅地は私道に面した土地であつて、売却された宅地に比して立地条件が地理的に劣つていることは明らかである。このことは、本件ビルが所在する宅地の昭和三九年度における東京都の固定資産税評価額の単位当り価額が、次のとおり、前記三丁目所在の宅地の同年度におけるそれの七六・九八パーセントにすぎないことからも確認される。

<省略>

そして、被告署長主張の本件ビル所在の土地の坪当り価額七〇、〇〇〇円は、前記三丁目所在の宅地の坪当り売買価額一〇〇、〇〇〇円に七六、九八パーセントを乗じて得た七六、九八〇円と近似していて適正な価額であるといい得るのに反して原告主張の価額は、なんらの根拠がなく不当に高額である。

六  本件ビル敷地上に存在した取こわし家屋の損失金額について

原告は、算式<15>ないし<17>において、本件ビル敷地上にあつた建物の取こわしによる損失金額は、時価価値を計算の基準とし、再建築価額から取こわし時までの経過年数に応ずる減価償却費の額を控除した額によるべきであると主張する。

しかしながら、固定資産の取こわし、除却、滅失等の事由により生じた資産損失の金額は、損失のあつた資産そのものについて生じた損失額をいい、損失金額は、損失のあつた資産が家屋その他使用または期間の経過により減価する資産である場合には、その資産の取得に要した金額(その資産を昭和二七年一二月三一日以前から引き続き所有している場合には、昭和二八年一月一日における価額として別に定められている方法により計算した金額)ならびにその他の設備費および改良費を加えた合計額から、損失があつた日までの減価償却費の累計額を控除した金額とされている(所得税法五一条四項および同法施行令一四二、一四三条)。

したがつて、原告が主張する方法による価額は、損失のあつた資産そのものについて生じた損失額ではなく、所得税法の規定によらない原告独自の見解というべきであるから認められないものである。

第三証拠関係

(原告)

一  甲第一、二号証、第三号証の一、二、第四号証、第五、六号証の各一、二、第七ないし第一五号証を提出。

二  原告本人尋問の結果を援用。

三  乙第二〇、二一号証、第二三号証の成立は不知、その余の乙号証の成立はすべて認める。

(被告ら)

一 乙第一号証の一、二、第二、三号証、第四、五号証の各一、二、第六号証、第七号証の一ないし四、第八ないし第一八号証、第一九号証の一ないし四、第二〇、二一号証、第二二号証の一、二、第二三、二四号証を提出。

二 証人鈴木三郎の証言(第一、二回)を援用。

三 甲第四号証中、東京国税局長印部分の成立、第九号証中、赤斜線部分以外の成立を認める、その余の甲号各証各部分の成立はすべて不知。

理由

(被告署長に対する請求について)

一、請求原因一の事実は当事者間に争いがない。

二、本件課税処分の当否

1  原告の各係争年分の所得の内訳(被告署長主張その一の表記載)中、いずれも配当、不動産、給与の各所得金額については当事者間に争いがないから、その余の譲渡所得および雑所得の各金額の当否について以下検討することとする。

2  被告署長の主張(その一)二の1の事実中、原告が本件土地の借地権を譲渡したとの点を除くその余の事実は当事者間に争いがない。

原告は、本件ビルの分譲に際しては借地権をともに譲渡したことを争うのであるが、成立に争いのない乙第九号証、原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第一〇号証、ならびに弁論の全趣旨によれば、原告は本件ビルを分譲するに際して買主との間に本件土地について期間六〇年、借地代月額六四〇円とする賃貸借契約を締結したことを認めることができる。原告は前記尋問の結果中、右契約は本件土地の使用ではなく、本件土地上を使用することを目的とするものであると供述するが、社会観念上原告の供述するような内容の契約はたやすく認めがたいばかりでなく、そのような契約も帰するところ本件土地を使用するについての契約と同一内容と解せられるから、原告の右供述も前示認定の妨げにはならないし、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

よつて、本件ビルは前示認定のような内容の本件土地賃貸借契約が締結されるとともに借地権付で分譲されたものというべきである。

3  本件更正処分にかかる所得の種類

原告が本件ビル分譲に伴い本件土地上に借地権を設定し、借地権設定の対価を本件ビルの分譲価額に含めて収入したことはすでに認定したとおりである。そして、成立に争いのない乙第一五号証によれば原告は本件土地を昭和二二年八月七日から長期間引続き所有していたこと、原告本人尋問の結果によれば、本件土地が本件ビル建築まで原告所有の倉庫およびアパートの敷地として利用されていて販売を目的として取得したものでないことが認められるから本件土地が事業所得の基因となるたな卸資産に該当しないうえ営利を目的として所有されていたものでないものというべきである。

したがつて、本件土地上に借地権を設定することにより得た所得は譲渡所得に該当すると解するのが相当である。

4  本件ビルの分譲比および年分比

(一) 分譲比

本件ビルの建築総面積が一、六四五・二七平方メートルであり、一階の床面積が三二七・七七平方メートルであることは当事者間に争いがないから、本件ビルの総床面積に対する分譲部分の床面積の割合(すなわち分譲比)は七五・七四パーセントである(別表二算式<1>)。

原告は、一階に設置されたポンプ室(一〇・〇二平方メートル)は二階以上の分譲住宅のために作つたものであり、一階には必要のないものであるから、右面積は二階以上の床面積に加えて分譲比を計算すべきであると主張する。

しかしながら、原告がポンプ室を分譲した事実は認められない(潜在的に分譲の対象となつたとの原告の主張も意味不明であり採用しがたい。)のみならず、弁論の全趣旨によれば、ポンプ室は本件ビル全体の給水施設として利用されていることが窺われることからみて原告の右主張は失当である。

(二) 年分比

本件ビルの一階全部と二階のうちの二室を除いた二階以上の三八室すなわち一、二四六・二〇平方メートルについて、原告が昭和三九年に分譲した面積部分は六八一・六九平方メートルであり、昭和四〇年の分譲面積が五六四・五一平方メートルであることは当事者間に争いがない。

したがつて、本件ビルの分譲部分の床面積に対する昭和三九年の分譲部分床面積の割合すなわち三九年分比は五四・七パーセントであり、四〇年分比は四五・三パーセントである(別表二算式<2>、<3>)。

5  本件ビル分譲による雑所得

ビル分譲による雑所得の金額は、ビル分譲収入金額からビル分譲部分の建築費と必要経費を控除した金額であるから以下各項目につき検討する。

(一) ビル分譲収入金額

本件ビル分譲による収入金額の総額が六七、三五〇、〇〇〇円であること、このうち、昭和三九年分の分譲収入金額が三五、二〇〇、〇〇〇円であり、昭和四〇年分の分譲収入金額が三二、一五〇、〇〇〇円であることは当事者間に争いがない。

ところで、すでに認定したとおり、原告は本件ビルの分譲にあたつてこれを借地権付で譲渡したのであるから、右のビル分譲による収入金額中に借地権分譲による収入金額も含まれているので、借地権の分譲による収入金額と本件ビル(住宅部分)の分譲による収入金額とがそれぞれ明らかにされなければならない。

(1) 借地権の分譲による収入金額

成立に争いのない乙第二二号証の一、証人鈴木三郎の証言(第一回)により真正に成立したものと認められる乙第二〇、二一号証ならびに右証言によると、昭和四〇年頃本件ビル所在地近辺において、借地権者が地主から賃借中の宅地(いわゆる底地)を坪当り約二五、〇〇〇円ないし約二九、〇〇〇円で買いとつた取引事例があること、東京国税局管内中、東京都区内所在の宅地評価額五〇〇、〇〇〇円(坪当り)以上の場合、借地権割合は六五パーセントと評価する旨の相続税財産評価基準の存することが認められ、これらを参考として本件係争年次における本件土地の価額を評価すれば、坪当り七〇、〇〇〇円とすることはまことに相当であり、右評価額を違法とすべき事由はなんらこれを見出すことができない。

したがつて、本件宅地の借地権分譲価額(坪当り)は、右宅地価額七〇、〇〇〇円に前記相続税評価基準による借地権割合六五パーセントを乗じて得た金額四五、〇〇〇円になるから、借地権の分譲収入金額は、右坪当り借地権分譲価額に本件土地の面積および分譲比を乗じて得た六、四五五、三六六円である。

そうすると、右収入金額中、昭和三九年分は別表二算式<4>により、三、五三一、〇八五円、昭和四〇年分は同算式<5>により、二、九二四、二八〇円であることがそれぞれ認められる。

(2) 本件ビル(住宅部分)の分譲収入金額

前記のとおり、昭和三九年分の分譲収入金額が三五、二〇〇、〇〇〇円であり、昭和四〇年分の分譲収入金額が三二、一五〇、〇〇〇円であるから、右金額から各年分の借地権分譲収入金額を控除することにより、昭和三九年分の本件ビル(住宅部分)の分譲収入金額三一、六六八、九一五円、昭和四〇年分のビル(住宅部分)の分譲収入金額二九、二二五、七二〇円が得られる(別表二算式<6>、<7>)。

(二) ビル分譲部分の建築費

本件ビルの総建築費の額が五八、一一四、四八〇円であることは当事者間に争いがない。

ところで、右総建築費の額のうち、原告が分譲した本件ビルのうち住宅部分の建築費の算定について、原告は、本件ビルの総建築費の額を被告署長主張のような方法で一階部分と二階以上部分との割合を求めることは、本来二階以上の建築にもつぱら必要な費用をも一階部分の建築費用に含ましめる結果となるから不合理であり、したがつて、一階部分の建築費用は、本件土地上に一階のみのビルを建築した場合に要する費用を算定し、これをもつてあてるべきであると主張するのである。

よつて検討するに、本件ビルの分譲部分につきその建築費を求めようとするのは、原告の本件ビル分譲による雑所得の金額を算定するうえでその必要経費を把捉する必要があるからであつて、ビルの建築構造力学上の観点から一階と二階以上の建築費用の配分を考察しようとするものでないことはいうまでもない。そうとすれば、ビル分譲部分の建築費は、原告が当初から計画したところの一階を倉庫とし、二階以上を分譲住宅とする五階建の本件ビルを一体のものとみて、このような建物を建築するについて必要な総建築費用を一階部分と二階以上の部分とにつき、その割合を合理的に配分することによつて求めるのが相当というべきであつて、これを原告主張のように、一階のみのビルを建築する場合を想定してその建築費用を求め、右費用を本件ビルの総建築費用から差引いて本件ビル分譲部分の建築費を算定しようとするのは本件ビルとはなんら関わりのない建物の建築費用を算出するようなものであつて、却つて非現実的であり、失当というべきである。

そこで本件ビルの総建築費中の一階と二階以上についての配分につき考えるに

(1) 先ず当事者間に争いのない総建築費五八、一一四、四八〇円中には、二階以上の住宅部分に専属する工事費七八二、二五五円(右金額は、弁論の全趣旨によれば、風呂場銅板工事、入口目かくし工事、霧除け工事費、防災予防工事費等として、本件ビルの住宅部分につき追加工事費用として支払われたものと認められる。)を含んでいるから、これを右総建築費から差引くべきである(別表二算式<8>)。よつて、右差額五七、三三二、二二五円が一階部分と二階部分とに配分すべき本件ビル各階共通の建築費(基本金額)となる。

(2) ところで、証人鈴木三郎(第一、二回)の証言により真正に成立したと認められる乙第二三号証および右証言により認められるとおり、本件ビル建築を請負つた株式会社小林工務店の申出にかかる本件ビル建築費用に関する見積り額についてこれを本件ビルの登記簿上の面積により修正計算すると(右修正計算は原告に有利であるばかりでなく、妥当な方法でもあるから、なんらこれを非難するには当らない)本件ビル総建築費から一般経費を控除した金額は四七、〇三九、五〇九円(右内訳は別表四「直接工事費の額」のとおり。)であり、一階部分の直接工事費の額は六、七七七、六四五円(右内訳は別表四「同上のうち一階部分の直接工事費の額」のとおり。)であるから、右見積における本件ビルの直接工事費中に占める一階部分の直接工事費の割合は一四・四一パーセント(別表二算式<9>)であり、二階以上の直接工事費の占める割合は八五・五九パーセント(別表二算式<10>)である。

(3) したがつて、右割合を前記(1)において認定した本件ビル各階共通の建築費五七、三三二、二二五円に乗ずると、本件ビルの一階部分の建築費八、二六一、五七四円が得られ(別表二算式<11>)、二階以上部分の建築費は(二階以上の住宅部分に専属する工事費をも加え)四九、八五二、九〇六円となる(別表二算式<12>、<13>)。

(4) ところで、本件ビル二階以上の住宅部分のうち、二階二室については、原告がこれを自用として分譲しなかつたことは当事者間に争いがないところ、成立に争いのない乙第八号証によれば、同二階の実測床面積は三五六・五平方メートルであるから、一ブロツク(室)の面積は三五・六五平方メートルとなり、したがつて、原告の右自用住宅部分(二階二室)の建築費は別表二算式<14>により二、六九七、九二〇円であるから、結局本件ビル分譲部分の建築費は四七、一五四、九八六円となる(別表二算式<15>)。

しこうして、右建築費に前記認定にかかる各係争年分比を乗ずると本件ビル分譲部分の建築費のうち、昭和三九年分は二五、七九三、七七七円(別表二算式<16>)、昭和四〇年分は二一、三六一、二〇九円(別表二算式<17>)となる。

(三) 本件ビル分譲にかかる必要経費

本件ビル分譲のために必要な経費は、すでに認定したビル分譲部分の建築費用のほかに、ビルを建築するために敷地上の建物(倉庫、アパート、事務所)を取こわした時点における右建物の(取得)価額、取こわし費用ならびにビル分譲にかかる雑費等である。

原告は本件ビル敷地上に存在した取こわし家屋等の損失金額は、時価価値を基準として算定すべきであると主張するもののようであるが、旧所得税一〇条二項および同法施行規則一二条二項ならびに所得税法五一条四項および同法施行令一四三条の規定によれば、損失のあつた資産が家屋その他使用または期間の経過により減価する資産である場合には、その資産の取得に要した金額(その資産を昭和二七年一二月三一日以前から引続き所有している場合には、昭和二八年一月一日における価額として政令で定められている方法により計算した金額)ならびに設備費、改良費を加えた合計額から損失の生じた日までの減価償却費の累積額を控除した金額をもつて資産損失の金額とすべきことが明らかであるから、原告の右主張は失当といわねばならない。

なお原告は、前記旧所得税法施行規則一二条二項および所得税法施行令一四三条がそれぞれ旧所得税法一〇条三項および所得税法五一条五項に違反し無効であるというが、右主張はなんらの根拠もなく採ることができない。

(なお、被告署長は、取こわしにかかる倉庫等の資産損失の必要経費算入に関し、その法律上の根拠として、昭和三九年分については事業用資産に関する旧所得税法一〇条二項を挙げ、昭和四〇年分については業務用資産の規定である所得税法五一条四項を挙げ一貫性を欠くのであるが、原告本人尋問の結果(第一回)によれば、倉庫・アパートは原告においてこれを事業に供していたが、事務所は業務用に使用していたことが認められることからすれば、昭和四〇年分については事業用資産に関する規定、すなわち所得税法五一条一項をも挙示するのが相当というべきである。しかし、昭和三九年分については、当時業務用資産の損失の必要経費算入についての規定は存在しなかつたので、事務所の取こわしに関しては本来経費算入は許されないところであるが、原告に有利な瑕疵として是正するまでもないと解する。)

原告は以上のほかに、ビル建築による本件土地の値下り損も必要経費として認めるべきであると主張する。しかし、すでに認定したとおり、原告は本件ビルの分譲に際しては、借地権付でこれを譲渡し、しかもその対価も取得しているのであるから、本件土地について借地権の設定がなされたことを否定したうえでの原告の右主張は理由がないものというべきである。

(1) 倉庫の取こわしによる損失金額

原告本人尋問の結果によると、原告は、昭和二二、三年ころ本件ビル建築前、本件土地上に木造スレート葺平家建の倉庫九八坪を建築し、以来これを所有していたこと、そして、成立に争いのない乙第一一号証によると、原告が右倉庫を昭和三九年三月本件ビル建築のため取こわしたことをそれぞれ認めることができる。

そうすると、右倉庫の取こわし時における価額は旧所得税法一〇条二項および同法施行規則一二条二項ならびに所得税法五一条四項五項および同法施行令一四三条の規定、国税庁長官財産評価通達(昭二六・一・二〇直資一-五)第二章第一一節七十三、七十四により、昭和二八年一月一日における価額から取こわした日までの減価償却費の額の累計額を控除した金額としてこれを求めうるところ、弁論の全趣旨により成立の認めうる乙第二四号証および証人鈴木三郎の証言(第二回)によると、右倉庫の坪当り賃貸価格は一〇円、評価倍数は一、四五〇等であることが認められるから、倉庫の取こわし時における価額は七〇六、九四八円である(別表二算式<20>、<21>)。

(2) アパートの取こわしによる損失金額

原告本人尋問の結果によると、原告が昭和三〇年ころ本件土地上に独身寮ほまれ荘と称するアパート一棟(五九坪)を建築し、以来これを所有していたこと、さらに、本件ビル建築直前に右アパートを取こわしたことを認めることができる。

そして、右アパートの取こわしによる損失金額の算定上、被告署長において、成立に争いのない乙第一〇号証により認められる隣接地(すなわち東京都北区王子四丁目一一番一号)所在の原告所有の共同住宅の固定資産税評価額一、〇九〇、三〇〇円を参考にして、別表二算式<22>により右アパートの取こわし時における価額を一、三六二、八七五円と認定したことは相当というべきである。

原告は、右アパートの取こわし時における坪当りの新築価額は七五、〇〇〇円であると主張するが、右主張自体の失当であることはすでに述べたとおりであるのみならず、右価額を認めるに足りる証拠はない。

(3) 事務所の取こわしによる損失金額

原告本人尋問の結果によると、原告が昭和三〇年ころ本件土地上に事務所一棟(七坪)を建築し、以来これを所有していたこと、そして、原告が本件ビル建築直前に右事務所を取こわしたことを認めることができる。

ところで、右事務所の取こわしによる損失金額の算定上、被告署長において、これを前段(2)記載のとおり原告所有のアパートの坪当り価額二三、一〇〇円(別表二算式<22>)を参考にして、右事務所の取こわし時における価額を算式<23>により一二一、二七五円と認定したことは相当というべきである。

原告は、事務所の取こわし時における坪当りの新築価額は七五、〇〇〇円であると主張するが、右主張自体失当であることはすでに述べたとおりであるのみならず、右価額を認めるに足りる証拠はない。

(4) 前記倉庫、アパートおよび事務所の取こわし費用の額が七〇、〇〇〇円であることは当事者間に争いがない。

(5) 本件ビル分譲の際の雑費、すなわち公正証書作成料、収入印紙購入代、不動産仲介手数料等の合計額が四、四二六、〇〇〇円であること、右金額のうち昭和三九年分が二、四八八、六〇〇円であること、昭和四〇年分が一、九三七、四〇〇円であることはいずれも当事者間に争いがない。

(6) ところで、前記(1)ないし(4)の建物取こわし時の価額および取こわし費用の合計金額は二、二六一、〇九八円であるところ、右金額中には分譲しない部分の必要経費の額が含まれているから、結局、分譲にかかる係争各年分の必要経費の額は、右合計金額に分譲比および各年分比を乗じて得た金額である。そうすると、別表二算式<25>、<26>により昭和三九年分は九三六、七六八円、昭和四〇年分は七七五、七八七円であると認められる。

そして、右金額に前記(5)による分譲にかかる各年分の雑費を加算すると、昭和三九年分は三、四二五、三六八円、昭和四〇年分は二、七一三、一八七円(別表二算式<29>、<30>)となる。

(7) さらに、以上において算出した各年分の必要経費中には、本件ビル(住宅部分)分譲にかかる経費と借地権分譲にかかる経費の双方が含まれているから、それぞれについてその内訳を算定すべきである。

先ず昭和三九年分におけるビル(住宅部分)分譲収入金額の同年分ビルおよび借地権分譲収入金額に対する割合は八九・九七パーセント(別表二算式<31>の注(1))であるから、ビル(住宅部分)分譲にかかる経費は三、〇八一、八〇四円である(同算式<31>)。

昭和四〇年分におけるビル(住宅部分)分譲収入金額のビルおよび借地権収入金額に対する割合は九〇・九〇パーセント(同算式<33>の注(1))であるから、ビル(住宅部分)分譲にかかる経費は二、四六六、二八七円(同算式<33>)である。

(四) 本件ビル(住宅部分)分譲による雑所得の金額

以上により算定した各係争年分における本件ビル分譲収入金額からビル分譲部分の建築費と必要経費を控除すると、昭和三九年分の雑所得の金額は二、七九三、三三四円(別表二算式<35>)であり、昭和四〇年分の雑所得の金額は五、三九八、二二四円(同算式<36>)であることが認められる。

6  本件土地の借地権分譲による譲渡所得

借地権分譲による譲渡所得の金額は、借地権分譲収入金額から分譲借地権の取得費および必要経費を控除した金額すなわち譲渡益から特別控除額を控除した金額であるから以下右各項目につき検討する。

(一) 譲渡益

(1) 借地権分譲収入金額

右収入金額は前記5(一)(1)ですでに認定したとおり、昭和三九年分は三、五三一、〇八五円、昭和四〇年分は二、九二四、二八〇円である。

(2) 分譲借地権の取得費

成立に争いのない乙第一五号証によると、原告が本件土地を昭和二二年八月七日以来所有していることが明らかであるから、分譲借地権の取得費は、旧所得税法一〇条の五第三項および同法施行規則一二条の一九第四項ならびに所得税法六一条二項および同法施行令一七二条一項の規定、国税庁長官財産評価通達(昭二六・一・二〇直資一-五)第二章第二節二十六、二十七により算出して求めるべきところ、前掲乙第二四号証および証人鈴木三郎の証言(第二回)により本件土地の昭和二八年一月一日における坪当り賃貸価額は二・二円、評価倍数は九五〇であることが認められるから、同日における本件土地の借地権価額は別表二算式<18>により二五四、四七四円となり、右金額にビルの分譲比ならびに各係争年分比を乗ずると、昭和三九年分の取得費は一〇五、四二八円、昭和四〇年分の取得費は八七、三一〇円となる(別表二算式<18>、<19>)。

(3) 借地権分譲にかかる必要経費

すでに認定したとおり、本件ビル(住宅部分)および借地権分譲にかかる必要経費は、昭和三九年分三、四二五、三六八円(別表二算式<29>)、昭和四〇年分二、七一三、一八七円(同算式<30>)であるから、右金額から各年分における本件ビル(住宅部分)の分譲にかかる必要経費を控除すれば各年分の借地権分譲にかかる必要経費が得られる。よつて、同算式<32>により昭和三九年分は三四三、五六四円、算式<34>により昭和四〇年分は二四六、九〇〇円である。

(4) そうすると、各係争年分の借地権分譲による譲渡益は、昭和三九年分は三、〇八二、〇九三円(別表二算式<37>)であり、昭和四〇年分は二、五九〇、〇七〇円(同算式<38>)である。

(二) 譲渡所得の金額

したがつて、昭和四〇年分における本件土地の借地権分譲による譲渡所得の金額は、前示(一)認定の譲渡益につき所得税法三三条四項、二二条二項二号を適用して計算した一、二二〇、〇三五円である(算式<48>)。

7  三丁目所在の物件の譲渡による譲渡益

(一) 譲渡があつたものとみなされる収入金額

原告が昭和三九年にその所有にかかる三丁目所在の宅地および建物を代金四、六四五、八〇〇円で訴外阿部一郎に譲渡したこと、さらに、原告が右譲渡による収入金額から本件ビル二階の住宅二室を自用住宅にあてるため買換資産として取得したこと、そして、原告は三丁目所在物件の譲渡所得の申告において措置法三五条一項の規定の適用を受けようとする旨の記載をしたこと等についてはいずれも当事者間に争いがない。したがつて、原告が三丁目所在物件を譲渡したことにより譲渡があつたものとみなされる収入金額は、同法施行令二四条四項の規定により前記収入金額四、六四五、八〇〇円から買換資産として取得した本件ビル自用住宅部分(二階二室)の建築費二、六九七、九二〇円(別表二算式<14>)を控除した金額一、九四七、八八〇円である(別表二算式<41>)。

(二) 譲渡にかかる必要経費

三丁目所在の宅地および建物を売却するについて要した経費が三二一、五九九円であることは原告もこれを自認するところ、措置法施行令二四条四項の規定により同条同項所定の割合を右経費に乗じた額一三四、八三九円(別表二算式<42>)が、前記認定の譲渡があつたものとみなされる収入金額から控除されるべき必要経費の金額である。

(三) 譲渡益

よつて、三丁目所在の物件の譲渡益は、前記(一)譲渡があつたものとみなされる収入金額から前記(二)必要経費を控除した一、八一三、〇四一円であることが認められる(別表二算式<43>)。

8  係争年分の各課税所得金額

(昭和三九年分)

(一)  雑所得

当該年分における本件ビル分譲による雑所得の金額は前示5(四)のとおり、二、七九三、三三四円である。

(二)  譲渡所得

当該年分における譲渡所得は、本件土地の借地権分譲による譲渡益三、〇八二、〇九三円(前判示6(一)(4))および三丁目所在物件の譲渡による譲渡益一、八一三、〇四一円(前判示7(三))について、旧所得税法九条一項の適用により計算した二、三七二、五六七円と認められる(別表二算式<45>)。

(三)  よつて、昭和三九年分の課税所得金額は、(一)および(二)の合計金額五、一六五、九〇一円である。

(昭和四〇年分)

(一)  雑所得

当該年分における本件ビル分譲による雑所得の金額は前示5(四)のとおり五、三九八、二二四円である。

(二)  譲渡所得

当該年分における譲渡所得は、本件土地の借地権分譲による譲渡所得の金額一、二二〇、〇三五円(前示6(二))である。

(三)  よつて、昭和四〇年分の課税所得金額は、(一)および(二)の合計金額六、六一八、二五九円である。

9 結論

以上により、被告署長のなした本件各更正処分(いずれも裁決により減額されたのちのもの)は、前示認定による金額の範囲内であるからいずれも違法の点はないものというべきである。

(被告局長に対する請求について)

原告が被告局長に対する裁決取消の訴において主張する違法事由は、要するに、本件ビル分譲による原告の所得算定上、原告において計算した必要経費の金額について被告局長が具体的な根拠も示さずにこれを採用しなかつたこと、さらに被告局長が本件各裁決において示した右必要経費の金額が不当に低額であるというにある。

しかしながら、被告局長のなした本件各裁決は、被告署長のなした本件各更正処分の課税標準を一部取消したとはいうものの、実質的には本件各更正処分において原告の本件各係争年分における各譲渡所得ならびに各雑所得の金額の算定上認定判断した資産の取得費ないし必要経費の額はいずれもこれを維持していることは明らかであるから、本件各裁決の右判断を違法とする主張は、帰するところ本件各裁決の原処分である本件各更正処分の違法をいうものにほかならないものと解さざるをえない。

してみれば、原告の主張する本件各裁決取消の訴における違法事由は行訴法一〇条二項に違背するものというべく、したがつて、このような主張にもとづく原告の被告局長に対する各請求は理由のないものというべきである。

(結語)

以上により、原告の被告署長ならびに被告局長に対する各請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担については民訴法八九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 山下薫 裁判官 飯村敏明 裁判長裁判官内藤正久は転補につき署名捺印することができない。裁判官 山下薫)

別表一

本件ビルの床面積等

<省略>

別表二

雑所得および譲渡所得の計算

(注) 「金額」欄のかつこ内の金額は、本訴における従前の主張と異なつた部分の従前の主張額である。

<省略>

別表三

原告が主張する分譲収入金額が、分譲住宅そのものの収入金額であるとした場合の雑所得の金額と被告が主張するビル分譲による雑所得の金額および借地権分譲による課税譲渡所得の金額の計算明細および対比表

(一) 昭和三九年分(本件ビル分譲によるもの)

<省略>

(二) 昭和四〇年分

<省略>

別表四

見積書による直接工事費の額および直接工事費の額のうち一階部分の直接工事費の額

<省略>

<省略>

別表五

1 ビル分譲比の計算

算式 <1> ポンプ室の面積控除後の1階部分の面積

327.77m2-10.02m2=317.75m2

(1階部分の面積)(ポンプ室の面積)

算式 <2> 分譲部分の床面積

1,645.27m2-317.75m2-71.30m2=1,256.22m2

(総床面積)(算式<1>の面積)(2階自用住宅面積)

算式 <3> ビルの総面積に対する分譲部分の床面積の割合(以下「分譲比」という)

1,256.22m2÷1,645.27m2=76.35(%)

(算式<2>の面積)(総床面積)

算式 <4> 昭39年分譲床面積

<省略>

算式 <5> 昭40年分譲床面積

<省略>

算式 <6> 分譲床面積に対する昭39年分譲床面積の割合(以下「39年分比」という)

687.17m2÷1,256.22m2=54.7(%)

(算式<4>の面積)(算式<2>の面積)

算式 <7> 分譲床面積に対する昭40年分譲床面積の割合(以下「40年分比」という)

569.05m2÷1,256.22m2=45.3(%)

(算式<5>の面積)(算式<2>の面積)

2 ビル分譲収入金額の計算

算式 <8> 昭39年ビル分譲収入金額

67,350,000円×54.7(%)=36,840,450円

(ビル分譲収入金額)(39年分比)

算式 <9> 昭40年ビル分譲収入金額

67,350,000円×45.3(%)=30,509,550円

(ビル分譲収入金額)(40年分比)

3 ビルの分譲部分の建築費の計算

算式 <10> (二階以上の建築費)

58,114,480円-2,765,700円=55,348,780円

(ビルの総建築費)(1階部分の建築費)

(注)1階部分の建築費は1級建築士浅田豊重氏作成の1階だけの建築をした場合の工事見積額によつた。

算式 <11> 自用住宅部分(2階の2室)にかかる建築費

55,348,780円÷1,327.52m2×35.92m2×2室=2,995,251円

(算式<10>の金額)(2階以上の床面積 但し1階ポンプ室を含む)(2階1室当り床面積)

(注)被告主張の2階1室当りの床面積は35.65m2だが、原告はこれにポンプ室の面積10.02m2を被告主張の各室の面積で按分したものをプラスした面積を1室当りの床面積とした。

算式 <12> 分譲部分にかかる建築費

55,348,780円-2,995,251円=52,353,529円

(算式<10>の金額) (算式<11>の金額)

算式 <13> 昭39年分譲部分にかかる建築費

52,353,529円×54.7(%)=28,637,380円

(算式<12>の金額) (39年分比)

算式 <14> 昭40年分譲部分にかかる建築費

52,353,529円×45.3(%)=23,716,148円

(算式<12>の金額) (40年分比)

4 ビル分譲にかかる必要経費の計算

算式 <15> 倉庫の取壊し時の価額

<省略>

(注)倉庫の建築時は昭和23年、取壊し時は昭和39年、耐用年数30年

算式 <16> アパート取壊し時の価額

<省略>

(注)アパートの建築時は昭和30年、取壊し時は昭和39年、耐用年数30年

算式 <17> 事務所の取壊し時の価額

<省略>

(注)事務所の建築時は昭和30年、取壊し時は昭和39年、耐用年数30年

算式 <18> 取壊し費用

70,000円

算式 <19> 算式<15>から<18>までの合計金額のうち昭和39年ビル分譲にかかる経費

5,821,672円×76.35(%)×54.7(%)=2,431,331円

(算式<15>~<18>の合計額)(分譲比) (39年分比)

算式 <20> 算式<15>から<18>までの合計額のうち昭和40年ビル分譲にかかる経費

5,821,672円×76.35(%)×45.3(%)=2,013,515円

(算式<15>~<18>の合計額)(分譲比) (39年分比)

算式 <21> 昭和39年ビル分譲にかかる雑費

40,000円+2,430,000円+18,600円=2,488,600円

(公証費用) (分譲仲介料) (印紙代)

(注)上記金額については被告も承認済

算式 <22> 昭和40年ビル分譲にかかる雑費

1,920,000円+17,400円=1,937,400円

(分譲仲介料) (印紙代)

(注)上記金額については被告も承認済

算式 <23> ビル建築前の土地価額

150,000円×187.32坪=28,098,000円

算式 <24> ビル建築後の土地価額

(イ)還元利廻り方式

(270,000円÷0.15)+(2,400,000円÷0.24-2,765,700円)

(地代年額)(還元利廻り)(1階部分の家賃年月)(還元利廻り)(1階部分の建築費)

=9,034,300円

(ロ)借地権割合方式

28,098,000円×(1-0.7)=8,429,400円

(算式<23>の金額) (借地権割合)

(イ)(ロ)のうち高額な9,034,300円をもつてビル建築後の土地価額とする。

算式 <25> ビル建築による土地の値下り損

28,098,000円-9,034,300円=19,063,700円

(算式<23>の金額) (算式<24>の金額)

算式 <26> 昭和39年ビル分譲にかかる土地値下り損

19,063,700円×76.35%×54.7%=7,961,658円

(算式<25>の金額) (分譲比)(39年分比)

算式 <27> 昭和40年ビル分譲にかかる土地値下り損

19,063,700円×76.35%×45.3%=6,593,476円

(算式<25>の金額) (分譲比)(40年分比)

5 雑所得の計算

算式 <28> 昭和39年分雑所得金額

36,840,450円-28,637,380円-(2,431,331円+2,488,600円

(算式<8>の金額)(算式<13>の金額) (算式<19>の金額)(算式<21>の金額)

+7,961,658円)=-4,678,519円

(算式<26>の金額)

算式 <29> 昭和40年分雑所得金額

30,509,550円-23,716,148円-(2,013,515円+1,937,400円

(算式<9>の金額)(算式<14>の金額)(算式<20>の金額)(算式<22>の金額)

+6,593,476円)=-3,750,989円

(算式<27>の金額)

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