東京地方裁判所 昭和45年(特わ)140号 判決 1971年6月29日
被告人
本籍 宮城県仙台市南町一一番地
住居
東京都台東区上野一丁目二番一号
会社役員
水野富久司
大正二年五月一五日生
被告事件
所得税法違反
出席検察官
河野博
主文
1 被告人を懲役一〇月および罰金二、八〇〇万円に処する。
2 右罰金を完納することができないときは一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
3 この裁判確定の日から二年間右懲役刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、東京都台東区上野一丁目二番一号において、生産経済新聞社の名称で新聞印刷・製版等の事業を営んでいたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、売上の一部を除外して仮名預金を設定する等の不正な方法により所得を秘匿しむうえ
第一、 昭和四一年分の実際課税所得金額が三九、五七五、一〇〇円あつたのにかかわらず、昭和四二年三月六日東京都台東区上野五丁目五番一五号所在の所轄下谷税務署において、同税務署長に対し、課税所得金額が五、五四〇、六〇〇円で、これに対する所得税額が一、六〇四、三六〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もつて同年分の正規の所得税額二一、六五〇、一〇〇円と右申告税額との差額二〇、〇四五、七四〇円を免れ
第二、 昭和四二年分の実際課税所得金額が五九、一六八、〇〇〇円あつたのにかかわらず、昭和四三年三月一一日前記下谷税務署において、同税務署長に対し、課税所得金額が七、五〇九、〇〇〇円で、これに対する所得税額が二、五五七、八〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もつて同年分の正規の所得税額三四、九一四、七〇〇円と右申告税額との差額三二、三五六、九〇〇円を免れ
第三、 昭和四三年分の実際課税所得金額が八七、九四六、〇〇〇円あつたのにかかわらず、昭和四四年三月七日前記下谷税務署において、同税務署長に対し、課税所得金額が七、八八六、〇〇〇円で、これに対する所得税額が二、七六〇、六〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もつて同年分の正規の所得税額五六、四七七、二〇〇円と右申告税額との差額五三、七一六、六〇〇円を免れ
たものである。(なお右各所得の内容は別紙一ないし三の各修正貸借対照表のとおりであり、各税額の計算は別紙四の税額計算書のとおりである。)
(証拠の標目)(かつこ内は立証事項であり、数字は別紙一ないし三の各修正貸借対照表の勘定科目の番号である。)
一、 大蔵事務官作成の次の書面
1 預金関係調査書(一の2の23、二の2 23、三の2 23)
2 受取手形残高明細書(一の3、二の3、三の3)
3 手形に関する銀行等調査書(一の3、二の3、三の3)
4 売上売掛金明細書(一の4 21、二の4 21、三の4 21)
5 株式会社デイエス対水野富久司取引調査書(一の4 5 20 36、二の4 5 20 35 36、三の4 5 20 36)
6 未収金調査書(一の5、二の5、三の5)
7 有価証券配当金額等調査書(一の6 24 36、二の6 17 24 32 36、三の6 17 24 25 32 36)
8 前払費用調査書(一の9、二の9、三の9)
9 当座預金支出調査書(二の16、三の16)
10 支払手形調査書(一の19、二の19、三の19)
11 未払金調査書(一の20、二の20、三の20)
12 建物・機械取得調査書(一の11 12、二の11 12、三の11 12)
一、 横江永時、沼利兵衛、横田堅司、平博之に対する大蔵事務官の各質問てん末書(いずれも一の2)
一、 横江永時の検察官に対する供述調書(一の2)
一、 証人横江永時の当公判廷における供述(一の2)
一、 株式会社三井銀行上野広小路支店長藤沢栄一作成の預金等取引内容について(一の2 22 23、二の2 22 23、三の2 22 23)
一、 次の者作成の株式の異動および支払配当金額について
1 株式会社津上製作所株式課長松江清美(二の17 32、三の17 32)
2 富士電機製造株式会社株式課長橋本富之助(三の32)
一、 株式会社日本興業銀行総務部総務課長代理高松浩作成の取引内容について(二の36、三の36)
一、 株式会社水上房吉商店代表取締役水上房吉作成の取引内容照会に対する回答(一の8、二の8、三の8)
一、 税理士菊池四郎作成の減価償却費および譲渡損益等の明細について(一の11 12、二の11 12 35、三の11 12)
一、 次の者作成の保険料領収状況の照会に対する回答(いずれも一の16、二の16、三の16)
1 住友生命保険相互会社年払収納課長
2 日本生命保険相互会社東京契約部料金課高梁礼子
3 明治生命保険相互会社経理課会田修三
4 住友海上火災保険株式会社経理部計算課長法貴修二
一、 株式会社三越本店計算部主任朝日康男作成の取引内容について二通(いずれも一の16、二の16、三の16)
一、 株式会社住友銀行東京支店外国為替課長清水照久作成の外国送金依頼書写の提出について(一の16、二の16、三の16)
一、 水野豊子作成の上申書(一の16、二の16、三の16)
一、 株式会社鈴乃屋経理係三上和子作成の水野豊子様との取引について(一の16、二の16、三の16)
一、 近畿日本ツーリスト株式会社経理部経理課長福井嘉良作成の取引内容照会に対する回答(一の16、二の16、三の16)
一、 近畿日本ツーリスト株式会社丸ノ内航空営業所長笠原要作成の旅行日程表控の提出について(一の16、二の16、三の16)
一、 笠原要に対する大蔵事務官の質問てん末書(一の16、二の16、三の16)
一、 ライオンズ国際協会中央事務局長代理藤平進作成のライオンズ国際大会参加のことについて(一の16、二の16、三の16)
一、 東京上野ライオンズクラブ事務局員根本歌子作成の上野ライオンズクラブ会費について(一の16、二の16、三の16)
一、 次の者作成の公租公課の納付状況等について回答(いずれも一の18、二の18、三の18)
1 下谷税務署長高木六義
2 東京都台東区長上条貢
一、 池貝鉄工株式会社経理部財務課係長後藤耕一作成の取引内容について(一の2、二の35)
一、 水野豊子の検察官に対する供述調書三通(判示事実全般)
一、 押収してある次の証拠物(昭和四五年押一四〇五号)
1 41年分の所得税の確定申告書一葉(符号1)(一の事実全般、特に一の18 26 28 30 34 36)
2 42年分の所得税の確定申告書一葉(同2)(二の事実全般、特に二の18 26 28 30 32 36)
3 43年分の所得税の確定申告書一葉(同3)(三の事実全般、三の18 26 28 30 36)
4 書かん等一袋(同15)(一の16)
5 領収書等一袋(同16)(一の16、三の16)
6 預金関係メモ二袋(同20 24)(一の2)
7 賃金台帳綴二綴(同28の1、28の2)(三の26)
8 領収証等一袋(同29)(三の16)
9 一般管理費明細帳(四期)一綴(同36)(一の34)
10 補助簿(四期)一綴(同37)(一の36)
11 補助簿(五期)一綴(同38)(一の36、二の36)
12 補助簿(六期)一綴(同39)(二の35 36、三の36)
13 補助簿(七期)二綴(同40の1、40の2)(三の36)
14 証等一袋(同41)(三の16)
15 見積書等一袋(同42)(一の11、二の11、三の11)
16 給料袋一綴(同43)(一の18 34、二の18、三の18)
一、 被告人作成の銀行預金等の一覧表の上申書(昭和四五年二月二日付)(一の2、二の2、三の2)
一、 被告人作成の上申書(右同月二四日付)(一の7、二の7、三の7)
一、 被告人に対する大蔵事務官の質問てん末書九通(判示事実全般)
一、 被告人の検察官に対する供述調書三通(判示事実全般)
一、 被告人の当公判廷における供述(判示事実全般)
(弁護人の主張に対する判断)
弁護人は、三井銀行上野広小路支店に存在した金額五〇〇万円の無記名定期預金(届出印上杉、昭和三八年一月一九日預入、昭和四一年一月二七日解約)および金額六〇七万円の無記名定期預金(届出印山野、預入、解約とも前同日)はいずれも被告人の預金であるから、昭和四一年度における被告人の実際総所得金額および逋脱総所得金額はいずれも検察官主張の金額から右預金額合計一、一〇七万円を控除した金額であると主張するので、以下この点について判断する。
弁護人主張の右無記名定期預金二口が、弁護人主張の間、三井銀行上野広小路支店に存在したことは証拠上明らかである。
ところで、被告人は、右無記名定期預金二口は被告人が昭和四一年七月に買入れた高速輪転機の買受代金の一部に当てるため同年一月二七日解約したものであると供述しているところ、証拠の標目掲記の関係各証拠によると、右高速輪転機の買入交渉は同年一月頃から始まり、同年七月に契約が成立していること、本件査察調査時において右高速輪転機購入資金の一部が出所不明であつたこと、右無記名定期預金二口の預金者については受入銀行である三井銀行上野広小路支店においても明らかでないこと、右各預金が存在した当時、右支店における大口の預金者は殆ど被告人のみであつたこと等の事実が認められる。右各事実を総合すると、右二口の無記名定期預金が被告人の預金である可能性も十分にありうるものというべきである。
もつとも、前記証拠によると、右上野広小路支店では昭和三六、七年頃以来、得意先係りないし貸付係りにおいて被告人等に対する貸付金の担保のため等から被告人の定期預金を管理していたところ、前記二口の無記名定期預金は右管理していた定期預金の中には含まれていなかつたことが認められる。しかしながら、右支店が被告人の定期預金の全部を管理していたものであるかどうかについてはこれを確認する証拠がないので、右事実によつても右二口の無記名定期預金が被告人の預金である可能性を否定するに十分でない。
そうすると、右二口の無記名定期預金が被告人の預金でないことについてはこれを証するに足りる証拠がないことに帰するから、結局弁護人の主張は理由があるものといわなければならない。
よつて、昭和四一年度における被告人の実際総所得金額および逋脱総所得金額はいずれも検察官主張の金額から右二口の預金額合計一、一〇七万円を控除した金額であるというべきである。
(法令の適用)
1. 罰条 各事実につき所得税法二三八条(いずれも懲役刑および罰金刑を併科)
2. 併合罪加重 刑法四五条前段、四七条本文、一〇条、四八条二項(懲役刑につき第三の罪の刑に加重)
3. 労役場留置 同法一八条
4. 執行猶予 同法二五条一項
よつて主文のとおり判決する。
(裁判官 松本昭徳)
別紙第一 修正貸借対照表
水野富久司 昭和41年12月31日
<省略>
<省略>
別紙第二 修正貸借対照表
水野富久司 昭和42年12月31日
<省略>
<省略>
別紙第三 修正貸借対照表
水野富久司 昭和43年12月31日
<省略>
<省略>
別紙第四 脱税額計算書
水野富久司
<省略>
<省略>