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東京地方裁判所 昭和45年(ワ)8559号 判決 1971年2月24日

原告

A

被告

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実および理由

原告提出の訴状によれば、請求の趣旨は「被告は原告に対して金五〇万円の支払いをせよ」というにあるが、請求の原因として記載せられるところは、書字も行文もはなはだ蕪雑晦渋で、時に支離滅裂、必ずしも一貫した論旨を把握し難い。ただ、辛うじて判読せられるところを善解すれば、その要旨は

一、原告は多数の訴訟をおこした者であるが、昭和四一年六月一五日府中刑務所に移つてから、郵券と用紙をもらうかわりに訴を取下げさせられたり、訴状の記載を抹消されたため訴を却下されてしまつたり、告訴状が検察庁に届かなかつたり出廷する場合にも証拠文書を強奪されるなどして、訴訟妨害をされた。

二、府中刑務所はまた、虚偽公文書を東京都の鑑定医に交付して原告を強制入院させておき、電気ショック治療に藉口して原告を殺害させようとした。これには、慈雲堂病院も加担している。そこで、東京都や慈雲堂病院を相手として訴を提起したが、府中刑務所の前述の訴訟妨害により、賠償請求権は時効にかかつてしまつた。

三、以上の事実に基づき、原告は、国に対して不法行為の責任を問い、五〇万円の支払を請求する。

というにあると考えてよいであろう。

当裁判所は、原告の右記載事項の体裁と内容から、原告本人の訴訟能力に疑いを懐き、職権で探知したところ、精神病院である香流病院(原告の肩書現在所)の院長訴外重富克美からの回答書二通および原告の父Tの内縁の妻で、原告を幼少の頃養育していた訴外Sからの回答書を総合すると、原告訴訟能力は、これを否定すべきである、との結論に達した。

(香流病院長の回答によれば、原告は爆発的な異常性格者で、精神病質を基盤に妄想型の精神分裂症(診断病名)が併発慢性化し、欠陥分裂病に移行したもので、人格荒廃のまま病状の進行が停止しているが、法廷での弁論は不可能、というのである。ただ、原告は、禁治産宣告も準禁治産宣告も受けていないので、訴訟の取扱い上、禁治産者として訴訟能力を全面的に否定すべきであるか、準禁治産者として訴提起につき要求せられる保佐人の同意がないものとして扱うべきであるかを、一義的に決定すべき資料はない。しかし、いずれにせよ、民訴法五三条の適用の問題としては以下の判示は同じことになる。)

そこで、次の問題は、民訴法五三条に則つて、その補正を命じるかどうかであるが、前記職権探知にかかる資料によれば、補正は不可能と認められる(原告は養子なく、唯一の血族である実父の訴外Tも精神病院に入院中であること、もし、原告が禁治産ないし準禁治産の宣告を正式に受けるとすれば、その後見人ないし保佐人に選任せられるべき唯一の適格者と考えられる前記Sも、既に八十歳の高齢、かつ現在生活保護法による受給者であつて、当裁判所に対する前記回答書によるも、本件訴訟提起を追認する意図を毫も示していないこと、等から、右のように推認される)。

よつて、民訴訟二〇二条を適用し、口頭弁論を経ずに却下する次第である。

(倉田卓次)

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